デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2020.3.6

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

1章 金融
1節 銀行
6款 択善会・東京銀行集会所
■綱文

第6巻 p.408-418(DK060120k) ページ画像

明治30年3月15日(1897年)

是ヨリ先、金貨本位問題ニ付キ建議アリ、栄一委員ノ一人トシテ之レガ調査ニ当ル。而シテ政府ヨリ議会ニ貨幣法案提出セラルルヤ之レガ修正意見ヲ作成シテ提出ス。此日右ノ修正意見ハ終ニ不成立ニ終リタル旨ヲ報告ス。


■資料

集会録事 自明治二十六年一月(DK060120k-0001)
第6巻 p.408-410 ページ画像

集会録事 自明治二十六年一月  (東京銀行集会所所蔵
    ○第百六十九回定式集会録事
明治三十年二月十五日午後四時ヨリ同盟銀行第百六十九回定式集会ヲ開キ来会スルモノ二十四名ナリ
○中略
是時渋沢会長出席会長席ニ着キ、池田謙三氏ノ建議ニ係ル金貨本位問題ニ付協議ヲ為シ、結局本件ハ吾々銀行者ニ最モ密接ノ関係ヲ有シ其影響スル所少ナカラサルヘキヲ以テ銀行者ニ及ホス影響如何ヲ至急調査スヘキ事ニ決シ、而シテ其委員ハ会長ノ指名ヲ以テ左ノ諸氏ヘ委托セリ
  渋沢栄一君   豊川良平君    原六郎君
  大谷嘉兵衛君  高橋是清君    池田謙三君
  福住英勇君   波多野承五郎君  佐々木慎思郎君
      当日出席者
           第一   渋沢栄一君 外二二名氏名略
    ○臨時集会録事
明治三十年三月六日午前九時ヨリ同盟銀行臨時集会ヲ開キ来会スルモノ総テ二十七名ナリ、是日客員トシテ日本銀行理事山本達雄氏臨席セラレタリ
渋沢会長ハ会長席ニ着キ前会委員ニ付托セラレタル貨幣問題調査ノ件
 - 第6巻 p.409 -ページ画像 
ハ爾後再三審議ヲ経タレトモ事重大ニシテ時日ヲ要スルカ故、審議ノ上更ニ協議スル所アルヘシト雖差向政府ヨリ議会ヘ提出セラレタル貨幣法案ニ対シ修正意見ヲ具シ臨時開会シタル所以ナリト、委員会ノ要領ヲ報道シテ之ヲ協議ニ付セシニ、大体異議ナシト雖第一項二十五銭銀貨新造ニ付テハ其便利ナルヲ認ムト雖従来ノ二十銭貨ト其容量大差ナカルヘキヲ以テ之ト混交誤用ノ恐レアルヘシ、又第二項補助銀貨ノ品位ヲ引落ス時ハ之カ為メ物価騰貴ヲ来スノ恐ナキヤノ懸念ヲ抱キシモノアリシカ、二十五銭貨新造流通スルニ至レハ二十銭貨ハ自ツカラ世人ノ嫌忌スル所トナリ其流通減少スヘシ、現ニ米国ニ於テ二十仙ヲ不便トシテ二十五仙ノ行ハルヽモ其一例ナレハ敢テ懸念スルニ及ハサルヘシ、又品位ヲ引下クルトキハ物価騰貴ノ恐アリト云ヘトモ元来補助貨幣ハ人為ヲ以テ其価格ヲ維持スルモノナレハ金銀比価ノ類ニアラス、例ヘハ現今流通スル白銅貨ノ如キ三十五円ノ地金ヲ以テ百円ノ通貨ヲ製造シ得ルニ拘ハラス事実上之ヲ厭忌スルモノナキヲ見テモ知ルヘキナリト委員ノ説明アリシヲ以テ、総テ原案ノ如ク決定セシヲ以テ帝国議会該法案特別委員ニハ渋沢栄一、高橋是清ノ両氏ヨリ交渉シ、且ツ貴衆両院議員ヘ参考ノ為メ右意見書ヲ送致スヘキコトニ決セリ
(別紙)
今般政府ヨリ提出セラレ候貨幣法案ニ付、本日当集会所同盟銀行ニ於テ決議致候修正意見左ノ通ニ御座候間、御参考ノ為メ御一覧可被下候
                            敬具
  明治三十年三月六日           東京銀行集会所
     貨幣法案中修正意見
一同法第三条第二項銀貨幣ノ種類中「五十銭」ノ次ニ更ニ
 「二十五銭」ノ一種ヲ加フル事
     理由
 二十五銭銀貨ナキトキハ二十五銭ノ受授ニ十銭又ハ二十銭銀貨及ヒ銅貨ヲ混用セサルヲ得スシテ公債ノ利払其他公私一般ノ受授ニ不便甚タ多シ、現ニ米国ニ於テ二十五仙銀貨ノ世間ニ珍重セラルヽノ事実ニ徴スルモ、此二十五銭銀貨ノ便利ナルヲ証スルニ足レリ、且白銅貨ハ贋造ノ恐レ多クシテ成ルヘク其流通高ヲ減スルヲ得策トスル所ナルカ、今二十五銭銀貨発行セラルヽトキハ為メニ五銭貨幣ノ需要ヲ減スルコト大ナレハ随テ白銅貨ノ鋳造ヲ節スルヲ得ヘシ
