デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

  詳細検索へ

公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2020.3.6

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

1章 金融
1節 銀行
6款 択善会・東京銀行集会所
■綱文

第6巻 p.330-345(DK060093k) ページ画像

明治26年10月23日(1893年)

是ヨリ先七月二十二日、栄一ノ奔走ニヨリテ田尻大蔵次官ヨリ国立銀行紙幣消却方案ヲ内示セラレシカ、該案内容ニ就キ各国立銀行ト日本銀行間ニ意見一致セス、其後追加約定書案モ不成立ニ帰シタリ。依テ全国ノ銀行者一致シテ之カ善後策ヲ講スルノ外ナキニ至リ、関東ニテハ関東銀行会ヲ創立シ、是日第一回ノ協議ヲ為セリ。


■資料

集会録事 自明治二十四年一月至明治二十五年十二月(DK060093k-0001)
第6巻 p.331-333 ページ画像

集会録事 自明治二十四年一月至明治二十五年十二月  (東京銀行集会所所蔵)
    第百十一回定式会議録事 ○明治二四年三月一六日
次ニ会長○渋沢栄一ハ銀行紙幣合同消却法ノ件ニ付キ昨年九月中田尻銀行局長迄請願書ヲ提出シ置タリシカ、于今何等ノ指示ヲモ得サルニ付、此際大蔵大臣若クハ田尻銀行局長等ヘ更ニ内請ヲ試ミ速ニ前願ノ指令ヲ与ヘラレンコトヲ請求スヘシ、而シテ其請求ニハ大阪同盟銀行ヘ照会シテ一二名ノ出京ヲ促シ、東西相応シ倶ニ連合シテ以テ之ヲ請求シタル方可然ト発議ニ対シ、皆異議ナキニヨリ大阪同盟銀行ヘハ渋沢氏一己ノ資格ヲ以テ至急照会スヘキコトヲ約シ之ニ決セリ
○中略
右会事畢リ晩餐ノ後午後九時散会セリ
      第百十一回同盟銀行
      定式会議出席人名
         第一銀行   渋沢栄一 ○外二五名氏名略
    ○臨時会録事 銀行紙幣消却ノ件 (印)
明治二十四年八月十一日我同盟国立銀行本支店、左ノ数行及今回大阪同盟銀行総代トシテ出京シタル田中市兵衛、松本重太郎ノ二氏等ハ当日午後五時ヨリ当集会所ニ会同シ、銀行紙幣消却方法ニ関シ昨年九月我同盟銀行ヨリ銀行局長ヘ稟請シタル請願書ノ指令ヲ速ニ明示セラレンコトノ督促方ニ付協議スル処アリシカ、我同盟銀行ヨリハ是迄屡々督促シタル事モアレハ、今回ハ先ツ田中、松本二氏ヨリ大阪同盟銀行一同モ亦本件ニ関シ東京同盟銀行ト同シク大ニ苦慮シアルノ事情ヲ述ヘ、程能ク督促セラレタル方却テ好都合ヲ得ヘシトノコトニテ、当時田尻銀行局長ト問答ノ顛末ヲ詳述シタリシカ右両氏ハ之ヲ諾シ、明十二日大蔵省ヘ出頭シテ其摸様ヲ窺知スヘシト雖トモ、時宜ニ依リテハ更ニ会同協議スルコトアルヘシト約シ午後十時一同退会セリ
      当日出席員
           第一銀行頭取    渋沢栄一
           第十五銀行頭取   池田侯爵
           同支配人      山本直成
           安田銀行監事    安田善次郎
           第廿七銀行頭取   渡辺治右衛門
           第三十二銀行取締役 山中隣之助
           第二十銀行支配人  佐々木慎思郎
           第百十九銀行支配人 三村君平
    以上八名
  但第三銀行安田善四郎、第五銀行肥田景之、第百銀行高田小次郎ノ三氏ハ事故アリ出席セス
      客員
            大阪同盟銀行総代 田中市兵衛
            同        松本重太郎
右ニ付
其十二日田中市兵衛、松本重太郎ノ二氏ハ加藤銀行局長ニ面接シ、前
 - 第6巻 p.332 -ページ画像 
日当所ノ相談ニ基キ銀行紙幣消却ノ件ニ付曩ニ東京銀行集会所ヨリ稟請シタル処ノ指令ヲ促シタリシニ、加藤局長云本件ノ順序方法ハ概略取調ヲ了シテ先頃中日本銀行ヘ協議中ノ事ナレハ其内之ヲ公示スルニ至ルヘシトノ事ニ付、右二氏ハ又川田日本銀行総裁ニ就キ加藤局長談話ノ摸様ヲ述ヘ、日本銀行ノ都合如何ヲ問フニ、川田氏ハ只今加藤局長ヨリ御聞ノ通ノ次第ニテ当時本行ニ於テ専ラ調査中ナリト云(八月十三日松本氏、渋沢氏ヘノ面晤)
其十五日渋沢氏ハ日本銀行株主定式総会ニ於テ、田中・松本及安田善次郎・山中隣之助等ノ諸氏ニ面会ノ節、談本件ノ事ニ及ヒ種々相談ノ上、従来ノ行掛リモアレハ更ニ渋沢氏ヨリ田尻前銀行局長ニ就キ親シク其摸様ヲ詳問セラレンコトヲ請求セシニヨリ、渋沢氏之ヲ諾セリ
其十六日田尻氏ヲ訪問スルニ先タチ、川田日本銀行総裁ヲ小石川ノ私邸ニ訪ヒ、本件ニ付テハ嘗テ杞憂スル処アリテ、昨年九月我同盟銀行ヨリ銀行局長迄其事情ヲ稟請シタル等ノ顛末ヲ縷述シ、且本件ハ大蔵省ヨリ日本銀行ヘ諮詢セラレタル由ニ聞知シタレハ、貴下ノ意見ハ如何ニヤト問ヒシニ、川田氏大ニ胸襟ヲ開キ謂テ曰ク、本件大体ノ順序方法ニ於テハ大蔵省ノ意見ト敢テ異ナルコトナシト雖トモ、彼紙幣消却年間モ亦国立銀行営業期限中ニ完了スル能ハサリシヲ以テ、追テ之ヲ継続シテ私立銀行トナリタル時ニ至ルモ亦其約定書ノ有効タラシメントスル等ノ事ヨリ、日本銀行ト国立銀行トノ間ニ取結フヘキ法文中ニ就キ頗ル注意ヲ要スルニヨリ、荏苒今日ニ至リタル所以ナレトモ、最早其整頓ヲ告クル蓋シ遠キニアラサルヘシ云々
夫ヨリ渋沢氏ハ田尻氏ヲ金富町ノ私邸ニ訪ヒ、本件ニ就テハ嘗テ屡々貴慮ヲ煩ハシタリシ処、尚又今回大阪同盟銀行総代トシテ田中市兵衛松本重太郎ノ二氏出京シテ共ニ本件ノ捗ランコトヲ請求セント謀ルニヨリ種々相談ノ上、只今川田日本銀行総裁ニ面会シ、本件ニ係ル我々カ杞憂ノ事情ヲ打明ケ、同氏ノ意見ヲ問ヒシニ、此程中大蔵省ニ於テ取調ラレタル国立銀行ト日本銀行ノ間ニ訂結スヘキ約定書ノ草案モ、已ニ日本銀行ヘ廻送セラレシ由ニテ、其大体ハ同行ニ於テモ異議ナキ趣(中略)ナレハ、遠カラス其取調ヲ完了スルニ至ルヘシト云、果シテ然ラハ嘗テ貴下カ余等ニ示シ、大蔵省ノ方案ハ大略予定シアレハ懸念ニ及ハストアリシハ、蓋シ今日川田氏ヨリ聞知シタル方案ニテアリシナラント云ニ、田尻氏ハ今川田氏ヨリ御承知ノ通聊カ間違ナシ、然シ小生今日ノ場合ニテハ銀行者ニ対シ職権上ノ義務ナシ、乍去徳義上ニ於テハ充分注意ヲ加フヘケレトモ、一応新局長加藤高明氏ニ就キ目下ノ摸様御尋アリタシ、然シ既ニ御承知ノ如ク捗取居ル事ナレハ、総代トカ委員トカ三五、列ヲ為シテ其官衙ニ出入スルカ如キハ余ノ欲セサル所ナリ云々
其十七日渋沢氏ハ大蔵省ニ出頭シ、加藤銀行局長ニ就キ其意見ヲ問ヒタルニ、同局長ハ前局長ノ方案ト先ツ同一ノ意見ヲ持シ、成ルヘク銀行者ノ為メニ都合ヨキ様取計ヘシトノ挨拶ヲ為セリ
前記ノ如キ都合ナリシヲ以テ去ル十一日ノ同会ハ玆ニ一ト先局ヲ結ヒ当日出席ノ諸氏ヘハ書記長山中譲三氏ヨリ其顛末ヲ伝ヘシメタリ
是ニ於テ大阪ヨリ出京シタル田中、松本ノ二氏モ大ニ安意シ不日帰阪
 - 第6巻 p.333 -ページ画像 
ノ筈ナリ
     已上
  八月十八日記ス(印)
    ○第百二十回定式会議録事○明治二五年二月二六日
次ニ三輪信次郎氏ハ二三銀行ノ賛成ヲ得テ建議シテ曰ク、銀行紙幣消却方法ノ件ハ其後漸々延引シ未タ何等ノ要領ヲ得ス、依テ此事項ニ付一週間内ニ於テ国立銀行ノ臨時会ヲ開カレン事ヲ望ムト云ヒシニ、満場ノ賛成ヲ以テ来ル三月一日午後五時ヨリ開会スヘキ事ニ確定シ、午後七時閉会セリ
     当日出席員
        第一国立銀行 渋沢栄一 ○外二五名氏名略
    ○臨時会議録事
              栄一印 (印)
明治廿五年三月一日午後五時ヨリ同盟国立銀行臨時会議ヲ開キ来会スル者十九名ナリ
渋沢委員長ハ会長席ニ着キ去ル廿六日会議ノ節銀行紙幣消却方法ニ関シ第十五国立銀行ヨリ臨時開会ノ請求ハ、同盟国立銀行一般ノ賛成スル処トナリ、即チ本日此会議ヲ開キタル旨ヲ陳ヘ且曰ク此消却方法ノ事タル明治十六年五月国立銀行条例ノ改正ニ基キ、同条第百十二条ニヨリ大蔵省ニ於テ紙幣消還ノ予算ヲ作リテ之ヲ示サレタルニヨリ、我我ハ此予算ノ如ク営業年限内ニ於テ充分消却シ得ラルヽモノト信シテ安堵シ居タリシカ、爾後公債証書ノ価格騰貴シ、且明治十九年以来政府ハ国債整理ノ為メ、漸次整理公債ヲ発行シテ高利公債ヲ消還セラレタレハ、此利子低落ノ為メ該予算ニ大差異ヲ生シ、遂ニ七百余万円ノ不足ヲ来スニ至ラントスルヲ以テ、廿三年九月中田尻銀行局長ニ懇請シタルハ、今更喋々ヲ俟タスシテ諸氏ノ已ニ熟知スル所ナリ、故ニ当銀行集会所同盟ハ勿論大阪、九州同盟会等ニ於テモ種々苦慮スル所アリテ大蔵省ヘ懇請シタレトモ、未タ何レモ其要領ヲ得サレハ、今又特ニ諸君ノ協議ヲ要セシ所以ナリ、且本日加藤監査局長ニ面会シ爾来同局ニ於テ調査ノ手続ヲ問ヒシニ、其主旨ハ嘗テ談話シタル如ク決シテ変更セサレトモ、事自ツカラ緩急アリ、請求ノ如キハ未タ営業年限モ遠ケレハ左迄差急クニモ及ハサルベシ、乍併徒ニ時日ヲ遷延スルニアラサレハ、宜シク其時機ヲ待ツヘシ、又同盟銀行ニ於テ良案モアラハ其採否ハ兎ニ角之レヲ提出スルモ可ナルヘシ云々、ト最前ヨリノ顛末ヲ詳述シ本件ニ付更ニ三五名ノ委員ヲ選ヒ、三四様ノ種類ノ考案ヲ立テ之ヲ以テ当局者ノ参考ニ供シ、督促ヲ為スモノハ如何ト云ヒ種々討議スル処アリト雖、先ツ前局長ヨリ日本銀行ヘ廻付シタリシ書面ノ内覧ヲ請求シ、之ニ拠リテ以テ其方案ヲ立ツル方可然、就テハ渋沢、池田、山本、安田、山中等ノ諸氏ヲ労シ、先ツ一応監査局長ヘ該方案内覧ノ懇請ヲ委托スヘキ事ト為シ、若シ之ニテモ其要領ヲ得サルトキハ別ニ其方法ヲ再議スヘシトノコトニ一決シ、晩餐ノ後八時下退散セリ


