デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

大正13年9月2日（1924年）

是ヨリ先、外務省亜細亜局長出淵勝次ヨリ、八月二十六日付書翰ヲ以テ、青島旭兵営ヲ中華民国側ニ返還ノ件ニ関シ、当協会ノ意見照会アリ。是日、当協会幹事会ヲ開キテ協議ス。栄一、病気ノタメ出席セズ。五日栄一、当協会幹事角田隆郎ヨリ、右協議ノ結果ニツキ報告ヲ受ク。

日華実業協会往復（一）　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
拝啓
在青島旭兵営ノ件ニ付、外務省出淵局長ヨリ別紙ノ通リ申越ニ接シ候ニ就テハ、追而次回幹事会ニ於テ御協議願度、不取敢別紙写貴覧ニ入レ候　敬具
　　大正十三年八月廿七日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　日華実業協会
　　　　会長渋沢子爵殿
　追而次回幹事会ハ日取決定次第御通知可申上候
（別紙、写）
機密
拝啓　陳者先般在青島堀内総領事ヨリ、貴協会御計画ノ青島商科大学ハ、支那側ニテ別ニ青島大学設立ノ歩ヲ進メ居レルニ顧ミ、之ヲ開校スルノ得失ニ付篤ト考究ヲ要スヘク、若シ貴協会ニ於テ本計画実行ノ御意嚮無之ニ於テハ、予テ本計画ノ為メ留保シアル旭兵営ヲ支那側ニ返還シ、之ト交換的ニ現在一ケ年ヲ限リ支那側ヨリ借用中ノ第二小学《＊》
 - 第55巻 p.296 -ページ画像 
校土地建物ヲ其儘引続キ借受クル事得策ニテ、目下支那側ニテ青島大学設立ノ為メ校舎ヲ必要トシ居ル実情ニ顧ミ、此機会ヲ捉ヘ取急キ支那側ト商議ヲ進ムル事ト致度旨稟申ノ次第有之候ニ付、御詮議ノ上何分ノ義至急御回示相煩度、此段得貴意候　敬具
　　大正十三年八月廿六日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　外務省
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　出淵亜細亜局長
　　日華実業協会会長
　　　　渋沢子爵殿
＊（欄外記事）
　（栄一墨書）
　第二小学校ノ土地建物トハ其ノ面積及形状等明瞭ニ記憶ナキニ付説明アリタシ

日華実業協会往復（一）　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
拝啓
　　　　幹事会開催ノ件
来ル九月二日（火曜日）正午、当事務所ニ於テ幹事会開会、左記事項ニツキ御協議願度、御繁用中乍ラ何分重要事項ニモ有之、御繰合セ御臨席奉願候　敬具
　　　　　　左記
　一、青島旭兵営ニ関シ外務省ニ回答ノ件
　二、雑誌「支那時事」及漢口ニ於ケル漢字新聞「中報」ニ関スル件
　一、上海総商会回答、支那人入国問題ノ件
　　其他
　　　　　　以上
　　大正十三年八月廿九日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　日華実業協会
　追而、御手数乍ラ別紙ニ御出席御都合御返事願候

日華実業協会往復（一）　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
拝復　青島旭兵営ヲ支那側ニ還付スル件ニ関シ、八月二十六日付貴翰正ニ落手仕候
本協会計画ノ青島商科大学設立ニ就キテハ、曩ニ八月九日付拙書ヲ以テ申進候通リ、遺憾乍ラ当分之カ実現ヲ期シ難キ状態ト相成リ、一方支那側ニ於テハ、別ニ青島大学設立進捗中ニテ、校舎ヲ必要トスル実情ニ鑑ミ、此際旭兵営ヲ返還シテ、之ト交換的ニ現在借用中ノ青島第二小学校土地建物ヲ引続キ好条件ニテ使用ノ御交渉可相成義ハ、本協会トシテ別ニ異存モ無之候間、可然御進行被成下度候、右貴答迄如此ニ御座候　敬具
　　大正十三年九月　日
　　　　　　　　　　　　　　　　日華実業協会
　　　　　　　　　　　　　　　　　会長　子爵渋沢栄一
　　外務省亜細亜局長
　　　　出淵勝次殿

