デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2018.12.20

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

1章 金融
4節 保険
1款 東京海上保険株式会社
■綱文

第7巻 p.648-654(DK070080k) ページ画像

明治30年1月29日(1897年)

是日株主総会ニ於テ栄一取締役一同ト共ニ同会社営業不振ノ責ヲ負ヒ職ヲ辞セントス。然レドモ株主ノ希望ニ依リテ全取締役再任トナル。


■資料

(東京海上保険株式会社)総会議事録 一(DK070080k-0001)
第7巻 p.648-651 ページ画像

(東京海上保険株式会社)総会議事録 一
明治三十年一月開会ノ第参拾五季通常総会記事ハ別冊速記録ニアリ
(別冊)
 東京海上保険株式会社総会
○会長(荘田平五郎君)毎度御苦労デゴザイマス、是ヨリ総会ヲ開キマス、誠ニ又相変ラズ大変悪イ御報告ヲ致シマスルノデ、任務ノ上ニ於テ不都合デゴザイマス、御報告ヲ致シマス
  (書記朗読)
○会長(荘田平五郎君)御聴キノ通リ八万幾ラ差引損ニナリマス、此営業ノ先年来景況ノ悪イノハ、総会ノ度毎ニ御話ガ致シテゴザイマスガ、其通リデアツテ別ニ今日ニ至ツテ変リマシタコトハ何モナイノデゴザイマス、当年ハ外国ノ商売モ悪イ故ニ尚更内国ノ商売ハ悪ウゴザイマシタ、危険ガ多クテ保険料ガ高イト云フ形デゴザイマシタガ、ソレハ此会社ノミナラズ外ノ会社モ同様ニ感ジマス、此会社ノ損ノ大変多イノハ相変ラズ外国ノ商売ニ、未ダ本筋ニ回復致サナイノデゴザイマス、ソレデ右様ノ決算ヲナシマシタノデゴザイマス○中略誠ニニガニガシイコトデゴザイマスガ、右様ナ現在ノ成行デゴザイマスガ、皆サンニ別段ノ思召ガナケレバ、右ノ報告ヲ取極ニナリマシタコトニ致シマス○中略次ギニ御案内申シマスノハ只今取締役改選ノ件ニ移リマス筈デゴザイマスガ、此前ニ臨ンデ私共取締役一同カラ御詫ヲシナケレバナリマセヌ、今御聴キニナリマシタ通リノ甚ダ悪イ成績ヲ得マシテ、今度一回ノミナラズ前々カラ此ノ如キ有様デ推移ツテ今日ハ稍幾ラカ回復ノ端緒ニハ付イタトハ思ヒマスガ、ドウモ此ノ如キ有様ヲ来シマシタノハ、畢竟私共一同ノ不行届カラ此成行ニナリマシタノデゴザイマス、別ニ御詫ノ申シ様モゴザイマセヌ、我々謹ンデ此職ヲ退キ、更ニ相当ノ人ヲ御選定ニナリマスルノ外ハアリマセヌト思ヒマス、此場合不行届ヲ御詫致シマスタメニ、一同此職ヲ御辞退申スコトヲ斯ウ云フ困難ナ場合デゴザイマスカラ或ハ御見做シニ依リマスト、此困難ナ場合ヲ逃ゲルデアラウト云フ御見做シニ預ランモノトモ存ジマセヌガ、私共其方ノ念慮ハ聊カアルデハゴザイマセヌ、全ク斯クマデニ失敗致シマシタノデゴザイマスカラ、皆様ノ御信用モ如何カト存ジマス、又私ハ今日全期デゴザイマス、外ハ任期未満デゴザイマスガ、自ラ安ンジテ居ル場合デナイト云フ考デ辞職ヲ願ヒマスガ、此困難ナ場合ニ際シテ退クト云フコトデナク、幾ラ苦シクテモヤラネバナラヌ、回復ノ法ヲ取ラネバナラヌト仰シヤルコトデゴザイマスレバ、無論私共ハドウナツテモ宜イト、逃ゲル心持デハゴザイマセヌノデ、全ク此