東京経済雑誌 第二五巻 ○第六一四号・第三五一頁〔明治二五年三月一二日〕 国立銀行紙幣銷却法に関する会議(DK060093k-0002)
第6巻 p.333-334 ページ画像

東京経済雑誌 第二五巻
 ○第六一四号・第三五一頁〔明治二五年三月一二日〕
 - 第6巻 p.334 -ページ画像 
    ○国立銀行紙幣銷却法に関する会議
京浜同盟銀行者より国立銀行紙幣銷却法取調委員に推選せられたる渋沢栄一、池田章政、三輪信次郎(山本直成氏代理)安田善次郎、山中隣之助氏等は去五日銀行集会所に集会して協議する処ありしか、其協議の大要は元来国立銀行紙幣銷却法に就ては久しく各銀行員の苦心する処にして、先年松方大蔵大臣に向ても懇々請願したれども、未だ何分の詮議も決定せず、荏苒今日に至り、尚ほ空しく歳月を移して許否の詮議を聞かざる時は安心もならざるに就き、委員中の二、三より同大臣に迫りて其決定の詮議を懇請し、尚ほ監査局に於て調査されたる其銷却方案の内覧をも請ふことに決したりと云ふ

東京経済雑誌 第二五巻 ○第六一五号・第三七一―三七二頁〔明治二五年三月一九日〕 国立銀行紙幣銷却法の改正如何(DK060093k-0003)
第6巻 p.334-335 ページ画像

