公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15
第4巻 p.421-440（DK040040k） ページ画像
明治14年（1881年）
是年ヨリ明治十九年上期ニ至ル間、紙幣整理ノ進捗ニ伴ヒ経済界ハ不況ノ極ニ沈衰ス。同行モ亦概シテ営業不振ナリシカド、栄一ヨク之ヲ指導シ基礎ノ鞏固ヲ計ラシメシヲ以テ、此間積立金ハ倍近ク増加ヲ見、六拾参万余円ニ達シタリ。
第一銀行五十年史稿 巻四・第一―四頁（DK040040k-0001）
第4巻 p.421-422 ページ画像
第一銀行五十年史稿 巻四・第一―四頁
明治十三年以後の恐慌
初め明治九年銀行条例の改正後、国立銀行の設立相続いて起り、従来僅に四行に過ぎざりしもの、数年の間に忽ち百五十三行の多きに達したり、此時に当りて明治十年戦役起りて、戦費に充当する必要上、政府紙幣の流通は俄に巨額に上り、国立銀行の増設に伴へる銀行紙幣の増加は、政府紙幣の増発と重畳して不換紙幣遂に天下に満つ、此に於て紙幣の下落となり、物価の騰貴となり、商況の活溌となり、世を挙げて一時の繁栄を謳歌せり、然るに明治十三年政府が紙幣銷却の事に着手するや、其価格の恢復すると共に、物価もまた下落して漸く反動の時期に入り、商工業の沈衰甚しく、全国到る所不景気の声を聞かざるはなく、十六七年の交には諸銀行の破産、又は営業中止のもの輩出して、人心恟々たり、十七年二月朝鮮の暴動起り、延いて清国とも違言を生じ、両国の国交将に破れんとし、其刺戟は経済界に及びて、数
以下p.422 ページ画像 明治14―19年営業成績表 年 季 払込資本金 積立金 銀行券流通 貸出金 預金 有価証券 金銀 経費 純益金 一四 上 一、五〇〇、〇〇〇 三三五、〇〇〇 一、一九五、六三八 三、四七七、七八二 二、七三〇、三一六 一、六〇七、二六九 一、五七五、〇九八 四四、九五五 二二一、二二〇 一四 下 〃 三七五、〇〇〇 一、一九六、一四九 四、三四四、二四一 二、八九八、七九五 一、五八二、五七〇 一、五九一、四三八 四九、六〇九 二二二、一二三 一五 上 〃 四五〇、〇〇〇 一、一九六、九四〇 三、三一六、〇五三 二、六九九、八〇九 一、六八五、七六九 一、六一九、三四四 五二、二三二 二〇三、一六六 一五 下 〃 五〇〇、〇〇〇 一、九一〇、八五六 三、五〇三、四二二 二、七八八、八五九 一、七三七、三六一 二、一二三、四四八 五〇、七〇三 二一四、一二九 一六 上 〃 五三〇、〇〇〇 一、二〇〇、〇〇〇 三、五七七、七八二 二、九八二、一二五 一、八四七、六五〇 一、三九五、二六八 四九、九五三 一八五、〇五四 一六 下 〃 五四〇、〇〇〇 一、二〇〇、〇〇〇 四、七三八、九三三 四、九五四、八三一 一、七三五、六三一 二、五四二、三八四 五三、三四四 二〇一、九六四 一七 上 〃 五五〇、〇〇〇 一、一八七、二七三 四、三五一、七六八 四、五三〇、三六九 一、九六一、六六〇 一、七五八、二一八 五五、三一六 一八七、二八七 一七 下 〃 五六〇、〇〇〇 一、一七三、九八二 五、〇二六、二〇六 四、三七四、五三〇 一、九三一、六一六 一、八二三、四五一 六〇、三四六 二一八、四〇九 一八 上 〃 六〇〇、〇〇〇 一、一六〇、一一〇 三、五三四、四七九 四、二七八、六二二 一、九〇八、〇一一 二、二五三、八九七 五九、九〇六 一九五、〇六六 一八 下 〃 六一五、〇〇〇 一、一四五、七一二 四、四四五、三一九 五、〇〇五、四三〇 一、七八八、六五八 二、四四〇、三五四 五九、三二七 二〇一、五五九 一九 上 〃 六三五、〇〇〇 一、一三〇、七五四 三、九四〇、三七〇 五、七四八、八三〇 一、七六一、八七七 三、二二七、二四九 五七、一六六 一七二、五五六
年来沈淪せる不景気を振起せしむべく見えたるに、程なく漢城条約・天津条約・前後締結せられて、事件平和に帰するや、市況再び不景気に復したるに加へ、阿富汗境界事件に関する英露の葛藤は、間接に我貿易にも影響し、輸出の減退を来せしかば、銀行業もまた厄運より免るゝこと能はず、金融緩漫にして営業閑散を極め、遂に閉店するもの二十五行に及べり、十九年に至りて不景気の絶頂に達したる折しも政府紙幣の兌換実施せられて通貨の性質安定せるがゆゑに、商況回復の気運漸く萌し、各種の企業やゝ行はれて金融も始めて活動の兆あり。
恐慌時代における本行の営業
かく数年に渉りて経済界不振の際には、本行の営業もまた閑散を免れず、然れども本行は十年戦役後の繁栄には、遠からず反動の来るべきを察し、堅実鞏固なる営業方針を採りて慎重の態度を失はざりしかば却て健全なる発達を遂げ、明治十七年四日市新潟の両地に支店を置きたるを始として、漸次各地に其羽翼を伸べ、朝鮮事業の如きもますます進歩の状あり、下文参照かくて銀行の利益一般に減少せる時においてもなほ能く一割八分の配当を継続したるなど特筆すべきもの多かりき。
第一国立銀行半季実際考課状 第一六回〔明治一四年上期〕（DK040040k-0002）
第4巻 p.422-423 ページ画像
第一国立銀行半季実際考課状 第一六回〔明治一四年上期〕
○本支店営業景況之事
日月休マス光陰流水ノ如シ、爰ニ本行第十六回総勘定報告ノ期ニ当ル聊本支店営業ノ大要ヲ叙述シテ其成跡ヲ査閲スルノ便ニ供ス、窃ニ謂ラク、銀行営業ノ盈絀アルハ独一行一肆ノ間ニ止マラスシテ自カラ全般ノ商情ニ関係スル所アルヲ以テ、玆ニ報告ニ当リ勢其境域ニ論及セサルヲ得ス
- 第4巻 p.423 -ページ画像
本年金融ノ情態ハ之ヲ槩言スレハ前季ト反対ニシテ大ニ緩裕ナリト謂ハサル可ラス、爾リ其緩裕ヲ来セシ所ノ者ハ各商前季ニ於テ非常ノ贏利アツテ大ニ其余資ヲ生スルニ在ルカ、若シクハ資貲ノ供給ニ従事スル銀行ノ間ニ於テ殊ニ財力ヲ倍増セシ者アルニ因ルカ、未タ両ナカラ其拠ル可キ処アルヲ見ス、豈又別ニ原因タルモノナキヲ得ンヤ、請フ試ニ之レカ見解ヲ下サン
蓋シ商売ノ景況ハ常ニ消長スルアツテ未タ必スシモ一方ニノミ固定スヘカラサルナリ、夫レ去年以来物価ノ頓ニ騰上スルハ其原因多端ナルヘシト云トモ要スルニ各地方ノ農家ニ余財ヲ生スルヲ以テ俄カニ其購買力ヲ進メタルニ帰セサルヘカラス、是ヲ以テ商賈奇ニ居リ、利ヲ図リテ物品ノ販鬻殊ニ頻繁ヲ致シタリ、是レ其金融ノ去年ニ逼迫スル原因ニシテ而シテ年末ヨリ春初ニ迄ンテ其購買ノ力漸ク衰ヘ、騰上ノ勢自ラ減殺セラレテ銀貨米価モ亦大ニ低落スルニ至レリ、是レ或ハ騰貴ノ甚シキニヨリテ人々節約ヲ務ムルノ致ス所多キニ居ルヘシト雖トモ亦以テ商況消長ノ理ニ基カサルニアラサルハナキナリ、故ニ本年ハ都会ノ商情殊ニ平和ニシテ物貨ノ輻湊常ニ平時ヨリ減少スルアルヲ知レリ、翻テ各地方ノ景状ヲ見レハ農家ハ其貯蔵ノ米穀ヲ售売スルニ汲々タルノ情アリ、即チ本行陸羽諸支店営業ノ景況ヲ以テ之レヲ視ルモ亦其一斑ヲ徴スルニ足レリ是レ本年金融ノ緩ナル所以ナリ、之レヲ約言スレハ物価ノ交替頻繁ナラサルカ為メ商估ノ営業静穏ニシテ其庫中ノ物貨ヲ減少スルニ因レリ、然而シテ本行営業ノ総情ハ都鄙緩急ノ中ヲ折シ幸ニ緩ニ失セス急ニ困セサルヲ以テ経理平穏ニシテ前季ニ遜ラサルノ決算ヲ得タルハ株主諸君ノ為メニ賀スル所ナリ、因テ営業ノ大要ヲ左ニ開列ス○下略
