デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治35年4月24日（1902年）

四月十五日ヨリ本店ニ於テ支店長会議ヲ開催ス。

是日、栄一会議ニ出席シテ行務ニ開スル訓諭ヲ述ブ。

支店長会議録事〔明治三五年四月〕
　　　支店長会議録事
明治卅五年四月十五日各支店長ヲ本店ニ招集シ会議ヲ開ク、来会スルモノ左ノ如シ
　　　熊谷辰太郎　神戸支店　　　　　長谷川一彦　大阪支店
　　　市原盛宏　　横浜支店　　　　　田中元三郎　名古屋支店
　　　尾高次郎　　仁川支店　　　　　松井吉太郎　新潟支店
　　　中川知一　　京都支店　　　　　湯浅徳次郎　新大阪町支店
　　　佐々木清麿　四日市支店　　　　野口弥三　　釜山支店
　　　西川太郎一　木浦出張所
同日午前十時四十分会議ヲ開キ、佐々木支配人ハ一同上京ノ労ヲ慰シ是レヨリ支店長会議ヲ開クヘキ旨ヲ告ケ且毎日午前九時ヨリ開会シ午前中ニ終了スルコトトシ、先以テ本支店全般ニ関スル事項ヲ議了シ、各支店ニ関スル事項ハ各別ニ打合ヲナスコトニ決定シ、同日ヨリ引続キ十八日ニ至ル迄ニ開キタル会議ニ於テ協議決定シタル事項左ノ如シ
第一　代金取立手形及他所割引手形ニ関スル約定書ノ事
　従来代金取立手形及他所割引手形ハ拒絶証書作成免除トスルヲ通例トスレトモ、往々免除セサルモノアルノミナラス、免除シタルモノト雖トモ取立先ニ於テ償還請求其他法定ノ手続ヲ欠欠スルモノアリテ、後日銀行ト依頼人トノ間ニ故障ヲ生スルノ余地アルヲ以テ、之ヲ予防スル為メ別紙ノ如キ約定書ヲ取ルコトヽスヘシ、但シ得意先ノ中、右ノ約定書ヲ取ラサルモ後日故障ヲ生セサルモノト認ムル場合ニハ、之ヲ取ラサルコトヲ得ヘシト雖トモナルヘク取ルコトヲ要ス、偶々代金取立等ヲ依頼スル向ニ対シテハ□□預証ノ裏面ニ契約書ノ要点ヲ掲クヘシトノ説アリシモ、右ハ記載セサルコトヽシ、夫等ノ向ト雖トモ必要ト認メタルトキハ約定書ヲ取ルヘシ
第二　電信為替ノ詐欺ヲ予防スル事
　電信為替ノ正当受取人タルコトヲ証明スル方法完全セサルヲ以テ、詐欺ニ罹ルコトナキヲ保セサルニ付、銀行ニ於テ損害ヲ蒙ラサル様ニ注意ヲ加ヘ、予防セサルヘカラス、其方法トシテ決定シタルコト左ノ如シ
　一一口百円以下ノ電信為替ハ商業用ノ為替ニアラスシテ、旅客又ハ学生等ノ資金ナルヘキニ付、多クハ正当受取人タルコトヲ証明スルニ困難ナルノミナラス、取組ノ口数モ少ク、目下ハ郵便電信局ニテモ一口五十円迄電信為替ヲ取組ミ得ルヲ以テ、百円以下ノ電信為替ハ可成之ヲ取組マサルコト、但得意先ヨリ余儀ナキ依頼アルトキニ限リ之ヲ取組ムコトヲ得
　一受取人ニ疑シキモノアルトキハ其旅宿迄同道シ、篤ト旅宿ニテ聞合セタル上、成ルヘク保証人ヲ立テシメ払渡スコト
