デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

2部 実業・経済

3章 商工業
7節 造船・船渠業
4款 船鉄交換問題
■綱文

第52巻 p.591-594(DK520085k) ページ画像

大正6年8月25日(1917年)

是月、アメリカ合衆国ノ鉄鋼輸出禁止ニヨリ、窮地ニ陥リタル我国造船業者等ハ、米鉄解禁期成同盟会ヲ結成シテ各方面ニ運動ヲナス。是日栄一、其要請ニヨリ、アメリカ合衆国製鋼会社社長エルバート・エッチ・ゲーリーニ宛テ、解禁ニツキ尽力ヲ請フ旨ノ電報ヲ発ス。


■資料

浦賀船渠六十年史 浦賀船渠株式会社編 第一七六頁昭和三二年六月刊(DK520085k-0001)
第52巻 p.591 ページ画像

浦賀船渠六十年史 浦賀船渠株式会社編  第一七六頁昭和三二年六月刊
 ○第四編 第三章 日米船鉄交換
    一、船鉄交換の経緯
 第一次世界大戦勃発以来、国内諸工業の発展により、鉄鋼材の需要が急に増加したのに反し、その輸入は困難となつたので、従来鋼材需要の半ば以上を輸入に仰いでいたわが国は、内地生産の増加にも努力したが、増加する需要に応ずることはできず、大戦中を通じて外国鋼材の輸入が絶対に必要であつた。
 造船材料は戦前英・白・独等から供給を受けたが、開戦以来、白・独からの輸入は困難となり、英国は大正五年四月に至つて輸出を禁止したので、わが当業者は米国から不足分を輸入した。ところが米国もまた大正六年八月鋼材の輸出を禁止したため、本邦造船業はいちじるしい困難に遭遇した。そこで造船業者を主として、関係業者が集つて米鉄解禁期成同盟会を組織し、運動を開始した。
○下略
  ○右ハ刊行ニ際シ追補ス。


渋沢栄一書翰 杉田富宛(大正六年)八月二五日(DK520085k-0002)
第52巻 p.591 ページ画像

渋沢栄一書翰  杉田富宛(大正六年)八月二五日   (杉田富氏所蔵)
○上略
米国ニ於る鉄之輸出禁止之義ニ付而ハ、当地ニても当業之困難一方ならさる趣ニて、老生帰京早々大勢より種々之依頼有之、両三日以来諸方奔走之末、今日渡辺石川島造船所専務・浦賀船渠之主任町田氏及河崎氏より之代人之由ニて野津と申人々来会有之、頃日来老生ニ於て総理・逓信・外務之各大臣訪問之顛末を申演候、結局老生よりも米国へ向け私信之電報相発候事ニ打合せ、即今日中ニ発信取斗可申と存候、右等格別之効果ハ有之間敷とハ存候得共、一同之企望ニ対する親切と存候取扱ニ御坐候、先頃之来書も有之候義ニ付為念申上置候
○中略
  八月廿五日             渋沢栄一
    杉田賢台
       侍史

 - 第52巻 p.592 -ページ画像 

渋沢栄一書翰 杉田富宛(大正六年)八月二七日(DK520085k-0003)
第52巻 p.592 ページ画像

渋沢栄一書翰  杉田富宛(大正六年)八月二七日   (杉田富氏所蔵)
○上略
過般御申越有之候米国鉄材禁輸出ニ関する問題ニ付而ハ、在東京造船業者より懇切なる申出有之候間、政府各大臣へも会見之末、老生よりも米国製鉄会社長ゲリー氏へ電報相発し候事ニいたし、一昨日別紙之通り申遣候、効果如何ハ素より難期候得共、外務大臣抔ハ頗る同意ニ付、詰り造船業者ニ対する応援としても無用之事ニハ相成申間敷と存候
右一書可得貴意如此御坐候 匆々不備
  八月廿七日
                       渋沢栄一
    杉田賢契
       坐下
○下略
  ○別紙ヲ欠ク。


中外商業新報 第一一二三二号大正六年七月一三日 ○時局施設 米国の禁止令 飛機商船拡張(DK520085k-0004)
第52巻 p.592 ページ画像

中外商業新報  第一一二三二号大正六年七月一三日
    ○時局施設
      米国の禁止令
      飛機商船拡張
在紐育田大蔵書記官より、十一日勝田大蔵大臣宛左の如く来電ありたり
△輸出禁止令 米国大統領は最近制定の渉外事項取締法に依り与へられたる権限に基き、七月九日戦時必要品輸出禁止令を裁可せり、石炭コーク・燃料油・灯火用石油・ガソリン(以上船用を含む)・食用穀物・穀粉及其製品・飼料・獣肉及脂肪・ピツグ・アイアン・スチールピレツト・造船用鉄材・屑鉄・屑鋼・フヱルマンガネス・肥料・兵器弾丸類・爆発薬は米国政府の特許を得たるものの外、七月十五日以後日本・英・仏・独・支那等五十六箇国即一切の外国への輸出を禁じ、違犯者には一万弗以内の罰金、二年以内の禁錮を科し、該貨物は没収す、又之を積込たる疑ある船舶には出航を禁止す、特許の効力は六十日限とす、右の内石炭類・造船用鉄材の輸出禁止は米国政府が日本商船の監督権を掌握するの目的に出づるものなる由にて、米国政府指定航路に従事せざる船舶には多分船用炭を供給せざるに至るならん
○下略