 - 第7巻 p.649 -ページ画像 
仕事ヲ過チマシタノデゴザイマスカラ、我々ハ甘ンジテ御責ヲ蒙リマス、此上ノ御処分ハ皆様ノ御裁決ニ御委セ申シマス、宜シク……
○渋沢栄一君 只今会長カラ辞職ノコトヲ申上ゲマシタガ、私モ取締役ノ一人トシテ、即チ皆様ニ今日ノ御詫ヲ申ス一人デゴザイマス、一月、七月ノ総会ニハ私ガ代理ヲ致シテ矢張マヅイ極ク御聴キ楽ミノナイ御報道ヲ致シタノデアリマス、当期ニ於テハドウゾセメテ少シ回復スル望ミヲ持ツタ御報道ヲ致シタイト思ヒマシタガ、中々其希望ハ望ミ通リニ行キマセヌデ矢張リ今御聴キノ通リノ始末デゴザイマス、今コヽデ退キマセヌト誠ニ責任ヲ引クト云フ精神ヲ皆様ニ表白サレヌト思ヒマスカラ斯様申シマスケレドモ、去レバト申シテ我々共此保険事業ト云フ性質ヲ、マルデソレニ違ツタ事ヲシタトカサシタトカ云フコトハナイノデアリマシテ、左様ナコトデハ更ニアリマセヌガ、奈何セン海外ノ保険事業ニ付テ実験ガナイカラ、余リ手ヲ張ツタト云フコトガ、此不結果ヲ来シタ原因ト思ヒマス、ソレハ最初ハ善カツタケレドモ、其善イト思フタノハ事実ニ合ツタノデナク其善悪ヲ識別スル才能ナク仕事ヲシタカラ、ソレデ斯ル不都合ヲ来シタラウ、ソレニ注意ノ届カヌト云フコトヲ以テ、我々ハ責ヲ引カネバナラヌト云フ理由デゴザイマス、果シテ此後回復スル見込ガナイカト言ハレマスト、ドウモナイトコヽニ恐入ツテ仕舞ウハ残念デゴザイマス、日本ノ保険事業上ニ於テ然ラバ回復スル見込ガアルカト言ハレマスト……《(原本欠)》君ノ如キハ竜動ニ長イ間居ラレテ其仕事ニ付テ知ツテ居ラレマスガ、必ズ回復スルト云フコトヲ立派ニ申スコトハ難イト思ヒマス、併シ前ノ方針ハ誤ツタカラ、斯ウ云フ風ニ改正スレバ宜イト云フ考ハ有ツテ居マス、コヽ等ノ事情ヲ御諒察下サレマシテ、何分ノ御承知ヲ懇願致シマス、私モ御申訳ヲ致サネバナラヌ御詫ヲ申ス一人故ニ、会長ノ申上ゲタコトニ付テ言葉ヲ添ヘテ自分ノ意志ヲ陳ジマス
○    《(原本欠)》君 御一同様ノ御退職トゴザイマシテハ、株主一同大変当惑ノ次第デゴザイマス、ドウカ此上御苦労千万デゴザイマスケレドモ何卒其回復ヲ計ル方法ヲ篤ト御攻究下サレマシテ、御辞退ハ御ヤメニナルヤウニ希望致シマス、皆様如何デゴザイマセウカ
○    《(原本欠)》君 賛成デゴザイマス○中略ドウゾ御迷惑ナガラ最ウ一度奮発ヲ御願ヒ申スコトヲ希望致シマス
○会長(荘田平五郎君)丁度今渋沢氏ヨリ申サレマシタ通リノ次第デ我々ガ辞退シテ御免ヲ蒙リタイト云フノハ敢テ難キヲ避ケルト云フ念慮デハ少シモアリマセヌノデ、今日マデノ成蹟《(績)》ヲ来シタニ拘ハラズ尚此上ニ回復ノ任ニ当レト云フコトデゴザイマスレバ、敢テ辞スルデハゴザイマセス、此営業ノコトニ付テハ今日辞職ヲ御聴許シニナリマシテモ、是カラ先キ我々ノ考ヘタコトハ無論能ク御相談ヲ致サウト思ヒマス、尚ホ続イテ致セト云フコトデゴザイマスレバ、一通リ今日マデ取ツテ居リマス方針ト是カラ先キ考ヘタコト……是ハ取極メテ議案トシテ御評議ヲ仰ギマセヌガ、先ヅ斯クナリタイト相談シツヽ進ンデ居リマス、此方針ヲ御相談申シテ大体ニ付テ御聴キヲ願ヒマス、偖渋沢氏カラ申上ゲマシタ通リニ海外ノ景況ニ付テ知ラナイコトニ手ヲ出シタト云フコトハ事実デゴザイマシテ、思ヒヨラヌ損モ行キマシタ、一
