デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

2部 実業・経済

3章 商工業
14節 取引所
4款 株式取引所限月短縮問題
■綱文

第53巻 p.468-492(DK530087k) ページ画像

大正14年2月16日(1925年)

是ヨリ先、取引所法ノ改正ニヨリ、有価証券長期取引ノ限月短縮セラレタルニ対シ、全国株式取引所及ビ取引員組合ハ、挙ツテ之ガ実施ノ延期ヲ要望シ、政府当局及ビ其他関係各方面ニ訴フルトコロアリ。是日栄一、東京株式取引所理事長岡崎国臣ノ来訪ニ接シ、右問題ニ関シ援助ヲ懇請セラル。仍ツテ三月上旬、栄一、農商務大臣高橋是清ニ対シ、財界全般ノ観点ヨリ右実施期ノ延長ヲ妥当トスル旨ノ意見書ヲ提出ス。

右取引所法改正ハ四月一日実施ヲ見、全国株式取引所及ビ取引員組合ハ更ニ限月復旧運動ヲ起シ、各方面ニ陳情ス。


■資料

東京株式取引所五十年史 同所編 第五二―五三頁 昭和三年一〇月刊(DK530087k-0001)
第53巻 p.468 ページ画像

東京株式取引所五十年史 同所編 第五二―五三頁 昭和三年一〇月刊
 ○第二章 本所の沿革
    第五節 自大正五年至昭和二年
○上略
 有価証券長期取引の期限を二箇月に短縮することに就きては、往時幾多の問題を蔵したり。而して大正十一年四月改正せられたる取引所法中、亦限月短縮の事項を含み、大正十四年四月一日より之を実施することとなりしが、当時我国経済界の事情は企業振はず、円貨は暴落し、貿易亦逆調を累ねて沈淪漸く甚しきを加へ、大震火災の創痍益々深刻なるものありしを以て、此時に方り、多年の慣行を変革するは機宜に適したるものに非ずとして、全国株式取引所及び同取引員組合は挙つて右限月短縮施行延期の請願を提出し、極力了解を求めたれども政府の容るる所とならず、同年三月、延期法案を帝国議会に提出したるも、亦否決されたるを以て、已むなく次善の方策を講じ、二箇月三期建を採用して限月短縮の実施を見るに至れり○下略


限月短縮実施延期に就て 全国取引所同盟聯合会 全国株式取引員組合聯合会編 第一―八頁 大正一三年一一月刊(DK530087k-0002)
第53巻 p.468-471 ページ画像

限月短縮実施延期に就て 全国取引所同盟聯合会 全国株式取引員組合聯合会編
                    第一―八頁 大正一三年一一月刊
    限月短縮実施延期に就て
 有価証券長期取引三ケ月制は大正十一年取引所法改正の結果二ケ月に短縮せられ、明年四月一日より実施せられんとす、吾人は之か実施の延期を切望するものにして、聊か其理由を陳述せん
一、限月短縮の目的は証券取引に対する投機を抑圧し、之を漸次実物本位の取引に誘致せむとするに在るものの如し、此の事たるや、大正十一年取引所法改正当時に於ける政府当局の説明及限月問題
 - 第53巻 p.469 -ページ画像 
に対する世上従来の論議に徴して明瞭なる処なり、然れども取引期間の永きは、果して投機心を助長するものと断することを得へきや、之れ甚た疑問とすへし、凡そ取引所に於ける取引は、大量物件の消化と需給の円滑とを図るを目的とするものなるを以て、売買者に於て受渡を為さむと欲せは、受渡を為し、差金取引を為さむと欲せは差金取引を為すの自由選択権なかる可らす、此の点は取引所に於ける売買取引の真髄的性質を為せるものたること、東西を通して然らさるはなし、而して我国に於ては、之れに合致する為め三ケ月限月の制度発達し、欧洲大陸に於ては、二週間乃至二ゲ月の定期取引発達し、又米国に於ては翌日制の短期取引の発達を見たり、而して既に此の目的に合致することを要するか故に、米国に於ける短期取引も、英国に於ける二週間取引も、孰れも繰延の方法に依りて自由自在に乗替を行ひ、無限に期日を延期して差金取引を行ひ得るの途完備せさるはなし、故に若し我国の三ケ月限月制を以て投機的なりと云はゝ、所謂万年取引の実体を具有せる英米の短期取引は更に一層投機的なりと謂はさる可らす果して然らは、期間短縮に因りて投機抑圧を試みむとするは、世界に於ける取引所の実情に背馳する見解と云ふへく、若し又取引作用より差金売買の自由を奪ふを以て売買取引の健全化と称するか如きに至りては、取引所に於ける売買取引の本質を誤解せるに基つく論議と云はさる可らす
  凡そ国家には夫々の国情あり、経済現象は其の国情を背景として発達す、我国の三ケ月限月制度の如きも、実に株式市場と金融市場との関係に其の基礎を置くものなり、惟ふに我金融市場の実情は通貨流通の程度に於て、信用発達の程度に於て、将たコール市場・株式貸借市場の現状に於て、到底英米金融市場と比肩す可らさることは議論の余地なき処なり、此の如き実情の下にある金融市場を背景とすれはこそ、我国独特の三ケ月制度の発達を見たる次第なり、而して何人と雖も、我金融制度か近時非常なる発達を遂けたることを立証して、限月短縮の論拠と為すの勇なかる可く否却つて最近開始せる短期取引に於て売買銘柄の二・三に止まるか如きに見るも、如何に我金融市場の英米金融市場と軒輊あるかを思はしむると同時に、長期取引の現制維持の如何に必要なるかを痛感せしめすむはあらす
  凡そ経済制度は変動を忌む、何となれは多年慣行の商習慣は歳月の運行と共に各方面に馴致し、還元し、適合するものなれはなり現に我三ケ月限月制度の如きも、事業界・金融界と密接なる融合を遂け、大量取引の消化、銀行其他の保険繋、鞘取々引に因る相場の調節、期前受渡に因る証券の資金化等に於て極めて健実なる作用を実現しつゝあるに非すや、故に今若し公益上已むへからさるの理由に因り限月短縮を断行せらるるに於ては致方なしとするも、然らさる限りは吾等当業者として理を尽し情を陳へて、更に政府当局及立法府の考慮を促さむとするは、蓋し已むを得さるに出てたる所なり
 - 第53巻 p.470 -ページ画像 
二、政府か取引所法改正に於て、短期取引を創始したる趣旨を案するに、或は限月短縮の思想と呼応し、或は売買取引の実物化を計り或は長期取引の帰趨を示さむとする等の意図に出てたるものなるへし、然れとも又一面実際的の問題としては、限月短縮猶予期間内に此の新規なる短期取引の発達を促進し、以て限月短縮の経済界に及ほす打撃を緩和せむとする目的を有したることは、当時の速記録を通覧して何人にも感得せらるる所なり、然るに短期取引開始以来の成績を見るに、未た必しも良好ならす、之に対する当路の方針の如きも再三の更改を見、彼の二重上場の問題の如き、総決済日問題の如き、政府の方針か果して欧米先進国の繰延取引に倣はむとするに在るや、或は売買取引より投機分子を除斥したる我国独創の取引方法を発見せむとするに在るや、当業者に於ても看取に苦しむ実情に在り、云はゝ今や朝野共に此の問題の研究に没頭せる現状と謂ふへし
  金融市場との関係に於て短期取引か果して幾何の程度迄に発達す可きものなりや、又短期取引を以て長期取引に代ふるの時期は近き将来に到来すへきや等の問題に付ては、暫く之を歳月の経過と経済界の実際とに見さる可らす、唯少くとも過去の実蹟に徴し、短期取引の発達頗る遅々として、取引所法改正当時に於て政府及一般世上の期待したる所に副はさるものあるの事実は、之を拒むに由なきを以て、短期取引の創始に因りて限月短縮の影響を緩和せむとしたる政府の見解は、不幸にして適中せさりしものと謂はさるへからす、之れ吾人の限月短縮実施延期を主張する第二の理由なり
三、取引所法改正に当り、一般の改正条項に付ては六ケ月の後に実施せられたるに拘らす、限月短縮に関しては特に三年間の猶予期間を設けられたり、之れ何故なりやと云ふに、当該制度は深き根柢を有し、一朝一夕にして之か変革を企つるに於ては、経済界に著しき打撃を与ふへきを以て、予め一般経済界及当業者の準備と覚悟とを期待せんとするにありたるや必せり、誠に用意周到に出てたるものと謂すへし、然るに昨年来愈々之か実施期に近つかむとするや、大震災の突発に遭ひ、我国経済界の非常なる動乱に際会したる次第なり、爾来国力は著しく疲弊し、財界は不況不振を重ね、前途甚た不安なるものあり、然らは此の際に当りて経済中心機関たる株式市場に対して、些少の微動を与ふるも慎むへく、況んや多年の慣行を打破せむとするか如き重大なる変革を行ふは決して時機を得たるものと称す可らす、此の事たるや立法当時に於て三年の猶予期間を設けたる法意そのものに鑑みるも明瞭なる所なり、若夫れ之か実施を延期するか為国家の上に多大の弊害を招致するものならは、之を忍ふへきも、其の理論と実際とに於て既に幾多の疑義を包蔵せること前叙の次第なるを以て、今回幾多の不安を侵して迄も之を断行するの必要なかるへし、之れ吾人の実施期の延期を切望する第三の理由なり
以上縷述せる所に依りて明瞭なるが如く、吾人は限月短縮に反対を表
 - 第53巻 p.471 -ページ画像 
明するものなり、然れとも一旦法律として発布せられたる関係もあり旁々少くとも実施期を向ふ三年間延期せられむことを希望して止まさるものなり、而して其の期間内に於て徐々に財界の情勢と短期取引発達の趨向とに考へ、更に熟慮考竅善処の途を講せむとす