　一各銀行ヲシテ漸次電信為替ノ危険ヲ自覚セシメ、之ヲ廃止スルノ傾向ヲ生セシメ、其代リ信用状等ヲ発行シテ、旅行先等ニテ資金ヲ得ルノ便利ヲ計ル事
　一電信送金取組ノ依頼書ノ書式ヲ改メ、仮令支払先ノ銀行ニ於テ受
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取人相違ノ為メ損害ヲ蒙ルモ、依頼人ニ於テ負担スル旨記載セントノ説アリシモ、他店ヘ之ヲ強ユルコト能サルニ付、漸次ニ根本的改良ヲ為スノ外ナキコトニ決シタリ
第三　小口当坐《（座）》通帳一定ノ事
　右ハ予テ本店ニ於テ各店ノ通帳ヲ取リ寄セ比較ノ上取調タルニ、体載実質共ニ甚シキ相違アルニ付、之ヲ一定スル必要アリ、大体左ノ如キ諸点ヲ決シ本店ニ於テ調製ノ上各店ヘ配付スヘシ
　一体裁ハ一様ナラサレトモ目下本店使用ノモノヲ標準トシテ実際ニ便利ナルモノヲ調製スル事
　一営業事項ノ広告ハ体裁ヨキモノニ限リ末葉表紙ノ裏面ニ掲載スルコト
　一通帳ノ名称ハ小口当坐《（座）》乙部当坐《（座）》等種々アレトモ小口当坐《（座）》預金通帳ト一定スル事
　一通帳ニ預ケ主ノ印鑑ヲ掲クルモノト否トアレトモ、之ハ危険ナルニ付、多少照合ノ不便アリトスルモ印鑑ハ別ニ取ルヘキ事
　一支配人カ署名スルト単ニ店名ヲ印刷シ置キ押切判ヲナスモノトアレトモ、之ハ支配人又ハ主任ニ於テ名判ヲ押シ捺印スル事
　一預金規則ハ甚シキ相違アルニ付別紙ノ通一定スル事
　一払戻ヲ為ストキハ受取証ヲ取ルモノト、通帳ニ受取印ヲ為サシムルモノト、判取帳ニ判ヲ取ルモノトアレトモ、之ハ受取証ヲ取リテ払渡スコトニ一定スル事
第四　他店切手入金ニ関スル事
　右ニ付テハ予テ各支店ヘ左ノ通通達シタルコトアレトモ、頭取ニ於テモ特ニ注意ヲ加フヘキコトナリト云ハレタル事ナレハ、各自平素能ク注意ヲ為シ居ルヘキハ勿論、其当任者ヘハ厳重ニ警告ヲ与ヘ、常々万一ノ過ナカランコトヲ会得セシムルコト必要トス
　一当座預リ金ハ確実ナル紹介人アルニ非ラサレハ取引ヲ開クヘカラサル事
　一当座取引先中身元確実ナラサル人ニシテ巨額ノ他店切手ヲ入金スルモノハ其切手ニ支払保証ヲ為サシムヘキ事
　一面識ナキ人ヨリ他店切手ヲ持参シテ送金為替電信為替ヲ取組、預金手形ノ発行等ヲ依頼スルモノアルモ、決シテ受入ヲ為スヘカラサルコト
　一定期預リ金、通知預リ金、小口当坐《（座）》預リ金ヘ入金シタル即日又ハ翌日（若シ其間ニ休日アルトキハ休日ノ翌日）ニハ決シテ支払ヲ為スヘカラサルモノト定メ、若シ支払ノ要求アルトキハ其前ニ入金セシモノハ現金ナルヤ、他店切手ナルヤヲ取調ヘ、若シ他店切手ニテ入金シタルモノナルトキハ其切手ノ全ク取立済トナリタルヤ否ヤヲ調査シ、取立済ノコトヲ認メタル上ニ非レハ支払ヲ為スヘカラサル事
第五　既収割引料及未払利息等ノ事
　預金ト貸出ノ増加スルニ従ヒ、未払利息ト後半季分既収割引料増加スルノミナラス、受取未済ノ貸付金其他ノ利息手数料等モアルニ付漸次其金額ヲ差引決算スルコト必要ナルヲ以テ、毎半季詳細ニ其取
