デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

2部 実業・経済

2章 交通・通信
2節 陸運
1款 東京鉄道株式会社
■綱文

第51巻 p.504-508(DK510107k) ページ画像

明治44年7月31日(1911年)

是ヨリ先、東京市、東京鉄道株式会社ノ買収ヲ決定シ、両者間ニ仮契約書締結セラレ、是日政府ノ認可ヲ得。仍ツテ栄一、当会社相談役ヲ辞ス。


■資料

青淵先生職任年表(未定稿) 昭和六年十二月調 竜門社編 竜門雑誌第五一九号別刷・第一三頁 昭和六年一二月刊(DK510107k-0001)
第51巻 p.504 ページ画像

青淵先生職任年表 (未定稿) 昭和六年十二月調 竜門社編
               竜門雑誌第五一九号別刷・第一三頁昭和六年一二月刊
    明治年代
  年月
三九  六 東京電車鉄道・東京市街鉄道・東京電気鉄道三社合併裁定。明、三九、九、―東京鉄道株式会社相談役――明、四四、七、(市ニ買収)


竜門雑誌 第二七八号・第二一―二二頁明治四四年七月 ○電車市営に就て 青淵先生(DK510107k-0002)
第51巻 p.504-505 ページ画像

竜門雑誌 第二七八号・第二一―二二頁明治四四年七月
    ○電車市営に就て
                      青淵先生
  本篇は客月中突如として起れる東鉄電車市営問題に就て、朝日新聞記者が青淵先生に就て聞き得たる意見の概要なりとて同紙に掲載せるものなり。(編者識)
 東京市政の実状と東京鉄道会社の内状を知らざるを以て、今回の電車市営問題の是非を俄に判断する能はざるも、主義としては本邦に於ける市営には反対なり、欧米の先進国にありては電車の如き公共的事業は之を国家又は市の如き公共団体に於て経営するもの尠からず、中にも英国グラスゴーは市政善美にして、其市営事業は能く市民の幸福を尊重する点に於て寸毫の遺憾なしと聞く、若し夫れ他国に於ける先例をのみ引用して、万事市営が結構なりと言はゞ既に議論の余地なし併し市は時に或は必ずしも全市民の市に非ずして、往々実際の市政は少数者に依つて左右せらるゝこと決して珍らしからず、我東京市が果して能くグラスゴーの如き善政を施し得るや否や。
 由来本邦に官営又は市営の事業は兎角『乗せて遣はす』とか『買はせて遣はす』とかの営業方針にして、或公共的独占事業の営業振に不親切の嫌ひあるのみか、其経営には当局者が直接痛切の利害関係なきを以て、経費の節減及び事業の改良に兎角迂闊なるの恐れあり、之が私営ならば当事者は其事業と痛切なる利害関係あるを以て、経営改良に余念なく、且又営業振りの不親切に対しては監督官庁又は輿論の鞭達は大に効果ありて、之を矯正すること容易なるべし。
 尚又電車の市営が財源に供せらるゝ目的ならば、大に注意を払はざる可らず、従来の先例と反対に、市の当局者が私営の折よりも更に経費を節約し得て、而も改良を加へたる上にて収益を増大せしめたる過
 - 第51巻 p.505 -ページ画像 
剰の益金を、市の一般会計又は他の特別会計に繰入るゝは何等の不可なしと雖も、恐らく此希望は一片の空想に過ぎざるべし、而して市は将来単に電車の収益を以て市の行政費に繰込み、而も乗車賃を引上ぐる事あらんか、屡電車を利用する中流以下市民の負担が独り増率を来して、上流市民の負担を増加せざるの不公平に陥る、人或は現在の乗車賃を人力車又は馬車の乗車賃と比較して低率なりと言ふものあらんも、之は汽車の乗車賃を同一里程に於ける人力車又は馬車の乗車賃と比較して低率なりと称ふると異なる所なく、議論として取るに足らず汽車又は電車は公共的事業にして、公衆の便益を主として経営せざる可らず、余は前述の理由に拠り、主義として電車の市営には反対する所以也。