要用書類往復(二) 【謄写版) (第一) 商業会議所聯合会に於て限月短縮実施延期に関し…】(DK530087k-0003)
第53巻 p.471-472 ページ画像

要用書類往復(二)            (渋沢子爵家所蔵)
(謄写版)
(第一) 商業会議所聯合会に於て限月短縮実施延期に関し、大正十三年十一月十五日左記の通り農商務大臣宛建議を為したり
    限月問題に関する建議
  大正十一年改正の取引所法に於ける限月短縮の規定は、之が実施に先ち諸般の準備を必要とするを以て特に三ケ年の猶予期間を設けられたり、然るに其の後の実状を見るに、未だ之に順応すべき各種の準備甚だ足らざるものあるが上に、取引の組織及方法に関しても尚研究を要するものあり、加ふるに大震火災の後を受け経済界未だ安定せざるの際、斯かる取引慣習の革新を断行するは其の時期を得たるものにあらずと思惟す、政府当局冀くは深く此の点を考慮せられ、適当の時期に達するまで之が実施を延期せられんことを要望す
(第二) 第二十七回常任委員会の決議に係る「株式取引所限月短縮問題に関する建議」に対し農商務省商務局長より具体的説明回示方照会の件(大正十三年十二月十一日決議)
    照会文
  商第八三七五号
    大正十三年十二月一日
             農商務省商務局長 松村真一郎
    商業会議所聯合会会長宛
  十一月十四日附を以て限月問題に関し建議有之候処、右は重要なる義と被思料候条、建議中左記各項に付的確詳細なる具体的説明回示相成度、此段及照会候也
      記
  一、未だ限月短縮実施に順応すべき各種の準備甚だ足らざるものありとは、如何なる事実を指摘せらるるや
  一、取引所の組織及方法に関し研究を要するものありとは、如何なる点を指摘せらるるや
  一、貴見に所謂適当なる時期とは、如何なる時期の意味なるや
  本件は大阪・京都・名古屋・神戸等より夫々意見の提出あり、審議攻究の結果委員を挙げて此等意見を綜合し、且つ当業者を招致し其の意見を徴し、慎重攻究の上立案答申することとし、右委員の指名は議長に一任せり、仍て議長は左記の通り委員を指名し、明十二日午後一時東京商業会議所に於て委員会を開くこととせり
    委員 大阪・京都・横浜・東京
(第三) 第二十七回常任委員会の決議に係る「株式取引所限月短縮問題に関する建議」に対し農商務省商務局長より具体的説明回示方
 - 第53巻 p.472 -ページ画像 
照会の件(大正十三年十二月十二日決議)
  本件は曩に提出したる「株式取引所限月短縮問題に関する建議」に対し農商務省商務局長より具体的説明回示方照会せる三項目に就き、各委員より其の具体的実際問題に関する詳細なる意見の発表あり、慎重攻究の結果左記の通り答申案を作成決定し、之を藤山会長に提出したる後農商務省に回答することに決せり
    答申書
  商聯発第一二五号
   大正十三年十二月 日
            商業会議所聯合会長 藤山雷太
    農商務省商務局長 松村真一郎殿
  拝復 予ねて提出致置候限月問題に関する建議中の事項につき、本月一日附商第八三七五号を以て御照会の趣拝承、御指摘の各項に対する説明は即ち左の通りに有之候間、御了承の上可然御配慮相煩度候 敬具
      記
  (一)限月の短縮は其れだけ取引の範囲を減縮し、有価証券の流通を妨ぐる結果となるは明かなり、此の欠陥は短期取引を以て補充することを得べしとの議論あらんも、我国の短期取引は各市場の実際に徴するに尚甚しく不完全にして、一般証券の大量取引を行ふが如きは不可能の状態にあり、従て短期取引か円満に行はるるの準備完成する迄は現制度の変更を不可なりと思惟す
  (二)短期取引が今回円満に行はれざるは、畢竟決済の場合に於ける責任負担の方法並に決済に関する代行機関の施設不備なる等に原因するものと認む、此の問題に関しては今後尚幾多の研究を遂げざるべからず、加之長短両取引は将来併行すべきものなりや、或は其の何れか一方に帰着すべきものなりや等の重要問題に付きても研究を要する点少からず、是等の大問題に付きて大体の結論を得るに先ち現在の制度を変更するは経済上甚大の悪影響を及すものと信す
  (三)前記の研究並に準備の完成する迄には更に相当の年月を要す況んや取引所法改正以来の準備期間は昨年の震災の為め大なる妨害を受けたるに於てをや、故に震災に因て打破せられたる経済状態が復旧する迄は、現制度の変更に因り更に一層の動揺を経済界に及さざるを肝要とす、経済状態が何時復旧すべきやは予測し難しと雖も、少くとも三ケ年間本法の施行を延期するを必要なりと認む


銀行通信録 第七九番第四六八号・第八五頁 大正一四年一月 ○経済日誌(自大正十三年十二月一日 至同年同月三十一日)(DK530087k-0004)
第53巻 p.472-473 ページ画像

銀行通信録 第七九番第四六八号・第八五頁 大正一四年一月
    ○経済日誌(自大正十三年十二月一日 至同年同月三十一日)
十二月十六日 (火)○上略○全国商業会議所聯合会限月問題につき其施行を尚両三年間延期方農商務省に答申○下略
   ○中略。
 - 第53巻 p.473 -ページ画像 
十二月二十九日 (月) ○上略○取引所令中改正の件公布○下略


銀行通信録 第七九巻第四六九号・第八五頁 大正一四年二月 ○経済日誌 (自大正十四月一月一日至同年一月三十一日)(DK530087k-0005)
第53巻 p.473 ページ画像

銀行通信録 第七九巻第四六九号・第八五頁 大正一四年二月
    ○経済日誌 (自大正十四月一月一日至同年一月三十一日)
一月二十三日 (金) ○上略○限月短縮実施延期運動に関する全国株式取引所聯合会○下略