 ○第六一五号・第三七一―三七二頁〔明治二五年三月一九日〕
    ○国立銀行紙幣銷却法の改正如何
余輩は夙に我か邦国立銀行紙幣銷却法の改正せさるへからさることを論弁したりしか、今や端なくも改正せざるを得ざるに至れり、何を以て之を言ふ乎、現行の国立銀行紙幣合同銷却法に於ては、夫の公債借換の為め元資公債の利子減少し、営業年限内には到底銷却を完了すること能はさるに至りたればなり、然らは則ち国立銀行の営業期限を延長せん乎、将た其紙幣銷却の期限を延長せん乎、此二者共に現行国立銀行条例の許さゞる所なり、即ち左の如し
 第十二条 此条例を遵奉して創立する国立銀行は鎖店其他の事故あるに非ざれば、開業免状を受けし日より二十ケ年の間其営業を継続することを得べし、右期限後は更に私立銀行の資格を以て大蔵卿の許可を受け其営業を継続するを得べし、然れども紙幣発行の特許を有し、国立銀行の資格を以て営業を継続するを許さず
 第百十二条 此条例を遵奉する国立銀行より発行したる紙幣は、左に掲くる方法を以て其営業年限内に悉皆銷却すべきものとす
左に掲ぐる方法とは現今日本銀行に於て実行し居れる国立銀行紙幣の合同銷却法にして、全国百有余の国立銀行は来る明治三十年前後に至りて、悉く営業満期に達することなり、是に於て我か政府は国立銀行の紙幣銷却法に関して詮議する所あり、既に大蔵省の監査局に於ては改正案を起草せし由なりと雖も、京浜同盟の銀行者諸氏は、営業満期の数年の後に迫れる今日に於て、営業年限内に紙幣の銷却を完了するを得へき方法の未た確定せさるは甚た心配なりとて、渋沢栄一、池田章政、山本直成、安田善次郎、山中隣之助等の諸氏を国立銀行紙幣銷却法改正取調委員に推選し、爾来委員諸氏は屡は集会して協議を遂けられしが、結局委員中の二三人より大蔵大臣に向ひて、速かに右銷却法を改正せられんことを懇請し、且つ監査局に於て起草せられたる改正案の内覧をも請ふことに決したりと云ふ
委員諸氏は国立銀行紙幣銷却法の改正に関して如何なる意見を持せらるゝや、又大蔵省の監査局に於て起草せられたる改正案は如何なるものなるや、余輩未だ之を知らざるなり、然れとも余輩は速かに銷却を完了せんことを希望せざるべからず、現行の合同銷却法を廃止して、一時に悉く国立銀行紙幣を銷却せんことを主張せさるへからず、夫れ銀行紙幣は兌換紙幣にして、兌換紙幣にあらざるが如く、不換紙幣に
 - 第6巻 p.335 -ページ画像 
あらずして、不換紙幣なるか如く、実に奇態なる有様に陥れり、各国立銀行は其紙幣兌換の責任を以て日本銀行に移したりと雖も、日本銀行は国立銀行紙幣を兌換すへき政府紙幣を有せさるなり、日本銀行は各国立銀行より紙幣銷却の元資として、準備金及び積立金の納付を受けたりと雖も、此等の貨幣は悉く公債証書に変せり、故に方今国立銀行紙幣は全く兌換の名ありて其実なきものなり、兌換制度を立て紙幣画一の政略を取れる今日に於て、豈に斯の如き奇態なる紙幣をして久しく世に存せしめて可ならんや
且つ夫れ方今日本銀行紙幣発行の利益は政府に帰せずと雖とも、早晩之を政府に収むるに至るべきや論を俟たず、然かるに日本銀行の無準備紙幣発行制限額八千五百万円の内には、国立銀行紙幣二千四百余万円(昨年十二月末の調査)あり、而して此二千四百余万円の国立銀行紙幣発行の利益は依然国立銀行に帰すべし、故に日本銀行紙幣発行の利益を政府に収むるの点に於ても、速かに国立銀行紙幣を銷却するは必要なり、然らは則ち国立銀行紙幣を一時に悉く銷却するの方法如何余輩は次号の紙上に於て之を詳論せんとす(未完)

東京経済雑誌 第二五巻 ○第六一六号・第四一三―四一四頁〔明治二五年三月二六日〕 国立銀行紙幣銷却法の改正如何(前号の続き)(DK060093k-0004)
第6巻 p.335-336 ページ画像

 ○第六一六号・第四一三―四一四頁〔明治二五年三月二六日〕
    ○国立銀行紙幣銷却法の改正如何
      (前号の続き)
日本銀行の報告に拠るに、国立銀行紙幣銷却元資公債の昨年末に於ける現在高は、額面千七百二十八万二千九百七十円あり、又た此公債より生したる利子にして、昨年中国立銀行紙幣を銷却せる残金四十九万八千二百六円六十銭八厘あり、二十五年度へ繰越したりと云ふ、然り而して昨年十二月三十一日より本年一月一日へ越す、国立銀行紙幣流通高は二千四百八十六万九千五百八円五十銭なり、左れば今ま若し日本銀行をして右の国立銀行紙幣銷却残金四十九万余円を以て公債証書を買入れしめ、而して此公債と元資公債とに対して兌換銀行券を発行し、以て国立銀行紙幣を引上くるときは国立銀行紙幣の流通高は一時に減して、七百八万八千三百三十二円と為るべし、然り而して其引上けたる国立銀行紙幣を政府に上納すれは、政府は之を焼棄して、兼て各国立銀行より其発行紙幣の抵当として預り置ける所の公債証書を、各国立銀行に返却すへきを以て各国立銀行は其内七百八万八千三百三十二円丈けを日本銀行に交付し、日本銀行に於ては之に対して兌換銀行券を発行し、国立銀行紙幣を引上け、以て政府に上納すること前の如くすれば、国立銀行紙幣は一時に悉く銷却するを得べきなり
斯の如くして一時に悉く国立銀行紙幣を銷却するときは、日本銀行に於ては一時に兌換銀行券二千四百余万円の製造費を負担せざるへからず、是れ日本銀行の迷惑となる所なるべしと雖も、元来此製造費は到底日本銀行の負担せざるべからざる所にして、唯た一時に負担すると漸次に負担するとの差あるのみなれば、日本銀行は之を忍はさるへからず、何となれば速かに紙幣の画一を図る為めに、国家に対し避くべからさるの義務なればなり、又た国立銀行は公債証書七百八万余円の利子を得ること能はずと雖も、其代りには毎半季発行紙幣の一分二厘五毛宛を、紙幣銷却元資積立金として日本銀行に納むるの義務を免か
 - 第6巻 p.336 -ページ画像 
るべし、且つ我か邦の国立銀行は多年非常の特典を享けたるものなれば、幣制改良の為めには固より多少の不利は忍はさるへからず、然れとも此七百八万余円の公債証書を日本銀行に交付するに就ては、日本銀行と各国立銀行との契約に依り尚ほ便宜の方法を立つるを得べし、要は唯た一時に悉く国立銀行紙幣を引上け、以て我が幣制の奇態なる有様を改むれば可なり
之を聞く国立銀行者諸氏は、夙に現行合同銷却法に於ては到底営業年限内に其紙幣を銷却し尽すこと能はさるへきを看破し、営業満期の際に至り、日本銀行に於て仮りに悉く国立銀行紙幣を銷却し、以て各国立銀行は公衆より負へる其紙幣は債務を日本銀行に移し、而して漸次に日本銀行に対して此債務を果さんことを依頼し、日本銀行に於ても略ほ承諾したりしと雖も、単に口頭の約束に止まるを以て、文書を以て確定し置かんとの議出で、遂に今回委員選挙の沙汰に及ひたるなりと、蓋し現行銷却法を改正せずして荏苒歳月を経過し、以て営業満期に至るときは斯の如き変則法に依らさるへからさるに至るべし、然りと雖も紙幣銷却の事たる法律を以て定めさるへからさる所なれば、宜しく改正案を起草して帝国議会に提出し、以て其協賛を経べし、故に余輩は当局有司及ひ銀行者氏諸に向ひて之を言ふのみにあらず、亦た実に帝国議会議員諸氏の一顧を請はんと欲するなり(完)