一同法第六条第四項ヨリ第六項マテノ補助銀貨ノ量目ヨリ算スレハ、金一銀二十八、七五三六ノ割合ニ当ルト雖モ之ヲ金一銀二十四ノ割合ニ修正シ、即チ各銀貨ノ量目ヲ左ノ通リ定ムル事
  (四)五十銭銀貨幣 三匁(十一「グラム」二四九九)
  (五)二十五銭銀貨幣 一匁五分(五「グラム」六二五)
  (六)二十銭銀貨幣 一匁二分(四「グラム」五)
  (七)十銭銀貨幣 六分(二「グラム」二五)
     理由
 原案ノ割合ニテハ補助銀貨ノ実価多キニ失スルノ恐アルカ故ニ銀塊一「オンス」ノ相場三十三片以上ニ騰貴スルトキハ、補助銀貨ハ鎔解又ハ輸出セラレテ漸ク市場ニ跡ヲ絶ツニ至ラン、抑モ補助銀貨ハ
 - 第6巻 p.410 -ページ画像 
常ニ適度ノ額ヲ維持スルヲ至要トシ過不足共ニ大弊アリ、而シテ今日銀塊相場ハ二十九片台ナレトモ他日三十三片台ニ騰貴スルハ其必無ヲ保スヘカラサレハ、若シ前述ノ如ク補助銀貨ノ鎔解輸出セラルルニ会セハ日常ノ小取引ハ殆ト貨幣ヲ失フニ至ルヘシ、是レ適当ノ修正ヲ加ヘ以テ其鎔解輸出ノ恐レヲ防カサルヘカラサル所以ナリ
 右ノ修正ヲ行フトキハ其結果トシテ同法第十条第二項銀貨幣ノ公差ヲ修正スルヲ要ス
一同法第十六条ヲ左ノ通リ修正スル事
 第十六条 従来発行ノ一円銀貨幣ハ此法律施行ノ日ヨリ其通用ヲ禁止シ、政府ハ金貨幣一円ノ割合ヲ以テ之ヲ引換フヘシ、右通用禁止ノ日ヨリ起算シ満一個年内ニ引換ヲ請求セサルトキハ爾後地金トシテ取扱フヘシ
     理由
 金貨本位ヲ施行シ尚ホ当分一円銀貨ヲ無制限法貨トシテ通用セシムルトキハ其間ハ有制限ノ複本位ヲ行フニ外ナラス、而シテ此一円銀貨ハ金一銀三十二余ノ割合ヲ以テ金貨ト交換シ得ルノ保証アルモノナレハ、尋常ノ銀塊ニ優リタル一種ノ商品ヲ造ルモノト云フヘシ、故ニ該銀貨ノ所有者ハ銀価ノ下落シタル場合ニ非サレハ其引換ヲ請求セサルヘシ、斯カル場合ニ之ヲ引換フルハ政府ノ損失ナリ、若シ又銀価騰貴スレハ該銀貨ノ引換ヲ請求スルモノナキカ故ニ、政府ハ補助銀貨ノ材料ヲ得ンカ為メニ騰貴セル銀塊ヲ購入サセルヘカラサルノ不利アリ、而シテ該銀貨ノ通用期限長キニ従テ政府ニ損失ヲ招クノ危険益々大ニシテ、且其通用ハ金貨本位ノ鞏固ヲ害スルモノアリ、是レ本文ノ修正ヲ至当トスル所以ナリ
一同法第十七条「従来発行ノ」ノ下ニ「五十銭銀貨幣二十銭銀貨幣十銭銀貨幣」ノ十七字ヲ挿入スル事
     理由
 是レ前述ノ如ク金一銀二十四ノ割合ニ従ヒ補助銀貨ヲ修正スルノ結果ニ外ナラス


明治財政史 第一一巻・第六〇八―六六六頁〔明治三八年一月一八日〕(DK060120k-0002)
第6巻 p.410-418 ページ画像

明治財政史  第一一巻・第六〇八―六六六頁〔明治三八年一月一八日〕
今貨幣法案ニ対シ衆議院本会議ニ於ケル議員ノ賛否及修正意見ヲ挙クレハ左ノ如シ
○中略
    修正ノ一(第二読会ニ於テ小坂善之助)
私ハ此銀貨幣ト云フ弐拾銭銀貨ヲ弐拾五銭ニ改メル意見ヲ出シマス、此弐拾五銭ノ銀貨ノ必要ト云フコトハ既ニ東京商業会議所、銀行集会所、横浜商業会議所等カラ意見カ出テ居リマス、是ハ実際此商業上ノ取引ニ於テ最モ必要ナ貨幣ト私共ハ認メテ居ル、是ハ委員会ニ於テモ其事ハ述ヘマシタケトモ、多数ヲ得ナイテ否決トナリマシテコサイマスルデ甚タ遺憾ノコトヽ思ヒマス、弐拾銭ノ銀貨ハ即チ此拾銭ヲ二ツテ間ニ合フコトニナリマスケレトモ、弐拾五銭ト云フコトニナリマスルト、之ニ白銅一ツ加ハルト云フヤウナコトニナル、此今世ノ中ニ在ル所ノ貨幣ノ中テ贋造ノ一番多イモノハナンテアルカト云フト、五銭
 - 第6巻 p.411 -ページ画像 
ノ白銅テアル、此贋造ノ多イ所ノ白銅ト云フモノハ成丈世ノ中ニ少ナクシタイト云フ考ヲ私共持ツテ居ル、此ノ東京銀行集会所等カラハ弐拾銭ノ外ニ弐拾五銭ヲ加ヘルト云フ意見カ出テ居リマス、弐拾銭ト弐拾五銭ト云フモノヲ二ツ世ノ中ニ流通サセルヤウニスルト誠ニ紛ラシイコトニナリマスカラ、私ハ弐拾銭ト云フモノハ廃シテ、更ニ弐拾五銭ト云フ銀貨ヲ鋳造スルト云フコトカ宜カラウト思フノテス、ドウカ此弐拾五銭ノ貨幣ヲ拵ヘルト云フコトニ諸君ノ御賛成ヲ得タイモノト思ヒマス
    修正説ノ二(第二読会ニ於テ阿部興人)
