デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2020.3.6

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

1章 金融
1節 銀行
6款 択善会・東京銀行集会所
■綱文

第6巻 p.301-304(DK060081k) ページ画像

明治25年7月15日(1892年)

是ヨリ先、第百十九国立銀行頭取豊川良平、無記名公債証書抵当ノ件ニ付キ発議ス。是日右ニ関スル質問案ヲ決定シ、而シテ司法大臣ニ其情由ヲ陳述シ、同大臣ヨリ法曹会ヘ提出セラレンコトヲ依頼スベキ旨ノ決議ヲナス。


■資料

集会録事 自明治二十四年一月至明治二十五年十二月(DK060081k-0001)
第6巻 p.301-302 ページ画像

集会録事  自明治二十四年一月至明治二十五年十二月 (東京銀行集会所所蔵)
    ○第百二十二回定式会議録事 ○明治二五年五月一四日
次ニ第百十九国立銀行頭取豊川良平氏ハ各位ニ告ケテ曰ク、曾テ無記名公債ヲ抵当トシテ稲本親康ナル者ヘ貸金シタルニ、其後東京米商会所ヨリ該公債ヲ贓物トシテ無償還給ノ請求ヲ東京地方裁判所ヘ出訴シ同裁判所ハ同行ニ対シ返還スヘキ旨申渡サレタリ、此貸付金ハ僅少ナ
 - 第6巻 p.302 -ページ画像 
リト雖、此裁判ノ如ク無記名公債ヲ容易ニ贓物ナリトシテ返還スヘキ者トセハ無記名公債ハ実ニ危険ナル者ノミナラス、銀行ハ其営業ニ安堵スルコト能ハス、思フニ無記名公債ノ性質ヨリ考フルモ斯ノ如キ理由アラサルヘキヲ以テ、本件ハ之ヲ一ノ研究問題トシテ大審院マテ出訴スルノ目的ナリ、願クハ諸君充分審案シ、且是ト同似ノ案件ニ注意アランコトヲト其建議書ヲ示ス、而シテ満場同感ヲ表シ、各自熟考ヲ経テ尚協議スヘキコトヲ約シ、晩餐ノ後同九時退散セリ
  当日出席員  第一銀行 渋沢栄一  ○外二一名氏名略
    ○第百二十三回定式会議録事 ○明治二五年六月一五日
次ニ会長○渋沢栄一ハ前会第百十九国立銀行頭取豊川良平氏ヨリ建議シタル無記名公債抵当ノ件ハ我々銀行営業上至大ノ関係アルヲ以テ去ル十三日委員会ニ於テ岡村顧問ノ出席ヲ請ヒ、種々評議セシカ必竟刑法附則第五十六条ノ効果ニヨリ斯ノ如キ損害ヲ蒙リシモノナレハ、之カ研究ノ要ハ彼贓物中ニ紙幣及之レニ類似スル流通証券ヲモ含有スルモノナリヤ否ヤト云フニアリ、然リ而シテ紙幣カ物品ニアラサル以上ハ無記名公債証書モ亦物品ト認ムヘカラス、何トナレハ該公債証書ハ一種ノ流通証券ニシテ紙幣ニ準スヘキハ多言ヲ要セサレハナリ、加之政府カ無記名公債証書ヲ発行セシハ蓋シ其流通転輾ヲ円滑タラシメンカ為メニシテ、銀行カ之ヲ抵当ニ取ルニ際シ其公債ノ経歴果シテ正当タルヤ否ヤヲ認識スル能ハサレハナリ、故ニ彼第百十九国立銀行ノ判決ノ如キハ、裁判官ノ見解ヲ誤リシモノニシテ立法ノ精神ニアラサルヘシトノ意見ハ委員会ノ意見ニシテ、岡村顧問ノ考案モ全ク同案ニ出テタリ、現ニ他国ノ例ナリト雖英国大審院ハ無記名公債ハ債権者ニ処分権アリト最近ノ判決例アリ、況ンヤ我邦商法第三百八十条ニ無記名証券ハ盗品又ハ紛失品ノ例外ニ置カレタルヲ以テ見ルモ其立法ノ精神ノ存スル処ヲ推知スヘキナリトノ説ヲ述ヘ、各員種々討議ノ末本案ノ趣旨ニヨリ尚充分ノ調査ヲ経、我同盟銀行ヨリ司法大臣ヘ建議シ、同大臣ヨリ法曹会(大審院及控訴院等ノ法官ノ組織ニ係ル法曹会ト云フモノアリテ其議決ヲ以テ裁判ノ標準トナス由ナリ)ノ審議ニ付セラレンコトヲ請ヒ以テ安心ノ途ヲ開クヘシ、若シ夫ニテモ目的ヲ達スル能ハサルトキハ、刑法附則第五十六条ノ削除ヲ帝国議会ヘ提出スルニアリト雖、之ハ第二ノ事ニシテ差当リ司法大臣ヘ建議スルモノハ如何ト云フニ衆議之ヲ可トスルヲ以テ特別委員ヲ選ミ、其文書ヲ起草スヘキ事トシ、而シテ其委員ハ現在ノ調査委員佐々木勇之助、三輪信次郎、佐々木慎思郎、池田謙三、三村君平五氏ニ嘱托スヘキ事ニ議決セリ
    ○第百二十四回定式会議録事 ○明治二五年七月一五日
次ニ前回ノ審議ニ係ル無記名公債証書抵当ノ件ハ、去月二十二日及本月九日特別委員会ノ審議ヲ経テ遂ニ之ヲ法曹会ニ質問スヘキ事ニ議決シタル旨ヲ告ケ、其質問書案ヲ朗読セシメ、本案ニ可決シ而シテ渋沢委員長ヨリ司法大臣ヘ其情由ヲ陳述シ、同大臣ヨリ法曹会ヘ提出セラレンコトヲ依頼スヘキ事ニ決定シ、七時下閉会晩餐ノ後退散セリ
  当日出席員  第一国立銀行  渋沢栄一 ○外一四名氏名略