〔参考〕市電気事業検査資料 電車編 第一一―一四頁(DK510107k-0003)
第51巻 p.505-506 ページ画像

市電気事業検査資料 電車編 第一一―一四頁 (東京市電気局所蔵)
第百三十九号
    東京鉄道買収ノ件
本市ハ左記仮契約ノ約款ニ依リ、東京鉄道株式会社ノ営業及其設備物件ノ全部ヲ買収スルモノトス
      仮契約書
東京市参事会東京市長(以下単ニ市ト称ス)ト、東京鉄道株式会社取締役(以下単ニ会社ト称ス)トハ、会社ノ営業ヲ挙ケテ東京市ノ経営ニ移スヘキ協議ヲ調ヘ、仮契約ヲ締結スルコト左ノ如シ
第一条 市ハ以下各条ニ依リ明治四十四年七月三十一日ヲ限リ、会社カ其定款ニ従ヒ営ム所ノ営業ヲ(兼業ヲ包含ス)及会社ノ現ニ有スル物件並ニ営業設備ノ全部ヲ買収ス
第二条 前条ノ買収価格ハ左ノ如ク協定ス
 一 明治四十四年五月三十一日現在ノ財産目録ニ於ケル建設費・建設費仮払金・電力事業建設費・貯蔵物品及工場勘定ヲ合セ金六千四百拾六万五千五百拾八円トス
 二 会社カ前項貯蔵物品及工場勘定ノ受払ヲ為シタル場合ニ於ケル価格ハ、前項財産目録ニ計上セル価格ニ依リ計算スルモノトス
 三 買収代価ハ明治四十四年八月一日ヨリ壱ケ年以内ニ現金ヲ以テ会社ニ交付スヘシ
第三条 会社ハ買収ノ日ニ於テ其現ニ有スル営業設備並ニ物件ノ全部及動力ノ使用(鬼怒川水力電気株式会社等トノ契約其他)機械又ハ材料ノ供給、工事ノ請負其他一切ノ権利義務ヲ市ニ引渡シ、市ハ之ヲ承継スヘシ、但会社ノ株主ニ対スル権利義務及金銭・有価証券・仮払金・未収入金・仮受金・仕払未済金並ニ明治四十四年六月一日以後ニ於ケル収益金ハ此限ニ在ラス
第四条 会社ハ此仮契約締結後、引続キ新線路ノ建設開通及電灯事業ノ進捗ニ努ムヘシ、但新工事ノ設計工費ノ決定ニ付テハ予メ市ノ承認ヲ受クヘシ
第五条 会社ハ買収ノ日ニ於テ市ニ引渡スヘキ物件・営業設備及権利義務ニ付キ、此仮契約締結ノ日ヨリ引渡完了ノ日迄最良ノ注意ヲ以テ保存・管理・修補其他必要又ハ有益ナル行為ヲ為スコトヲ怠ルヘ
 - 第51巻 p.506 -ページ画像 
カラス、但市ニ引渡スヘキ物件及権利義務ニ変動ヲ生スヘキ行為ハ予メ市ノ承認ヲ受クヘシ
第六条 重要ナル建設費ノ増減、物件ノ売買又ハ債務ノ負担其他、此仮契約締結後会社カ他ト契約ヲ為ストキハ、予メ市ノ承認ヲ受クヘシ
 前項ノ承認ヲ受ケサルモノニ付テハ市ハ之ヲ承継セス
第七条 明治四十四年六月一日ヨリ買収ノ日ニ至ル迄ノ間ニ生シタル貯蔵物品及建設費・建設費仮払金・電力事業建設費・工場勘定ノ増減ニ付テハ、市ハ其実費額ヲ査定シ第二条ノ買収代価ヲ増減精算スヘシ
第八条 会社ハ此仮契約締結ノ日ヨリ二週間内ニ此仮契約締結ノ日ニ於ケル会社ノ財産明細表・貸借対照表及建設費明細表並ニ権利義務明細表ヲ市ニ提出スヘシ
第九条 明治四十四年八月一日以後買収代価交付ノ日ニ至ルマテ、市ハ買収代価ニ対シ年率五朱ノ割合ニ相当スル金額ヲ、会社従来ノ決算期ニ於テ会社ニ交付スヘシ、但最後ノ利子ハ買収代価ト同時ニ交付スルモノトス
第十条 市ハ買収ノ日ニ於テ現在スル会社有給ノ事務員・技術員・雇員其他ノ使用人ノ為ニ、特別任用ノ途ヲ開キ、引続キ使用スルモノトス
 此仮契約締結後会社ニ於テ使用人ヲ増減シ、又ハ之ニ対スル俸給其他ノ給与額ヲ増加セントスルトキハ、予メ市ノ承認ヲ受クヘシ、但車掌・運転手・信号手・職工・工夫等ノ増減ニ付テハ此限ニ在ラス
第十一条 市ハ此仮契約締結ノ日ヨリ買収ノ日迄会社ノ業務ヲ監視スルモノトス
第十二条 市ト会社トハ此仮契約目的ヲ有効ナラシムル為メ、互ニ遅滞ナク法定ノ手続ラ為スヘシ
 前項手続ノ完了カ第一条ノ買収期日ヨリ遅ルルトキハ市ト会社トハ更ニ買収期日ヲ協定スルモノトス
第十三条 会社ニ於テ此仮契約ニ定ムル義務ヲ履行セス市ニ損害ヲ被ラシメタルトキハ、市ハ相当ノ補償額ヲ査定シ第二条ノ買収代価中ヨリ控除スヘシ
第十四条 此仮契約ハ市カ市会ノ議決ヲ得ル能ハス、会社カ株主総会ノ承認ヲ得ル能ハス、又監督官庁ノ認許ヲ得ル能ハサルトキハ、其効力ヲ失フモノトス
 以上契約ノ証トシテ本書弐通ヲ作製シ、市ト会社ト各壱通ヲ保有ス
  明治四十四年七月五日 於東京市役所
               東京市参事会
                東京市長 尾崎行雄 
    会社印        東京鉄道株式会社取締役
                社長 千家尊福 
  明治四十四年七月六日提出
               東京市参事会
                東京市長 尾崎行雄
 - 第51巻 p.507 -ページ画像 



〔参考〕電気事業五十年史 原田登著 第三七四―三七五頁大正一一年一〇月刊(DK510107k-0004)
第51巻 p.507-508 ページ画像

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