本員ハ第六条中ニ修正ヲ致シタイト云フ意見テアリマス、修正ハ如何テアルカト申シマスレハ此四ノ五拾銭トアリマス下ニ四ノ「五拾銭銀貨幣三匁五分」ノ処之ヲ三匁、ソレカラ括弧致シマシテ十一「グラム」二五、ソレカラ次ニ五ノ処「弐拾銭銀貨幣一匁二分四厘「グラム」五其次ニハ拾銭銀貨幣六分二「グラム」二五、斯様ニ修正カ致シタイト云フ訳テコサイマスデ固ヨリ本員ハ御承知ノ通金貨本位ヲ望ムノテアリマス、サウシテ此修正ヲ持出スト云フ者ハ希望ノ金貨本位制ヲシテ鞏固ノ上ニモ益々鞏固ナラシメント欲シマスル希望ヨリ出テルコトテアリマス、御案内ノ如ク本案ノ割合ト申スハ即チ本位ト補助貨トノ割合ハ金一銀二十八、七五強ニナツテ居リマス、然ルニ唯今申述ヘマシタ如クニ改メマスルト金一銀二十四ノ割合トナルノテコサリマス故ニ是ヨリ必要ト認メマシタ理由ヲ述ヘマスニ当リマシテハ、一々五拾銭若クハ弐拾銭拾銭ノ量目ヲ申スヨリハ、矢張唯今申シタ金一銀二十四ト云フコトニ一括シテ申述マス、何故ニ斯様ナ必要カアルカ、ナセ此改正ヲ望ムヤト申シマスレハ、本案ノ如キ二十八七五ト申スルハ此金一ニ対シマスレハ僅ニ今日一割内外ノ開キホカナイノテコサリマス、テ御案内ノ如ク此法ヲ改正致シマシテモ即今通用致シテ居ル所ノ六千万円モアル所ノ壱円銀此壱円銀ノ所ニ比較シテ見マスレハ矢張補助貨ト申スルハ僅ニ一割ホカ間カ開イテ居ナイノテコサリマス、又今申シタ壱円銀ニ比較スルノ外ニ今一ツ即今ノ倫敦ノ銀相場ト比較シテ見マスルト、即チ即今ノ銀相場ハ倫敦ニ於テハ金一銀三十二強ニ居リマス此世界ノ金銀ノ大市場ナル倫敦ノ相場ニ比較シテ見テモ僅々一割ノ開キホカナイノテコサリマス、又モウ一ツ取ツテ見マスレハ今年一月ノ此平均相場金銀ノ此価ハ幾ラテアツタト申シテ見マスレハ、金一ニ対シテ銀カ三十一、二七弱テコサイマス、之ニ比シテ見マスルト又前ノ二例ヨリハ開キカ少ナウコサリマシテ、僅ニ百分ノ九強ホカ隔ツテ居リマセヌノテコサリマス、モウ一ツ確メテ見マスレハ我邦ノ明治二十五年ヨリ昨二十九年十二月マテノ此五年間ノ毎月ノ平均ヲ取ツテ見マスレハ、銀ノ価ヲ申スレハ金一ニ対シテ二十、〇一ニ居リマステ此五箇年ヨリ平均ヲ取ツテ今日此法案ニアル所ノ補助貨ニ較ヘテ見レハ、却ツテ補助貨ノ位地カ逆ニ居リマシテ、却テ銀ノ方カ補助貨ノ銀分ノ下ニ居ルト云フコトニナツテ居リマス、全ク補助貨ヲ定ムルノカ反対ノ位地ヲ現シテ来テ居ルト云フ有様テコサイマス、デ即今ノ相場ニ比シ此法律ニ比シテ僅カ一割若クハ一割以内ノ開デシテ、今申ス二十五年以来昨年末マテノ平均ニ比スレハ却テ反対ニ百分ノ五以上ノ開キヲ
 - 第6巻 p.412 -ページ画像 
持ツテ居ルト云フ割合テコサイマス、カヤウナ有様テコサイマスレハ本案ノ如ク致シ置キマスレハ一朝僅ニ銀ノ相場カ騰貴致シマシテ僅ニ一割若クハ一割少シ以上ニナリマシタラ如何ナ有様ヲ呈スルテアラウカ、カヤウニ見マスレハ却テ其時ニハ変ナ有様テ補助貨カ本位ニ比シテ又良貨トナツテシマフ、両本位ノ時ニ良貨カ悪貨ヲ逐フト云フコトハアリマスカ、遂ニ補助貨カ却テ本位金貨ヲ逐フト云フヤウナ奇観モ出来ヌトハ申セヌコトテアリマス、全ク本末位地ヲ変動スルコトハナイトハ申サレマセヌト心配致シマスルノテコサリマス、若シ一朝ニ左様ナコトカアツタト致シマスレハトウナルカト申シテ見マスレハ補助貨ハ直チニ海外ニ吸収サレテシマフト云フコトハ明カニ出来ルコトテアラウト思ヒマス、又啻ニ海外ニ吸収セラレルノミナラス内国ニ於テモ早速鋳潰サレテシマフト云フ結果ヲ来スト云フコトハ是亦明ナル事実テアラウト思ヒマス、内国テ鋳潰サレルハ未タ内国ニ残ツテ居レハ強ヒテ申セハ尚ホ可ナリテコサリマス、海外ニ飛去ルト云フコトニ至ツテハ恐ルヘキコトヽ本員ハ思フノテアル、其時ニ至リマスレハ政府ハ高イ地金ヲ買ヒ、高キ造幣ノ材料ヲ買フテ手数ヲ掛ケテ補助貨ヲ鋳造スレ、補助貨カ造幣局ノ門外ニ出ルヤ否ヤ直ニ地金ニ変ヘル鋳潰サレルト云フコトニナラウト思ヒマス、其時ニナリマスレハ国家ノ直接ノ損害ト云フモノハ非常ニ多クナルノミナラス、又民間ノ不便ト云フモノハ更ニ大ナルモノト思フノテコサリマス、如何トナレハ補助貨ニ打歩ヲ出シテモ求メナケレハナラヌト云フヤウナ大奇観カ或ハ生スルカモ知ラヌノテアリマス、幾ラ斯ウ定メテ置イタ以上ハ補助貨ニ不自由ヲ感シタト申シテモ補助貨