デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

1章 金融
5節 其他ノ金融機関及ビ金融問題
3款 万国為替問題
■綱文

第7巻 p.775-777(DK070100k) ページ画像

明治36年11月(1903年)

是月、米国貨幣委員コルネル大学経済学教授ジエンクス博士、万国為替制度問題ニ関シ我国ト交渉スル使命ヲ帯ビテ来朝セシヲ以テ、我ガ政府ハ官民ノ関係代表者ヲ選ビテ協議会ヲ開催セシガ、栄一モ亦数次同協議会ニ出席セリ。


■資料

銀行通信録 第三六巻第二一八号・第七九二―七九四頁〔明治三六年一二月一五日〕 万国為替制度問題の由来(DK070100k-0001)
第7巻 p.775-777 ページ画像

銀行通信録 第三六巻第二一八号・第七九二―七九四頁〔明治三六年一二月一五日〕
    万国為替制度問題の由来
近年に於ける銀価の変動は実に甚しく、殊に昨年の如きは約二割の低落を来し銀貨国と金貨国との間に於ける貿易は為めに甚だしく攪乱せらるゝに至りたるより、墨西哥の如き産銀国の依て被ふる影響実に莫大なるものあり、是に於て同国政府は種々研究する所あり、竟に清国政府を誘引して此経済的大問題に対する討究及提議を為すことゝなり両国政府は協議の末共に北米合衆国に対して本問題に就き協力せられんことを請求するに至れり、然るに合衆国政府は「変動せざる万国為替制度の設立に由りて世界の国際貿易関係を改良せんとす」るの大計上より両国の請を容れ、大統領ルーズヴエルト氏は左の教書を両院に下して之が協賛を求たり
 予玆に合衆国元老院及合衆国々会の各員に誥く
 予は国務卿をして其報告及墨西哥国全権大使及臨時清国代理公使より提出したる、金銀貨国間に於ける貨幣的関係の錯乱を回復し確固たる関係を維持する方法に就き、合衆国政府の協力を求むる書類を副へて之を両院に公付せしむ
 卿等宜しく慎重の審議を尽し、両政府の目的を達せしむるに便利なる方法と度合とに於て、合衆国政府の援助を仮すに十分なる権力を予が行政部に与へんことを望む
  千九百三年一月二十九日
           「ホワイト・ハウス」に於て
              スイオドーア・ルーズヴエルト
然るに合衆国両院は何れも喜んで之を承諾し、各々左の決議を為せり
 本院は合衆国大統領の、或は外交的機関を通じ或は委員の任命に依り或は此両者を併用して墨西哥及清国政府と協同し、千九百三年一月二十九日国会に交付せられたる、大統領の教書及附属書類に説示せられたる目的を遂行するに援助協力す可き旨を決議す
右国会の権能附与に依りて合衆国大統領は万国為替制度調査会を組織し、左の三名を其委員に任命せり
    「インデイアナポリス・モネタリー・コンヴエンシヨン」
 - 第7巻 p.776 -ページ画像 
               会長 ヒユー・エツチ・ハンナ
    紐育州「モルトン」信託会社出納課長
                チヤーレス・エー・コナント
    「コルネル」大学経済学教授
           ジエレミアー・ダブルユー・ジエンクス
爰に於てか墨西哥政府は二個の委員会を組織し、一は之を墨西哥市に設けて其提唱せる新貨幣法に対する墨西哥市の状況を精査せしめ、一は万国的為替制度を論議して関係諸国をして能く新提唱の意味を領解せしめ、新貨幣の一定なる等一金計価格を作り、其公定量目及品位の単位を定め以て為替の安定を維持する方法を立案し、造幣用として必要なる銀地金の購入及び分配に関することを能く会得せしむるには如何にす可きかの問題を研究せしむることゝせり、而して右委員会の委員に任命せられたるは三名にして、其職務及姓命は左の如し
    墨西哥中央銀行頭取《バンコ・セントラル・シカノ》 エンリク・スイー・クリール
    在倫敦墨西哥財務代弁      ルイス・カマチヨー
    「サン・ルイス・ポトスイー」銀行頭取
                   エズユアート・ミード
猶右の外紐育のエズユアード・ブラツシユ氏を該委員会の貴金属に関する専門顧問として任命せり
既にして米国の委員は一先墨西哥に出張し、同国貨幣制度の改革案編成に就き墨西哥の委員と協議を凝らし、大略其方針を決定したる上本国に帰り本年五月二十日米墨両委員は英国に向け出発せり、而して該委員は英国政府に数回の交渉を試みたるに同政府は深く其旨趣を賛成し、六月三日調査委員を設け英清新条約締結委員「サー」ジエームスマツケー、香港上海銀行倫敦支店支配人「サー」アイワン・キヤメロン、大蔵省書記官長ロバート・カルマース、海峡植民地幣制調査委員ダブルユー・ブレーン、同ジー・ダブルユー・ジヨンソン五氏を委員とし、両国委員と英国委員との協議会は六月八日より開始せられて協議を重ねしが、米国委員等は夫より仏蘭西に赴きて同国の委員と会見し、転じて海牙に入り、後独逸に至り同委員と協議せり、同国の委員は独逸帝国銀行総裁コツホ、同行理事ルンム、大蔵省参事官ドムボイス、普国大蔵省伯爵レードルン、植民局博士ヘルヘエリツヒ、独逸銀行ルツケ、割引会社サロモンソーン及び独亜銀行ウルピツクの諸氏なりき
夫より米国委員は露京聖彼得堡に至り同国委員と会見せる後、一旦本国に還りて之が報告を為せり、而して米国委員の一人ジエンクス氏は更に清国及印度、南洋等に於ける幣制を調査せんが為めに東洋に航し先づ我国に立寄りて帝国政府に交渉する所あり、我国に於ても直に一の調査委員会を組織し、十一月十七日より日本銀行に於て協議会を開きたり、其委員は政府より坂谷大蔵総務長官《(阪谷)》、杉村通商局長、水町理財局長、森田商工局長、神野大蔵書記官、塚田大蔵省参事官の六氏、民間より渋沢第一銀行頭取、松尾日本銀行総裁、高橋日本銀行副総裁相馬横浜正金銀行頭取、添田日本興業銀行総裁、早川三井銀行専務理事の六氏選定せられ小村外務、曾根大蔵の両大臣亦之に臨み、爾後同
 - 第7巻 p.777 -ページ画像 
月二十一日迄五日間の協議を重ねたる末、一の意見書を作りて之を氏に交付せりと云へり
○下略


