デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治13年（1880年）

西南戦役ニ於ケル紙幣下落・物価騰貴ノ趨勢ハ本年ニ至リ特ニ顕著ニシテ一時商工業ノ繁栄ヲ来セリ。同行ノ成績マタ好況ヲ示シ、純益金モ明治十年上半季拾四万円ヨリ十三年下半季ハ二拾二万円ニ達ス。栄一之ヲ以テ全ク一時ノ現象ト見做シ、
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将来ノ反動ニ備ヘテ業務ノ堅実・基礎ノ鞏固ヲ計ラシメ、本年末ニハ三拾三万円余ノ積立金ヲナシ其高資本金ノ五分ノ一以上ニ達スルニ至ル。

青淵先生伝初稿　第九章下・第五一―五三頁〔大正八―一二年〕
　　　　営業の発達
是より先明治十年西南戦争の起るや、海内の人心洶々たる中にも、一般商工業は殊に影響を蒙りしが第一国立銀行は経営宜しきを得て、幸に好結果を収め、同年末に於ては、政府に対する勘定を除き、一般に対する各種預金残高百三十七万五千余円、各種貸出金残高二百六十五万八千円に上り、積立金は十一万五千円に達したるのみならず同年前後両半季を通じて三十一万三千余円の純益を収め、資本金百五十万円に対し年利一割四分の配当を為すに至れり。爾後明治十五年に至るまで、毎季末の貸出金残額、少くも三百万円を下らず、多きは五百万円に垂んとし、従うて此間毎季十七八万円より二十三四万円の純益を収め、又十一年下半季以降、毎季資本金に対し年利一割六分の配当を為し、十四年下半季以後には、年利一割八分の配当を為すに至れり。されど当時商工業の繁栄は、紙幣の下落、物価の騰貴に基ける一時の現象なるが故に、先生は将来の反動を恐れ、専ら持重の方針を以て業務を経営し、愈々其基礎を鞏固にすることに苦心せしかば、明治十五年には五十万円の積立金を累ね、其高は資本額の三分の一に達するの盛況なりしが、条例改正の後に至りては、更に著しき発達を遂ぐるを得たり。

第一銀行五十年史稿　巻三・第三二―三四頁
　　　　営業の概観
更に一般の趨勢を按ずるに、是より先明治十年西南の役起るや、海内の人心恟々として、商工業も其影響を蒙りて不振に陥りしかども、本行の営業は幸にして好結果を収め同年末においては、政府に対する勘定を除き、各種預金残高百三十七万五千余円、各種貸出金残高二百六十五万八千円に上り、積立金は十一万五千円に達し、同年前後両半季を通じて卅一万三千余円の純益を収め、資本金百五十万円に対し、年利一割四分の配当を為せり。かくて戦役の後、政府紙幣の流通頓に増加すると共に、国立銀行の創立多かりしかば、銀行紙幣の発行高も亦著しく増加したるより、遂に通貨の価格下落して、物価の騰貴を促し商工業の繁栄、金融の繁忙となり、之か為に各種預金額は減少したれども、貸付はますます多きを加へ、爾来明治十六年に至るまで、毎季末の貸出金残額は常に三百万円を下らず、多きは五百万円に垂んとし、従うて此間毎季十七八万乃至二十二三万円の純益を収め、明治十一年以降、毎季資本金に対して年利一割六分の配当を行へるのみならず、十四年下半季以後は、年利一割八分の配当を為せり。かく商工業繁栄の状況は、畢竟紙幣下落・物価騰貴に伴へる一時の現象に過ぎざれば、本行は深く濫貸を戒めて持重の策を取り、基礎の鞏固を図ることに注意せるがゆゑに、十六年度に及び、五十四万円の積立金を累ね
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其額資本金の三分の一強に達するの盛況を見たりき。いま参考として明治十六年までの成績統計を示せば左○右表のごとし。

渋沢栄一　書翰　吉田清成宛　（京都帝国大学文学部国史研究室所蔵）
　　○明治一〇年六月一日
○上略
九州之騒擾も中々永引候勢ニ候、昨日福地源一郎戦地より帰着事情親聴仕候、同氏之見込ハ本年中も相掛り可申と申居候、四国ハ先穏ニ候得共、万懸念なしといふへからす只重立候者ハさして相動申間敷存候
九州之挙ニ付、官庫之費糜ハ弐三千万円ニも及可申歟、此臨時費ニ際し官府ニてハ如何御処置被成候哉、詰り内国債も被行兼可申ニ付又紙幣発行相増候事と痛心仕候、大蔵卿輔ハ引続き御煩労被成只々奉恐察候
老閣抔ハ此困難ニ際し他邦御遠見之姿ニて御胸裏之御痛苦も兎も角も先ハ其衝を御免れ被成候
銀行之営業も戦争之事共ニて寥々ニ有之候、乍去当行抔ハ稍取引も有之敢而袖手と申程ニも無之候、一般之商行ハ随分不景気を申唱候
九州戦地之難渋ハ実ニ目もあてられぬよし、是ハ此間人民相互之救護法抔頻ニ申唱居候
○下略
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（朱印）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　渋沢栄一印
　　　　吉田清成様

　　○明治一〇年一〇月一一日
西南事変も客月ニ於て全く鎮定邦家之為大慶不過之候、乍去西郷氏戦死之情況を詳悉候而ハ実ニ凄然落涙之想有之候、呉々も一途之踏違ひ毫差千里を為し此極ニ至候ハ遺憾千万ニ御座候
此兵乱ニ付官之御失費も三千八百万円程と承り申候、是ハ紙幣発行か又ハ内国債を起す等之説有之候、何れニも経済上之国厄ニて適当之御
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処分仰望候義ニ御坐候、賢慮如何御洩示被下度候
当銀行ハ幸ニ稍世間之信用も相増し、即今ハ官之御預リ金ハ大概無之姿ニ相減し候得共、普通商人間之定期当坐抔ニて先頃奉呈之七月之計算も出来候様相成候、是ハ幾分か辛抱之甲斐有之様奉存候、右等も全く閣下御分袂之際耐忍勉強候様との御忠告を服膺候より生し候義ニて高蔭ニ依頼候事ニ付玆ニ御礼申上候、就而即今ハ続々新銀行も出来に付、せめてハ経済上之御裨補と相成候様営業仕度と七月頃より各銀行毎月集会を開き毎次事務得失を商搉仕居候
生糸蚕種之業ハ昨年ニ比すれハ寥々之姿ニ候得共、糸ハ昨今聊価位引直し大ニ売買相始リ候、米ハ豊作ニて人民ハ鼓服之形《（腹）》ニ候、商況ハ先不景気と申程ニも無之候
コレラ病もさして蔓延と申ニも無之、先此辺ニて追々相減し可申哉ニ存候、右等ハ新聞紙も常ニ御披閲と存し詳細ハ不申上候、先御安静拝祝迄　匆々頓首
　　十月十一日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（朱印）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　渋沢栄一印
　　　　吉田清成閣下