集会録事 自明治二十六年一月(DK060093k-0005)
第6巻 p.336-338 ページ画像

集会録事 自明治二十六年一月  (東京銀行集会所所蔵)
    第百三十三回定式集会録事○明治二六年六月一五日
晩餐後更ニ同盟国立銀行会議ヲ開キ、渋沢委員長ハ銀行紙幣合同消却一条ハ去ル明治廿三年以来屡々主務省ニ請願スル処アリシニ、幸ヒ前大蔵大臣松方伯ハ常ニ本件ニ付種々配慮セラレ、為メニ其間大ニ歩ヲ進ムル処アリ、且挂冠セラルヽノ当時モ渡辺新大臣ニ対シ従来ノ顛末ヲ懇々申継キ、尚小子外四名ノ委員等モ其当時本件ニ関スル既往ノ顛末ヲ詳陳シ、渡辺大臣モ亦頗ル此事ニ注意セラレ、必ス相当ノ処分スヘキコトヲ明言セラレシヲ以テ、今回ハ必ス事ノ実行ヲ見ルナラント窃ニ期スル処アリシカ、如何セン当局者ノ更迭頻繁ナルカ為メ今日ニ至リ未タ其運ヒヲ見ル能ハサル遺憾ノ至ナリ
然ルニ過日第十五国立銀行外数行ハ本件ニ付協議スル処アリテ、結局従来ノ如ク大蔵省ニ向ヒ之カ処分ヲ請フモ到底満足ノ結果覚束ナカルヘシ、自然宿望ノ行レサルカ如キ事アラハ国立銀行ハ実ニ八百有余万円ノ損害ヲ蒙ラサルヘカラス、故ニ今日ニ於テ国立銀行営業延期ヲ望ミ以テ此損害ヲ防止セサルヘカラストナシ、国立銀行条例ヲ改正シ、営業年限ヲ今ヨリ更ニ二十ケ年継続スヘキコト一決セリトシテ小子ニ之カ同意ヲ求メタリ、勿論小子モ之ニ同意セサルニアラサレトモ、本件ニ付テハ是迄奔走苦慮シタル次第モアリテ、是非共其成効ヲ期セント欲シ、今日ニ及ヒタレトモ猶未タ断念スルニ忍ヒス、然リト雖如何セン事此ニ至ル、最早新案ニ拠ルノ外アラサルヲ以テ、止ヲ得ス之ニ同意シテ玆ニ新案ヲ提出セシ所以ナリ
大野清敬氏曰 此事ニ付テハ従来委員諸氏種々配慮セラルヽ処アリシ
 - 第6巻 p.337 -ページ画像 
カ、到底行政処分ヲ以テ之カ処理ハ望能ハサルカ如クナレハ、此際全国々立銀行ヘ照会シ、充分ノ運動ヲ為シ、以テ法律ノ改正ヲ望マサルヘカラサルナリ、
山中隣之助氏曰 全国々立銀行ノ大会ヲ開キ充分運動スルトナスモ、兎ニ角本案ノ賛否ヲ決定セサルヘカラサレハ大体ヨリ決議セラレン事ヲ望ム
三輪信次郎氏曰 現今ノ国立銀行条例ニ拠ルトキハ、営業満期ノ際国立銀行営業ヲ其儘私立銀行ヘ継続スルコト能ハサルヲ以テ、一端国立銀行ヲ解散シ、更ニ私立銀行ヲ組織セサルヘカラサレハ、其間全国百三十有余ノ国立銀行ハ漸次営業ヲ休止シテ之カ組織ヲ更改セサルヘカラサレハ、随テ経済上ニ変ヲ及ホシ、遂ニ恐慌ヲ来スノ憂ナシトセサルヲ以テ本案ノ改正ヲ望メリ
会長曰 抑此事ノ起リタルハ明治廿二年ノ事ナリシカ、廿三年九月ニ至リ田尻銀行局長ニ計ル処アリシニ、同局長ハ法律上ニ於テ之カ延期ヲナスヨリ、寧行政上ノ処分ヲ以テ日本銀行ニ談合スル方都合宜シカルヘキヲ以テ、必ス之ニ拠リ処分スヘキ旨ヲ答ヘラレシト雖、尚不安心ノ廉アリタルニヨリ請願書ヲ起草シ、之ヲ同局長迄呈セシニ、其後同省ニ於テ着々之カ取調ヲ為シ、最早日本銀行ヘモ其草案ヲ廻付シ、大体ノ運ヒハ付キ、只箇条ヲ審議中ナリトノコトナルヲ以テ、近日落着スルナラント予期セシニ、其後田尻局長ハ転任シ、更ニ加藤高明氏同局長ニ任セサレシヲ以テ、猶又加藤局長ヘモ之カ処分ヲ談話セシニ已ニ田尻局長ヨリ申継モアリ、且日本銀行ヘモ照会中ナレハ決シテ心配スルニ及ハサルヘキ旨ヲ答ヘラレ、其後同局長ニ面シ種々迫ル処アリシカ、漸々其談話不安心ノ廉多ク、且流焼失紙幣ノ如キハ結局国有ニ帰スルカ如キ模様アリタルヲ以テ、当時大ニ論議ヲ試ムル処アリシカ、其後松方大臣ハ挂冠セラレ、渡辺大臣之ニ代リシヲ以テ、尚又同大臣ヘモ懇々従来ノ行掛ヲ陳ヘ、同大臣モ亦之ヲ承知シ、同席ノ鈴木監査局長ヘ命令シ充分取調フヘキ旨ヲ答ヘラレシカ、其後又々鈴木局長辞任シテ現今ノ添田局長ニ至リシナリ、不幸ニシテ本件ハ将ニ其成効ヲ見ントスルモ、当任局長ノ更迭斯ノ如ク頻繁ナリシヲ以テ事将ニ成ラントスルモ遂ニ其結果ヲ見ル能ハス、今ハ何時其落着スヘキヤ殆ト望ナキカ如キ事態トナリシナレハ、最早断然法律上ノ処分ヲ請フノ外良策ナカルヘシ、然リト雖苟モ一ト度大臣局長ニシテ必ス之カ処分ヲ為スヘキヲ明言シ、小子又之ニ拠リテ成効センコトヲ望ミ居レハ、去ル十三日来訪諸氏ヨリ本案ノ同意ヲ求メラレタルノ後、添田局長ヲ問ヒ本件ニ付切論痛議シ、且渡辺大臣ニモ最後ノ決答ヲ促スノ心算ナリ、而シテ事若シ成ラサレハ最早本案ニ拠ルノ外策ナカルヘキヲ以テ全力ヲ振ヒ運動スヘキナリト雖、之ヲ行政上ノ処分トナストキハ事総テ円滑ニ行ハルヽヲ以テ、今日迄穏和手段ニ依リシ所以ナリ
安田善次郎氏曰 一方ニハ本案ニ拠リ運動ヲナシ、又一方ハ渋沢氏ヨリ最後ノ決答ヲ促スコトナラハ、或ハ意外ノ結果ヲ得ルヤモ測ラレサレハ右ノ二途ヲ以テセハ如何
山本直成氏曰 全国々立銀行ノ大会ヲ開キ、本案ニ依リ充分ニ運動ナス事トスヘキニ付テハ取調委員ヲ選ミ、可成速ニ其運動方法ヲ講セラ
 - 第6巻 p.338 -ページ画像 
レンコトヲ望ム
会長曰 然ラハ本案ニ依リ、取調委員ヲ選ミ充分取調ノ上帝国議会ヘ建議スルノ手続ヲ成サハ如何ト云ヒシニ、全会一致之ニ同意セシヲ以テ、五名若クハ七名ノ取調委員ヲ渋沢委員長ヨリ指名スヘキニ決シ、尚国立銀行選出ノ常委員モ共ニ之カ取調ヲ為スヘキ事ニ議決シ九時下閉会セリ
閉会後右取調委員ニハ安田善四郎、山本直成、佐々木勇之助、佐々木慎思郎、池田謙三、三輪信次郎、三村君平ノ七氏ヲ選定シ、尚渡辺治右衛門、肥田景之、中沢彦吉ノ三氏ハ参加員トシテ特ニ出席スヘキコトニ決セリ
    ○第百三十六回定式会議録事
明治廿六年九月十五日午後五時ヨリ同盟銀行第百三十六回定式会議ヲ開キ、渋沢委員長ヲ首メ来会スル者総テ三十二名ナリ
渋沢氏ハ会長席ニ着キ会議ニ先チ、嘗テ同盟国立銀行ト協議シタル銀行紙幣消却方法ニ付、日本銀行ト各国立銀行トノ間ニ訂結スヘキ追加約定草案ハ、目下其筋ノ審査ニ係ルヲ以テ、不日其成案ノ内示有ルヲ待チ、更ニ協議スヘシト、其遷延シタル事情及ヒ前ニ名古屋組合ニ予定シタル遠州二俣第百三十八国立銀行ハ、便宜ニヨリ更ニ東京組合銀行ニ加入センコトヲ要求シタルニ付、委員ニ於テ之ヲ承諾シタル事等ヲ報道セリ
    ○臨時会議録事 ○明治二六年一二月二日
次ニ渋沢氏ハ本年十月廿五日関東銀行会ニ於テ協議セシ銀行紙幣消却方法ニ起因スル営業継続案ハ、主務省ニ於テ之レヲ調査シ、第五帝国議会ヘ政府案トシテ提出スヘキヲ聞知セシニ付、暫ク其成行ヲ観察シ若シ政府案トシテ提出スルニ至ラサルカ、又ハ提出有ルモ議会通過ノ見込ナキトキハ、至急臨時会議ヲ開キ其方法ヲ協議スヘキ事ニ議決セシヲ以テ、爾後再三大蔵省ノ事情ヲ伺ヒシニ、紙幣始末ニ付テハ時効ニ関スル法律案、又営業継続ニ付テハ株主多数決議ヲ以テ之ヲ為シ得ラルヽノ法律案ヲ草シ、今已ニ大臣ノ手ニ在リトノ事ナレハ、其順序ニ淹滞ナク一日モ早ク議会ニ提出ノ運ヒニ尽力セラレンコトヲ懇請セシナリ、ト告ケ衆皆之ヲ領承セリ
右会事畢リ同七時三十分閉会晩餐ノ後退散セリ、当日出席員左ノ如シ
        第一国立銀行   渋沢栄一 ○外二五名氏名略