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調ヲ為スコトヲ要ス、依テ本店ニ於テ其用紙ヲ一定シ各店ニ通達スルコトトスヘシ
第六　半季損益勘定ノ利足割引料等計算ノ事
　半季営業報告書ノ損益勘定ニ於テ利足、割引料、手数料等ノ科目中損益両方ニ数字ヲ示シ計算ヲ為ストキハ総益金総損金ノ金額非常ニ多額ニ計上セラルヽノミナラス、総益金ヲ課税ノ標準トスルトキハ過重ノ租税トナル恐アルニ付、今期ヨリ引落シ計算ヲ為シ何レカ一方ニ計上シ其明細ハ損益勘定明細表ニヨルコトニスヘシ
第七　保証小切手ノ裏面ニ様式ヲ定メテ保証スル事
　従来保証小切手ノ保証印ハ小切手面ノ左部狭隘ナル場所ニ年月日ヲ記入シ記名調印スルハ不自由ナルノミナラス、保証小切手ヲ郵便シテ差出ストキ往々中央ヨリ截断スルモノアリテ保証セシ場所ト金額ヲ記載セシ場所ト両所ニ分レ万一ノ危険ヲ予防スルニ完全ナラサルノ憾ナシトセス、由テ之ヲ裏面ノ左方即表面ニ金額ヲ記載セシ場所ノ裏面ニ左ノ如キ印章ヲ押捺シ其欄内ニ夫々記入ヲナスヘシトノ意見アリ、然レトモ法律上保証小切手ノコトニ付テハ議論多キノミナラス近来送金代用ヲ廃止スルモノアルニ至リシ位ニテ、元来保証小切手ハ特別ナル取扱ナルヲ以テ従来ノ方法ヲ一変シテ前陳ノ如キ煩累ナル手続ヲ為シテ迄モ之ヲ保持スルノ必要ナキノミナラス、裏面ニ保証スルハ一見其区別ニ苦シミ且ツ目下調製スル小切手ハ余白ヲ多クシテ之等ノ記入ニ便ナラシメ、又保証文句ノ上部ニ打抜ヲ為ス以上ハ截断ノ場合ニ於ケル危険ヲ予防スルヲ得ヘキヲ以テ現行ノ儘トナスヘシ、又其署名ノ場合ニ支配人又ハ支配人代理等ノ肩書ヲ附スヘシトノ説アレトモ之等モ煩雑ナル手数ナレハ保証判ノ下ニ従来ノ認印ヲ為ス代リニ署名ヲ為スコトニテ足レリトスヘシ
第八　本支店為替尻ノ利息算出法ヲ改メ日々ノ残高ニ依ル事
　従来ノ如キ為替尻計算法ニ依ルトキハ、土曜日一日丈ノ残高ヲ減シ其積数ノ少カランコトヲ謀ルコトアリテ之カ為メニ無益ノ手数ヲ要シ、平常支店ニ余金ヲ留ムルノ嫌ナシトセサルヲ以テ、日々ノ残高ニ依リテ計算スルコトニ改正セントノ意見アリ、之ハ従来屡主張セラルヽコトニシテ当然ナルヲ以テ、日々ノ本店総勘定ノ残高ニ対シテ計算スルコトニ一定スヘシ
第九　為替尻利足割合ノ事
　従来限額内ノ利息ト限額外ノ利息トハ甚シキ懸隔アルニ付、右ハ支店資金ノ中地所家屋公債又ハ滞貸ニテ整理ノ見込ナキモノ等ハ或ル限度迄ハ固定資金トシテ引去リ、流通資金ニ対シテ限額ヲ定メ、限額内ノ利足ヲ引上ケ、限額外ノ利足ト甚シキ懸隔ヲ生セサルコトニ改正ノ見込ナリ
第十　現況報告交換ノ事