 - 第7巻 p.650 -ページ画像 
口ニ大キナ損ガアツタナラバシ易ウゴザイマスガ、サウデゴザイマセヌ、自然々々ニ小サナ損ガ固マツテ大キナ損ニナツタノデ、筋ノ悪イ損ガアリマシタノデゴザイマス、ソレ等ノ病根ガ今日マデニ大変損ヲシタ原因ト思ヒマス、間違ツテ居ルカ知レマセヌガ、先ヅ海外ノ仕事ガ少シ軽挙ニ進ンダト云フ積リデゴザイマス、其事ハ今日気ガ付キマシタコトデモゴザイマセヌ、一昨年デゴザイマスカ松田支配人《(益田支配人)》ガ竜動ニ居ラレマシタ時分カラ、此ヤリ様デハイカヌト云フコトデ之ヲ匡正スル法ヲ取リマシテ、コチラカラモ始終種々調ヘテ居ル人ヲ差出シテアリマス、向フノ代理店デハぐらつすごーノ店ハ早ク此事ニ気ガ付イテ、仕事ヲ縮メテ此一店ハ今日ハ其病根ヲ絶ツタヤウデゴザイマス、一時ノヤウニ大キナ仕事ヲヤメテ小サクシマシテ極ク安心ト思フモノノミヲ営業スル、りばーぷーるノ店モ其通リデヤリマス、竜動ハ先ヅアチラノ主タル権力デ総轄シテ居リマスガ、是モ出来ルダケ引締メルト云フ方針デ、引締メルトハ成ベク保険ノ種類ヲ能ク撰ンデ、既往ニ損ヲシタ種類ノ保険ヲ成ベクヤメテ、是マデ出来栄ノ善カツタト思フ保険ノ方ヲ取ル、今日マデノ経験デ善悪ヲ択ム積リデ、是ハ善イト思フモノヲ取ツテ是マデノ経験デ悪イト思フモノハ取ラヌ、云フ方デ其択ミ方ヲ能ク心得テスル外ナイ、○中略先ヅ仕事ノ方針ニ付テハ其方ニ進ンデ行ク積リデゴザイマス、然ルニ此会社ノ資本デゴザイマス、此保険ノ種類ニ依テ大変資本ノ厚薄ガ仕事ノ信用ニ係ハリマスガ、此海上保険ノ如キハドコノ国デモ相応ニ大キナ資本ヲ有ツテ居リマス、百万ぽんど位ノ資本ハ普通ニ有ツテ居リマス、一千万円位ノモノハ当リ前ノモノデゴザイマス、此会社モ日本ノ内デ仕事ヲシテ居ル間ハ、是マデノ百弐拾万円デ少ナイデハアリマセヌガ、今既ニ世界ノ商売ニ手ヲ着ケテ、世界ノ保険会社ニ仲間入ヲシヤウト云フノニハ、百弐拾万デハ大キイヤウデスケレドモ、十二三万ぽんどト云フコトニナリマスレバ、世界ノ市場ニ立ツテハ少ナイモノデ、到底商売人ガ安心スルト云フノ金額デナイノデゴザイマス、ソレニ積立金モ追々ナクナツテ、今日モ未来ノ見込モ早速大儲ガアルト云フコトハ申上ゲラレヌノデゴザイマス、唯ダ此儘ニヂツトシテ置キマシテハ、資本ノ少ナイト云フ一点ダケデ既ニ悪イノニ、積立金モ段々減ルト云フト、世ノ中ノ見込モ悪イ、即チ商売ノ不信用ヲ来スト云フコトガ参リマス、又株主モイツマデ経ツテモマダ来ヌマダ来ヌト云フモ退屈ナコトデゴザイマスカラ、是ハ一度切リ直シテ改正スルガ必要デアル、ドウスルカト申シマスト、大概損ヲ此位ハ損ガ来ルト云フコトヲ予メ見込ミマシテ、ソレヲ一遍切リ捨テヽ仕舞ツテ、サウシテ株ヲ増シテ世ノ中ノ大資本ノ会社ト云フマデニナラズトモ一通リ世間普通ノ会社ノ資本ノ高ニ殖シマスレバ、外カラ見タ所モ手厚ウナリマシテ、内ニ於テハ今新タニ此営業ヲ始メル人スラモアルノニ既ニ大金ノ損ヲシテ経験ヲシテ居ル此会社デゴザイマスカラ、此後ハ他人ヨリ幾ラカ商売ガ善クシ得ルダラウト思ヒマス、サウシテ全ク旧会社ヲ一段ヲ切ツテ、新規ノ会社ニシタト同様、名前ハ其儘存シテ会社モ無論存シマスガ、仕事ニツイテハ全ク新組織ヲ以テ仕事ヲスル積リデ会社ヲ一新スルトイフコトガ甚ダ必要デアラウト思ヒマス○中略
