デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治11年4月1日（1878年）

木挽町第十五国立銀行ニ於テ択善会第十回ノ会同開カレシモ栄一多忙ノタメ欠席シ、須藤時一郎ヲシテ代理ニ銀行史略及ビ希児馬留土氏銀行実験論ノ大旨ヲ演説セシメタリ。

銀行集会理財新報　第一号・第一―二九丁〔明治一一年五月二七日〕
　　　　○銀行集会第十回録事
一去月一日ハ第一ノ月曜日ナリシカハ、択善会第十回ノ盟主第十三国立銀行ハ木挽町ノ第十五国立銀行ノ楼上ニ月次ノ会同ヲ開設シ、来会スル者ハ、第十五国立銀行世話役岩倉具定、支配人中村清行、第一同取締役中山信彬、第二同頭取原善三郎、支配人下田善次郎、第五同取締役今井兼角、副支配人市来広治、第二十同取締役井関盛艮、役員寺田国道、第三十同頭取深川亮蔵、支配人下村忠清、第廿七同頭取渡辺治右衛門、役員前田忠造、第三同頭取安田善次郎、副支配人松下市郎右
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衛門、第三十同役員岩橋静彦、第十三同副支配人鱗星助太郎、役員早川総三郎、蘆田順三郎、第十同役員高添融、渡辺信、第十八同代理第一同役員須藤時一郎、第六同役員福王俊禎、第四同取締役原田銀造等ノ二十四名ナリキ
一本会渋沢栄一ハ事務繁劇ナルヲ以テ参臨セス、因テ其代理ヲ須藤時一郎ニ委任シ、銀行史略及ヒ希児馬留土氏銀行実験論ノ抄訳成ルヲ告ケ、且其大旨ヲ演説セシメタリ
○中略
　　欧米銀行史略小引（渋沢栄一）
欧米銀行史略訳成ル、乃チ希児馬留土氏銀行実験論ノ抄訳ト共ニ之ヲ本回ノ刊行ニ附シ、以テ諸君ノ査閲ヲ乞ヒ、併テ一言ノ秕辞ヲ呈ス、我邦目下銀行ノ業盛ンニ開ケ、其名号ヲ表スル者六十有余、之ニ加フルニ已ニ創立ニ従事スル者ト経画稍定マリテ現ニ官准ヲ請フ者トヲ以テスレバ、他日又幾許ノ数ニ至ルモ未ダ計ルベカラザル也、是ヲ以テ政府ハ各地方銀行ノ資本額ヲ制限シ、其事務ヲ董督シ、専ラ其営業ヲ保護セラル、是寔ニ能ク利病ヲ洞鑑シテ、緩急宜ニ処スル者ト謂フベキノミ、然レトモ之ヲ通視スルハ、其業ニ精練熟達セサル者比々皆是ナリ、況ヤ一朝競起争趨ノ弊ハ其顛躓覆敗ノ患ナキヲ保ス可カラザルニ於テヲヤ、是余ガ諸君ト共ニ常ニ恐懼寒心ニ堪ヘサル所ナリ、夫レ銀行ノ業ハ国家理財ノ一大機関ニシテ、其理論実際倶ニ極メテ重要タルカ故ニ、欧米ノ諸国ハ各々之ヲ学範ニ置キ務メテ其得失ヲ講究スルヲ怠ラズ、我邦ノ如キモ亦今之ヲ実際ニ行ヒ、日々其業ヲ開クニ当ル焉ゾ又敢テ英室ヲ探リ、米奥ヲ窺ヒ、以テ其秘櫝ヲ極メサル可ケンヤ於是乎余ハ欧米銀行ノ事情ヲ捜索シ、苟モ我ニ裨益アルノ論説ニ遭フ毎ニ訳者ヲ督シテ之ヲ検閲シ、以テ営業ノ得失ヲ鑑ミ、以テ改良闡進スル所アラン事ヲ要ス、今訳成ノ銀行史略ハ其原書浩澣ナルヲ以テ、勉メテ其要項ヲ抄訳セシメタリ、希児馬留土氏銀行実験論ハ曾テ官訳ノ実験論ト稍々其趣ヲ同ウスト雖トモ、殊ニ銀行職員ノ論説一項ニ至テハ未ダ官訳ニ見エザル所ニシテ、銀行職員ノ為メニ其ノ秘蘊ヲ摘発スル者多シ、同業者之ニ就テ精心細翫シ、彼レカ謬錯ヲ見ハ我ヲ懲艾シ、彼レカ善範ヲ見ハ我ニ良規トシ、弊ヲ去リ利ヲ取リ、雑ヲ棄テ醇ニ就キ、以テ軽佻顛躓ノ失ナクシテ徐ニ改良闡進スル所アラハ、庶幾クハ共ニ其隆興ノ盛運ヲ期スルモ亦難キニ非ルヘシ、諸君幸ニ此意ヲ諒セヨ
　　　　英蘭銀行史略《バンク・オブイン・グランド》
英帝維廉第三世践祚ノ初メ、仏帝路易第十四世ト連年兵ヲ交ヘ、軍須屡々給ガズ、終ニ公債ヲ募ルニ三割乃至四割ノ高利ヲ以テスルニ至レリ、是ニ於テ内閣大臣及議院ノ政府党ハ財政ノ危急ヲ救フヲ以テ最モ緊要ナリトシ、反対党ノ固執スル自由営業ノ理論ヲ圧倒シテ特典ヲ行ヒ、即チ千六百九十四年ニ於テ倫敦ノ豪商ペートルソンノ建策ニ基キ英蘭銀行ノ創立ヲ許可シ、其資本百二十万磅（壱磅ヲ五円トナセバ此高六百万円）ヲ無期公債トシテ政府ニ借入レ、此公債ヲ抵当トシテ同額ノ紙幣ヲ発行スベキ特権ヲ賜与スル事ヲ決行セリ、此ヲ英蘭銀行ノ今日ニ在テ政府ト密附ノ関係ヲ有スル所ノ権輿トナス、爾後此銀行ハ
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屡々資本ヲ増加シ、或ハ又之ヲ減少シテ数十年以前ヨリ其高壱千四百五拾五万三千磅トナレリ、然ルニ概子其四分ノ三ハ無期公債トシテ数次ニ政府ニ供納セリ、是ヲ以テ政府ハ英国一切ノ公債ハ総テ之ヲ英蘭銀行ノ管理ニ属シ、其謝料トシテ年々拾数万磅ヲ賜与スル事ヲ例トス此制ニ因リテ英蘭銀行ハ特権ヲ以テ紙幣ヲ発行スルコトヲ得ルト雖トモ、其紙幣ハ所持人ノ望ニ従ヒ、之ヲ正金ト交換セサルヲ得ス、而シテ其過半ハ無期公債ヲ抵当トシテ発行スルモノナレハ、若シ一時ニ其巨額ノ交換ヲ要スル者アルトキハ之ニ応スベキ充分ノ准備金アラサル事ハ固ヨリ昭々ナリ、故ニ千七百九十七年二月廿七日ノ非常ノ取付ケニ会セシ時ハ、忽チ其紙幣ノ交換ヲ停止セリ、然レトモ此事即日ニ議院ノ認許スル所トナリ、又人民モ実ニ已ムヲ得ザルノ事トナシテ聊カ疑念ヲ抱カザリキ、尤モ此停止ハ固ヨリ一朝ノ時機ニ従ヒテ行ヒタル所ナリシガ、爾来拿勃翁ノ戦争其他種々事故ノ為ニ其回復ヲ妨遏セラレ、千八百二十三年五月一日ニ至ルマテ二十有五年ノ間ハ交換ヲ始ル事ヲ得ザリシ、玆ニ最モ奇トスベキ一事アリ、其交換停止ノ間ダ英国ノ商況ハ欧州全土ノ騒