　現況報告ハ金融上密接ナル関係ヲ有スル各店ノ間ニ於テハ平素本店同様ニ交換ヲ為シ、且ツ其報告ノ余白ニ金融ノ概況ヲ附記シ、例ヘハ其当日ニ於テハ有高多額ナレトモ近日ノ中払出スノ見込アルカ、又ハ少額ナリトモ近日入金ノ見込アル等、近キ将来ニ於ケル手許有高ノ出入ヲ予報スルコトヲ要ス
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第十一　本行株ヲ役員身元保証金ノ代用トナスハ法律上疑義アルニ付、此場合ニ於テハ重役中ヘ其株券ヲ差入レ、重役ハ一己人ノ資格ヲ以テ之ヲ担保トナシ銀行ヘ対シ引請証人トナルコトニ改正ノ事
　本行株ヲ身元保証金ノ代用品ニ受入ルヽコトハ法律上多少疑義アリト雖モ債権発生セサルヲ以テ質物ト云フコト能ハス一種ノ供託物ト云フヘク、且ツ重役カ一己人ノ資格ヲ以テ保証ヲ為ントキハ無限ノ責任ヲ有スルコトヽナルニ付実行シ難キノミナラズ、成ルヘク当行株ヲ保証金ニ代用セシムルハ奨励スヘキコトナレバ、従来ノ儘ニテ差支ナシ、但シ他人名義ノ当行株ヲ差入ルヽコトハ厳禁スヘシ
第十二　役員身元引請人変更ノ場合ニ於テ前引請人ノ責任期間ヲ定メ旧証書ヲ返還スル事
　従来旧証書ハ返却セサレトモ、保証金及代用品等ハ都テ本人退職又ハ死亡後卅日間ノ経過ヲ以テ還付セルモノト権衡ヲ失シ往々苦情ヲ訴フルモノアルニ付、相当期間ヲ定メ旧証書ヲ返却スルコトニ改正スヘシトノ意見アリ、新規保証人ニシテ確実ナリト認ムルトキハ保証人変更後卅日間ノ経過ヲ以テ旧証書ヲ還付スルコトヽスヘシ
第十三　旅費支給規則改正ノ事
　同規則第十条ニハ家族ノ旅費ハ父母妻子二人ニ限リテ之ヲ支給シ他ハ支給セサルコトニナリ居レトモ、多人数ノ家族アル場合ニハ実際ニ適合セス、又第七条ニ滊車賃滊船賃ハ実費ヲ支給スルトアルニ拘ラス規定ノ表図ニ寝台ノ賃銀ヲ給スル旨記載ナキヲ以テ実費ノ不足ヲ生ス、又赴任ノ場合ニ家財運賃ヲ支給スルノ規定ナキヲ以テ規則改正ノ必要アリトノ意見アリ、右ノ中父母妻子ノ全体ニ渉リテ支給セサルハ不権衡ナリトセハ其割合ヲ減額シテ全員ニ支給スルコトヽシ、又寝台賃銀支給ノコトハ寝台車ニ乗車スルハ上等旅客ニ限ルコトナレハ之ヲ支給スルコトヽセハ四等以下ノモノト甚シキ権衡ヲ失シ、且夜行滊車ナレハ乗車中ト雖モ宿泊料ヲ給セラルヘキヲ以テ敢テ不都合ナキニヨリ之ハ従来ノ通リ支給セサルコトヽシ、又家財ノ運賃ハ既ニ調査セルコトナレハ其割合ヲ定メ追テ規則ヲ改正スヘシ
第十四　担保品共通特約証ノ事
　従来ノ差入証ハ割引又ハ当坐《（座）》貸越等ニヨリ別々ニナリ居ルニ付其各口ノ担保品ヲ共通トシ相互ニ不足分ヲ塡補セシムル為メ別紙ノ通約定書用紙ヲ一定スヘシ
第十五　荷物受取証ニ到着地荷物取扱店及保険会社ノ名称ヲ記載スル事