銀行通信録 第八〇号・第九―一一頁〔明治二五年七月二八日〕 無記名公債証書ニ関スル質問書(DK060081k-0002)
第6巻 p.302-303 ページ画像

銀行通信録  第八〇号・第九―一一頁〔明治二五年七月二八日〕
 - 第6巻 p.303 -ページ画像 
  無記名公債証書ニ関スル質問書
玆ニ某銀行アリ或者ニ対シ無記名公債証書ヲ抵当トシテ若干ノ貸付金ヲ為セシニ、後日ニ至リ突然某会社ヨリ之ガ取戻シノ訴ヲ起シ、此公債ハ元来我会社ノ所有ナリシニ役員某擅ニ之ヲ取出シ、金融ノ為メニ抵当ニ差入タル者ニシテ其役員ハ已ニ窃盗ノ刑ニ処セラレタル次第ナレハ、該公債即チ贓物ノ無償還給ヲ受度シト請求セリ、此ノ如キ場合ニ於テ某銀行ハ其還給ヲ拒ム能ハサルカ
右問題ニ対シ当集会所ノ意見ハ、元来無記名公債ハ裏書譲渡ヲ為サス只簡単ナル手渡ニヨリ直ニ其権利ヲ移転シ得ヘキ流通ノ便宜ヲ与ヘタル特殊ノ証券ニシテ、記名証券ノ如ク其証券所持人ノ外ニ真所有者アルコトヲ確知スルニ由ナク、其不正品タルヤ否ヤハ毫モ識別スルコト能ハサルヲ以テ、其物件ノ性質上自ラ紙幣ト同様ナリト云ハサル可ラス、従テ官報ヲ以テ紛失届ノ広告ナキ無記名公債証書ヲ善意ニ買受ケ又ハ抵当ニ受取タル者アルニ於テハ、当然其取引ヲ有効ナラシメ、其物件カ一旦犯罪ノ用ニ供セラレタルモノナルト否トヲ問ハス真所有者ハ之ヲ普通物品ト同ク刑法附則ニヨリ贓物ト称シテ無償還給ヲ請求シ得ヘキ者ニアラスト信ス、現ニ我商法第三百八十条ニ於テモ「動産ニ付テノ有効ナル質権ハ質権者ノ善意ナルトキニ限リ所有者ニ於テ又ハ物ヲ処分スル為メ所有者ヨリ委托セラレタル代人ニ於テ又ハ正当ナル取得ニ因リ物ノ占有ヲ得タル各人ニ於テ之ヲ設定スルコトヲ得、但無記名証券ヲ除ク外其物カ盗品又ハ紛失品ナルトキハ此限ニ在ラス」トノ明文アリ、又別紙英国最近ノ判決例ニヨルモ法理上必ス斯クアルヘキ事ナルニ近来往々之ニ反スル判決例アルハ畢竟無記名公債証書ノ性質ト法理トヲ深ク研究セサルニ因ルナランカ、若シ之ヲ普通物品ト同一ニ取扱ハレ無償還給ヲ命セラルヽコトアルニ於テハ其無記名ノ効用ト便利トハ全ク喪失シテ不信用ノ証券トナリ、社会ハ安心シテ之カ取引ヲ為ス能ハス、為メニ其流通ヲ停滞シ、其価格自ラ低落シテ一国ノ経済上容易ナラサル不利益ヲ生スルニ至ラン、是レ銀行者カ営業上ノ前途ニ就テ顧慮スルノミナラス、又深ク国家ノ経済上ニ付テ憂慮措ク能ハサル所ナリ、依テ玆ニ此ノ問題ニ対シ敢テ貴会ノ高説ヲ仰ク


集会録事 自明治二十六年一月(DK060081k-0003)
第6巻 p.303-304 ページ画像

集会録事 自明治二十六年一月   (東京銀行集会所所蔵)
    ○第百三十四回定式会議録事
              栄一印 (印)
明治廿六年七月十五日午後五時ヨリ同盟銀行定式会議ヲ開キ、渋沢委員長首メ来会スルモノ総テ二十名ナリ
渋沢委員長ハ会長席ニ着キ今般三井銀行ハ合名会社三井銀行、安田銀行ハ合資会社安田銀行、川崎銀行ハ合資会社川崎銀行ト社名改称セシ事、安田銀行支配役藪田岩松氏転役ニ付副支配役若菜福朗氏支配人ニ就任ノ事、又昨年七月司法大臣ノ紹介ヲ以テ法曹会ヘ質問セシ無記名公債証書抵当ノ件ハ刑法附則第五十六条ニ拠リ其抵当債権者ハ無償還給ニ応セサルヘカラス、尤モ商法第三百八十条ニ例外法アリト雖未タ実施セラレサルモノナレハ前条ノ如ク論決セシ旨回答アリト報告シ、而シテ刑法附則第五十六条ノ修正ヲ請願スルカ、又ハ商法第三百八十
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条ノ実施ヲ速カニセンコトヲ要望スル歟ノ点ハ本件建議者第百十九国立銀行欠席ニ付、暫ク再考熟慮シテ次回ニ評議スヘキコトニ決セリ
次ニ当集会所本年上半季考課状ヲ報告シ、尋テ本年下半季経費収支予算ノ協議ヲ為シ、異議ナク原案ニ可決セリ