デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

2部 実業・経済

4章 鉱業
1節 石炭
1款 磐城炭礦株式会社
■綱文

第54巻 p.93-98(DK540029k) ページ画像

大正9年2月2日(1920年)

是ヨリ先、当会社ト東京工業商会トノ間ニ、ボイラー売買契約履行ニ関シ紛議ヲ生ズ。是日栄一、両者代表者ヲ渋沢事務所ニ招致シ、之ガ調停ニ努ム。


■資料

(増田明六)日誌 大正九年(DK540029k-0001)
第54巻 p.93-94 ページ画像

(増田明六)日誌  大正九年       (増田正純氏所蔵)
一月三十一日 土 晴
○上略
磐城炭礦対山本栄男氏ボイラー係争事件ニ関シ、山本氏男爵ヲ来訪、仲裁和解ノ労ヲ執ラレンコトヲ懇願ス、男爵逐一聴取セラレ、和解条件トシテ山本氏ノ提出セラレタルハ、磐城ノ云フ処ト大ナル差アルカ如ク感セラレシモ、兎ニ角一応磐城ニ通セントテ、其後渡辺六蔵ヲ招致シテ、磐城ノ之ニ対スル意見ヲ聴取セラレタリ、果シテ其間懸隔アリシヲ以テ、更ニ山本氏ヲ呼ヒ寄セ、磐城ノ意ヲ通シタル結果、更ニ来ル二月二日午前九時半、兜町ニ渡辺・山本両氏ニ来会ヲ請フテ協議スルコトニ決セラレタリ
○下略
二日○二月 月 雨
定刻出勤
九時半、磐城炭礦渡辺六蔵氏、東京工業商会代表者山本栄男氏、男爵ノ招致ニ依リ来会シ、兼テ同社間ニ紛争ヲ生シ、目下訴訟中ニ属スルボイラー売買契約解(売方山本氏、買方渡辺氏ナリ、ボイラーノ圧力及厚サ等保証状ノ所載ト一致セサル為メ、磐城ニ於テハ已ニ山本氏ヘ
 - 第54巻 p.94 -ページ画像 
支払ヒタル代金ヲ取戻シ、且為之生シタル損害金ヲ請求セントスルニアリ)除ノ件ニ付キ、山本氏ニ於テハ男爵ニ中介者《(仲)》トシテ和解ノ労ヲ執ラレンコトヲ兼テ懇願シタルヲ以テ、本日両者ヲ招致シテ停調ノ労ヲ執ラレシ次第ナルカ
一磐城ニ於テハ、該ボイラーハ、山本氏ニ於テ時価ニテ引取リ、代金ト時価トノ差金ノ三分ノ一ハ磐城ニテ負担スベキニ付、残三分ノ二及已ニ支払ヒアル金額ニ対スル利子、弁護士ニ関スル費用ハ、山本氏ニ於テ引受ケ、且右等ノ金額ハ示談成立ト同時ニ支払フ可シト主張スルニ対シ
一山本氏ハ、ボイラーハ今ヨリ九ケ月以内ニ売却スルコトヽシタシ、右売却代金ト元ノ売買代金トノ差額ノ三分ノ一ハ自分ニ於テ引受ケ残リ三分ノ一ハ山本氏ニ売渡シタル元持主ノ負担トシタシ、利子、弁護士料ハ当然磐城ニ於テ負担セラレタシ
トノ主張ニテ、結局両者トモ篤ト考エタル上更ニ互ニ譲歩シ得ル最後ノ条件ヲ提案スルコトヽナレリ、而シテ来四日ハ本訴訟ニ関スル第一回ノ口頭弁論日ナルモ、既ニ男爵ヲ煩ハスニ至リシ上ハ、一ト先延期セラレタシト山本氏ヨリ渡辺氏ニ依頼アリシモ、渡辺氏ハ浅野社長ト協議ノ上返答スベシトノコトニテ、本日ノ会合ヲ終リタリ、男爵、浅野社長ニ対シ来四日ノ弁論ハ延期セラレタシト特ニ出状シタルモ、浅野氏ハ、山本氏ノ過去ノ行為甚タ不都合ナルヲ以テ延期スルコト能ハス、且過日ノ重役会ニ於テ延期セサルコトニ決シ、弁護士ニモ斯ク命シタルヲ以テ、乍遺憾応諾スルコト能ハスト答ヒ来レリ、依テ男爵ハ直ニ其旨ヲ山本氏ニ書通シタリ
○下略