第一国立銀行半季実際考課状　第八回〔明治一〇年上期〕
　　　　○本支店景況之事
一本店ノ業務ハ逐季昌ヲ開キ数目ノ科業一モ却歩スルモノナク、商估ノ資ヲ需メ富家ノ財ヲ托スルモノ日一日ヨリ多キニ至ルハ、問ハスシテ世信ノ帰スルヲ知ルヘク、加之方今各地方ニ於テ銀行ヲ創立セントスル者ハ槩ネ当行ニ問テ其規画例軌ヲ叩キ、殊ニ本店ノ実際ニ就テ習ハント欲シ、或ハ簿記ヲ学ハント請フモノ少ナカラス、之ハ是営業ノ利病ニ直接セサルモノト雖トモ又世信ノ如何ヲ徴スルニ足ルヘシ、然而シテ其資ヲ需メ財ヲ托スル者ノ多キニ比シテ、窃カニ充足セサルモノアリ、是レ他ナシ春来西南ノ変ト魯土ノ釁ト併セテ貿易場ニ不利ヲ与ヘ、就中東京ノ如キハ最モ之ニ感触セラレテ凡ソ剛毅果断者ニアラサルヨリハ手ヲ束ネテ資ナキヲ歎キ、貸《（貨カ）》ヲ陳列シテ售レサルヲ労シ、更ニ甚キニ至テハ夏葛冬裘ノ外供給ノ途ナク飢食渇飲ノ他又需用ニ遑アラスト謂フヘキ者ナリ、此時ニ当リ本店常ニ一歩逡巡セスシテ遠近ノ信依ヲ重ネ、概シテ全面ニ論スレハ、実ニ前季ニ超邁スルヲ得レハ其充足セサル者ハ一朝時変ニ際会スル所ニシテ毫モ憂ルニ足ラサルヘシ、而シテ当季利益金配当ノ如キハ年一割四歩ニ当レハ昨半季ニ減スルナシ、而シテ昨年ノ半季ハ当時望外ノ利ト謂ヒシモノナリ、由此観之本店営業ノ如キ此時変窮阨ノ日ニ於テ猶能ク昨季望外ノ額ニ遜ラサルモノハ蓋シ営業昌運ノ象ト明言スヘシ
一大阪支店ノ経業ハ玆ニ前後開陳スル如ク之ヲ前半季ニ比スレハ其両三項ノ事務ヲ減少セシト雖トモ、槩シテ全体ヲ論スレハ曾テ欠損スル所ナキハ其純益ノ予算ニ超ユルヲ以テ証スヘキナリ、而シテ定期預金ハ其員額共ニ増シ、当座預金ハ金額減少スト雖トモ却テ其号数ヲ増シ、貸出シ金ハ前季ニ比シテ其半額ニ達セス、荷為替及ヒ割引
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手形代金取立手形等ハ漸ク多キヲ為ス、此情形アルモノハ蓋西征ノ変アルニ当リ其衝ニ懸ルヲ以テ著シク影響セラレ、商估機ヲ窺ツテ売買相望ミ貿易ノ途甚タ索寥タルニ因ルヘシ、然レトモ是レ一朝ノ禍害ニシテ其営業全体ノ如何ニ於テハ固ヨリ推衍拡伸スル者ニシテ他日昌慶アルハ期シテ待ツヘキナリ
一横浜支店ノ如キハ為替割引・貸附金内外貨幣交換及預ケ合等ノ業ニ従事シ、渾テ本店ノ指揮ニ順ツテ専ハラ謹厳整粛ヲ主トシ、之カ為メ極大ノ利ナク又一毫ノ損スルナシ、而シテ若シ其利益ヲ以テ昨半季ニ比スルトキハ固ヨリ之ヲ減スルト雖トモ、前季ノ望外ノ利アルモノハ本港幸ニ其枢地ニ在ルヲ以テ恰モ今日魯土ノ兵革ニ会ヒ其要衝ニ懸ルヽカ為メ大ニ貿易上ニ於テ影響セラルヽ者ト同一ニシテ、倶ニ一朝ノ禍福タレハ聊永遠ノ目途ニ関セサル所ナリ
○下略

第一国立銀行第十回株主総会要件録
向キニ株主一同ニ銀行定款第十三条ノ趣旨ニ従ヒ明治十年七月十五日ヲ以テ当銀行第十回ノ株主総会ヲ催スヘキコトヲ報告シタリ、因テ左ニ記名スル株主各位ハ本日午後第一時ニ本店ニ会同シ、左ノ事項ヲ議定セリ
　　　　　　　自身出席ノ者
　　　　　　　　　　　　　　　　渋沢栄一　○外六十五名氏名略ス
　　　　　　　　在遠国又ハ病気ヲ以テ名人ヲ出セシ者
　　　　　　　　　　　　　　　　前田利鬯　○外七十七名氏名略ス
　　　　　　　　名代人ヲ出サス不参スル者
　　　　　　　　　　　　　　　　鈴木惣次郎　○外六名氏名略ス
　　　第一節
右株主及名代人等ハ午後第三時ニ於テ議席ニ入リ各座号ニ就テ臚列セリ、此時頭取即議長ハ本年上半季実際営業ノ得失ヲ報告センカ為メニ第八回ノ考課状ヲ以テ各項ノ事由及計算ノ条理ヲ詳説シ、殊ニ其営業全面上ノ情態ヲ解陳シ各位皆之ヲ諒悉ス
　　　第二節
議長ハ更ニ考課状利益配当ノ項ヲ以テ議目ト為シ、各株主ニ其答議アランコトヲ求ム、時ニ第六十五番横山由清ノ発言ニ踵テ第七十六番笹瀬元明、第三番三井三郎助ノ三名ハ等シク相対ヘテ議目ヲ可トス、因テ総株主モ之ニ同シ、則第八回利益配当ノ項ハ議長ノ原案ノ如ク決定セリ
　　　第三節
議長ハ又本年下半季営業ノ為メ設クル所ノ損益予算表ヲ示シテ総株主ニ領知セシメ、且謂テ曰、夫レ予算ノ者タル拾万円ニシテ拾万千円ヲ得、拾万千円ニシテ拾万円ヲ得、此ノ如ク小差ナルヲ以テ至妙トナシ若シ其大差アルハ之ヲ老練ノ計ト為ス可ラス、本店毎ニ実算ニ於テ増加スルハ故ラニ予算ニ於テ減略アルニアラスト雖トモ又時態ヲ考察シテ妄リニ勝算ヲ期セサルヨリ、深ク虞ル所アツテ然リ今也第八回ノ決算ニ至リ已ニ十分ノ経験ヲ得レハ、玆ニ示ス予算表ニ至テハ更ニ得失
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ヲ酌量シ敢テ勝算ヲ定画セリ、之ヲ以テ其結果ニ至リ前日ノ超過ニ如カサルハ固ヨリ時トシテ或ハ減スルコトモアラン、是レ前ニ所謂小差アルヲ以テ至妙トナス者ニシテ初テ此予算アルハ蓋算計上モ亦事業ト等シク現ニ一歩ヲ進ムル所ナリ、各位此理由ヲ愿諒シテ可ナリ
○下略

第一国立銀行半季実際考課状　第九回〔明治一〇年下期〕
　　　　○本支店営業景況ノ事
一当銀行当半季ノ景況ハ本状各科ノ開報ニ依テ之ヲ詳カニセリト雖トモ更ニ其大要ヲ記セハ本支店倶ニ貸出金及定期当座預リ金ノ項数為替割引荷為替ノ金額等皆前季ヨリ超越セリ、而シテ貸出金ノ返済殊ニ捷速ナルハ生糸ノ売買ノ循還スル所其宜キヲ得タルニ根セリ、又各地方ノ人民合同シテ数郡数村ヲ併セ、貢租上納ノ為メニ其収穫米ヲ抵当ト充テヽ貸附金ヲ求ムルモノアリ、然レトモ或ハ地理ノ便否ニヨリ或ハ情実ヲ窮ルニ遑アラスシテ其貸出スル所モ亦僅々タリ、海上保嶮《（マヽ）》ノ業ハ未タ充分ニ行ハレスト雖トモ着手以来絶テ退却ナク漸次ニ広進スヘキ情態アリテ、稍一分ノ科業ヲ増加セリ、加之春来各地方ニ於テ銀行ヲ創設スル者多クハ本店ニ来リテ起業ノ目途ヲ詢リ、営業ノ例規ヲ繹ネ其開業スルニ至テハ皆当本支店ニ対シテ「コルレスポンデンス」ノ約束ヲ結ヒ、是カ為諸方新ニ為替ノ途ヲ開設シ、幾分カ商業上ニ於テ利益ヲ与フル所アリ、大略此ノ如クニシテ総テ前季ニ較フレハ一トシテ退縮スルナク其計算ノ結局ニ至テモ亦大ニ予算表ニ超過シ毫モ目途ヲ失ハサルニ依テ当半季ノ景況ハ全昌ノ営業ヲ得テ聊カ不利ナキカ如シト雖トモ其実際ニ於テハ決シテ然ラス、何ントナレハ春来ノ時勢ニ従テ営業ノ拡伸ヲ阻セラルヽモノ内ハ西南ノ征討長ク休マス、外ハ魯土ノ凶氛ニ蔽ハレ産業工作ノ途自カラ弛怠シ、商買販沽ノ業随テ振ハス、九月西南ノ平定以来諸業漸ク堵ニ安ンスト雖トモ未タ全ク旧情ニ復セスシテ彼ノ凶氛ハ尚愈日熾ンナルニ従ヒ貿易ノ事常ニ之ニ影響セラルヽ所ト為ル、而シテ銀行営業ノ如キハ産業工作商買販沽ノ途ニ直接セスト雖トモ凡ソ之ニ間接シテ其レト与ニ盛衰セサルナキ能ハサルハ猶影ノ形ニ随フカ如ク相待テ離レサル者ナリ、此ニ由テ当半季ニ於ル営業各項ノ総テ前半季ヨリ超越スルハ一般ノ商業其途ニ進運スルニ由ルニアラスシテ殊ニ当銀行ノ世間ト対接スルノ途漸ク広通シテ諸般ノ取引モ随テ繁大ニ至リシ所ナリ、然則其全躰ニ不利アル所モ自家ハ僅ニ以テ之ヲ補フコトヲ得タルモノト云フヘキカ、且夫レ世間対接ノ途広通シテ諸般ノ取引ノ繁大ナルニ至リシハ当銀行ノ経営堅確ニシテ世人ニ信容セラルヽノ漸次厚キニ帰スルノ実効ナリト謂ハサルヲ得ンヤ、是半季営業景況ノ基ク所ナリ