ヲ鋳造セスニハ置カヌテ矢張尊ク材料ヲ買フコトハ損ヲ致シテモ買ハナケレハナラヌト云フコトニ至ラウト思ヒマス、カヤウナ危険ニ瀕シハシナイカト云フ法ヲ今日制定致シテ置キマスヨリハ、此貨幣ノ条例ヲ改メルニ際シテハ寧ロ勇気ヲ奮ツテ共ニ此事ヲ改正致シタラヨカラウト云フ望テコサリマス、デ或ハカヤウナ論カコサリマセウ、此大抵補助貨ノ開キト云フモノハ何レノ国ノ貨幣制度ニ見テモ一割、若クハ一割以内ニ居ル、然レハ我邦ノ今日ノ定メ方モ其例ニ依ツタラハ何モ差支ハナイテハナイカト云フコトモコサリマス、是ハ少シ弁シテ置カナケレハナラヌコトヽ思ヒマス、如何トナレハ其一割位ノ現在諸国ニ行ハレテ居ル開キト云フモノハ、今日ノ制定ニ方ツテ致シタモノテナイ、吾々以前昔ニ致シタモノタカラ其時ニ取ツテハソレテ宜カツタノテアル、其旧套ヲ踏襲シテ今日ニ至ツテモ諸国カソレテアルカラ我邦モ此改良スヘキ時機ニ遭遇シタニモ拘ラス矢張昔ノ如キ有様カ宜シイテハナイカト云フコトハ、是又少シク以前ニ拘泥シ過キテ世ノ変転シテ行クト云フ時機ヲ知ラヌモノテアラウト思ハレル、デナセ以前ハサウ云フコトテ置イタカト申セハ、以前置イタノハ其時ニ理窟カアツタノテ、又今日以前ニ拘ラズ変ヘナケレ《(ハ脱)》ナラヌト云フノハ、本員ノ考ヘル所テハ固ヨリ必要ト認メル箇条カアル試ニ西洋ノ紀元千七百零一年以来千八百七十五年此百七十年間千七百零一年ノ頃ハ御承知ノ通日本テ元文小判ヲ鋳タ時分ノコト元禄―アノ元禄小判ノ改正ト相前後シテ居ル時テコサリマス、殆ト同一ト云フテモ宜シイ時期、ソレカラ又千八百七十五年ト申スト日本ノ現行ノ貨幣
 - 第6巻 p.413 -ページ画像 
条例ヲ制定シタト殆ト同時テコサリマス、此千八百七十五年マテ百七十五年間ノ長年間ハ金銀ノ価ハ世界テ如何ノ有様テアツタト云フ事ヲ調ヘテ見マスレハ、大凡此価ハ金一ニ対シテ銀十五、二一ソレヨリシテ金一銀十五、九八誠ニ殆ト一定ト云フテモ宜シイ其僅ナ間ヲ昇降シテ居リマシタ、世人モ此金ト銀トノ価ハ一定不動ナモノテアルト云フ観念ヲ抱イテ居ツタ位テコサリマス、固ヨリ此長イ年期ノ間ヲナセ斯クアツタカト申セハ是ニハ種々ナ原因カコサリマセウ、其一二ノ例ヲ挙ケテ見マスレハ或ハ金銀ノ産出ノ方法カマダマダ進ンテ居ラナカツタ其採掘上ニ於テ進マナンダヨリシテ出ル所ノ量カ殆ト一定シテ居ツタト云フコトモアリマセウシ、又貨幣制度ノ各国デ採ル所カ区々ニナツテ居ルト云フ事モコサリマセウシ、又或ハ国ト国トノ間ノ交通カ限ラレテ、今日ノ如ク金銀領国ナシト申シテ水ノ流ノ如ク互ニ相平均スルト云フコトモナカツタ、カヤウナコト其他種々ナ原因ヨリシテ此長時間一定ノモノニシテ世人モ金銀ノ間ニハ動キカナイモノテアルト云フ観念ノアツタ次第テアルト思ヒマス、故ニ其間ニ於テ一割違ヒテ置ケハ危険カナイト感シタノモ殆ト無理ナラヌ事テアルト本員ハ信スルノテアル、然ルニ其後ノ有様ハ如何テアルカ、誠ニ調ヘテ見マスレハ千八百七十六年ニハ前ニ申シタ金一銀十五、九八カラ銀ハ大ニ下落シテ十七、八八トナリテ参リマシタ、又其後五年千八百八十一年ニハ十八、一六トナツテ居ル、又千八百八十六年ニハ二〇、七八トナツテ居リマス、尚ホ五年経過致シマシテ千八百九十一年ニハ二〇、九二トナツテ居リマス、尚ホ最近ノ千八百九十六年ニハ三十一、六一ト斯フ大開キヲシテ居ル、初メ五年間ニハ一割若クハ一割少シ以上ノ相違ヲ致シテ居リマシタカ、最近ノ処ニ至リマシテ五年間ニ四割以上ト云フ変動ヲ来シテ居ルノテアル、然レハズツト昔ニ於テ一割ノ開キテ安心シテ居ツタ時節ハ遠クノ昔ニ通リ越シテ、今日ノ時代ハ此通ノ大変動ヲ来シツヽアルノテアリマス、下落既ニ此ノ如ク致シマシタナラハマタマタ下落スルテアラウト云フ見込モコサリマス、又此反対ニ考ヘテ見マスレハ下落カ此通リテアレハ此一朝反動カ来ツテ騰貴スルコトモ決シテナイコトモナイト言ハレヌノテコサリマス、若シ此通リノ大変動カアル以上ハ一度反対ヲ現シテ来タト云ヘハ一割ハ愚カ、二割ノ変動ヲ来スト云フコトハ決シテナイトハ断言カ出来ヌノテアリマス、然レハ今日ニ制定スルニ当ツテ以前ノ法ヲ踏襲セスシテ宜シク本位ヲシテ安心ノ位地、即チ補助貨ノ開キヲ十分ニシテ置イテ補助貨ノ変動ノ為ニ本位ヲ侵サルヽト云フコトノナイ様ニ致シテ置クト