要用書類往復(二) 【(印刷物) (表紙) 決議書】(DK530087k-0006)
第53巻 p.473-474 ページ画像

要用書類往復(二)          (渋沢子爵家所蔵)
(印刷物)
(表紙)

   決議書

    決議
大震火災ノ瘡痍未タ癒ヘス、財界安定セサルノミナラス、殊ニ改正法ニ依ル新規ノ売買方法モ我経済界ニ適応スルヤ否ヤ不明ナルノ今日、多年馴致シ来リタル有価証券ノ三箇月限月制度ヲ変革セントスルハ、真ニ其ノ時機ヲ得タルモノニ非ス、吾人ハ切ニ其ノ実施ノ延期ヲ要望シ、其ノ目的ノ達成ヲ期ス
  大正十四年一月二十三日
            全国株式取引所及取引員組合聯合大会
    理由
有価証券長期取引三箇月制ハ、大正十一年取引所法改正ノ結果二箇月ニ短縮セラレ、将サニ本年四月一日ヨリ実施セラレントス、抑取引界ノ慣行ハ、其ノ国情ニ基キ、経済界ノ実際ト融合シテ発達シ来リタルコト固ヨリ言ヲ俟タス、有価証券ノ三箇月限月制度モ亦多年ノ慣行ニ因リ、事業界及金融界ト密接ナル融合ヲ遂ケ、大量取引ノ消化、銀行其他ノ保険繋鞘取取引ニ因ル相場ノ調節、期前受渡ニ因ル証券ノ資本化等ニ於テ極メテ健実ナル作用ヲ実現シ、以テ我国独特ノ発達ヲ遂ケタリ、而シテ此ノ如キ根柢アル取引界ノ慣行ヲ変革スルニ当リテハ、之カ相当ノ準備期間ヲ要スルコト亦言ヲ俟タス、改正法ハ実ニ之ニ対シテ三箇年ノ猶予期間ヲ認メタリト雖モ、其ノ準備期間ノ一歳ヲ経過スルヤ否ヤ、未曾有ノ大震火災突発シ、我経済界ハ非常ナル動乱ヲ惹起シ、尋テ我有価証券市場モ亦著シキ波動ヲ受ケタリ、従テ大震後ハ創痍ヲ受ケタル市場ノ回復ニ之レ日モ足ラス、推移スヘキ新制度ノ樹立ニ専念スヘキ期間極メテ尠ナカリシハ蓋シ当然ノ帰結ナリ、加之大震火災ノ為メニ惹起シタル我経済界ノ動乱モ稍鎮定シ、世界的経済上ノ復興ト共ニ我カ経済的復興ノ曙光ヲ見ントスル今日、限月ノ短縮ヲ実施セラレントスルハ、我経済界ノ為メ真ニ其ノ機ヲ得タルモノニ非サルナリ、況ンヤ改正法ニ依リ創始セラレタル短期取引ノ制度モ亦タ果シテ我経済界ニ適応スルヤ否ヤ不明ニシテ、全ク試験時代ナルニ於テオヤ、若シ夫レ、之カ実施ヲ延期シ為メニ国家ニ多大ノ弊害ヲ招致スト謂ハヽ、将タ何ヲカ云ハン、我財界ノ現情ニ鑑ミ、三箇年ノ実施延期ヲ為シ、以テ熟慮考竅之ニ善処スルノ途ヲ講セシムルコト、国家
 - 第53巻 p.474 -ページ画像 
ノ為メ最モ穏当ニシテ且ツ適切ナル処置ナリト云ハサルヘカラス、之レ吾人カ限月短縮実施ノ延期ヲ要望スル所以ナリ


要用書類往復(二) 【(印刷物) 決議】(DK530087k-0007)
第53巻 p.474-477 ページ画像

要用書類往復(二)           (渋沢子爵家所蔵)
(印刷物)
    決議
大震火災ノ瘡痍未タ癒ヘス、財界安定セサルノミナラス、殊ニ改正法ニ依ル新規ノ売買方法モ我経済界ニ適応スルヤ否ヤ不明ナルノ今日、多年馴致シ来リタル有価証券ノ三箇月限月制度ヲ変革セントスルハ、真ニ其ノ時機ヲ得タルモノニ非ス、吾人ハ切ニ其ノ実施ノ延期ヲ要望シ、其ノ目的ノ達成ヲ期ス
  大正十四年一月二十三日
            全国株式取引所及取引員組合聯合大会
右全国株式取引所及取引員組合聯合大会ノ決議ハ、財界ノ現状ニ鑑ミ至極尤ノ義ニ付同意ヲ表シ申候
  大正十四年二月
                  日本郵船株式会社
                  鐘淵紡績株式会社
                  大日本紡績株式会社
                  東京電灯株式会社
                  帝国電灯株式会社
                  宇治川電気株式会社
                  東邦電力株式会社
                  大同電力株式会社
                  東京瓦斯株式会社
                  大日本麦酒株式会社
                  大日本製糖株式会社
                  塩水港製糖株式会社
                  東洋製糖株式会社
                  明治製糖株式会社
                  新高製糖株式会社
                  南満洲製糖株式会社
                  東洋モスリン株式会社
                  東京モスリン紡織株式会社
                  王子製紙株式会社
                  富士製紙株式会社
                  久原鉱業株式会社
                  大日本人造肥料株式会社
                  日本製麻株式社会
                  内国通運株式会社
                  電気化学工業株式会社
                  日本製粉株式会社
                  日本鋼管株式会社
 - 第53巻 p.475 -ページ画像 
                  秋田木材株式会社
                  神戸海上運送火災保険株式会社
                  日本綿花株式会社
                  日華紡織株式会社
                  福島紡績株式会社
                  片倉製糸紡績株式会社
                  東京毛織株式会社
                  京浜電気鉄道株式会社
                  阪神電気鉄道株式会社
                  京阪電気鉄道株式会社
                  富士水電株式会社
                  九州水力電気株式会社
                  揖斐川電気株式会社
                  矢作水力株式会社
                  東洋汽船株式会社
                  株式会社大阪鉄工所
                  帝国火薬工業株式会社
                  樺太工業株式会社
                  日本セメント株式会社
                  日東製氷株式会社
                  日魯漁業株式会社
                  株式会社東京米穀商品取引所
                  株式会社大阪堂島米穀取引所
                  株式会社大阪三品取引所
                  株式会社名古屋米穀取引所
                  東洋製鉄株式会社
                  浅野セメント株式会社
                  富士瓦斯紡績株式会社
                  浦賀船渠株式会社
                  大日本炭礦株式会社
                  日本化学工業株式会社
                  日本麦酒鉱泉株式会社
                  大正製糖株式会社
                  ラサ島憐礦株式会社
                  星製薬株式会社
                  日本活動写真株式会社
                  松竹キネマ株式社会
                  帝国キネマ演芸株式会社
                  森永製菓株式会社
                  東京乗合自動車株式会社
                  大阪窯業株式会社
                  大日本木管株式会社
                  株式会社大阪機械工作所
                  大阪電気分銅株式会社
 - 第53巻 p.476 -ページ画像 
                  大日本商事株式会社
                  早川電力株式会社
                  北海道電灯株式会社
                  北海道瓦斯株式会社
                  白山水力株式会社
                  只見川水力電気株式会社
                  静岡電力株式会社
                  東信電気株式会社
                  中国水力電気株式会社
                  京都瓦斯株式会社
                  京都電灯株式会社
                  内外綿株式会社
                  東華紡績株式会社
                  和歌山紡織株式会社
                  倉敷紡績株式会社
                  京都織物株式会社
                  天満織物株式会社
                  泉州織物株式会社
                  福助足袋株式会社
                  帝国撚糸織物株式会社
                  東京製鋼株式会社
                  玉川電気鉄道株式会社
                  阪神急行電鉄株式会社
                  大阪電気軌道株式会社
                  南海鉄道株式会社
                  芸備鉄道株式会社
                  愛知電気鉄道株式会社
                  尾張電気軌道株式会社
                  尾西鉄道株式会社
                  大正汽船株式会社
                  関西信託株式会社
                  中央証券株式会社
                  富士身延鉄道株式会社
                  京城電気株式会社
                  東海倉庫株式会社
                  名港土地株式会社
                  安治川土地株式会社
                  泉尾土地株式会社
                  名古屋土地株式会社
                  千日土地建物株式会社
                  大阪千日前土地建物株式会社
                  石切土地建物株式会社
                  阪神土地株式会社
                  京阪土地株式会社
 - 第53巻 p.477 -ページ画像 
                  大阪湾土地株式会社
                  市岡土地株式会社
                  大阪港土地株式会社
                  北大阪土地株式会社
                  芦屋土地株式会社
                  信越水電株式会社
                  城東土地株式会社
                  大阪土地建物株式会社
                  甲陽土地株式会社
                  城南土地株式会社
                  関西土地株式会社
                  日清紡績株式会社
                  箱根土地株式会社
                  東洋捕鯨株式会社
                  広島瓦斯電軌株式会社
                  東洋木材防腐株式会社
                  近江鉄道株式会社
                  明治製革株式会社
                  麒麟麦酒株式会社
                  東部電力株式会社
                  小野田セメント製造株式会社
                  土佐セメント株式会社
                  浪速紡織株式会社
                  木津川土地運河株式会社
                  三重セメント株式会社
以上諸会社ノ資本金総額参拾億壱千弐百弐拾七万四千百円ニシテ、此ノ総株数六千参拾壱万四百八拾弐株ナリ