第一国立銀行第十一回株主総会要件録
向キニ株主一同ニ銀行定款第十三条ノ趣旨ニ従ヒ明治十一年一月十三日ヲ以テ当銀行第十一回ノ株主総会ヲ催スヘキコトヲ報告シタリ、因テ左ニ記名スル株主各位ハ本日午後第一時ニ本店ニ会同シ、左ノ事件
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ヲ議定セリ
　　　　　　　　自身出席ノ者
　　　　　　　　　　　　　　　　　渋沢栄一　○外百四名氏名略ス
　　　　　　　　在遠国又ハ病気ヲ以テ名代人ヲ出タス者
　　　　　　　　　　　　　　　　　三井元之助　○外百十二名氏名略ス
　　　　　　　　名代人ヲ出サス不参スル者
　　　　　　　　　　　　　　　　　松平直方　○外二名氏名略ス
右参集ノ株主ハ午後三時前ニ於テ議席ニ上リ、此時頭取即チ議長ハ明治十年下半季ノ実際営業ノ事態ヲ詳記シタル考課状ヲ表示シ、状中ノ事項ニ議定スルモノアリ、陳了スル者アリ、蓋シ皆緊要ニ係ル、其他頭取取締役ノ進退ヲ公撰セリ、今其要領ヲ録シテ左ニ開列ス
　　　第一節
議長ハ考課状中利益配当ノ項ヲ以テ議目ト為シ、各株主ニ答議アランコトヲ求メタリ、第八番渋沢喜作ハ原案ノ如ク決定スヘキコトヲ答議ス、続テ第五番深川亮蔵、第六拾番金井之恭モ亦異議ナキコトヲ答ヘ衆皆之レニ同意シテ則第九回利益配当ノ項ハ議長ノ原案ヲ以テ決定セリ
○下略

第一国立銀行半季実際考課状　第一〇回〔明治一一年上期〕
　　　　○本支店景況之事
一当銀行当半季営業ノ景況ハ本状各科ノ条ニ開陳スト雖トモ、今再ヒ其要項ヲ記シ以テ大情ヲ瞭視スルニ便ス
　本店各支店トモ当半季間ニ於テ昨来創立スル所ノ各地銀行ト「コルレスポンデンス」ノ約束ヲ為スモノ少ナカラス、此ニ由テ一般為替ノ業ハ春来一層繁盛ニ至リ其金額モ随テ増加セリ、又荷為替ノ内海上保嶮《（マヽ）》ヲ経弁スルモノ少ナカラスト為ス、預リ金ハ当座定期共ニ総テ前季ニ超越シ、只聊減スルモノハ西京支店ノ定期預リ金ト為ス、神戸支店当座預リノ如キハ前季ヨリ増加スル実ニ六十倍トナス、貸附金ハ本店独リ前季ニ減シ各支店出張所共皆前季ヨリ超越セリ
　夫レ本店貸項ノ減スル原由ヲ挍覈スルニ前季ハ生糸商業ノ盛時ニ際シ行情頻リニ閙熱ニシテ貸出シ金ノ額モ大ニ進捗セシカ、其銷售ノ極メテ捷快ニシテ随テ借ルモノハ随テ還シ、貸借ノ途頗ル急局シ、延テ当季ニ及スモノ甚タ少ナシ、又公債証書ノ如キハ当季ニ及ンテ時価次第ニ騰躍スルニ従ヒ嘗テ公債ヲ抵質トスル所ノ者ハ皆之ヲ糶売スルヲ以テ強テ其借項ヲ清償セリ、又米穀商業ノ如キハ昨年ノ豊作ニ際シ秋冬ノ間其価格稍低下セシモ春来還タ相当ノ価位ヲ有シ其銷售モ亦頗ル順便ナルヲ以テ之レヲ抵質スル者甚タ稀ナリ、此等ノ形勢実ニ其原因タリ
　起業公債ノ募集ハ大蔵卿ノ暁諭ヲ奉シテ大ニ勧誘唱導ヲ為シ、当半季間本支店ニ在テ経理スル所ノモノハ其募集額ノ殆ント十分ノ四以上ニ至ラントシ、尚続テ要求スル者絶ヘサルヲ以テ畢竟其募集ノ総額ヲ超過スルニ至ランカ、抑此挙ハ振古未曾有ノ大業ト為スモノ、当銀行此事ヲ経理スル誠ニ以テ体面アリ、故ニ当半季ニ於テ其美績
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ヲ記ルスハ独リ当行ノ光栄ノミニアラスシテ将来銀行歴史上ノ一大標目タル者ト謂ヘキナリ
○下略

第一国立銀行第十二回株主総会要件録
明治十一年七月十四日第一国立銀行ハ其定款第拾三条ニ照ラシ東京本店ニ於テ第拾二回株主総会ヲ開設セリ、当日会員ノ名氏会議ノ要件等之ヲ整頓シテ、左条ニ開列ス
　　　第一条
当日会同スヘキ株主ノ内自身来会スル者在遠国又ハ病気ヲ以テ名代人ヲ出ス者アリ、其別左開ノ如シ
　　　　　　　　自身来会スル者
　　　　　　　　　　　　　　　　　　渋沢栄一　○外百十三名氏名略ス
　　　　　　　　在遠国又ハ病気ヲ以テ名代人ヲ出ス者
　　　　　　　　　　　　　　　　　　三井八郎右衛門　○外百六十七名氏名略ス
　　　第二条
議長即チ頭取ハ本年上半季ノ営業実際考課状及ヒ諸帳簿ヲ展示シ、而シテ考課状中要項ニ属スル所ノ本支店営業ノ景情、起業公債募集ノ形勢、開設、支店ノ営業目的等ヲ詳細演説セリ
　　　第三条
議長ハ考課状中利益金配当ノ条ヲ以テ議案ト為シ、而シテ其算法ヲ解説シテ以テ之ヲ衆議決定スルヲ求ム、第六番三野村利助、第五番深川亮蔵、第百七番大脇弼教等首トシテ異議ナキコトヲ答言シ、諸位皆之レニ同議シ、議案ノ如ク決定セリ
　　　第四条
議長ハ本年下半季ノ予算表ヲ展示シテ細々之ヲ演説シ、且云、該籌算ヲ以テセハ其決算ハ多ク上半季ヨリ増加スルヲ得ヘシ、而シテ又大ニ顧念スル所ハ本年製糸ノ産出十分ナラサルカ為メニ商情一般超色ナキヲ以テ或ハ予算ノ如クナラサルモ知ル可ラス、諸位愿諒シテ可ナリト衆皆之ヲ領聴セリ
　　　第五条
議長ハ考課状ニ載スル所ノ取締役中山信彬辞職ノ由ヲ報道シ、而シテ今日ノ現員ヲ以テ規則ニ照セハ敢テ其補員ヲ要スヘカラスト雖トモ三井八郎右衛門ノ如キ名有テ実ナキ者アルヲ以テ該補員ヲ公撰スルヲ要ス、囚テ小子私カニ其人ヲ挙クレハ三井八郎次郎ナル者アリ、青年ト雖トモ稍怜悧ニシテ他年成器ノ目的アリ、且其株高モ亦壱万円ヲ所有スレハ、如シ之ヲ挙レハ必ス其任ニ当ルヘシ、諸位尚撰フ所アレト云第五番深川亮蔵、第九十九番横山由清、第二百七十六番三宅十郎等一斉発言ヲ為シテ三井八郎次郎ヲ取締役ニ撰挙スヘキコトヲ要求シ、衆皆之レニ同シタリ
因テ議長ハ更ニ諸位ニ対シ公撰ニ依テ三井八郎次郎ヲ取締役ニ任スルコトヲ報告セリ
右会議畢テ午後六時下皆衆散去ス
　明治十一年七月十四日　　　　　　　　　　渋沢栄一

