デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

昭和2年7月23日（1927年）

是ヨリ先、栄一、大正十五年九月ヨリ井上準之助等ト航空会社設立ニツキ準備シ、政府マタ是月二十日、航空輸送会社設立準備調査委員会ノ組織ヲ閣議決定ス。是日逓信大臣望月圭介ノ招請ニヨリ、栄一及ビ井上準之助・団琢磨・木村久寿弥太・根津嘉一郎等同大臣官邸ニ参集シ、航空会社設立計画ニ付キ議ス。次イデ八月四日、栄一、逓信大臣ヨリ同委員会会長ヲ嘱託セラル。

竜門雑誌　第四五七号・第七七頁大正一五年一〇月
　　　　青淵先生動静大要
　　　　　　九月中
三十日　航空会社設立の件（東京銀行倶楽部）

航空輸送会社書類　　　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
一、大正十五年九月三十日午後三時銀行倶楽部ニ航空会社ノ件ニ付小集、出席者渋沢子爵・井上準之助・団琢磨・大倉男爵・結城豊太郎・根津嘉一郎外二氏
一、種々協議ノ末井上・団・木村（久寿弥太）三氏連同、逓信大臣ヲ訪問シ内交渉ヲナスコトニ決シ、午後五時過散会セリ
　　　○右ハ標題ノ綴込中ニアル覚書ナリ。

中外商業新報　第一四五八五号大正一五年一〇月一日
　　　　航空会社設立の
　　　　　　民間案成る
　　　　　　　　井上氏が原案を
　　　　　　　　携へ逓相を訪問
航空輸送会社設立案に関する民間側意見は、専ら井上準之助氏の手許で原案作成中であつたが、ほゞ草案を得たので民間側委員の渋沢子・大倉男・団・井上・根津・結城（木村久寿弥太氏は欠席）の六氏は、卅日午後三時丸の内銀行クラブに会合協議した、席上井上氏から同氏作成の会社設立案について詳細の報告があつた後、政府案と対照し逐条審議したが、同日は木村氏が欠席したゝめ確定までに至らなかつたしかしほゞ意見の一致を見たので、井上氏は民間側委員を代表して一日安達逓相を訪ね民間側原案を示すことゝし、同六時散会した、その内容については絶対に秘密としてゐるから全然不明であるが、会社資本金や補助費等につき政府原案と相当の開きがある模様である

 - 第51巻 p.593 -ページ画像 

竜門雑誌　第四五八号・第八八頁大正一五年一一月
　　　　青淵先生動静大要
　　　　　　十月中
三十日　航空会社創立協議会（東京銀行倶楽部）

集会日時通知表　昭和二年　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
七月二十日　水　午後二時過　望月逓相来約（事務所）

竜門雑誌　第四六七号・第一一八頁昭和二年八月
　　　　青淵先生動静大要
　　　　　　七月中
廿三日　航空輸送会社に関する望月逓相主催午餐会（同官邸）○下略

航空輸送会社書類　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
（謄写版）
（表紙）
　（朱印）
　秘　＊
　航空輸送会社設立計画綱要

＊（墨書書入レ）
　望月逓信大臣の招請により昭和二年七月廿三日午前十一時逓信大臣官邸に左の人々臨席す。
　　渋沢子爵・井上準之助・団琢磨・木村久寿弥太・根津嘉一郎の諸氏（大倉喜八郎氏・結城豊太郎氏ハ事故不参）
　　此他主人側として大臣・次官其他数氏列席す。
　先づ本案ハ予て井上準之助氏の立案したるものを参酌したるものなるが、此位にてハ如何か、所見開陳ありたしと大臣より実業界の諸氏に希望あり、一同賛意を表す。何れ次の議会に提出して協賛を得調査会を設置し、実現に努力する積りなり。とのことにて調査委員の顔振れに付相談し六大都市即東京・横浜・名古屋・京都・大阪・神戸の相当なる人々を選定せる由なり、