乱ニモ拘ラズ日ニ益々繁昌シ、而シテ二十三年ニ其交換ヲ回復シタルヤ、貿易ノ情態忽チ壊乱シテ、諸業為ニ其盛観ヲ失ヒ、英蘭銀行モ亦為メニ非常ノ困難ニ迫リタル是レナリ、爾後二十五年ニ至リ再ヒ之ヲ停止シ、又タ三十七年ニ至テ三タヒ之ヲ停止セリ、是ニ由テ論者ノ此制ヲ改正セント主唱スル者益々多キヲ加ヘタリ初メ此銀行ノ営業免状ヲ得ル其期限十一ケ年ナリシガ、満期ニ至リ更ニ若干金ヲ政府ノ無期公債ニ供シ、以テ再ヒ新免状ヲ得タリ、斯ノ如ク免状ノ満期ニ至ル毎ニ若干金ヲ政府ニ献シ、或ハ貸シテ以テ更ニ新免状ヲ請願シ、其期限或ハ十二三年或ハ二十四五年ニシテ連綿百有余年ヲ経、其資本益大ニ其事務益盛ンナルニ従ヒ、其発行紙幣ノ増減ハ英蘭全国ノ諸業ニ大ニ影響スルニ至リシカハ、当時ノ賢相ロベルト、ピール其ノ勢力ノ頗ル危険ナルヲ恐レ、千八百四十四年其営業免状願継ギノ期ヲ以テ此制ヲ改正シ、此銀行ヲシテ恣マヽニ発行紙幣ヲ増減スル事ヲ得サラシメン事ヲ謀レリ、ピールノ議案同年七月十九日ニ於テ遂ニ英国ノ憲法トナリ、八月三十一日ヨリ之ヲ実地ニ施行セリ、此法ノ要領ハ盖シ英蘭銀行ヲ分テ二部トナシ、一ヲ発行局トシ、一ヲ事務局トシ、事務局ニハ一般ノ銀行事務ヲ行ヒ、発行局ニハ専ラ紙幣ノ発行ヲ掌トラシメ、而シテ其紙幣ノ如キハ政府ノ無期公債千百十万五千百磅ト他ノ公債証書トヲ抵当トシテ千四百万磅ヲ限リ之ヲ発行スル事ヲ得セシメ、其已上ハ一片ノ紙幣ダモ之ヲ発増スル毎ニ同額ノ金銀ヲ准備セシメ、且ツ銀ハ其五分ノ一ヨリ超ユルヲ許サズ、又千八百四十四年ノ五月六日以後ハ英国中ニ於テ紙幣ヲ発行スル銀行ノ創立ヲ一切禁止シ、而シテ其以前ニ創立シタル紙幣銀行ノ若シ其発行ヲ止ムル者アレハ英蘭銀行ハ之ニ代リ其高ノ三分ノ二迄ハ公債証書ヲ抵当トシテ紙幣ヲ発増スルコトヲ得セシムル等是ナリ、故ニ此末款ノ旨ニ拠テ爾来屡々其准備外発行紙幣ノ制限ヲ拡張シ、已ニ今日ニ至テハ其額一千五百万磅トナレリ、斯ノ如ク改正ヲ加ヘテ以テ英蘭銀行ノ濫リニ准備外ニ紙幣ヲ発行スルコトヲ防遏セリト雖トモ、当時ニ於テスラ其千四百万磅ハ金銀ノ准備ナキモノニ係ルヲ以テ、若シ外国ノ為換ノ為ニ
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非常ニ金銀ノ輸出スル時ニ際シテ其紙幣ノ交換大旦ツ急ナル事アレハ或ハ復タ其停止ヲ行フノ不幸ニ陥ル事無キヲ保ツ可カラズト云ヒシガ果シテ其後千八百四十七年、五十七年、六十六年ノ三度ニ火急ノ取附ケヲ受ケ、其金庫殆ンド空耗セントスルノ形勢ニ迫リテ終ニ交換停止ヲ広告セリ、抑英蘭銀行ノ交換停止ヲ行フハ其事務ヲ管理スルノ当ヲ失スルヨリ生ズルニ非ズシテ、実ニ英国一般ノ困難ニ基スク所ナリ、而シテ英国一般ノ困難ハ之ヲ先例ニ徴スルニ凡ソ十歳中ニ一回アリテ或ハ是レ気運ノ然ラシムル所ナリト謂フベシト雖トモ、彼ノ四十四年ノ法令ヲ快シトセサル者ハ、英蘭銀行ノ屡停止ヲ行フニ至ルハ、職トシテ事務局ト発行局トヲ分離シタルニ之レ由ルト道ハザルハナク、嘖嘖トシテ其非ヲ論弁セリ、其ノ所以ハ両局ノ分離スルヨリ計算モ亦従ツテ之ヲ異ニスルヲ以テ、紙幣ノ交換ハ其古制ノ時ヨリモ幾倍カ安易ナル所アリト雖トモ、若シ事務局ニ於テ預リ金ノ取付ケ火急ナルニ会ヒ、其准備十分ナラザル時ハ紙幣交換ノ准備ヲ一時借用スルカ如キ従前ノ便アルヲ得ザルヲ以テ、困難ノ時ニ当テハ益困難ヲ重ネ、勢竟ニ交換ノ停止ヲ促スノ源因タラザルヲ得ズ、而シテ英国一般ノ困難ヲ生スル事四十七年、五十七年、六十六年ノ如キ場合ニ臨デハ、一時四十四年ノ法令ヲ廃止シ、英蘭銀行ヲシテ准備外ノ紙幣ヲ発増シ、且其交換ヲ停止スルノ自由ヲ得セシム事アリ、又四十四年ノ法令ニ依ツテ英国銀行《（蘭）》ヲシテ毎週一回其全体ノ会計ヲ広告セシムルモノハ、実ニ此ノ銀行ノ確実ナル事ヲ世人ニ知ラシメンガ為ナリト雖トモ、却テ又其広告ニ依テ世人ノ疑念ヲ招キタルモノアリ、是全ク世人ノ智識浅小ナルニ由レリト雖トモ、亦以テ銀行ノ便宜ヲ妨グルノ一事タルヲ免レザルナリ、今其最モ近時ノ報告ヲ訳出シテ左ニ之ヲ掲載シ、以テ読者カ其近況ヲ想像スルノ一端ニ供ス
　　　千八百七十八年二月九日計算

　　発行局勘定
　借方　発行紙幣　　　　　　　　三九、〇一七、二六五磅
　　　　　右計　　　　　　　　　三九、〇一七、二六五磅
　貸方　政府へ貸附金　　　　　　一一、〇一五、一〇〇磅
　　　　右ノ外公債証書　　　　　　三、九八四、九〇〇磅
　　　　金貨及金塊　　　　　　　二四、〇一七、二六五磅
　　　　地銀　　　　　　　　　　　　　　　　　　無
　　　　　右計　　　　　　　　　三九、〇一七、二六五磅
　　事務局勘定
　借方　資本金　　　　　　　　　一四、五五三、〇〇〇磅
　　　　貯蓄金　　　　　　　　　　三、四〇五、三八七磅
　　　　大蔵省及国債局ノ預ケ金並仕払未済割賦金
　　　　　　　　　　　　　　　　　四、七五八、九四七磅
　　　　右ノ外預ケ金　　　　　　二二、七七七、三八七磅
　　　　仕払手形　　　　　　　　　　　三〇七、三九二磅
　　　　　右計　　　　　　　　　四五、八〇二、一一三磅
　貸方　公債証書　　　　　　　　一五、一九九、〇八九磅
　　　　割引手形類　　　　　　　一七、七六五、三六〇磅
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　　　　発行局ノ紙幣　　　　　　一一、八五一、〇三〇磅
