デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

2部 実業・経済

2章 交通・通信
4節 通信
1款 日本無線電信株式会社
■綱文

第52巻 p.16-21(DK520003k) ページ画像

大正10年7月1日(1921年)

是日、日米電信株式会社創立委員会、日本工業倶楽部ニ開カル。栄一出席シテ協議ヲナス。畢テ午後委員一同、アメリカ無線電信会社取締役社長オー・ディー・ヤング及ビジー・イー商事会社社長ジェラード・スウォープ等ト午餐ヲ共ニス。


■資料

竜門雑誌 第三九九号・第七六頁 大正一〇年八月 日米電信会社創立委員会(DK520003k-0001)
第52巻 p.16 ページ画像

竜門雑誌  第三九九号・第七六頁 大正一〇年八月
○日米電信会社創立委員会 日米電信株式会社は七月一日午前十時日本工業倶楽部に於て創立委員会を開催せり。青淵先生・中島男・内田嘉吉・松方乙彦・藤瀬政次郎・串田万蔵・山田馬次郎・高田釜吉諸氏出席の下に
 一、最近商太会社よりの提案に対し大体の同意を表し、細目は追て協定することゝして此旨直に主務官庁に回答すること。
 一、日本側出資額を約七百万円見当とし、主として発起人に於て引受くること。
を可決し、更に午後零時半より米国ラジオコーポレーシヨン社長ヤング氏及びジー・イー商事会社長スウオープ氏同伴出席の上午餐会を催し、食後委員一同の希望に依りヤング氏は起つて、米国に於ける戦前及戦中の無線電信界の情勢並に主要交戦国相互間の通信取扱の実況等に就き陳述し、之に対し委員一同の質問ありて午後三時散会せる由。


集会日時通知表 大正一〇年(DK520003k-0002)
第52巻 p.16-17 ページ画像

集会日時通知表  大正一〇年       (渋沢子爵家所蔵)
七月一日 金 午前十時 日米海底電線ノ件ニ付
 - 第52巻 p.17 -ページ画像 
            ヤング氏招待会(日本工業クラブ)
  ○中略。
八月廿四日 水 午後二時 日米海底電線ノ件ニ付原首相ヲ御訪問(官邸)
  ○中略。
九月一日 木 午前九時 野田逓相ヲ御訪問(官邸)
       午後三半時 内田嘉吉氏来約(兜町)
  ○中略。
十月六日 木 正午 日米海底電線会社ノ件(日本工業クラブ)


中外商業新報 第一二七八三号大正一〇年一〇月一五日 日米共同経営の海電会社設立計画 渋沢子渡米にて促進(DK520003k-0003)
第52巻 p.17-18 ページ画像

中外商業新報  第一二七八三号大正一〇年一〇月一五日
    日米共同経営の
    海電会社設立計画
      渋沢子渡米にて促進
米国政府より華府会議追加議題として太平洋通信問題を提議し来れるに就て、外務当局は目下是が対策に就き考究中なるが、華府会議に於て太平洋に於ける海底電線に関する一般的原則及其適用に就て討議せらるゝものとせば、実際問題として日米間海底電線敷設に関して従来行はれたる
 日米交渉 案件に就き、此際何等か解決の途を得ることとなるべく今回渋沢子の渡米に依り、曾て一度問題となれる日米共同経営に依る海底電信会社創立に関し、再び協議進捗することとなるべしといふ、元来日米間を連絡すべき海底電線は今日僅かに一線のみなるに拘らず是が増設に就き非常に困難を惹起しつゝある所以は、主として
 一、海底電線の日本に於ける陸揚及運用に関する法律が、外国及び外国人経営の海底線に其陸揚及運用を許さゞること
 二、海底線に関する日本人の技術が米国人に比して極めて劣り居れること
に依れり、陸揚運用に関する協定に就きて昨年華盛頓に開かれたる国際通信会議に於て、米国政府代表は日本に於ける陸揚権の開放を要求する処あり、終に我代表の容るゝ処とならざりしも、最近ヤツプ問題の解決に当り委任統治地域に於てのみ是が譲歩を為すに到れるものなるが、之より先昨年夏、ヴアンダーリツプ氏斡旋の下に、太平洋通商海底電線会社は日米連絡海底電線一線敷設の設計の計画を立て
 米国政府 より右一線を敷設する代りに、日本人経営の一線を別に敷設して米国に陸揚せしむることに依り、同会社の計画に特許を与へられむことを交渉し来りたるも、上に述べし如く法律上困難なる点あるより、渋沢子爵・東郷安男等の財界有力者団体は、日米共同経営の会社を組織し一線を敷設し、日本側の陸揚の管理に就ては逓信省に職員任命権を与ふることとし、之を以て米国側計画に代むことを提議したるも、米国側の容るところとならず一旦交渉中止の状態となりたるが、最近に至り該問題の再燃を見るに至り、日米両国資本家間の意気込も凄じきものあるを以て、渋沢子着米と共に日米間海底線一線敷設
 - 第52巻 p.18 -ページ画像 
計画は多分成立を見ることなるべしといふ、然し乍ら陸揚及運用に関する日本側の主張を、果して米国側が何処迄譲歩するやは甚だ疑問とせられつゝあり


