デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

6章 学術及ビ其他ノ文化事業
1節 学術
7款 帰一協会
■綱文

第46巻 p.672-674(DK460171k) ページ画像

大正13年1月28日(1924年)

是日当協会、関東大震災以後最初ノ例会ヲ、東京帝国大学山上御殿ニ於テ開催シ、震災後ノ精神状態ニ関スル討議ヲナス。栄一出席ス。


■資料

集会日時通知表 大正一三年(DK460171k-0001)
第46巻 p.672 ページ画像

集会日時通知表  大正一三年       (渋沢子爵家所蔵)
壱月廿八日 月 午後四時 帰一協会(帝大旧御殿)


帰一協会記事 五(DK460171k-0002)
第46巻 p.672-674 ページ画像

帰一協会記事 五             (竹園賢了氏所蔵)
    大正十三年
      一月例会
震災後第一回の例会を開くに当り、左の如き案内状を発送せり
 謹啓、復興の新春を迎へられ各位愈よ御清健の段奉慶賀候、扨て震災後本会最初の会合を左記の如く開催致し、その報告に関して特に会員各位の御協議を乞ひたく存入候に付き、何卒多数御奮臨被下度右御案内申上候
  日時 一月廿八日 (月) 午後四時
  会場 帝国大学新築教員会議所(旧御殿)
  講演 震災後の精神状態に関する報告並協議
           報告者 文学博士 姉崎正治
一月廿八日午後四時帝大教員会議所に於て例会を開き
 姉崎幹事立つて、震災後何等事局に対して採るべき手段を講ぜざりしを謝し、災後の精神状態に関して曰く、震災直後には人情の美点も
 - 第46巻 p.673 -ページ画像 
現はれて社会共存の精神を遺憾なく現はしたが、その後復興につれて個人各個自存の必要よりして、次第にこの状態を続け得ざるは自然である、今や大体復興の緒に就かんとする今からが重要である、然るに十二月の臨時議会で復興院の計画はナブリ殺しに会ひ、続いて不敬事件をも生じて、所謂主義者の取締は再び厳重となり、国民の希望は既に失はれ、同胞中に仇を求めて警戒すると云ふ態度からして、今国民は悪夢に襲はれて居て、常に人を疑ひ、時代の思想に恐怖し、震災直後に於て緊張した心が今や弛まんとしてゐる、これを救済するには、精神的方面も必要だが、形式を整へるために、道路・建築等の外部にも人の心の希望を容れるべき余地のあることを見るのである、これら方策に関しては諸氏の協議を煩したい、とて話を結ぶ
 福原俊丸氏立つて、政治上の事は表面と裏面があつて容易に理想に近けぬが、それでも着々と進みつゝある、自分一個としては普選を断行して、これを以て衆議院を造り、華族・学者・実業家よりの代表者を以て貴院を造り、こゝに国民の希望の天地を与へ、合議の上で進みたいと思ふが、この意見も容易に研究会内に於てさへ通過しない状態であるが、如何にもして私の考を皆様の援助によつて達成したいと思ふ、と述べ
 内ケ崎作三郎氏は、我国は地震国であるが、古来から屡ばこの災害に遭ふて文化が開けたのであると思はれる節がある、さればこの度の地震も悲観すべきではなく、これから科学的なものが更に発達し、日本が一歩進んだ文化を立てるやうになるかも知れん、と氏が中央公論十二月号所載の論説を要約して談じ
 矢吹慶輝氏は、社会事業の将来の問題から日本現今の仏教に及び、仏教の衰退は日本の社会問題としても何とか識者の熟考を要するので今の仏教は寺から人が使はれて居る状態である、それだから人が寺を充分に使用するやうな人物を養ふことが大切である、と
 片山国嘉氏は、国家の事変に際して動じない健全な人物を造るには只精神的方面丈けでなく、肉体的方面に注意し、その根本から改めねばならぬ、それには禁酒を励行し、体の強健を計つて行くのが第一である、と
 松井茂氏は立つて、今回の震災に就ては外国人も驚いて居るものが色々現はれて居るが、又欠点も多い、朝鮮人問題は頗る遺憾なものの一つである、朝鮮人に就ては今後大に日本人のこれを理解するやうに力めねばならぬ、これに関し自警団の問題も生じるが、吾輩は警察と民衆との接近を希望して居る一人であるが故に、自警団の方法を今少し考へて進歩さしたいと思ふ、とて米国カリフォルニヤ、バークレーの町のウォルマー氏の警察官としての方策を引用して、日本の警察も将来斯くあらむ事を希望すると述べ、次で火災の事に及び、火災用の水道・井戸・空地、フアイヤー・アラーム、火見櫓等の必要、建築道徳・交通道徳等の思想を少年に注入し、火災の防止と云ふ考を念頭に入れ、徒らに天災を恐れることなく、健全に科学的根拠に立つて周到な分別を払ひ得る如く養はねばならぬ、と云ひ
 本田日生[本多日生]氏は、震災当時東海道線平塚に在りてその地の模様が余り
 - 第46巻 p.674 -ページ画像 
に恐怖に満ちて茫然自失の状を呈したるを見たと述べ、特に鮮人問題に就ては哀れなる民であるとの念を生じた、そこで今は国を挙げて覚醒すべき時であり、国家的懺悔の誠を致さねばならぬ秋である、特に仏教に就て云へば、高等なる思想の師導に関しては、在来の布教も必要であらうが、一般に低級なる人の師導には今迄の寺の形式から離れた娯楽的方面からも民衆教化の事に当らねばならぬと思ふ、と述ぶ
 本日は災後最初の会合であつたためか余程力の這入つた会であつた午後八時過開散した
 本日の出席者左の如し ○印は出席の通知ありし者にして欠席したる人
○麻生正蔵氏   アームストロング氏
 姉崎正治氏  ○一戸兵衛氏
 磯野敬氏    今岡信一良氏
○井上雅二氏   内ケ崎作三郎氏
○尾高豊作氏   渋沢栄一氏
○添田敬一郎氏  田村新吉氏
○都倉義一氏   シー・ビー・テンニイー氏
 時枝誠之氏   野口日主氏
 花房太郎氏  ○服部宇之吉氏
 松井茂氏    間島与喜氏
 御木本幸吉氏  矢野茂氏
 吉田静致氏   矢吹慶輝氏
 佐藤鉄太郎氏  福原俊丸氏
 片山国嘉氏   本多日生氏
        以上弐拾壱名