デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治11年7月22日（1878年）

兜町第一国立銀行ニ於テ択善会第十三回ノ会同開カル、栄一出席シ、訳述セシメタル銀行営業上ノ問答ヲ衆閲ニ付シ、且ソノ大旨ヲ演説ス。

銀行集会理財新報　第四号・第一―一六丁〔明治一一年八月一二日〕
　　　　○銀行集会第十三回録事
銀行集会第十三回盟主第十八国立銀行（長崎）ハ七月廿二日ヲ以テ東京第一国立銀行ノ楼上ニ会同ヲ開設セリ、而シテ同行役員ハ出京シ難キ故ヲ以テ、其代理店ナル第一国立銀行ニ会事一切ヲ委托シテ同行其事ヲ主幹セリ
一　当日会同スル諸氏ハ本会盟主ノ代理第一国立銀行頭取渋沢栄一、役員須藤時一郎、第十五同支配人中村清行、役員高橋作善、第一同支配人永田甚七、第二同頭取原善三郎、支配人下田善次郎、第五同取締役和田中太、市来広治、第三同頭取安田善次郎、松下一郎右衛門、第二十同頭取小島邦重、取締役川杉義方、第三十同頭取深川亮蔵、支配人下村忠清、第廿七同支配人安藤利助、役員山口三男、第三十三同役員三村清左衛門、三井銀行今井友五郎、斎藤銀造、第十三同副支配人早川総三郎、役員蘆田順三郎、第四同支配人辻金五郎、第十同役員市川好廉、第六同副頭取杉本正徳、第三十二同支配人平池玄四郎、役員河村民之輔、第十四同役員加藤典経、以上廿八名、及ヒ傍記第一国立銀行役員大沢正道、傍聴同津田束共ニ三十名ト為ス、而シテ諸位例刻会場ニ上リ、各設ケノ座ニ着キ、渋沢栄一ハ本会盟主第十八国立銀行委托ノ旨ヲ報道シ、盟主ハ別ニ報告演説等ヲ設ケサル旨ヲ報道セリ
○中略
一　又同氏○渋沢栄一ハ米国銀行新誌ニ載スル銀行営業上問答第三次ノ訳出ヲ展示シ、且其要義ヲ講明セリ、而シテ今此等ノ問答ヲ参看スレバ将来我ニ於テモ亦漸次ニ其法律ノ設ケアランコトヲ求メザルベカラズ諸君宜シク注意スベキ者ナリト云（訳文下条ニ載ス）
○中略
　　　　○銀行営業上ノ問答（紐育銀行新誌）（津田束訳）
　　　　　　代金取立手形ノ送リ違ヒ
問　甲ノ銀行ガ代金取立ノ為メニ乙ノ銀行ヘ送ルベキ手形ヲ、若シ誤テ丙ノ銀行ヘ送ルコトアラバ、丙ノ銀行ハ之ヲ乙ノ銀行ヘ送リ届クベキヤ、又ハ甲ノ銀行ヘ送リ戻スベキヤ、一般ノ規則如何
答　丙ノ銀行ニ於テ必定他ノ銀行ヘ到ルベキ筈ナル手形ヲ間違ニテ受取リタルトキハ、其為スベキ義務ニ附テ一定ノ規則アルコトナシ或ル銀行ニ於テハ差出シ元ヘ送リ戻スヲ常規トスト雖トモ、多ク右様ノ場合ニ於テハ手形ヲ其封状ト共ニ至当ノ受取人ヘ送リ届クルモノトス、是通常交際ノ礼法ナリ、若其手形将ニ満期トナラントスルカ或ハ参着後期限払ノ者ナルトキハ、丙ノ銀行ハ直ニ之ヲ乙ノ銀行
 - 第5巻 p.531 -ページ画像 