　郵船会社ノ荷物受取証等ニハ到着地所定ノ荷捌所トアルヲ以テ同社ニ照会シテ前以テ其店名ヲ知ルコトヲ得ヘク、又同社若クハ大阪商船会社取扱ノ荷物ナレハ乱雑不分明トナルノ恐少キヲ以テ其必要ナカルヘシト雖、社外船等ノ場合ニハ之ヲ記入セシムルヲ要ス、又保険付ノ場合ニハ従来何々会社保険付ノ判ヲ押捺セシムルヲ通例トスルニ付其通リ実行スヘシ
第十六　定期預金証書ニ「不許受授」ノ押印ヲ廃スル事
　定期預金証書ハ記名債券ナレハ此印章ナキモ自由ニ授受スヘキモノ
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ニアラサルヲ以テ押印ノ必要ナシトノ意見アリ、法律上記名債券ノ譲渡又ハ質入ヲ第三者ニ対抗スルニハ確定日付アル通知又ハ承諾ヲ必要トシ、其手続煩雑ナリト雖トモ多クハ法律上ノ手続アルコトヲ知ラスシテ之ヲ譲受又ハ質受スルモノアリテ、後日故障ヲ生シ訟事ヲ惹起スノ余地アルノミナラス、仮令銀行ハ訴訟上勝利ヲ得ルモ無益ノ手数ヲ要スルニ付結局不利益ナルヲ以テ、俄カニ之ヲ廃止スルノ必要ナシ
第十七　本店ニ於テ行員ノ任免黜陟其他行員ノ心得ヘキ諸種ノ出来事ヲ時々通知スル事
　本店ニ於テ従来通知シ居レトモ爾後モ注意シテ重要ト認メタル事項ハ怠ラス通知スルコトヽスヘシ
第十八　署名ニ関スル事
　定期預金証書・通知預金証書・保護預証書・当坐《（座）》通帳又ハ小口当座通帳ノ帳首等ト雖モ従来支配人又ハ支配人代理ニ於テ署名シ居リタレトモ、右ノ如キ非流通証券ニハ爾後支配人又ハ主任ノ署名若クハ名判ヲ用ヒ、其旅行等ニテ不在ノコト明白ナルトキハ其次席者ノ名判ヲ使用スヘシ、手形及質入証券預リ証券等流通証券ノ場合ニハ支配人・主任又ハ其代理者署名スベシ
第十九　信用状発行ノ事
　商業信用状及旅行信用状及之ニ附帯スル書類ノ書式ヲ別紙ノ通制定シ本店ニ於テ調製ノ上各店ヘ回付スヘシ、旅行信用状ヲ発行スルハ其全部ノ代リ金ヲ振込マシムルコトヲ要ス、商業信用状ハ荷為替ノ分ニ限リ差金ヲ受取リ発行スルヲ得ベシト雖トモ、割引ノ場合ニハ無担保ニテ発行スルコトヲ得ス、但旅行信用状ニヨリ金員ヲ払渡ス場合ニ於テ朝鮮支店ニテハ相当ノ手数料ヲ受取ルコトヲ得
第二十　支店会規則ノ事
　従来関西ニ於テ開会セシ五店会ハ或ル一部ニ限ラレ、内地支店中ト雖トモ横浜新潟長岡等ノ支店出張所ハ之ニ会スルコトナキヲ以テ不公平ナレハ、寧ロ之ヲ廃止シ、毎年支店長会議及計算方会議ヲ一度宛本店ニ於テ開会スル事トシ、別紙ノ通リ規則ヲ定メ重役会ノ評議ヲ経ヘシ
第廿一　半季営業報告書印刷物ノ中損益勘定ノ表ニ於テ本支店出張所ノ損益ヲ別々ニシテ上表スレトモ、右ハ今季ノ分ヨリ支店出張所ノ分ヲ合算シテ本店ノ分ト区別シテ上表スルコトヽスヘシ
第廿二　暑中休暇ノ事
　従来暑中休暇ハ行員代リ合セ八月一日ヨリ同月卅一日迄ノ間ニ之ヲ受クヘキモノト定メアレトモ、之ハ八月一日ヨリ九月卅日迄延長スヘシ
第廿三　担保品取扱規則改正ノ事
　担保品目増加又ハ改正スヘキモノアルニ付各店ノ申出ニヨリ検査課ニ於テ調査ノ上改正スヘシ