　　　　金銀貨　　　　　　　　　　　　九八六、六三四磅
　　　　　右計　　　　　　　　　四五、八〇二、一一三磅

右ノ諸勘定ヲ旧式ニ従フテ計算スル将《（時）》ハ即チ左ノ如シ
　負償方《（債）》
　　　　流通紙幣但シ振出手形モ此中ニ在リ　二七、四七三、六二七磅
　　　　政府ノ預ケ金　　　　　　　四、七五八、九四七磅
　　　　人民ノ預ケ金　　　　　　二二、七七七、三八七磅
　　　　　右計　　　　　　　　　五五、〇〇九、九六一磅
　資産ノ方
　　　　証書手形類　　　　　　　三三、四一一、四四九磅
　　　　貨幣及地金銀　　　　　　二五、〇〇三、八九九磅
　　　　　右計　　　　　　　　　五八、四一五、三四八磅
右ノ如クナルヲ以テ資産ノ負債ヨリ多キ事三、四〇五、三八七磅ナリ是レヲ新式ノ報告ニ照準スレハ即チ貯蓄金ノ名ヲ以テ事務局勘定ノ借方ニ記ス者ナリ
　　　　仏朗西銀行史略《バンク・オブフ・ランス》
仏朗西銀行ノ創立ハ一千八百年ニ係ルト雖トモ、其規則営業ノ整頓シテ確乎タル銀行ノ体裁ヲ成シタルハ実ニ一千八百六年ニ在リ、又其資本ハ当初四千五百万法《フランク》（一法ハ大概我ガ二十銭ニ当ルトシテ此高約ネ九百万円トナル）ヲ以テ制限トセシガ、此年更ニ四千五百万法ヲ増加シテ共計九千万法（約ネ千八百万円）ノ額ニ定メ、之ヲ九万株ニ分チ千法ヲ以テ一株トナス、然レトモ此九万株ノ中、公衆ニ販売シタルモノハ六万七千九百株ニシテ、残リ二万二千百株ハ此銀行ニ貯蓄金ヲ以テ之ヲ買入レ此員数ヲ取消シタルガ故ニ、資本ノ実額ハ六千七百九十万法タリ、爾来一千八百四十八年ニ至ルマデ依然トシテ此額ヲ増減セザリシガ、此年三月二日及四月二十七日ノ両度ノ官命ニ因テ従来此銀行ノ制ニ倣ヒ、リヲン・マルセール、ボルドー等ノ都会ニ設立シタル紙幣発行ノ諸銀行ヲ此銀行ニ合併シテ之ヲ其支店トナシ、且ツ是等ノ資本二千三百三十五万千法ヲ加入シテ此銀行ノ資本ヲ九千百二十五万法トナセリ、当時論者ノ言ニ曰ク、此合併ノ挙ハ元是全国中ニ流通スル紙幣ヲ一様ニシテ、且其価格ヲシテ地方ヲ異ニスルモ差違ヲ生スル事莫カラシメン事ヲ図ルガ為ナレバ、其目的ハ聊以テ間然スルナシト雖トモ、其施行ノ方法ニ至テハ未ダ以テ善美ヲ尽セリト云フベカラズ何トナレバ地方銀行ノ事務ヲ中央銀行ノ支店ニテ管理スルトキハ常ニ其土俗人情ト齟齬スル事多クシテ、全体ノ便益ハ遥カニ其地ノ会社ニテ之ヲ管理スルニ若カザルモノナリ、故ニ若シ全国ノ紙幣ヲ一様ニセントスレバ、唯ダ宜シク地方銀行ノ紙幣ヲ発行スルコトヲ禁止シテ足レリトスベシ、奈何ゾ事務ヲ併セテ之ヲ中央銀行ニ委任スルコトヲ為ンヤト
此銀行ハ常ニ軽忽ヲ戒メ着実ヲ重ンジテ其業ヲ営ミタルヲ以テ、其営業免状ハ条例ノ改正ニ因テ屡々変更セシト雖トモ、其ノ事務ハ連綿数十年ノ間益々繁昌シタリ、然ルニ一千八百四十八年ノ国乱ニ際シテ、政府及巴理府庁ヘ巨額ノ貸附ヲ為シ、加ルニ預リ金ノ取附ケ火急ナル
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ヲ以テ、其ノ金庫ニ在ル所ノ准備将ニ尽ントスルノ勢ニ迫リ、終ニ維持スルコト能ハザルノ極ニ至レリ、是ニ於テ政府ハ三月十六日ヲ以テ令ヲ銀行ニ下シ、其ノ紙幣交換ヲ停止スルコトヲ許可シ、且ツ一般仏朗西銀行ノ紙幣ヲ以テ本位トスルコトヲ布告セリ、然レドモ其ノ交換停止ノ為メニ又タ免ルベカラサル弊害ノ生ゼン事ヲ恐レテ其ノ紙幣ノ発行高ヲ三億五千万法マデニ制限セリ、而シテ其ノ交換ハ一千八百五十一年ニ至テ之レヲ回復セシガ、復タ二年ヲ隔テ五十三年ニ至リクリミア戦争（英仏ノ二国土ヲ援ケテ魯ヲ攻メタルノ戦）ノ為メニ商務ノ衰微シタルト、印度地方ヘ銀塊輸出ノ盛ンナルガ為メニ准備ノ減少シタルトニ因テ此銀行ノ困難最モ甚ダシカリキ、是ヲ以テ陽ニハ其信憑ヲ堅固ニスルヲ名トシテ、陰ニ政府ニ放債スルヲ目的トシ、一千八百五十七年六月九日政府ノ命ヲ奉シ、其資本ヲ加倍シテ一億八千二百五十万法トナシ、此新募ノ株金モ亦千法ヲ以テ一株トナセシカトモ、之ヲ従来ノ株主ニ配賦スルニ千百法ノ割ヲ以テシ、即チ新募ノ株式九万千二百五十株ニシテ、其売代一億三十七万法タリ、然レトモ其内一億法ハ年三朱ノ利息ヲ以テ之ヲ政府ニ貸附タレハ、此銀行ノ実際運転スル資本ハ尚其株金増加ノ以前ト聊カ異ナル事莫シ、又同年令シテ此銀行ノ貸附利息ヲ年六朱マテト制限セリ、然レトモ其後幾クモナク此法ノ不正ナル事ヲ覚リテ、唯政府ヘノ貸附ニノミ三朱ノ制限ヲ設ケ、余ハ一切之ヲ廃セリ、今其最モ近時ノ報告ヲ抄訳シテ之ヲ左ニ掲載ス
　　　　千八百七十八年二月七日計算

　借方　資本金　　　　　　　　一八二、五〇〇、〇〇〇法
　　　　貯蓄金　　　　　　　　　三〇、一〇八、〇六三法六八参
　　　　地所ニ対スル貯蓄金　　　　四、〇〇〇、〇〇〇同
　　　　別段貯蓄金　　　　　　　一〇、七八〇、〇〇〇同
　　　　発行紙幣　　　　　二、四三六、二〇二、五二〇同
　　　　振出手形類　　　　　　　五三、五六七、九九三同九一参
　　　　政府当座預金　　　　　一五七、七二四、五五八同七九同
　　　　人民当座預金　　　　　三九九、二六五、七八七同八八同
　　　　仕払未済割賦金　　　　　　二、六五五、一三九同
　　　　仕払未済利息等　　　　　　六、八九五、二四七同〇七同
　　　　前六ケ月間再割引　　　　　一、四九七、七六二同五二同
