デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2018.12.20

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

2章 交通
2節 鉄道
1款 東京鉄道組合
■綱文

第8巻 p.503-513(DK080039k) ページ画像

明治10年3月26日(1877年)

前議ニ依リ華族督部長岩倉具視ニ同組合ヲ華族銀行ニ併合ノ事ヲ諮ルニ可否スル所ナシ。然後具視ノ考案アリ、即チ禄券全額ヲ以テ華族銀行ニ加入シ、同行創立ノ上ハ鉄道払下年賦金ヲ一時ニ上納シ以テ衆華族ノ共有ト為スベキ内命アリタリ。仍テ是日第三十一回臨時会議ヲ開キ該考案ヲ審議ニ付ス。栄一夫レノ組合ニ不利ナル所以ヲ説キ、反案トシテ同行ヨリ毎季上納金ヲ借入レ以テ完納後
 - 第8巻 p.504 -ページ画像 
衆華族ノ共有ト為スヲ得策ト為ス。次会ニ於テ衆議之ヲ可トシ、且同行トノ交渉ヲ栄一及肝煎林厚徳ニ委ス。


■資料

鉄道組合会議要件録 第三巻(DK080039k-0001)
第8巻 p.504-505 ページ画像

鉄道組合会議要件録 第三巻 (株式会社第一銀行所蔵)
    第卅回定式会議 明治十年一月十八日於第一国立銀行閣内開之
                 出席人名
                     亀井玆監代理
                      清水格亮
                     伊達宗城伊達宗徳代理
                      西園寺公成
                     池田章政池田茂政代理
                      三谷峻
                     榊原政敬代理
                      塩谷正直
                     毛利元敏代理
                      難波舟平
                     久松定謨久松勝成代理
                      河東坤
                     九条道孝代理
                      藤井祐澄
                     蜂須賀茂韶代理
                      林厚徳
                     松平慶永松平茂昭代理
                      武田正規
                     池田輝知池田慶徳代理
                      吉田恭敬
                     徳川慶勝代理
                      井上喬
                     井上直憲井上直安代理
                      金田師行
                     松平頼聡代理
                      三宅十郎
                     毛利元忠代理
                      柏村信
                     毛利元徳代理
                      笠原昌吉
                     前田利同代理
                      浅野長雄
                     前田利嗣代理
                      北川亥之作
                   会頭 渋沢栄一
                   欠席 山内豊範
                   同  大村純熙
                   同  池田徳潤

    第一節
右一同午後三時議席ニ就ク、総理代人ハ演説シテ曰ク、本日ハ要議ノ件アラス雖トモ、本年新首ノ定式会議ニ当タレハ故ラニ之ヲ開キ以テ第二季上納証書其外報告ノ文牒等ヲ各位ノ一覧ニ供セント欲ス、則其文書ヲ展キ各位皆之ヲ検閲セリ、其書目ハ左ノ如シ
一第二季年賦金上納証書
一第一回以下利息会計第一国立銀行報告書
一総理代人担当月費金明治九年分歳計表
一鉄道組合明治九年事務名数表
    以上
    第二節
 - 第8巻 p.505 -ページ画像 
肝煎林厚徳ハ各位ニ謂テ曰、客年総理代人ヨリ肝煎ニ向ツテ同年ノ月費歳計表ヲ報告シ、且本年一月ヨリ定費ノ半額ヲ殺キ、総理代人ノ領収ノ項ヲ除カンコトヲ請ヘリ、是渋沢氏ノ衷情ニ出ル所聴カサルヲ得ス、然レトモ此組合ノ猶存立シ随テ委托ノ事務有ラサルナキ者同盟安ンソ其請ニ任セ、半額ノ費ヲ減スルノ理アランヤ、因テ其旧額ニ置カンコトヲ已ニ勝部静男ヲシテ回答セシメタリ、而シテ渋沢氏更ニ請フニ此回答ノ意モ蔑シカタク、前志モ亦失ヒ難シ、如カス旧額ヲ存シ其半額ヲ将ツテ月費残余ノ項ニ合セテ月々之ヲ積ミ、他日ノ用ニ充ツルトキハ則自他衷志ヲ失ハサランコトヲ以テセリ、小子甚タ其挙ニ従フ各位以テ如何トナス、各位皆林氏ノ説ニ従ヒ其総理代人ノ辞シテ更ニ請フ所ニ任スヘキコトヲ決定セリ
右会議畢テ一同退場ス、時午後四時