東京商業会議所月報 第二七号〔明治二七年一一月〕 国立銀行ノ沿革大要(渋沢栄一君述)(DK060093k-0006)
第6巻 p.338-341 ページ画像

東京商業会議所月報  第二七号〔明治二七年一一月〕
    国立銀行ノ沿革大要 (渋沢栄一君述)
○上文明治二三年九月一二日ノ条ニ接ス然ルニ爾来専ラ前陳ノ方針ヲ以テ銀行局ト日本銀行トノ間ニ於テ交渉中、又々局長ノ更迭アリテ田尻稲次郎氏ハ主税局長ニ転任シ、加藤高明氏其後任トナラレタルニ付、(明治二十四年七月大蔵省官制改正ノ結果トシテ銀行局ヲ廃シ、監査局ヲ置キ、銀行事務ヲ管理セラルヽニ当リ、加藤高明氏ハ監査局長ニ任セラレタリ、)更ニ前局長ノ諭示ニ従ヒ、書面ヲ提出シタル事ヲ述ヘ、之カ同意ヲ求メタルニ、加藤局長ハ全ク前局長ト其意見ヲ異ニセラレタルカ如ク、政府ニ於テ一旦幣政画《(制)》一ノ方針ヲ執リ、之カ一着歩トシテ国立銀行条例
 - 第6巻 p.339 -ページ画像 
ヲ改正シタル以上ハ、仮令銀行者ニ於テ多少ノ迷惑アルニモセヨ、道理上ヨリ之ヲ観察スル時ハ、政府ハ決シテ此等銀行者ヲ救済スルカ如キ責任ナキノミナラス、日本銀行ニ於テ無利足ノ貸金ヲ為スカ如キハ抑モ条例ノ許サヽル処ニシテ、株主中ノ苦情ヲ醸スノ基因ナルヘシトテ、痛ク反対ノ意見ヲ述ヘラレタルニ付、余等ハ之ニ対シテ既往ノ行キ懸リヲ述ヘ、縷々弁明シタル末、兎ニ角現行ノ法律上ヨリ為シ能ハサルトノ事ナラハ、更ニ営業継続ノ法律案ヲ議会ニ提出セラレタキ旨ヲ述ヘタレトモ、遂ニ其意ヲ果スヲ得サリキ、斯クテ明治二十五年トナリ、加藤監査局長其任ヲ去リテ鈴木利亨氏之ニ代リタルニ付、重テ従来ノ成行キヲ述ヘテ其意見ヲ徴シタレトモ、兎角ノ確答ニ接セサル内、引続キ内閣ノ更迭トナリ、大蔵大臣松方伯冠ヲ挂ケテ、当時ノ次官タリシ渡辺国武氏其後任ニ栄進セラレタルガ、此際京浜ノ同盟銀行協議ノ上、新旧大臣ヲ招待シタルコトアリシカバ、此会同ヲ機トシ其席上ニ於テ銀行者従来ノ希望ヲ述ヘ、其後前ノ委員等ハ共ニ大蔵省ヘ出頭シ、渡辺大臣ニ面謁シテ陳述スル処アリシニ、同大臣ノ諭示セラルヽニハ、該件ニ就テハ曾テ田尻ニ於テ非常ニ心配シタルコトモアリシカ、加藤ハ法律ニ偏シテ之ニ反対シタルヤニ聞ク、依テ猶ホ充分ノ調査ヲ尽シ、可成銀行者ノ素望ヲ達セシムル様尽力スヘシトノ事ナリシモ、其後何等ノ沙汰モナク打過キ、明治二十六年トナリシガ、同年七月二十二日大蔵省ヨリ召喚アリタルニ付、余ハ早速同省ヘ出頭シタルニ田尻次官ヨリ国立銀行紙幣消却方案ヲ内示セラレ、之ニ対シ異議アラハ申出ツヘキ旨ヲ口達セラレタリ、右方案ニ定ムル所ノ紙幣消却手続ハ概略左ノ如シ

