デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2020.3.6

1編 在郷及ビ仕官時代

2部 亡命及ビ仕官時代

4章 民部大蔵両省仕官時代
■綱文

第3巻 p.516-519(DK030130k) ページ画像

明治五年壬申八月(1872年)

造幣寮首長キンドル並ニ造幣権頭益田孝徳新鋳ノ金銀貨ニ竜顔ヲ彫鐫センコトヲ建議ス。栄一大蔵大輔井上馨ト共ニ之ヲ賛シ、十月正院ニ允許ヲ仰グ。許サレズ。


■資料

法規分類大全 第一編 政体門 制度 雑款三 第一五九―一六一頁(DK030130k-0001)
第3巻 p.516-517 ページ画像

法規分類大全  第一編 政体門 制度 雑款三 第一五九―一六一頁
 大蔵省伺 五年八月十三日
皇国貨幣ノ形状改正ノ儀ニ付、造幣寮首長キンドル並造幣権頭益田孝ヨリ別紙ノ通申出候ニ付篤ト熟考仕候処、右建議ノ趣旨ハ従来文明諸国普通ノ方法ニシテ其国民共同ノ重宝ヘ至尊ノ影相ヲ彫鐫シ、更ニ人民ノ貴重ヲ増シ候ハ素ヨリ天理人情相当ノ義ニ有之、方今百事御更張ノ際、御国於テモ早晩同規ニ論シ候様可相成ハ申上候迄モ無之ト奉存候、就テハ此度金貨幣ノ直径聊更革仕度見込モ有之候旁実ニ好機会ト奉存候間、願クハ今日ヨリ右建議ノ通御採用相成、夙ク一般ノ常理御挙行御座候様仕度、伏テ右建議書類相添此段相伺候也
 追白本議御採用ノ上ハ形状径輪其外共雛形ヲ以尚相伺候様可仕候也造幣寮首長キンドルヨリ差出候書簡
一翰拝啓イタシ候、陳ハ当今貨幣ノ模形ニ相用ヒ居候竜形ヲ廃シ、天皇ノ真写ニ相換ヘ申度私見込ノ趣別紙ニ差出申候、兼テ閣下ニ於テ当
 - 第3巻 p.517 -ページ画像 
国ノ儀ニ付諸般開化ニ進歩スルヲ祈望被致候事承知罷在候ニ付、此忠告ノ趣御同僚ト御熟考ノ上御上達不日前書肝要ノ改革許可相成候様希望イタシ候
此度差出候一箇年報告書ノ儀ハ、日本国ノ信ヲ補翼イタシ候ノ見込ニテ相認メ候ニ付、何卒政府ノ許可ヲ得テ上木致シ度、右ハ各国搢紳家ノ閲見ニモ相渉リ候モノニ付、日本国ニテ我等ノ過誤アルヲ知ラサルニハアラサレトモ、一時不得止事ニ出テ其誠意ニ至テハ世界各国同様可成信義ヲ以テ百件ヲ処分セント欲スル耳ナル趣意ヲ世界ヘ示ス事最肝要ニ有之候、右ノ段得貴意度如斯御座候 恐惶拝具
                      キンドル
    井上大蔵大輔閣下
 追テ毎々預御懇信候段乍序奉感謝候、時ニ私儀東京ニ於テ天皇ヘ拝謁可被差許哉ノ噂有之、其辺ノ御評議モ有之儀ニ候ハヽ事実御確報被成下度奉存候 以上
別紙 略ス
未曾有ノ御盛挙ヲ以貨幣改鋳ノ御大典ヲ被為興、内外人民感喜ニ堪ヘス、窃ニ宇内万国ノ貨幣ヲ歴視スルニ合衆政治ノ国制ヲ除クノ外必シモ其国主ノ肖像ヲ摸刻スルヲ以テ常套トス、追テ其職由ヲ原ルニ其国帝王ハ貨幣ヲ製スルノ権アリテ其国民ヲ保護スルノ主職ナルヲ以、親ク其肖像ヲ印スルハ、君視民如子仁恤撫愛ヲ示ス義ニテ、民亦視君如父所謂ニ可有之、且其国民其帝王ノ肖像ヲ拝シ、苟モ尊愛貴重スヘキノ感情無之モノアラン哉、故ニ貨幣ノ弥尊ク弥以重スヘク国君ノ最以景慕スヘキノ情ヲ尽サシム、抑肖像ノ摸形其骨角肥瘠毫毛ノ差違ナク微妙明瞭ニ其真ヲ摸スルヲ得、故ニ貨幣ヘ肖像ヲ印スルハ予シメ贋造ノ弊ヲ防クニ足ルヘシ、昔ハ羅馬法王下民ニ親臨スルヲ嫌ヒ、国中王ノ尊容ヲ知ル者ナシ、然レトモ国民保護ノ職ニ対シ遂ニ貨幣ニ其肖像ヲ印セリ、夫貨幣ハ国ノ至宝ナリ、慎重ニ注意セスンハアルヘカラス、果テ古昔賢哲理ヲ推シ情ヲ索ルトイヘトモ決テ肖像ヲ印スルノ常憲ヲ免ルヲ得サルヲ知ルヘシ、之ニ因テ是ヲ思フニ御国新貨幣ノ形容全ク右ニ反シ、其模印微密精功ヲ悉ストイヘトモ君民相親ムノ大義ヲ欠キ貨幣ノ位価ヲ削キ且器械磨滅ノ煩ヲ招ク、今ヤ百度御更張ノ折柄凡百ノ旧染ヲ除去シ、今玆恐多クモ御親征ノ労ヲ不被為厭万民ノ疾苦ヲ被為問候御維新ノ秋ニ丁リ、独リ闔国最大ニ貴重スヘキ貨幣ノ摸形ニ至リテハ全以宇宙ノ通議ヲ欠クハ誠以可惜遺典ト奉存候、既ニ米国造幣寮ニテ御国新貨ヲ評シ皇上ノ御尊影無之ヲ惜ム、私儀造幣ノ大任ヲ辱シ前文ノ事情ヲ耳食黙止可致儀無之敢テ建言仕候、速ニ皇上御肖像ニ貨幣ノ摸形ヲ改正シ、後来再ヒ改鋳ノ儀無之様仕度此段申上候
  申八月              造幣権頭 益田孝徳
      井上大蔵大輔殿
      渋沢従五位殿
      上野従五位殿