　　　　不時損耗及仕払滞手形ニ対スル貯蓄金　二、二四二、七一二同〇二同
　　　　雑勘定　　　　　　　　　一一、一八〇、一〇八同〇六同
　　　　　合計　　　　　　三、二九八、六一九、八九二同九三同
　貸方　金銀貨　　　　　　一、九七六、一八一、五三五同八八同
　　　　割引手形　　　　　　　五六七、九二二、二七八同七四同
　　　　公債証書　　　　　　　三〇〇、七五〇、〇〇〇同〇〇同
　　　　貸附　　　　　　　　　二一〇、九七六、八〇〇同〇〇同
　　　　公債証書別口　　　　　　九四、九六九、五七三同九三同
　　　　営業用家作地所　　　　　　九、〇四九、九六七同
　　　　雑勘定　　　　　　　　一四七、八一九、七〇四同三八同
　　　　　合計　　　　　　三、二九八、六一九、八九二同九三同

　　　　日耳曼御用銀行史略《ゼルマン・イムペリアル・バンク》
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日耳曼御用銀行ハ、元ト普魯士銀行《バンク・オブ・プロシヤ》ト称セシモノヽ其規則ヲ改メ名号ヲ変ジタルモノナリ、普魯士銀行ハ千七百六十五年ニ弗勤得力二世《フレデリツキ》ノ創設セシ所ニシテ純然タル官立銀行ナリシガ、千八百四十六年ニ至リ其体裁ヲ変革シテ之ヲ官民ノ共有トナシ其資本ノ中百二十六万哆《ターレル》（哆ハ約ネ七十五銭ニ当ル、即チ此高約ネ九十四万五千円ニ当ル）ハ官ヨリ出シ、千万哆（約ネ七百五十万円）ハ人民ヨリ醵集セリ、初メ普魯士銀行ニ紙幣ノ発行ヲ許可スルヤ、二千百万哆ヲ以テ其制限トセシガ千八百五十六年ニ至テ全ク其制限ヲ廃シ、爾後ハ紙幣ノ三分一ハ之ヲ金銀ニテ准備シ、三分二ハ之ヲ三ケ月以内ノ商人手形ニテ准備スルトキハ幾許ノ高ニテモ発行スル事ヲ得セシメタリ、又同年其資本ヲ増加シテ官有ノ分ヲ百八十万九千哆トシ、民有ノ分ヲ千五百万哆トナス、又千八百六十六年普墺戦争ノ後、再ヒ其民有ノ分ニ五百万哆ヲ増加シテ弐千万哆トナシ、官有ノ分ヲ百九十万六千八百哆トナス、後千八百七十五年ニ普魯士銀行ノ一変シテ日耳曼御用銀行トナルニ当テ普魯士ハ其所持ノ株金ヲ悉ク取戻シ、且ツ普魯士銀行ノ貯蓄金六百万哆ヲ折半シテ其一ヲ引去リタリ、而シテ一般ノ株主ニハ此際ニ於テ其株金及ヒ之ニ相当スル貯蓄金ノ割合トヲ併セテ之ヲ取戻ストモ又ハ其旧株式ヲ以テ更ニ新株式ニ交換スルトモ総テ其望ニ任スへキノ自由ヲ得セシメタリ、此新設ノ御用銀行ハ資本ヲ一億二千万嗎《マーク》（嗎ハ約ネ二十五銭ニ当ル、即チ此ノ高三千万円ニ当ル）ト定メ、之レヲ四万株ニ分チ、一株ヲ三千嗎（約ネ七百五十円）トナシ、其営業ハ総テ日耳曼政府ノ監督スル所タリ
右ニ叙述セル如ク普魯士銀行ノ発行紙幣ニハ初メニ制限ヲ設ケ、中ゴロ之ヲ廃シテ唯タ発行高ノ三分一ヲ金銀ニテ三分二ヲ三ケ月以内ノ手形ニテ之ヲ准備セシメタリ、而シテ又近頃之ヲ廃シ、更ニ新法ヲ施シテ御用銀行ヲ起シ、其他十八箇所ノ紙幣銀行ニ発行高ノ制限ヲ設ケ、其制限内ハ准備ヲ設クルヲ要セスト雖トモ、若シ制限ヲ踰ルトキハ其発行高ノ五朱、即チ百分五ノ税ヲ政府ニ納メシム、此法ハ盖金融壅塞ノ時ニ当テ功用ヲ為サン事ヲ目的トスルニ在リ、然而シテ若シ右ノ十八銀行ノ中ニテ紙幣発行ヲ停ル者アルトキハ、御用銀行ハ之ニ代ツテ其ノ高ニ迄ルマデ発行制限ヲ拡充スル事ヲ得ベキナリ、即今御用銀行ノ紙幣発行制限ハ二億七千二百七十二万嗎（六千八百十八万円）ニシテ其支店ハ総テ百五十余ケ所ニ及ベリト云フ
　　　　合衆国銀行史略《バンク・オブ・ユナイテツド・ステート》
亜米利加聯邦独立ノ初、大蔵卿アレキサンドル、ハミルトン会計報告書ヲ議院ニ出シテ当時合衆国ノ財政ハ一箇ノ公立銀行ヲ創立スルノ最モ急務タルコトヲ切論セリ、時ニ上院ニテハ敢テ此策ヲ非トスル者ナク、千七百九十一年一月二十日衆議之ヲ認可セシト雖トモ、下院ニテハ分権党ノ抗論頗ル激烈ナリキ、然レトモ二月八日ニ至リ遂ニ同意投票ノ多数ナルヲ得ルニ因テ、資本金千万弗（弗ハ稍円ニ等シ）ヲ以テ一行ヲ費拉土爾比亜府ニ起シ、此ヲ合衆国銀行《バンク・オブ・ユナイテツド・ステート》ト号セリ、爾後千八百八年其営業免状ノ満期ニ先ダツコト三年ニシテ更ラニ新免状ヲ要センコトヲ議《（院脱）》ニ請願セリ、当時ノ大蔵卿カルレチンハ上院中二三ノ名士ノ考案ニ従ヒ書ヲ議院ニ出シテ之ヲ許可スヘキ事ヲ勧誘シ、且ツ
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其勧誘スル所以ノ理由ト並ニ之ヲ許可スルニハ旧条例中ノ数項ヲ改正スベキコトヲ開陳セリ、然レトモ其満期ニ至ルマテ決議セズ、千八百十一年二月十一日遂ニ両院ノ衆議ニ係ル可否ノ投票其数相等シキヲ以テ同月二十日大統領副クリントンノ裁決票ニ依テ之ヲ非トスルニ決シ其願書ヲ却下セリ、是ヨリ先キ該銀行ヨリ書ヲ辺西威業州ノ立法院ニ呈シ、五百万弗ノ資本ヲ以テ其営業ヲ継ガン事ヲ請願セシガ、其議遂ニ行ハレズシテ已ミヌ、千八百十二年英国ト戦争中諸州ノ銀行ハ力ヲ合セテ大ニ政府ノ会計ヲ輔助シ、為メニ十四年ノ八九月ニ至リ概ネ皆其紙幣ノ交換ヲ停止シタルニ因リ、政府ノ財政頗ル困難ニ迫リ、殆ント救済スヘカラサルニ至レリ、是ニ於テ同年十月六日当時有名ノ理財家アレキサンドル、ダラヲシテ大蔵卿グラシメ、以テ回護ノ方法ヲ謀ラシメタリ、ダラノ其職ニ就クヤ、未ダ旬日ナラズシテ書ヲ議院ニ出シ、目下財政ノ急ヲ救フハ一箇ノ官