デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

大正15年2月19日（1926年）

是日栄一、当協会書記長油谷恭一ノ来訪ニ接シ、中華民国特別関税会議ニ関シ、重ネテ当協会ヨリ政府当局ニ提出スベキ意見書ノ閲覧ヲ請ハル。

渋沢栄一　日記　　大正一五年　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
二月十九日　晴　寒
午前七時半起床洗面ノ後朝飧ヲ取ル、日華実業協会油谷恭一氏来リ、同会ヨリ外務大臣ニ進達スヘキ支那関税問題ニ付テノ意見書ヲ一覧シ同意ヲ表示ス○下略
　　○中略。
三月四日　曇　寒
○上略十一時事務所ニ抵リ○中略　日華実業協会油谷氏来話ス○下略

日華実業協会往復（一）　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
　　　　　　　　　　（栄一鉛筆）
　　　　　　　　　　十五年二月十九日油谷氏持参、一覧ノ上異議ナキニ付、児玉副会長ヘ申通シ早々先筋ヘ進達致候様打合候事
　　大正十五年二月　日
　　　　　　　　　　　　　　日華実業協会
　　　　　　　　　　　　　　　　会長　子爵渋沢栄一
　　　外務大臣
　　　　男爵　幣原喜重郎殿
 - 第55巻 p.412 -ページ画像 
　　　　支那特別関税会議ニ関スル意見
謹啓
支那特別関税会議ニ対シテ曩ニ所見上申仕候処、同会議ノ進捗ニ伴ヒ更ニ慎重熟議ノ上、別紙ノ通リ愚見開陳仕リ候間、御採択ヲ蒙リ度奉願候　敬具
（別紙）
　　　　支那特別関税会議ニ対スル意見
一、関税自主権回復並ニ厘金撤廃
　支那ノ現状ニ鑑ミ完全ナル厘金廃止ハ其ノ実行至難ナル可ク、現ニ昨年十二月一日ヲ以テ開始セラルヘキ厘金廃止ニ関スル調査ノ未ダ実行ニ着手セラレサル状態ヨリ見テ、三ケ年後ニ於テ厘金ハ完全ニ撤廃セラレサル場合ニ於テモ、支那側ハ国定税率ノ実施ヲ迫リ、為メニ国際間ノ紛擾ヲ醸シ、独リ吾邦ノミ苦境ニ立ツコトトナルヤモ計リ難キニ依リ、厘金廃止ハ単ニ支那側ノ声明ノミニ止ラス、自主権恢復ト関聯シテ支那政府ニ於テ履行ス可キ重大ナル条件タラシムルコトヲ確保セラルルコト最モ肝要ト認メ候
一、日支互恵協定ニツキ
　三ケ年後ニ於テ厘金廃止ヲ完了セスシテ、支那側ヨリ国定税率ノ実施ヲ迫ル場合ヲ予想シ、之ニ処スル為メ、此ノ際先ツ以テ互恵協定ノ交渉ヲ完成シ置キ、尚税関首脳部ニ邦人ヲ入ルル等、予メ之ニ応スヘキ対策ヲ樹テ置ク事必要ト認メラレ候
　叙上日支互恵協定ハ、将来ノ実行ヲ確保スル為メ其顛末ヲ一般関税会議ニ公表シ、関係列国ノ確認ヲ得置クコト必要ナリト存セラレ候
一、吾カ不確実債務償還ニツキテ
　吾カ不確実債務整理ニ関シテハ、対外的ニハ順位等差ヲ置クコトナク、全部一律平等ノ形式ヲ以テ整理セラルルコト止ムヲ得サルト考フルモ、対内的ニハ民間実業借款及売掛代金ニ対シテハ他ノ借款ト区別シテ取扱ハルルコト至当ト思ハルルニ依リ、支那政府ノ発行スル整理公債ノ形式ニ付テハ、其ノ負担ノ範囲ニ於テ各国ノ自由ヲ保留シ置キ、我邦ニ対スル償還割当総額中、仮令ハ該公債ヲ数種ニ分チ、利率其他ノ点ニ於テ調節シ得ルコトニ特ニ協定セラレ度、要ハ民間関係債権金利並ニ期限ニ対シ格別ノ考慮ヲ払ハレ、速カニ我当業者ノ資力回復ニ資シ、将ニ来ラントスル各国ノ積極的経済競争ニ相当弾力ヲ有セシメラレンコトヲ必要ナリト思考致候
一、損害賠償
　従来暴動其他ノ不法行為ニ依リ邦人ノ受ケタル損害ニ対シテハ、其ノ賠償額ノ決定セル分ハ最優先的ニ支払ヲ為サシムル事
一、本邦重要輸出品ニ対スル附加税ヲ最低率ニ止ムルコト
　附加税ハ均一制ニ依ラス、差等税制ニ依リ徴収スルコトニ略決定セル由承知シ居レルカ、此ノ機ニ於テ直ニ関税剰余金ニ対スル使途ヲ精査シ、其ノ額ヲ明確ニ決定シ置キ、而シテ出来ル限リ本邦輸出品ニ有利ナル差等税率ヲ決定スルコト必要ニシテ、殊ニ別紙本邦重要輸出品ニ対シテ最低率二分五厘ニ止メラルルコト必要ト認メ候
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　以上
 - 第55巻 p.413 -ページ画像 
（別紙）
　　　　支那関税率引上ニ依リ影響ヲ受クヘキ本邦重要輸出品
一、影響重大ニシテ附加税ヲ二分五厘ニ止ムヘク、尚将来協定税率ノ適用ヲ要スヘキ品目
　　一、綿糸　一、各種綿製品　一、メリヤス類　一、布帛製品
　　一、絹襦子其他絹織物
　　一、銅及銅ノ合金系統ニ属スル加工品（金属性ボタンヲ含ム）
　　一、琺瑯鉄器　一、陶磁器及硝子類（硝子鏡ヲ含ム）
　　一、セメント
　　一、玩具類　一、洋傘　一、ラムプ及部分品　一、ブラツシユ類
　　一、洗濯石鹸
二、前記輸出品ニ次テ影響大ナルモノ左記諸品トス
　　一、砂糖　一、ゴム製品（ゴムタイヤー等）
　　一、電気機械・電気器具及絶縁電線　一、革及革製品
　　一、紙類及紙箱　一、帽子類　一、縫針　一、鉄・鋼材及其加工品
　　一、自転車　一、織布機　一、硫化曹達及其他化学薬品
　　一、昆布類　一、鰑鹹魚其他海産物　一、寒天椎茸