第廿四　割引限度ノ事
　各支店ヨリ申出ラレタル割引限度ハ目下本店検査課ニ於テ調査中ニ付追テ決定スヘシ
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第廿五　預金利足ト小切手ノ費用ノ事
　近来同業者間ノ競争激烈ナルノ結果往々ニシテ、其預金ノ運用ト経費トノ程度ヲ顧ミスシテ単ニ預金ノ吸収ヲ務ムルノ弊ニ陥リ易キ恐アリ　今本店ニ於テ各店ノ預金ト経費トノ割合及小切手ノ費用トヲ調査シタルニ別表ノ如キ結果ヲ得タリ、昨年下半季ニ於ケル各店ノ総預金平均高ト諸経費総額トノ比較ヲ見ルニ経費ハ金額ノ千分ノ十六ヲ普通トシ之ニ高低アリ、又小切手ノ費用ヲ別表ニ依リ計算シタルニ一枚十四銭二厘ニ当リ之ヲ標準トシテ各種ノ得意先ニ付テ其預金残高ト小切手使用ノ枚数ト預金ノ運用ニ依リ生スル利益トヲ比較シタルニ、中ニハ利益ナルモアリ或ハ損失トナルモアルニ付、之ニ依リ得意先全体ヲ取調ヘ其人ニ応ジテ利足ノ高低ヲ為シ、能ク大体ニ於テ預金ト経費及損失トニ注意シ得意先各自ニ就テ損益ヲ計算シ有利有益ナル預金吸収ノ方法ヲ採ラサルヘカラス

　卅四年下半季分小切手費用調書○略ス
　　　　追加

明治三十五年四月廿四日午前九時四十分開会、出席者左ノ如シ
　　　　熊谷辰太郎　　　長谷川一彦
　　　　市原盛宏　　　　田中元三郎
　　　　松井吉太郎　　　中川知一
　　　　湯浅徳次郎　　　佐々木清麿
佐々木支配人ハ本朝ノ会議ノ目的ハ過日来決議セシ事項ニ関シ遺漏誤記ナキヲ保センカ為メナル旨ヲ告ケ多数ノ同意ニヨリ逐条協議スルコトニ決シ各項ノ朗読ヲナセリ
其内追加決議セルモノ左ノ如シ
　一支店長会議録事第二項ニアル「百円以下ノ電信為替ハ成ルヘク取リ組マサルコト」ハ他店ニ対シ其趣ヲ本店ヨリ通知スルコト
　二同録事第三項ノ「小口当座通帳ニ預ケ主ノ印鑑ヲ掲クルモノト否トアレトモ之ハ危険ナルニ付多小照合ノ不便アリトスルモ印鑑ハ別ニ取ルヘキ事」ノ一項ニ関シ京都支店ヨリ請求アルヲ以テ、同店ニ於テ充分ノ調査ノ上若シ実行上甚タ不便ナルトキハ、京都支店丈ヲ除外例トシ従前ノ通リ取扱ハセルコト
右終リテ佐々木支配人ヨリ慰労金ニ関シテ説明アリ、且ツ其ニ関スル番外状及慰労金取調書ヲ配布セリ、終リニ当リ佐々木支配人ハ滞貸ニ付キ注意ヲナシ殊ニ頭取ノ不在中ハ一層ノ注意ヲ必要トスル旨ヲ述ベラレタリ
最後ニ渋沢頭取ハ前記佐々木支配人ノ注意ニ附ケ加ヘ滞貸ヨリ生スル損害ト保管品ヨリ生スル損害ニ付テハ特ニ注意ヲ加フベキ旨ヲ訓諭セラレタリ、是ニテ閉会、時ニ午前十時五十五分ナリ○下略

渋沢栄一　日記　明治三五年
四月十七日
十二時第一銀行ニ出勤ス、重役会ヲ開キ清水泰吉洋行ノコトヲ決ス、各支店ヨリ出京セル諸氏ニ面会ス