云フコトハ宜シク今日ニ慮ツテ置クコトカ必要テアラウト考ヘマス、之ニ就テ田口君ハ色々ノ論ヲ引カレマシテ昨日ノ委員会若クハ今日ノ本会ニ於テモ此事ヲ申サレマシタケレトモ、蓋シ是ハ本位ト云フコトヽ或ハ本位ノミナラス両本位ト云フヤウナ考抔カ一緒ニ集合シテ居ルノテハアリマスマイカト本員ハ思ヒマス、昨日田口君ハ一割ノ差カ恐ロシウシテ二割ニスルト云フノハ五十歩百歩タト言レマシタガ、此ノ譬ハ玆ニハ当ルマイト思ヒマス、試ニ田口君ノ説カラ譬ヲ取ツテ見マシテ玆ニ海岸ニ漁夫ノ住居カアルト御覧ナサイ、其漁夫ハ御承知ノ如ク海ニ密接ノ稼ヲシテ居リマスカラ海ト余リノ隔リニハ居ラレマセン、其海ナル
 - 第6巻 p.414 -ページ画像 
モノカ数年間平カテ池ノ如キ海テアル、然ルニ一朝其トウカシテ潮流ノ塩梅若クハ隔リカ少ナクテ大変激浪ヲ惹起スト云フコトニナツテ家ヲ移サナケレハナラヌ場合ニ、或ハ今マテハ百間ノ隔リカドウシテモ二百間ノ隔リヲ取ラナイテハ安心テナイト致シマシテ移ルニ当ツテ、田口君ノソレハ怖ハケレハ山ノ奥ニ這入ツテシマヘト云フ議論ハ極端ナル話テアラウト思フ、山ノ奥ニ這入ルト海トノ関係ヲ絶タナケレハナラヌ、漁夫トシテ海トノ関係ヲシテ一方ニハ関係ノコトヲ絶ツコトカ出来ナイ、一方ニ安全ヲ保タウト思ヘハ百間ノ位地カ危ウカツタラ二百間ヲ保タウト云フコトハ蓋シ智者ノコトテアラウト思ヒマス、ソレヲ啻ニ一割テ怖ハイカラ二割開ケルノハ五十歩百歩タト云フハ、漁夫ニ山ニ往ツテシマヘト云フト同シコトテ、本員ノ一向解セヌコトテアリマス、此事ハ長ク弁スルニ及ヒマセス、蓋シ田口君ノ比例ニ云フモノハ極端ナル事ヲ取ラレタノテ、我自説ヲ確メルカ為ニ強ヒテ取ラレタ説テアルト本員ハ考ヘルノテアル、啻ニ本員カ斯ク危険ナリト感スルノミナラス、当局者モ蓋シ危険ヲ感シテ居ルノヲ認ムルノテアル如何トナレハ委員会ニ於テ本員カ之ニ関スル質疑ヲ起シマシタ際ニ、政府委員ハ弁シテ申シマスニ左様ナ事モ絶無トハ言ハレマスマイガ、今日ハ金ノ大勢ハ下落ニ傾イテ居ル間ハ絶無トハ言ハレヌ、若シ左様ノコトニ一朝遭遇シタトキハ補助貨ヲ改鋳スルヨリ他ニ仕方カナイ、如何ニモ左様ナコトニ遭遇スレハ改鋳スルヨリ仕方ハアリマスマイ、併ナカラ其懸念カアルナラハ何ソ今日此法ヲ改メルニ当ツテ改鋳セサル、惟フニ当局者モ此改鋳ハ其必要即チ漸次危険ヲ避ケテ置クト云フコトハ心配サレテ居ルノテコサイマセウケレトモ今日現在流通致シテ居ル所ノ弐千弐百万円ト云フ所ノ補助貨ヲ一朝ニ改メルノカ困難ト云フコトカ一ツ考ニ浮ンテ居ルテアラウト思フ、併ナカラ弐千弐百万円ノ補助貨ハ如何ニモ少数ナル額トハ申サレマセヌカ、此度此法案ヲ行フタナラハ補助貨ハ幾ラヲ要スル、少ナクモ四千万五千万ノ補助貨ハ増発シナケレハナラヌノテアル、然ラハ其中ノ弐千万円ノ改鋳ニ恐レテ幾分カ危険ノ懸念アルモノヲ四千万五千万ノ補助貨ヲ造ルト云フ事ハ是ハ少シク考ヘテ貰ハナケレハナラヌコトヽ本員ハ信スルノテアル固ヨリ本員カ此通ニ改メルト申シテモ一朝ニ現在ノモノヲ皆潰シテ直クト流通ヲ止メテシマフト云フテナイ、徐々ニ引換ヘテ居タラ宜シイ何モ今日此法ヲ制定シタカラト申シテ即日補助貨ヲ止メルト云フコトテナイ、並ヒ行レテ居テ漸ヲ以テ引換ヘテ往クニハ何ニモ差支ナイコトテアル、又或ハ斯様ナ話モアリマセウ、此通致シテモ此補助貨ヲ鋳造スルハナカナカ容易ナコトテナイ、一朝一夕ニハ行ハレヌト云フ説カアリマス、ソレハ尤モナコトテアリマス、一夜造リニハ参リマセヌサリナカラ先ツ補助貨ノ中テ今度鋳変ヘルニ最モ必要ナルハ五拾銭テアルト思ヒマス、今日此現在シテ居ル所ノ六千万円モ七千万円モアル所ノ壱円銀貨ヲ引換ヘルニハ多ク補助貨ヲ以テスル、即チ五拾銭ノ補助貨ヲ以テ引換ヘナケレハナラヌ、然ルニ今後五拾銭銀貨ヲ製造スルト云フ事ハ少ナクトモ参千万円以上ハ鋳造シナケレハナラヌ、然ルニ現在ノ五拾銭銀貨ハ如何程アルカト申セハ漸ク参百万円程シカナイ、然ラハ参千万円ノ五拾銭銀貨ヲ造ルト云フ其事ハ既ニ免カレヌノテア
 - 第6巻 p.415 -ページ画像 
