公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15
第5巻 p.474-479（DK050106k） ページ画像
明治11年3月4日（1878年）
木挽町第十五国立銀行ニ於テ択善会第九回ノ会同開カル。栄一出席シ、訳述セシメタル「英国其資本ヲ消糜スル」ト題スル一篇ヲ演説ス。又ソノ自著ニ係ル「読銀行雑誌」ト題スル一篇ヲ演説ス。
択善会録事 第九回・第一―二六頁（DK050106k-0001）
第5巻 p.474-479 ページ画像
択善会録事 第九回・第一―二六頁
明治十一年三月四日、第四国立銀行盟主ト為リ、択善会第九回ノ会同ヲ木挽町ノ第十五国立銀行ノ楼上ニ開設シ、盟員畢ク集リ、午後五時下ヨリ会場ヲ開キ、議事演説畢テ後衆転シテ食堂ニ上リ、晩飧ヲ了シ
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テ九時下ニ退散ス、詳録左ノ如シ
会員 第十五国立銀行支配人 中村清行
同 同役員 肥田昭作
同 第一国立銀行頭取 渋沢栄一
同 同 取締役 西園寺公成
同 第二国立銀行頭取 原善三郎
同 同 支配人 下田善次郎
同 第五国立銀行取締役 和田中太
同 同 支配人 又木元衛
同 第廿国立銀行頭取 小島邦重
同 同 取締役 川杉義方
同 第卅国立銀行取締役 蓑田助之允
同 同 支配人 下村忠清
同 第廿七国立銀行頭取 渡辺治右衛門
同 同 支配人 安藤利助
同 第三国立銀行頭取 安田善次郎
同 同 副支立人《（配）》 松下一郎右衛門
同 第卅三国立銀行頭取 川村伝衛
同 三井銀行 三野村利助
同 同 斎藤銀造
同 第十三国立銀行支配人 蘆田順三郎
同 同 副支配人 鱗星助太郎
同 第十国立銀行役員 市川好三
同 第十八国立銀行代理第一国立銀行役員 須藤時一郎
同 第六国立銀行支配人 村井定吉
同 同役員 斎藤長作
同 第四国立銀行取締役 原田銀造
同 同 支配人 辻金五郎
以上廿七名
傍記 第一国立銀行役員 大沢正道
以上
傍聴 第卅一国立銀行役員 平田治七
同 同 芳賀長蔵
以上二名
○中略
○次ニ渋沢栄一ハ左ノ演説ヲ為ス
左ノ一篇ハ「ウオールド」新聞ニ記載スル「英国其資本ヲ消糜スル」ト題スル論文ヲ抄訳スル者ニシテ、一読シテ頗ル我カ今日ノ形勢ヲ鑑戒スルニ足ルヘキヲ知ル、夫レ英国ノ富強ヲ宇内ニ擅マニスルハ甞テ世人ノ知ル所ナリ、今此論文ヲ以テ其大勢ヲ察観スレハ、蓋近来貿易ノ権衡ヲ失シテ輸入ハ毎ニ輸出ヨリ多ク、而シテ其差ヲ償フカ為メニ国家固有ノ資本ヲ減耗スト雖トモ、近今英倫ニ金銀衆湊スル有ルニ依テ、未タ幸ニ其著ルシキ影響ヲ生セスト云リ、然而シテ我各港明治已降輸出入情態ノ如キハ小子曾テ其概表ヲ作リ、昨年択善会第二回会同