鉄道回章留(DK080039k-0002)
第8巻 p.505 ページ画像

鉄道回章留 (渋沢子爵家所蔵)
    ○
御組合事業之儀も過日之御会議ニ而明年七月頃迄ニは会館之方策ニ御共併可被為在候ニ付而は、私儀是迄頂戴仕候職等金之儀は明年一月ヨリ御休廃被下度、尤総理代人名儀之儀は御委托之通依然相心得居候、弥御共併之節迄は従前之通万端乍不及注慮可仕候、且書記共之儀は事務繁閑一ナラス候得共差向相廃候而も差支候間、先ツ従前之如ク差置申度候、夫是ニ付明年ヨリは月費金円御減相成書記給料其他費用之為メ毎月百円ツヽ御支給可被下積取計可申候間、此段御諒知可被下候
別紙本年歳計表編製仕候間供御一覧候、尤月計之儀は毎月明詳ニ計算致し、夫々帳簿御座候間、何時ニ而も御撿閲被下度候
先は要詞而已陳述歳内余陰無之、各位閣下折角御歳愛奉伏祈候 不宜
  九年十二月卅日
    池田慶徳様
    伊達宗城様
    林厚徳様


鉄道組合会議要件録 第三巻(DK080039k-0003)
第8巻 p.505-510 ページ画像

鉄道組合会議要件録 第三巻(株式会社第一銀行所蔵)
    第卅一回臨時会議 明治十年三月二十六日於第一国立銀行閣内開之
                 出席人名
                     大村純熙代理
                      佐藤甚兵衛
                     榊原政敬代理
                      塩谷正直
                     亀井玆監代理
                      清水格亮
                     久松勝成久松定謨代理
                      河東坤
                     池田輝知代理
                      小倉穀豊
                     毛利元敏代理
                      難波舟平
                     池田章政代理
                      三谷峻
                     伊達宗徳代理
                      井関盛艮
                     毛利元徳毛利元忠代理
                      柏村信
 - 第8巻 p.506 -ページ画像 
                     池田慶徳代理
                      勝部静男
                     徳川慶徳代理
                      井上喬
                     蜂須賀茂韶代理
                      林厚徳
                     松平頼聡代理
                      三宅十郎
                     井伊直安代理
                      奥山藤十郎
                     九条道孝代理
                      藤井祐澄
                     前田利同代理