 - 第4巻 p.406 -ページ画像 

第一国立銀行半季実際考課状　第一一回〔明治一一年下期〕
　　　　○本支店景況ノ事
一当半季間当銀行本支店営業ノ景況ハ総テ前季ヨリ優レルコトハ載テ本状ニ詳ナリ、而シテ今再ヒ其要領ヲ述ヘテ以テ一目ノ下ニ亮然タラシメンニハ、先ツ当年半季間即チ明治十一年ノ七月ヨリ十二月ニ至ル迄ノ間タ尤モ財政ニ関スル所ノ者ヲ顧ミサル可ラス、因テ爰ニ其大綱ヲ挙テ左ニ列載ス
一起業公債ノ募集ハ原ヲ前季ニ発シ、而シテ当季ニ入テ其募集ニ超過スル金額ヲ割戻スニ至レリ、思フニ此募集ニ於テ世間ノ流通貨幣ヲ減少セシハ之ヲ瑣少ノ額ナリト謂フヘカラス
一金禄公債証書ハ十一年八九月ヨリ続々トシテ下付セラレ、九月九日ヲ以テ其売買ヲ許可セラルヽニ因リ、之ヲ取引スルコト繁稠ニ向ヒ為メニ都会ノ貨幣供給ノ衡ヲ軒輊セラレタリ
一各地方ニ在リテハ国立銀行頻リニ創立シ其紙幣ヲ発行スルコト殆ント弐百四十万円余ニ至リ、而シテ各其営業ヲ詢ルニ汲々タルカ故ニ生産作業ノ途小シク之ニ感スル所ナキニアラスト雖トモ、之ヲ要スルニ其経業ノ新創ニ係ルヲ以テ事務未タ馴練スル能ハサレハ多クハ其所有ノ資本ヲ以テ地方ノ公債ヲ収買シ、之ヲ都会ニ輸スルノ便業ニ従事スルノミ
一養蚕ハ以テ歉ナリトセスシテ横浜市上生糸ノ価格ハ反テ昨年ヨリ低下シテ其貿易モ亦盛ンナラス、加之七八九月ニ際シテ唐糸石油ノ如キ多量ノ輸入アルヲ以テ洋銀大ニ騰貴シ、金貨モ亦之ニ随ヒ、紙幣ト隔離スルコト百円ニシテ三十五円余増加スルニ至レリ
一米穀ハ殊ニ凶歉ト謂フ者ニアラスト雖トモ、秋来ノ気候タル雨多キニ由テ収穫ノ時節ノ常年ヨリ遅延スルト各地農家ノ余資ニ乏シカラサルノ故ヲ以テ出穀ニ急ナラサルトノ事情アルニ由テ、米価昨年ニ比スレハ大ニ騰貴セリ
一諸公債ノ価格ハ歳尾ニ向テ漸ク減損シ、日ニ九折ヲ下ルカ如キ勢ヲ為ス者ハ実ニ各地方ヨリ発售スル者多キニ原因スル者ナリ、此ニ於テ東京大阪ノ如キ通貨ノ供給極メテ繁劇ニ属シテ商賈皆之ヲ困マサル者ナク、歳序已ニ迫ルニ至テ貨幣漸ク欠乏ノ象ヲ現ハシタリ
一当本店ニ於テ此半季間ノ営業ハ則前季已来従事スル起業公債第一季割払ノ取扱ヲ為シ、且其募集額ニ超過スル者ヲ払戻シ此手数料ヲ領収セリ、貸附金ハ前半季ヨリ多キコト幾ント一倍ニ過キタリ、其所以ハ金融繁劇ノ為メニ供給極メテ繁ナルト各地方銀行ノ求メニ応シテ其発行紙幣ノ下付稽延ナルカ為メニ之ニ貸与スル者トニ由レリ
　又当座定期両預リ金ノ数ハ殊ニ前季ヨリ減少セスシテ為替荷為替ノ取扱ハ実ニ前季ニ数倍セリ、又他ノ銀行ト「コルレスポンデンス」ノ約束ヲ為ス者ハ其数既ニ十八ニ至リ、其取引モ亦タ皆前季ヨリ繁ナラサルナシ
○下略

第一国立銀行第十三回株主総会要件録
 - 第4巻 p.407 -ページ画像 
第一国立銀行第十三回株主総会ハ定款第十三条ニ拠リ明治十二年一月十二日ヲ以テ開設スヘキニ、本店事務頗ル多端ニシテ加ルニ各支店ノ諸件ヲ蒐集スルヲ以テ、大蔵卿閣下ニ緩期ヲ稟請シ、同十九日集会ヲ開キ例ニ依テ会事ヲ施行セリ、当日会員ノ名氏会議ノ要件ハ左ニ開列スル如シ
　　　第一次
当日株主ノ内自身来会スル者ト在遠国又ハ病気ヲ以テ名代人ヲ出ス者アリ、其別左ノ如シ
　　　　　　　　自身来会スル者
　　　　　　　　　　　　　　　　渋沢栄一　○外百二十六名氏名略ス
　　　　　　　　在遠国又ハ病気ヲ以テ名代人ヲ出ス者
　　　　　　　　　　　　　　　　三井八郎右衛門　○外百七十六名氏名略ス
　　　第二次
議長即チ頭取ハ昨年下半季ノ営業実際考課状及諸帳簿ヲ展示シテ其緊要ナル数項ヲ演説セリ、数項ハ即チ本支店営業ノ景況、起業公債募集及ヒ其割戻ノ計算、売買受合ノ業ヲ釜山浦支店及清国上海香港等ノ代理店ニ普及セシ事件、頭取渋沢栄一仙台・石巻・盛岡等ノ支店出張所ヲ巡回セシ事情、仙台出張所ヲ支店ニ改画スル事情、当座預リ金小切手裡書ノ方法、同通帳ニ税印ヲ打搨スルヲ請フノ稟議、所有公債ノ内秩禄三拾七万円売却及的籤ノ為メニ八万五千円ノ償却ヲ得ル事情、当半季本支店利益金ノ開算等是ナリ
　　　第三次
議長ハ考課状中利益金配当ノ算法ヲ解説シテ衆議ニ依テ決定センコトヲ求ム、第五番深川亮蔵該算法ノ如ク決定センコトヲ答言シ、衆僉之ニ同シ原案ノ算法ヲ行フヘキコトニ決議セリ
○中略
　　　第五次
議長ハ右ノ演説ヲ為シ且利益配当ノ算法ヲ決議スルニ依テ更ニ衆位ニ向ヒ本年ノ取締役ヲ撰挙スルコトヲ要求シテ、而シテ他取締役ト共ニ其任ヲ解キタリ、渋沢喜作・益田孝相共ニ発言シテ曰ク、敢テ撰挙ヲ須ヒス只旧員ヲ再任スルヲ欲スルノミト、衆僉之ニ同シ、旧員再任スルヲ得テ其職掌モ亦旧ニ依レリ、是ヨリ先西園寺公成ハ所要ニ因テ議場ヲ退キ三井八郎次郎ハ近日疾ニ依テ来会ナキヲ以テ、以テ此両名ノ再任ハ議長之ヲ代理セリ
　　　第六次
議長ハ本年上半季予算表ヲ展示シテ其旨ヲ演説シ、衆皆之ヲ領セリ
右会議畢テ午後六時下衆皆散ス
　明治十二年己卯一月十九日　　　　　　　　　渋沢栄一