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ニ当ツテ之ヲ示ス、且其比較ハ甚タ以テ驚クヘキニ堪ヘタリ、因テ当時一題ノ卑論ヲ述ヘテ我殖産商沽ノ利病ヲ痛論シ、貿易ヲ調斉スルノ策ヲ演説セリ、爾後七月ヨリ十二月ニ迄ルノ概計ハ輸出大概輸入ニ超ヘタルカ如キモ、頃又今年一月已来（昨年七月ヨリ今年一月ニ迄ル輸出入略表下ニ載ス）ノ輸出入景況ヲ聞ケハ、輸入ノ輸出ニ超過スル更ニ復タ驚クへキニ堪ヘタリ、夫レ此ノ如キヲ以テ遂次海関《（逐）》ノ盛熾スルトキハ則我カ真貨地ヲ払フノ期幾ント将ニ迫ラントスル豈寒心セサルヲ得ンヤ、夫レ殷富ヲ以テ宇内ニ誇矜スル英国ト雖トモ、一朝貿易上ノ権衡ヲ失シ、輸出入ノ平均ヲ錯マレハ早ク其結果ノ如何ヲ推究シテ縦横之ヲ討論シ、以テ救護ノ策ヲ講明スルヤ左ノ文章ニ於テ詳カナリ、而シテ我カ輸出入不平均ノ如キハ固ヨリ一朝ノ累ニアラス、開港ノ始ヨリ今日ニ迄リ輸出ノ輸入ニ敵セサル所ハ毎ニ真貨以テ之ヲ塡塞シ来レハ、金貨ハ宛モ一ノ国産ノ如ク爾リ然レトモ我邦素ヨリ加拿陀ノ如キ金礦在ルニ有ラス、又迷吉西哥ノ如キ銀山ヲ有セサレハ其年ニ出口ノ金銀ハ彼レカ所謂固有ノ資本ヲ減耗スル者ニシテ、其幾許ノ数アリ幾星霜ヲ経テ銷費シ去ルヤ小子其額ノ多少ト歳ヲ度ルノ深浅トヲ計ル能ハスト雖トモ、畢竟真貨ノ殫込スルトキハ、彼レノ自カラ為メニ戒言スル金融壅塞シテ人民困難シ厳ニ節倹法ヲ行ハサルヲ得サルト云ノ悲酸ナル形勢ニ至ランモ亦知ル可ラス、此ニ於テ苟モ銀行ノ業ヲ営ムモノハ恬然之ニ対シテ胡越ノ情ヲ抱キ、目前ノ小利ニ営々シ、只自己安全タルコトノミヲ務ト為シテ可ナランヤ、宜シク理財ノ大勢ニ就テ其回護ノ法ヲ講明シ、適実ノ策ヲ設ケテ以テ其弊ヲ治メ、彼ノ戒言スル処ニ陥ラサランコトニ尽力スヘキナリ、今左ノ一篇ヲ演説スルカ為メニ敢テ此小言ヲ記シ以テ大方ノ警箴ニ具ス
英倫人民ノ一歳中ニ得ル所ヲ推算スルニ其総計無慮十二億磅ナリ、此ニ因テ之ヲ観レバ英倫ノ人民ハ其一歳ノ収入ヲ以テ従来英国ニ属スル各種ノ公債ヲ尽ク償却スルトモ猶ホ大半ノ余贏ヲ得、寔ニ世界ノ富国ニシテ以テ万邦ニ誇称スルニ足レリ、然リ而シテ細カニ今日ノ事情ヲ観テ以テ将来ヲ察スレバ却テ許多ノ憂慮ヲ生ズルコトアリ、先哲言アリ富ハ羽翼ヲ生ズト、仮ヒ殷富一世ニ冠タリト雖モ苟クモ其元ヲ培養スルコトヲ昂メザレバ財源忽チ涸凋シテ国勢漸ク応ニ衰微ニ趨クベシ抑々英ノ富有ナルハ、其鉱物製品等ニ因ルコト固ヨリ少ナカラズト雖モ、然レトモ其主トシテ源スル所ハ其多年ニ貯蓄シタル資本ノ巨大ナルニ在ルナリ、夫レ貯蓄シタル資本ハ仮ヒ幾何ク巨大ナリト雖モ元ト其数ニ際限アリ、故ニ若シ復タ之ヲ殖シ之ヲ大ニスルコトヲ謀ラズシテ唯タ常ニ之ヲ減却スルノミナルトキハ、終ニハ其全額モ消耗スルニ至ルハ識者ヲ竢タスシテ明カナリ、吾輩曩ニ「ウオールド」新聞ニ於テ今日我国ノ形勢ハ消々此針路《（マヽ）》ニ傾向シタルコトヲ痛論セリ、試ミニ近来我国ノ貿易ヲ見ヨ、輸出ノ輸入ニ及バザル其差額常ニ甚ダ大ナリ此差額ハ則チ我国固有ノ資本中ヨリ支償スル所ニシテ決シテ世人ノ憶測《（臆）》スル如ク貿易上ノ利益ヲ以テ之ニ充ツルニアラズ、「タイムス」記者及理財ノ学者等ハ皆之ヲ以テ敢テ貿易ノ不平均ニモ非ラズ我国ノ損失ニモ非ラズト云フト雖モ、吾輩ハ固ク之ヲ将テ英倫人民ノ須ラク戒厳スベキ徴候ナリト云ハザルヲ得ズ、頃日「イコノミスト」新聞ニリバ