第一国立銀行第十七回株主総会要件録《（八）》（DK040040k-0003）
第4巻 p.423-424 ページ画像
第一国立銀行第十七回株主総会要件録《（八）》
明治十四年七月十七日例ニ依リ第一国立銀行第十六回株主総会《（八）》ヲ本店ニ於テ開設シ、本季利益金配当及各項積立金ノ定度ヲ決議セリ
会員名氏 渋沢栄一 ○以下氏名略ス
〆八十八人
委任状ヲ以テ代理ヲ托スル者名氏
〆九拾壱人 ○氏名略ス
他出疾病其他来会シ能ハサルヲ通知シ、又ハ其通知ナク欠席スル者名氏
〆百四十一人 ○氏名略ス
第一次
頭取渋沢栄一ハ議長ニ任シ会員ニ向ツテ本日来会者及委任状ヲ以テ代理ヲ托スル者ノ数ヲ示シ、其数株主総員十分ノ五以上ナルヲ以テ議場ヲ開クヘキヲ告ケ、衆皆領意ス、仍テ本季本支店営業ノ形情ヲ報告シ細節ニ至テハ報告書ノ印行アルヲ俟テ了知セラルヘキコトヲ告ケタリ
第二次
議長ハ本季利益金配当計算ヲ示シ、併セテ其意見ヲ述ヘ、以テ是計算ノ如ク決定スヘキヤ否ヲ問フ、沼間守一君ハ後季繰込金ノ多額ナルニ付寧ロ之ヲ減シテ当季割賦金ノ幾分増加スヘキコトヲ発議セラレシカ
- 第4巻 p.424 -ページ画像
今井友五郎君、肥田昭作君、大槻修二君等ハ原案ノ如ク決定センコトヲ望マレシニ付、遂ニ原案ニ決定セリ
右ノ議決ニヨリテ決定スル所ノ各項ハ左ノ如シ
一円銀貸借ニ係ル損項ノ予備ニ充ツル為メ、爾来毎季計算ノ時ニ滞貸抵当中ニ若干ノ額ヲ加備セシカ、右円銀ハ大蔵省ニ年賦返納ヲ願請セシニ付向後毎季ノ計算ニテ其返納ヲ了シ、別ニ滞貸抵当ヲ備ヘサルコトトシ、而シテ当季滞貸抵当金七万円中ニハ是迄右借款ノ損項ニ対スル予備ヲモ加算セシモノナルニ付、万一後来円銀非常騰貴ノ補助ニ備フルモノトスヘシ
一公債証書ノ価格ヲ低廉ナラシムル為メ本季尚又弐万五千円ヲ準備シ前季準備スル所ノ三万五千円ト合積スヘキコトニ決定ス
一右ノ如ク定ムルヲ以テ本季積立金四万円ヲ設ケ、同割賦金一株ニ付金八円即チ年壱割六分ノ計算ヲ以テ配当シ、而シテ四万二千百円八十銭五厘ヲ後季ニ繰込ムヘキコトニ決定セリ
第三次
一議長ハ例ニ依リ本支店後季営業予算ヲ示シ、衆皆領意セリ
右畢テ午後六時会散ス
明治十四年七月十七日 渋沢栄一
○ ココニ第十七回トアルハ第十八回ヲ謬レルナリ。要件録ハ次ノ第十九回総会ヲ第十八回トシ、以下続イテ謬リタル回次ヲ継ギ、第二十九回ヲ脱落シテ第三十回ヨリ正ニ復セリ。
第一国立銀行半季実際考課状 第一七回〔明治一四年下期〕（DK040040k-0004）
第4巻 p.424 ページ画像
第一国立銀行半季実際考課状 第一七回〔明治一四年下期〕
○本支店営業景況之事
半季報告玆ニ第十七回ニ至ル、夫レ営業ノ総情ハ年々変異ナシト雖トモ其繁閑盈絀ハ歳々同シカラス、蓋銀行ノ業ハ世間通融ノ枢軸ニ居ルヲ以テ其緩急ノ為メニ相制セラルヽハ亦已ムヘカラサルモノナリ、故ニ毎季其情態ヲ殊ニシ、各項其盈絀ヲ異ニシ、毎回結算ニ於テ宜シク其成迹ヲ記載スヘシ、惟フニ昨年ハ上季以来融通緩優ニシテ曾テ促迫ナシ、九月ニ至リ権浜生糸紛議《（横）》ノ警報アルヨリ以来所在産糸地方ノ金融ニ影響シ、尋テ東京諸銀行相謀リ各分ニ応シテ生糸荷預所ノ資本ヲ供給シ以テ我カ糸業ノ権利ヲ失ハサルヲ期シ又以テ全国糸商ノ急需ニ応スルヲ務メ、東京ノ金融為メニ稍々変移セリ、十一月糸業紛議初テ解ケ売買猶蹰躇シテ進マス、十二月ニ至リ金融大ニ緊シク利息モ亦漸ク騰貴セリ、是当季間銀行営業ニ関スル一大要件ニシテ東京横浜両地ノ金融ハ常ニ制セラレサルヲ得サリシ、翻テ他物貨ノ総情ニ就キ之ヲ叙述スレハ、米穀ハ春夏以降価格漸次低落シ、秋晩冬初ノ交復タ微シク貴昂シ、之ヲ要スルニ商情活溌ナラサルヲ以テ呉服太物舶来品ノ如キニ至テモ銷售繁ナラス甚タ沈静ナルヲ以テ所謂不景況ノ評語ヲ下ササルヲ得ス、公債証書ノ如キハ大ニ之ニ反シテ価格騰躍シ、昨年一月ノ価格ニ比セハ其進過スルコト二割以上ニ居ル、是或ハ一昨年来甚タシク低落スル所ノ反動ト昨年已降各県備荒貯蓄法ノ為メ収買スルヲ以テ其供給ノ需用ニ相適セサルニ原因スル者ナラン乎、此ヲ当季間商情ノ概要トナス、銀行営業ノ如キ皆此ヨリ結果セリ、乃チ本支店ノ情態成迹ヲ提挙シ左ニ於テ開列ス ○下略
- 第4巻 p.425 -ページ画像
第一国立銀行第十八回株主総会要件録《（九）》（DK040040k-0005）
第4巻 p.425 ページ画像
第一国立銀行第十八回株主総会要件録《（九）》
明治十五年一月十五日例ニ依リ第一国立銀行第十八回株主総会《（九）》ヲ本店ニ開設シ、本季利益金配当及各項積立金ノ定度ヲ決議セリ
会員名氏 渋沢栄一 ○以下氏名略ス
〆九十一人
委任状ヲ以テ代理ヲ托スル者名氏
〆八十八人 ○氏名略ス
他出疾病其他来会シ能ハサルヲ通知シ、又ハ其通知ナク闕席スル者名氏
〆百四十三人 ○氏名略ス
右来会諸氏ハ午後二時ニ議場ニ入テ着席ス、頭取渋沢栄一ハ本会議長ノ任ヲ以テ会員ニ向ヒ、本日来会者及委任状ヲ以テ代理ヲ托スル者ノ数総員十分ノ五以上ナルヲ以テ会議ヲ開クヘキヲ告ケ、先ツ本季本支店営業ノ形情ヲ報告シ畢リ、又其細節ノ如キハ考課状印刷ノ成ルヲ俟テ了悉セラルヘキヲ告ケタリ
第一次
議長ハ本季利益金配当計算ヲ示シ、且収利ノ形勢既ニ進歩ヲ徴シタルニ付本季ノ配当ハ年壱割八分即チ壱株ニ付九円ノ割賦ニ定メ、其積立金及後半季繰込等ノ各項ヲモ爰ニ按算スル所ヲ以テ決議スヘキ旨ヲ述ヘ、三野村利助君、示ス所ノ計算ニ於テ異議ナキ旨ヲ発言シ、衆皆之ニ同意セリ
議長ハ又所有諸公債証書価格取調書ヲ示シテ逐次説明シ衆皆領意セリ
第二次
議長ハ右報告及会議ヲ整了スルヲ以テ諸君ト倶ニ新任撰挙ノ為メニ投票スヘキ旨ヲ告ケ、各其席ヲ退キタリ、是ニ於テ三野村利助君株主総代トシテ尽ク投票ヲ披キ其最多ノ数ヲ算スルニ渋沢栄一、三井高福、斎藤純造、西園寺公成、三井八郎次郎其数ニ当ルヲ以テ之ヲ撰挙シ、各再任ヲ承諾セリ
第三次
渋沢栄一ハ前条ノ如ク撰挙ニ応シ再任スルヲ以テ本年上半季ノ営業予算ヲ示シ、各位之レヲ領意セリ、右会事畢テ午後五時下衆皆散出セリ
明治十五年一月十五日 渋沢栄一
第一国立銀行半季実際考課状 第一八回〔明治一五年上期〕（DK040040k-0006）
第4巻 p.425-426 ページ画像
第一国立銀行半季実際考課状 第一八回〔明治一五年上期〕
○本支店景況之事