第一国立銀行半季実際考課状　第一二回〔明治一二年上期〕
　　　　○本支店営業景況之事
一当半季間本支店営業ノ景況ハ総テ本状各科ノ計算分説ヲ以テ詳明スト雖トモ再ヒ爰ニ其要領ヲ掲ケ以テ概情ヲ諒知スルニ便セント欲ス、而シテ今之ヲ述ルニ先チ諸君ニ向テ一言ヲ呈スル者アリ、抑考
 - 第4巻 p.408 -ページ画像 
課状ノ要ハ計算ヲ詳ニシ、記事ヲ正フシ、務メテ其営業ノ事実ヲ失ハサルニ在リ、苟モ矯飾ヲ求メテ一時栄誉ヲ博セント欲スル如キアレハ其レ必ス不利ヲ利ナリトシ、進マサルヲ進ムトシ、敢テ公衆ヲ瞞着スルノ念アルニアラサルモ知ラス識ラス世人ヲ欺了スルニ至ラン、縦令一時栄誉ヲ博セント欲スルノ念アルニアラサルモ得ルヲ好ミ失フヲ悪ミ優レルヲ貴ヒ劣レルヲ賤ムハ吾人一般ノ情ナルヲ以テ若シ一タヒ好悪ニ僻シテ守ル所ヲ失フトキハ、其弊害タル銀行ノ営業ヲシテ皆忽チ公衆ノ信憑ヲ失ハシムルニ至ラン、是実ニ恐ルヘキ者ナリ、是ヲ以テ当銀行ハ常ニ同業同志ト之ヲ論シ、毎ニ考課状ヲ編製スルニハ、勉メテ好悪ノ念ヲ屏ケ、平心ニシテ能ク半季間ノ事跡ヲ鑑ミ、以テ計算ヲ詳ニシ記事ヲ正フシ、進ム者ハ之ヲ進ムト筆シ、退ク者ハ之ヲ退クト記シ、皆其直実ニシテ確鑿タラサルナシ、然レトモ是固ヨリ考課状ノ本体ニシテ敢テ諸君ニ向テ矜ルヘキ者ニアラス、惟フニ銀行ノ業ハ能ク資本ヲ供給シ、金融ヲ便利ニスルヲ図ルヲ以テ本トナシ、勉メテ世間ニ沈鬱スル所ノ金銀ヲ運転シテ有利有益ノ途ニ活用スルニ在リ、是ヲ以テ常ニ其自重堅固ニ処スルハ独リ己カ為ニスルニアラスシテ債主ノ為メニスルト云モ可ナリ、然而シテ能ク之カ経理ノ途ニ老熟シテ漸ク世人ノ信憑ヲ負ヒ、随テ声誉ヲ揚ケテ預リ金ノ多キヲ加ヘ、竟ニ資本ヨリモ数倍スル所ノ金銀ヲ運用スルニ至レハ復タ非常驚クヘキ程ノ功績ヲ現ハスアルモ亦決シテ為シ能ハサル業ニアラサルナリ、当銀行ノ営業ニ於テハ未タ遠ク此ノ如キ地位ニ達セスト雖トモ尚幸ニシテ今日ニ及フマテ漸次進歩ノ効ヲ現ハシ、即チ利益割合ハ其初ヨリ未タ十分饒キヲ得スシテ第一回ヨリ第四回ニ至ルマテハ年八歩余ノ間ニ上下シ、第五回ニ至リ一進シテ壱割余ニ出テ、第七回ニ二進シテ壱割四歩ニ上リ、此ヨリ第十回ニ至ルマテ上下セス、第十一回即チ前季ニ至テ三進シテ壱割六歩ニ上リ、当季モ亦同額ノ割合ヲ得タリ、而シテ其純益総額ノ如キハ前季ヨリ減少シ、又営業各科ノ事務ニ至テモ本支店共ニ前季ヨリ減少スル者ナキニアラスト雖トモ、之カ全局ヲ論スレハ実ニ営業ノ線界ハ大ニ広布シ、各科ノ事務モ槩ネ前季ヨリ繁稠ナリト謂ハサルヲ得ス、因テ本状ニ備列スル所ノ大要ヲ掲ケ並ニ本支店ノ景況ヲ陳述スルコト左ノ如シ
○下略

第一国立銀行第十四回株主総会要件録
明治十二年七月廿日第一国立銀行例ニ依テ株主総会ヲ東京本店ニ於テ開設シ之ヲ第十四回トナス、此日参臨スル株主諸位ノ名氏及ヒ決議ノ要件ヲ録シ、左ニ開列ス
　　　第一条
株主諸位ノ内自身出席スル者アリ、又ハ在遠国或ハ病気ヲ以テ代理人ヲ出タス者アリ、其別左ノ如シ
　　　　　　　　自身出席ノ人名
　　　　　　　　　　　　　　　　　渋沢栄一　○外百八名氏名略ス
　　　　　　　　代理人ヲ出タス人名
 - 第4巻 p.409 -ページ画像 
　　　　　　　　　　　　　　　　　三井高福　○外百九十八名氏名略ス
　　　第二条
議長即チ頭取ハ本年上半季営業実際考課状及ヒ計算ノ諸帳簿ヲ出示シ、考課状中載スル所ノ要件数条並ニ本支店営業景況ノ条ヲ説明シ、諸位悉ク領意セリ
　　　第三条
議長ハ考課状中ニ記載スル利益金配当ノ条ヲ以テ議案トナシ、其計算ヲ分説シ衆議ニ従テ之ヲ決定セン事ヲ求ム、第六番三野村利助発言シテ議案ノ如ク決定セン事ヲ要求シ、諸位皆同シ、議案ノ如ク決定セリ
　　　第四条
議長ハ本年下半季ノ予算ヲ示シ細カニ之カ分説ヲナス、諸位悉ク領意セリ
右議事畢テ六時下会散ス
　　明治十二年七月廿日　　　　　　　　　　　　渋沢栄一

第一国立銀行半季実際考課状　第一三回〔明治一二年下期〕
　　　　○本支店営業景況ノ事
一本支店営業ノ景況ハ毎店要大ノ事跡ト決算ノ概要トヲ挙ケ間々決算増減ノ原由ニ論及シ以テ総情ヲ記載シテ本支店ノ形勢ヲ領略スルニ便ス、而シテ今之カ記載ニ先チ本支店ノ景況ヲ綜ヘテ其要節ヲ約言センニハ、当半季間ノ営業ハ本支店ヲ合セテ大ニ前季ヨリ優勝セリ其貸附金為替預リ金ハ皆前季ニ比シテ数分ヲ増加シ、新項ノ事業ハ陸続増殖セリ、故ニ其決算ニ至テモ前季設クル所ノ予算ヲ愆ラサルノミナラス反テ予算ヨリモ優利ヲ得タリ、是当季結果ノ大要ナリ、蓋シ近来銀行ノ数ハ続々増加シ現ニ全国中ニ創立スル所ノモノ本支店ヲ合セテ幾ント二百店、東京大坂ノ如キハ皆数十行ニ下ラス、其他ノ地方ト雖トモ或ハ数行林立スル者アリ、是ヲ以テ其間或ハ競争ノ情ヲ生シ呑噬ノ計ヲ旋ラスモノナキ能ハサルハ亦理勢ノ已ム可ラサル者ニシテ同業経営ノ労年ヲ逐テ相加倍スルト云フヘキナリ、此時ニ於テ敢テ競争ヲ事トセス新奇ヲ求メスシテ応分ノ結果ヲ致ス者ハ前回諸君ニ陳述シ載セテ同季ノ考課状ニ在ル、能ク経理ノ途ニ老熟シテ漸ク世人ノ信憑ヲ負ヒ預リ金ノ多キヲ加ヘ竟ニ資本ヨリモ数倍スル金銀ヲ運用スルカ如キ者ニアラサレハ亦以テ得ヘカラサルナリ、凡ソ事進取ニ余リナケレハ退守ニ窮スルアリ、漸ク進ムノ力ヲ有セスンハ以テ久シク其地位ヲ維持スヘカラサルナリ、今本行ノ如キ未タ以テ其境ニ達スルヲ得スト雖トモ幸ニ此半季間ノ営業ニ於ルモ聊以テ増進スルノ跡アルハ是偏ニ株主諸君ノ光栄ニシテ而シテ当任ノ役員等ニ於テモ亦之ニ与カルノ栄アリ、因テ玆ニ当季ノ報告ニ当リテ此一言ヲ呈シ以テ諸君ノ領意ヲ乞フ
○下略