以下p.477 ページ画像 自明治十年七月至同年十二月輸出入略表 七月分 八月分 九月分 十月分 十一月分 十二月分 総計 十一年一月分 単位 金 円 銭 金 円 銭 金 円 銭 金 円 銭 金 円 銭 金 円 銭 金 円 銭 金 円 銭 輸出 2,031,045 57.1 1,704,499 83.4 1,837,071 21.9 3,433,847 30.2 3,229,023 03.6 3,704,265 54.8 15,939,752 51.0 1,697,759 91.3 輸入 2,610,297 25.0 2,518,320 08.3 2,584,091 54.9 2,978,588 26.8 1,855,471 68.5 2,393,245 32.9 14,940,014 07.4 2,987,862 48.4 輸出超過 ……… …… ……… …… ……… …… 455,259 03.4 1,373,551 35.1 1,311,020 21.9 3,139,830 60.4 ……… …… 輸入超過 579,251 67.9 813,820 24.9 747,020 24.0 ……… …… ……… …… ……… …… 2,140,092 16.8 1,290,102 57.1 差引輸出超過 ……… …… ……… …… ……… …… ……… …… ……… …… ……… …… 999,738 40.6 ……… …… 輸出貨幣 1,388,330 50.7 1,646,991 10.5 497,522 70.2 1,128,011 49.6 603,340 95.0 243,611 99.7 5,507,808 75.7 1,201,487 15.3 輸入貨幣 31,130 77.2 319,950 …… 275,020 …… 221,400 …… 144,559 35.0 96,640 70.0 1,088,700 82.2 500 …… 輸出超過 1,357,199 73.5 1,327,041 10.5 222,502 70.2 906,611 49.6 458,781 60.0 146,971 29.7 4,419,107 93.5 1,200,987 15.3