国際無線電信民営計画ニ関スル参考書類 日米電信株式会社創立事務所編 大正一二年七月(DK520003k-0004)
第52巻 p.18-21 ページ画像

国際無線電信民営計画ニ関スル参考書類
       日米電信株式会社創立事務所編 大正一二年七月
                     (渋沢子爵家所蔵)
(謄写版)
(朱印)

拝啓
玆許封入の書面は大正十年十二月十二日附を以て在紐育団琢磨氏宛送附致候覚書写に有之、亜米利加無線電信会社として東洋に於ける無線通信問題解決策に関する私見を具陳致し候ものに有之候、何卒御査閲被成下度願上候 頓首
  大正十年十二月十四日  亜米利加無線電信会社々長
                     ヤング
   東京
   三井物産会社々長
    藤瀬政治郎殿《(藤瀬政次郎)》 貴下
(同封書翰、謄写版)
  大正十年十二月十二日  亜米利加無線電信会社
                社長 ヤング
   在紐育
    団琢磨殿
拝啓 先般於東京貴下と御面談致候以後、無線通信事業の進歩発達は益々顕著なるもの有之候に就ては、先年来懸案中の東洋に於ける無線通信問題に関する卑見を玆に開陳聊か御参考に供度存候
昨年東京に於て貴下並に御同志の方々へ御説明申上候如く、小生等は共にRADIO CORPORATION OF AMERICAを創立しTHE WESTERN ELECTRIC CO., THE UNITED FRUIT CO., THE WESTINGHOUSE ELECTRIC AND MANUFACTURING COMPANY及びTHE GENERAL ELECTRIC CO.の所有せる特許権及び一切の技術を挙げて新会社に綜括し、此等を最も有効に利用せんが為め、上記関係諸会社に於て経営上並びに財政上の実権を掌握仕候、其後逐次英国のMARCONI CO.,独逸TELEFUNKEN CO.,及び仏国のTHE GENERALE DE TELEGRAPHIC SANSEILS会社等と協定し、苟も無線事業に関する各種技術上の報告は勿論、常に此等各会社の特許及び発明の交換を行ひ、其の結果関係諸国より種々莫大なる技術上の利益を蒐集致居候、仮令独のTELEFUNKEN会社は、ALLGEMEINS ELECTRICITATS及びSIEMENS SCHUCKERTにより後援せられ居るは、恰も当社が米国の諸大会社により後援せらるゝと同様に御座候、仏国の無線会社も亦仏国の技術を略ぼ同様の方法にて蒐め得るの便宜有之候、而して程度こそ異なれマルコニー会社も亦英帝国内の各種無線に関する技術を蒐集致居候、即ち此のマルコニー会社は、マルコニー氏の発明全部並びに自然同氏の周囲
 - 第52巻 p.19 -ページ画像 
に集まり来る発明家及び科学者の集団を左右するの便宜を有し居候、以上の方法により無線事業に関する現今世界に於ける最高知識と経験とを殆んど全部網羅し尽し、独り前記直接関係を有する四国相互の利益を増進するに止まらず、間接には此等四国と協力し得る他の諸国の幸福をも進展せしむるに至り申候
斯の如き国際的協同事業の円満なる進行に依り、各国の資本経済に大なる浪費を防ぎ、且つ技術上「波長」の損失をも免るゝを得て、今や遠く南米大陸への無線事業をも迅速に発展せしめんと致居候
此四会社は凡て其の特権・権利及び財産を提供して新会社の重役に一任致し、関係四会社の平等なる利益を享受致居候、彼の独逸が目下アルゼンチンに於て建設中の一ステーシヨンも、無論新会社の事業に包含せしめられ、近々国際的ステーシヨンとして完成せらるべき予定に御座候、ブラジルに於ても亦近々ステーシヨン建設せらるべきも、是又国際的ステーシヨンとして近く経営せらるべく候、此等ステーシヨンの運用は四国より一人宛選出せられたる四人の管理人にてなし首脳者たる総支配人は此の四人を監督可致候、此の四人が此等のステーシヨンを使用せば通信上何等不公平の生ずる如きこと無之と存候、此等のステーシヨンは独仏英米にある関係会社のステーシヨンと専ら通信すべく、アルゼンチンのステーシヨンは千九百二十三年の初めに完成の予定なる由、又ブラジルのステーシヨンも其れに続き出来上るべく候へば、小生等は今や南米大陸と欧州及び北米間に安全にして迅速且つ完全なる通信をなし得るの道程に在るものと存申候
