デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

  詳細検索へ

公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

1部 社会公共事業

6章 学術及ビ其他ノ文化事業
4節 編纂事業
6款 欧洲の将来
■綱文

第48巻 p.37-38(DK480013k) ページ画像

大正11年8月(1922年)

是月栄一、アメリカ合衆国人フランク・エー・ヴァンダーリップノ著「欧洲の将来」ヲ、小林丑三郎監修ノ下ニ、弓家七郎ニ翻訳ヲ依嘱シ、竜門社ヨリ刊行セシム。


■資料

竜門雑誌 第四〇八号・第五七頁 大正一一年五月 ○ヴァンダーリップ氏著「欧洲の将来」刊行に就て(DK480013k-0001)
第48巻 p.37 ページ画像

竜門雑誌 第四〇八号・第五七頁 大正一一年五月
○ヴァンダーリップ氏著「欧洲の将来」刊行に就て 別項の如く五月八日銀行倶楽部に於ける新旧評議員有志会合の席上、阪谷評議員会長より米国実業界の重鎮たるフランク・エ・ヴァンダーリップ氏著「欧洲の将来」を本社に於て刊行したき希望を述べられたるに対し出席評議員一致を以て其刊行を可決したるに依り、本社は直に該書の印刷に着手したるが、ヴ氏は曩に大戦後の欧洲を視察して"What happened in Europe"を著し、更に昨年渡欧研究の結果、掾大の筆を執て"What next in Europe"を著したるが、氏は青淵先生と親交あり旧臘先生の渡米に際し未定稿なりし該書に付談話あり、此書完成の上は先生の手にて翻訳刊行せんことを希望し、同氏も亦快諾せられたるが、斯くて先生帰朝の後約に従つて同氏より一本を贈呈し来れる依り先生は直に法学博士小林丑三郎氏に託して其監督指導の下に翻訳せしめられしもの即ち本書にして、今般先生の許可を得前述の如く本社に於て発行する事となりしを以て、印刷製本の実費金弐円六拾銭(外に郵税を要す)宛を以て之を配布する事となしたれば、購読希望の向は其旨本社へ申込まれんことを望む。


欧洲の将釆 フランク・エー・ヴァンダーリップ著 竜門社訳 序・第一―四頁 大正一一年八月刊 【序 渋沢栄一識】(DK480013k-0002)
第48巻 p.37-38 ページ画像

欧洲の将釆 フランク・エー・ヴァンダーリップ著 竜門社訳
                      序・第一―四頁 大正一一年八月刊
  序
米国の畏友フランク・エ・ヴァンダァリップ君の近著「欧洲の将来」を翻訳出版するに際し、玆に其由来を略叙せむとす。ヴァンダァリップ君は世界的名士なり。君初は官途に就きて大蔵次官に進みたれども後官を去りて実業界に入り、紐育ナシヨナル・シチー・バンクの副頭取となり、尋で頭取に推され、爾来幾多の商工業会社の重役を兼摂し大正四年の頃紐育に創立せるアメリカン・インターナシヨナル・コーポレーシヨンの会長となりて、米国実業界に一層の重きを加へたり。是れ固より君が才識の卓越せるによれりといへども、抑も亦平素国家社会に尽瘁せらるゝ所の効果たらずむばあらず、而して本書の著述も実に此精神に出でたるなり。
君が日米国交の親善に心を用ゐらるゝは、予の常に感激する所なり。回顧すれば明治三十五年、予が始めて米国に旅行して君と会見せるよ
 - 第48巻 p.38 -ページ画像 
り、其後両度の渡米にも毎々会談して其人格に服し敬愛の念愈深し。大正九年四月、君は予等の懇請を容れて日米協議会に列するため、米国著名の実業家学者等より成れる団体の長として我東京に来り、数日間予等と膝を交へて諸種の問題を討議し、以て日米間の誤解を矯正し両国民の情意を融和したるは世人の周知せる所なり。而して其間、君は夫人・令嬢と共に予が三田の別邸に起臥したれば、予は其交情の更に親密を加へたるを覚ゆるなり。
去冬予が老躯を起して第四回の渡米をなしたる目的は、華盛頓会議の開かるゝに当りて、我日米関係委員会の代表として外部より尽す所あらむとの微衷と、前年ヴァンダァリップ君等の来訪せられし謝意を表せむとの為なりき。然るに予が紐育に著したる時は君は渡欧して不在なりしが、予の電報に対し君は直に返電して、十一月末には帰米すべければ其時期を待たれよとの事なりき。かくて君は予定の如く帰国したれば、予は其二十七日を以て君がスカボローの邸を訪ひて終日款談し、日米国交の最善方法と共に、君が欧洲の将来に対する財政策を聴くことを得たり。而して君は欧洲政策を語れる後更に語を継ぎて、此意見は不日一書と為して君が帰国の頃には日本に送附すべし、幸に同意せられば《(マヽ)》之を翻訳して日本の実業界に紹介せられたしとの希望をも述べられたり。予は今年一月末日帰朝せしが、後数旬を経て君の書を手にすることを得たれば、直に法学博士小林丑三郎君監修の下にマスター・オブ・アーツ弓家七郎君に翻訳を依嘱せしも、帰国後予の雑務多忙なりしと翻訳の時日も亦遅延したるより、未だ本書を一読するに遑あらざるなり。然りといへども其大綱は既に君の口頭より聞知したるのみならず、曾て君が欧洲の視察に関する論策を読みて其立論の適切にして、所謂眼光紙背に徹するの概あることを熟知すれば、本書も亦今日に切要なるべきを信じて疑はざるなり。因て翻訳成るを待て急遽之を刊行して、弘く同志と共に其説を傾聴せむとす。但本書出版の後れしことは、深くヴァンダァリップ君及一般の読者に陳謝する所なり。
  大正十一年六月
                    渋沢栄一識


欧洲の将来 フランク・エー・ヴァンダーリップ著 竜門社訳 奥付 大正一一年八月刊(DK480013k-0003)
第48巻 p.38 ページ画像

欧洲の将来 フランク・エー・ヴァンダーリップ著 竜門社訳
                      奥付 大正一一年八月刊

 大正十一年八月 二日印刷
 大正十一年八月 五日発行     正価 金弐円六拾銭
             翻訳兼発行者        竜門社
                  東京市日本橋区兜町二番地
             右代表者      男爵 阪谷芳郎
著作権所有 印刷者         高橋金四郎
               東京市本郷区東片町百四十七番地
             印刷所      東京印刷株式会社
                  東京市日本橋区兜町二番地