　　　　航空輸送会社設立計画綱要
（一）当会社ハ資本金一千万円ヲ以テ航空機ニ依ル旅客・貨物及郵便物ノ輸送業ヲ営ム為、初年度ニ於テ会社ヲ設立シ、二年度ヨリ航空ヲ開始スルモノトス
（二）当会社ノ定期航空輸送経営線路ハ東京大連線及大阪上海線ノ二線路トス
　東京大連線ノ航空線路ハ其ノ起点ヲ東京トシ、大阪・福岡及京城ヲ中間寄航地トシ、大連ヲ終点トス、大阪上海線ノ航空線路ハ其ノ起点ヲ大阪トシ、福岡ヲ中間寄航地トシ、上海ヲ終点トス
 - 第51巻 p.594 -ページ画像 
（三）当会社ハ東京大連線ヲ経営スル為、第二年度ハ東京・大阪間ニ於テ毎週十二往復、東京・福岡間ニ於テ毎週六往復、福岡・京城間及京城・大連間ニ於テ毎週三往復、第三年度以降ハ東京・大阪間ニ於テ毎週十二往復、大阪・大連間ヲ通シ毎週六往復ノ航空ヲ実施シ、大阪上海線ヲ経営スル為、第二年度ハ大阪・福岡間ニ於テ毎週三往復ノ航空ノ外、第三年度以降大阪・福岡間ニ於テ毎週六往復、福岡・上海間ニ於テ毎週三往復ノ航空ヲ実施スルモノトス
（四）当会社ハ其ノ業務ヲ経営スル為、内地・朝鮮及関東州ニ於テハ政府施設ノ飛行場、無線及有線ノ通信設備ヲ利用シ、且政府ヨリ気象其他ノ情報ノ供給ヲ受ケ、上海ニ於テハ会社ニ於テ飛行場、無線及有線ノ設備及気象観測所ヲ設置スルモノトス
（五）当会社ハ航空輸送事業経営ノ為、大要左ノ施設ヲ行フモノトス
　一、本社ヲ東京ニ、営業事務所ヲ東京外五ケ所ニ置ク
　二、定期航空線路ノ起点・終点及中間寄航地ノ各飛行場ニ、事務所格納庫・倉庫・自動車庫及油庫ヲ設ク
　三、飛行機二十九機・発動機三十四台及之ヲ維持スル為、飛行機並ニ発動機ノ部分品ヲ設備ス
　四、自動車・自動艇其ノ他ノ備品ヲ設備ス
（六）当会社ハ上海ニ於ケル設備及福岡ニ於ケル上海関係ノ設備ハ之ヲ第二年度ニ於テ為スノ外、一切ノ設備ヲ初年度ニ於テ完備スルモノトス、但シ東京飛行場移転ニ要スル経費ハ第三年度ニ於テ支出スルモノトス
起業費支出年度割左ノ如シ

　　　　　　　　　　　　　　初年度　　　　　　　　二年度　　　　　　　三年度
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　円　　　　　　　　　円　　　　　　　　　円
　各種建物建設費　　　　　九一四、〇〇〇　　　三三四、三〇〇　　　一三五、〇〇〇
　営業用備品設備費　　三、三〇七、一〇〇　　　九六四、四〇〇
　　飛行機　　　　　　二、三二九、〇〇〇　　　六七六、〇〇〇
　　発動機　　　　　　　　六四八、〇〇〇　　　一九二、〇〇〇
　　飛行機及発動機部分品　三三〇、一〇〇　　　　九六、四〇〇
　自動車其ノ他ノ備品　　　二一七、〇五五　　　二三八、一四五
　雑費　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　三一九、五〇〇
　　　　計　　　　　　四、四三八、一五五　一、八五六、三四五　　　一三五、〇〇〇

（七）当会社ノ株金払込時期及其ノ金額ハ左ノ通トス

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　円
　　初年度　　　　十月上旬払込　　二、五〇〇、〇〇〇
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　円
　　　　　　　　　二月下旬払込　　二、〇〇〇、〇〇〇　　計　　四、五〇〇、〇〇〇
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　円
　　第二年度　　　八月下旬払込　　一、五〇〇、〇〇〇
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　円
　　　　　　　　　二月下旬払込　　一、〇〇〇、〇〇〇　　計　　二、五〇〇、〇〇〇