中外商業新報 第一一二七八号大正六年八月二八日 ○渋沢男の電報 ゲーリー氏に依頼(DK520085k-0005)
第52巻 p.592-593 ページ画像

中外商業新報  第一一二七八号大正六年八月二八日
    ○渋沢男の電報
      ゲーリー氏に依頼
 米国の鉄輸出禁止問題に付、渋沢男が解禁期成同盟会の請ひに依り二十五日米国ゲーリー博士に宛て発したる電文左の如し
我が経済上の前途につき深く憂慮するの一念、予をして玆に米国に於ける鉄材禁出の為め我が造船業者が窮境に陥れることに関して、貴下
 - 第52巻 p.593 -ページ画像 
の注意を乞はしめんとす、我が造船業者は勿論其の他苟も思慮ある日本人は、今回の貴国政府の措置を以て不公平若くは差別的のものとして之を批議せんとするの意向は毫も之ある事なし、米国政府の目的が単に戦争の大必要に応ぜんとするにあることは、予等の充分に認識する処なり、たゞ米国政府の此措置が、偶然の結果として、従来輸入鉄材に依頼する我造船業者に至大の苦痛を与ふるものなるは、予等の遺憾とする処なり、我が造船業者の特に苦痛に感ずる点は、既に売買契約済の鉄材をも其引渡を受くること能はざるにあり、既に売買済の鉄材は、去る六月の調査に依れば其の額凡そ四十万噸に達せり、而して此材料は約十八ケ月間に受渡を為すものとす、我造船業者は此売買契約を基礎として造船の注文を受け居るが故に、此の材料を受くるに非ざれは、其の注文を履行すること絶対に不可能なるは勿論、我造船業は玆に一大頓挫に遭遇せんとす、故に差当り其の救済方法として、我が造船業者は此等契約済の鉄材に対して禁輸を解かれんことを米国政府に希望するもの也、予は此等の鉄材に依りて造らるゝ船舶の大多数は、或は与国の所有に帰し、或は然らざるも我聯合国の用途に向けらるゝものなることを認識するが故に、予は熱心に前記我が造船業者の希望に賛成を表するものなり、以上記述したる事情なるを以て、予は敢て貴下が其偉大なる勢力を以て、此難問題の解決に尽力されんことを望む、尚此電報は貴下が至当と認めらるゝ方法に御使用相成り差支なし
  ○エルバート・エッチ・ゲーリーニ就イテハ本資料第三十九巻所収「其他ノ外国人接待」大正五年九月五日、同六日ノ条参照。


竜門雑誌 第三五二号・第八四頁大正六年九月 ○米国鉄材禁輸令と青淵先生(DK520085k-0006)
第52巻 p.593 ページ画像

竜門雑誌  第三五二号・第八四頁大正六年九月
○米国鉄材禁輸令と青淵先生 過般米国政府の鉄材輸出禁止令発布せらるるや、我工業界は結束以て其解禁運動に努め、八月十九日米鉄輸出解禁期成同盟会委員は青淵先生を訪問して該問題に関し、彼我政府其他有力なる方面に対して声援を与へられんことを懇請する処あり、先生亦米国鉄材の杜絶は、我工業界の発達を阻害し、惹て多数職工労働者の失職を伴ふ重大問題なりとて、即座に快諾を与へられ、同廿五日、曩に来朝せる米国鋼鉄王ゲーリー氏に宛て左の如き電報を発せられ、其解禁尽力を懇請せられたり。
  ○ゲーリー宛電文前掲ニ付キ略ス。
右に関し九月五日ゲーリー氏より青淵先生に宛て、左の如き返電ありたり。
 貴電正に拝受仕候、我合衆国政府に於て軍事上鋼鉄を必要とする為め、今日の如き成行と相成候は余の最も遺憾とする所に御座候、乍併本件に関して余は之を能く諒解する者に有之候に付、実行を期し得る限り全力を尽す積に有之候
               ヱルバード・エイチ・ゲーリー
  日本東京
    渋沢男爵

 - 第52巻 p.594 -ページ画像 

官報 第一五七七号大正六年一一月三日 ○在外公館報告(DK520085k-0007)
第52巻 p.594 ページ画像

官報  第一五七七号大正六年一一月三日
    ○在外公館報告
○米国ノ本邦向鉄材輸出特許ニ就テ 本件ニ関シ同国駐箚佐藤特命全権大使ヨリノ一昨一日著電報左ノ如シ(外務省)
 戦時通商取締局ニ於テハ、輸出特許有効期限満了シタル日本向鉄材中、既ニ船積港ニ到達シ、若クハ其途中ニ在ルモノニシテ、本年八月十五日前ニ製造所ヨリ積出サレタルモノニ関シテハ、以前ノ当事者カ旧特許番号其他ノ要目ヲ明記シテ電報又ハ書面ヲ以テ同局ニ申請スルトキハ、旧特許ヲ更新スル方針ニ最近決定シタル趣ナリ