デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

2部 実業・経済

1章 金融
2節 手形
1款 東京手形交換所
■綱文

第51巻 p.165-167(DK510039k) ページ画像

大正7年11月16日(1918年)

是日栄一、東京銀行倶楽部ニ催サレタル、当交換所主催ノ休戦祝賀会ニ出席シテ演説ヲナス。


■資料

竜門雑誌 第三六七号・第八七―八八頁大正七年一二月 ○東京手形交換所主催休戦祝賀会(DK510039k-0001)
第51巻 p.165 ページ画像

竜門雑誌 第三六七号・第八七―八八頁大正七年一二月
○東京手形交換所主催休戦祝賀会 東京手形交換所主催となり、同所組合銀行及び代理交換銀行聯合の戦捷祝賀会は十一月十五日丸ノ内銀行集会所に於て挙行されたり。来賓は日本銀行副総裁水町袈裟六氏及び同行木村・深井の両理事其他組合員凡そ百五六十名、池田謙三氏立ちて一場の挨拶を述べ、天皇陛下の万歳を三唱し、次で聯合国元首の万歳を三唱して祝盃を挙げ、夫れより大要左記の如く青淵先生の祝賀演説ありて散会したる由。
○下略
   ○右記事中十五日ハ十六日ノ誤、又会場ハ東京銀行倶楽部ノ誤ナラン。