立銀行ヲ創設スルニ若カザルコトヲ懇々叙述セリ、此ニ因テ議院ニ於テ官立銀行ノ方法ヲ討論スルモノ頗ル多シト雖トモ僉ナ其宜シキヲ得ズシテ一モ認可スルモノアラザリシ、爾後千八百十六年四月ニ至テ一箇ノ策案上下両院ノ衆議ヲ経テ遂ニ米国ノ法律トナリ、此法ニ依テ一社ヲ創立シ、号シテ合衆国銀行トナシ、其資本ヲ三千五百万弗ト定メ、之ヲ卅五万株ニ分チ百弗ヲ以一株トナシ、其内七百万弗ハ政府ヨリ之ヲ出シ、余ノ二千八百万弗ハ人民ヨリ之ヲ醵集セリ、而シテ其開業スルニ於テ全国ノ諸銀行ハ一般ニ其紙幣交換ヲ回復スルコトヲ得タリ、後千八百十八年ニ至リ、該銀行ノ管理宜キヲ失ヒタルヲ名トシテ其営業ヲ禁止センコトヲ発言シタル者アリシガ、幸ニ議院ニ於テ其言ヲ容レザリキ、千八百二十九年大統領ヂヤクソンガ議院ニ出シタル意見書ノ中ニ於テ該銀行ノ営業免状ハ合衆国ノ憲法ト矛盾スル所アルヲ以テ、其満期ニ至ラバ更ニ之ヲ許可スベカラザル事ヲ暗指セリ、千八百卅二年七月四日其新免状ノ議案大統領ノ手ニ到リタルヲ以テ、同月十日大統領ヨリ其許ルスベカラザル理由ヲ録シテ之ヲ却下スルニ因リ、千八百卅六年三月其免状ノ満期ヲ以テ終ニ閉店セリ、然レトモ其年更ニ辺西威業州立法院ノ免許ヲ得テ再ビ開業セシガ、其翌年非常ノ困難ニ遭テ紙幣交換ヲ停止シ、又一年ヲ隔テ千八百三十九年ニ再ビ交換ヲ停止セリ、其之ヲ停止スルニ当テハ、辺州ノ諸銀行ハ皆為メニ其害ヲ蒙ラザルハナク、其余勢延ヒテ全国ノ諸銀行ニ波及シ、皆ナ悉ク交換停止ヲ行フニ至レリ、千八百四十年一月立法院ノ令ニ依テ交換ヲ回復セシガ、又其六月ニ至テ竟ニ交換停止ヲ行ヒ、竟ニ已ムヲ得ズシテ閉店セリ、而シテ其負債ヲ浄算スルニ当テ一モ株主ニ還賦スルモノアラサリシト云
　　　　米国州立銀行一名自由銀行ノ制
米国州立銀行ノ制ハ千八百三十八年ニ在テ議院ノ之ヲ設クルニ始ル者ナリ、此制ハ英蘭銀行合衆国銀行等ノ如ク一二ノ会社ニ特権ヲ与フルモノニ非ズシテ、凡ソ人民ヨリ公債証書株券等ヲ政府ニ納ムルトキハ其誰タルヲ論ゼズ、此抵当ヲ以テ同額ノ銀行紙幣ヲ下附シテ自由ニ其業ヲ営ム事ヲ准ス、故ニ或ハ之ヲ称シテ自由銀行ノ制ト為ス、而シテ当時大政府及ヒ諸州ヨリ発行シタル公債証書ノ国中ニ充満シタルヲ以テ、一タヒ此制ノ出ルヤ、諸州競テ此自由銀行ヲ設立セリ、爾後幾ク
 - 第5巻 p.503 -ページ画像 
モナクシテ所々ノ州庁ハ其公債ヲ廃棄シ、或ハ其償却ヲ延期スルノ挙ヲ設クルニ因テ、其公債証書ハ忽チ信憑ヲ失ヒ、為ニ自由銀行ノ破産スルモノ陸続相踵ギ、人民ノ害ヲ蒙ムル者頗ル多シ、玆ニ千八百四十年ニ於テ議院ハ此制ヲ改正シ、公債証書ハ大政府又ハ紐約州ヨリ発行シタルモノニ非ザレバ以テ抵当トスル事ヲ禁止セリ、千八百四十四年議院ハ下等銀行ノ稍々安全ナラザルノ状アルヲ恐レ、申ネテ私立銀行ハ更ニ五万弗、合資銀行ハ更ニ十万弗ヲ抵当トシテ増納スルニ非ラサレバ紙幣ヲ発行スル事ヲ得ズト令シタリ、千八百四十七年ノ金融ノ壅塞ニ会シテ議院ハ又此抵当ノ猶充分ナラサルヲ覚ルヲ以テ、其翌年ニ至リ再ヒ此制ヲ改メテ其抵当タルベキ公債証書ノ利子額ヲ増加セリ、始メテ此制ヲ設ルニ当テハ其利子ノ額ヲ五朱ト定メ、此ニ至テ更ニ六朱トナシ、又会社ノ株券等ヲ抵当トスルトキハ其年七朱ノ利子ヲ帯ブルモノニ限ルト為ス、此制ニ依テ創立シタル自由銀行ハ紐約ニ在テ大ニ繁昌シ、西部ノ諸州モ皆之ニ倣フテ所々ニ設立シ、方今ニ至リ其数甚ダ多シト云フ
　　　　米国国立銀行ノ制《ナシヨナル・バンク》
黒奴論ノ潰裂シテ南北ノ戦争トナルヤ、全国ノ商売頓ニ萎靡シ、而シテ北軍ノ全勝ハ未ダ期スベカラザルヲ以テ其紙幣ノ価格大ニ下落スルニ従ヒ物価益々騰貴シ、人民ノ困難頗ル切ナルノ時ニ当リ、政府ニ於テハ僅カ半ケ年ヲ期シテ九億弗ヨリ少ナカラザルノ資金ヲ要スルノ事起レリ、斯ノ如キ困難ノ時ニ際シテ斯ノ如キ巨額ノ金ヲ募ラントスレハ、財政ニ於テ非常ノ変革ヲ行フニ非ラザルヨリハ決シテ為シ得ヘカラサルハ固ヨリ昭カナリ、此ニ於テ輿論堂々トシテ紙幣ノ額ヲ減却シ其市価ヲシテ金貨、当時金貨百弗ハ紙幣百三十四弗ニ直セリ、ト平均セシムルノ得策タル事ヲ主張セリト雖トモ、独リ大蔵卿サルモン、ヱチースハ断然之ヲ非斥シ、議院ニ上書シテ曰ク、今日ノ政図ハ凡ソ三目ノ要アリ、国債ヲ募ル一ナリ、大蔵省ノ利付手形ヲ発行スル一ナリ分数即チ小数ノ紙幣ヲ造ルベキ一ナリ、而シテ此要目ト実効ヲ能クスヘキガ為メニ宜シク銀行条例ヲ設テ各州ニ国立銀行ヲ創立セシムベシト、依テ新タニ紙幣ノ一寮ヲ設ケ、能吏ヲ選任シテ其条例ヲ編制セシメタリ、此条例ハ千八百六十三年二月二日上院ノ議員（今日ノ大蔵卿）シエルマンノ発議セシモノニ基キタルモノナリ、今其大要ヲ採テ左ニ抄録ス
　　第一条　大蔵省中別ニ一寮ヲ設ケ、合衆国ノ公債ヲ抵当トシテ発行スル銀行紙幣ニ係リ、議院ノ決定シタル諸法則ヲ担任履行セシムベシ（以下略）
　　第五条　此条例ヲ遵奉シテ創立スル銀行ハ、其組合人必ス五名以上タル可シ（以下略）
　　第七条　此条例ヲ遵奉スル銀行ハ総テ其資本ハ必ス五万弗以上タルベシ、又人口五万人以上ノ地ニ於テハ二十万以下ノ資本ヲ以テ之ヲ創立スルヲ許サズ、但シ人口六千人以下ノ地ニ於テハ大蔵卿ノ許可ヲ得ルトキハ其資本五万弗以下ト雖トモ、創立スルヲ得ベシ
　　第八条　（前略）此銀行ハ其創立ノ日ヨリ廿ケ年間ハ創立証書ニ掲載シタル名号ヲ以テ営業スル事ヲ得ベシ（以下略）