銀行通信録 第七九巻第四七〇号・第一〇二―一〇三頁 大正一四年三月 ○経済日誌(自大正十四年二月一日至同年二月廿八日)(DK530087k-0008)
第53巻 p.477 ページ画像

銀行通信録 第七九巻第四七〇号・第一〇二―一〇三頁 大正一四年三月
    ○経済日誌(自大正十四年二月一日至同年二月廿八日)
二月六日  (金) ○上略○各銀行家株式取引所限月問題協議○下略
二月七日  (土) ○上略○東株取引員限月維持協議会○下略
   ○中略。
二月十六日 (月) ○上略○限月短縮問題に関する株式従業員大会


渋沢栄一 日記 大正一四年(DK530087k-0009)
第53巻 p.477-478 ページ画像

渋沢栄一 日記 大正一四年       (渋沢子爵家所蔵)
二月十六日 晴 寒
○上略 岡崎国臣氏来リ、株式取引所限月制ノ事ニ付種々依頼アリ、近日農相会見ノ期アラハ進言スヘキ旨ヲ答フ○下略
   ○中略
三月五日 半晴 軽寒
昨夜宿痾ノ発作アリテ安眠ヲ得ス、朝来気力衰耗ス○中略 午飧後白石喜太郎・岡田純夫及平賀義典三氏来ル○中略 平賀氏ハ取引所限月短縮ノ問題ニ付岡崎理事長ヨリ依頼ナレハ不日其筋ヘ一書ヲ郵送スヘキ事ヲ回
 - 第53巻 p.478 -ページ画像 
示ス○下略
   ○栄一、是月二日ヨリ二十日マデ大磯ニアリ。


中外商業新報 第一四〇一三号 大正一四年三月七日 渋沢子が限月の延期に賛成の意見(DK530087k-0010)
第53巻 p.478 ページ画像

中外商業新報 第一四〇一三号 大正一四年三月七日
    渋沢子が限月の延期に賛成の意見
限月維持運動について、東京株式取引所岡崎理事長は渋沢子に援助を依頼するところがあつたのに対し、渋沢子は左の如き返答を与へた
 私は限月短縮が金融界に如何なる影響を及ぼすものであるかといふことは、明治卅五年に一度経験を得てゐるので、取引所の受ける打撃は私の与り知らないところではあるが、金融界のために短縮実施延期に賛成する、もし今日健康が許すならば蔵相・農相に会見してもよい云々
因みに卅五年限月短縮が実施された場合、渋沢子らの斡旋運動によつて一ケ年有余にして限月短縮は三ケ月に復活を見たのであると
   ○本資料第十三巻所収「東京株式取引所」明治三十五年十一月二十八日ノ条参照。


渋沢栄一 日記 大正一四年(DK530087k-0011)
第53巻 p.478 ページ画像

渋沢栄一 日記 大正一四年       (渋沢子爵家所蔵)
三月九日 半晴 軽寒
○上略 三時白石喜太郎来ル○中略 株式取引所限月問題ニ関シ高橋農相ヘノ一書ヲ原稿ノ儘白石ニ付托ス○中略
高橋農相○中略 ニ送ルヘキ書状ノ事ハ株式取引所○中略 ノ墾請《(懇)》ニ任セ執筆セシモノニシテ、自署ノ筈ナリシモ、病ノ為メ他ニ浄書ヲ托シタレハ其事ヲ附記スヘキ旨ヲ申添フ
○下略


要用書類往復(二) 【現時財界ノ一問題トシテ有価証券ノ限月短縮問題アリ、此問題ハ先年財界ニ非常ナル動揺ヲ与ヘ…】(DK530087k-0012)
第53巻 p.478 ページ画像

要用書類往復(二)           (渋沢子爵家所蔵)
現時財界ノ一問題トシテ有価証券ノ限月短縮問題アリ、此問題ハ先年財界ニ非常ナル動揺ヲ与ヘ、遂ニ政治問題ト化シテ想ハサル結果ヲ生ミシ経験ヲ抱クモノニシテ、政府当局ニ於カレテハ此問題ニ対シ慎重ナル態度ヲ以テ臨マレンコト希望ニ堪ヘス、方今我財界ノ状勢ヲ静観スルニ、大戦反動後ノ瘡痍尚ホ癒エサルニ当リテ大震火災ノ惨禍ニ会シ、震災地域ノ損傷ハ勿論、為ニ財界一般ハ未曾有ノ入超、為替ノ崩落ニ苦ミ、殊ニ最近破綻沙汰相次テ起リ、暗雲低迷ノ感アリテ不安ノ念甚シ、有価証券市場モ之ヲ映シテ萎微沈衰シ、殊ニ最近限月問題ノ起ルヤ、往年ノ覆轍ヲ惧レ居ルヤノ感アリ、此ノ秋ニ当リテ聊ナリトモ市場ニ動揺ヲ与ヘンカ、往年ニ比シテ隔世ノ膨張ヲ致セル我経済界ノ打撃ノ波及スル所、誠ニ深憂スヘキモノアラント信ス、今ヤ海外ノ経済界ハ恢復ニ向ヘルノ色アリ、我亦漸ク整理期ヲ脱センカノ機ニ於テハ、諸般ノ施設誠ニ細心周到ナル注意ヲ要スル所アルヘシ、サレハ限月短縮ノ如キモ其実施期ニ付テハ須ク之ヲ考慮セラレ、強テ今日之ヲ実施セムコトヲ避ケ、財界回春ノ時ヲ待タレンコト切望ニ堪ヘス
   ○右ハ政府当局ニ提出セル栄一ノ意見書ノ草稿ナラン。
 - 第53巻 p.479 -ページ画像 

渋沢栄一 日記 大正一四年(DK530087k-0013)
第53巻 p.479 ページ画像

渋沢栄一 日記 大正一四年         (渋沢子爵家所蔵)
三月十日 快晴 軽寒
○上略 増田明六来リ○中略 平賀義典取引所問題ニ付テノ来状ニハ、即時回答書ヲ作リテ増田ニ付与ス○下略