第一国立銀行第十五回株主総会要件録
明治十三年一月十八日第一国立銀行第十五回株主総会ヲ本店ニ開ク蓋
 - 第4巻 p.410 -ページ画像 
恒例ニ従フナリ、是日会員ノ名氏議事ノ要款左ニ開列ス
　　　　　　　　　　会員名氏　　　渋沢栄一　○以下氏名略ス
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　計百一人
　在他国及病気ヲ以テ代理委任状ヲ托スル者本人名氏○略ス計二百八人
　　　第一次
議長即チ頭取渋沢栄一ハ明治十二年下半季即七月ヨリ十二月ニ至ル六ケ月間営業考課状ヲ示シ、要領数項ヲ演述セリ
　　　第二次
議長ハ考課状内利益金割賦算法ヲ議題トナシ、併セテ其算法ヲ説明シテ以テ決議ヲ求ム、第九番渋沢喜作起テ曰ク、曲ニ説明ヲ領ス、営業宜ヲ得テ此ノ如キ優利ヲ獲ル深ク以テ謝スル所ナリ、而シテ今議長ノ言ニ拠レハ本季ノ優利ヲ以テ配当ヲ増加セント欲セハ復タ難カラスト為スト雖トモ猶姑ク旧格ニ従ツテ割賦ヲ前季ト同フシ、積立ヲ前季ヨリ増殖シ務メテ急進ヲ抑ユルハ小子等株主タル者ノ洵ニ望ム所ナリ、因テ算法ノ如キ割賦ニ決スルヲ願フト、衆皆此説ニ同セリ
　　　第三次
議長ハ本支店公債証書有高計算（別記アリ此ニ略ス）ヲ報告シ又十三年上半季予算表ヲ示シ其大略ヲ告ケ、又曰ク、毎会予算ヲ報告スルヲ例ト為ス、然ルニ営業原ヨリ活動アリ敢テ予算ヲ以テ範制スヘカラス、但タ人モ亦銛鈍アリテ小子ノ如キハ此予算ノ為メニ大ニ針路ノ目的ヲ得ル者アリ、決算ニ至テハ必ス其予算ト吻合スルニアラス本季決算ノ大ニ予算ヨリモ超タル所以ナリト、衆皆領意ス
　　　第四次
議長曰、玆ニ議事報告ヲ竣了スルヲ以テ吾儕取締役ノ任已ニ解タリ、請フ諸君新任ヲ撰挙セヨ、渋沢喜作曰ク、諸君ノ意ハ如何、小子以為ク敢テ更撰ヲ須ヒス、総テ再任ヲ要ス、衆皆同シ、因テ渋沢栄一前任諸氏ニ代リ答詞ヲ作テ曰ク、栄一等不肖更ニ諸君ノ推托ヲ辞セス、謹テ再任ニ就クト、衆皆之ヲ喜フ
右畢テ午後五時会散ス
　明治十三年一月十八日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　渋沢栄一

第一国立銀行半季実際考課状　第一四回〔明治一三年上期〕
　　　　○本支店景況之事
爰ニ本支店ノ営業景況ヲ叙述スルニ当リテ先ツ其全体ノ総情ヲ提記シテ次ニ各店ニ就テ細説スル所アラント欲ス、抑当半季間本行本支店ノ業務ハ頗ル繁紜ニシテ間優ノ日アルナシ、一月以来六月ニ及フマテ融通ノ途常ニ促迫シテ毫モ緩慢ヲ見ス、其間僅ニ三月ト五月ニ於テハ少シク余裕ヲ見ルカ如キモ亦以テ久キヲ保タス、是ヲ以テ貸附金ハ返償スル者少クシテ諸預リ金ハ取出ス者多ク、当座貸越予約ノ如キモ其額ヲ減スルコトナクシテ其預ケ金ヲ為ス者ハ極テ稀ナリ、加之御用為替並為替及割引等ニ於テハ大ニ取組ノ途ヲ広ムルニ因テ他店ノ取引ハ概ネ貸方ニ傾クノ情アリ、然而シテ此必迫ノ状ヲ現ハスハ客年ノ末ヨリ漸ク其勢情ヲ示シ、本年ニ入リテ殊ニ繁忙ヲ極メタリ、蓋其繁忙ヲ極
 - 第4巻 p.411 -ページ画像 
ムル此ノ如ク甚タシキモノハ其原因素ヨリ多緒ナルヘシト雖トモ、近年物貨漸ク騰上シテ本年ニ至リテ商情大ニ変動スル所アルニ因ラスンハアラサルナリ、試ニ其一例ヲ挙レハ客年壱万円ヲ以テ営業スル商估モ本年同額ノ物貨ヲ取扱フニ於テハ壱万五千円ヲ要セサルヲ得ス、而シテ其営業ノ間利スル所ハ敢テ常時ト異ナル所ナシトセハ乃チ五千円ノ資本ハ別ニ之ヲ索貸セサル可ラス、是実ニ諸預リ金ノ減少ヲ告ケテ当座貸越ヲ要望スル者ノ増多スル所以ナリ、本行ニ於テハ殊ニ経業ノ堅実ヲ謀リ当座貸越予約及「コルレスポンデンス」等ノ要款ヲ改定シテ大ニ其額ヲ減少シ、又利足ノ定度ヲ改メテ聊之ヲ増加シ、且本支店間貸借ノ額ニ於テモ勉テ其予算ノ限度ヲ誤ラサルコトヲ照知シ、互ニ相注意シテ其目的ヲ違フナキヲ要セリ、本月ニ至リテハ全般ノ商情聊カ静穏ニ帰スルカ如キヲ以テ金融モ亦自カラ緩裕ノ姿アリ、且夫本支店間貸借ノ如キモ漸ク其目的ノ預額ニ復スルヲ得タレハ爾来黽勉更ニ善調ヲ致サント欲ス、是乃チ当半季間ノ総情ニシテ而シテ下条各店ニ就テ叙述スル営業ノ情態ニ於テモ或ハ前季ヨリ優ルモノアリ、又ハ前季ヨリ劣ルモノアリト雖トモ、到底前ニ陳スル所ノ形勢ニ影響セラレサル者鮮矣
○下略

