デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

2部 実業・経済

3章 商工業
8節 鉄鋼
2款 東洋製鉄株式会社
■綱文

第53巻 p.22-24(DK530004k) ページ画像

大正5年9月7日(1916年)

是ヨリ先、栄一、製鉄事業ノ国策上緊要ナルヲ痛感シ、中野武営・和田豊治・中島久万吉・郷誠之助等ト議リ、中国桃冲鉄山ノ鉱石ヲ主タル原料トシテ、鋼材年産十五万噸製出ノ民営製鉄所設立ヲ企画ス。栄一、創立準備委員長ニ推サル。是日栄一、準備委員ヲ代表シ、帝国ホテルニ於テ、都下新聞・通信社代表者ニ対シ、創立経過ヲ報告シタル上、国家的見地ヨリ該事業ノ緊要ナル所以ニツキ演説ス。


■資料

集会日時通知表 大正五年(DK530004k-0001)
第53巻 p.22 ページ画像

集会日時通知表 大正五年        (渋沢子爵家所蔵)
七月 十日 月 午前十一時 製鉄事業ノ件 (帝国ホテル)
   ○中略。
七月三十一日 月 午前 九時 農商務省ヘ御出向(農商務省大臣・同次官ト御会見ノ約倉知・中野両氏同伴)
   ○中略。
八月 八日 火 午前十一時 製鉄会社ノ件(帝国ホテル)
   ○中略。
九月 四日 月 午後五時 製鉄会社実行委員協議会(ホテル)
   ○中略。
九月 七日 木 午前 九時 東洋製鉄会社ノ件(ホテル)


竜門雑誌 第三四〇号・第一一一頁大正五年九月 ○東洋製鉄会社の創立(DK530004k-0002)
第53巻 p.22 ページ画像

竜門雑誌 第三四〇号・第一一一頁大正五年九月
○東洋製鉄会社の創立 東洋製鉄会社創立協議会は八月八日午前十一時より帝国ホテル内に開会、青淵先生・郷・中島各男、中野創立委員長、大橋・藤山・倉知・尾崎・和田諸氏出席協議の結果、全国各方面に亘る発企人数を三百名とし、中三十名の代表者を選定し、来る九月十五日を以て第一回発起人会を開くことに決定したり、又た各発起人の持株は千株と限定して、五十万株の中二十万株は之れを公募することゝなるべしとなり