渋沢栄一 日記 大正九年(DK540029k-0002)
第54巻 p.94 ページ画像

渋沢栄一 日記  大正九年         (渋沢子爵家所蔵)
二月二日 雨 寒
○上略午前九時半事務所ニ抵リ、渡辺六蔵氏・山本栄男氏来リ、磐城炭坑会社ニ於テ買取リタル蒸気鑵ニ関スル紛議和解ノ為メ来会ス
○下略


(増田明六)日誌 大正一二年(DK540029k-0003)
第54巻 p.94-96 ページ画像

(増田明六)日誌  大正一二年     (増田正純氏所蔵)
四月廿一日 土 雨
定刻出勤
午前十時、磐城炭礦重役会ニ出席ス
○鉄道省トノ契約屯数三十二万屯、九円七十銭替当会社ノ外
 (入山八万屯、古河十万屯、小田六万屯、山下弐万五千屯、大日本三万屯)
 (外ニ小口五万五千屯合計三十五万屯ノ契約成リシト云フ)
 即チ同省所要数量ノ半数ヲ当社ニテ引受ケタル次第ナリ
○現在市価当社塊粉炭平均屯拾円ナリ
○現在屯当リ採炭費五、五〇、本社費一、〇〇、償却金・税金等一、五〇、合計八、〇〇ヲ要スルニ付、鉄道省売込炭ニ拾屯《(マヽ)》一、八〇《(マヽ)》ノ純益ヲ得
 - 第54巻 p.95 -ページ画像 
○本年度採炭数量八十弐万屯ノ予定
○来年ハ百万屯ノ予定
○綴三星ノ出水炭坑ハ其後種々ノ試験ヲ経テ之ヲ干ス見込立テリト云フ、愈乾水ノ上ハ此処ヨリ優ニ二十万屯ヲ採掘スルコトヲ得ベシト云フ
○高坂ニ於テ新坑掘鑿ニ着手、但五年位ノ計画ヲ以テ
○下略
  ○中略。
五月十六日 水 少雨
○上略
本日ノ来訪者如左
○中略
山本栄男氏 同氏対磐城炭礦ボイラー訴訟ニ関する件
○下略
  ○中略。
五月廿一日 月 雨
前十時半、磐城炭礦重役会ニ出席ス、予て同社対山本栄男氏係訴中のボイラー事件ハ愈訴訟を継続するニ決し、会社は必要ニ依り十六万余ヲ投し新なるボイラーを購入する事としたり、先之山本氏並会社ニ対シ個人として和解を勧誘したるも、事遂ニ成らさりしハ誠ニ遺憾の至りなり
○下略
  ○中略。
七月廿一日 土 晴
○上略
午前十時、磐城炭礦会社重役会に出席す、議案中に高坂炭坑新掘鑿の計画費予算決定之件あり、元より新炭坑の掘鑿ハ必要なるも、現下同会社経済状態ハ頗る緊縮を要するを以て、去月来新規の施設を見合ハセ杭木の買入をも手扣へ、以て現金支出の減少に努め居るを以て、此方針ニ違ふ事無き哉、特ニ石炭を多く採掘しても売行悪しきを以て、寧ろ手控ふる考なりと倉田専務の談話もありし事なれハ、本日此予算を決定するも、可成工を急かすして費用を減少する事に努められたしと注意し置きたり
○下略
  ○中略。
十一月廿一日 水 晴
出勤
午前十時、磐城炭礦重役会ニ出席、取締役尾高幸五郎氏老年ニ及ヒタルニ付テハ、本月任期満了を期とし之を辞任の希望あり、本日の席上其意を陳へ辞表を提出せんとしたるニ、浅野社長以下一同切ニ留任を希望したる為め、一応考慮すべしと辞表提出を見合ハセたり、先是同社重役割込希望者として、三井より又湯本より申込めるものあり、尾高氏の辞職を聞かハ直ニ運動ニ着手する恐あり、小生は渡辺取締役と協議し、尾高氏是非辞職を主張する場合ハ渋沢家より候補者を出すべ
 - 第54巻 p.96 -ページ画像 
しと内約したり
○下略
  ○中略。
十二月十二日 水 曇
出勤
前十時、磐城炭礦重役会ニ出席、総会ニ提出する報告書並計算書ニ就き協議し、配当金を八分と決定す
○下略
  ○中略。
十二月廿五日 火 晴
出勤
午後一時、磐城炭礦重役会
同二時、株主総会久原ビルデイングに於て開催、浅野社長議長席ニ就キ諸般の報告を為し、次て監査役を代表して小生より検査異情なき旨を述へ、凡て原案の通可決、次て取締役尾高・白石・渡辺・石井の四氏改選、孰れも重任ニ決す
○下略


(増田明六)日誌 大正一三年(DK540029k-0004)
第54巻 p.96-97 ページ画像

(増田明六)日誌  大正一三年      (増田正純氏所蔵)
二月十七日 日 晴
○上略
独りて朝食を了り新聞を見て居ると、尾高幸五郎氏の使者として井田君が尋ねて来た、磐城炭礦の取締役を予て辞任し度き意念を有して居らるゝので、此際辞表を出して置きたけれハ取次き呉れとの依頼なりしかば、快諾して預りたり
○下略
  ○中略。
二月廿三日 土 曇
○上略
午後、磐城炭礦会社ニ至り渡辺・倉田両専務に会見、取締役尾高幸五郎氏より小生ニ託されたる辞表を手付す、尾高氏ハ老齢の故を以て昨冬来同社退任の希望あり、十一月の重役会席上其意を洩らされしが、他重役一同より切ニ留任の懇談もあり、且現時三井系又ハ地方株主系主として平方面より候補者推薦談ありて、今同氏の辞意を発表するニ於てハ、之等より直ニ運動を起す懸念あるを以て、両専務としてハ是非後任を渋沢家より推薦せられたしとの内談ありしかは、此旨渋沢子爵ニ申出、嘗て浅野社長より篤二様推薦の希望もあり、且現重役ハ孰れも篤二様御知己の人々なれハ此際御引受相成るハ至極適当と思ハるる旨言上したるニ、子爵ニ於ても同意せられしたり《(衍)》、依て右の次第尾高氏にも亦両専務にも談し、尾高氏辞表ハ暫時提出見合ハせ、篤二様受任と決したる上の事ニせんと決したり、然るニ尾高氏一月三日以後病気にて引続き臥褥療養中ニて重役会ニ出席難致、職責を尽す事能ハさるニ重役報酬を受くるハ不本意なれハ、至急前打合ハセ通篤二様ニ就任を願ひ度、就てハ辞表も一度提出致度と井田英一氏を以て申越あ
 - 第54巻 p.97 -ページ画像 
りしを以て、此上同氏ニ心配を掛くるハ宜しからずと之を預り、本日両専務ニ相談ニ赴きし次第なり
両専務の意向ハ、篤二様後任者たる事を切望し、小生より是非子爵ニ願ひ呉れ、御内諾を得たる上、両氏ニ於て改めて願意子爵ニ可申出との事なりしかは、之を承諾したり
  ○中略。
六月三十日 月 晴
前十時、尾高豊作氏を訪問する、尾高幸五郎氏磐城炭礦会社取締役辞任ニ関スル件ナリ
  ○中略。
十二月十日 水 晴
○上略
磐城炭礦ニ渡辺・倉田両専務を訪ひ同社尾高氏補欠として白石氏○喜太郎推薦ノ件明日の重役会ニ協議せられたしと強談したり
十二月十一日 木 晴
○上略
後五時、浅野総一郎氏を帝国ホテルニ訪ひ、磐城炭礦尾高重役補欠選挙ニ白石喜太郎氏を推薦せん事を協議したるが、本日の重役会ニ於て来十五年六月迄之が選挙を為さゝる事ニ決したれハとて同意せさるニ付き、渋沢家の代表者として就任しありたる尾高氏の後任ニハ是非白石氏を推薦する旨を堅く主張し、深く記憶せられ度旨懇話したり
(欄外記事)
[前十時磐城炭礦重役会ありしも、飛鳥山邸会合の為め不参したり
  ○中略。
十二月廿六日 金 雨
○上略
午後二時、磐城炭礦会社の同社ニ於ける総会ニ出席、監査役として監査の結果を報告す、総会終了後山元の株主を代表して高岡唯一郎氏より同地方株主代表者を重役又ハ顧問として一人加へられ度希望を述へ次期重役改選の際ハ是非実現ある様予め申込置くとの発言ありたり
○下略