本省来状 自明治五年七月至同年十一月(DK030130k-0002)
第3巻 p.517-519 ページ画像

本省来状  自明治五年七月至同年十一月  (造幣局所蔵)
 (朱字)
壬申十月廿三日来
 - 第3巻 p.518 -ページ画像 
貨幣量目増之件、並寸法改正之儀、別紙之通正院より今日御指令有之候間、即写弐通差出申候、就中竜顔ヲ彫鐫之件難及許可候段頗失望之至候、右は最初正院之庿議至極宜敷候故、先般中縷々申進置候処、豈料宮中之嫌疑氷解不致、庿議一時に変更シ、終ニ今日之御指令と相成積日之希望大ニ齟齬致し、今日之遺憾此事ニ候、就而は向来之好機会相待候外他事無之候条、右等之情実可然御斟酌有之度候、且キントルニ於ても不一方心配いたし呉候儀ニ付、其辺宜敷御説諭相成候様致度、当方ニ於ても好機会有之次第再応可相伺心組に有之候、先は右之段申進度、別紙相添此旨御達申候也
  壬申十月十九日
                        渋沢正五位
                        井上大蔵大輔
   益田造幣権頭殿
  ○別紙二通ノ中一通ハ略ス
(別紙)
金貨幣之厚部其直径ニ適当不仕候故歟、極印之磨損甚敷殊ニ其模様不体裁ニ付、径ヲ縮メ厚ヲ増シ、別紙寸法ニ確定仕度、且銀貨五十銭・弐十銭之儀茂別紙寸法ニ相改度奉存候、将又当八月中相伺候貨幣之形状改正致し、更ニ至尊之影相ヲ彫鐫之儀、御廟議如何可有之哉、最早造幣寮開業之期ニ立至リ候間、至急御沙汰有之様致度、自然右之次第即今御沙汰相成兼候ハヽ、先以前条金貨之寸法並五十銭二十銭之寸法改正之儀至急御下知御座候様仕度、依而別紙相添此段相伺候也
  壬申十月十四日              渋沢従五位
      正院御中
  追而当七月中相伺置候定位貨幣量目増之儀茂此際一様御沙汰御座候様仕度候也
(朱字)
御影相彫鐫之儀ハ難被及
御許可其余可為伺之通事
   (朱字)      (朱印)
   壬申十月十九日  正院之印