次に聊か東洋に於ける通信事業発展に関する私見を具陳仕候
    第一、日本
日本の無線電信会社(RADIO CORPORATION OF JAPAN)と申して恥かしからぬ会社を創立し、独米等が従来行ひつゝある方法を以てせば貴下が日本の技術を蒐め得る事容易なる業と存候、芝浦製作所及び東京電気会社はGENERAL ELECTRIC CO.の特許権を、日本電気はWESTERN ELECTRIC TELEPHONE CO.の特許権を夫々有し居候へば参加致すべく候、WESTINGHOUSEの特許権は直接同会社よりか或は日本の同会社代理人の参加によりて得らるべく候、日本に於ては尚他にも相当技術関係者を加へざれば、一国の技術全部を網羅し能はざる事情の存するやも知れず候が、其辺は尚篤と貴国専門家の意見を御徴し被下度候
日本無線電信会社設立後RADIO CORPORATION OF AMERICAと各種の特約を締結し、次に英仏とも協定を為し可得候、勿論小生は斯る協定を成立せしめ、日本が四国の仲間入り致すことを希望し且つ其れに努力可致候、即ち日本を加入せしむる如く南米協約を拡張することは左程困難に無之、従て日本及び南米間の直通々信は可能と可相成候
而して日本の無線電信会社は、日本の無線通信を如何に処理すべきかと云ふ問題を当局と共に決定せざるべからずと存侯、仏独政府は共に他の通信機関を管掌致居候得共、今日無線電信の如く極めて迅速なる進歩をなす技術にありては、寧ろ之れを政府の手に置くよりも民間に委ぬるが最も賢明なりとの結論到達致居候、然れば日本政府も之に倣
 - 第52巻 p.20 -ページ画像 
はるゝが賢明なることゝ存候
如何となれば政府の手にては国内無線通信すら殆んど持て余し居る如き状態に候ふに、私立会社に於ては小生等が南米にて経営せるものゝ如く、世界の何局とも自由に完全なる通信をなし居るを以ても明かに候、例令政府が通信に関し支配権を保持することゝしても、何か日本に於て決定すべき問題の生じ候場合は日本無線電信会社は政府の製造会社たる役目を演ずべく、又日本国外の競争場裡に於ては政府の補助と保護とを得て、無線通信の開拓者を以て任ぜざるべからずと存候
此の計画成立し、日本が四国の大協同目的に参加致され候暁には、実際上全世界の専門的技術は集まりて無線通信事業の発達と利益は大に期待せらるべく候
    第二、支那
曩に略説致候如く南米にて吾人が採用致居候ものと略ぼ同様なる計画を、支那にも採用致して然可と存候、尚英米日が互に譲歩して北京のステーシヨンをも提供し一会社に結合し、支那にて全世界通信交換を行ひ得る如く致す目的にて、同会社を国際化すべきものなることを痛切に感じ申候、何となれば何れの国民にせよ、支那の通信機関を単に一手に独占して経営すべきものとも考へられず候、又各国民が手を出したらばとて大無線局を二倍に増加せしめ得べしとも考へられず候、其の故は支那には左程多数の局を設立するに足る程の事業もなく、又僅か許りの能力を要する局のみに対し、世界の無線電信に要する波長を浪費するの正当なる理由を見出すことも不可能に御座候、支那に於ける上述の計画が進行せらるゝ時は、アルゼンチンに於て我社と独逸との関係の如く、北京局に対する貴下の投資は関係諸会社間に共通のものと可相成候、斯くして北京局は独仏英米の各局と直接通信し得べく、一度此の通信の方法確立せられ候暁は、東洋の通信界は実に健全なる発達の基礎に置かるべくと存候
該計画は所謂門戸開放政策を実行し且つ維持するものなるを以て、諸国外務省も必ず賛成可致、尚支那の同意と世界列強国民の協力と相俟つて、支那自身にも此の政策を実施し可得候
目下華盛頓に集合の各国政府代表者諸氏が幸に該計画に賛成せらるれば、欧洲諸国の代表と当地に会合し、速かに事件の解決を促すべき準備致度存候、勿論貴下及び日本は小生が先きに申上候通り同一歩調を以て活動せらるべく、御準備相整ひ居ることゝ信じ申候
終りに本件に付藤瀬氏とも前年御相談致したる次第も有之候に付、此の書信写書一通を同時に同氏へ送附可致候間右御含み被下度候 敬具