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四月廿一日
九時過ヨリ第一銀行各支店長悉ク来会ス、蓋シ今日此別荘ニ小集シテ行務ヲ談シ、且余カ旅行○欧米旅行ニ関スル趣旨ヲ陳ルノ約アルヲ以テナリ、十時半一同庭中ノ小亭ニ会シテ一場ノ演説ヲ為ス、畢テ相共ニ庭中ヲ散歩シ抹茶ヲ点シ麦酒ヲ飲ム各其好ム所ニ任ス、十二時半庭中ニ於テ午餐ス、一時席上ニ演芸ノ余興アリ、一同歓ヲ尽ス
四月廿四日
十時第一銀行ニ於テ重役会ヲ開キ要務ヲ議決ス

株式会社第一銀行第十二期営業報告書〔明治三五年上期〕
　　　　営業景況
本季間ノ金融ハ昨年来経済界不振ノ後ヲ承ケ甚タ沈静ニシテ未タ資金ノ需用ヲ喚起スルニ至ラス閑慢ノ内ニ本季ヲ経過セリ、今其大勢ヲ叙述スレハ、外国貿易ハ銀塊相場下落ノ為メ清国ヘノ輸出一時中止ノ逆運ニ傾キタリト云ヘトモ生糸ノ売レ行盛況ナリシヲ以テ概シテ順調ト云フヘク、則チ本季間輸出入ノ合計ハ弐憶四千弐百万円ニシテ計数上ニ於テハ弐千百五拾万円ノ輸入超過ヲ示スト云ヘトモ正貨ハ却テ六百六拾万円ノ流入有ルニ至レリ
金融ノ景況右ノ如クナルヲ以テ政府ハ三月以降前後三回ニ大蔵省証券弐千八百万円ヲ募集シタリシモ其大部分ハ旧証券ノ償還ト政府貸上金ノ返却ニ当テラレ加之参百五拾万円ノ公債抽籤償還ヲ為セシヲ以テ金融上著シキ変化ヲ見ルニ至ラス而シテ日本銀行ノ政府貸上金ハ五千万円ヨリ千九百万円ニ減シ民間貸出金モ亦タ大ニ減少シテ常ニ発行余力ノ存スルヲ以テ同行ハ三月六月ノ両度貸出利子各二厘方ヲ引下ケタリ之ヲ要スルニ本年上半季ノ商況ハ生糸ヲ除クノ外頗ル不振ニ属シ、一般金融界ハ常ニ閑慢ニシテ、貸出日歩ハ日ニ月ニ低落シ前季ニ比シ日歩ニシテ約四五厘ヲ低下セシモ、預金利子ハ季末ニ至ル迄未タ引下ヲ為スニ至ラサリシ
事情此ノ如クナルヲ以テ当銀行ハ本支店共常ニ余資ヲ存セシト云ヘトモ、預金貸出金其他営業ノ諸項ハ別表ノ如ク増進シタルヲ以テ、金参拾八万四千六百余円ノ利益ヲ収ムルヲ得タリ
当銀行ハ昨年十月韓国各支店ニ於テ銀行券ヲ発行スルノ許可ヲ得タルニ依リ、翌十一月壱円五円拾円三種ノ銀行券製造ヲ印刷局ニ依頼シ本年五月ニ至リ壱円券成ルヲ以テ同月下旬ヨリ其発行ヲ試ミタリ、日尚ホ浅キカ故ニ未タ多額ノ流通ヲ見ルニ至ラスト云ヘトモ頗ル声望ヲ得タリ、因テ之ヲ附記ス

株式会社第一銀行第十二期定時総会決議録〔明治三五年七月〕
　　　　　第十二期定時総会決議録
明治三十五年七月廿日午後一時ヨリ株主定時総会ヲ東京銀行集会所ニ開ク、株主総数千五百八拾弐名此株数拾万株ノ内、出席株主百六拾八名此株数壱万弐千七百九拾四株、委任状ヲ以テ代理ヲ委托シタル者拾五名此株数壱万八百四株、合計株主百八拾参名此株数弐万参千五百九拾八株ナリ