プールノウヰルヤル、ラスホン氏ヨリ寄送シタル一篇ノ卓論アリ頗ル吾輩ノ意見ニ適フ、氏ハ従来貿易上ノ事ニ附テハ論説ノ精確ナルコト世人ノ普ネク知ル所ナリ、其文中ニ今日我国貿易ノ不平均ヲ償フ金銀ノ出処ナリトテ枚挙シタル数種ノ源因ハ吾輩数日前「ウオールド」新聞ニ陳述シタル所ト同一ナレバ今復タ更ニ之ヲ記スルヲ要セズト雖、夫ノ外国ヘ販売シタル公債証書・株式等及ビ外国ヨリ此国ヘ輸入シタルモノニ非ラズシテ新タニ此国ヨリ外国ヘ輸出シタル金銀ハ、渾テ是レ輸出ノ不足ヲ償フタルヤ明カナリ、一千八百七十四年ニハ此不足ノ高七千二百万磅ナリシガ同七十七年ニハ其額昇テ一億四千二百万磅トナレリ、即チ僅カ四年ノ間ニシテ我国資本ノ減却スルコト七千万磅ノ多キヲ加フ、是レ豈恬然トシテ我国ニ痛痒無シト云フベケンヤ、輓近鉄道電線ノ設全国ニ遍ネク、通信運送ノ便益々開クルニ従フテ資本ヲ要スルコト大ニ減少セリ、又七十四年頃マデハ処々ノ土木ニ莫大ノ資本ヲ要シタレトモ今ハ其工殆ンド皆落成シタレバ之ガ為ニ運転ノ用ヲ失フタル資本亦甚ダ多シ、且ツ方今我国ノ人情大ニ外国ヘ貸金スルヲ喜バザルガ故ニ従来外国ニテ使用シタル資本ノ英倫ニ輻輳セシモノ頗ル大ナリ、是等ノ如キ用途ナキ資本ノ今日我国ニ巨多ナルガ為ニ陸続金銀ノ外出スル有ト雖モ遽ニ其影響ノ貿易上ニ現ルヽコトアラズ、然レトモ英倫銀行ノ貨幣・地金銀及准備ノ大ニ減少シタルヲ見レバ、則チ我国ノ資本ハ知ラズ々々其幾分ヲ損失スルコト知ルベキナリ、是ニ於テラスボン氏ハ左ノ数言ヲ以テ今日我国ノ景況ヲ断ズ
第一 我国ハ今日其貯蓄シタル資本ヲ消費スルナリ
- 第5巻 p.478 -ページ画像
第二 斯ノ如クニシテ止マザレバ久シカラズシテ応ニ大ニ金融ノ壅塞ヲ起コシ、人民ノ困難ヲ来タシ遂ニ我国ヲシテ厳ニ節倹法ヲ行ハザルヲ得ザルニ至ラシムベシ
第三 金融大ニ壅塞スルトキハ、事々都テ其旧観ヲ改ムルコト自然ノ勢ナリ、故ニ銀行及商人等ハ今ヨリ応ニ法ヲ設ケテ之レガ備ヲ為サヽル可カラズ
○次ニ又同氏ハ頃日ノ自著ニ係ル「読銀行雑誌」ト題スル一篇ヲ演説セリ、其文左ノ如シ
読銀行雑誌
頃銀行雑誌第三篇ヲ読ミ、其銀行頭取タルノ長短ヲ論シ及ヒ富有ノ溜池ヲ壊敗スル砂礫ヲ説クノ文ニ至リ、冷然トシテ感歎ニ堪ヘス、因テ謂ラク、此文真ニ今日各銀行者ノ為メニ頃門《（頂）》ノ一針ヲ与フルモノナリ而シテ其一ハ真論ヲ取リ、一ハ譬喩ニ就キ、相待テ更ニ許多ノ玩味アルヲ覚へシム
夫レ銀行営業ノ易々タル者ニアラスシテ、又其役員ノ人ヲ得ルニ難キハ嘗テ欧米諸家曲論備述シ、小子モ亦実際経験以テ之ヲ審カニシ、弥其難中ノ難タルヲ自信セリ、是ヲ以テ小子ハ近頃銀行ヲ創立スルモノノ為メニ規誨シテ曰、熱世上ノ人材ヲ品評スレハ凡ソ商業ニ達シ俗務ニ通シ巧ミニ算珠ヲ射弾スル者ハ、必ス又学問ニ乏シク事理ニ暗クシテ、一朝事変ニ際シ難阨ニ遭フトキハ則昏迷シテ進止スル処ヲ弁セサルカ加シ、之ニ反シテ身ニ才学ヲ備ヘ知物理ニ通シ文筆能ク属スルモノハ、必ス又財務ニ疎ク俗業ニ鈍クシテ惟其学問上ニ於テ咀嚼スル糟粕ヲ吐呑スルニ過キサルヘシ、世間大底此ニ者有ツテ其兼全ナル者ハ殆ント罕ナリ、然レトモ又必ス兼全ナル者ニシテ後初テ銀行者タルヲ得ヘシト謂フヘカラス、要スルニ各其起本ヲ正フシ、其目途ヲ明カニシ、而シテ永遠不易ノ忍耐ヲ持シ、功績ノ速カナランヲ欲スルナク、而シテ世信ノ漸ク帰スルヲ楽ミ、寧ロ鯁直質朴ノ譏ヲ取ルモ急進浮華ノ評ニ入ルコト勿レト、今ヤ各銀行者ニシテ其各長短アルモノ孰レカ鯁直質朴ノ譏ヲ来タシ、孰レカ急進浮華ノ評ニ入ルヤ素ヨリ之ヲ経卒《（軽）》ニ言フヘカラスト雖トモ、若シ其急進浮華タルモノタラハ溜池ヲ壊敗スルノ砂礫トナラサルヲ得ルハ殆ント又罕ナルヘシ