玆ニ第十八回決算ノ季ニ至リ本支店ノ景況ヲ叙スルニ当リ本年上季間商業ノ総情金融ノ形状ニ就テ薄シク開陳スル所アラントス、蓋本年ノ金融ハ三月上旬ニ至ルマテハ依然トシテ昨年ノ形状ヲ改メスシテ頗ル不融通ニ苦シミタリシカ、忽チ一転シテ金融必迫ノ声ハ商売不景気ノ言ニ変シ、大賈ハ常ニ其資本ヲ銀行ニ預ケ小賈モ亦資本ヲ望ムニ急ナラス、是ヲ以テ銀行ノ庫中ハ日ニ納ムル所多クシテ出ス所少ナク其貨幣ノ閑逸スル両三年来未タ曾テ見サル所ナリ、今其原ツク所ヲ考レハ全ク各地方農家ノ不融通ヨリ自ラ其購買力ヲ減殺シ終テ《（ニ）》都会ノ売買ニ其影響ヲ及シタルニ因ルナリ、試ミニ之レヲ明治十一二年ノ際米価騰
- 第4巻 p.426 -ページ画像
昂シテ農家俄ニ幸福ヲ得、頻ニ之カ購買力ヲ増セシヲ以テ諸物価漸ク併進シテ為メニ市中ノ金融ヲ促カシタルノ時ニ対照セハ、全ク其反体ニ出ツルノ理由明著ナルヲ知ルニ足ルヘシ
夫レ曩ニ米価ノ騰上スルハ殊ニ其給需ノ間ニ原因セシニ非スシテ自ラ我邦ノ貨制ニ関係ス、故ニ米価騰レハ諸物価モ亦之ニ従フ、然リ而シテ昨年以来ハ漸ク反動ノ勢ヲ生シテ米価ハ諸物価ニ先ツテ低下スルノ姿ナルヲ以テ農家ノ経済ハ復タ前日ノ幸福ニ居ラス、専ラ米穀ヲ売テ他ノ物品ヲ買ハサルヲ以テ市中取引ノ衰ヘルコト、日一日ヨリ甚シク其極終ニ都会ノ大賈ハ其資本ヲ閑却スルニ至レルナリ、是ヲ以テ一般銀行ノ営業ハ槩シテ前季ノ金融繁忙ナルカ如クナラスシテ其利益モ亦前季ヨリ薄キヲ免カレサルハ亦已ムヘカラサル者トナス、然レトモ当銀行ノ如キ常ニ意ヲ短期ノ融通ニ注テ甚タ其資本ヲ閑却セス、幸ニ予期スル所ノ結算ヲ得ルハ聊カ其用意ノ宜ヲ得タル所アルカ如シ、則下条ニ記ス所ヲ以テ各得失ノ殊別アルヲ示ス ○下略
第一国立銀行第十九回株主総会要件録《（二十）》（DK040040k-0007）
第4巻 p.426 ページ画像
第一国立銀行第十九回株主総会要件録《（二十）》
明治十五年七月十六日例ニ依リ第一国立銀行第十九回株主総会《（二十）》ヲ本店ニ開設シ、本季利益金配当及ヒ各項積金ノ定度ヲ決議セリ
会員名氏 西園寺公正 ○以下氏名略ス
〆七十八人
委任状ヲ以テ代理ヲ托スル者名氏 渋沢栄一 ○以下氏名略ス
〆百三十九人
他出疾病其他来会シ能ハサルヲ通知シ、又ハ其通知ナク闕席スル者名氏
〆百五人 ○氏名略ス
右来会諸氏ハ午後二時一同議場ニ上リ着席セリ、時ニ取締役西園寺公成諸氏ニ向ヒ、頭取渋沢栄一ハ居喪ヲ以テ出席セサルニ因リ本会ノ事務ヲ代理シ、而シテ諸報告等ノ事ハ支配人佐々木勇之助之ヲ陳述スヘキ旨ヲ報道シ、是ニ於テ佐々木勇之助ヨリ其庶事ヲ報告セリ、次ニ本季利益金収支計算ヲ報告シ其計算ノ如ク割合ヲ定ムヘキヤ否ヲ議問シ諸氏皆之ニ同意スルヲ以テ即本季ノ割賦金ハ一株ニ付九円、即チ年一割八歩ト定メ、大蔵卿ニ稟候ヲ経テ割賦スヘキコトニ決定セリ
次ニ本支店公債証書所有高価格見込及本年下半季営業予計ノ大要ヲ報道セリ
右会事畢テ午後三時下衆皆散出セリ
頭取渋沢栄一代理
明治十五年七月十六日 取締役 西園寺公成
第一国立銀行半季実際考課状 第一九回〔明治一五年下期〕（DK040040k-0008）
第4巻 p.426-427 ページ画像
第一国立銀行半季実際考課状 第一九回〔明治一五年下期〕
○支本店営業景況之事
爰ニ第十九回ノ決算ヲ報シ本支店半季間営業ノ概況ヲ陳述スルニ当リ聊一言ヲ述ヘ本季間営業ノ大要ヲ明ニセント欲ス、蓋銀行ノ営業ハ常ニ世上ノ商情ト相待テ繁閑アル者ニシテ本季ハ世上商業ノ情態益萎縮ニ赴クカ為メニ銀行ノ営業モ亦影響スル所アリ、然而シテ商業ノ萎縮
- 第4巻 p.427 -ページ画像
スルハ物価ノ低落ニ因シ、物価ノ低落ハ其因遠ク紙幣ノ収縮ニ帰セサルヘカラス、蓋米価低落スレハ農家ハ其需用品ヲ減節シ勉メテ購買ヲナサヽルヲ以テ延テ諸物価ニ至ルマテ皆低下ニ赴キ為メニ売買ヲ減縮シ以テ今日ノ景状ヲ為ス所ナリ、内地ノ物産既ニ其価ヲ低落スルヲ以テ外産ノ輸入モ亦大ニ減少シ、之ニ反シテ我カ輸出スル物品ハ生糸製茶其他ノ雑貨ニ至ルマテ内地ノ価位低落スルニ随テ外出ニ余裕ヲ見ルハ理当ニ然ルヘクシテ本季間ノ貿易ハ常ニ輸出ニ増シテ輸入ニ減スルノ傾キアリ、是ヲ以テ銀貨ノ低落スル異常驚クヘシト雖トモ実ニ此因アリテ此果ヲ見ルモノト謂フヘシ、但タ本季ノ初メニ於テ朝鮮ノ警報至ルニ及テ一時騰貴ノ色ヲ現ハスト雖トモ虚声ハ実因ニ勝ツナク終ニ大ニ其低落ノ勢ヲ助成シタリ、商情ノ大要前ニ叙述スルカ如クナルヲ以テ商賈ハ其収買セシ物貨ノ低落ニ際シテ悉ク損耗ヲ蒙リ、復タ其収買ヲ為サヽルヲ以テ本季間ノ金融ハ常ニ都会ニ閑優ニシテ各地方ニ促迫スルノ姿アリ、故ニ東京大坂ノ両地ハ利足大ニ低下シテ各銀行者ハ常ニ剰余ノ金額ヲ其庫中ニ積在セリ、又公債証書ノ価格ハ或ハ進ミ或ハ退キ、時トシテ一般商情ト相連帯スルアリト雖トモ本季間ニ於テハ常ニ金融ト相副ハサルモノヽ如シ、是他ナシ金融閑優ナリト雖モ物価低落ノ余勢未タ其止マル処ヲ知ルヘカラサルヲ以テ偏ニ其資本ヲ公債ニ放下スルモノ少キヲ以テナリ
此ヲ以テ当行本支店本季間ノ営業ハ常ニ金融ニ余裕アリテ其事務モ亦甚タ閙熱ナラス、其収益ノ計ニ於テモ聊前季ニ減却シテ充分ノ結果ヲ見ル能サル所以ナリ、雖然凡ソ商業ノ要ハ其事務ニ練熟シテ孜々懈ラサルニ在ルヲ以テ彼ノ金融都会ニ閑優ナルノ時ヲ以テ勉メテ地方ノ促迫ヲ補ヒ物価ヲ低落スルヲ予期シテ其抵当品ヲ厳正ニシ其貸附金ニ戒心セハ亦以テ応分ノ効ヲ呈スルヲ得ヘキナリ、顧フニ当行本支店ノ営業未タ全ク宜シキヲ得ル能ハスト雖トモ、其拮据経営ニ於テハ敢テ亦商情ノ大勢ニ背馳セサル者ト謂フヲ得ヘキカ、因テ大要ヲ略言シテ左ニ各店営業ノ細目ヲ列叙ス ○下略
第一国立銀行第二十回株主総会要件録《（二十一）》（DK040040k-0009）
第4巻 p.427-428 ページ画像
第一国立銀行第二十回株主総会要件録《（二十一）》
明治十六年一月十四日例ニ依リ第一国立銀行第二十回株主総会《（二十一）》ヲ本店ニ開設セシニ当日来会シタル者左ノ如シ
渋沢栄一
○外八十八名氏名略ス
右ノ外委任状ヲ以テ代理ヲ托スル者
〆百二十八人
○氏名略ス
他出疾病其他来会シ能ハサルヲ通知シ又ハ其通知ナク闕席スル者
〆百十人
○氏名略ス
右来会諸氏ハ午後二時議場ニ着席シ、頭取渋沢栄一ハ本会ノ議長トナリテ報道及議決シタル条件左ノ如シ
一本支店当半季間営業景況ノ大要ヲ報道セリ
一当半季利益金ノ計算ハ純益金弐拾壱万九千七百弐拾五円九拾六銭弐
- 第4巻 p.428 -ページ画像
厘ヘ前季繰越金壱万九千七百七拾六円九拾七銭八厘、滞貸準備七万円ヲ加ヘ、此内ヨリ明治十五年下半季銀行税四千弐百円、滞貸準備九万円、同償却千三百九拾六円拾七銭三厘、諸役員賞与弐万七千九百円ヲ引去リ、残拾八万六千〇〇六円七拾六銭七厘ノ内三万円ヲ積立金トナシ、拾三万五千円ヲ本季ノ割賦金ト為シ、即壱株ニ付九円年壱割八分ニ当ル、而シテ其残弐万千〇〇六円七拾六銭七厘ヲ後季ニ繰込ムヘキ議案ヲ示シ、衆皆異議ナク本案ノ如ク決定セリ
一本支店所有公債証書価格本支店当季利益予算トノ比較本支店諸入費同比較等ヲ詳細ニ報道シ又例ニ依テ本年上半季ノ予算ヲモ報道セリ