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　　第九条　銀行ノ事務ハ取締役人五人以上ニテ之ヲ処分スベシ、而シテ其内一人ハ頭取タルベシ、（中略）各取締役ハ少ナクトモ十株以上ヲ所持スル者ニアラザルベカラズ（以下略）
　　第十一条　取締役選挙ノ日、並ニ株主集会ノ日ニ於テ株主諸般ノ疑議ヲ決定スルハ毎一株ヲ以テ一説ヲ出ス事ヲ得ベシ
　　　又株主ハ適当ノ委任状ヲ附与シタル代理人ヲ出シテ発言セシムルヲ得ベシ、然レトモ該銀行ノ重役・書記役・会計役・帳面方等ハ其代理人トナル事ヲ得ズ（以下略）
　　第十二条　此条例ヲ遵奉シテ創立スル銀行ハ百弗ヲ以テ一株トス可シ（以下略）
　　第十三条　銀行ノ資本ハ紙幣頭ノ許可ヲ得テ之ヲ増減スル事ヲ得ベシ（以下略）
　　第十四条　銀行ハ其開業免状ヲ得ル前ニ於テ其資本ノ半額ヨリ少ナカラサル金ヲ入金済トセサルベカラズ、而シテ其残額ハ月賦トシテ開業免状ヲ受ケタル日ヨリ毎月ノ末ニ資本総額ノ十分一ヲ入金スベシ（以下略）
　　第二十二条　此条例ヲ遵奉シテ創立スル諸銀行ノ発行紙幣ハ、其総額三億弗ヲ以テ制限トナス可シ（以下略）
　　第二十八条　銀行ハ其営業ノ為ニ必要ナルカ、或ハ抵当ノ為ニ非ザルヨリハ決シテ地所ヲ買取ルベカラズ、又抵当流込ノ地所ハ決シテ五ケ年以上之ヲ所持スベカラズ
　　第二十九条　銀行ノ貸附金ハ一項其資本ノ十分一ヨリ超ユベカラズ、但シ為替手形等ノ割引ハ此限ニ非ズ
　　第三十条　（前略）地方ニ於テ制定シタル法律ニ別段利息ノ制限アルニ非ラサレバ孰レノ銀行モ年七朱ノ利息ヲ収ムル事ヲ得べシ（中略）若シ之ニ背キ高利ヲ貪ルトキハ其利息ヲ責没スベシ、但シ地所《（他）》ニテ払フベキ為替手形ノ取引ニ於テハ通常ノ利息外ニ別ニ復タ為替手形売買ノ並相場ニ従ツテ其歩引ヲ為スト雖トモ之ヲ高利ヲ貪ル者ト着倣《（做）》スベカラズ
　　第三十一条　此条例中ニ指名スル都府ニ於テ設立シタル銀行ハ其流通紙幣及預リ金ニ対シ其二割五分ヨリ少ナカラサル額ヲ合衆国ノ通貨ヲ以テ准備トセザルベカラズ、又タ其他ノ銀行ハ一割五分ノ准備ナカルベカラズ（以下略）
　　第三十三条　銀行ノ貯蓄金未ダ資本ノ二割ノ高ニ至ラサル間ハ毎半季利益金ヲ割賦スルノ前ニ於テ其十分一ヲ貯蓄金ニ積立ツ可シ
　　第三十五条　銀行ハ其株式ノ抵当ヲ以テ貸付金ヲ為スヲ得ズ、又自カラ株式ノ買主或ハ持主トナルベカラズ、然レトモ若シ滞貸等ニテ銀行ノ損耗ヲ生ズベキ場合ニ於テハ之ヲ抵当ニ取リ或ハ之ヲ買取ル事ヲ得ベシ、但シ右ノ事情ニ因テ買取リタル株式ハ其日ヨリ向六ケ月以内ニ之ヲ売却スベシ、若シ怠ルトキハ此条例ニ従ツテ跡引受人ヲ命シ其銀行ヲ閉店セシムル事有ルベシ
　　第四十二条　銀行ハ其資本ノ三分二ヲ所持スル持主ノ協議ニ因テ分散シ、又ハ閉店スル事ヲ得ベシ（以下略）
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右ハ千八百六十四年六月三日ノ頒布ニ係ル、爾後千八百六十九年三月六日右条例中
第三十四条　報告書ノ一項ヲ改正ス即チ左ノ如シ
　銀行ハ毎年五度其営業報告書ヲ紙幣頭ニ申呈スヘシ
右ニ掲載スル如ク此条例ノ主意ハ、要スルニ此条例ヲ遵奉シ銀行ヲ創立スル者ヲシテ其公債証書ヲ大蔵省ニ納メテ抵当ニ充テ、其九割ノ額ニ当ル銀行紙幣ヲ受ケ、以テ其商業ヲ営マシムルニ在リ、又其要旨ノ目的ハ当時既ニ公許ヲ得テ未ダ発売セザル所ノ公債証書ヲ以テ其需要ノ途ヲ開キ、且ツ全国通用ノ紙幣ヲ一様ナラシメント欲スルニ在リ、初メチエースノ策案議院ニ入ルヤ、上下両院ノ議員等ハ皆心ニ未ダ其前途ノ功益ヲ信スルニ遑アラズト雖トモ、チエースノ鋭意熱心シテ之ヲ勧奨スルヲ見テ終ニ識ラズ々々可允スルモノ甚ダ多キニ至レリ、即チ上院ニ於テ可允スル者二十三名、可允セザル者二十一名、下院ニ於テ可允スル者七十七名、可允セザル者六十四名ナリシ
国立銀行ノ紙幣ハ租税其他一切ノ公納ニ用ヒ、及政府ノ公債ニ供スルモ妨ケナキヲ以テ、当時政府ハ此ニ頼テ大ニ財政ノ危急ヲ救フ事ヲ得タリ、然リ而シテ地方ノ銀行ハ其紙幣ヲ本支店ニ於テ交換スルノミナラズ、商売ノ中央ナル都会ニ於テモ亦其交換店アツテ交換ノ便利ニ供スルモノハ、実ニ各州ノ間ニ於テ為換相場ノ騰貴スル事ヲ専ラ預防スルガ為トナリト云フ
一タヒ此条例ノ出ルヤ、世人ハ未ダ遽ニ信用スルニ至ラザリシガ、一二コノ条例ヲ遵奉シテ其営業ノ日ニ繁栄ヲ致ス者アルヲ見テ全国人心靡然トシテ此ニ傾向シ、後チ幾クナラズシテ国立銀行ヲ創立スルモノ陸続トシテ諸州ニ起リ、昨千八百七十七年十月ニ至テ其数既ニ二千八百行ノ多キニ及ベリ、而シテ此制ノ如キ、固ヨリ完全無欠ニシテ必ズ破産ノ虞ナキ者ト謂フベカラズト雖トモ、如シ従来世上ニ行ハルヽモノニ比セバ、殊ニ安全ナル法則ニシテ且米国ノ憲法ニ適シ、政府ノ財政ヲ裨補シ、民間ノ融通ヲ便利ニスベキ効力ヲ有スルモノト為ス、今後実地ノ経験ニ因テ順次改正セハ則チ庶クハ紙幣発行ノ銀行制中ニ於テ古来無比ノ良法ト称スルヲ得ンカ
　　希児馬留土氏銀行実験論抄訳
　　　第二条　取締役ノ権限職掌ヲ論ス
合本銀行《ヂヨイント・ストツク・バンク》ハ若干ノ取締役アリテ之ヲ管理スルモノナリ
　取締役ハ大集会ノ時株主ノ中ヨリ之ヲ選挙セラルヽモノナリ、然レトモ該銀行ノ株数若干ヲ有スル者ニ非レバ資産上ニ於テ其選ニ適セザルモノトス