 第一 私立銀行トナリテ営業ヲ継続セントスル国立銀行ハ、其満期前ニ日本銀行ニ請求シ、其銀行発行紙幣ノ割付消却残高ヲ消却スル為メ兌換銀行券ヲ借入ルヘキ事
 *貼紙
  コノ手続ヲ要約スレバ左ノ通リ
  一、準備金ハ各国立銀行ニ持帰ル
  二、準備金公債値上高ハ紙幣消却ニ充当ス
  三、(二)ニテ不足ノ分ハ日本銀行ヨリ無利子借用
  四、(三)ノ借用金ヲ返済スルタメ従来ノ積立金ト同額(半季一分二厘五毛)ヲ支出ス
  五、(三)ノ代償トシテ紛失紙幣ハ日本銀行ノ所得トス
 第二 日本銀行ハ前項ノ請求ヲ受クルトキハ、請求銀行ノ営業満期日ニ於ケル発行紙幣割付消却残高ヲ算定スル事
 第三 日本銀行ハ総元資公債証書ヲ時価ニ計算シ、之ヲ各銀行ニ割付ケ、其請求銀行ニ属スル分ヲ相当代価ヲ以テ日本銀行ヘ買ヒ受クル事
 第四 日本銀行ハ前項公債証書ヲ買受ケタル代金ノ内ヨリ、最初請求銀行ヨリ預リタル発行紙幣準備金ニ該当スル金額ヲ請求銀行ヘ払渡ス事
 第五 日本銀行ハ前項発行紙幣準備金ニ該当スル金額ヲ引去リタル残額ハ之ヲ預リ置キ、前第二項請求銀行ノ発行紙幣割付消却残高ノ消却資金ト為ス事
 - 第6巻 p.340 -ページ画像 
 第六 日本銀行ハ前項消却資金ノ金額ト、前第二項ノ発行紙幣割付消却残高トヲ比較シ、消却資金ノ不足スルトキハ其不足額ヲ以テ年賦貸付ノ金額ト定メ、貸付契約締結ノ義ヲ請求銀行ヘ通知スヘキ事
 第七 前項ノ貸付金ハ無利子トス、但引換ノ請求ナキ散失国立銀行紙幣ハ日本銀行ノ所有ニ帰スヘキ事
 第八 請求銀行第六項ノ通知ヲ得タルトキハ日本銀行ニ協議シ、発行紙幣割付消却残高ニ対シ大蔵省ニ上納シアル処ノ抵当公債証書ヲ直チニ年賦借入金ノ抵当トシテ日本銀行ヘ納入スヘキ事
  請求銀行ハ発行紙幣割付消却残高ヲ日本銀行ニ於テ消却シタルトキハ、其抵当公債証書ヲ大蔵省ヨリ直チニ日本銀行ヘ下戻サルヘキコトヲ委任スル事
 第九 請求銀行ハ前項ノ如ク発行紙幣抵当ノ公債証書ヲ日本銀行ヘ差入レ、発行紙幣割付消却残高ヲ消却スル資金不足額ヲ借入ルヽニ付キテハ、其年賦借入金償還ノ方法ハ左ノ条項ニ依ル事
  一消却資金不足額借入金ノ年賦金額ハ元発行紙幣下付高ノ年二分五厘ニ当ル金額ト定メ、請求銀行ヨリ毎年一月七月ノ両度ニ割当テ日本銀行ヘ償還スル事
  二日本銀行ハ毎年両度年賦貸付金ノ償還ヲ受ケタルトキハ、其償還金ニ対スル抵当公債証書ヲ請求銀行ヘ返還スル事
  三年賦償還ノ期限ハ、請求銀行ノ元発行紙幣下付高ノ年二分五厘ニ当ル金額ヲ年賦金トシテ毎年償還シ、其借入金ヲ全ク償還シ終ルノ日時ヨリ以外ニ渉ルコトナシ
 第十 請求銀行ハ前項ニ依リ契約書二通ヲ製シ、一通ハ日本銀行ヘ送付シ、一通ハ請求銀行ヘ留メ置クヘキ事、但此契約書ハ公正証書タルヘシ
 第十一 日本銀行ハ前項契約書締結ノ上ハ、直チニ前第五項消却資金及ヒ年賦貸付金トヲ以テ、請求銀行ノ発行紙幣割付消却残高ヲ一時ニ合同消却スヘキ事
依テ其後銀行集会所ニ於テ同業者ヲ会シ、前記消却方案ニ就キ審議ヲ遂ケタルニ、営業満期ニ至リ従来年々積立テタル処ノ紙幣消却元資積立金ヲ以テ紙幣ヲ消却スルモ、猶ホ残額七百七十余万円トナルヘキニ付、是ハ無論日本銀行ヨリ借入ルヽ事トシ、予テ日本銀行ニ預ケ置ク処ノ紙幣引換準備金ハ、即チ公債証書ノ額面ヲ以テ還附ヲ請ヒ、年々ノ消却法ニ就テハ異議ナキ旨ヲ決シタルニ付、先ツ之ヲ同局長ニ答ヘ置キ、猶ホ日本銀行ニ就キ準備金返還ノ事ヲ協議シタルニ、右準備金ハ通貨ヲ以テ返付スヘキモノナレハ、公債証書ノ額面ヲ以テ返付スル事ハ為シ能ハストノ事ナリシ、然ルニ余ハ猶ホ其議ヲ翻サント欲シ、更ニ同行ノ三野村、山本等ノ諸氏ニ懇談シテ其意ヲ貫徹センコトヲ勉メ、延テ八月十九日日本銀行株主総会ノ時ニ際シ、同総裁ハ熟考ノ末遂ニ余等ノ希望ヲ承諾シ、玆ニ一ト先ツ一段落ヲ告ケ、此上ハ相当ノ手続ヲ経テ契約ヲ締結スヘキ迄ノ運ヒトナリタリ、然ルニ日本銀行ハ兼テ大蔵省ニ於テ内議セラレタル紙幣消却方案中ニアル引換ノ請求ナキ散失国立銀行紙幣ハ日本銀行ノ所有ニ帰スルトノ事ハ、法律上ノ規
 - 第6巻 p.341 -ページ画像 
定ニ拠ラサレハ、安心シテ契約ヲ締結スル能ハストノ旨ヲ以テ、之ヲ大蔵省ニ伺出テ、此等ノ為メニ一時契約中止ノ姿トナレリ、此際又一方ニハ国立銀行ニ於テモ、現行条例第十二条ノ規定ノミニテ其営業ヲ継続シ得ヘキヤ否ヤニ就キ種々ノ議論ヲ生シ、或ル法律家ヲ招聘シテ其意見ヲ叩キタルニ、何分他ニ特別ノ法律ヲ設クルニアラサレハ其儘継続スル事ハ出来難カルヘシ、又散失紙幣利得ノ事ハ政府ニ帰スルモノニシテ、日本銀行ニ帰スルハ違法ナラントノ説ナリシカハ、曩ニ大蔵省ヨリ国立銀行ニ内示セラレタル紙幣消却方案モ殆ント其効ナキニ至リタリ、依テ此上ハ全国ノ銀行者相団結シテ以テ之カ善後策ヲ講スルノ外ナシト思ヒ、即チ東京ノ同盟銀行率先シテ各地ノ銀行者ヲ勧誘シ、玆ニ全国ヲ大別シテ最寄々々ヲ組合セ、関東、関西、九州、四国奥羽、北海道等数箇ノ団体ヲ作リタリ、而シテ関東ノ団体ハ其同盟ノ数五十三行ニシテ、即チ之ヲ関東銀行会ト称シ、明治二十六年十月始メテ東京ニ開会シテ大ニ討議ヲ尽シタルニ、或ハ延期ヲ請願スヘシト云フ者アリ、或ハ継続法案ノ発布ヲ望ムヘシト云フ者アリテ、議論容易ニ決セサリシモ、結局政府ニ於テハ本期ノ議会ニ継続法案ヲ提出セラルヘキ模様アレバ、暫ク其成行ヲ傍観スヘシト決シ、一ト先ツ閉会シタルガ、当時政府ニ於テモ未タ調査ノ行届カサリシ故ニヤ、終ニ議会ニ提出スルノ運ニ至ラスシテ止ミタリ、依テ本年四月関東銀行会ハ更ニ東京ニ開会シテ此事ヲ議シタルニ、政府ノ前期議会ニ提出セサリシハ、徒ニ責任ヲ免カルヽノ政略ナルヘケレハ、寧ロ此際延期ノ請願書ヲ差出スヘシトノ説頗ル勢力アリタレトモ、余カ曾テ渡辺大臣ニ面謁ノ際親シク聞ク処ニ拠レハ、大蔵省ハ決シテ責任ヲ免カルヽカ為メ該法案ノ提出ヲ見合ハセタル訳ニアラスシテ、次期即チ第六議会ニハ必ス提出スヘシトノ事ナリシニ付、此延期請願ノ事ハ今暫ク猶予スルヲ得策ナリト信スル旨ヲ熱心ニ主張シタルニヨリ、遂ニ多数ノ容ルヽ処トナリ、余ノ説ノ如ク議決シテ閉会ヲ告ケタリ
○下文明治二七年六月ノ条ニ続ク


銀行通信録 第九六号・第二六―三二頁〔明治二六年二月〕 関東銀行会第一回会議記事要略(DK060093k-0007)
第6巻 p.341-342 ページ画像

銀行通信録 第九六号・第二六―三二頁〔明治二六年二月〕
    ○関東銀行会第一回会議記事要略
明治二十六年十月廿三日(午後一時)ヨリ東京日本橋区坂本町東京銀行集会所ニ於テ本会第一回ノ会同ヲ開キ、同廿五日ヲ以テ閉会セリ、当日来会シタルモノハ総テ四十七行ニシテ、其人員七十一名、又事故アリテ参会セサルモノ四行ナリ、而シテ其会議ノ要領ヲ録スルコト左ノ如シ
      出席員
     東京第一国立銀行頭取   渋沢栄一 ○外七三名氏名略
        事故アリテ参会セサルモノ
    東京第五国立銀行       長野第六十三国立銀行
    徳島第八十九国立銀行東京支店 信濃信濃銀行東京支店
廿三日午後二時開会ヲ報シ、一同着席スルヤ、第一国立銀行頭取渋沢栄一氏ハ立テ曰ク、抑同一ナル条例ノ下ニ存立スル同業者相会シテ、互ニ業務ノ利害ヲ協議シ、其親睦ヲ需ムルハ、甚タ必要ノ事ニシテ、
 - 第6巻 p.342 -ページ画像 
又多年ノ宿望タリシカ、好機ニ会セサリシ為メ、未タ其設ケアラサリシカ、今回幸ニ各位ノ賛同ヲ得、五十有余ノ銀行此一堂ノ下ニ相会スルヲ得タルハ、実ニ満足ノ至ニ不堪ナリ、就テハ是ヨリ本会規程ヲ議定シテ後幹事銀行ノ選挙ヲ行フヘキ順序ナレトモ、先ツ此規程ヲ議スルニ当リ仮会長ヲ選挙セラレンコトヲ述ヘシニ、満場一致同氏ヲ推シテ仮会長タランコトヲ望ミタルヲ以テ同氏之ヲ承諾セリ