右報告及議事畢リ更ニ格段決議ノ法ニ遵テ福島支店ヲ開設スヘキ議案ヲ提出シ、且当初出張所ヲ置キ以テ今日ニ至ルマテノ事情及自今其支店ヲ設クルノ必要タル意見ヲ演述ス、衆皆異議ナク本案ノ如ク支店ヲ開設スヘキコトニ決定セリ
右ノ如ク会事全ク了スルヲ以テ頭取取締役ハ皆其任ヲ解キ今井友五郎氏開札者トナリテ取締役撰挙投票ヲ開示シ、其点数ヲ計算セシニ渋沢栄一、三井高福、西園寺公成、斎藤純造、三井八郎次郎最高点ヲ得ルヲ以テ皆再任ヲ承諾シ、午後四時下衆皆散出セリ
第一国立銀行半季実際考課状 第二〇回〔明治一六年上期〕（DK040040k-0010）
第4巻 p.428-429 ページ画像
第一国立銀行半季実際考課状 第二〇回〔明治一六年上期〕
○本支店営業景況之事
爰ニ本季当銀行本支店営業ノ槩況ヲ叙述スルニ当リテ世上一般ノ商情ヲ略陳シテ之カ冒頭ト為スハ敢テ無用ノ弁ヲ好ムニアラスシテ、銀行ノ経業ハ常ニ商情ノ大勢ニ牽掣セラレ其盛衰ニ従テ伸縮スルヲ免レサルモノアレハナリ
夫レ本季一般ノ商情ハ之ヲ槩言スレハ昨年以降ノ衰態ヲ承継シ更ニ緩慢萎縮シテ一層荒涼ノ光景ヲ増シタリト謂フニ過キス、然而シテ之ヲ致ス所以ノ者ハ其近因ヲ諸物価ノ低落ニ帰セサルヘカラス、思フニ物価低落スレハ商賈ハ他日其騰上スヘキヲ予期シテ多ク之ヲ購求スルハ是平時ノ常情ナリ、然ルニ今日其低落ヲ致ス者ハ固ヨリ尋常給需ノ間ニアラスシテ別ニ遠因ノ存スルアルヲ以テ其漸ク低落スルヲ見ルト雖トモ、敢テ又購買セサルノ姿アリ、是他ナシ前季ニ在テハ商情衰路ニ向フト雖トモ、商賈尚其挽回ノ望ヲ抱キ、敢テ方向ヲ転スルノ意ナカリシナリ、然ルニ随テ購買スレハ随テ価位低落シテ終ニ其損耗ヲ免ル能ハサルヲ以テ、各相戒慎シテ其望ヲ棄テ、而シテ売買資本ヲ転シテ公債証書ニ換ヘ、其利薄キモ尚損耗アルニ優レリトシテ乃チ巨資ヲ擁スルモノハ漸次此計ニ従事スルノ情勢ニ赴キ、是ヲ以テ物価弥低落シテ購買ノ気勢弥乏シク市場モ僅ニ当日ノ費消ニ給スル小売買ニ止ルノ景況ナリキ、蓋銀米及諸物価低落ノ原因ハ前季ノ報告ニ際シテ既ニ之ヲ陳述セリ、今又贅言スルヲ要セス、而シテ其低落ノ情態本季間ニ至テハ復タ前季ノ急躁疾歩ナルニ似スシテ稍々緩慢遅歩スルモノヽ如シ是則紙幣ヲ収縮スルノ実因已ニ界限スル所アツテ低落ノ度亦少シク底止スル所アルカ或ハ又一般ノ商情慢弛ナルヲ以テ売買給需ノ間復タ昔日ノ如ク急激ノ変相ヲ現スモノナキニ因ルカ、更ニ将来ノ実況ニ就テ之ヲ観察セント欲スルナリ
- 第4巻 p.429 -ページ画像
全般ノ商情前ニ陳スルカ如キヲ以テ、本季都会ノ金融ハ最モ閑慢ヲ極メ、預リ金ハ日ニ増シテ貸付金ハ月ニ減スルノ状アリ、故ニ当行本店ニ於テモ常ニ巨額ノ資本ヲ庫中ニ余シテ之カ運用ヲ得ス、只二三月ノ末ニ当リテ公債証書ノ売買ニ影響セラレテ少シク活動ノ姿アルヲ見タルノミ、之ニ反シテ各地方村邑ノ金融ハ常ニ梗塞シテ通常ノ貸借ニ於ルモ尚困蹙スルモノアリ、想フニ是物価ノ低落スルニ従テ都会ノ商賈ハ益其購買ヲ減シ而シテ此ニ緩ニシテ彼レニ促スルノ現状ヲ呈セシコトナラント
諸物価日々低落スルノ景況ニ反シテ本季間ニ於テ価格ノ騰上シタルモノハ公債証書是ナリ、而シテ其騰上ノ進度ヲ見ルニ四月ヨリ六月ニ至ルノ際ヲ最進ノ時季トナス、然レトモ是時ニ於テ俄ニ此状ヲ現出スルモノニアラス別ニ其因ノ存スルモノアルヘシ、今夫レ商情ノ大勢前ニ略陳スルカ如クニシテ商賈ハ既ニ其売買ノ資本ヲ転シテ公債証書ノ買入ニ従事シ、銀行ハ預金増加シテ貸付金減少スルヲ以テ勢亦公債証書ヲ収買セサルヘカラス、而シテ四月已降ニ於テハ其供給ノ途頓ニ減少セシニヨリ其価格ノ騰貴スルモ亦必然ノ勢ナリト謂フヘシ
当銀行本支店ノ営業ハ前ニ陳述スル商況ノ間ニ従事スルヲ以テ常ニ痛ク戒慎ヲ加ヘ専ハラ計画ヲ善クスルカ故ニ敢テ窮途ニ迷フノ行為アラサルノミナラス、泰然トシテ其経営ヲ愆ラサルヲ以テ此商情荒涼ノ時ニ当リテ総体ノ利益ハ幸ニ予算ニ下ラサルヲ得タリ、是レ或ハ営業年ヲ積テ聊其経歴ニ富ムノ致ス所ニ因ト謂モ、此間又当務者拮据黽勉ノ力ニ依ルモノナクンハアラサルナリ、各店業務ノ詳細ニ至テハ左ニ条記スル所ノ如シ ○下略
第一国立銀行第二十一回株主総会要件録《（二）》（DK040040k-0011）
第4巻 p.429-430 ページ画像
第一国立銀行第二十一回株主総会要件録《（二）》
明治十六年七月十五日例ニ依リ第一国立銀行第二十一回株主総会《（二）》ヲ本店ニ開設セシニ当日来会シタル者左ノ如シ
渋沢栄一
○外九十名氏名略ス
右ノ外委任状ヲ以テ代理ヲ托スル者
〆百三拾人
○氏名略ス
他出疾病其他来会シ能ハザルヲ通知シ又ハ其通知ナク闕席スル者
〆百壱人
○氏名略ス
右来会諸氏ハ午後二時ヲ以テ議場ニ着席シ、頭取渋沢栄一ハ本会ノ議長トナリテ報道及議決スル所ノ条件左ノ如シ
一本支店当半季間営業景況ノ大要ヲ報道セリ
一当半季利益金ノ計算ハ利益金十九万〇五百七十八円三十七銭七厘ヘ前季繰越金二万千〇〇六円七十六銭七厘、滞貸準備金九万円ヲ加ヘ此ノ内ヨリ明治十六年上半季銀行税四千二百円、発行紙幣償却元資積立金壱万五千円、滞貸準備九万円、同償却千三百弐十三円九十一銭五厘、役員賞与二万七千二百円ヲ引去リ、残十六万三千八百六十一円二十二銭九厘ノ内壱万円ヲ積立金トナシ、十三万五千円ヲ半季
- 第4巻 p.430 -ページ画像
ノ割賦金トナシ、即壱株ニ付九円年壱割八分ニ当ル、而シテ其残壱万八千八百六十一円廿二銭九厘ヲ後季ニ繰込ムヘキ計算ヲ以テ之ヲ議案トナシ、衆皆異議ナクシテ本案ノ如クニ決定セリ
一本支店所有公債証書ノ価格及当半季利益予算トノ比較、同諸入費比較等之ヲ詳細ニ報道シ、又例ニ依リ本年下半季ノ予算ヲモ報道セリ
一仙台支店ハ便宜ニ因リ大蔵省ノ允准ヲ経テ六月一日同所大町三丁目ヘ移転シ、福島支店ハ同九町目ヘ移転スヘキヲ以テ大蔵省ヘ稟候ヲ経テ之ヲ施行スヘキコトヲ報道セリ
右議事報告畢テ四時下衆皆散会セリ
明治十六年七月十五日 議長 渋沢栄一
第一国立銀行半季実際考課状 第二一回〔明治一六年下期〕（DK040040k-0012）
第4巻 p.430-431 ページ画像
第一国立銀行半季実際考課状 第二一回〔明治一六年下期〕
○本支店営業景況之事
当半季一般ノ商情ハ前季不旺ノ景況ヲ承ケテ更ニ回復スル所ナク一層蕭々タル景状ニ推遷セリ、八九月ノ交ヨリ銀米価格日々低落ニ傾キ其勢蕩々トシテ止ル所ヲ知ラス、諸般営業ノ秩序為メニ紊乱シ、商估皆危懼ノ念ヲ抱キ、手ヲ袖ニシ足ヲ裹ミ只物価ノ静定スルヲ希望シ、売買ノ途殆ント将ニ杜絶セントセリ、十一月中旬ニ至リ銀価稍々静定シ、米価モ亦随テ低下ノ勢ヲ減シ久シク萎痺シタル商情少シク起色ヲ現ハシタリト雖トモ、農家ハ尚米価ノ賤低ナルニ困シムヲ以テ田舎諸貨物ノ需用極メテ稀疎ニシテ銷售ノ区域未タ開達スルヲ得ス、此間多少ノ売買アルハ只都鄙仲買商ノ奔走経営シテ急需不可欠ノ貨物ヲ運転スルニ過キサルノミ、故ニ一般銀行ノ営業モ亦概シテ預リ金多ク貸出金少ナク資本常ニ余裕ニ過キ専ハラ供給ノ途ヲ求ムルニ汲々タリ