 - 第7巻 p.651 -ページ画像 
如何デゴザイマセウ、商売ノ点カラ言フト資本ノ殖ヘルハ宜シイト云フコトハ分リ切ツテ居リマスガ、株主ノ方カラ見マスト、此儘ニ抛ツテ置ケバ無配当デ続イテ行カネバナラヌト思ヒマスガ、切リ捨テルモノハ切捨テヽ大切断ヲシテ、アトヲ健康体ニ復スルト云フ方ガ良クハナイカト思ヒマス、是ガドチラデゴザイマセウ
○    《(原本欠)》君 只今ノ御話ハ至極結構ト思ヒマス、御相談ノ時期ハ宜イ時分ヲ選ンデ御相談ヲ願ヒマス○取締役再任監査役改選ノ議事略ス
○    《(原本欠)》君 取締役ノ御再任ノコトハ投票ナシニ願ヒタイト思ヒマス
○渋沢栄一君 仰ニ従ヒマシテ面目次第モゴザイマセヌガ、此後回復ヲ計リマシテ此面目ヲ雪ギマスルヲ力トシテヤリマス、今会長カラ御相談申シマシテ議決デハゴザイマセヌガ、アトノ方針ヲドウスルトカ云フコトニ対シテ斯フ云フコトガアルト云フコトヲ申上ゲマシタガ、其事ニ付テハ私共数回協議シテ居リマス、是マデノ資本ヲ維持シテ回復スル念慮モ持テ居リマスガ、考ヘテ見マスト一体ニ保険事業ノミナラズ世ノ中ノ仕事ガ進ンデ参リマシテ、外国ノ比例ヲ申ス通リ十三万ぽんどノ資本ヲ以テヤルト云フコトハ困難デアル、一方ニハ積立金モ減ツテ仕舞ウコトニナリマスカラ、相当ノ時期ヲ見計ヒマシテ、コヽニ資本ヲ拡張スルコトヲ致サヾルヲ得ナイト考ヘマスノデ、ドウ云フコトニスレバ宜シイカ或ハ払込ノ半額ニスルガ宜イカ四分ノ一ニスルガ宜イカ、今マデ評議中ニ属シテ居リマスガ、ドウシテモ是ハ取極メテ再ビ諸君ノ御聴キヲ請ハネバナラヌト思ヒマス、私共モ最ウ一ツヤレト云フコトデアレバ、畏リマシテ一生懸命ヤリマス、付テハ必要ト云フコトハ又案ヲ立テヽ出シマス、打手返シニ申上ゲル訳デハゴザイマセヌ、切リ捨テル所ハ切リ捨テルト云フコトハ、上段カラ申上ゲタ通リデゴザイマス、其辺ハ宜シク……
   ○東京海上保険株式会社報告第三五季明治三〇年一月ニ拠レハ、其当期損益勘定左ノ如シ
      営業勘定(自明治二九年一月一日至同年六月三〇日)
                  円
        収入  五七二、六〇九・八一七 内保険料五一二、七四六・八六
        支出  七〇九、一七四・七六二 内危険損失五二五、九四四・二六八
      資本収入(自明治二九年七月一日至同年一二月三一日)
             五三、八五三・三八一
      収入総額  六二六、四六三・一九八
      支出総額  七〇九、一七四・七六二
      差引不足   八二、七一一・五六四
   ○明治二九年一月及七月ノ株主総会ニ於ケル栄一ノ会長代理議長トシテノ報告ニツイテハ後掲〔参考〕記事参照。