ルナラハ同シク参千参百万円―参百万円ヲ改造スルト云フ事ニ何ノ憚ル所カコサリマセウカ、試ニ製造年限ハトレタケ掛ツタナラハ鋳造カ出来ルカト申セハ政府委員ノ説テハ五拾銭銀貨テアレハ一箇月百万枚ハ確ニ鋳造カ出来ルト云フ、百万枚即チ五拾万円、参百万円ノ改鋳ニハ六箇月ノ日ヲ要シタラ出来ル、参千万円ヲ今度増加シテ鋳ルニハ余程長イ月日ヲ要シマス、其月日ヲ要スル中ニ僅ニ六箇月ノ月日カ暇カナイト云フコトハ是亦言ハレナイ話テアラウト思ヒマス、決行スルニ差支ナイ、決行セサルノテアルト本員ハ信スルノテアル、モウ一ツ玆ニ補助貨ヲ斯様ニ改メ本位トノ開キヲ多ク致シマスルナラハ贋造ノ多カラウト云フ論カコサイマスカ是亦杞憂ト云ハナケレハナラヌ、此贋造カ多イト云フ事ハ啻ニ補助貨ノ本位貨幣トノ開キカラ来ルモノテハコサイマセヌ、成程現行致シテ居ル所ノ五銭ノ白銅貨是ハ贋造カ多イト云フコトヲ承リマス、併シ此白銅貨ハ御案内ノ如ク余程模様モ粗テアル、模様ノ粗ナルノミナラス確カ聞ク所テハ白銅貨ハ現在五銭ノモノカ鋳造費ハ六厘位テ出来テ居ルト聞イテ居ル、サウ云フ所ノ材料ト通用ノ価格トニ大ナル開キカアルカラ已ムナク贋造ヲ誘起スルト云フコトモ是亦免レヌコトテアラウト思フ、又是マテヽモ偶ニハ銀貨等ニ贋造カアリマスルカ、是ハ決シテ銀其物ヲ以テ贋造スルテハナクシテ銅若クハ其他ノモノヲ以テ贋造スルノテコサイマスカラ、此補助貨ノ開キヲ多クシタト申シテ決シテ贋造ノ憂ハナイト思ヒマス、モウ一ツ之レニ就イテ申シテ置カネハナリマセヌ、此補助貨ノ開キヲ多ク致シマシタレハ物価カ騰貴スルト云フ説ヲ承リマスカ是ハ大ナル間違テアリマスマイカ蓋シ補助貨タルモノヽ性質ヲ御知リハナイノデアロウ、又モウ一ツ申セハ如何ニモ日本ノ慶長以来屡々金銀貨ヲ改造シタ時分ニ品質ヲ悪ルクシ量目ヲ軽ク致シタ、其時ニ物価カ変動シタト云フコトハ本員ハ確ニ聞イテ居リマス、ソレハ事実ト信シテ居ル、併ナカラソレハ金銀ニ本位ト補助ト二ツノ手段ヲ貨幣ニ執ルト云フコトヲ知ラナンダノテ同シ名ヲ以テ呼ンテ居ツタ、爰ソ知ラン人カ壱円ト思フテ居ル中ニ正味ハ六拾銭カ七拾銭ノモノニシタト云フヨリ物価ニ変動ヲ起シタノテアル、デ今日ニ於テソレ等ヲ若シヤ御考ヘニナリ若クハ此補助貨ノ改鋳ノ為ニ物価カ騰貴スルト云フコトハ、前申ス通リ以前ノ貨幣ノ有様ヲ知ラス、若クハ今日ノ本位ト補助トノ区別ヲ御解シナイノテアルマイカト本員ハ疑フノテアル、デ申上ケマスレハマダマダ此上ニ之ヲ必要トスル理由ハアリマスルカ、要スルニ斯様ニ改メテ置ク今日ノ即チ此大改革ヲナス際ニ当リマシテ併セテ此事ヲ致シテ置クト云フコトハ、所謂今日ノ法案トシテ益々鞏固ノ上ニ鞏固ヲ加ヘサスコトハ本員カ信スルノミナラス、之カ為ニ物価ノ変動モ経済社会ノ影響モ何モ与ヘナイコトテアリマスカラ、ドウソ諸君ハ篤ト御勘考ノ上御賛成アランコトヲ請ヒマス
    修正説ノ三(第二読会ニ於テ中野武営)
本員ハ第十六条ヲ修正致シマス、其修正文案ハ「従来発行ノ壱円銀貨ハ本法施行ノ日ヨリ其通用ヲ禁止シ、政府ハ金貨幣壱円ノ割合ヲ以テ之ヲ引換フヘシ但通用禁止ノ日ヨリ起算シ、満一箇年内ニ引換ヲ請求セサルトキハ爾後地金トシテ取扱フヘシ」此修正ヲ希望致シマスル趣
 - 第6巻 p.416 -ページ画像 
意ハ政府カ此法案ヲ提出シテ金単本位ヲ行フニモ拘ラス第十六条ニ於テ其趣意ヲ欠イテ居ルノテアルノテアル、申セハ金本位ヲ行フニモ拘ラス暫クノ間ハ複本位ヲ行フト云フ斯様ナンテアル、是ハ甚タ危険ノコトテアルノテアリマス、デ一国カ孤立ヲシテ複本位ヲ行フ以上ニ於テ甚タ危険困難ナルコトハ私カ弁スル迄モナク已ニ諸君ノ御了知ノコトテコサイマスルカ、現ニ此十六条ヲ存シテ置ケハ其通ノ危険ニ臨マナケレハナラヌノテアル、ソレ故ニ本員ハ此考案ヲシテ此法案ノ精神ヲ貫キ行ヒマスル上ニ於テハ、是非此十六条ニ修正ヲ加ヘナケレハナラヌト信シテ居リマス、即チ此壱円銀ト申スモノヲナルヘク速ニ処分シテシマハナケレハナラヌ、金本位ヲ行フト同時ニ銀ト云フモノヽ通用ヲ止メナケレハナラヌノテアル、補助貨幣ノ外ニ最早日本ニハ金本位即チ金貨幣ヨリ外ニハナイ、兌換紙幣ヲ一方ニ出スノハ是ハ別段テコサイマスカ、金貨幣ノ外ニ銀貨幣ハナイト云フコトニ致サヌケレハナラヌノテアル、然ルニ此ノ如ク急迫急速ニ致シタナラハ甚タ政府ノ取計ニ差支ヲ来シハセヌカ斯ウ云フ懸念カアル、即チ此本法施行ノ日十月一日ヨリ通用ヲ止メルト夥シイ引換ヘニ来ルタラウ、直チニ此引換ニ来