第一国立銀行第十六回株主総会要件録
明治十三年七月十八日例ニ従ヒ第一国立銀行第十六回株主定式総会ヲ本店ニ於テ開設セリ、此日会員ノ名氏議事ノ要款左ニ開列ス
　　　　　　　　会員名氏　渋沢栄一　○以下氏名略ス
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　計百人
　在他国及病気ヲ以テ代理委任状ヲ托スル者本人名氏　○氏名略ス
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　計弐百拾三人
　　　第一次
頭取渋沢栄一ハ議長ノ席ニ就キ本日来会ノ人員及委任状ヲ以テ代人ヲ出ス人員ノ数ヲ示シ、即チ当銀行株主総員十分ノ五以上ノ出席ナルヲ以テ議場ヲ開ク旨ヲ述ヘタリ
　　　第二次
議長ハ本年上半季即チ一月ヨリ六月ニ至ル六ケ月間本支店営業ノ景況ヲ演説シ、畢テ現在所有公債証書価格ヲ示シ、当季間滞貸消却ノ計算及ヒ横浜支店ニ於テ円銀ト紙幣トノ預ケ合貸借ヨリ生シタル滞貸ノコトヲ述ヘ、且此滞貸ニ生スヘキ損毛ハ未タ決算ニ至ラスト云トモ概ネ六万円位ト想像サルヽニ付、当季ヨリ三四季間殊ニ滞貸準備ヲ設クヘキ事ヲ乞ヒ、而シテ当季間本支店損益勘定ノ結果利益金割賦ノ考案ヲ報道シテ之レカ決議ヲ求ム、第五十四番今井友五郎ハ滞貸準備積立及利益金割合等都テ議長ノ考案ニ於テ異議ナキ旨ヲ答ヘ、且衆位ノ意見ヲ問フ、衆皆同意ヲ表ス、玆ニ於テ議長ハ例ニ拠リ大蔵省ノ允許ヲ得テ利益金ヲ配当スヘキ旨ヲ告ケ、衆皆領諾セリ
　　　第三次
議長ハ利益金割合等既ニ決セシヲ以テ、更ニ別議ノ為メ格段決議ヲ開クヘキ旨ヲ述ヘテ左ノ議案ヲ発セリ
 - 第4巻 p.412 -ページ画像 
　一積立金ハ当季ニ於テ資本金ノ二割ニ抵ルヲ以テ定款第三十六条第二項但書ノ趣旨ニ従ヒ増額蓄積スヘキ件
　一秋田出張所ハ秋田県下国税金取扱ヲ遵行シ総テ銀行ノ事業ヲ営ムニヨリ支店ト改称スヘキ件
　一定款第十三条株主定式総会日一月七月トモ十日ヨリ廿日マテノ前日曜日ノ前ノ字ヲ削除スヘキ件
議長ハ右ノ三件ハ定款ノ更正増補ニ係ルヲ以テ即チ格段決議ニ従ヒ本日予メ同意ヲ取リ、然ル后十四日以外一ケ月以内ヲ以テ更ニ会議ヲ設ケテ之ヲ決スヘキヤ否ヲ問フ、今井友五郎先ツ発言ヲ為シ、衆皆之ニ同シテ本日速ニ決議セラレンコトヲ求ム、是ニ因テ議長ハ積立金増蓄ノ考案　積立金割合下ニ記ス）ヲ述ヘテ諸位ノ意見ヲ問フ、肥田昭作積立金ノ多キハ固ヨリ望ム所ナルヲ以テ考案ノ如ク決定スヘキ旨ヲ答フ衆皆異議ナキ旨ヲ答フ、秋田出張所改称及定款十三条前ノ字ヲ削除スヘキ二件モ亦原案ノ如ク決定セリ
　積立金割合
　　積立金ハ既ニ条例ニ明示セラレタル所ノ制限高ニ達シタリト云トモ純益金ノ十分ノ一ヲ目途トシテ尚之ヲ積立ヘシ、尤モ株高ヘノ割賦金年壱割弐歩ニ及ハサルトキハ此積立ヲ為サス、年一割六歩以上ニ及フトキハ此定度ヲ超ヘテ之ヲ蓄積スヘシ
　　　第四次
議長ハ例ニ拠リ本年下半季間本支店営業ノ予算ヲ報告ス
右畢テ午後五時三十分会散ス
　明治十三年七月十八日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　渋沢栄一

第一国立銀行半季実際考課状　第一五回〔明治一三年下期〕
　　　　○本支店営業景況之事
爰ニ当半季間ノ本支店営業ノ梗概ヲ条記スヘキニ因リ、敢テ基ク所ノ原由ヲ尋ネ聊カ大局ヲ掲ント欲ス、蓋シ融通ノ暢塞スル其因固ヨリ多シ、区々一局面ニ就テ論究スヘキニ非ス、然リト雖モ本行其実際ニ拮据シテ時勢ニ範囲セラルヽヲ以テ其見ル所亦自カラ虚妄ニアラサルヲ信スルナリ
夫レ当季金融ノ景況ハ之レヲ概言スレハ前季ニ承継シテ常ニ促迫ニ苦メリ、然リ而シテ凡ソ物窮レハ必ス変スルノ理ニ由リテ其促迫ノ極ヤ亦自カラ交換運転ヲ迅速ナラシムル所アルヲ覚フ、試ニ其一例ヲ挙レハ、当季本支店ノ営業ニ於テ其貸付及当座貸越ノ如キ、定期預リ当坐預リノ如キ、之レヲ去年ニ比スレハ大ニ其額ヲ減シ、前季ニ較スルモ皆増加スル所アルヲ見ス、而シテ並為替荷為替割引ノ如キハ実ニ大ニ増進セリ、是レ他ナシ貸付金ハ勉メテ其期限ノ短縮ナルヲ望ムヲ以テ各商估モ亦其物貨ノ交換ヲ急ニスルノ情アルニ由ル、是ヲ以テ金融頻繁ニシテ常ニ間断ナク以テ余資ヲ閑却セシメス、其融通ノ促迫ナルニ従テ利足ハ荐リニ騰貴シ、割引手数料ノ如キモ或ハ平時ニ倍スルコトアリ、且本行去年以来金融ノ漸ク否塞スル所アランコトヲ鑑ミ、大ニ計画スル所アリテ爾来益戒慎ヲ加ヘ、敢テ進取ヲ求メス、専ハラ退守
 - 第4巻 p.413 -ページ画像 
ニ仔々《（孜々）》タルニヨリ、其力メテ回収シタル永延ノ貸付及当坐貸越ノ如キハ之ヲ至急捷利ノ資本ニ供シ、短期ナル割引貸ノ類ハ本支店間常ニ巨額ヲ存スルモ亦期ニ従テ之ヲ還収運転スルヲ得タリ、是ヲ以テ能ク其給スヘキニ給スルヲ得テ運用渋滞ノ患ナク、遂ニ決算ニ及テ得ル所ノ利益ハ大ニ予算ニ超過シテ殊ニ思想ノ外ニ出タリ
形状前ニ陳スルカ如クナレハ銀行者ハ世間金融ノ緩裕ナルヲ喜ハスシテ却テ常ニ其促迫ヲ企望スヘキカ、曰ク否、大ニ其然ラサルヲ覚ルナリ、夫レ今日融通ノ必迫スルハ其根理ハ或ハ貨制ニ帰スヘシト雖トモ目前促迫ヲ来スモノハ円銀ノ騰上ニ在リ、円銀騰上ス、乃チ紙幣下落ス、是ヲ以テ物価悉ク其価ヲ増シ、前ニ壱万円ヲ要スルノ商估ハ今日壱万六七千円ヲ要サレハ以テ同量ノ貨物ヲ販鬻スル能ハス、是レ実ニ融通ヲ梗塞セシムルノ原因ニシテ金利ノ騰貴スルモ亦之レニ由ラサルヲ得ス、然リト雖モ別ニ又一ノ由縁ナキニアラス、今夫レ円銀騰上スルト雖トモ理固ヨリ其極度ナキ能ハス、故ニ其騰上スルヤ随テ輸入品ノ販売ヲ渋滞セシム、既ニ之レヲ渋滞セシムレハ其間殊ニ金融ヲ否塞シテ終ニ復タ円銀ヲ低落セシムルコトアリ、而シテ其昂低ノ間ニ於テ之ニ関スル商估ノ各其意見ヲ異ニスルモノアツテ或ハ必要ナキニ之ヲ収買シ、或ハ紙幣ニ苦シムモ尚之ヲ放売セス、其売買交収ノ際ニ於テ苟モ両貨ノ有余不足アレハ実ニ非常ノ利足割合ヲ生スルニ至ル、是レ世間ノ金利ヲ騰貴ナラシムルノ近因タリ、今ヤ商運大ニ進ミ運輸ノ法亦盛ンニ開クルニ当リテ、縦令我邦ノ商估智識優ニ精励至レルモ豈年弐割以上ノ利息ヲ其資本ニ仕払フテ尚余利ヲ見ルアルヲ得ヘケンヤ、然ラハ則金利騰貴ノ帰スル所ハ自他一般ノ損耗ニ止マラスシテ竟ニ全国ノ商業ヲ萎微セシムルニ至ラン、安ソ目下ノ贏利ヲ幸トシテ之ヲ将来ニ望ムベケンヤ
金融否塞シ利足騰貴スレハ其影響常ニ公債証書ノ価格ニ及シ、益其価格ヲ低下スルニ至テハ一時或ハ底止スル所ヲ知ラサルカ如キノ状アリキ、夫レ公債証書ハ銀行ノ由テ以テ資本トスル所ノモノニシテ関係極メテ大ナリ、若シ其低下スレハ自カラ資本ヲ削減セラルヽカ如シト云トモ是ヲ金融ノ促迫ニ実因スルトセハ亦逭ルヘカラサルノ数ト云フヘシ、然リ而シテ其当季間ノ景況ヲ観ルニ七月以後臘尾ニ至ル迄常ニ低下ニ傾向シテ少シク捩止スル所アルヲ見ス、翻テ金融ノ景況ヲ看レハ促迫ノ間或ハ余裕ヲ見ルコトアリ、此ノ如クナレハ其商況ノ然ル所以ハ未タ全ク原アルノ因ニ帰スルノミト云フ可ラス、豈別ニ実勢ヨリ虚勢ヲ生シ一犬影ヲ吠ヘテ万犬声ニ吠ユルノ状ナキヲ得ンヤ、今臘尾ヨリ新年ニ入リテ大ニ其旧価ヲ挽回スルノ情アリ、是レ其極ニ至リ還タ変スルノ理ニ因ルカ或ハ亦一時金融ノ余裕ニ因リテ僅ニ捩止スルヲ得ルモノカ敢テ察知スルヲ得スト雖トモ、幸ニ本年ノ金融ヲシテ甚タ否塞ノ極ニ至ラシメス円銀ノ価格ヲシテ大ニ昂低変態アラシメス、而シテ利足ノ割合ヲシテ常ニ適当ニ居ラシムレハ今日聊カ公債ノ旧価ヲ挽回セシモ亦其一時ノ反動ニ出ルニアラス、漸ク以テ適当ノ価位ニ復スルヲ得ヘシ、是本行カ切ニ企望スル所ナリ
嗚呼金融ノ促迫、利息ノ騰貴、円銀ノ騰上、公債ノ低下、倶ニ銀行ノ営業ヲ累シ、当季本支店ノ盈絀皆焉ニ与カラサルヲ得ス、左ニ本支店
 - 第4巻 p.414 -ページ画像 
ノ概況ヲ叙述スルニ因リ聊総情ヲ掲クト云爾
○下略