渋沢栄一書翰 平賀義典宛(大正一四年)三月一〇日(DK530087k-0014)
第53巻 p.479 ページ画像

渋沢栄一書翰 平賀義典宛(大正一四年)三月一〇日 (平賀義典氏所蔵)
拝復 過日尊来にて種々御申談有之候取引所限月短縮問題に関し、御鄭寧なる御細書忝拝読仕候、高橋農相にも自筆の書状差出兼、代筆と相成、且内相・蔵相にハ呈書見合申候、右等之事情ハ今日増田当方へ被参候間、能々説明いたし置候、御聞取被下度、詰り老生之一書高橋君へ進呈いたし候義は、当初本所之許可を出願せし往時追懐之余響にして、他人より之依頼ニ応したる行為ニハ無之候間、その辺御諒承被下、岡崎君にも決而御挨拶抔御無用ニ被成下度候、右臥褥中匆々執筆如此御座候 敬具
  三月十日
                      渋沢栄一
    平賀賢契 坐下
平賀義典様 貴酬 渋沢栄一
従大磯 封 三月十日 〃


(平賀義典撰平賀善書)扁額(DK530087k-0015)
第53巻 p.479-480 ページ画像

著作権保護期間中、著者没年不詳、および著作権調査中の著作物は、ウェブでの全文公開対象としておりません。
冊子版の『渋沢栄一伝記資料』をご参照ください。

銀行通信録 第七九巻第四七一号・第九七頁 大正一四年四月 ○経済日誌(自大正十四年三月一日至同年三月三十一日)(DK530087k-0016)
第53巻 p.480 ページ画像

銀行通信録 第七九巻第四七一号・第九七頁 大正一四年四月
    ○経済日誌(自大正十四年三月一日至同年三月三十一日)
三月十二日 (木) ○上略○衆議院本会議、○中略 限月短縮問題即決否決
          ○下略


(平賀義典) 書翰 渋沢栄一宛 (大正一四年)三月一六日(DK530087k-0017)
第53巻 p.480-481 ページ画像

著作権保護期間中、著者没年不詳、および著作権調査中の著作物は、ウェブでの全文公開対象としておりません。
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渋沢栄一 日記 大正一四年(DK530087k-0018)
第53巻 p.481 ページ画像

渋沢栄一 日記 大正一四年       (渋沢子爵家所蔵)
三月十七日 美晴 寒
○上略 白石喜太郎重要ノ来書ヲ持参ス、依テ回答書ヲ裁シテ之ヲ返付ス
三月十八日 晴 寒
午前八時起床洗面朝食○中略 渡辺得男事務所ノ要務ヲ以テ来訪ス○中略 昨日白石ノ携帯セル高橋農相ヨリノ書状ニ対シ、更ニ一書ヲ以テ渡辺帰京便ニ付シテ伝送セシム、又其来書ハ取引所ノ理事長ニ内覧セシムル事ヲ指示ス○下略


受付文書 大正一四年三月―一五年一二月(DK530087k-0019)
第53巻 p.481 ページ画像

受付文書 大正一四年三月―一五年一二月
               (社団法人東京銀行集会所所蔵)
                         (石井)
                         (印)
拝啓 貴所益々御隆昌奉賀候、陳者有価証券長期取引之限月短縮実施延期に関してハ、去る《(十二日脱カ)》改正法律案として衆議院に上程相成候処、同日否決之運命に逢着致し遺憾此事に御座候、事之成否ハ別として本件に関し予而御同情御後援を辱したる段御厚情当業者一同感銘に不堪次第に御座候、玆に謹而御礼申上候、先ハ不取敢以書中御挨拶まて如斯御座候 敬具
  大正十四年三月
              全国株式取引所及取引員組合
                      聯合大会
    銀行集会所
        御中


理事会決議録 大正七年二月―(DK530087k-0020)
第53巻 p.481-482 ページ画像

理事会決議録 大正七年二月― (社団法人東京銀行集会所所蔵)
                         (石井)
    第七十六回理事会決議録          (印)
大正十四年四月十五日午後一時開会
出席者 佐々木会長、池田・串田両副会長、生田・原各理事、山田・野々村・山岡各監事、合計八名ニシテ、成瀬・結城両理事ハ旅行又ハ差支ノ為メ欠席セラレタリ
 - 第53巻 p.482 -ページ画像 
      報告
一前回理事会決議録ノ件
一全国株式取引所及取引員組合聯合大会ヨリ有価証券長期取引ノ限月短縮ニ関シ挨拶ノ件
○下略


竜門雑誌 第四六四号・第九三―九四頁 昭和二年五月 渋沢先生に就ての挿話 岡崎国臣(DK530087k-0021)
第53巻 p.482-483 ページ画像

竜門雑誌 第四六四号・第九三―九四頁 昭和二年五月
    渋沢先生に就ての挿話
                      岡崎国臣
 先生の御身辺に就いて話をすれば際限が無い、と言ふのは、先生があの通り犠牲的精神の強烈な方で、国家社会を益し人の為めになることで、自分の出来ることなら、何んでもやらふと言ふ方で、日本の産業が僅々五十年の間に今日の如き隆盛を致して、世界の先進国を抜くの概を示して居るのは、総て先生の御活動に負ふ所が多いのだ、我が経済界のあらゆる制度例へば、銀行・会社・商業会議所・株式取引所等々、其他百般の施設は総て先生が生みの親となられたもので、又産業界は別にしても、国会の社会事業は勿論、国際関係の事に就いてまでも先生に負ふ所が中々多く、教育方面にまで力を致されて、東奔西走されることは、先生でなくては絶対に他人に出来ることではない。
 而も人に接するには、何人にも区別を付けず、徹領徹尾、親切丁寧、誠心誠意を以て対され、其の間私利私慾の微塵も無い事等は既に何人も知る所で、私が今更言ふは蛇足を加ふるに過ぎない。故に私は仕事の上に先生の熱誠に感じ、常に感謝暗涙に咽んで居る一ツの挿話を述べて、先生の徳を偲びたいと思ふ。
 時は大正十四年春であつた、当時先生は例の喘息で引籠り中であり特に昨日は発作的の異状があり、医者からは面会を禁止され、絶対に安静を要すると言ふ一日のこと、私は取引所の大問題で我が国としても大問題であるから、是非先生に御目にかゝりたいと言ふと、宜しいと言ふことで、病中をおして御引見下され、よく話をして御願ひすると、出来るだけ御尽力しやう。と言ふ有難い御言葉であつた。こうした事は普通の人には出来ない事で、先生には国家社会の事なら命を捧げても惜しくはない、と言ふ堅い御信念があり、先生にして始めて出来ることである。
 事の成り行きを簡単に申せば、当時の内閣の某閣僚に物を頼み込まなければならぬことで、先生を措いては誰にも出来ない事であつた、其処で先生はよく行つて話して見やうと言ふ事になつて居たが、段々病が重くなつて大磯へ静養に行かれる事になつた。大磯に在る先生は私の御願ひした事を随分気にかけられて、私が行つて話をすればいいのだが、この通り病気で動けないからと仰言つて、病中筆を持つことを医者から一切禁じられて居られるにも拘らず、御自分が行かれたと同様にしたいと言ふので、長い長い書面を御書き下さる事になつた。何しろ病中のことで筆を走らせて居られる中に段々と熱が昇り、根気も尽き果てゝ非常に苦し相に見え、遂に筆を持つことが出来なくなつたにも拘らず、今度は鉛筆を取らせて途中何遍も苦しい息を御吐きに
 - 第53巻 p.483 -ページ画像 
なり、終に書き終られ、之を代筆清書させて、之の書面を某閣僚に差出して下された、此問題は仲々困難なもので、閣僚からは長い長い返事が来たが、どうも甘く行かなかつたが、事の成否は別として、兎に角、斯くまで御無理をなされてまでも、我れ我れ後輩の御面倒を見て下さるかと思ふと、熱い涙が自然に溢れ出てくるのである。私は其の先生の御手紙の下書を戴いて、今でも記念のため大切に保存して居るが、其の手紙を見る度びに、其当時の先生の溢るゝ熱誠を想出して、いつも感涙に咽び、自分達の社会人としての働きの足らぬことを、いつも教えられるのである、尚此の手紙には来歴を附して、子孫永遠に伝える考へである。(実業之世界三月号所載)