(増田明六)日誌 大正一四年(DK540029k-0005)
第54巻 p.97-98 ページ画像

(増田明六)日誌  大正一四年      (増田正純氏所蔵)
二月廿一日 土 晴
午前十時、磐城炭礦会社重役会ニ出席す、大日本炭礦会社の藤原炭礦売却談あり、又採炭会社の無煙炭礦合併談もあり、孰れも調査する事とし、然る上改めて協議すべしと為れり
○下略
  ○中略。
一日○五月 金
○上略
磐城炭礦重役会
 午前十時、同社ニ於て開催、茨城採炭会社の石炭販売委託引受の案を決議す
 - 第54巻 p.98 -ページ画像 
○下略
  ○中略。
十一日○一一月 水 雨              出勤
本日の面会者と要件
一山本栄男 同氏と磐城炭礦との訴訟事件ハ、本日の判決に於て同氏の勝訴となつた事を子爵に報告の為め(先年子爵が仲介の位置に立つた事があつた為めである)
○下略
  ○中略。
十二日○一二月 土 晴              出勤
朝、飛鳥山邸ニ子爵拝訪、今夕より磐城炭礦と茨城採炭との合併引継財産調査の為め出発する事を御届して承認を得たり
○中略
午後六時五分上野発列車ニて角地藤太郎・安達市正両君同道、茨城採炭会社ニ向ふ、午後十一時半高萩駅安着、直ニ出向の軽便鉄道ニ投し夜陰を冒して同十二時十分千代田倶楽部ニ着す、先着の倉田亀吉・渡辺六蔵の両氏ニ迎へられ、雑談の後一時就寝す
○下略
十三日 日 晴                  茨城
午前八時、水野出張所長の案内ニて、渡辺・倉田両氏と共ニ先つ千代田炭礦事務処ニ赴き、磐城炭礦への引継目録ニ依り、各科目毎ニ現品並ニ権利証書を突き合ハセ、其正確なるを認めたる上、物品供託所ニ至り、帳簿上の残と現品との抜検査を執行す、幾分相違の点ありしが特ニ記すべき程の事ニあらす、斯くして千代田・重内両地の必要部分を監査し、夜九時湯本ニ赴く、明日以後の監査ニ便せんが為めなり、松栢館ニ投宿
十四日 月 晴                  湯本
午前八時、平発電所視察並ニ同所の現在品調査を了し、夫より綴・内郷・町田・高坂・住吉の各炭坑所ニ於ける材料及販売所品の調査を為し、又経理部保管の預金及現在金を帳簿と突き合ハセたり、午後五時終了帰宿
○下略
十五日 火 晴                 小野田
午前八時小野田炭礦ニ於ける現金・物品・杭木等を帳簿と現在数と突き合ハセ、長倉ニ於ても同様査閲を了し、午前十一時半湯本出発、午後六時半帰京○下略