〔参考〕(東京海上保険株式会社)総会議事録 一(DK070080k-0002)
第7巻 p.651-653 ページ画像

(東京海上保険株式会社)総会議事録 一
   第参拾参季通常総会 議長 渋沢栄一
    明治廿九年一月廿九日午後一時四十分開会
        出席株主ノ株金 六拾八万千四百円
        権利株 壱千四拾弐個
議長池田茂政病気ニ付取締役渋沢栄一代リテ議長席ニ着キ支配人ヲシ
 - 第7巻 p.652 -ページ画像 
テ議案ヲ朗読セシムル旨ヲ述フ
議案左ノ通リ
 一事業報告、財産目録、貸借対照表、損益計算書
 一利益金処分ノ件
 一定款第四拾八条ニ従ヒ取締役半数改撰ノ件
 一定款第四拾九条ニ従ヒ監査役改撰ノ件
支配人起立シテ右第一項ヲ朗読ス
右朗読後該案ノ承認ヲ受ケ夫ヨリ支配人ハ左ノ通リ演述ス
前記ノ営業勘定収支ヲ対照スルニ収入合計ハ金八拾参万弐千百参拾円六拾五銭八厘ニシテ支出合計ハ金八拾五万参千九百弐拾七円六銭参厘収支差引不足金ハ弐万壱千七百九拾六円四拾銭五厘ナリトス、而シテ収入合計中金弐拾壱万六千九百弐拾九円九拾壱銭ハ危険損失準備操越金ナレハ本季ニ於ケル実際不足金ハ実ニ無慮弐拾参万余円ニ上ルモノトス○中略斯ル巨額ノ損失ヲ生シタル原因ハ一ニシテ足ラスト雖トモ其主因タルモノヲ挙レハ左ノ二囚ニ出サルヘシ
 一近年海難例外ニ多カリシ事
 一英国ノ代理店ニ於テ保険ノ選択精確ヲ欠キタル事
第一ノ原因ハ自然ノ作用ニ属スルモノニシテ年々著シキ豊凶アルハ海上保険業ノ特質トシテ免ルヘカラスト雖トモ、第二因ニ至テハ実ニ忽ニナシ難キ会社ノ一大事ナレハ猶予ナク之ヲ矯正シ一日モ早ク会社ヲシテ確実安固ノ地位ニ在ラシムルハ今日ノ急務タルヤ云ヲ待タサルナリ、故ニ会社ハソノ矯正策トシテ左ノ改革ヲ実行シタリ
 一明治廿七年ヲ以テ各務鎌吉ヲ英国ニ派出シ、彼地業務ノ実況ヲ調査セシメタルコト
 一李浦代理店ノ業務方法乱雑ニ流レタルヲ以テ代理ノ解約ヲ為シタルコト
 一明治廿八年五月ヲ以テ支配人益田克徳ヲ英国ニ派出シ業務ノ矯正ヲ実行セシメタルコト
 一倫敦ニ独立ノ店ヲ開キ練達ナル保険担当人ヲ雇入レ英国各代理店ノ業務ヲ指揮監督セシメ一定ノ方針ニ依リ営業セシメタル事
 一従来ノ経験ハ精確ナル統計ニ基キ悪質ナル保険ヲ尽ク排斥シ良質ノ保険拡張ヲ諜ル事○下略
議長起立シテ只今支配人ヨリ欧洲ノ実況ハ陳述致シタレトモ、元来是迄ハ欧洲保険ノ業務ニモ実験乏シク為メニ今日ノ如キ非境ニ陥リタルモノニシテ、決シテ会社当任ノ者失敗ナシトハセサルナリ、併シナカラ日本一国ニ蟄居シテ商売ヲナセハ或ハ有利ナランモ今日事業着々進歩ノ時ニ際シ、僅ニ自国ノ商売ニ甘ンスル如キハ甚タ取ラサル処ニシテ此険路ヲ越ヘ大ニ力ヲ伸ハサヽルヲ得ス、何レノ業ヲ問ハス欧米ニ向テ事ヲ為サントスレハ其失策少シトセス、故ニ保険ノ業モ或ハ他人ヲシテ事ニ当ラシメタルナランニハ今日ノ如キ甚シキ損失ナシトスルモ必ス多少ノ損失ハ免レサリシナルヘシ
第二項ヲ朗読ス
    利益金処分案
  金七千弐百拾壱円五拾七銭五厘 純益金
 - 第7巻 p.653 -ページ画像 
 右純益金ヲ危険損失準備繰越金トス
右可決ス○下略