日華実業協会第六回会務報告書　　第二―四頁大正一五年一二月刊
　　　　第六回重要会務報告　大正十五年一月以降
　一、支那特別関税会議ニ関スル建議
　昨秋ヨリ北京ニ開催中テアリマシタ支那特別関税会議ハ、我カ対支経済貿易上ニ及ホス影響重大ト認メ、同会議ニ対シ政府当局ハ勿論関係各方面ト意見ノ交換ヲ致シ、屡次幹部会ヲ開キテ之カ対策ニツキ慎重審議致シ、其ノ結果当局ニ対シ建議致シマシタ次第ハ前回ノ総会ニ御報告致シマシタカ、其後同会議ノ進捗ニ応ジ屡次協議ノ上、本年二月更ニ左ノ要旨ニテ当局ニ建議シ、其ノ参考ニ供シマシタ
　　　　建議要旨○略ス
既ニ御承知ノ通リ、関税会議ハ進捗ノ中途ニテ、支那政局ノ混乱其他ノ原因ノ為メ、已往八ケ月間ノ列国会議モ何等ノ成果ヲ見ズシテ、本年七月遂ニ停会ノ止ムナキニ到リマシタ事ハ、民国ノ為メ誠ニ遺憾トスル所テアリマシテ、政局ノ安定ト共ニ速ニ会議ノ再開ヲ希望シテ止マナイ次第テアリマス
曩ニ同会議ニ関スル参考資料ヲ二回ニ亘リ会員各位ニ配布致シマシタカ、今回更ニ第三輯ヲ編纂致シ、会員各位ノ御参考ニ供スル事ト致シマシタ