ヘ送リ届ケ、其趣ヲ甲ノ銀行ヘ報知スベキヲ義務ト心得ベキモノナリ
　　　　　　銀行役員ノ権外ノ所業
問　若シ日々銀行ノ事務ニ与カラザル副頭取ガ融通手形ニ裏書ヲスルトキハ、銀行ハ其手形ニ対シ責任ヲ負フベキヤ
答　銀行ハ右様ノ裏書ヲシタル手形ヨリシテ幾分カ利益ヲ得タルニ非レバ副頭取ガ為シタル権外ノ裏書ニ対シテ責任ヲ負フコト無シ、凡ソ会社ハ其役員ガ各自ノ権内ニ於テ為シタル事ニ対シテハ責任ヲ負フト雖トモ権外ノ事ヲ為シタルトキハ其責ニ任セザルベシ、故ニ仮令ヒ手形ニ銀行役員ノ裏書アルト雖トモ確実ナル為替手形ニアラザル以上ハ之ヲ受取ル者宜シク注意スベキコトナリ、若シ副頭取其権外ニ於テ手形ニ裏書シ、而シテ其裏書ハ銀行ノ利益トスルガ為ニナシタルニ非ラザルトキハ、裏書ノ責任ハ副頭取自身ニテ之ヲ負フベキモノナリ
　　　　　　手代ノ権限
問　或ル商家ニ一人ノ手代アリ、月々ノ掛ケ集メニ廻ルニ勘定書ニハ必ズ主人ノ許ヲ以テ其姓名ヲ記載シ、受取ノ証トセリ、一日去ル所ニ於テ払方ニ或ル銀行宛ノ小切手ヲ受取リシニ付之ヲ其銀行ニ持参シ、主人ノ姓名ヲ裏書シテ差出シタルニ付、銀行ノ出納方ハ其代金ヲ仕払フ《（ヒ）》タリ、然ル処此手代其金ヲ主人ヘ差出サズシテ自分用ニ浪費シタリ、是ニ於テ商人ハ小切手ニ其姓名ヲ記載スルコトハ手代ニ許シタルニ非ザルコトヲ言立テ、小切手ノ代金ヲ要求ス、銀行ハ之ヲ償フベキモノナルカ、但シ其小切手ハ勘定書清算ノ為メニ受取タルモノニシテ、而シテ其勘定書ニハ主人ノ姓名ヲ記載スルコトヲ手代ニ許シタルコトハ昭カナリ、然レトモ銀行ハ猶此小切手ノ裏書ニ対シテ仕払フタル金額ヲ商人ニ償フベキ道理ナルヤ
答　却テ問フ、其手代ハ主人ニ代テ小切手ニ裏書スベキ権ヲ有セシヤ、只掛ケヲ集ルコトノ許ヲ得タルトテ、小切手ニ裏書スベキコトヲモ自然ニ許サレタルモノトハ断言スルコトヲ得ズ、法律ニ依レバ「若シ代理人特別ニ或ル事件ヲ為スベキ委任ヲ受ケ、而シテ其権限外ノ事ヲ為ストキハ本人ハ其責ニ任セサル可シ、何ントナレバ、代理人ノ相手方タル者ハ能ク其権限ヲ穿鑿シテ而シテ事ヲ為スベキモノナリ、若シ爾カセズシテ間違ノ生ジタルトキハ、相手方不注意ノ越度タルベケレバナリ」是ニ由テ之ヲ観レバ、銀行ニ於テ商人ノ手代ガ其主人ノ姓名ヲ記載スべキ許ヲ得タルコトヲ証シ得ルニ非ザレバ、手代ノ裏書ニ対シテ仕払フタル金額ハ、商人ニ償ハザルヲ得ザルベシ
　　案スルニ此法ニ依レバ、小切手仕払ノ如キハ甚以テ注意スベキコトナリ、然レトモ現今我銀行ニテ使用スル小切手ハ名宛人又ハ所持人ニ可仕払ノ明文アルヲ以テ単ニ受取人ノ裏書ヲ以テ仕払ヲ為シ掛念スベキコトナシト雖トモ、若シ右小切手ノ文中ノ所持人ノ三字ヲ筆消シタル小切手ヲ持参シタル人アラバ、其人ハ名宛人ナルヤ否ヲ能々聞糺シ、其裏書ノ精確ナルヲ認メテ後仕払ヲ為スベキコトト思考ス