公債証書ハ全ク銀米ト其趣ヲ異ニシ、前季以来価格次第ニ騰リ八九月ノ交ハ恰モ銀米ト反対ノ状ヲ為シ売買モ亦頻繁ナリ、爾後十一月頃ニ至リ鉄道公債ノ募集アルコトヲ声伝スルカ為メニ少シク下落スルノ景況アリシカ、臘尾該公布ノ発スルニ至ルマテ敢テ甚タシキ低下ニ至ラス、売買ノ数モ亦衰ヘス、是レ実ニ商家ノ景況前章ニ陳ルカ如クナルヲ以テ各家公債ヲ収買シテ微利ノ計ヲ設クルモノ日一日ヨリ多キカ為メニ遂ニ其気勢此ノ如ク盛ンナルニ至ラシメタル所以ナリ、然ラハ則今日ニ方テハ此売買ノ景況ト価格ノ昂低ヲ以テ商況ノ盛衰ヲ徴スルトキハ中ラスト雖モ遠カラサルニ庶幾カランカ
以上陳スル所ニ依レハ今日諸物貨売買ノ萎縮シタルハ農家需用ノ度ヲ減スルニ原因シ、農家需用ノ度ヲ減セシハ米価ノ下落スルニ原因シ、米価ノ下落シタルハ銀価ノ下落スルニ原因シ、銀価ノ下落シタルハ輸出入ノ権衡前年ト相反シ多出少入ニシテ銀貨ノ需用自カラ減少スルニ原因セリ、而シテ此多出少入ノ因テ来ル所ハ不換紙幣ノ数逐年減殺シテ漸次銀貨ト相対抗スルノ地位ニ達スル所ナリト謂ハサルヘカラス、然則農家商賈ノ今日ノ困阨ヲ被ムリ全国一般此睽運ニ罹リタルモ実ニ秩序輾転ノ際ニ於テ亦免ルヘカラサルノ数ト謂フヘキノミ
当銀行ハ近時曾テ戒心ヲ加ヘ、此秩序輾転ノ時ニ際シ内狼狽スル所ナク、外主顧ノ為メニ臨機便宜ヲ与フヘキ事ニ怠ラスシテ東西懸隔ノ数所各支店ヲシテ声息ヲ貫通シ、叨リニ進取ヲ図ラス、又敢テ退守自ラ
- 第4巻 p.431 -ページ画像
屈スルノ計ヲ為サヽルヲ以テ能ク時勢ト推遷シテ尽クスヘキノ営業ヲ尽クシ、獲ルヘキノ利益ヲ獲タルカ如シ、蓋シ各支店ノ中ニハ商業ノ地アリ、生産ノ地アツテ経営ノ事情固ヨリ一ナラサルヲ以テ、其得失ニ於テモ亦随テ殊別ナキ能ハス、其間或ハ前季ニ及ハサル者アリト雖モ審ニ其経営ノ結果ヲ鑑レハ皆其目的ヲ誤ラス、当半季ニシテ得ル易スカラサルノ実効ヲ奏セリ、其詳細ハ左ニ於テ開列ス ○下略
第一国立銀行二十二回株主総会要件録《（三）》（DK040040k-0013）
第4巻 p.431-432 ページ画像
第一国立銀行二十二回株主総会要件録《（三）》
明治十七年一月廿日例ニ依リ第一国立銀行第二十二回株主総会《（三）》ヲ本店ニ開設セシニ当日来会シタル者左ノ如シ
渋沢栄一
○外八十五名氏名略ス
右ノ外委任状ヲ以テ代理ヲ托スル者
〆百五拾一人
○氏名略ス
他出疾病其他来会シ能ハザルヲ通知シ又ハソノ通知ナク闕席スル者
〆八拾七人
○氏名略ス
右来会諸氏ハ午後二時ヲ以テ議場ニ着席シ頭取渋沢栄一ハ本会ノ議長トナリテ報道及議決スル条件左ノ如シ
一本支店当半季間営業景況ノ大要ヲ報道セリ
一当半季利益金弐拾壱万百五拾壱円三拾三銭弐厘、之ニ前季繰越金壱万八千八百六拾壱円弐拾弐銭九厘、滞貸準備九万円ヲ加ヘ、此内ヨリ明治十六年下半季銀行税四千弐百円、発行紙幣償却元資積立金壱万五千円、滞貸準備拾万円、同償却三千九百八拾六円九拾壱銭弐厘、役員賞与弐万八千三百円ヲ引去リ、残拾六万七千五百弐拾五円六拾四銭九厘ノ内、壱万円ヲ積立金トナシ、拾三万五千円ヲ当半季ノ割賦金トナシ（即一株ニ付九円ノ割年一割八歩ニ当ル）其残金弐万弐千五百弐拾五円六拾四銭九厘ヲ後季ニ繰込ムヘキ計算ヲ設ケテ之ヲ衆議ニ付セシニ、皆異議ナキヲ以テ本案ノ如ク決定セリ
一本支店所有公債証書ノ価格表、当半季利益予算トノ比較表、諸入費前季比較表等ヲ示シテ之ヲ詳説セリ
一議長ハ各位ニ問テ曰ク、玆ニ後季ノ経業ニ渉ル一議案アリ、今便宜ニ従ヒ現在当任者決議シテ之ヲ後任者ニ伝ヘント欲ス、因テ格段会議ノ手続ヲ以テ議決スヘキヤト、各位其決議ヲ要ス、議長乃チ議案ノ旨ヲ演説シテ曰ク、新潟ハ北地ノ一大港ニシテ輸出入物品モ少ナカラス、銀行ノ営業日々必用ヲ告クルノ事情アルニ因リ昨年九月行員ヲ派出シ、営業ノ一端ヲ試ミシニ果シテ十分ノ目的ヲ得タリ、又四日市ハ近年水陸運輸ノ便大ニ開ケ実ニ東海ノ一大良港ニ位シ、将来銀行ノ営業ヲ施行スルヲ必用トナス、故ニ昨年十月中行員ヲ派出シ其実際ヲ探索セシニ果シテ其事情ヲ詳ニセリ、今此両地ニ支店ヲ開設シテ以テ大ニ営業ノ区域ヲ開キ自他ノ利益ヲ遺サヽランコトヲ要ス、蓋支店ヲ多設スルハ敢テ望ム所ニアラスト雖トモ輓近商情ノ振ハサルニ際シ能ク進取ノ計ヲ審案シテ殖益ノ区域ヲ拡ムルニアラ
- 第4巻 p.432 -ページ画像
サレハ巨大ノ資本ヲシテ広運ノ功ヲ奏スルヲ得ス、新潟・四日市ノ如キハ皆通商ノ要区ニ居リ物貨ノ出入甚タ繁庶タルカ故ニ専ハラ其物貨ニ就キ資本ヲ流通セハ土地ニ固着スルノ恐レナク進退伸縮極メテ便利ナリトス、願クハ各位ノ可否ヲ聴テ決定セント、矢島・今井・西村・深川四氏議案ヲ賛成シ、其余各位モ亦四氏ノ賛成ニ同意ヲ表セリ、因テ議長ハ此決議ノ次第ヲ大蔵省ニ稟候シ允准ヲ得テ更ニ各位ニ通知スヘキコトヲ告ケ、議事全ク畢レリ
当任ノ取締役ハ例ニ依テ皆其任ヲ解キ、西村虎四郎氏・今井友五郎氏株主ノ総代トシテ本年ノ後任ヲ撰挙スル投票ヲ開封シ、之ヲ点数スルニ旧任皆其最高点ヲ得、再任ヲ肯諾シ、因テ本年下半季ノ営業予算表ヲ示シテ之レヲ詳説セリ
右事務畢リ四時下会散ス
明治十七年一月廿日 議長 渋沢栄一
第一国立銀行半季実際考課状 第二二回〔明治一七年上期〕（DK040040k-0014）
第4巻 p.432-433 ページ画像
第一国立銀行半季実際考課状 第二二回〔明治一七年上期〕
○本支店営業景況之事
当半季間商業ノ景況ハ都鄙一般前季ヨリ引績《（続）》キ聊モ起色セサルノミナラス米銀ノ価格愈下落スルヲ以テ商情一層衰微ニ赴キ銀行ノ営業モ亦伴フテ甚タ閑散ナリ、蓋比年商情ノ衰ヘタルハ前季既ニ其原因ヲ陳述セリ、而シテ当季一層甚タシキハ銀米ノ価格益下落スルニ由リ物貨売買ノ途益壅塞スルノ然ラシムル処ニシテ是レ第二ノ原因タルカ如シ
公債証書ハ前季ヨリ引続キ寸退キ尺進ムノ勢ヲ有シテ二月ハ一月ヨリ騰リ三月ハ二月ヨリ騰リ、終ニ四月ヲ以テ其極度ニ達シ、旋テ五月ヨリ低落シ六月ニ至テ益下リ其高低ノ度ハ殆ント一月ノ跡ヲ歩スルカ如シ、之ヲ考フルニ昨年以来引続キ漸次騰貴ニ赴キタルカ為メ商家ノ資本多ク之レニ替ルノ傾向アルニ因シカ、中山道鉄道公債ノ募集漸ク実際ニ及スニ至リ、其額ノ巨大ナル其期限ノ短近ナル其割合ノ適当ナルヲ以テ大ニ他ノ公債ニ凌駕セントスルニ当リ、尋テ又増額アルヲ以テ他ノ公債ハ益抑制セラレタルカ故ニ価格ヲ平均シタルモノト謂フヘシ夫レ成盛衰敗ハ必ス免カレサルノ数ニシテ、物盛ナレハ必ス衰ヘ成事又敗レサルヲ保タス、由此看之今日ノ一衰ハ豈他日一盛ノ機運ヲ造成スルノ地位ナリト謂ハサルヘケンヤ、近クハ之レヲ四五年前ニ徴スルモ其理昭々タルモノアリ、則当行第十四回（十三年前季）第十五回（同後季）報告ノ時ニ当テハ次第ニ物価騰貴金融ノ必迫ナルヲ告ケ、全国商業ノ繁盛ナル未タ此時ヨリ盛ンナルモノアラス、既ニシテ第十六回報告ノ日（十四年前季）ニ至テハ則金融寛弛ヲ告ケ、商情稍々冷淡ナルノ事情ヲ開陳セリ、爾来毎季回復スルヲ得スシテ終ニ今日ノ衰運ニ遭際セリ、之ヲ約言スレハ十一二年ヨリ十三年ノ末ニ至ルマテハ口ヲ開ケハ皆商情活溌金融必迫ナリト云ハサルハナク、而シテ十四年ヨリ爾来ハ人皆金融閑慢商況不景気ヲ唱ヘサルハナシ、金融必迫モ既ニ口ヲ絶ツノ時アリ、不景気特リ転換スルノ期ナカルベケンヤ、往時ヲ鑑ミテ将来ヲ察スレハ今日殆ント其極ニ近ツキタリト謂フヘキ乎
