デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

大正13年7月21日（1924年）

是ヨリ先、中華民国側ニ於テ、青島大学設立ノ企図アリ、右ニ関シ、是月十四日付書翰ヲ以テ、外務省対支文化事務局長出淵勝次ヨリ、之ガ助成方ニ関スル当協会ノ意見照会アリ。是日、当協会幹事会ヲ開キテ協議ス。栄一、出席ス。右協議ノ結果ニ基キ、八月九日付書翰ヲ以テ回答ス。

日華実業協会往復（一）　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
拝啓
青島大学ノ件ニ関シ、外務省ヨリ別紙○次掲　ノ通リ照会ニ接シ、右ニ対スル本協会ノ意向決定ノ為メ
来ル七月二十一日（月曜日）正午ヨリ、当事務所ニ於テ幹事会相開キ御協議願度、乍御繁用中重要問題ニツキ何卒御繰合セ御臨席奉願候
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　敬具
　　大正十三年七月十七日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　日華実業協会
　　　　渋沢会長殿
　尚当日例ノ通リ粗餐ノ用意致置候

日華実業協会往復（一）　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
　文化機密第九〇号
　　大正十三年七月十四日
　　　　　　　　　　　　　対支文化事務局長　出淵勝次
　　　日華実業協会
　　　　会長子爵渋沢栄一殿
　　　　青島大学設立ニ関スル件
本件ニ関シ今般別紙写ノ通リ、在青島堀内総領事ヨリ申越ノ次第有之候間、委細右ニテ御承知ノ上、何分ノ御意見至急御回示相成度、此段申進候也
（別紙、写）
　機密第六五号
　　大正十三年七月一日
　　　　　　　　　　　　　在青島　総領事　堀内謙介
　　　　外務大臣男爵幣原喜重郎殿
 - 第55巻 p.293 -ページ画像 
　　　　青島大学設立ニ関スル件
青島大学設立ニ関シ、其後右大学設立関係者ノ談話、及漢字新聞記事等ヲ綜合スルニ、本校経営ノ任ニ当ルヘキ董事ハ、膠澳商埠督辦高恩洪ノ外
　山東省議会副議長　　　　対外貿易商　　　　宋伝典
　済南商埠商会長、東莱銀行済南支店長　　　　于耀西
　青島総商会長、山東銀行支店長
　青島地方銀行経理其他　　　　　　　　　　　隋石卿
　祥泰木行長　　　　　　　　　　　　　　　　伝炳昭
　膠済鉄路局長　　　　　　　　　　　　　　　邵恒濬
　膠済鉄路機務処長　　　　　　　　　　　　　孫炳炎
　東莱洋行、東莱銀行　　　　　　　　　　　　劉子山
　膠澳電気公司経理、怡和洋行買辦　　　　　　宋雨亭
　膠澳電気公司総理　　　　　　　　　　　　　王子雍
　青島中学校長、青島大学籌備主任　　　　　　孫広欽
等ニシテ、此外名誉董事トシテハ呉子王・熊潤丞・鄭薀卿・羅文幹・王子春・雲鵬・孫幹臣及鄧芝園ニ委嘱セル趣ニ有之候
右董事等ハ去ル五月二十九日籌備大会ヲ督辦公署ニ開催シ、商議決定シタル事項左ノ如シト云フ
（一）学校々舎ハ差向キ万年兵営トス
（二）大学科目ハ文農工商四科トシ、先ツ商工二科ヲ開設スルコト
　（甲）文科ノ参考書ハ、目下当地ニ居住中ノ康有為カ曩ニ蒐集シタル図書価格十万元ノモノヲ、約二万元ニテ譲リ受クルコト
　（乙）　農科試験地ハ青島農事試験場及附属ノ森林ヲ以テ之ニ充ツルコト
　（丙）　工科試験場ハ膠済鉄路局四方工場ヲ以テスルコト
　（丁）　商科ノ実習ハ在青島関係官庁及商店ヲ利用スルコト
（三）　経費ニ関シテハ、前記董事ヨリ一般ニ対シ、寄附方勧誘ヲナスコト
（各董事ニ於テモ夫々巨額ノ金員寄附方申出テタル趣ナリ）、尚此外各国領事ニ寄附金募集方ヲ依頼スルコト
（四）　学校ハ私立トシ、政界変動ノ影響ヲ避ケ、以テ青島大学トシテノ特別ナル伝統的精神ノ確立ニ努力スルコト
（五）　学生ハ主トシテ南洋方面ニ在ル所謂華僑ノ子弟ヲ招募シ、其父兄ヲシテ青島及青島大学ト特異ノ関係ヲ結ビ、且大学ヘモ将来相当ノ捐助ヲ為サシメ、尚両地内経済的連絡ヲ図ルコト
其後六月初、米国亜細亜艦隊旗艦「ヒユーロン」ノ青島ニ入港スルヤ高督辦ハ同艦隊司令官「ワシントン」氏ヲ招待シ、同司令官ニ対シ青島大学援助ノ為米国庚子賠款返還金中ヨリ出捐方ヲ米国公使ニ勧説スル様依嘱シ、其快諾ヲ得タル趣ノ処、其後右公使館書記官ヨリ高督辦ニ対シ、本件ハ有望ニ進行シツツアル旨通報越シタル趣ニ有之候、六月一日青島中学校ハ先ツ万年兵営ニ移転シ、更ニ青島・済南・北京・南京ニ於テ大学予科（商工両科）学生二百八十名並ニ附属ノ右中学校及新設女子中学校ノ生徒等夫々募集方新聞ニ広告シタルカ、九月一日ヨリ開校予定ノ趣ニテ、差当リ校舎修繕ニ要スル経費ハ高督辦ヨリ二
 - 第55巻 p.294 -ページ画像 
万元、劉子山ヨリ一万元ヲ支出スルコトトナリ、尚又高督辦ハ右大学経費ニ寄附ノ為、同人所蔵書画ヲ売却計画中ナル趣ニ御座候
尚右大学籌備主任孫広欽ノ本官ニ語ル所ニ依ルニ、米国政府ハ早晩前記賠款返還金ヨリノ出捐ヲ承認スルニ至ルモノト思料セラルル処、万一右実現スルニ至レハ、本大学ノ自然純米国式色彩ヲ帯ヒルニ至ルヘキモ、右ハ本校経営者ノ本意ニ非ス、日本ニ於テハ曩ニ青島商科大学設立ノ計画サヘアリシニ顧ミ、此際日本民間ノ有志、或ハ対支文化事業費中ヨリ相等ノ金員醵出ヲ得度キ希望ニテ、同人ハ追テ右運動ノ為日本ニ赴キ度キ考ナル趣ニ有之候
本校設立ニ関シテ、民間側ニ多少反対ナキニアラサルモ、高督辦ノ如キハ頗ル熱心ナル意気込ニテ、常ニ本官等ニ対シ籌備経過ノ説明ヲ怠ラス、今日ノ模様ニテハ大体本校成立ノ見込アルヤニ思料セラルル処往年日華実業協会ノ計画ニ係ル青島商科大学ノ設立ハ、其後経済界不況ノ為一頓挫ヲ来シ、殊ニ震災後ノ本邦民間資力ニ鑑ミ遽ニ之カ実現ヲ期シ難カルヘク、又若シ青島大学設立後ニ至リ、我カ計画ヲ実施セントスルモ、所謂屋上屋ヲ架スルノ譏ヲ免レサルヘク、支那自発ノ事業ヲ助成スルコトコソ却テ日支文化提携ノ本義ニ副フ所以ナルヤニ被思料候、就テハ此際一ハ日華実業協会素志ノ一端ヲ貫徹シ、又一ハ我国トノ貿易関係密接ニシテ多数ノ在留邦人ヲ有スル当商埠ニ於テ、日支ノ文化的連絡ヲ扶植センカ為、同協会関係ノ民間有力者、又ハ対支文化事業費等ヨリ相等金額ヲ支出シ、本件支那側ノ事業ヲ援助セラルルコト極メテ機宜ノ御処置ナルヤニ被存候、就テハ右篤ト御詮議ノ上関係ノ向ト可然御商議相成リ、何分ノ儀御垂示ヲ得度、尚本件ニ付今後本官ノ執ルヘキ態度ニ関シ、何等心得置クヘキ点有之候ハハ至急御訓達相煩度、此段報告旁々及禀申候　敬具

