デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

昭和2年8月6日（1927年）

是ヨリ先、中華民国ニ於ケル不当課税問題及ビ排
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日風潮起ル。是日栄一、当協会幹事会ニ出席シ、最近上海ヨリ帰京セル幹事荻野元太郎ヨリ、右ニ関スル報告ヲ聴取シタル後、対支商権擁護聯盟大会ニ、当協会代表者出席ノ件ニツキ協議ス。

次イデ十六日、日本工業倶楽部ニ於テ、当協会・対支商権擁護聯盟及ビ上海日本商業会議所ノ各代表者懇談会開カレ、東京ニ於ケル聯盟運動方法等ニ関シ協議ス。

日華実業協会第七回報告書　　第二七―二八頁　昭和二年一二月刊
　　　　役員会並ニ諸会合記録　（大正十四年十二月以降《（五）》）
○上略
　一、上海日本商業会議所決議来電、排日運動ニ対シ七月二十日本会ニ左ノ如ク来電アリタリ
　去月以来名ヲ山東出兵ニ籍《（藉）》リテ、上海ヲ中心トシテ南支各地ニ起レル排日運動ニ対シ、吾人ハ寛容ノ態度ヲ以テ之ニ臨ミ、彼等ノ自発的反省ヲ期待セシモ、最近ノ趨勢ヲ以テ之ヲ判スルニ、今回ノ排日ハ陽ニ民衆運動ヲ標榜スルト雖モ、其ノ実共産的色彩ヲ有スル政治的陰謀ナルコト明瞭ナリ
　即チ国民党中央執行委員会宣伝部・市党部・総司令部海軍政治部公安極東・南京政府各機関カ主動者トナリ、一般中国商人ハ毫モ之ヲ欲セザルニ拘ラス、脅迫手段ヲ以テ多数ノ団体ヲ糾合セル対日経済絶交大同盟ヲ組織シ、日貨登記所ヲ設ケ、且ツ日貨購買条令・官民懲罰条令等ヲ公布シ、唯々日貨排斥ニ止ラス、糧食其他各種原料ヲ日本人ニ供給スルモノアラハ、或ハ木籠ニ拘禁シ、或ハ貨物ヲ没収シ、或ハ苛酷ナル罰金ヲ課スル等、不当ナル刑罰ヲ制定実施シ、日ヲ経ルニ従ヒ愈深酷トナリ、邦人商社ニ対シ、日貨ハ勿論総テ輸出入貿易ヲ阻止シ、甚キニ至リテハ其ノ取扱ヒ貨物ヲ没収セシコト一ニ止ラス、更ニ進ンデハ食糧ノ供給ヲ断チ、且ツ支那銀行ヲ圧迫シテ、日常通貨ノ両替ヲ拒絶セシムルニ到レリ
　斯ノ如キハ吾人ノ生存権ヲ拒止セントスルモノニシテ、恰モ交戦国民ニ対スル態度ニ異ナラス
　吾人ハ斯ル国際信義並ニ人道ヲ無視セル彼等ノ暴挙暴涙《（戻）》ニ対シ、今ヤ断シテ黙視スルコト能ハサルノミナラス、南京政府ハ条約ヲ無視シ、最近輸出附加税・奢侈品附加税・石炭消費税・正税・現銀及雑穀輸出禁止令等、不当課税及ヒ不当法令ヲ陸続発布実施シ、此ノ儘看過スルニ於テハ、彼等ノ不法行為ハ将来益甚シカル可キハ明カニシテ、通商条約ニ依ル各国ノ権利ハ悉ク蹂躙セラルルノミナラス、延イテハ中国々民永遠ノ福利ヲ破壊スルニ到ル可シ、依リテ帝国政府ハ、排日運動並ニ彼等ノ暴涙《（戻）》ニ対シ、最モ強硬且剴切ナル方法ヲ以テ、南京政府ヲ糾弾セラレンコトヲ要望ス、尚時宜ニ依リテハ、従来ノ隠忍自重政策ヲ棄テ、官民一致、断乎トシテ経済的其他ノ報復手段ヲ以テ、之ニ対抗スル必要アリト認ム
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　右政府ニ建議セリ、目的達成方宜敷御配慮乞フ
○下略