中外商業新報 第一〇九二二号大正五年九月六日 東洋製鉄計画発表 目論見書と収支(DK530004k-0003)
第53巻 p.22-24 ページ画像

中外商業新報 第一〇九二二号大正五年九月六日
    ○東洋製鉄計画発表
      目論見書と収支
渋沢男を創立準備委員長とし、予て創立準備中の東洋製鉄会社は、発起人たる可き人々の撰定も大体之を終り、来十五日発企人会を開きて創立委員を挙ぐる迄に準備捗りたるが、発企実行委員は五日之が起業目論見・収支計算書・設計予算書等を発表したり、同起業目論見書は
 - 第53巻 p.23 -ページ画像 
   起業目論見書
一、当会社は資本金二千五百万円を以て銑鉄年産額十七万噸の設備を為し、更に屑鉄及鉄鉱を加へ鋼塊二十万噸を造り、之れより鋼材十五万噸を製出するの計画なり
二、当会社は支那安徽省繁昌県桃冲鉄山の鉱石を基礎として、朝鮮産其他の鉄鉱を混用し、先づ銑鉄を製し之を製煉して鋼鉄と為し、其鋼鉄を以て目下我邦に於て需要多くして、且製造比較的容易なる普通商品、大さ約五吋以内の各種鋼材及厚さ二分の一吋以下の鋼板を製造するの見込なり
三、当会社は八幡製鉄所に於て使用する二瀬炭に類似の他の筑豊炭を基礎とし、之れに開平炭或は本渓湖炭の如きを配合し骸炭用に供するものとす
四、当会社は各工場設備に於て凡て安全を旨とし、敢て新奇を試みず主として八幡製鉄所に於る多年の経験と実績とを基礎とし、之れに多少の取捨を加へたり
五、工事完成に三箇年を要する者とす
六、起業費実額を金一千八百六十八万円とす、但其内海外よりの輸入を要すべき機械類及其材料価格金一千二百七十六万円に対する輸入税額金二百三十万円(約一割八分)の免除を得ざるときは、起業予算総額二千九十八万円となる
七、右起業費実額金一千八百六十八万円に対し、工事第一年度に其四分の一、同第二年度に其二分の一、同第三年度に其四分の一を支出するものとす
八、株金払込の時期及其金額は左の通りとす
  創立当初 四分の一  金六百廿五万円
  創立第二年度上半期の初
         同  金六百二十五万円
  創立第二年度下半期の初
         同  金六百二十五万円
  創立第三年度下半期の初
         同  金六百二十五万円
 但資本金半額の払込を了したる後、金融市場の情況に依り社債又は借入金を以て起業費並に運転資金に充当し、残半額の株金払込を将来に延期するの計画を立つることあるべし
等にして、収支計算の主要なるもの如左
 一、創立第一年度より三年度に至る迄即ち工事三年間は、払込資金に対し五分の配当を為す
 一、開業一年度の製産額は予定の半額とし、資本金に対し年七分の配当を予算す
 一、開業二年度の製産額は予定額の四分の三とし、資本金に対し年八分の配当を為す
 一、開業三年以降は製品十五万噸全部を製出することゝし、其純益金三百四十五万八千七百円を計上し、資本金に対し年一割の配当を予算す
 - 第53巻 p.24 -ページ画像 
尚同社の株式は五十万株にして、一株の金額を五十円とし、会社成立の上は取締役十名以内、監査役五名以内を置く由


東京日日新聞 第一四三一九号大正五年九月八日 東洋製鉄創立趣旨 渋沢男の演説(DK530004k-0004)
第53巻 p.24 ページ画像

東京日日新聞 第一四三一九号大正五年九月八日
    東洋製鉄創立趣旨
      渋沢男の演説
東洋製鉄会社の創立準備は既記の如く着々進行したるを以て、関係者は今日に至る迄の経過を公表すべく、七日正午帝国ホテルに都下新聞通信記者を招待し、渋沢男委員を代表し創立経過を報告したる上、大要左の如き演説を為したり
 由来国家が製鉄事業を必要とするは今更の事にあらず、予は元来製鉄事業に対し何等の知識を有せざりしも、明治維新の当時使臣に随従して海外に赴きたる際、白耳義に於て同国王に謁見したるに、国王は同国の製鉄事業の殷盛なるを説き、国家を富ましめ同時に国家を絶大ならしむるも製鉄事業なりと教へられたり、其後米国に遊び同国製鉄事業の盛大なるを視るに及び、我製鉄事業の貧弱なるに想到して、羨望に堪へざりき、是等の事情より予は我国に於ても製鉄事業を起すの急務たるを認めたる折柄、中日実業会社が支那桃冲鉄山の採掘権を得、而も(一)礦石量(二)礦石の含鉄量多く(三)礦石輸送亦便利なるを認め、玆に万難を排して会社を創立するの準備に着手したる次第なり、抑も製鉄事業は其実質に於ては固より営利事業なるも、一面国家の存立に欠くべからざる事業にして、現に我国の如き痛切に之が必要を感じつゝあり、従つて予等は本会社の創立を二・三大富豪に託する事は其本旨にあらざるを認め、富豪諸氏の後援は求むるも、傍其独占を意味するが如き援助は之を謝絶するの方針を取れり、此点より社会一部に聊か誤解ありたる様なるが趣旨は上述の如く全く私心なきことを断言す云々