 貨幣種類  現今寸法         新寸法
        (朱字)         (朱字)
       我英           我英
       (朱字)              (朱字)
 二十円金 一、一五七  一、三七  元ノ通   元ノ通
 十円金  〇、九七一        〇、九七  一、一三
 五円金  〇、七八七        〇、七二  〇、八七
 二円金  〇、五七七        〇、五六  〇、六九
 一円金  〇、四四六        〇、四〇  〇、五〇
 一円銀  一、二四   一、五   元ノ通   元ノ通
 五十銭  一、〇四         一、〇二  一、二〇
 二十銭  〇、七七         〇、七四  〇、九〇
 十銭   〇、五八   〇、七二  元ノ通   元ノ通
 五銭   〇、五〇   〇、六一  元ノ通   元ノ通
 - 第3巻 p.519 -ページ画像 
    但我ハ寸ヲ以テ一位トシ英ハインチヲ以テ一位トス
  ○造幣首長キンドルヨリ井上馨ニ宛テタル書簡ハ「世外侯事歴維新財政談」ニ写真ヲ載セタリ。


青淵先生伝初稿 第七章二・第三五―三九頁〔大正八―一二年〕(DK030130k-0003)
第3巻 p.519 ページ画像

青淵先生伝初稿  第七章二・第三五―三九頁〔大正八―一二年〕
明治四年六月新貨幣の発行せられし以来、其形体模様等を変化せること数回に及べり。即ち五年二月五日には、金貨一円の表面画図丸竜を改めて壱円と文字を記することゝなし、三月八日には五銭銀貨の表面丸竜を改めて五銭の文字となし、十月十四日には金貨二十円以下各種とも、其径を縮めて其厚さを増し、銀貨五十銭以下各種は各其量目を増し、且つ五十銭・二十銭の二種は、各其径を縮めて其厚さを増したり。 六年以後の事は先生と関係なきが故に略す 共に先生等の審議決定せる所なりしが、金銀貨の改造に際し、先生は大輔井上馨・造幣権頭益田孝と共に、丸竜の模様に代ふるに陛下の御肖像を以てせんことを謀り、周旋尽力したれども、遂に廟堂の納るゝ所とならず、五年十月先生が井上と連署して益田に与へし書翰に、「貨幣量目増之件、並寸法改正之儀、正院より今日御指令有之候間、即写二通差出申候、就中竜顔を彫鐫之件、難被及許可候段、頗失望の至に候、右は最初正院の廟議至極宜敷候故、先般中縷々申進置候処、豈料宮中之嫌疑氷解不致、廟議一時に変更し、終に今日之御指令と相成、積日之希望大に齟齬致し、今日之遺憾此事ニ候、就てハ向来の好機会相待候外他事無之条、右等之情実可然御斟酌有度候、且キンドルに於ても、不一方心配致し呉候儀に付、其辺宜敷御説諭相成候様致度、当方に於ても好機会有之次第、再応可相伺心組に有之候」といへるにて当時の情勢を察すべし。蓋し御像彫鐫の事は造幣寮の首長たるキンドルの建議に出で、先生等之に賛同して、其実行を期したるものなり、何事も欧風を摸倣するに急なりし明治初年の風潮と先生等の趣好とを見るに足らん。又金銀等の模様を彫刻せるものは近世の名工と聞えたる加納夏雄にして、もと造幣寮附属たりしが其頃宮内省にありて御剣御用の事に携はれるを、先生同省と交渉して更に大蔵省出仕を命じたるなり。 ○下略


世外侯事歴 維新財政談 上・第一二七頁 〔大正一〇年九月〕 一二 新貨条例並製貨に関する事(DK030130k-0004)
第3巻 p.519 ページ画像

世外侯事歴  維新財政談 上・第一二七頁〔大正一〇年九月〕
  一二 新貨条例並製貨に関する事
        侯爵 井上馨 佐伯惟馨 男爵 渋沢栄一
        伯爵 芳川顕正 長谷川為治 山崎唯一  談話
○上略
長谷川造幣局長 其頃であつたか、貨幣に陛下の御肖像を附けると云ふ事が、あつたさうでございますが……
井上侯 なかなか喧しかつた。
長谷川造幣局長 それから、竜顔と云ふから、竜を附けたら宜からうと云ふ事になつたと承つて居ります。
井上侯 英吉利でも陛下の顔が附いて居る。それは夷狄の国だ、日本の神国とは違ふと云ふ。なかなかやかましい論だつた。
長谷川造幣局長 附いて居りませぬ方が、宜しうございませう。 ○下略