〔参考〕(東京海上保険株式会社)総会議事録 一(DK070080k-0003)
第7巻 p.653 ページ画像

(東京海上保険株式会社)総会議事録 一
   第参拾四季通常総会        議長 渋沢栄一
     明治廿九年七月三十日午後二時開会
         出席株主ノ株金 四拾壱万千弐百円
         権利数 八百七個
議長起立シテ会長旅行中ニ付代リテ第参拾四季報告ヲナス旨ヲ述フ
議案左ノ通リ
 一事業報告
 一財産目録
 一貸借対照表
 一損益計算書
 一前取締役池田茂政氏ヘ贈与金ノ件
支配人起立シテ議事第一項ヨリ第四項迄ヲ朗読ス
議長ヨリ第参拾四季報告ハ只今朗読ノ通ニシテ誠ニ不満足ナル結果ナルモ、要スルニ英国ニ於ケル営業ノ損失ニシテ既ニ前回総会ニモ次回及尚其後ニモ損失ハ免ルヘカラサルモノト御覚悟願ハサルヲ得スト御報告致シタル次第ニシテ、不吉ノ予定果シテ此結果ヲ表ハシ、実ニ不得止モノト言ハサルヲ得ス、就テハ此不足金参万千七百七拾弐円六銭八厘ハ勢ヒ準備積立金ヨリ扣除セサルヲ得サルニ付、玆ニ議案トシテ御評議願度旨ヲ述ヘ支配人起立シテ左ノ議案ヲ朗読ス
 不足金参万千七百七拾弐円六銭八厘ハ準備積立金ヨリ扣除ス
一同無異議旨ヲ述フ○下略
   ○東京海上保険株式会社報告第三四季明治二九年七月ニ拠レバ当期ノ損益計算左ノ如シ。
      営業勘定(自明治二八年七月一日至同年一二月三一日)
                   円
        収入  六六四、四三三・二七九
        支出  七四一、五九八・九八七
      資本勘定(自明治二九年一月一日至同年六月三〇日)
        収入   四五、三九三・六四
      差引不足額  三一、七七二・〇六八


〔参考〕青淵回顧録 上巻・第五九一―五九二頁〔昭和二年八月〕(DK070080k-0004)
第7巻 p.653-654 ページ画像

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冊子版の『渋沢栄一伝記資料』をご参照ください。