                      浅野長雄
                     山内豊範代理
                      中尾好礼
                     井伊直憲代理
                      更田荘蔵
                 総理代人 渋沢栄一
                     松平頼聡内
                 傍聴   辻盛令
                 欠席   松平慶永
                 同    松平茂昭
                 同    前田利嗣
                 同    地田徳潤
                 同    池田茂政
                 同    伊達宗城
    第一節
右一同午後二時刻下ニ於テ議席ニ着シ肝煎林厚徳ハ衆ニ告テ曰、本日臨時会議ヲ開クハ至急ノ議案アツテ各位ノ論見ヲ要セントスルニ在リ而シテ此議案ノ由来スル所ハ先ツ勝部静男及ヒ柏村信ヨリ其順序ヲ演叙スヘシ
於玆テ勝部静男ハ第一次ノ演説ヲ為シテ曰、此組合ノ嘗テ屡特別臨時会議ヲ開キシハ蓋轗軻スル所アルニ因レリ、而シテ其帰結ノ定案ハ未タ岩倉公ノ可否スルアラス、爾来吾儕ハ又私カニ小集ヲ設ケ此組合将来ノコトヲ論談セリ、然レトモ毛利元徳公ノ如キ殊ニ担保ノ金額ヲ履行セラルヽ者アリ、又否サル者アリテ組合ノ全体ヲ一率スル能ハスシテ小集ノ考案ハ遂ニ華族銀行ヨリ金ヲ索メ、之ヲ政府ニ上納シテ一時ニ鉄道ノ実業ヲ占有センコトヲ計ルニ出テ、幸ニ柏村氏ノ同銀行ニ関与スルアルヲ以テ先ツ同氏ヲシテ吾儕ノ此組合ノ為メニ企望スル所ヲ周旋セシメ、其成機ヲ得テ之ヲ衆位ト協議スヘシト、乃チ之ヲ柏村氏ニ謀リ同氏モ此挙ヲ喜ヒ、即チ林氏ト与ニ岩倉公ニ内稟ス、公亦相喜テ曰、若シ此挙ニ出ツレハ鉄道組合ハ速カニ以テ長策ニ達シ、華族銀行ハ以テ確実ノ営利ヲ得ル、是一挙両全宜ク之ヲ大蔵卿ニ詢ルヘシト於此テ吾儕ハ特ニ其方法ヲ総理代人ニ求メ各位ト与ニ其挙ヲ熟議セントスルニ際シ、今日林氏ノ発論ノ如キ甚タ喫緊ノ議案アルニ遭ヒタルニ至ル、是其由来スル所ノ一項ナリ、蓋吾儕斯クマテ苦心焦慮スル者ハ自カラ信シテ此組合ニ忠アリトナス、願クハ各位之ヲ諒悉セヨ
柏村信ハ第二次ノ演説ヲナシテ曰、岩倉公ノ嘉諾セシ所ハ已ニ勝部氏ノ演述ノ如クニシテ其大蔵卿ヨリノ回答アル所ヲ聴ケハ、華族銀行ノ金ハ悉皆之ヲ大蔵省ニ借リ、更ニ此内ヲ鉄道組合ニ貸スコト能ハス、請フ別ニ岩倉公ニ考案アレヨト、因テ華族銀行ハ更ニ籌策ヲ設ケテ此組合ニ求メント欲スル所アツテ其照議スヘキコトヲ岩倉公ヨリ内命ア
 - 第8巻 p.507 -ページ画像 
リト、而シテ其要旨ヲ陳述ス、蓋左ニ記載スル数項ノ如シ
一此般華族銀行設立ニ付銀行紙幣弐百万円ヲ一時ニ大蔵省ヘ上納、然シテ残額百十万円ハ無利年賦皆納之儀ヲ上願之積リ
一六郷川鉄橋並副線等落成ノ上引渡相成迄、上納金額弐百万円ニ対シ年六朱ノ利子ヲ請取ノ積
一残百拾万円年賦上納之目的ハ、宮内省ヘ御借上金百万円元利返納之分ヲ振込ノ積リ
一第二季迄上納金額四拾弐万八千円ハ大蔵省ヨリ下付セラレンヨトヲ願ヘシ
一前条之通四拾弐万八千円下ケ渡シ相成候ハヽ、各家其金額ヲ当銀行ヘ振込株数ヲ増加スヘシ