（八）当会社ノ十一ケ年間ニ於ケル営業収支計算ハ左ノ通トス、但シ株主ニ対シ毎年八分ノ配当ヲ為スモノトシテ計算ス
　　収入額　　　二千四百七十四万二千五百六十二円
　　　　内訳
　　　利子収入　　　　　四万五千円
　　　郵便物航送料収入　千三百八十六万七千四百五十六円
　　　旅客運賃収入　　　四百七十万八千七百五十円
 - 第51巻 p.595 -ページ画像 
　　　貨物運賃収入　　　六百十二万千三百五十六円
　　支出額　　　四千四百七十万五千五百六円
　　　　内訳
　　　営業費　　　　　　三千八百二十八万六千五百四十八円
　　　所得税及収益税　　八十二万八千九百五十七円
　　　配当金　（八分）　五百五十九万一円
　　差引不足額　千九百九十六万円二千九百四十四円
（九）当会社ハ航空ニ関スル政府ノ指令ヲ遵守スルコトヲ条件トシテ、創立初期ヨリ十一ケ年間、政府ヨリ左ノ金額以内ノ補助金ノ支給ヲ受クルモノトス
　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　円
　　昭和二年度　　　　　　　五八〇、〇〇〇
　　〃　三年度　　　　　二、七五〇、〇〇〇
　　〃　四年度　　　　　三、五八〇、〇〇〇
　　〃　五年度　　　　　三、二三〇、〇〇〇
　　〃　六年度　　　　　二、九〇〇、〇〇〇
　　〃　七年度　　　　　二、〇一〇、〇〇〇
　　〃　八年度　　　　　一、六六〇、〇〇〇
　　〃　九年度　　　　　一、三六〇、〇〇〇
　　〃　十年度　　　　　一、〇一〇、〇〇〇
　　〃十一年度　　　　　　　七七〇、〇〇〇
　　〃十二年度　　　　　　　一二〇、〇〇〇
　　　合計　　　　　　一九、九七〇、〇〇〇