図表を画像で表示--

 C. A. COFFIN E. W. RICE. Jr. GERARD SWOPE E. J. NALLY W. S. GIFFORD G. E. TRIPP J. R. GEARY M. FUJISE 



  ○右書翰ハ訪英実業団ノ団長団琢磨ガ在米中受取リシモノナリ。尚、訪英団ノニユー・ヨークニアリシ時、栄一マタ同市ニアリ。本資料第三十三巻所収「第四回米国行」大正十年十一月七日ノ条参照。
 - 第52巻 p.21 -ページ画像 
  ○右「国際無線電信民営計画ニ関スル参考書類」ハタイプ謄写ノ一括書類ニシテ、左ノ目次ヲ付ス。
     ○旧日米電信株式会社創立事務中
      国際無線電信民営計画ニ関スル重ナル
      参考書類目次
    一、政府ニ対スル最近ノ申請書写
     (イ)大正十一年六月十四日附(加藤内閣成立直後)
     (ロ)〃十二年三月三日附追願書
    二、対外遠距離無線電信事業民営ニ関スル陳述書
               (大正十二年二月三日)
    三、軍事上ヨリ見タル民営無線電信事業ニ就テ
               (大正十二年一月)
    四、米国レジオ社々長ヤング氏ヨリ団琢磨氏ニ宛テタル書信写
               (大正十年十二月十四日)
    五、対外無線局民営ニ関スル政府対会社側希望条件
               (大正十二年二月十八日)
    六、国際無線電信民営ニ関スル申請書及附属書類
       第壱号ノ一 対米第二局建設費及之ニ関スル一切ノ調書
       第壱号ノ二 民設国際無線電信ニ関スル建設費
       第弐号 会社資本金払込計画
       第参号 会社収支計算及其ノ基礎
            (イ)収支計算表
            (ロ)支出計算表
       第四号 料金収入分割々合之根拠
       第五号 民設国際無線電信ニ関スル維持費
       第六号 補給金支出予定額表
    七、英国マルコニ会社ヨリ本社新計画ニ属スル無線機械様式ニ関スル来電写
               (大正十二年三月十三日)
    八、民設国際無線電信ニ関スル件(加藤内閣々議決定ノモノ)
               (大正十二年七月二日)
                             以上