日華実業協会往復（二）　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
拝啓
　　　　幹事会ノ件
来ル六日（土曜日）正午ヨリ、当事務所ニ於テ幹事会相開キ候間、暑中御多用中乍ラ御繰合セ御出席願候
当日ハ、最近荻野幹事社用ノ為メ上海ニ出張御帰京ニツキ、御視察談御願致置候間、御含置願候　敬具
　　昭和二年八月三日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　日華実業協会
　　　　渋沢子爵殿

集会日時通知表　　昭和二年　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
八月六日　土　正午　日華実業協会幹事会（同会）

中外商業新報　　第一四八九四号　昭和二年八月七日
　　日華実業協会が
　　　　不当課税に反対
　　　　　　対支商権擁護聯盟に加盟し
　　　　　　　　大会には代表者を派遣する
日華実業協会は、南方政府の不当課税問題並に対支問題対策講究の為六日正午丸の内同会事務所で幹事会を開き、渋沢・児玉正副会長以下各幹事出席、最近上海各地を視察して来た古河電気工業専務荻野元太郎氏から視察
　報告を　聴取した後、関西における大日本紡績聯合会外十五団体によつて組織された対支商権擁護聯盟からの聯盟加入方勧誘について審議した結果、同協会としては今日まで対支問題について色々研究もし政府当局に進言して来た関係上、今回聯盟組織趣旨には固より異議なく、大いに目的達成のため進んで賛意を表し、同協会代表して八日の聯盟大会には、日清汽船専務角田陸郎・古河電気工業専務荻野元太郎氏を派遣することに決し、南京政府不当課税反対に対する気勢を添へることとなつた、なほ同会長渋沢子は関西側の聯盟組織に進んで
　賛意を　表し、老躯出席は出来ない　○中略　特に、荻野元太郎氏報告は数字的に、極めて詳細に亘つたものであるが、その要項は次の通りである
　南京政府が来る九月一日を期し釐金撤廃、関税自主を実施する旨布告したが、これは明かに条約違反であつて、絶対に認むることが出来ない、近来支那は権利のみを主張して義務を全然負はないと言ふ無茶な行動のみを執つてゐる、この南京政府の布告による国定輸入関税暫行条例を実施さるとなれば、普通品は現行率五分の外に七分五厘、即ち一割二分五厘を課し、奢侈品は三割以内を増税されることゝなるのである、この結果わが対支貿易は莫大の
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影響を蒙むるは勿論であつて、恐らく対支輸出年額において四千四五百万円の減少を来すを免れない
と同時に、関税負担額は一ケ年少くとも三千八百万円の増額を余儀なくされやう、一方通過税撤廃する代りに国定輸入暫行税率と同率の出廠税を新たに課せらるゝ結果は、在支邦人経営の企業は根底から破壊され、全滅に陥るやも測られない、この結果投資額約二億円と註せらる上海の邦人経営紡績業を始め、各種企業の蒙むる打撃は莫大であるこれ等の事情に鑑み、我国は上記南京政府の新徴税に対し条約違反の下に絶対反対せざるを得ないと同時に、わが国は列国と共同
　動作の　下にこれ等不当課税を認めず、正税だけを納付し同時に関税収入の預金を外国銀行に限定し、南方政府の反省を促す必要がある