盛衰循環ノ理此ノ如クナルヲ以テ、若シ一タヒ暌運ニ遭際スルニ当テハ早ク之レカ処ヲ為シ、宜シク虧損ヲ蒙ラサルノ策ヲ施サヽルヘカラ
- 第4巻 p.433 -ページ画像
ス、故ニ当銀行ハ常ニ此ニ注意シテ大ニ綢繆経画スル所アリ、則本年新潟・四日市ニ支店ヲ設ケ、資本広通ノ途ヲ拡ムルカ如キモ是時ト相待テ取守進退セント欲スルカ為メナリ、故ニ其収益ハ毎季増減アリ、各店異同アリト雖トモ創業以来今日ニ至ルマテノ結果ヲ通看スレハ数季一進ノ効ハ歴々トシテ掩フヘカラス、而シテ本季ノ収益ハ前季ニ比シテ更ニ減スルト雖トモ幸ニ予算ニ対シテハ聊カ過剰スルヲ見ルニ至レリ、今其本支店ノ事情ヲ左ニ分説スルニ当リ全般ノ景況ヲ略叙シテ以テ参照ニ供セント欲ス
第一国立銀行第二十三回株主総会要件録《（四）》（DK040040k-0015）
第4巻 p.433 ページ画像
第一国立銀行第二十三回株主総会要件録《（四）》
明治十七年七月廿日例ニ依リ第一国立銀行第二十三回株主総会《（四）》ヲ本店ニ開設シ、当日来会シタル者左ノ如シ
渋沢栄一
○外九十名氏名略ス
右ノ外委任状ヲ以テ代理ヲ托スル者
〆百弐拾五人
○氏名略ス
他出疾病其他来会シ能ハザルヲ通知シ又ハ其通知ナク闕席スル者
〆百〇三人
○氏名略ス
右来会諸氏ハ午後二時議場ニ着席シ、頭取渋沢栄一本会ノ長議トナリテ報道及決議スル所左ノ如シ
一本支店当半季間営業景況ノ大要ヲ報道セリ
一当半季利益金拾九万三千三百弐十五円三十五銭三厘、之ニ前季繰越金弐万弐千五百廿五円六十四銭九厘、滞貸準備拾万円ヲ加ヘ、此内ヨリ明治十七年上半季銀行税四千弐百円、発行紙幣償却元資積立金壱万五千円、滞貸準備拾万円、同償却千八百三十七円九十七銭弐厘役員賞与弐万七千六百円ヲ引去リ、残拾六万七千弐百十三円〇三銭ノ内壱万円ヲ積立金トナシ、十三万五千円ヲ当半季ノ割賦金トシ（即一株ニ付九円年壱割八分）其残弐万弐千弐百十三円〇三銭ヲ後季ニ繰込ムヘキ計算ヲ以テ之ヲ衆譏《（議）》ニ付セシニ各位異議ナク本案ノ如ク決定セリ
一本支店所有公債証書価格表、当半季利益予算トノ比較表、諸入費前季比較表、及後季営業予算ヲ示シテ其要領ヲ演説セリ
右会事畢リ四時下散場ス
第一国立銀行半季実際考課状 第二三回〔明治十七年下期〕（DK040040k-0016）
第4巻 p.433-434 ページ画像
第一国立銀行半季実際考課状 第二三回〔明治十七年下期〕
○本支店営業景況之事
玆ニ各店営業ノ情態ヲ叙スルニ先チ全国一般ノ商情ヲ提挙シ、営業ノ基ク所ニ於テ聊参考ノ一助ニ供セント欲ス、思フニ全国ノ商情ハ銀行業務ノ根拠タルヲ以テ其動静ノ情状ヲ鑑ミ毎季之レヲ略述スルハ決シテ無用ノ弁ニアラサルコトヲ信セリ、況ヤ本季ノ如キ衰弊極ツテ其反動ヲ現ハシ久シク閑慢タリシ金融モ俄ニ繁劇ヲ告ルノ時ニ於テオヤ
蓋本季ノ始ニ於テハ其商況尚前季ト殊ナルコトナク所謂不景気ニ居
- 第4巻 p.434 -ページ画像
リ、金融モ亦促迫ナラサリシカ、九十月ノ交ヨリシテ稍々活動スルヲ覚ヘ、十一月ニ至リテ其情漸ク増進シテ尋テ朝鮮ノ事変ヲ声伝スルニ当リ、銀米ノ価格更ニ騰進ノ点ニ赴キ商情前日ト全ク一変シテ売買大ニ開ケ、金融日一日ヨリ劇シク、銀行ハ資本ノ運転ニ於テ仔々怠ラスト雖トモ尚能ク商賈ノ需用ニ対シテ十分供注セサルニ苦シムノ境ニ遭遇セリ
物貨売買ノ途大ニ開ケ、資本需用ノ情此ノ如ク甚シキヲ以テ之ヲ見レハ商情回復セリト謂フモ敢テ不可ナキカ如シト雖トモ、〓々其本源ニ溯リテ考ル時ハ此変動モ亦以テ真成ニ商情ノ回復スル者ト為スヘカラス、何ントナレハ都会ノ商業ハ其交通区域ニ従テ田舎一般ノ盛衰ニ制セラルヽヲ以テ常トナシ、都会自ラ盛衰アルニアラサレハナリ、試ニ看ヨ田舎ノ景情ハ米価漸ク騰進スルヲ得ルト雖トモ比年ノ衰弊ヲ承ケテ未タ活動ノ境遇ニ至ラス、今日ノ購求ハ概シテ衣服ノ敝レタルヲ修メ、家具ノ毀テルヲ治ムルカ如キ急需ニ過キスシテ其富源ヲ養ヒ其財本ヲ殖シ而シテ快楽ノ具ヲ購ヒ奢侈ノ費ヲ弁スルカ如キハ前途尚遼遠ナリトス、之ヲ譬フルニ久病者一点回陽ノ兆顕ハレ幸ニ死地ヲ免レタルカ如シ
此ニ由テ之ヲ看レハ本季間商情ノ活動セシハ比年衰弊ノ極一転スルニ際シ銀米ノ価位俄ニ騰進スルヲ以テ忽チ其反動ヲシテ急激ナラシメ、田舎久シク鬱屈スル所ノ需用ヲ促シ日常必須ノ貨物ニ於テ特ニ其給需ノ頻繁ナルヲ見ルニ至リシナリ、然ルニ比年商情ノ衰弊スルニ当テヤ商賈概ネ其資本ヲ転シテ公債証書トナシ、或ハ諸会社ノ株券トナシ運転ノ資本既ニ減縮スルヲ以テ迅雷耳ヲ掩ハス直ニ銀行ニ向テ資本ノ給注ヲ仰キ、商賈ノ銀行ニ於ル看劇者ノ視線俳優ノ面表ニ湊着スルカ如シ、本季間銀行営業ノ非常繁忙ニシテ世上一般金融ノ必迫ヲ告ケタル実ニ此ニ原因セリ
公債証書価格ノ高低ハ是亦銀行営業上関係少ナカラサルヲ以テ又其景況ヲ叙述セサルヘカラス、蓋公債証書ノ価格ハ実ニ銀貨ト拮抗ノ勢ヲ持シ其反対髪ヲ容レス、則本季ノ始メ七月ヨリ十一月迄ハ漸次騰進シ十二月ニ入リ大ニ下落ニ赴キタリ、而シテ其間ノ小動ヲ指挙スレハ十月ハ逆回シテ一時八月ノ価格ト伯仲シ十一月ハ十月ヨリ上リ九月ヨリ下リタルノ価格ヲ現ハシタリト雖トモ是レ一ハ利払後ノ相場ト銀貨一時小跌シタリシカ為メニシテ大体ノ価格ハ常ニ銀価ト反対ナラサルコトナシ、且其十二月ノ価格ハ恰モ六七月ト同位ナリ
第一国立銀行第二十四回株主総会要件録《（五）》（DK040040k-0017）
第4巻 p.434-435 ページ画像
第一国立銀行第二十四回株主総会要件録《（五）》
明治十八年一月十九日例ニ依リ第一国立銀行第二十四回株主総会《（五）》ヲ本店ニ開設シ、当日来会シタル者左ノ如シ
渋沢栄一
○外七十八名氏名略ス
右ノ外委任状ヲ以テ代理ヲ托スル者
〆百五拾人
○氏名略ス
他出疾病其他来会シ能ハルザヲ通知シ又ハ其通知ナク闕席スル者
- 第4巻 p.435 -ページ画像
〆九拾壱人
○氏名略ス
右来会諸氏ハ午後二時ヲ以テ議場ニ着席シ、頭取渋沢栄一ハ本会ノ議長ニ任シテ報告及議決スル所ノ条件左ノ如シ
一本支店当半季間営業景況ノ大要ヲ報道セリ
