デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

2部 実業・経済

1章 金融
1節 銀行
5款 社団法人東京銀行集会所 東京銀行倶楽部
■綱文

第51巻 p.22-24(DK510005k) ページ画像

大正12年6月20日(1923年)

是日、東京市長永田秀次郎・同助役馬越俊雄等ヲ招待シテ、東京銀行倶楽部第百八十八回晩餐会開カル。栄一出席シテ演説ヲナス。


■資料

銀行通信録 第七六巻第四五三号・第八〇頁大正一二年七月 録事 東京銀行倶楽部晩餐会(DK510005k-0001)
第51巻 p.22 ページ画像

銀行通信録  第七六巻第四五三号・第八〇頁大正一二年七月
 ○録事
    ○東京銀行倶楽部晩餐会
東京銀行倶楽部にては六月二十日午後六時より、今回新任せられたる東京市長永田秀次郎氏及助役馬越俊雄、田島勝太郎、吉田茂氏を招待し、第百八十八回月例晩餐会を開催し、食後串田委員長の挨拶に次で永田市長並に渋沢子爵の演説あり、午後八時半盛会裡に散会せり


銀行通信録 第七六巻第四五三号・第二六―二七頁大正一二年七月 東京銀行倶楽部晩餐会演説(大正十二年六月二十日東京銀行倶楽部に於て) 渋沢子爵の演説(DK510005k-0002)
第51巻 p.22-24 ページ画像

銀行通信録  第七六巻第四五三号・第二六―二七頁大正一二年七月
  ○東京銀行倶楽部晩餐会演説
         (大正十二年六月二十日東京銀行倶楽部に於て)
○上略
    ○渋沢子爵の演説
 - 第51巻 p.23 -ページ画像 
喜ばしい晩餐会に御案内を戴いて、私も此席に列する光栄を荷ひます委員長会員皆様に御礼を申上げます。殊に今夕は東京市の新市長及三助役の御新任を祝する為に、玆に御案内を申上げて、其席に陪することを得ましたのを深く喜びますのでございます
只今新市長から、自分が任じたのは、自己自身が決したのであるけれども、或る点から云へば各々方の身代りに立つたのだと云ふやうなお言葉がありましたが、私もどう云ふ訳か市会の気まぐれの選挙を受けまして、大分に困却したのであります。併し自身は矢張良い市長が欲しいと云ふ事は希望して居つたですが、其良い市長が己れであるとは考へなかつた。処が大勢のお方から是非立てと云ふやうなお勧めを戴きましたときは、市長は無くもかなと云ふやうな気がしたけれども、扨て後がどうあるかと云ふ事に付ては、自分の辞すると共に多少懸念した。それは兎に角東京市民の老人の一人として、此良市長を望むこと最も切なる東京に於て、後はどうなるかと云ふ事を思ふのは当然で自己が御免を蒙ると云ふと共に矢張東京市を愛する、愛市の観念から左様思ふたと云ふことは、決して私は諸君の前に恩を着せるではありませぬけれども、嘘ではない告白であります。恰も好し永田君が玆に推薦を受くるやうになり、又之が井上さんや私共と違うて、丁度自ら適任と解してお引受になつたに付て(笑声)玆に初て私は大に安心したのでありますから、永田さんは彼等の為めに身代りに立つたと仰しやるけれども、吾々は其任に堪へぬと思うたので、併し永田君は自ら堪へると思うた(笑声)。一方は堪へぬと思ひ、一方は堪へると思うたのは、両人の間に自ら解釈したのでありますが、併し或は諸君も左様御解釈なさるであらうと思ひます(笑声拍手)
東京に於て市長及助役のお打揃いで、是から市政を充分に進めて戴かなければならぬと云ふことは、もう申上げる迄もなく、而して今委員長が先づ手近より及ぼせ、市政に向ひ成るべくたけ手つ取り早く必要なる事に手を著けよと云ふ、之に対して永田君の先づ第一に斯う云ふ困却がある、此困却をどう捌きをするかと云ふやうな御回答は、説き得て妙、問も結構、お答も亦甚だ要点を得て居るやうでございます。(笑声)斯の如く実に不得要領ではなく、得要領の問答、定めて諸君もお喜びであらうが、銀行集会所なればこそ出来る一つの御演説と思ふのでございます。此の市の事務を進めて行くに、金融界との聯絡が必要と云ふことは、私が喋々を要しませぬが、御就任早々に斯の如き銀行の諸君が皆お集りで、殆ど金融界の粋を抜いた方々が、一堂に於て御歓迎あると云ふことは、洵に其宜しきを得たことで、定めて新市長も渋沢や井上さんを頼るよりは、尚ほ今夕の此宴会はお心強い事であらうと思ひます。是から先きの市の事業の経営に付ては、必ず諸君に待つ所が多く、諸君も亦新市長の働きを充分得たり賢し、持つてお出なさい、何ぼでも引受けてやると考へて居らつしやるだらうと思ひますから、是は望む者も受ける者も相待つて進んで行くだらうと私は深く喜ぶのでございます。私は実は、此新市長の配下に属する養育院の院長でございます(笑声)、而して私のやつて居る所の事務は、十三億なんと云ふ大きな事ではありませぬ。併し事に依ると三十万五十万
 - 第51巻 p.24 -ページ画像 
の寄附金は募集になるかも知れませぬが、是だけは諸君が御記憶に留めて下すつて、決して明年持出すと云ふ訳ではありませぬけれども、或る場合に此社会事業に向つて渋沢が勧誘に出ましたときに、托鉢無用と仰しやつて下さらぬ事を、今日より予め願つて置くのであります(笑声)、之を以て今晩の祝辞と致します(拍手)