日華実業協会往復（二）　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
（印刷物）
　　　　決議
近年支那ニ於ケル内乱ノ頻発ニ伴ヒ条約違反ノ事例続出シ、殊ニ南軍ノ支配下ニ於テ最モ甚シキモノアリ、而カモ彼ノ南京事件・漢口事件ノ如キ不祥事ニ対シ、今尚何等解決ヲ与フルノ誠意ナキノミナラズ、最近南京政府ガ列国ノ抗議ヲ顧ミズ各種ノ不当附加税ヲ賦課シ、又近ク九月一日ヨリ擅ニ関税自主権ヲ行使シテ通商貿易ヲ妨害シ、出廠税ヲ設ケテ外人ノ企業ヲ撲滅セントスルガ如キハ、故意ニ通商条約ヲ蹂躙シ、国際信義ヲ無視スルノ暴挙ト謂ハザルヘカラズ、之ニ対シ若シ列国ニシテ従来ノ如ク徒ラニ隠忍自重、唯一片ノ抗議ヲ為スニ止メンカ、南京政府ノ外人ニ対スル侮蔑的態度ハ益々増長シテ、殆ンド底止スル所ナカルベク、在支外人ハ遂ニ支那ヨリ全部撤退スルノ已ムナキニ至ルベシ、之レ実ニ対支通商及企業上最モ重大ナル関係ヲ有スル我国民ノ断シテ忍容シ難キ所タルノミナラズ、同時ニ亦支那国民ノ福利ヲ増進セシムル所以ニアラズ
帝国政府ハ宜シク進ンデ列国ト協同シテ、先ヅ南京政府ニ対シ強硬ナル態度ヲ以テ其ノ反省ヲ促ガシ、条約ノ規定ヲ尊重セシムルノ方法ヲ講ズベシ、若シ夫レ列国ノ協調ニシテ不可能ナランカ、帝国政府ハ日支両国ノ政治的・経済的特殊関係ニ鑑ミ、断乎トシテ単独自衛ノ方策ヲ講ジ、以テ破壊セラレントスル我ガ商権ヲ擁護スベシ
　　昭和二年八月八日
　　　　　　　　　対支商権擁護聯盟大会
　　　　　　　（参加実業団体）　　日本安全燐寸同業組合　日本棉花同業会
　　　　　　　　　　　　　　　　　日本船主協会　　　　　日華実業協会
　　　　　　　　　　　　　　　　　大阪貿易同盟会　　　　大阪貿易協会
　　　　　　　　　　　　　　　　　大阪工業会　　　　　　大阪綿布商同盟会
　　　　　　　　　　　　　　　　　大阪綿糸商同盟会　　　大阪商業会議所
　　　　　　　　　　　　　　　　　大阪実業組合聯合会　　大日本紡績聯合会
　　　　　　　　　　　　　　　　　神戸貿易同業組合　　　神戸海陸産物貿易同業組合
　　　　　　　　　　　　　　　　　神戸商業会議所　　　　堺商業会議所
　　　　　　　　　　　　　　　　　在華日本紡績同業会　　京都貿易協会
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　　　　　　　　　　　　　　　　　京都工業同盟会　　　　京都輸出絹業会
　　　　　　　　　　　　　　　　　京都商業会議所　　　　京都実業組合聯合会
　　　　　　　　　　　　　　　　　輸出協会　　　　　　　輸出綿糸布同業会
　　　　　　　　　　　　　　　　　時事研究会　　　　　　兵庫県護謨製造同業組合
　　　　　　　　　　　　　　　　　和歌山商業会議所　　　　　　（イロハ順）

日華実業協会往復（二）　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
（謄写版）
　　　　不当課税ニ対スル上海商業会議所来電（八月十日）
南京国民政府ハ条約ヲ無視シ、愈九月一日ヨリ国定税率ヲ実施セントシツヽアルニツキ、我通商上ノ権利保護上九月一日以後ノ凡テノ正税領事館ニ供托シ、関税事務ヲ処理スル外途ナシト信ス、依テ帝国政府ニ於テハ列国中多少ノ反対アリトスルモ、利害ヲ共ニスル各国ト協調シ、若シ止ムヲ得ザルニ於テハ、単独ニテモ断行セラレンコトヲ切望ス、尚実行ニハ相当ノ準備ヲ要ス、時日切迫ノ際ナレバ至急御決定アランコトヲ望ム、右政府ニ請願セリ、宜敷御尽力乞フ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　上海商業会議所

日華実業協会往復（二）　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
（謄写版）
拝啓
　　　　対支商権擁護聯盟上京委員トノ会合ノ件
大阪対支商権擁護聯盟会ヨリ、左記実行委員上京ニツキ、来ル十六日（火）午前十時ヨリ、丸ノ内工業倶楽部ニ於テ、本会幹部各位ト会合協議致度旨申入有之候ニ就テハ、御多用中乍ラ同刻御繰合セ御出席被成下度、此段御案内迄得貴意候
尚当日ハ上海商業会議所代表者米里・倉田・船津・田辺諸氏モ出席ノ筈ニ候間、御含置願候　敬具
　　昭和二年八月十日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　日華実業協会
　　　　会長・副会長・各幹事
　　上京委員　喜多又蔵・村田省蔵・高柳杉一郎《（高柳松一郎）》・福本元之助・児玉一造・船阪八郎・森平兵衛・阪田幹太《（坂田幹太）》・滝川儀作ノ諸氏
　　（別筆）
　　追而当日午餐ハ同所ニテ当方之招待ノ事ニ致候間、御含置願候