　取締役ハ若干ノ株数ヲ所持シテ資産上ノ適任アル者《クワリヲフヒケシヨン》ニ限ルト雖トモ又之ニ関セザル所ノ適任数条アリ○故ニ取締役タル者ニ就テ要スル所ノ適任中ニハ特リ資産上ニ止ルモノヽミト為ス可ラズ
第一節
　取締役ハ公衆ノ信任ヲ受ル者ニ非ザル可ラズ○若シ其為人能ク公衆ノ委任ニ負カザル筈ト信ゼザルトキハ苟旦ニモ其人ヲ以テ銀行ノ事務ヲ専任スルニ足ルベキ者ト臆測スルヲ得ベカラズ○取締役ノ信任スベカラザル銀行ニハ世人恐ラクハ其金ヲ預ケザルヘシ、又諸会社
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ノ名望アル人々ハ斯ノ如キ銀行ト容易ニ商業ヲ取結バザルベシ
第二節
　取締役ハ商業ニ練磨熟達シタル者ニ非ザルベカラズ○一銀行ヲ管理スル者トシテ貿易上一般ノ事情ヲ通知スルハ即チ銀行ノ事務ヲシテ充分ノ昌域ニ至ラシムルニ於テ尤モ緊要ノ事トナス○取締役タル者ハ曾テ商業ニ従事シ、後チ之ヲ謝脱シタル者ヲ以テ最良トナス、何ントナレバ世上ノ商賈ハ其人ノ商務ニ熟練シタルニ倚安シテ其銀行ノ営業上ニ危視疑察ノ念ヲ注グ事盖シ尠ケレバナリ、然リト雖トモ取締役トシテ若シ自己ノ商業ヲ営ムトキハ還タ世上ノ商賈ヨリ危視疑察ヲ受ル事ヲ免レズ、然而シテ斯ノ如キ商務ヲ脱離シタル人ハ容易ニ之ヲ得ベカラズシテ仮令之ヲ得ルモ其人ハ概ネ銀行ノ取締役タル事ヲ欲セザル者ナリ○是ヲ以テ要スルニ其商業ニ従事スル所ノ者ト雖トモ名望性質共ニ絶群正確ナル者ヲ求ムレバ則可ナリ
第三節
　取締役ハ正直廉潔ノ者ニ非ザル可ラズ○正直廉潔ハ銀行ノ事務ヲ調査スルニ欠ク可ラサル所ノ一ノ適任タルベシ○取締役ハ常ニ銀行ノ資本ヲ以テ商業ヲ営ミ其智能ヲ竭シテ株主ノ為メニ世上ノ遺利ヲ拾収スルコトヲ勤メザルベカラズ、而シテ銀行ノ一員トナリテ其事務ヲ調理スルニ己レノ商業ヲ営ム如ク懇ニ心ヲ用ユベキハ言ヲ俟タズ其躬ノ功労ニ因テ自己及ビ夥多ノ株主ノ利害ヲ起スベキ貴重ノ責任ヲ負ヒタル事ヲ須臾モ心ニ忘ルべカラズ○実ニ取締役ハ廉直方正ナル人ニ非ザルトキハ其位地ノ為メニ大害ヲ醸成シ、其管有スル権力ハ以テ夥多ノ株主ノ資産ヲ破リ、公衆ノ商業上ニ不測ノ禍害ヲ被ラシムルニ足ルモノナリ○旦ツ其性質正直ナラザルトキハ其思意モ亦自ラ曲邪ナラザルヲ得ズ、斯ノ如クナレバ其銀行ハ不正ノ動作ナキヲ保ツベカラズ
第四節
　取締役ハ其地方ニ名声アリテ且尊信ヲ受ケタル者ニ非ザル可ラズ○其要数箇アリ、就中取締役タル者公衆ノ信任ヲ有スレバ、亦自ラ己レニアルノ信用ヲ其管理スル銀行ニ移シテ其朋友ノ好意賛揚ヲ受ル事ヲ得ベシ○信任ヲ有スル取締役其職ニアルトキハ其銀行モ同ジク信任ヲ受ケ、而シテ世人皆競フテ其金ヲ此ニ預ケ、且之ト商業ヲ取結テ大ニ銀行ノ利益タルノミナラズ、之ニ従テ銀行ノ切手ハ益々其地方ニ流通シテ大ニ勢力ヲ得、遂ニ公衆ヲシテ厚ク銀行ヲ信ズルニ至ラシムベシ
第五節
　取締役ハ其資産豊富ナル者ニ非ザルベカラズ○若シ其職制中ニ取締役タル者ハ其銀行ニ寄頓スル所ヨリ過分ナル金額ヲ取出ス事ヲ禁ズルノ条ヲ増定セバ、更ニ尤モ確当ナル規律タルベシ○若シ取締役タル者其銀行ニ寄頓スル所ヨリ過分ナル金額ヲ取出シテ容易ニ金銀ヲ融通スル事ヲ得バ其弊商業上ニ影響シ、巨大ノ商社ヲシテ忽チ破産鎖店スルニ至ラシムルモノアリ○此ノ如キ金銀融通ノ便利ヲ興ストキハ自ラ不経ノ事業ヲ企謀シテ其銀行ヲ危険ノ域ニ導キ、竟ニ他ノ主顧ノ為メニ貸金ノ便利ヲ図ル事ヲ懈ルニ至ルベシ○銀行ノ事務ヲ
 - 第5巻 p.507 -ページ画像 
委任セラレタル人ニシテ其委任ノ広大貴重ナル事ヲ忘レ、己ニ托セレタル資本ヲ以テ若シ不経危険ナル事業ヲ企謀スルトキハ孰レカ其銀行ノ能ク事務ニ処スルト信ズルモノアランヤ
第六節
　取締役ハ能ク銀行ノ事務ニ於テ周慮注目スル者ニ非ラザルベカラズ銀行取締役ノ任ヲ受ケ、而シテ毫モ其事務ニ意ヲ注ガザル人アルハ往々世ニ尠シトセズ○斯ノ如キ人ヲ以テ其取締役トスルハ敢テ営業上ノ事務ニ通暁スルヲ要スルニ非ラズシテ唯職制ニ遵フテ員ニ備ルノミト誤認スルヲ以テナリ、然而シテ其弊ヤ遂ニ株主ヨリ六人（取締役ノ定員）ニ対シテ委托シタル事務ヲ挙テ僅カニ其二人或ハ一人ノ手ニ帰シ、他ノ四五人ハ庶事ノ当否ヲ糺サズ或ハ之ヲ弁知セズシテ其一二ノ手ニ拗縦シ、竟ニ夥多ノ株主及商客ヲシテ為メニ困難ヲ蒙ムラシムルニ至ラントス、豈深ク鑑ミザルベケンヤ○夫レ一銀行ノ取締役或ハ支配人トナリテ信任名誉ヲ得ル者ニシテ其己レニ托セラレタル浩繁ノ事務及貴重ナル責任ヲ弁済シ得ザル者ハ、是ヲ其条理ニ背クモノト謂フベキナリ○識ラズ斯ノ如キ人ハ何ノ理由アツテ其周慮注意セザルモ尚能ク担当ノ事務ヲ管理スルトナスヤ、若シ玆ニ思想ナキハ即チ謬〓ノ甚ダシキ者ニシテ、又之レヲ思フモ其実ナキハ共ニ其非ナルヲ免カレザルナリ
　　以上述ル所ハジ、エム、ベル氏ノ著書「合本銀行理論」ノ中ニ見ユ（訳者曰是ギルバルド氏自ラ道フモノナリ）
○テーロル氏ノ著書「ステーツマン」ノ中ニ寮局等ノ役員ノ年齢ヲ論ズルヲ見ル因テ之ヲ左ニ誌ルス（訳者曰是亦ギルバルド氏自ラ道フ者ナリ）
　　総テ寮局等ノ評議員ハ壮丁老輩其数相匹敵スルヲ良トス、若シ只老輩ノミヲ以テスルトキハ、其新事ヲ試ミ大業ヲ謀ラントスル時ニ当テ因依趑趄、而シテ充分ノ功ヲ成ス能ハズ、且事務ノ繁忙ナルニ会ヒテ其勤労ニ堪ユルヲ得ズ、若シ只壮丁ヲ以テスレバ其事ヲ行フニ当テ遠謀熟慮ノ才ニ乏シク、且常ニ利益ヲ計ルノミニ急ニシテ、其禍災ノ生ズルヲ察スルノ智足ラザルモノナリ、是等ノ長短得失アルハ盖シ又老壮各自ニ生計上ノ目途ヲ異ニスルノ然ラシムル所ナリ、何トナレバ壮丁ハ益々高尚ノ域ニ進ミ、益々自己ノ誉ヲ得ン事ヲ勗メテ日ニ喬木ニ遷ラントスルノ天性ヲ有シ、老輩ハ唯専ラ其心ヲ活路ニノミ之レ用ヒ、名望声誉ハ漸次ニ消滅スルヲ以テ其伸縮ノ勢ヲ異ニスル、亦宜ナラズヤ