一当半季利益金弐拾三万千六百拾三円六拾八銭九厘、之ニ前季繰越金弐万弐千弐百拾三円〇三銭、滞貸準備拾万円ヲ加ヘ、此内ヨリ明治十七年下半季銀行税四千弐百円、発行紙幣償却元資積立金壱万五千円、滞貸準備拾万円、同償却四千八百七拾五円四拾弐銭、支店地所家屋償却四千百弐拾八円九拾七銭四厘、諸役員賞与弐万七千八百円ヲ引去リ、残拾九万七千八百弐拾弐円三拾弐銭五厘ノ内四万円ヲ積立金トナシ、拾三万五千円ヲ当半季ノ割賦金トナシ（一株ニ付九円ノ割年壱割八分ニ当ル）其残金弐万弐千八百弐拾弐円三拾弐銭五厘後季ニ繰込ムヘキ計算ヲ設ケテ之ヲ衆議ニ付シ、一二積立金額ヲ減シテ割賦額ヲ増スヘキノ動議アリシカ、多数ニヨリテ本案ノ如ク決定セリ
一本支店所有公債証書ノ価格表当半季利益ト予算トノ比較表諸入費前季比較表等ヲ示シテ之ヲ詳説セリ
当任ノ取締役ハ例ニ依リ皆其任ヲ解キ今井友五郎氏株主ノ総代トシテ本年ノ後任ヲ撰挙スルノ投票ヲ開封シ、之ヲ点数シテ旧任者皆其最高点ヲ得ルヲ以テ各再任ヲ肯諾セリ
本年上半季ノ営業予算表ヲ示シテ之ヲ詳説セリ
右会事畢リ第五時下退散ス
明治十八年一月十八日 議長 渋沢栄一
第一国立銀行半季実際考課状 第二四回〔明治一八年上期〕（DK040040k-0018）
第4巻 p.435-436 ページ画像
第一国立銀行半季実際考課状 第二四回〔明治一八年上期〕
○本支店営業景況之事
本季ノ初ハ商情昨年終末ニ続キ稍々繁熱ノ姿ニ居リシカ故ニ、二月中旬頃マテハ金融モ少シク繁忙ナリシカ、二三月ノ交ヨリ忽チ退歩シテ漸ク索寞ノ光景ヲ現ハシ、随テ銀行営業モ亦閑慢ヲ告ケ、自他ノ情況昨季ニ比シテ一層甚タシキカ如シ、其因ル所ヲ按スルニ銀米及諸物価ノ下落ト民間一般需用ノ度ヲ減シタルトニアラサルハナシ、言ヲ換ヘテ之レヲ言ハヽ則紙幣ノ流通額漸次少縮シタルト農民ノ疲弊年々加ハルトニ因ラスンハアラス、果シテ然ラハ終究民間ノ疲弊回復ノ境ニ達セサルヨリハ商情独繁熱ニ赴クヲ得ス、而シテ民間ノ疲弊回復ノ春ニ逢フハ商賈ノ奔走スルニ由ラス銀行ノ努力スルニ由ラス自カラ其回復ヲ得ヘキ道アツテ存スルナリ、豈商賈ト銀行トノ罪ナラムヤ
或ハ説ヲ作ス者アリ、曰ク、通商利セサレハ産業興ラス銀行勉メサレハ通商利ナラスト、斯言固ヨリ然リ、然リト云トモ目下饑ニ泣キ寒ニ号フ者ニ向ツテ大牢ノ美ヲ説キ錦裀ノ暖ヲ告クルト雖トモ豈能ク之ニ感奮スルノ暇アラムヤ、今ヤ民間ノ情状ヲ察スルニ饑ニ泣キ寒ニ号フモノ日一日ヨリ多ク、稍々其苦境ヲ免ル者ト雖トモ家産年々ニ痩セ、元気漸ク衰ヘル者比々皆是ナリ、此時ニ当リ銀行勉メント欲スルモ実ニ其方術ナキニ苦ムナリ、縦令其術アリトスルモ之レヲ施スノ地ナキ
- 第4巻 p.436 -ページ画像
ヲ如何セン、蓋シ商賈モ人ナリ銀行モ人ナリ農工モ亦人ナリ、安ンソ其福郷楽地アルヲ見テ年々歳々徒ラニ不景気ヲ歎スルモノアラムヤ
当銀行ハ毎ニ決算報告ノ日ニ当リ、銀行ノ営業ハ商業ノ盛衰ニ伴ハサルナキヲ陳述シテ毎季自他ノ景情ヲ報道スルニ怠ラサリシカ、本季ノ如キハ要之商情ノ衰ヘタル昨季ニ倍セリトノ隻語ヲ以テ之ヲ掩フニ過キス、株主諸君ニ於テ其原因ノ帰スル所ヲ知ラント欲セハ宜シク全般ノ課目消長スル所ニ就テ之ヲ観察セラルヽヲ要ス
公債証書価格ノ高低ハ尤銀行ニ緊切ナルヲ以テ毎季例シテ其大略ヲ述ヘタリト雖トモ、近来既ニ高価ノ一点ニ傾キタレハ今ハ已ニ之ヲ述ルモ陳套ニ属スルカ如シ、本季ノ如キハ一月初ヨリ六月末ニ至ルマテ毎月必上点ニ達シ一ケ月ノ間ニ於テハ大小高低アリト雖トモ二月ハ一月ヨリ踰ヘ三月ハ二月ヨリ騰リ竟ニ六月マテ却退スルナク商情ノ衰萎スルト全ク相矛盾セリ、蓋シ商情衰萎シテ公債証書ノ価騰貴スルハ猶人ノ支体痩羸シ其神経頴敏ナルカ如ク固ヨリ喜フヘキニアラスト云トモ既ニ其資本ヲ用フル地ナシトスレハ尚已ムニ勝レリトスルモ輿情公勢ノ然ラシムル所ナラン
総情此ノ如ク各地ノ情状モ亦多ク差ハスト雖トモ当行各支店ハ通商ノ術ニ当ル者アリ工業ノ地アリ農産ノ地アリテ営業ノ事情自ラ殊別ナキニアラス、因テ各地ノ概況ニ就テ之ヲ略叙スルコト左ノ如シ
○下略
第一国立銀行第二十五回株主総会要件録《（六）》（DK040040k-0019）
第4巻 p.436-437 ページ画像
第一国立銀行第二十五回株主総会要件録《（六）》
明治十八年七月十九日例ニ依リ第一国立銀行第二十五回株主総会《（六）》ヲ本店ニ開設シ、当日来会シタル者左ノ如シ
渋沢栄一
○外八十二名氏名略ス
右之外委任状ヲ以テ代理ヲ托スル者
〆百四十人
○氏名略ス
他出疾病其他来会シ能ハザルヲ通知シ、又ハ其通知ナク闕席スル者
〆百六人
○氏名略ス
右来会諸氏ハ午後二時ニ議場ニ着席シ、頭取渋沢栄一ハ本会ノ議長トナリテ報道及議決スル条件左ノ如シ
一本支店当半季間営業景況ノ大要ヲ報道セリ
一当半季利益金弐拾万〇九千百〇壱円四拾八銭六厘、之ニ前季繰越金弐万弐千八百弐拾弐円三拾弐銭五厘、滞貸準備拾万円ヲ加ヘ、此内ヨリ明治十八年上半季銀行税四千弐百円、発行紙幣消却元資積立金壱万五千円、滞貸準備拾万円、同消却九千八百三拾四円九拾銭、役員賞与弐万八千百円ヲ引去リ、残拾七万四千七百八拾八円九拾壱銭壱厘ノ内壱万五千円ヲ積立金トナシ、拾三万五千円ヲ当半季ノ割賦金トナシ（一株ニ付九円ノ割年壱割八分ニ当ル）其残金弐万四千七百八拾八円九拾壱銭壱厘ヲ後季ニ繰込ムヘキ計算ヲ設ケテ之ヲ衆議ニ付セシニ皆異議ナク本案ノ如ク決定セリ
- 第4巻 p.437 -ページ画像
一本支店所有公債証書価格表当半季利益予算トノ比報表諸入費前季比較表等《（較）》ヲ示シテ之ヲ詳説セリ
右事務畢リ三時下ニ会散ス
明治十八年七月十九日
議長 渋沢栄一
第一国立銀行半季実際考課状 第二五回〔明治一八年下期〕（DK040040k-0020）
第4巻 p.437 ページ画像
第一国立銀行半季実際考課状 第二五回〔明治一八年下期〕
○本支店営業景況之事
本季ハ一般ノ商情依然衰萎ノ状ヲ変セス、爾来諸商估カ呶々シタル不景気ノ歎声モ漸ク陳套ニ属シテ復タ口ニ上ラサルニ至レリ、而シテ其原因ノ如何ハ近年毎季管見ヲ陳述シタルヲ以テ玆ニ説明スルヲ須ヒスト雖モ惟フニ此商業ノ衰頽ハ一朝頓ニ生スルノ近因ニアラスシテ自ラ然ラサルヲ得サルノ遠因アツテ存スルナル可シ、果シテ然ラハ能ク其源淵ヲ探テ之ヲ救治スルノ方法ナクンハ決シテ隆盛ノ期ヲ見ル能ハサル可シ
商情斯ノ如ク衰萎スルニ随テ金融ハ常ニ閑慢ヲ極メ本季中復タ一日ノ繁忙ヲ見ス、是ヲ以テ利足ハ漸ク低落シ、公債証書ハ愈々騰上シテ終ニ昨季ノ末ニハ百円以上ノ高点ニ達セリ
夫レ公債証書ノ相場斯ノ如ク騰上スルモノハ比年我大蔵省カ其元金ノ支償ト利息ノ下付トニ於テ毫モ其期ヲ愆ラサルヲ以テ漸ク信用ヲ増シタルニ因ルヘシト雖モ商估ノ経業繁忙ニシテ資金ニ促迫スルコトアラハ豈独リ公債証書ノ価格ノミ騰上スルヲ得ンヤ、然ラハ則此騰上ヲ以テ商業不景気ノ一斑ヲ知ルニ足ルヘシ
各地米穀ノ収穫ハ昨年初夏ノ候ニ於テ吾人共ニ憂苦セシニ反シテ充分ノ秋成ヲ得而シテ其価格モ予想ノ如ク低落セサリシヲ以テ農家ハ聊カ疾苦ヲ免ルヽヲ得、加之本邦第一ノ物産タル生糸貿易ノ景況ハ九、十月ノ交マテ寂然売買ノ声ヲ聞カサリシカ十一月初ヨリ其価格俄ニ騰上シテ海外ヘノ輸出一時ニ巨額ニ至リシハ実ニ一大幸福ノコトト言フヘク、此二事ハ農商社会今日ノ凋弊ノ時ニ際シテ涸轍ノ魚ニ源泉ノ水ヲ与ヘタルカ如キ感アリト謂フヘシ