日華実業協会第七回報告書　　第二八―三〇頁　昭和二年一二月刊
　　　　役員会並ニ諸会合記録　（大正十四年十二月以降《（五）》）
○上略
幹事会　八月六日正午、事務所ニ開会、渋沢会長・児玉副会長、其他各幹事出席
　一、南京政府ノ不当課税　社用ノ為メ上海ニ出張最近帰京ノ荻野幹事ヨリ南方政府ノ不当課税並排日風潮ニツキ詳細ナル報告アリ
　一、京阪神各地経済団体ニヨリ組織ノ対支商権擁護聯盟ノ趣旨ニ賛同スルト共ニ、八日ノ聯盟大会ニ対シ、協議ノ結果代表者トシ
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テ幹事荻野元太郎氏並ニ幹事角田隆郎氏出席ノ事ニ申合ス
商権擁護聯盟代表委員並ニ上海商業会議所代表者トノ懇談会　八月十六日午前十時、工業倶楽部ニ於テ開催ス
　（出席者）豊田利三郎氏・武居綾蔵氏・高柳松一郎氏・滝川儀作氏・村田省蔵氏・船坂八郎氏《（船阪八郎）》・福本元之助氏・三ツ矢勝次郎氏・坂田幹太氏・喜多又蔵氏・森平兵衛氏・宮島清次郎氏・持田巽氏・橋爪捨三郎氏
　上海日本商業会議所代表者、米里紋吉氏・船津辰一郎氏・田辺輝雄氏
　協会側、森弁治郎氏・白岩竜平氏・荻野元太郎氏・角田隆郎氏・奥村政雄氏・鈴木島吉氏ノ各幹事並ニ油谷書記長
東京ニ於ケル聯盟運動方法ニツキ協議ノ結果、京浜地方各経済団体ノ加盟ハ、東京商業会議所ノ斡旋ニテ、明十七日会議所ニ京浜地方各団体集合ノ事ニ打合セ、一同午餐ヲ共ニシ、更ニ上海代表者米里・船津両氏ヨリ、不当課税ニ関スル陳述趣旨説明アリ、又代表委員ハ予定ニ従ヒ夫々各大臣ヲ歴訪シ、運動ノ趣旨陳情ヲ為セリ
漢口日本商業会議所ノ不当課税ニ対スル決議来電　「這般南京政府ノ発表セル関税自主宣言及ヒ国定関税条令ハ明ニ国際条約ヲ無視セル不法行為ト認ム、而シテ彼ノ主張通リ近ク之カ実施ヲ見ルカ如キ事アラハ、武漢政府及ヒ北京政府又之ニ做《（傚）》フヘキハ毫モ疑ヲ入レス、果シテ然ラハ我対支通商及ヒ企業ハ根底ヨリ覆ヘサレン、依テ我政府ハ此ノ際断然南京政府ノ反省ヲ促シ、以テ関税自主宣言等ヲ取消サシムルト共ニ、更ニ進ンテ各政府現行ノ不当課税ヲ撤廃セシメラレンコトヲ切望ス」
○下略

日華実業協会第七回報告書　　第一一頁　昭和二年一二月刊
　　　　会務報告
　　　　　　第七回重要会務報告（昭和元年一月以降《（二）》）
○上略
　　一、商権擁護運動
南京国民政府ハ列国ノ抗議ヲ顧ミス、各種ノ不当課税ヲ賦課シ、為メニ通商企業上ニ多大ノ影響ヲ蒙リツツアリシカ、更ニ九月一日ヨリ関税自主権ヲ行使セントスル等、国際信義ヲ無視セル暴挙ニ対シ、京・阪・神地方ノ各経済団体ニ於テ商権擁護聯盟ヲ組織サレタルニ由リ、本協会ハ其ノ主旨ニ賛同シ、八月八日大阪ニ於ケル聯盟大会ニハ、本会代表者トシテ荻野・角田両幹事ニ出席ヲ乞ヒ、又聯盟ノ趣旨達成ニツキ斡旋シタルカ、南京政府ハ其後遂ニ内外ノ強硬ナル反対ニ鑑ミ、各種不当課税条令実施ヲ延期スルニ到リタリ
○下略