デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

大正8年10月9日（1919年）

是日当会社、定雇人夫制度ヲ改正シ、一旦全員ヲ解雇シタル後、更メテ新規雇用ノコトトシタルガ、其選ニ漏レタル分子ハ全員ノ再雇用ヲ強要シ、飛鳥山邸ニ到リテ栄一ニ面会ヲ求ムル等ノ所為アリシモ、程ナクシテ沈静ニ帰ス。

渋沢倉庫株式会社三十年小史　利倉久吉編　　第二五―二六頁昭和六年九月刊
　○渋沢倉庫部時代
　　　　七、倉庫の荷役人夫直営
　　　　　　附直営の成績及人夫の状況
○上略
　大正八年に至り最初の荷役方規程に幾分不備の点ありたると、追々荷役部に相当多額の積立金を生ずるに至りたるとにより、而して此積立金処分方の規程を欠きたるため、其頃労働者界に於ける思想悪化の影響を受け、荷役方等は或者の煽動により俄然積立金分配を要求して怠業状態を現したり。依て大正八年十月現行の如く規程を改正し、而して一旦全部の人夫を解雇すると同時に、其手当として該積立金の大部分を公平に分配したり。（同時に小樽支店荷役方に対しても同一の措置を行ひたり）然る処解雇者中より新規採用に漏れたる深川の不良連中は、全員の新採用を強要し、一時は飛鳥山子爵邸に面会を強請して迷惑を懸けたる模様なり、尤も前以て子爵邸に現況報告をなせるに対し、子爵は頗る過分の手当なり、此以上は仕方なし、成行に任せて可なりとの沙汰あり、其内泣寝入に沈静せり。
○下略

渋沢倉庫株式会社書類　　　　　　　（渋沢倉庫株式会社所蔵）
　大正八年拾月九日　　　　　　　　　　渋沢倉庫株式会社
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（利倉）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　営業部長(印)
　　　　　　（佐々木）
　　取締役会長(印)
　　　　　　（八十島）
　　専務取締役(印)
　　　　（日下）
　　取締役(印)
　　　　人夫制度改正ノ件
保管貨物中米雑穀以外ノ雑貨ニ対スル入出庫其他荷役ニ付テハ、従来定雇人夫制度ヲ取リ来リ候処、入庫ノ当時寄託主ヨリ収受スル荷役賃ノ内ヨリ、出入ニ関スル会社ノ負担費用ノ補充、器械購入費、人夫ノ期末手当及退職手当等ニ充当ノ為メ一定ノ積立金ヲ控除シ、残余ヲ当該人夫ニ分配スルノ方法ヲ取レルヲ以テ、近来人夫中ニハ右積立金ヲ彼等ノ所有ニ属スルモノナルカノ如ク誤解シ、分配ヲ要求スル者等有之、旁々以テ従来ノ制度ハ今日ノ時勢ニ適セサルモノト認メ候ニ付、今回之ヲ廃シ、不取敢臨時人夫（日々雇人夫）ノ制度ヲ取ル事ニ致度ト存候
　一右ニ付此改正ニ際シ、現在ノ定雇人夫ハ全部解雇致度候事
　一右解雇ニ付、別紙内訳書ノ如ク慰労手当金ヲ支給致度候事
　　（備考）右金額ハ内規ニ依レハ、人夫部第参準備金ヨリノミ支出スヘキモノニ有之候ヘ共、此際ハ特別変革ノ場合ナルヲ以テ、短期間ノ在職者ニ対シテモ、其期間ノ稼キ高ノ壱割以上ニ当ル金高ヲ支給スル目安トシ、即チ内規ノ数倍之金高ト致候次第ニ有之候
　　　　　　大正八年九月参拾日人夫部準備金現在
　　　一、金弐万九千九百参拾八円参拾八銭　　第一準備金
 - 第53巻 p.509 -ページ画像 
　　　一、金参千五百円　　　　　　　　　　　第二〃
　　　一、金壱万参千五百四拾五円参拾六銭　　第三〃
　　　　計金四万六千九百八拾参円七拾四銭
　　　　　　　　内
　　　一、金弐万参百円　　　　　　　　解雇手当金支払高
　　　一、金七拾円　　　　　　　　　　同上見習五名追加高
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　別紙内訳明細書通リ
　差引
　　金弐万六千六百拾参円七拾四銭　九月卅日現在ノ各準備金合計ニ対照シテ第一準備金ノ残高トナル分右実行日（十月十二日予定）限リ、一旦人夫部計算ヲ打切リ、当日迄ノ積立トナルヘキモノヲ第一準備金ニ繰込ミタル上、其金額ヲ人夫部ヨリ分離シ、会社機械購入費トシテ仮受金口座ニ振替可申候事
（別紙）
　　　　定雇人夫解雇手当支給案○略ス