全般ノ商情前ニ略陳スルカ如ク一進一退ノ間ニ在テ而シテ金融ハ終始其繁忙ヲ見ス、余資常ニ庫中ニ閑却スルノ歎アレトモ本行ハ嘗テ近年ノ感覚ニ因テ定メタル所ノ主義ヲ執リ、益注意ヲ加ヘ本支店ノ間気息ヲ交通スルニ極メテ敏捷ヲ要シ時ニ応シテ貨幣現送ノ煩労ヲ厭ハス務メテ荷為替又ハ一時商品ノ抵当貸ニ運資シ決シテ不動資本ニ対スル融通ニ応セス、且ツ専ラ金融繁閑各店ニ偏倚ナカランコトヲ計リ、本支店ノ諸員孜々経営シ、其功空シカラスシテ竟ニ本季ノ決算ニ至リ本支店ノ純益総額ハ前季ト伯仲ノ間ニ在ルヲ得タリ、盖此好結果ハ其孜々経営シタル所ノ力尤多キニ居ルト雖モ、若シ本季生糸ノ商業意外ノ盛況ヲ以テ荷為替ノ取組貸及抵当等大ニ頻繁ヲ告ケタリシト公債証書鬮当リノ収獲トヲ得ルニ非レハ前季ニ遜ルコト必ス一歩ナラスムハアラス、是寔ニ不幸中ノ一幸ト謂フヘシ、各店営業科目ノ得失ハ之ヲ左ニ開列ス
○下略
- 第4巻 p.438 -ページ画像
第一国立銀行第二十六回株主総会要件録《（七）》（DK040040k-0021）
第4巻 p.438 ページ画像
第一国立銀行第二十六回株主総会要件録《（七）》
明治十九年一月十七日例ニ依リ第一国立銀行第二十六回株主総会《（七）》ヲ本店ニ開設シ、当日来会シタル者左ノ如シ
渋沢栄一
○外八十八名氏名略ス
右之外委任状ヲ以テ代理ヲ托スル者
〆百四拾三人
○氏名略ス
他出疾病其他来会シ能ハザルヲ通知シ、又ハ其通知ナク闕席スル者
〆百弐人
○氏名略ス
右来会諸氏ハ午後二時議場ニ着席シ、頭取渋沢栄一ハ本会ノ議長ニ任シテ報告及議事ヲ整理スルコト左ノ如シ
一本支店当半季間営業景況ノ大要ヲ報道セリ
一当半季利益金弐拾弐万〇七百七拾弐円弐拾七銭八厘ニ前季繰越金弐万四千七百八拾八円九拾壱銭壱厘、滞貸準備拾万円ヲ加ヘ、此内ヨリ明治十八年下半季銀行税四千弐百円、発行紙幣償却元資積立金壱万五千円、滞貸準備拾万円、同償却壱万九百六拾七円弐拾七銭七厘営業用地所家屋代消却四千四拾五円八拾八銭六厘、諸役員賞与弐万八千三百円ヲ引去リ、残拾八万三千四拾八円弐銭六厘ノ内弐万円ヲ積立金トナシ、拾三万五千円ヲ当半季ノ割賦金トナシ（一株ニ付九円ノ割年一割八分ニ当ル）其残金弐万八千四拾八円弐銭六厘後季ニ繰込ヘキ計算ヲ以テ之ヲ衆議ニ付シ、各位異議ナキ旨ヲ表シ原案ノ如ク決定セリ
一本支店所有公債証書価格表当半季利益ト予算トノ比較表諸入費前季比較表等ノ大要ヲ報告セリ
当任ノ取締役ハ例ニ依リ其任ヲ解キ、西村虎四郎氏、今井友五郎氏株主総代トシテ本年取締役撰挙ノ投票ヲ開封シ、其高点ヲ以テ渋沢栄一西園寺公成、三井八郎次郎ハ重任ヲ、三井高朗、須藤時一郎ハ新任ヲ肯諾セリ
本年上半季営業予算表ヲ示シ其大要ヲ報告セリ
右会事畢リ午後五時下退散ス
明治十九年一月十七日 議長 渋沢栄一
第一国立銀行半季実際考課状 第二六回〔明治一九年上期〕（DK040040k-0022）
第4巻 p.438-439 ページ画像
第一国立銀行半季実際考課状 第二六回〔明治一九年上期〕
○本支店営業景況之事
本季一般ノ商情ハ前季ヨリ引続キ甚不活溌ノミナラス更ニ衰退セル所アルカ如シ、夫レ商業ノ次第ニ衰退スル此ノ如キ原由ハ向前逐季已ニ縷述スル所ニシテ自来復タ異事アルヲ見ス、但本年ハ諸州蚕麦倶ニ豊産ヲ占メ稲作モ亦生意宜シキノ兆アルカ為メ下季ノ商業ハ一時多小活動スヘク予想スルノミ
金融ノ景況ハ上記商情ノ衰退ニ随ヒ益閑慢ヲ告ケ、利息モ次第ニ低下セリ、而シテ各地方米穀其他巨大ナル物産生出ノ区ハ都会ト反対ノ情
- 第4巻 p.439 -ページ画像
アツテ此際或ハ逼迫ヲ告クル者アリト雖モ、是則商業地ト農業地ト別アル所以ニシテ語ヲ換テ之ヲ言ハ農業地ノ金融逼迫ナルハ猶商業地ノ金融閑慢ヲ来スノ原因ニシテ亦異シムニ足ラサルナリ
諸公債ノ価ハ当季内只高進ノ一方ニ傾キ、殊ニ三月ヨリ四月ニ至リ其勢尤モ甚シク、五月ニ至リ頓ニ垂低セシハ新ニ海軍公債ノ募集アルヲ声伝シ一時妄惑ノ然ラシムル所ニ因リシナリ、故ニ其下旬ヨリ復タ次第ニ旧価ニ回リ六月ニ至テハ三四月ノ価格ヨリモ遥カニ上点ニ達シタリ
以上叙スル所ノ景況ナルヲ以テ銀行ノ営業モ収利益減却シ、殊ニ商業地ニ在テハ其影響一層烈シク、概シテ之ヲ言ハ貴重ナル資本ヲ閑却シテ徒ニ利息ヲ支出スルノ歎ナキヲ免カレス、本行ハ本季間率先シテ利息ヲ低下シ、資本運用ノ道ヲ開墾スヘキ目的ヲ以テ孜々勉励シタルカ為メニ、其結果ハ前季ニ及ハスト雖トモ予算ニ対シ却テ余裕アルヲ得タリ、則各店ノ概況ヲ提テ左ニ列ス
○下略
第一国立銀行第二十七回株主総会要件録《（八）》（DK040040k-0023）
第4巻 p.439 ページ画像
第一国立銀行第二十七回株主総会要件録《（八）》
明治十九年七月十八日例ニ依リ第一国立銀行第二十七回株主総会《（八）》ヲ本店ニ開設シ当日来会シタル者左ノ如シ
渋沢栄一
○外八十二名氏名略ス
右之外委任状ヲ以テ代理ヲ托スル者
〆百弐拾九人
○氏名略ス
他出疾病其他来会シ能ハザルヲ通知シ、又ハ其通知ナク闕席スル者
〆百拾六人
○氏名略ス
右来会諸氏ハ午後二時議場ニ着席シ、頭取渋沢栄一ハ本会ノ議長ニ任シテ報告及議事ヲ整理スルコト左ノ如シ
一本支店当半季間営業景況ノ大要ヲ報道セリ
一当半季利益金拾七万六千七百五拾六円四拾九銭七厘ニ前季繰越金弐万八千〇四拾八円〇弐銭六厘、滞貸準備金拾万円ヲ加ヘ、此内ヨリ明治十九年上半季銀行税四千弐百円、発行紙幣消却元資積立金壱万五千円、滞貸準備金拾万円、緒役員賞与金弐万六千八百円ヲ引去リ残金拾五万八千八百〇四円五拾弐銭三厘ノ内金拾三万五千円ヲ当半季ノ割賦金トナシ（一株ニ付キ九円ノ割年一割八分ニ当ル）其残金弐万三千八百〇四円五十二銭三厘ヲ後季ニ繰込ムヘキ計算ヲ以テ之ヲ衆議ニ付シ各位異議ナク原案ノ如ク決定セリ
一本支店所有公債証書価格表、当季利益ノ予算トノ比較表、諸入費前季比較表等各其大要ヲ報告セリ
一本年下半季営業予算表ノ大要ヲ提示セリ
右会事畢リ午後五時下退散ス
明治十九年七月十八日
議長 渋沢栄一
- 第4巻 p.440 -ページ画像
第一国立銀行半季実際考課状 ○第一九回〔明治一五年下期〕（DK040040k-0024）
第4巻 p.440 ページ画像
第一国立銀行半季実際考課状
○第一九回〔明治一五年下期〕
諸御達並願伺之事
一当銀行頭取渋沢栄一、西京大坂神戸等ノ各支店巡回トシテ十一月廿六日東京出発セシニ付、同廿七日銀行局長ニ上申セリ
第一国立銀行半季実際考課状 ○第二〇回〔明治一六年上期〕（DK040040k-0025）
第4巻 p.440 ページ画像
○第二〇回〔明治一六年上期〕
諸御達並願伺届之事
一一月六日銀行局ヘ、当銀行頭取渋沢栄一昨年十一月廿四日発程シテ京阪神戸等各支店ヲ巡回シ、十二月廿九日帰京セシ旨ヲ上申セリ