 - 第55巻 p.297 -ページ画像 

日華実業協会第四回総会報告書　　第三〇頁大正一三年一二月刊
　　　　大正十二年六月以降
　　　　　　役員会及諸会合報告
○上略
九月二日○大正一三年正午、役員会ヲ開ク、会長微恙ノタメ欠席サレ、幹事児玉・安川・白岩・奥村・森・森（広蔵）・黒川氏出席シ、左記事項ニツキ討議ス
　　一、青島商科大学ニ使用スヘキ旭兵営ニ関シ、青島総領事ヨリノ申越ニ対スル協議ヲナシ、支那側青島中学校々舎トシテ貸与ノ事ニ決定ス
　　一、支那労働者入国問題ニ関シ、上海総商会ヨリノ回答書ニツキ協議
　　一、在漢口中報会ノ件ニツキ協議ス
　　一、在支協会々員ノ件
　　一、関係銀行会社ニ日本留学出身採用方針《（者脱カ）》ニ関スル件
○下略

日華実業協会往復（一）　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
　　　　記
角田隆郎氏兜町事務所ニ来訪、去二日開催ノ日華実業協会幹事会ニ於テ決定セル別紙
　（一）八月二十六日付出淵亜細亜局長ノ来状ニ対スル協会ヨリノ返事案
　（二）八月九日付対支文化事務局長出淵氏宛書状案ヲ呈示セラレ、渋沢子爵ハ共ニ承認シタリ
尚雑誌「支那時事」ニ協会記事ヲ掲載セシメ、其代月額金参百円宛補助ノ件ニモ承認ヲ与ヘラレタリ
　　大正十三年九月五日
　　○別紙前掲。

日華実業協会往復（一）　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
　　大正十三年五月廿八日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　日華実業協会
　　　　一、青島旭兵営支那側ヘ貸与契約ノ件
右ニツキ左記ノ通リ外務省ヨリ通知有之候間不取敢御報告申候　敬具
　機密
　拝啓　陳者在青島旭兵営支那側ヘ貸与期間一ケ年延長ノ件ニ関シ、貴協会側ニ於テ何等御異存無之旨本年一月卅日附貴翰御申越ノ次第有之候処、右ニ関シ今般在青島堀内総領事ト高督辦トノ間ニ別添写ノ通リ契約書交換ヲ了シタル趣ニ付キ、委細別紙ニ就キ御承知相成度、此段不取敢得貴意候　敬具
　　大正十三年五月廿一日
　　　　　　　　　　　　　外務省亜細亜局　栗野第一課長
　　　　日華実業協会　油谷恭一殿
 - 第55巻 p.298 -ページ画像 
（別紙）
　　　　契約書
在青島大日本帝国総領事堀内謙介（以下甲ト称ス）ハ、大中華民国政府ヨリ無償租借セラレタル青島商科大学校舎ノ一部転貸ニ関シ、大中華民国膠澳商埠督辦高恩洪（以下乙ト称ス）ト左記ノ契約ヲ締結ス
第一条　甲ハ乙ニ対シ別紙目録所載ノ不動産及動産ヲ無償貸与シ、職業学校ノ用トス
第二条　貸与期間ハ大正十三年四月一日（即チ民国十三年四月一日）ヨリ大正十四年三月三十一日（即チ民国十四年三月三十一日）迄トス、其時乙ハ須ク契約ノ期日ニ準シ甲ニ返還スヘシ
第三条　貸与期間中貸与物件ノ維持修繕ニ要スル費用ハ一切乙ノ負担トス
第四条　乙ハ貸与期間中過失ニヨリ貸与財産ニ生セシメタル損害ニ対シ復旧ノ義務ヲ負フモノトス
第五条　貸与不動産ニ模様替其他原形ヲ変更スヘキ施設ヲ為サムトスル時ハ、乙ハ予メ甲ニ通告スルコトヲ要ス
　前項ノ施設ニ要シタル費用ニ関シテハ、乙ハ特約アル場合ノ外甲ニ負担セシムルコトヲ得ス
以上ノ契約ヲ確守スル為メ、本書日本文及支那文各二通ヲ作成シ、署名捺印ノ上双方日支両文各一通ヲ領置スルモノトス
　　大正十三年四月一日
　　中華民国十三年四月一日
　　　　　　　　　　　　　　　　　貸下者　堀内謙介(印)
　　　　　　　　　　　　　　　　　借受者　高恩洪(印)
　　「支那文契約書省略」