中外商業新報 第六五五六号〔明治三六年一一月二〇日〕 幣制問題協議会(米国委員ヂヱンクス氏と本邦委員会合)(DK070100k-0002)
第7巻 p.777 ページ画像

中外商業新報 第六五五六号〔明治三六年一一月二〇日〕
    幣制問題協議会
          (米国委員ヂヱンクス氏と本邦委員会合)
頃日来帝国ホテルに投宿中なる米国貨幣委員ジヱンクス博士は、東洋幣制問題に関し使命を帯び本邦に交渉協議する為め来朝したるを以て先づ小村外相は、去十五日午後六時半同博士並其随行員二名及相客として阪谷大蔵総務長官、杉村通商局長、松尾日本銀行総裁、渋沢男爵等を其官邸に招き鄭重なる晩餐の饗応を為し、右問題に関する協議の順序を打合せ其結果先つ協議会の第一回を去十七日午前十時日本銀行に開会し、小村外相、曾禰蔵相も臨場し、政府側よりは
 阪谷大蔵総務長官、杉村通商局長、水町理財局長、森田商工局長、神野大蔵書記官、塚田大蔵省参事官
の六氏、民間側よりは
 渋沢男爵、松尾日本銀行総裁、高橋同副総裁、相馬正金銀行頭取、添田日本興業銀行総裁、早川三井銀行専務理事
の六氏出席し、ジヱンクス氏よりは(一)其の使命の目的(二)使命を受くるに至りたる順序(三)提案の理由(四)之に関する欧州各国官民の意向等を説明する所ありて正午一先づ閉会したるか、更に一昨十八日及昨十九日共前記の諸氏日本銀行に集会しジエンクス博士の説明を聞き協議を重ねつゝありて尚当分日日之を継続する筈なりと云ふ

渋沢栄一伝記資料 第七巻 終