国立銀行営業延期始末 第廿一―廿三丁(DK060093k-0008)
第6巻 p.342-343 ページ画像

国立銀行営業延期始末  第廿一―廿三丁(渋沢子爵家所蔵)
二十、関東銀行会初回ノ協議 廿六年十月関東銀行会ヲ東京ニ開キ銀行紙幣消却ノ件ヲ協議スルニ当リ、会長渋沢栄一ハ紙幣消却ニ違算ヲ生セシ次第(四、五、八)又之ニ次キ廿三年九月東京同盟銀行ヨリ田尻銀行局長ヘ上呈シタル請願ノ趣旨(十二)並ニ其成行(十五)及ヒ営業年限延期請願運動決議ノ顛末(十六、十七)ヲ詳ニ報告シテ協議ニ移ルヤ、国立銀行条例第十二条ニ満期トナリタル時ハ、私立銀行トシテ其事業ヲ継続セシムトアレトモ、若シ一二ノ株主ニテモ継続ニ不同意ナルトキハ、其銀行ハ法律ニ基キ一旦解散ノ手続ヲ履行セサル可ラサルノ不幸ヲ蒙リ、之レカ為メ国家ノ経済ヲ紊乱スルニ至ルノ惨境ニ陥ルノ恐アレハ、断然営業年限ノ延期ヲ請フニ如カストノ説多数ヲ占メ、将ニ之ニ決セントスルノ傾向ナリシカ、会長ハ主務省ノ本件ニ対スル意向ヲ述ヘテ曰ク、当局者ハ私立銀行トナリテ営業ヲ継続スルニハ、株主多数決議ヲ以テ履行シ得ル所ノ特別ナル法律ヲ設ケ、以テ円滑ニ処理セシムル考案ニテ、目下該法律案ノ調査ニ着手シ、帝国議会ノ協賛ヲ経テ之ヲ実施セラルヽ計画ナリト云フ、依テ本会ハ暫ク其成行ヲ視テ時期ヲ待タンコト望ムト云フヤ、此旨趣ヲ新ニ動議トシテ提出スル者アリテ、種々弁論ノ末、暫ク其進行ノ状態ヲ観察シ、若シ政府案トシテ提出ニ至ラサルカ、又ハ提出セラルヽモ議会通過ノ見込ナキ時ハ、直ニ臨時会議ヲ開キ、其運動方法ヲ協議スヘキコトニ決了シタリ
廿一、国立銀行満期処分案ノ進行 前項関東銀行会ニ於テ会長カ報道セシ所ノ法律案ハ、十二月ニ至リテ其調査ヲ完結シ、既ニ内閣会議ヲモ通過シテ唯議会ヘ提出ノ時機ヲ待ツ而已ナリト聞キ及ヒシカ、不幸ニモ第五議会半途解散ノ厄難ニ際シテ提出ニ至ラス、各銀行ヲシテ失望セシメタリ、然レトモ当局者ハ第六議会ニハ必ス提出スルトノ明言モアレハ、今ハ唯第六議会開会ノ日ヲ待ツ而已ナリキ
廿二、関東銀行会第二回ノ協議 廿七年四月関東銀行会ノ会議ヲ開クヤ、会長渋沢栄一ハ前項ノ旨趣ヲ詳細縷陳シ、此ノ如キ事情ニ由リ荏苒今日マテ経過シタリシハ頗遺憾ノ次第ナレトモ、事実已ヲ得サルニ出テタルモノナレハ、暫ク第六議会ノ開会ヲ待タレンコトヲ希望スト云フヤ、或ハ第六議会ハ極メテ短期ナレハ縦ヒ該法案ヲ提出セラルヽモ、果シテ通過スヘキヤ否ヤ予知スヘカラサルヲ以テ、大蔵大臣ノ措置如何ニ関セス、進ンテ貴衆両院ヘ延期ヲ請願スヘシト論シ、或ハ暫ク其成行ヲ竢ツヘシト弁シ、審議商量
 - 第6巻 p.343 -ページ画像 
ノ後チ初回協議(廿)ノ如ク議会ノ進行ヲ窺ヒ、然ル後チ孰レニカ一決センコトニ評定シタリ


東京経済雑誌 第二八巻第六九八号・第六五二頁〔明治二六年一〇月二八日〕 関東銀行会の創立総会(DK060093k-0009)
第6巻 p.343 ページ画像

東京経済雑誌  第二八巻第六九八号・第六五二頁〔明治二六年一〇月二八日〕
    関東銀行会の創立総会
関東諸国の国私立銀行本店及支店五十一行の団結にて組織せられたる関東銀行会は、去る廿三日午後二時半より坂本町銀行集会所に於て其創立総会を開き、出席者は六十九名、仮議長は渋沢栄一氏、議案は関東銀行会規約草案にて即坐に原案に決し、規約第四条に依りて幹事銀行を選挙し、第一・第三・第十五の三銀行当選し、互選を以て本期の幹事は第一国立銀行頭取渋沢栄一氏に決定し、少憩の後、再び開議し京浜同盟銀行より提出せし銀行条例第五条削除の件を議したるに○下略
  ○明治二十三年九月十二日及ビ明治二十七年六月ノ項参照。
  ○関東銀行会加盟銀行ハ本店四十一行支店九行ニシテ、東京銀行集会所加盟銀行全部ヲ包含ス。
  ○関東銀行会明治二十六年十月二十三日ノ項参照。