東京株式取引所五十年史 同所編 第四〇四―四一一頁 昭和三年一〇月刊(DK530087k-0022)
第53巻 p.483-486 ページ画像

東京株式取引所五十年史 同所編 第四〇四―四一一頁 昭和三年一〇月刊
 ○第十三章 近年市場重要問題
    第三節 大正十一年取引所法改正による限月短縮顛末
      ○改正理由
 我国の取引所法は明治二十六年の制定に係り、爾来、時運の進展に伴ひ、必要に応じて、屡々改正を行ひ来りし所のものなるも、晩近、我国経済界は長足の発達を示し、取引所の機能を完うする上に於て尚ほ遺憾の点少からざりき。玆に於て、政府は同法の改正を企図し、大正九年夏の特別帝国議会に於て調査費の協賛を経、取引所法改正調査委員会を設置して改正案を作成し、之を第四十四回帝国議会に提出したるも、審議未了にて議定を見るに至らず、第四十五回帝国議会に於て再び之を提出したり。時に大正十一年二月六日なり。
      ○改正案の精神
 政府当局の説明する所に依れば、改正案の精神は実物取引を助成して無謀なる投機取引を抑制し、公定相場作成機関としての取引所の機能をして完うせしめんとするにあり。分つて四となすことを得べし。(一)取引所の組織に関する事項(二)担保責任に関する事項(三)場外取引取締に関する事項及び(四)売買取引に関する事項是れなり。然り而して玆に記述せんとするは右売買取引に関する事項中、有価証券の限月の改正に関する事項にして、改正案は之を左の如く規定したり。
 改正取引法第十八条
  取引所ノ売買取引ノ期限ハ有価証券ニ在リテハ二箇月、米ニ在リテハ三箇月、蚕糸ニ在リテハ六箇月、其ノ他ノ商品ニ在リテハ勅令ノ定ムル期間ヲ超ユルコトヲ得ス
 附則第二項
  第十八条ノ改正規定中有価証券ノ売買取引ニ関スル規定ハ、勅令ヲ以テ他ノ規定ヨリ後ニ之ヲ施行スルコトヲ得、但シ其ノ施行ノ期日ヲ大正十四年四月一日ヨリ後ト為スコトヲ得ス
 玆に従来の規定に於ては、同条は売買取引の種類を規定したりしも改正法案は之を削除して勅令に譲り、勅令の規定する所なりし売買取引の期限を法律に移し、前記第十八条に於て規定したり。特に重要なる改正と謂はざるべからず。
      ○第四十五回帝国議会に於ける論議
 - 第53巻 p.484 -ページ画像 
 斯くして大正十一年二月六日、改正法案は政府より先づ貴族院に提出せられ、伯爵奥平昌恭氏を委員長とする特別委員附託となり、同月十三日、第一回委員会を開きてより会を重ぬること十三回、一箇月余に亘りて審議討論せられたるが、有価証券売買取引の期限に就きては(一)之を削除して旧条文を存置すべしとなすもの(二)「二箇月」とあるを「一箇月」に改むべしとなすもの(三)原案賛成の三説あり。決を採りたるに、(一)は少数にて敗れ、(二)及び(三)は同数なりしを以て、委員長の決する所によりて原案の通り決定し、附則に就きては別段の異議なく、三月十八日、本会議に於て委員長の報告ありて可決し、衆議院に回附せられたり。衆議院に於ても、翌十九日、委員長川原茂輔氏及び外十七名の委員附託となり、審議四回にして原案通り決定し、二十五日の本会議に於て委員会の決議通り可決し、玆に政府の提案は両院を通過したり。両院委員会委員氏名左の如し
  貴族院
 委員長   伯爵 奥平昌恭氏
 副委員長  男爵 藤村義朗氏
 委員 子爵 松平直平氏      和田彦次郎氏
       上山満之進氏  男爵 楠本正敏氏
       谷森真男氏      伊藤伝七氏
       中村円一郎氏  男爵 武井守正氏
    子爵 榎本武憲氏      木場貞長氏
    男爵 横山隆俊氏      若槻礼次郎氏
       今井五介氏
   三月十三日、男爵楠本正敏氏委員を辞任したるにより男爵坪井九八郎氏補欠当選したり
 委員外議員     鈴木摠兵衛氏
 農商務大臣  男爵 山本達雄氏 其の他政府委員
  衆議院
 委員長   川原茂輔氏
 委員    中山佐市氏      鈴木隆氏
       伊沢平左衛門氏    木村清三郎氏
       福井甚三氏      坪田十郎氏
       島田俊雄氏      渡辺修氏
       蔵内治郎作氏     加藤粂四郎氏
       松井鉄夫氏      森田茂氏
       山辺常重氏      武内作平氏
       鈴木富士弥氏     近藤達児氏
       奥村千太郎氏
 農商務大臣  男爵 山本達雄氏 其の他政府委員
      ○改正法の実施
 帝国議会を通過したる取引所法中改正法律案は直に御裁可を経て、同年四月、法律第六十号を以て発布の運びとなり、同年七月、勅令第三百五十二号を以て同年九月一日より施行せられたるが、第十八条中有価証券の限月に関する規定に就きては、政府に於ても、之が即時実
 - 第53巻 p.485 -ページ画像 
施に因る影響を慮り、大正十四年四月一日より実施することとなしたり。但し大正十四年三月三十一日迄になす売買取引の期限に就いては同年同月、同令附則を以て、三箇月を超ゆることを得ざる旨規定したり。左の如し。
 大正十一年七月勅令第三百五十二号
  大正十一年法律第六十号ハ大正十一年九月一日ヨリ之ヲ施行ス
  但シ第十八条ノ改正規定中有価証券ノ売買取引ニ関スル規定ハ大正十四年四月一日ヨリ之ヲ施行ス
 同附則第二項
  大正十四年三月三十一日迄ニ為ス有価証券ノ売買取引ノ期限ハ三箇月ヲ超ユルコトヲ得ス
      ○限月短縮延期運動
 然るに翌大正十二年四月二十日、全国株式取引員組合第四回聯合大会の大阪市に開かるるや、大阪株式取引員組合より限月に就き三箇月制永久維持の議案提出せられ、限月短縮反対の第一声を揚げたり。越えて大正十三年四月四・五日、日本工業倶楽部に於ける同第五回聯合大会に於ては、東京・大阪・京都・広島の各組合より、或は三箇月制維持、或は短縮実施期延長の提案あり、結局、三箇月制維持を期することを決議し、同月八日、主務省に陳情する所あり。又同月中、別に広島に開催せられたる西部取引員組合聯合会も亦同じく短縮実施延期を決議する等、次第に反対の気勢を昂めたり。更に同年九月二十五・六日、日本工業倶楽部部に於ける第二十三回全国取引所聯合会に於て大阪株式・大阪堂島米穀・大阪三品・京都・神戸・広島株式・佐賀米穀の各取引所より前同様の提案ありて、限月短縮の実施期を大正十七年四月一日まで延長ありたき旨政府に陳情すると共に、実行委員を選定して之が運動をなすことを決議し、次で十月二十一日には、全国取引員聯合幹事会は大会を開いて同様の決議の下に運動に着手したり。斯くして翌十一月三日には、全国株式取引及株式取引員組合聯合大会成り、益々結束を固くして目的の達成を期し、輿論の喚起に、陳情に百方政府当局の考慮を促し、全国証券業者亦一斉に起ちて運動に参加する等、該運動は日を追ふて白熱したり。
 抑も限月の短縮は、果して健実なる実物取引を助長して投機抑圧の効果を挙げ得るや、頗る疑はしきのみならず、実施期に三箇年の猶予を与へられたりと雖も、後、彼の大震火災突発して、為めに反動後疲弊に陥りたる我財界は一層の打撃を受け、改正法発布当時に比しては大に事情を異にするものあり。此の時に方り、経済界の実情を顧みずして、機能の妙を馴致し来れる多年の慣行を変革するは機宜に適したるものにあらず。且つ又法律改正と共に創始せられたる短期取引は、未だ試練の域にありて長期取引の限月短縮に因る影響を緩和するに足らず。是れ限月短縮実施延期運動理由の骨子なりとす。
 一方、銀行業者は、屡々会合して本問題の討究をなし、財界不況の今日、変革の時機にあらずと言ふに一致し、全国商業会議所聯合会も当業者と同様の意見の下に当局に対して短縮実施延期の建議をなし、日本郵船株式会社及び外百十余社の本所建株式会社亦た一斉に此の運
 - 第53巻 p.486 -ページ画像 
動に賛意を表したり。
 然れども政府は従来の方針を固持して、断然陳情に耳を藉さざりしが、翌十四年三月十二日、遂に中正倶楽部の提案として限月短縮実施延期法案は帝国議会に提出せられたり。改正法律案左の如し。
 取引所法中改正法律案
  取引所法中大正十一年四月法律第六十号第二項ヲ左ノ通リ改正ス第十八条ノ改正規定中有価証券ノ売買取引ノ期限ニ関スル規定ハ大正十七年四月一日ヨリ之ヲ施行ス
 理由
  我国財界ノ現状ニ鑑ミ、有価証券ノ売買取引ノ期限ニ関スル規定ノ実施ヲ三年間延長スルノ必要ヲ認ム、コレ本案ヲ提出スル所以ナリ
         提案者 増田義一      佐々木平次郎
             岩尾璋八      堤清六
             平井光三郎
 然るに賛成者は二百十九名中、三十六名の少数にして否決となり、該運動は玆に一段落を告げ、大正十四年四月一日以降、限月短縮は、愈々実施せらるるに至れり。而して当業者は永年、三期売買制に慣熟し来れるを以て、二箇月の期限内に於ても尚ほ二十日間を一期とする三期売買制を採用したり。