航空輸送会社設立準備調査委員会報告書　第一―六頁刊
　　航空輸送会社設立準備調査委員会報告書
　　　　第一　航空輸送会社設立準備調査委員会組織
一、昭和二年七月二十日航空輸送会社設立準備調査委員会組織、左ノ通閣議ニ於テ決定アリタリ
　　　　　　航空輸送会社設立準備調査委員会組織
　第一条　航空輸送会社設立準備調査委員会ハ、逓信大臣ノ監督ニ属シ、其ノ諮問ニ応シテ航空輸送会社設立準備ニ関スル事項ヲ調査審議ス
　第二条　委員会ハ会長一人・副会長一人及委員若干人ヲ以テ之ヲ組織ス
　第三条　会長及副会長ハ逓信大臣之ヲ命シ又ハ嘱託ス
　第四条　委員ハ関係各庁高等官及学識経験アル者ノ中ヨリ、逓信大臣之ヲ命シ又ハ嘱託ス
　第五条　会長ハ会務ヲ総理ス
　　会長事故アルトキハ副会長其ノ職務ヲ代理ス
　第六条　委員会ニ幹事ヲ置ク、逓信大臣之ヲ命シ又ハ嘱託ス
　　幹事ハ会長ノ指揮ヲ承ケ庶務ヲ整理ス
　第七条　委員会ニ書記ヲ置ク、逓信大臣之ヲ命ス
　　書記ハ会長及幹事ノ指揮ヲ承ケ庶務ニ従事ス
二、航空輸送会社設立準備調査委員会組織第三条・第四条・第六条及
 - 第51巻 p.596 -ページ画像 
第七条ニ依リ、八月四日左ノ通調査委員会々長以下委員・幹事及書記ノ任命又ハ嘱託アリタリ
　　　　　　　　　　　　　正三位勲一等子爵　渋沢栄一
　　航空輸送会社設立準備調査委員会々長ヲ嘱託ス
　　　　　　　　　　　　　　　正四位勲三等　井上準之助
　　航空輸送会社設立準備調査委員会副会長ヲ嘱託ス
　　　　　　　　　　　　　　　内閣拓殖局長　成毛基雄
　　　　　　　　　　　　　　　　　大蔵次官　黒田英雄
　　　　　　　　　　　　　　大蔵省主計局長　河田烈
　　　　　　　　　　　　　　　　　陸軍次官　畑英太郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　海軍次官　大角岑生
　　　　　　　　　　　　　　　正六位勲六等　井坂孝
　　　　　　　　　　　　　　　正四位勲二等　橋本圭三郎
　　　　　　　　　　　　　　　従五位勲三等　原富太郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　従五位　服部金太郎
　　　　　　　　　　　　　　　従五位勲四等　浜岡光哲
　　　　　　　　　　　　　　　　　　従五位　大橋新太郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　大川平三郎
　　　　　　　　　　　　　　　従三位勲二等　若宮貞夫
　　　　　　　　　　　　　　　　　　正六位　川西清兵衛
　　　　　　　　　　　　　　　　　　同　　　上遠野富之助
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　門野重九郎
　　　　　　　　　　　　　　　従五位勲二等　団琢磨
　　　　　　　　　　　　　　　正五位勲三等　頼母木桂吉
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　高山長幸
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　津村重舎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　勲三等　根津嘉一郎
　　　　　　　　　　　　正三位勲一等功二級　長岡外史
　　　　　　　　　　　　　　　　　　勲四等　中村啓次郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　野村徳七
　　　　　　　　　　　　　　　従五位勲四等　馬越恭平
　　　　　　　　　　　　　従四位勲二等男爵　藤田平太郎
　　　　　　　　　　　　　従五位勲三等男爵　古河虎之助
　　　　　　　　　　　　　　　正六位勲三等　藤山雷太
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　藤田謙一
　　　　　　　　　　　　　正四位勲三等男爵　郷誠之助
　　　　　　　　　　　　　　　正五位勲三等　浅野総一郎
　　　　　　　　　　　　　正三位勲一等男爵　阪谷芳郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　勲三等　喜多又蔵
　　　　　　　　　　　　　　　従四位勲四等　木村久寿弥太
　　　　　　　　　　　　　　　従四位勲四等　湯川寛吉
　　　　　　　　　　　　　　　　　　勲六等　結城豊太郎
　　　　　　　　　　　　　　　従七位勲五等　弘世助太郎
　　　　　　　　　　　　　　　　正五位男爵　森村開作
 - 第51巻 p.597 -ページ画像 
　　航空輸送会社設立準備調査委員会委員ヲ嘱託ス
　　　　　　　　　　　　　　　逓信政務次官　秋田清
　　　　　　　　　　　　　　　　　逓信次官　桑山鉄男
　　　　　　　　　　　　　　　　逓信参与官　向井倭雄
　　　　　　　　　　　　　　逓信省郵務局長　大橋八郎
　　　　　　　　　　　　　　逓信省航空局長　柳谷酉三
　　　　　　　　　　　　　　逓信省経理局長　最所文二
　　航空輸送会社設立準備調査委員会委員ヲ命ス
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　田阪一郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　永島雄治
　　航空輸送会社設立準備調査委員会幹事ヲ嘱託ス
　　　　　　　　　　　　　　　　逓信書記官　清水収吉
　　　　　　　　　　　　　　　　同　　　　　久野茂
　　　　　　　　　　　　　　　　同　　　　　伊勢谷次郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　航空官　児玉常雄
　　航空輸送会社設立準備調査委員会幹事ヲ命ス
　　　　　　　　　　　　　　　　　　逓信属　荻野海造
　　　　　　　　　　　　　　　　　　同　　　鈴木喜内
　　　　　　　　　　　　　　　　　　同　　　長谷川正雄
　　　　　　　　　　　　　　　　　　同　　　篠田久次郎
　　航空輸送会社設立準備調査委員会書記ヲ命ス
三、其ノ後左ノ通委員及幹事ノ追加嘱託アリタリ
　　　　九月二十六日　　　　　正六位勲三等　稲畑勝太郎
　　　　同　　　　　　　　　　　　　　　　　鹿島房次郎
　　航空輸送会社設立準備調査委員会委員ヲ嘱託ス
　　　　十一月五日　正五位勲四等　安達堅造
　　航空輸送会社設立準備調査委員会幹事ヲ嘱託ス