〔参考〕国立銀行営業延期始末(DK060093k-0010)
第6巻 p.343-345 ページ画像

国立銀行営業延期始末          (渋沢子爵家所蔵)
十九、奥羽北海同盟銀行延期請願ヲ決議ス 廿六年十月奥羽北海同盟銀行ハ仙台ニ会合シ、紙幣消却ノ違算ヨリ生セシ各国立銀行ノ蒙ルヘキ損粍ヲ償ハンカ為ニ営業年限延期請願ヲ為サンコトニ議定シ、而シテ延長ノ年限及運動ノ方法等ハ全国々立銀行ノ大会ヲ東京ニ開キ、其議決ニ従ハントノ旨ヲ全国々立銀行ニ飛檄シテ其同意ヲ要請ス、其文書左ノ如シ
   謹啓益御清栄奉賀候、陳者国立銀行営業満期ノ後発行紙幣消却ノ方案ニ就テハ全国同業者ノ夙ニ苦心考慮スル所、特ニ目下ニ至リテハ実ニ経済社会ノ一大問題トナリ、其措置ノ如何ハ満天下ノ注視スル所タリ、抑我邦国立銀行制度ノ由来ヲ案スルニ、国家創業ノ時ニ当リ幣政整理《(制)》ノ機関トシテ創始セラレタルモノ爾来此機関カ国家ニ致シタルノ効績決シテ些少ナリトセス、サレハ政府モ特ニ恩典ヲ加ヘ、之ヲ保護シテ其始終ヲ完フセシムルハ当ニ尽スヘキノ任務ナリト云フヘシ、然ルニ明治十六年国立銀行条例ノ改正アリ、当時大蔵卿ノ諭示セラレタル紙幣消却法ハ今日齟齬シテ予算ト大ニ異ルモノアリ、一歩誤レハ全国百五十有余ノ国立銀行将ニ不幸ヲ蒙ル不尠ラントス、之レ豈須臾モ黙過スヘキノ時ナランヤ
   蓋明治十六年紙幣消却ノ方法ヲ条例中ニ制定セラレタル当時ニハ、公債ノ時価今日ノ如ク貴カラサリシヲ以テ、政府当路者ノ見込ニハ営業満期マテニハ予算ノ如ク能ク発行紙幣ヲ消却シ了ルヘシト信シタルモノノ如シ、然レトモ市価ハ不定ニシテ変動常ナク、固ヨリ永ク十六年ノ相場ヲ保持スヘキニアラス、以後経済界ノ変遷ニ従テ公債価格ノ騰貴ヲ呈シタル今日ニ於テハ紙幣消却ノ特典殆ト無効ニ属セントシ、而シテ営業継続ノ既得権独リ喪失ニ帰シタルノ状アリ、且国立銀行設立ノ歳月既ニ遠キ
 - 第6巻 p.344 -ページ画像 
モノハ数年ヲ経スシテ将ニ其営業満期ニ達セントシ、発行紙幣ノ消却亦同時ニ結了セサルヘカラス、之レ実ニ十六年改正条例ノ強制スル所ナレハナリ、即チ紙幣ノ消却蓋難渋ナラサルヲ得ス、加之一方ニハ近来巨額ノ公債償還アリ、不幸ニシテ消却元資ノ公債ニ当籤スルニ際シ、若シ低利公債ヲ市場ニ買ハンカ市価ヲ攪乱シテ計劃スヘカラサルニ至ルノ憂アリ、買ハスシテ徒ラニ之ヲ庫中ニ積ミ置クトキハ利子ヲ生セス損耗トナルノ恐アリ、爰ニ至テ国立銀行ノ不幸極マレリト云フヘシ
   国立銀行目下ノ境遇其困難不幸ヲ重ヌルコト実ニ右ノ如シ、宜ク今日ニ於テ之カ救済ノ策ヲ講セスンハ独リ国立銀行ノ困難ニ止マラス、延テ国家経済上ニ如何ナル禍害ヲ生出スルニ至ルヤヲ知ルヘカラサルモノアラントス、是レ各国立銀行ニ於テ憂慮措カサル所以ナリ、思フニ紙幣消却ノ方法ニ就テハ各行ノ講究熟計セラレタルモノアルヘク、且ツ聞ク所ニヨレハ大蔵省ニ於テモ深ク国立銀行ノ始末ニ苦慮スル所アリ、各国立銀行ト日本銀行トノ中間ニ立チ頻ニ斡旋ノ労ヲ執リ、昨今其考案中ナリト云ヘハ果シテ之カ発表ノ後如何ナル名案妙策ノ出ルヲ知ルヘカラスト雖トモ、今回仙台ニ開キタル我奥羽北海銀行同盟会ニ於テ考究セシ所ノ意見ニヨレハ、今日ノ場合到底他ニ名案ヲ発見スル能ハス、要スルニ営業年限延期請願ヲ出スハ実ニ目下ニ処スル穏当ノ策ナルヘキヲ議決セリ、蓋シ国立銀行目下ノ境遇ヤ其不幸ハ、各自ノ過失ヨリ拓キタル結果ニアラス、全ク政府法令ノ変更ニ生シタルノ禍ニ外ナラス、此際種々ノ考案ヲ立ツル者アリト雖トモ必竟一時ノ弥縫策タルヲ免カレス、若シ強テ之ヲ施行セントスレハ必ス経済社会ニ劇変ヲ与フヘシ、試ミニ思ヘ、今後数年間ニシテ全国百五十有余ノ国立銀行一時ニ営業満期ニ達シ、各自区々ノ方針ヲ執ル如キアラハ其結果如何ナルヘキヤ、僅ニ一小銀行ノ存廃ト雖トモ、尚一般ノ経済界ニ向テ其及ボス所ノ影響狭隘ナラサルモノアリ、況ンヤ大小百数十ノ銀行一時ニ其内部ノ組織ニ劇変ヲ致スニ於テオヤ、其結果遂ニ海内ノ大恐慌ヲ醸スニ至ルヘキハ必セリ、或ハ説ヲナス者云ク、国立銀行営業満期ノ後ハ直ニ私立銀行トシテ其業務ヲ継続スレハ即チ可ナリト主張セリト雖トモ、抑モ之レ国立ト私立ノ区別ヲ知ラサルノ議論ニ過キス、若シ夫レ既ニ国立銀行ノ営業満期ニ達シ、更ニ私立銀行ノ業務ヲ営マント欲セハ、其組織ヲ改メテ新設セサルヘカラス、固ヨリ継続業務ト其性質ヲ異ニセリ、故ニ此新旧変更ノ時ニ際シ株主中一二ノ異議者アレハ実際ノ利害得失如何ヲ顧ミルニ遑ナク、一ト先ツ銀行ノ全体ヲ解散スルノ必用ニ遭遇スヘシ、其解散ニ伴フノ結果ハ必ス経済界ニ一大紊乱ヲ生セサルヲ得ス、銀行中二三ノ狼狽ハ直ニ一般ノ大恐慌ヲ惹起スルノ導火タルナキヲ知ランヤ
   之ヲ要スルニ、今日ノ策ハ国立銀行ニ営業延期ヲ許可スルヲ以テ最モ穏当ナリトス、延期ハ内外ニ向テ毫モ弊害ヲ生スルノ憂ナク、未然ニ恐慌ヲ防キ、危険ナル時期ヲ平滑ニ経過セシメ、
 - 第6巻 p.345 -ページ画像 
而シテ各国立銀行ヲシテ徐々其紙幣消却ヲ得セシムル所以ナリ若シ国立銀行ヲシテ国家ノ長物ナラシメハ即チ止ム、苟モ然ラスシテ文明ノ一大機関タル以上ハ其国家ニ欠クヘカラサルハ毫モ鉄道、郵便、電信等ノ制度ニ譲ルヲ見ス、一朝国立銀行廃止ストモ銀行ノ用ハ遂ニ一日モ廃止スヘカラス、夫レ国立銀行ハ実ニ国家ノ重要機関ナリ、豈軽々ニ其制度ヲ劇変シテ経済社会ノ大紊乱ヲ醸出セシムヘケンヤ、思フニ政府亦固ヨリ之カ延期ヲ拒ムノ理由ナカルヘシ、請フ見ヨ彼ノ米商会所ト云ヒ株式取引所ト云ヒ、其存廃ハ単ニ少数ナル株式等ノ栄枯ニ関スルニ止マル者ナレトモ、尚ホ其局ニアル者苦情ヲ鳴セバ、政府ハ容易ニ彼等ニ営業延期ヲ許可シタルニアラスヤ、今夫レ国立銀行ノ国家ニ大関係ヲ有シ、社会大多数ノ利害休戚ニ大関係アルハ固ヨリ米商会所、株式取引所等ト同日ノ論ニアラス、然ルヲ独リ国立銀行ニ向テ延期ヲ拒ムノ理由アルヘケンヤ、加之国立銀行ヲシテ目下ノ境遇ニ立至ラシメタルモノ其責任実ニ政府ニアリ即チ今日ニ在リテ営業延期ノ許可ハ政府ノ敢テ辞スヘカラサルノ義務ナルヘキヲ確信スル所ナリ
以上ハ我同盟会ノ卑見ニシテ、期スル所ハ全図各国立銀行ト共ニ紙幣消却ノ困難ヲ免レ、秩序的ノ方法ニヨリテ自然ノ変革ヲ成就セントスルニアリ、而シテ延期年限及運動方法等ニ至テハ、至急全国々立銀行ノ大会ヲ東京ニ開キ其議決ニ従ハントス右本会ノ卑見御聴容被下御協賛ヲ仰度此段得貴意候也
            奥羽北海同盟銀行幹事
            仙台第七十七国立銀行
   明治廿六年十月十五日       頭取 遠藤敬止