銀行通信録 第七九巻第四七三号・第七三頁 大正一四年六月 ○経済日誌(自大正十四年五月一日至同年五月卅一日)(DK530087k-0023)
第53巻 p.486 ページ画像

銀行通信録 第七九巻第四七三号・第七三頁 大正一四年六月
    ○経済日誌(自大正十四年五月一日至同年五月卅一日)
五月二日 (土) ○上略 ○株式取引員大会神戸市に開催○下略
五月三日 (日) ○上略 ○株式取引員大会第二日


集会日時通知表 大正一四年(DK530087k-0024)
第53巻 p.486 ページ画像

集会日時通知表 大正一四年       (渋沢子爵家所蔵)
十月十三日 火 午前九時半 岡崎国臣氏来約(アスカ山邸)


銀行通信録 第八〇巻第四七八号・第八二頁 大正一四年一一月 ○経済日誌(自大正十四年十月一日至同年十月卅一日)(DK530087k-0025)
第53巻 p.486 ページ画像

銀行通信録 第八〇巻第四七八号・第八二頁 大正一四年一一月
    ○経済日誌(自大正十四年十月一日至同年十月卅一日)
十月二十日 (火) 晴
○中略
▽全国株式取引所聯合会幹事取引所委員会、清算取引の限月復旧申合
十月二十一日 (水) 晴
○中略
▽全国取引員組合代表者取引税の軽減其他を商工省に陳情
   ○中略。
十月二十六日 (月) 晴
○中略
▽国債長期取引上場銘柄内定
○下略


銀行通信録 第八〇巻第四七九号・第八二―八三頁 大正一四年一二月 ○経済日誌(自大正十四年十一月一日至同年十一月三十日)(DK530087k-0026)
第53巻 p.486-487 ページ画像

銀行通信録 第八〇巻第四七九号・第八二―八三頁 大正一四年一二月
 - 第53巻 p.487 -ページ画像 
    ○経済日誌(自大正十四年十一月一日至同年十一月三十日)
十一月七日 (土) 晴
○中略
▽国債長期取引認可
○下略
   ○中略。
十一月十八日 (水) 雨
○中略
▽東京取引所国債長期初取引
○下略
   ○中略。
十一月二十一日 (土) 晴
○中略
▽全国株式取引所代表者主務省に対して限月復旧方陳情


受付文書 大正一四年三月―一五年一二月(DK530087k-0027)
第53巻 p.487-489 ページ画像

受付文書 大正一四年三月―一五年一二月
                 (社団法人東京銀行集会所所蔵)
(謄写版)
拝啓 時下晩秋の候益御多祥奉慶賀候、陳者有価証券取引の限月復旧に関し、今般全国株式取引所及取引員組合代表者聯合協議会に於て決議の上、別紙の通り関係官庁に陳情致候に就ては、御瀏覧に供し候間御賢察の上、右陳情の趣旨達成候様御高配相仰き度、此段奉懇願候
拝具
  大正十四年十一月二十一日
             全国株式取引所及取引員組合代表者
    東京銀行集会所
          御中
(別紙)
 (表紙)

    陳情書

    陳情書
有価証券長期清算取引三箇月ノ制度ハ、大正十一年取引所法改正ノ結果本年四月一日ヨリ二箇月ニ短縮セラレタル次第ニ御座候、本制度ノ改正ニ付テハ客年其ノ実施ニ先チ事情ヲ具シテ屡々実施ノ延期ヲ請願仕候モ、不幸ニシテ其ノ採納ヲ見ルニ至ラサリシハ誠ニ以テ遺憾ニ存居候、想フニ取引所ノ機能ヲ完全ニ発揮可致売買取引ノ期間トシテハ大量ノ取引ヲ容易ニ消化シ、其ノ間ニ処シテ保険的作用ヲ有スル繋キ取引及相場ノ調節ヲ為ス鞘取取引カ円滑ニ行ハルルコトヲ必要トスヘキヤ固ヨリ言ヲ俟タサル次第ニ有之候、而シテ従来行ハレタル三箇月ノ限月制度ハ、我複雑ナル経済組織ノ下ニ財界ノ実情ニ順応シ、幾十年ノ迂余曲折ヲ経テ発達ヲ遂ケ来リシ根柢アル商慣習ニ有之候事ハ、今更語ヲ更メテ申ス迄モ無之候、換語仕候得者、有価証券ノ取引期間
 - 第53巻 p.488 -ページ画像 
タリシ三箇月ハ長カラス又短カカラス、実ニ我国ニ於ケル取引所ノ経済的官能《(機)》ヲ発揮スル上ニ於テ、極メテ必要ニシテ且ツ実際ニ適合シタル期間ニ候、殊ニ将来益々有価証券カ国際化セントスル今日ニ於テハ寧ロ其ノ期間ノ短キヲ感シツツ有之次第ニ候、然ルニ一片ノ法令ニ依リ此ノ趨勢ニ反シテ、永年ノ商慣習ニ基ク期間ヲ短縮相成候為メ、大量取引ノ消化ノ上ニ著シキ支障ヲ来シ、取引所ノ機能ヲ完全ニ発揮スヘキ各種ノ取引カ円滑ニ行ハレサルニ至リタルノミナラス、法律改正ノ当時ト財界ノ事情ヲ異ニスル今日ニ於テハ、却テ投資ノ阻害ト相成候事誠ニ以テ遺憾ノ至リニ存候、限月短縮後ニ於ケル各地取引所ノ状況ヲ綜合仕候処、右様ノ事情ヲ痛切ニ感シ入申候次第ニ御座候、冀クハ現状ヲ洞察シ、限月ヲ復旧シテ証券取引ノ実情ニ適合セシメラレンコト切望ノ至リニ不堪候
  大正十四年十一月二十一日
             全国株式取引所代表
               株式会社東京株式取引所
                 理事長  岡崎国臣
               株式会社大阪株式取引所
                 理事   上畠益三郎
               株式会社名古屋株式取引所
                 理事   土井国丸
               株式会社神戸取引所
                 理事   田中熊之助
               株式会社京都取引所
                 支配人  竹沢徳蔵
               株式会社横浜取引所
                 支配人  石川助五郎
             全国株式取引員組合聯合会代表
               東京株式取引所一般取引員組合
                 委員長  徳田昂平
               同      短期取引員組合
                 委員長  沼間敏朗
               同      実物取引員組合
                 委員長  片岡辰次郎
               大阪株式取引所一般取引員組合
                 委員長  加島安治郎
                 副委員長 竹原荘治郎
               同      短期取引員組合
                 副委員長 海老友次郎
               京都取引所取引員組合
                 委員長  浅原静次郎
                 委員   杉本亀次郎
               名古屋株式取引所一般取引員組合
                 委員長  河瀬文一
               同      短期取引員組合
 - 第53巻 p.489 -ページ画像 
                 委員   大沢重三
               神戸取引所証券取引員組合
                 委員長  今井新五郎


