デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代

2部 実業・経済

6章 対外事業
2節 支那・満洲
4款 中国興業株式会社
■綱文

第54巻 p.545-547(DK540101k) ページ画像

大正2年10月27日(1913年)

是ヨリ先、中華民国ニ於ケル南北抗争ノ結果、北方派ノ勝利ニ帰シ、孫文一派ノ勢力ハ凋落スルニ至ル。是日、外務次官官邸ニ於テ、栄一及ビ外務次官松井慶四郎・大蔵次官勝田主計・当会社副総裁倉知鉄吉・横浜正金銀行頭取井上準之助等相会シ、右情勢ノ変化ニ対処スベキ当会社ノ方策等ニ関シ協議ス。


■資料

中日実業会社書類(二)(DK540101k-0001)
第54巻 p.546 ページ画像

中日実業会社書類(二)          (渋沢子爵家所蔵)
(写)
    大正二年十月二十七日外務次官
    官邸ニ於ケル協議要項
          午後三時半集会
 出席者
  松井外務次官      小池政務局長
  勝田大蔵次官      山崎理財局長
  水町日銀副総裁(欠席) 井上正金頭取
  渋沢男爵        山本条太郎氏
  倉知鉄吉氏
一、中国興業株式会社ノ件ニ関シテハ大体左ノ通措置スルコト
 既定ノ方針ニ基キ、株式ヲ広ク北方其他支那全国有力者ニ配分スルヲ主旨トシ、左ノ方法ヲ講スルコト
 取締役王一亭、張人傑両氏及監査役沈縵雲氏辞任ノ結果、取締役四人(印錫璋氏ハ留任)監査役二人ノ欠員アルヘキニ付、其中ニ北京政府関係者ヲ加フルコト
 全国有力者ヲ支那側相談役ニ推挙スルコト
 会社ノ組織ニ付テハ可成現状ヲ維持スルヲ主旨トスルコト、若シ先方ヨリ拡張ノ申出アリ之ニ応スル必要アル場合アルトキハ、資本総額七百万円迄ノ拡張ニ同意スルコトヽシ、日本側拡張株式ハ東亜興業会社ノ合併株ヲ以テ之ニ充ツルコトニ協定スルコト
 以上ノ協議ハ之ヲ大体ニ止メ、委細ノ手続ハ在上海支那側幹部ニ於テ之ヲ取ルヘキコトニ協定スルコト
 支那政府ニ於テ中国興業会社ヲ日支実業聯絡ノ機関トシ、之ニ十分ノ便宜ヲ与フル旨ヲ諾セシムルコト
二、先方ヨリ中日銀行設立ノ件ヲ提議セルトキハ、之ニ対シ賛否ノ確答ヲ与ヘス、主トシテ支那政府ノ態度等ヲ確ムルニ努ムルコト
三、場合ニ依リ左ノ件ニ関スル大体ノ談話ヲナスコト
 (イ)製鉄事業ノ件 附漢冶萍ノ件
 (ロ)石油事業ノ件
 (ハ)幣制顧問ノ件
 (ニ)福建鉄道ノ件
 (ホ)安正鉄道ノ件
四、場合ニ依リテハ留日支那留学生ニ関スル相当ノ設備ヲナスヲ約シ差支ナキコト
五、支那商品陳列館設置ノ件ニ付テハ、之ニ援助ヲ与フルコトヲ諾シ差支ナキコト
六、支那側ニテ実業家ノ日本観光団ヲ送ル意アラハ、之ヲ歓迎スヘキ旨言明シ差支ナキコト


当社の沿革 三(DK540101k-0002)
第54巻 p.546-547 ページ画像

当社の沿革 三           (中日実業株式会社所蔵)
九月上旬南京を克復し、国民党の勢力を一蹴しまりたる北京政府は、
 - 第54巻 p.547 -ページ画像 
同月二十七日議院法を公布し、十月四日議会に於て予て憲法起草委員会の制定せる大総統選挙法を通過し、翌五日之を公布し、六日正式大総統の選挙を行ひ、出席者七百三十一名中五百七票を以て袁世凱氏当選したれは、即夜日本を第一に英国・独逸・西国・瑞典・白国・露国・仏国・葡国・澳国・伊国・丁抹の十三ケ国は順次に中華民国を承認し其翌七日副総統の選挙を行ひ、黎元洪氏当選せるが、既述の如く「袁氏は曾て実業視察を名とし李盛鐸・孫宝琦の二氏を日本に派し、視察旁々当会社創立の状況等見聞し、将来北方政府が之に加入すべきやを仄めかし帰燕せしが」国民党惨敗後は駐日公使汪大燮氏より当会社を北方の手に収め、中国の実業開発に資し度希望を我が政府筋に申込み来れり、渋沢男爵はしめ関係者一同は当初孫文氏との打合せを重んじ成るべく現在の組織にて進み度も、孫氏一派凋落の今日、民国に於ける諸事業に対し、到底染手なし難ければ、一応孫氏の意向を探り、若し同意なれは北方加入を承諾し、会社の基礎を鞏固ならしめ、進んで本来の目的たる実業の開発に着手し、日支経済聯盟の本旨に副はんとの事にて、広東に在りし孫文氏に書面を出すと共に、北方側との交渉を進めしか、十月二十七日左の諸氏は外務次官々邸に集合し、慎重協議を擬すことゝなれり
 松井外務次官・小池政務局長・勝田大蔵次官・山崎理財局長・水町日銀副総裁(欠)・井上正金頭取・渋沢男爵・山本条太郎氏・倉知当社副総裁
当日の協議事項は凡て六項なりしか、中国興業株式会社の件に付ては大体左の通措置することに決議したり
○中略
其後孫文氏より大体左の如き回答に接したり
 若し北京政府に於て当会社の性質を十分に理解し、当社を以て両国実業聯契の唯一機関とし、之によりて中国未開の富源を拓き、国民の福祉を増進し、日支共存共栄の実を挙くる決意あれは、仮令政治上反対の地位に在るも、元来政治と経済とは別個の問題なれは、此際北方の加入は喜んて之に応することに同意すべく、又先方の希望ならば、現株主は潔よく其持株全部を北方に譲渡するも亦何等の異存なし、要するに両国有志が中国に於ける実業開発の目的を以て組織せし此機関が健全なる発達を遂け、之によりあらゆる中国諸般実業の整備と発展に資する所あらは欣懐とする所なり、随て国民党一派の之に関与すると否とは固より問題となさす
と快く当方の提議を応諾し、尚進んで応分の援助をも辞せすと