銀行ノ業ハ夫レ此ノ如ク重大ニ任スヲ以テ其利弊盛衰ノ繋ル所毎ニ其一己ニ止ルヲ得サレハ、若シ一朝方向ヲ誤ルコトアレハ其害蕩々乎トシテ流漲シ、所謂「余波忽チ他ノ溜池ニ及ヒ、決壊数十ニ至リ、終ニ我カ溜水ノ水ヲ仰テ纔ニ開墾シ得タル工田農地ヲ枯ラシ、甚タシキハ之カ為メ我々カ五穀ヲ流失シ去ル」ノ禍孽ヲ蒙ルヘシ、豈深ク鑑ミサルヘケンヤ
今者銀行ヲ創立スルモノ月日増加シテ為メニ世人ヲシテ一朝時好ノ観ヲ与ヘシムルニ至リ、現ニ其営業ヲ開クモノ数十行ノ多キヲ為ス、而シテ其職員ハ前ニ所謂兼全タル者ノ如キハ盖鮮キヲ以テ、各能ク基本ヲ堅固ニシ、孜孜トシテ業務ニ謹勉スルモ今日ノ時勢ニ凌駕シテ其針路ニ進航セントスルハ尚甚タ難シト為セハ、若シ誤テ速成ヲ事トシ、巧ニ巨利ヲ漁セントセハ則所謂急進浮華タルヲ免カレサルノミナラス恐クハ危邦ニ陥ラサルヲ得ス、且夫レ我邦人民ハ其銀行紙幣ヲ視ルノ
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情甚タ澹泊ニシテ、外国人ノ如キ周密ナラサレハ甞テ之ヲ信用シ通用スルニ於テモ、其銀行ヲ品別スル如キモノハ実ニ十ニシテ一二ニ足ラス、此ノ如ク軽信妄用スレハ若シ同業者ノ中ニ於テ一朝破産スルモノアレハ、即チ復タ世人ノ銀行紙幣ヲ忌ミ嫌フコト前ノ軽信妄用ニ異ナラサルヤ必セリ、然則今日銀行者ノ栄辱ハ各一己ニ止マラスシテ、毀誉与ニ一般ニ影響スレハ、各自宜シク翼謹慎戒シ、就中新創銀行者ハ厚ク此情態ニ体セサルヘケンヤ
而シテ又本篇「明治十年下半季各国立銀行利益金割賦一覧表」ヲ看ルニ至テ更ニ又駭然トシテ驚キ、喟然トシテ憂ルモノアリ、何ソヤ、其載スル所ノ営業季間利益金ノ点度是ナリ、盖其甲タルモノハ僅カニ二ケ月間ノ営業ニシテ年二割二歩ニ当ルノ高利ヲ得ルモノアリ、此ノ如キハ我輩未タ甞テ開カサル所ナリ、抑銀行利益ノ如何ハ小子向キニ同業者ノ為メニ演説スル所載セテ録事ニ存スルカ如ク、要スルニ銀行ノ確実ト称スヘキモノハ、只其当季ノ利益金ノ饒キニアラスシテ、其営業能ク調整シ規律能ク全備シテ、其主顧ノ一方ニ偏在セス、且其貯蓄金ノ豊大ナル此三者ニ在リトス、宜ナルカナ、米国銀行ノ如キハ其割賦金ハ我銀行ノ如キ巨利アルヲ見スシテ皆悉ク其三者ヲ以テ之ヲ毀誉セサルハナシト云
此ニ於テ小子ハ深ク憂ル所アリ、盖方今新創銀行者ノ誤テ其高利ヲ得ルヲ羨望シ為メニ其顰ニ倣ハントシテ危邦ニ陥ル者アレハ、其弊ヤ実ニ隄防スヘカラスシテ遂ニ論者カ所謂富有ノ溜池ヲ決壊スルモノハ夫レ果シテ此徒ニアルカ、諸君以テ奈何トナス幸ニ高論ヲ吝ムコト勿レ