ル準備カ出来ルテアラウカ否カ、第二ニハ政府ハ引換ヲシマスルノニ如何ナル手続ニ差支カ来ステアラウカ、即チ新金貨ノ鋳造ヲスル外ニ取扱フニ何カ差支ハアリハセヌカ、此二点ヲ明ニシタナラハ此修正案ト云フモノハ少シモ行フニ差支ナイト云フコトヲ御了諾ニナルダラウト考ヘテ居ル、ソレハ現ニ此壱円銀ノ如何ナル世間ニ有様ヲナシテ居ルカ、本員ノ考ヘル所テハ日本国内ニ此壱円銀カ日常如何ナル運転ヲ致シテ居ルカト云フコトヲ考ヘテ見マスルト、殆ト此壱円銀ト云フモノハ日常ノ取引ニハ形ヲ見セヌノテアル、実ニ此壱円銀ト申スノハ取扱ニ不便ナル貨幣テアル、誰モ壱円銀ヲ以テ物ノ取引スルモノハ殆トナイト申シテ宜イノテアル、唯開港場抔ニ支那人ノ手ニ存シタリ、銀行ノ中ニ幾分カ存シタリ、或ハ田舎ノ金満家或ハ豪家等ニ幾分カ存シテ居ルト云フヤウナ有様テ、日常烈シイ取引ヲシヨルヤウナ中ニ壱円銀ヲ見ルコトノ甚タ少ナイ、曾テ日本銀行ノ局ニ当ツテ居ル人ノ話ヲ聴キマシタカ、壱円銀ヲ引換ニスルト云フハ差向キトウ云フ有様ヲナステアラウカト云コトハ、日本銀行ノ当局者ノ話テハ壱千万円バカリノモノテアルダラウ、決シテ其上ニ過分ノモノハアルマイ、斯ウ云フ話ヲ承ツテ居ル、如何ニモ私ハサウテアラウト信シテ居リマス又海外ニ出テ居リマスルモノハトレ程アルカト云事ハ、政府委員ノ答弁ニ依リマスレハ八百万円余―九百万円バカリノモノテアル、決シテ壱千万円以上ノモノハナイ、是ハ即チ近時ノ此法案カ出テ以来各外国ノ領事ニ政府カ聞質シタ所ト、公報ニ依ツタ報告テコサリマス、ソレ是ヲ併セテ見マスルト今此十月一日ヨリ通用ヲ禁止シマシテモ、差シテ私ハ差支ナイト思ヒマス、即チソレマテニ用意ハ十分出来得ラレルト思ヒマス、一箇月掛レハ壱千万円ノ製造ハ出来得ルト云フコトヲ承ツテ居ル又政府委員カ之ニ改正ヲ此ノ如クスルハ一方ニハ基金ト云フモノヲ置カヌケレハナラス、即チ貨幣整理資金特別会計法ト云フモノカ今日ノ日程ニ上ツテ居リマスカ之ハ差支ヘル、ナゼトナレハ銀円カ戻ツテ参ル―ソロソロ戻ツテ来ルノヲ此処ヘ入レ込ンテ、ソレテ製
 - 第6巻 p.417 -ページ画像 
造シテ補助貨幣ニシテ出シテ、サウシテ順々ニ移リ変ツテ往カウト云フカ政府ノ見込テアル、然ルニ通用ヲ禁止シマスルト云フト、資金ト云フモノヲ一旦此処ヘ備ヘテ是テ鋳造シテサウシテ引換ヘテ往カヌナラヌカラ、最初ニソレタケノ資金ヲ造ラヌケレハナラヌ、其資金ヲ募ルニ就イテ或ハ公債ヲ起サナケレハナラヌ、如何テアルソレ等ハ甚タ困難テアルト云フ答弁ヲ得タノテアル、本員ノ考テハ決シテソレ等ノ為ニ公債ヲ募ル必要ハナイノテアル、即チ此貨幣整理資金特別会計法ト云フモノヲチヨツト改正ヲ加ヘサヘスレハ宜イテアル、即チ政府ハ日本銀行ヨリ借入金ヲナスコトカ出来ルト云フ箇条ヲ此箇条ノ中ヘ入レサヘスレハ直様整フノテアル、又実際引換ト云フモノハ真ニ其物カ働キヲナシツヽアルモノナラハサウ俄ニ引換ニ来ルヘキモノテハナイ一箇年ノ余地カコサイマスレハ慌シク持ツテ来ルヤウナコトハナイ、況ヤ此法ヲ実施スルマテニハマタ四月カラ数ヘテ見テモ六箇月ノ時間カアル、其六箇月ノ時間ニマタ処分スルコトモ出来得ラレルノテアル漸々ニ少ナクシテ往クコトカ出来ルノテコサイマス、サウシテ見レハ新貨ヲ鋳造スル上ニモ差支ナク、又整理スル資金ト云フモノモ別段面倒ヲ見スシテ即チ日本銀行カラ其入用ノ分ダケノ資金ヲ借入置イテサウシテ仕払フテ参レハ結果ハ対ナンテコサリマス、前ニ備ヘルノト持ツテ来タモノヲ以テソロソロト引換ヘルト云フタケノ違ナンテ、サヤウ致シテ政府ノ案ノ如クスレハ政府ハ一番便利カ宜イ、別段資金モナクシテ壱円銀カ戻ツテ来ルノヲソレソレ引換ヘテ往クカラヱライ宜イヤウテアルカ之カ為ニ時日ヲ要セナケレハナラヌ、若シ政府ノ望ム如ク徐々緩慢ニ処分ヲスル際ニ当ツテ、何カ銀貨ニ変動ヲ起スコトカアツタ時分ニハドウ云フ有様ヲナステコサイマセウ、若シ銀カ高クナツタラ決シテ引換ニハ来ヌ、引換ニ来ヌノミナラス外国人ハ即チ却テ日本ノ銀円ヲ引取ルコトニナルノテアル、サウスルト政府カ望ンテ居ル補助貨幣ヲ―壱円銀ヲ取入レテ補助貨幣ヲ鋳立テヽ往カウト云フ事ハ出来ナイ―補助貨幣ニ換ヘテ往カウト云フ望ハ出来ヌ、テ高イ銀ヲ他カラ買テ来テ補助貨幣ヲ鋳造シナケレハナラヌ、若シ又銀貨カヒトウ下落ヲ致スカ此下落ノ結果ハドシドシ引換ラレマス、引換ヘラルルト其結果ハ日本政府ハ安イ銀ヲ以テ高イ金ト引換ヘテ往カナケレハナラヌ、トチラニ上ガツテモ下ガツテモ悠々閑々ニ付シテハ居ラレヌ日本政府ソレ自身カ損失ヲシナケレハナラヌ、又民間ニ取ツテハトウ云フ有様テアルカト云ヘハ、金ト銀トカ貨幣トナツテ双方通用ヲスルト云フ暁ニハ、必ス一旦定メタ所ノ分量テイツマテモ相場カ据ツテ居リマスレハ差支ハアリマセヌ、ケレトモ金ト銀トハ日々動キヨル、ソレ故ニ高クナツタ安クナツタト云フ度毎ニ打歩ヲ出シ、或ハ割引ヲスルト云フ煩雑カ起ツテ参ル、況ヤ発行禁止後ニ於テ五箇年ノ引換ヲ猶予ヲスル、即チ五箇年間猶予シテ引換スルカ如キハ実ニ甚シイコトテアルト思フ、将来五箇年ノ間ニ此銀ノ有様カドウ変化ヲ来スヤラ実ニ分ラヌノテアル、其分ラヌ危険ナモノヲ五箇年間ナンボデ換ヘテヤラウ、幾ラテ引換ヘテヤラウト云フ保証ヲ日本政府カ有ツテ居ルノハ実ニ危険千万テアル、如何ニモ是カ補助貨幣トカ或ハ紙幣ノヤウナモノナレハ其通用ヲ止メ其引換ノ期限カ尽キタラハ反古ニナツテシマフ、
 - 第6巻 p.418 -ページ画像 
或ハ分量ノ少ナイ地金ニナツテシマフナラ政府ハ徳義トシテ飽マテモ時間ニ猶予ヲ付ケ得ラレル余地ヲ与ヘ、五年テモ十年テモ猶予ヲ与ヘ引換ヘルノハ政府ノ徳義ニ相違ナイカ、銀貨ト云フモノハ銀其物ニソレダケノ価ヲ持ツテ居ルノテアル、外国ニズンズン行ハレテ往キヨルノデハナイ、銀其物ノ目方ニ対シ価ニ対シテ行ハレテ往キヨルノデアル、決シテ紙幣ヤ補助貨幣トハ道理ノ違ツテ居ルモノテアル、ソレ故ニ外国ニズンズン行ハレテ居ルモノ其物ニソレタケノ価カアルトスレハサウ何時マテモ担保シ保証ヲ致シテ置カナイテモ宜シイ、ソレ故ニ一箇年ノ余地ヲ置キマスレハ十分タト私共ハ考ヘテ居ル、一箇年テモマダ少シク長過キハセヌカト云フ感カコサイマスケトモ、先ツ情ヲ量ツテ先ツ一箇年トシタラ宜カラウトシテ此修正文ヲ出シタノテコサリマス、右様ナ次第テコサリマスカ故ニ此法案ノ精神ヲシテ実地ニ貫徹スルヤウニ致シ、此法案ノ為メニ金銀複本位ノ如キ弊ノナイヤウニシサウシテ全ク金単本位カ行ハレマシテ、民間ニソレカ為ニ不幸ヲ被ルコトノナキヤウ―国庫ニ不幸ヲ被ルコトノナイヤウニ此両点ヲ考ヘテ見マスルト、是非此壱円銀貨幣ヲ速ニ処置致シマス事カ一番必要ナコトヽ私ハ考ヘマス、此法案カ修正ニナリマシタナラハ始テ金単本位ノ実カ挙ルノテコサイマス、況ヤ従来ノ例ニ依テ見マスレハ紙幣ノ通用ヲ禁止スル如キ、貨幣ノ通用ヲ禁止スル如キコトハ法律ヲ以テ定ムヘキカ当然テアル、ソレハ如何ニ便宜トハ云ヘ此法律上ニ勅令ヲ以テ出サスト即チ行政官ノ見計ヒテ出サスト云フコトハ、不都合ナコトテハアリマスマイカ、是程ノ大問題、是程ノ大改革ヲナスナラハ立法部ニ於テ是マテ認メテ居ル所ニ依テ是限リヤレト云フノハ当然テアル、然ルニ行政官ノ都合ニ依テ漸次之ヲ引換ヘルトカ、或ハ見込カ立ツタナラハ勅令ヲ以テ通用期限ヲ禁止スル期限ヲ定ムルソ、ト云フ如キコトハ誠ニ先キノ極リノ付カヌコトテ、立法府テ調査スルト云フコトハ私ハナイト思フ、是程ノ大改革ヲ此程ノ大英断ヲナスナラハ、チャント其期限マテヲ立法府テ定メテ、サウシテ其期限内ニ於テ行政官ハ其方針ヲ以テ行ヒ務メサスト云フコトカ私ハ当然ト考ヘルノテアリマス之カ若シ本員等ノ望ム所ノ如ク此案ノ修正カ整ヒマシタナラハ、此貨幣整理資金特別会計法ニ於テ第二条ノ二項ニ「前項ノ外資金ノ必要アルトキハ政府ハ借入金ヲナスコトヲ得、此場合ニ於ケル利子ノ割合ハ大蔵大臣之ヲ定ム」此一項ヲ入レマスレハ政府ハ差支ナク行ハレテ往クノテアリマス、諸君ノ御賛成ヲ請ヒマス


集会録事 自明治二十六年一月(DK060120k-0003)
第6巻 p.418 ページ画像

集会録事 自明治二十六年一月  (東京銀行集会所所蔵)
    ○第百七十回定式集会録事○明治三〇年三月一五日
渋沢会長ハ協議ニ先タチ○中略本月六日臨時集会ニ於テ協議シタル貨幣法案中修正ノ件ハ即日小子高橋是清氏ト共ニ衆議院ニ至リ同法案特別委員中野武営、阿部興人両氏ニ面会其意旨ノ徹底センコトヲ委托シ、両氏大ニ尽力シ呉レラレタリシカ不幸ニシテ成立ノ運ニ至ラサリシ旨ヲ報道シ○下略