　近今ノ新令ニ依レバ社中申合規則書中ニ左ノ一款ヲ加入スベシ、曰ク、取締役ハ年々其総員数ノ四分ノ一ヨリ少ナカラザル人員退職スベシ、而シテ一度ビ退職シタル者ハ還タ十二ケ月ノ間ハ其選ニ当ル事ヲ得ズ
　　　　第三条　支配人ノ権限職掌ヲ論ズ（此条前ノ二条ヲ追ヒギルバルト氏襲述スルモノニ係ル）
合本銀行ハ支配人ト称スル総長一人ヲ備フ
　合本銀行ノ事務実着整斉ナルハ、主トシテ諸取締役ト支配人ノ協和親睦スルニ由ルモノナリ
　支配人ハ其才智ノ熟練ナルト其職住ノ貴重ナルトニ因リ、以テ十分
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ニ諸取締役ノ懇意信心ヲ受クベシ○支配人ハ諸取締役ノ選ニ因テ其浩務重任ヲ負担スルヲ以テ啻ニ其報酬ノ為メニ至当ノ給金ヲ受ルノミナラズ、諸取締役ニ親附敬重セラレ銀行ニ在テ優等ノ人タルベシ然ルニ若シ諸取締役ニ親附敬重セラレザル時ハ役使其意見《（設）》ヲ牽制セラレザルモ、亦以テ協議熟談シテ銀行ノ繁昌ヲ謀ル事能ハザルベシ且世人ニ対シテ其義務ヲ尽スニ於テモ自ラ牽制防碍セラルヽノ患ナキ事能ハザルベシ○諸取締役ハ其選ヲ以テ支配人ヲ定メタルトキハ都テ支配人ノ論説行為ヲ信奉恭敬シ、他ノ朋友知己ニ向フテ支配人ノ才学智能ヲ盛ニ称誉スベキハ其義務ノ一トス○支配人ヲ敬重称誉スル事厚キトキハ世人モ亦従テ支配人ヲ仰キ、其銀行ヲ信ズル事益深クシテ且諸取締役ノ明選ヲ感賞スルニ至ルベシ
　支配人ハ一挙一措、総テ謹直ニ熟慮スルヲ要スベシ○支配人ハ惟タ固ヨリ商業上ノ才能アルニ因テ選挙セラレ、資産ヲ有チ貴匹ニ居リ或ハ時俗ニ通シ朋友ノ多キ等ヲ以テ然ル者ニアラザルナリ○若シ誤テ其支配人ニ取ラザル所ヲ取リ銀行上ノ事ニ経験ナキ人ヲ支配人トナスハ、猶機械運転ノ法ヲ知ラサル人ニ蒸汽機関ノ主柄ヲ托シ、航海ノ術ヲ学バザル人ニ針盤ヲ司ドラシメ、而シテ其船ヲ暗礁隠洲ノ上ニ行ラシムルガ如シ○支配人ハ専ハラ銀行上ニ経験アルニ因テ択ハルベシ、他ノ才能適任ハ各其所ニ緊要ナリト雖トモ銀行支配人タルニ要セザルモノナリ○規則ノ整斉ナル銀行ハ其職員ヲ登級スルニ他人ノ等級ヲ超越セシムル事アルナシ、故ニ採用ノ初メ其能量ヲ審査シテ之ヲ任シ、而シテ次第順序ヲ以テ之ヲ昂進セシムルヲ法トス銀行ノ支配人ハ三要ノ交際アリ、最モ之ニ注意スベシ、其一ハ主顧及ビ公衆トノ交際、其二ハ諸取締役トノ交際、其三ハ銀行ノ手代トノ交際是ナリ、而シテ又此等ノ要略ニ関スル緊要ノ職分アリ○支配人ハ銀行ノ事務ヲ管理スルニ勉々トシテ能ク前後ヲ顧慮シ、而シテ公衆ノ交際ニハ懇切ニシテ礼ヲ失ハズ、諸取締役ノ交際ニハ親睦ニシテ隠匿ノ情ヲ挟ム事ナク、銀行ノ手代等ノ交際ニハ能ク丁寧ニ之ヲ待遇シ、且他日其己レト同等ノ地位ニ昇ルベキ人ヲ以テ之ヲ視ルベシ○支配人ハ充分ノ給料ヲ得ルモノナレバ他ニ私務ヲ営ミテ銀行ノ事務ヲ怠ルガ如キ挙動アルヲ許サズ、然レトモ唯銀行ニノミ従事シテ他ノ戯事遊楽及ビ各款ノ間業ニ其才能ヲ用ユベカラズト云ニ非ルナリ、若シ強テ牽制セントスレバ其条理ニ背クヲ議笑セラレンノミ、誰レカ道フ商業ヲ営ム者ハ学術文芸ニ長ゼザルト、看ヨ今日実際ニ之ヲ兼ヌル者有ル少ナカラザルヲ、而シテ其他ノ嗜好アルト否トヲ論ズルハ未ダ以テ其本務ニ注意スルノ深浅ヲ論ズルニ如カザルナリ、支配人タルモノ他ノ職業ヲ営ムトキハ自カラ銀行ノ事務上ニ多少障碍ヲ生ズル事アリ、又支配人ハ政務ニ関係スルノ当否ヲ詳論セザルベカラズ、夫レ支配人ノ官途ニ居ルベカラザル事情二アリ、一ハ銀行事務ノ時間ヲ妨害セラルヽニ在リ、一ハ官途ニ居レバ必ズ一方ノ党派トナルヲ以テ、他ノ一方ノ人民ヨリ其譏詆ヲ受ケテ主顧ノ懇心ヲ失フ者ナリ、又凡ソ人其心ヲ政談ニ用ヒ、其時ヲ議会ニ費ス等ノコトアルトキハ、意気自カラ激励ニ出デヽ銀行者ニ要スル深沈平重ノ念慮ヲ妨グルモノナリ
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　主顧ヲ待遇スルニハ最モ丁寧親切ヲ竭シ、且其機転ヲ敏捷ニスベシ又其計算ニ就テ尋問セラルトキハ詳細ニ解明スベシ、若シ融通ノ頼談《アツコムデーシヨン》ヲ回避スベキ時ハ殊ニ慇懃礼ヲ失ハザル事ヲ勗ムベシ、是レ最モ支配人ノ意ヲ用フベキ処ナリ
　株主ハ銀行ノ本主タル者ナレバ十分之ヲ懇待スルヲ要ス、然レトモ又敢テ銀行ノ各主顧ニ係ル計算ノ如何ハ、之ヲ猥リニ告知スベカラズ、是レ其各主顧ノ毀誉ニ関スルヲ以テナリ
　支配人ハ其方略ヲ深慮シ、又タ之ヲ慎秘シ、決断ヲ速カニシテ党派ノ為メニ其意見ヲ左右セラルヽ事勿レ○果断ノ敏捷ナルハ銀行ノ事務ヲ整理スルニ必用ナルモノニシテ、是レ其推計量察ノ知識熟練スル所ヨリ生スルモノナリ○才知ノ熟練ハ各人ノ得ル所ニ多少アリト雖トモ概ネ意ヲ注グノ厚薄ニ因ツテ之ヲ得ル亦均シカラズ○支配人ヲ視ルニ其無能庸劣ナルガ如キハ其挙措ニ於テ狐疑迷惑スル処アルヨリ甚シキハナシ○支配人ハ其応接答弁ニ臨ミ須臾モ遅滞スルナク極メテ快敏ナルヲ要ス、又問議アルニ対シ其可否ヲ即答弁明シ踟蹰スルコトナク且一タビ口ヲ開ケバ其説ヲ変ズルコト勿ルベシ