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右出席株主ハ午後二時議席ニ就キ、頭取不在ニ付取締役佐々木勇之助ヨリ本年上半季営業ノ景況及損益勘定ト併セテ銀行券発行ニ関スル報告ヲナシ、同期貸借対照表・損益計算書・財産目録ハ株主各位ニ配付シタル営業報告書ニ添付シ置キタルニ付其承認ヲ得タキ旨ヲ告ケ、一同異議ナキ旨ヲ述フ、依テ左ノ如ク利益金分配案ヲ提出シタルニ満場一致原案ノ通可決ス
一金参拾八万四千六百七拾壱円八拾壱銭　　当半季利益金
一金五万弐千八百九拾六円七拾弐銭　　　　前半季繰越金
　合計金四拾参万七千五百六拾八円五拾参銭
　　内
　金参万七百七拾円　　　　　　　　　　　役員賞与金
　金拾万円　　　　　　　　　　　　　　　積立金
　金弐拾弐万五千円　　　　　　　　　　　配当金一株ニ付弐円弐十五銭即年九分ノ割
　金八万千七百九拾八円五拾参銭　　　　　後半季繰越込金
次ニ新築費ニ付左ノ通決算報告ヲナシ承認ヲ得タリ
　　　家屋土蔵
一金四拾万参千百八拾七円四拾参銭　　　　新築家屋土蔵
一金弐万弐千弐百拾円五拾五銭　　　　　　旧家屋土蔵
　合計金四拾弐万五千参百九拾七円九拾八銭
　　内
　金拾八万円　　　　　　　　　　　　　　　新築費積立金ニテ償却
　金五千参百九拾七円九拾八銭　　　　　　　当季利益金ヨリ償却
差引金弐拾四万円　　　　　　　　　　　　現在家屋土蔵
　　　什器器具
一金壱万八千五百参拾弐円八拾四銭　　　　新調什器器具
一金弐千五百七拾五円　　　　　　　　　　旧調什器器具
合計金弐万千百七円八拾四銭
　　内
　金千百七円八拾四銭　　　　　　　　　　　当季利益金ヨリ償却
差引金弐万円　　　　　　　　　　　　　　現在什器器具
右終リテ現任取締役渋沢栄一西園寺公成三井八郎次郎佐々木勇之助熊谷辰太郎ノ五名及監査役須藤時一郎日下義雄ノ二名任期満了ニ付其改選ヲナスヘキ旨ヲ告ケタルニ、出席株主諸井時三郎氏及福田重固氏ヨリ投票ヲ省略シテ取締役監査役トモ重任セラレンコトヲ希望スル旨発言シ、満場異議ナク右ノ動議ヲ賛成シタルニヨリ取締役五名監査役二名トモ再任スルコトニ決シタリ、于時午後二時十五分
右之通決議候処相違無之候也
　明治三十五年七月二十日　　　株式会社第一銀行
　　　　　　　　　　　　　　　　　頭取　渋沢栄一
　　　　　　　　　　　　　　　　　取締役　西園寺公成
　　　　　　　　　　　　　　　　　取締役　三井八郎次郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　取締役　佐々木勇之助
　　　　　　　　　　　　　　　　　取締役　熊谷辰太郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　監査役　須藤時一郎
 - 第4巻 p.617 -ページ画像 
　　　　　　　　　　　　　　　　　監査役　日下義雄