理事会決議録 大正七年二月―(DK530087k-0028)
第53巻 p.489 ページ画像

理事会決議録 大正七年二月―   (社団法人東京銀行集会所所蔵)
               (石井)
    第八十三回理事会決議録  (印)
大正十四年十一月廿五日午後一時開会
出席者 佐々木会長、池田・串田両副会長、生田・成瀬・結城・原各理事、山田監事、合計八名ニシテ、野々村・山岡両監事ハ病気又ハ差支ノ為メ欠席セラレタリ
      報告
○中略
一全国株式取引所及取引員組合代表者ヨリ提出ノ陳情書ノ件
○中略
      決議
○中略
一全国株式取引所及取引員組合代表者ヨリ提出ノ陳情書ノ件
 右ハ協議ノ結果其ノ儘ニ保留シ置クコトニ決定
○下略


社団法人東京銀行集会所半季報告 第九一回・第一七―一八頁 大正一四年七月一日―一二月三一日 刊(DK530087k-0029)
第53巻 p.489 ページ画像

社団法人東京銀行集会所半季報告 第九一回・第一七―一八頁
                大正一四年七月一日―一二月三一日
              刊  (社団法人東京銀行集会所所蔵)
    一雑件
○上略
一有価証券取引ノ限月復旧ノ件ニ付全国株式取引所及取引員組合代表者ヨリ当集会所ニ陳情書ヲ提出シタリ



〔参考〕取引所研究 第一巻第四号・第一三一―一三四頁 大正一四年四月 限月問題の回顧 河合良成(DK530087k-0030)
第53巻 p.489-490 ページ画像

著作権保護期間中、著者没年不詳、および著作権調査中の著作物は、ウェブでの全文公開対象としておりません。
冊子版の『渋沢栄一伝記資料』をご参照ください。

〔参考〕取引所研究 第一巻第四号・第一三四―一三七頁 大正一四年四月 限月問題所感 梅沢慎六(DK530087k-0031)
第53巻 p.490-492 ページ画像

取引所研究 第一巻第四号・第一三四―一三七頁 大正一四年四月
    限月問題所感            梅沢慎六
 - 第53巻 p.491 -ページ画像 
      一
 古から取引所の改善問題は政府当局の鬼門と云はれ、癌と称せられてゐる。苟も之に触るゝ者は傷き、非道い目に遇つたものである。遠い昔の明治二十年には、プールス条例で吉田次官の失脚となり、明治三十五年の所謂限月短縮令では、平田大臣・木内局長の引責辞職となつた。然るに今回の限月短縮延期問題では、取引所取引員が非常に努力して運動したにも拘はらず、殆ど何等の効果をも挙げ得なかつたのである。
 昨年大株島理事長問題のあの始末はどうか、島氏が大失態を演じ、政界あらゆる方面に運動し、主務省に叩頭百拝したけれど奏効せず、已むなく殊勝の声明を発して多年の牙城を棄て退却した。然るに其舌の乾かざるに、早くものこのこ理事長の椅子に舞ひ戻つたのである。初め世間は、主務省が島氏を引責辞職せしめたる其の勇断を密かに快としたものである。素より島氏は主務省の命令によりて解任せられたる次第ではないけれど、島氏の引退は主務省より余儀なくされたものである。然るに其の後政治にも情けあり涙ありと称し、舞ひ戻らしたので世間は聊か呆気にとられたものである。
 一理事長の問題にすら斯の通りである、況や取引所側が自己の死活問題としてあれ程の運動をしたにも拘はらず、島問題には政治には情けあり涙ありと称し、世人を唖然たらしめた同一主務省当局は、断乎として之を拒けた。尚政憲両派を動かす能はず。やつとの事で中正会の有志より延期法律案提出の段取まで漕ぎつけたけれど、与党三派は素より、反対党たる本党まで一致して即決否決とした。
      二
 限月短縮延期に対する取引所側の理由は、根拠薄弱の嫌なしと云へぬ。第三者の公平なる意見も、大体に於て、理論上は素より、実際問題としても、延期を不可とする風であつた、然し斯の如き問題は解釈のし様で理窟は附くもので、代数の公式や、幾何等の定理の様に、絶対的に斯くあるべきものと云ふわけのものではない。理窟はつけられる。而も取引所が不断の努力を為せるに拘はらず、政府の頑として聴かず、政党も挙つて之に動かされなかつたのはどう云ふわけか。
 従来の歴史に徴するに、改革問題と云へば、いつも主務省が取引所側の運動に手古摺らせられたものである。又随分嚇かされたものらしい。従て僅かの改善施設でも延期に延期を重ねたものである。処が今度政府の腰は強かつた。予想外に強かつた。而もいつもかゝる問題には横車を押したがる某々政党幹部が、断乎として党員の取引所側に策応する事を戒しめたのはどう云ふわけか。与党側は衆議院は通つても貴族院で否決されると思つたか。それにしても民衆を背景とする政党としては、成否は別として取引所の肩を持ちそうなものであつた。雪嶺博士は大正七不思議を八不思議とするであらう。右に付新聞紙は、高橋農相の議会に於ける言明に基くものと報告して居る。果たして之れ丈の原因か。若し全く然りとすれば、高橋さんと云はず、他の時めく政治家も数へ切れない程の不渡手形を出して居る。限月問題丈綺麗に支払を済まそうとするは不思議である。議会で発行した手形だけは
 - 第53巻 p.492 -ページ画像 
不渡は出来ないと云へば之れ迄であるが、従来共議会で出した手形でも不渡はないとは云へない。限月短縮延期の運動が全然不成功に終つた事は謎である。
      三
 今迄取引所側の運動は頗る凄いところあり、苟も自家に不利と見れば之を傷けずんば止まずと云ふ風があつた。主務省の若き新人は何れも脅かされたものなそうな。然るに今回は美事主務省の勝利となり、取引所側は鼎の軽重を問はれた形である。政治は公正なるべきものなる事は云ふ迄もない。然るに吾人短い見聞を以てすれば、今の政治は必ずしもそうではない様だ。殊に取引所問題に就ては道理が引込んで不道理が蔓つた事も多い。然るに今度はどう云ふ因果の廻り合せか、不思議にも道理が真直に通つた。
 世の中に改革程難かしいものはない。苟も現状を打破して改革せんとせば、反対は附きものである。総て社会の事相は其の社会の道徳・教育・品位・文化程度の反映である。本邦目下の程度で政治界が独り清潔なるべき道理がない。金融界・工業界が独り健全なる発達を為すべき道理がない。それと同様に、取引所の現状は矢張り社会世相の反映と見るべきであらう。さりとて此の儘にも放任出来まいし、監督官庁としては多少共改善向上せしめねばならぬ。玆に当局の苦心が察せられる。
 筆が思はず岐路に入つた。要するに限月問題は折角軌道を走る事になつたのであるから、主務省の新人諸氏には今後脱線せしめない様に願ひたいものである。