青淵先生演説速記集(二) 自大正七年十月至大正十年四月 雨夜譚会本(DK510039k-0002)
第51巻 p.165-166 ページ画像

青淵先生演説速記集(二) 自大正七年十月至大正十年四月 雨夜譚会本
                      (財団法人竜門社所蔵)
          (別筆)
          大正七年十一月十六日銀行倶楽部ニ於ケル休戦成立祝賀会ノ際
    渋沢男爵の演説
満場の諸君。御同様に最も歓喜慶賀すべき今日此祝賀会に参上致して私も諸君と共に盃を挙げて、此平和克復を祝賀することの出来ましたのは、此上もなく愉快且つ光栄に存じます。
私が玆に祝賀の意を述べたいと思ひます事は、数多くありまするけれども、最も大別して二つの事を申上げたいのであります。元来世の進みからして、人類は皆幸福歓喜に向ふべき筈であるのに、文物の進歩した今日に斯の如き惨害が五年に亘つて継続したと云ふことは、殆ど人類は進歩したるに非ずして却て反対に地獄に落ちた、魔道に沈淪したと申しても宜いやうに憂へたのであります。是は私一人が憂へたではない、諸君共に憂へたのであつて、情けないことである。殆ど二千五百年、又耶蘇降誕から云うても千九百年前から、追々に今日に進み来つた世の中が、斯の如く情けないものであるか。人と云ふものは斯くまでに野蛮極るものであるかと、吾人共に思ふたのである。到頭其事が終熄して、今日漸く平和の曙光を認められるやうになつたと云ふことは、人類として最も喜ばねばならぬことゝ思ひます。此喜びは一般を通じて生ある者の死を厭ひ苦みを嫌ふに於ての喜びでございますが、更にもう一つ大に喜ばねばならぬ事があらうと思ひます。それは即ち邪は正に勝たずと云ふ点に於て喜ばんならぬと思ひます。大正三年の八月欧羅巴に此惨事の勃発以来、或は人多くして天に勝つ、天道是か非かと云ふ感触をもう御互のみならず全世界の人に与へたのであります。而して其間に於て、帝国にもさう云ふ人があつたかも知らぬが其魔道の張本たる独逸に対して、或は其制度或は其文物若くは学問を推奨した人すらあつたのであります。併ながら邪は邪である。自己
 - 第51巻 p.166 -ページ画像 
だけが富まふ、世界は自己の自由になるものだ。世を挙げての人民は我種族の従属たらしむべきものだと云ふことは、丁度取も直さず二千五百年以前の秦の始皇が六国を滅さうと掛つたと同じやうなる有様である。其頃に六国は何と言ひました、秦の頭に暴の字を加へて暴秦暴秦と呼んだ位、是は春秋を読んだお人、戦国策を読んだお人は皆御承知である。併し是は遂に六国を滅して四海を統一した。一時は暴挙が遂げた。故に始皇即ち始めの皇として末代まで続く積りで立つたのである。併しそれは如何でありますか、五十年ばかり続いて二世皇帝で直ぐ潰れた。矢張邪は正に勝たず、無理は何時までも通らぬものである。古からして歴史が吾々に明瞭に教へてあるのでございます、此度の独逸の兇暴の行動は、其趣は異にするけれども、若しあの場合に於て、聯合軍が暴力に依つて撃破せられたならば、丁度支那の戦国の有様が今日の世界に現はれるのであつた。併し私共思ふたのに、仮令さうなつても二世皇帝は必ず滅びるに違ひないが、それ程には至るまいと思ふたのが、果して今日五年に跨つた戦争も、遂に暴秦をして世界を統一せしめなかつたと云ふことは最も喜ばねばならぬ。即ち人多くして天に勝つ、今度は天定つて人に勝つと云ふ事実を玆に見るのでございます。此事柄は世の中に如何なる変化を来しまするか、どう云ふ教訓を与へまするか、其変化教訓は却々吾々の想像の外でありませうが、斯く申す私などは、斯様な長寿命を保ちました為めに、実は日本に於ける幕府制度から王政の変化すら、幸に命あつて今日に遭遇するを喜ぶと申して、今昔の感を始終謳うて居るのでございます。然るに其日本の小変化どころではなく、此世界が前に申上げる如きの大変化殊に兵威を以て誇つた所の、而も軍略主義の国が、丁度鼎の三本の足が皆倒れたと云ふ有様は、何と世の中の変化恐しいものではございませぬか。墺地利と云ひ露西亜と云ひ、遂に独逸と申し、其元首は皆何れにか殆ど逃亡若くは悲惨の有様に陥つたと云ふことは、実に未曾有の大変化と申しても宜いやうに考へます。是は吾々の歴史的観念である。此処に集つたる皆様銀行者の観念としては、それ等にも思ひ及ばねばなりませぬけれども、併し先づ皆様から考へますると、今後の経済如何の問題であります。是等の点に就ては私が今愚見を陳上するまでもなく、それそれ諸君に於て御調査もございませう、又御胸算もあるであらうと思ひます。戦争は世界の地図の色を変ずると同様に、金融界の中心力を追々に変化せしむるであらうと思ひますれば、外に対しては如何なる有様である、又内に就ては如何に考へたが経済の首脳たる金融業者として其宜しきを得るであらうか。世界の変化に対し唯喫驚ばかりして居られる世の中ではなからうと思ひます。否諸君が決して其驚きにのみ彷徨すると云ふ方々ではなからうと信じます。要するに必ず此喜びと共に諸君に相当の御成竹があるだらうと深く信じるのであります。洵に今日は斯かるお芽出度いお席に参上して、既にお仲間入は除かれましたる私でありますけれども、古いお馴染から、玆に諸君と共に盃を挙げて一言祝辞を申上げ得るのは此上もなき愉快に感じます。今会長からのお指図に依つて簡単に所感を述べたのでございます。(拍手満堂)
 - 第51巻 p.167 -ページ画像 

銀行通信録 第六六巻第三九八号・第六七頁大正七年一二月 ○内国銀行要報 銀行団雑記(DK510039k-0003)
第51巻 p.167 ページ画像

銀行通信録 第六六巻第三九八号・第六七頁大正七年一二月
 ○内国銀行要報
    ○銀行団雑記
○上略
△東京交換所休戦祝賀会 東京交換所及代理交換銀行にては休戦条約成立に付、祝意を表する為め前日の決議に基き、十一月十六日一同臨時休業の上、同日午後三時より祝賀会を開き参会者一同祝杯を挙げ、委員長池田謙三氏の発声にて、天皇皇后両陛下及聯合国元首の万歳を三唱し随意散会せり
○下略