集会日時通知表　　大正一三年　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
七月廿一日　月　正午　日華実業協会幹事会（同会）

日華実業協会第四回総会報告書　　第三〇頁大正一三年一二月刊
　　　　大正十二年六月以降
　　　　　　役員会及諸会合報告
○上略
役員会　七月二十一日○大正一三年正午、渋沢会長・白岩、黒川・倉知・森・角田各幹事出席ノ上、支那側ノ青島大学計画ノ件ニツキ協議ス
○下略

日華実業協会往復（一）　　　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
　　大正十三年八月九日
　　　　　　　　　　　　　　　　　日華実業協会
　　　　　　　　　　　　　　　　　会長子爵渋沢栄一
　　　外務省
　　　　対支文化事務局長　出淵勝次殿
青島大学設立ニ関スル七月十四日附文化機密第九〇号貴翰正ニ落手、
 - 第55巻 p.295 -ページ画像 
堀内青島総領事ノ具申書ト共ニ逐一拝誦仕候
弊協会ハ曩ニ山東還付ニ際シ、文化事業ヲ創メテ一紀念事業トナシ、兼テ支那人材ノ養成ニ貢献スヘキ見込ニテ、商科大学設置ヲ画策シ来リ候ハ、夙ニ御詳知被下候通ニ御座候、然ル処、其後本邦経済界ノ不況ニ次テ大震火災ノ為、右計画遂行上一頓挫ヲ来シ、之レカ実現ヲ期シ難キ状態ト相成居候ハ誠ニ遺憾ニ堪ヘサル次第ニ御座候、此時ニ方テ支那有力者ノ自発的企図ニヨリ青島大学設立ノ挙アルハ、弊協会ニ於テモ素ヨリ賛助スヘキ義トハ存候得共、本年々初以来、上海中華学芸社ノ企画セル学芸大学ノ設立ハ、其主旨弊協会ノ所見ニ適合シ、彼我文化的連絡上有力ノ施設タルヘキヲ思ハシメ候ノミナラス、一面本邦留学出身者ヲ幇助進展セシメ、我朝野多年ノ期望ヲ完成スル所以ナリト思料致候ニ付、弊協会ハ曩ニ同社ノ希望ヲ容レ、過月来委員ヲ設ケ、同大学ノ援助ニ付協議中ニ有之、目下ノ経済界ニ於テ此際更ニ進ンテ青島大学ヲ援助スルハ至難ノ事ト推察致居候
事情右ノ如ク候得ハ、青島大学ニ対スル弊協会ヨリノ援助ハ、不本意乍ラ此際謝絶スルノ外無之モノト御諒察ノ上、堀内総領事ニ対シ可然御答被成下度願上候
右貴答迄如此ニ御座候
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　以上