第一国立銀行第十七回株主総会要件録
明治十四年一月十六日例ニ従ヒ第十七回株主定式総会ヲ本店ニ於テ開設セリ、是日会員ノ名氏議事ノ要款左ニ開列ス
　　　　　　　　会員名氏　　　　渋沢栄一　○以下氏名略ス
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　計百三人
　在他国及病気ヲ以テ代理委任状ヲ托スル者本人名氏○略ス計二百十七人
　　　第一次
頭取渋沢栄一ハ議長ノ席ニ就キ当日来会ノ人員及委任状ヲ以テ代人ヲ出ス人員ヲ示シ、即チ株主総員十分ノ五以上出席ナルヲ以テ議場ヲ開ク旨ヲ述ヘタリ
　　　第二次
議長ハ昨下半季即チ七月ヨリ十二月ニ至ル半ケ年間営業ノ総情本支店ノ景況ヲ報告シ、及ヒ当季本支店損益勘定利益金割賦ノ考案ヲ示シ、其割賦法ヲ決議センコトヲ求ム、第七番五代友厚、第五十二番矢島作郎、第六番三野村利助、第六十番白井菊等倶ニ起立シテ議長考案ノ如ク異議ナキ旨ヲ述ヘ、衆皆同意ヲ表ス、議長ハ例ニ依リ大蔵省ノ允許ヲ得テ其配当ヲ行フヘキ旨ヲ告ケ、衆皆之ヲ領諾セリ
　　　第三次
議長ハ諸項ノ報道ヲ了シ、利益金配当法ノ決定ヲ得ルニ因リ、取締役一同ト与ニ其任ヲ解キ更ニ投票撰挙ヲ行フヘキ旨ヲ述ヘ、五代友厚議長ノ席ニ就キ、其投票ヲ開キ書記其点数ヲ記ス
　永田甚七　　　三千〇六十八　　　斎藤純造　　　三千〇四十
　渋沢栄一　　　二千九百十二　　　三井八郎次郎　二千九百〇八
　西園寺公成　　二千八百九十四　　三井高福　　　二千五百五十四
　深川亮蔵　　　六百〇八　　　　　矢島作郎　　　二百九十三
　肥田昭作　　　百十　　　　　　　熊谷辰太郎　　九十八
　沼間守一　　　七十九　　　　　　三野村利助　　六十四
　岩崎弥太郎　　四十四　　　　　　渋沢喜作　　　四十二
　向井小右衛門　四十　　　　　　　益田孝　　　　三十九
　中村利兵衛　　三十四　　　　　　松本常蔵　　　三十二
　朝吹英二　　　三十一　　　　　　三井三郎助　　十七
　戸田氏共　　　十六　　　　　　　松平茂昭　　　十三
　蒲義質　　　　十二　　　　　　　藤井勉三　　　五
　鈴木善三　　　一　　　　　　　　岡田平太郎　　一
　三井元之助　　一
五代友厚ハ取締役人員ハ旧ノ如ク六名ヲ撰ムヘク、今此投票ノ多数ヲ得ルモノ永田甚七、斎藤純造、渋沢栄一、三井八郎次郎、西園寺公成三井高福ヲ挙テ之ヲ再任スヘキ旨ヲ報道シ、該員再任ヲ領諾セリ
　　　　第四次
渋沢栄一ハ再任五名ニ代リ会員ニ告ケテ曰ク、小子等再任ヲ忝フス尚勉励従事スヘシ、言畢テ即チ本年上半季本支店営業損益予算ヲ報告シ衆皆之ヲ領意セリ、時ニ午後六時三十分会散ス
　　明治十四年一月　　　　　　　　　　　　渋沢栄一

 - 第4巻 p.415 -ページ画像 

東京株式取引所第一回半季実際考課状〔明治一一年下期〕
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（東京株式取引所所蔵）
　　　　○営業事務ノ事
一九月十一日第一国立銀行ハ株式取引所条例第一章第一条及ヒ当取引所定款第一章第四条ニ拠リテ同銀行株主ノ望ニ任セ其株式ヲ当市場ニ於テ売買立会セシムヘキ請求書ヲ寄セタリ、乃チ同月廿日ヨリ例規ニ照ラシテ挙行スヘキ旨ノ承認書ヲ回致セリ

第一国立銀行半季実際考課状　第一四回〔明治一三年下期〕
　　　　○諸御達並願伺之事
○上略
一本行頭取渋沢栄一営業ヲ以テ四月廿五日東京ヲ発シ大阪ニ赴キ、五月廿六日ヲ以テ帰京ス、其出発帰着倶ニ大蔵省ニ上申セリ。
○下略

渋沢栄一　書翰　芝崎確次郎宛（明治一三年）五月五日（芝崎猪根吉氏所蔵）
四月三十日附書状披見仕候、熊谷事ハ実ニ憫然之至、一昨日死去之趣ハ昨日西京着ニて電報一覧ニ付直ニ親父へも蒲を遣し篤と申聞置候、跡片付いたし置何れ帰京之上打合可申候、静岡之方も吉森屋へ御書通被成熊谷所持之地所ハ相当ニ引受方相頼借用金ハ片付させ申度候
家内無事手計村客人来京之由留守居旁上都合と存候、宜御申入可被下候
帰京ハ何分廿日頃ならてハ出来兼可申候、尤も明日ハ西京用事取片付大坂へ罷越申候積ニ候
河西より来状落手同人も其中香港へ遣し候筈ニ候、もし物産会社之方さして至急ニ無之候ハヽ小生帰京迄為待候而も宜敷、併夫ハ益田之都合佐々木より聞合取計候様河西へ御申聞可被下候、取急き出立之際面会せさるハ残念之至ニ候
健良○福岡事其中帰京候ハヽ縁談ハ夫々取計候様奥様へ御申聞可被下候、尤も同人ハ尚又古河之山ニ相稼候為メ出張之筈ニ候得共、夫ハ小生帰京之上と御心得可被下候
追々向暑昨今ハ中々綿入ハ不用位ニ御坐候、引続き壮健奔走仕候、御休神可被下候　匆々
　　五月五日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　栄一
　　　　格次郎殿《（確次郎）》
　　留守中取締向別而御入念可被下候、夜ハ早く寐、早朝ニ起て相働候義ハ身体ニ取り最上之養生ニ候
　　子供ニも西園寺も精々学問為致候様御申通し可被下候