一是迄鉄道組合ヨリ創業入費其外上納不足金等第一国立銀行ヨリ借入ノ金額ハ当銀行ヨリ還納シ、商議之上当銀行創業入費ヘ差加ヘ候テモ可然歟
一前条之通処分済之上ハ該鉄道ハ華族中所有ハ勿論タルヘシ
    以上
    第二節
林厚徳ハ更ニ衆ニ告テ曰、已ニ両氏ノ演説ノ如ク此組合ハ曾テ数変ノ後今日此事情ニ至レハ宜シク衆議ヲ尽シテ岩倉公ノ示サルヽ華族銀行ノ計策ニ従フカ、或ハ別ニ考案ヲ立ルカ、此際岩倉公ニ対シテ其帰結ヲ復陳セサルヘカラス、且今朝復タ公ニ謁シ答フルニ此案ノ決定スル今日ノ一会ニアルカ、或ハ数会ニ渉ランカヲ以テスルニ、公ハ蓋其速定ヲ欲スルト雖トモ、伊達・池田両公其他駐輦ニ従フ者多ケレハ各自令扶ニ委任アルモ目下勿卒大事ヲ議シ、後日紛情ノ起ランコトヲ省ミサルヘカラス、仇テ須ラク熟按練謀以テ覆裁アランコトヲ望ムト云、因テ願クハ各位反覆考案シテ其意見ヲ回陳セラレンコトヲ、於玆テ勝部静男ハ其決定ニ於テハ、各君侯ノ帰京ヲ待ツヘシト雖トモ、今日先ツ各一分ノ予案ヲ論述スヘキコトヲ発議シ、林厚徳モ同論タリト雖トモ、当下未タ其予案ヲ述ル者アラスシテ此際総理代人出席シ更ニ演説スル所アリ、次ノ第三節ニ載ス
    第三節
爰ニ総理代人ハ衆位ニ対シ演説シテ曰、今日ノ会議ハ此組合ノ常務ニアラス、将来ノ目的ヲ考案スルニアリ、而シテ這回岩倉公ノ意見アル所ハ前刻已ニ三氏ノ演述アリテ其決答ニ至テハ之ヲ今日ニ求ムヘカラス、且小子亦一分此組合ニ義務アルヲ以テ前刻鄙見ヲ林氏ニ述タリ、其説タル未タ熟案ニ出テスシテ自ラ確信スルニ遑アラスト雖トモ、今諸君覆陳考案ノ為メニ陳述セン、請フ幸ニ参取セラレンコトヲ
今夫レ華族銀行ノ籌算トシテ此組合ニ求ムル所ハ彼ニ於テモ変策ニシテ此組合ニ於テモ甚タ不利アリ、請フ其不利ノ標点ヲ摘取セン、今一時ニ弐百万円ヲ納メテ他ノ壱百万円ハ更ニ年賦ヲ延ストセハ官府ニ対シテ既定ノ約款ヲ変換シ、更ニ請願セサルヘカラス、是其一ナリ、嘗テ上納セン《(シ)》二季分納金ノ還付ヲ請ヒ、之ヲ以テ増株トセハ此組合ノ各位ノミ殊ニ金禄公債証書外ノ銀行株ヲ得ルニ至ル、之ヲ平等ノ制ト云難シ、是其二ナリ、右二季上納ノ分ヲ銀行ノ株トセハ通貨ト金禄公債
 - 第8巻 p.508 -ページ画像 
証書ヲ同視スルニ似テ自今銀行株ニ生スル殖益ハ共通貨運用ニ於テ得ル所ノ利分ヨリ減少ス、蓋損ト謂フヘシ、今之ヲ翻案シテ従前ノ約款ヲ履ミ、毎季其金額ヲ華族銀行ヨリ借入シテ之ヲ上納スルトセハ政府下付ノ利息ヲ将テ華族銀行ニ利息ニ払ヒ其間得失ナクシテ計算モ亦煩冗ナラス、且華族銀行ニ於テモ敢テ準備ノ設ケニ苦マスシテ其金額ヲ貸出スコトヲ得ルヘシ、如此コトヲ得ハ彼ノ三不利ヲ見サルノミナラス反ツテ自他ノ便利ヲ得ン、然則岩倉公ノ此考案ヲ嘉納セサルナキハ小子カ公平ノ見ヲ以テ信スヘキナリ、且夫レ此組合ノ要点タル鉄道ノ業務ヲ維持セント欲スルニ在リテ彼亦焉ニ艶スルヨリ既已先議ノ如ク第三季ノ合併論ニ帰結セシコトナレハ、今此考案ハ未タ熟策ニ出テサル者ト雖トモ又其計路ニ外レサル者ナレハ敢テ各位ノ参考アランコトヲ企望ス、而シテ前刻林氏ノ説ノ如ク方今岩倉公ニ対シ其予案ダモ開申セサルヘカラス、因テ又各位近日其予案ヲ覆裁セラレンコトヲ望ム於玆テ林厚徳ハ各位ニ告テ曰、今総理代人ノ説ノ如キ自家即決セスト雖トモ予メ其適当ノ説ナルヲ信ス、而シテ岩倉公モ之ニ対シテ霄壌ノ見アラサルヘシ、果シテ然ラハ毎季其金額ヲ華族銀行ヨリ借入シテ之ヲ上納シ、畢竟衆華族ト合併セハ又何ノ不可カ之アラン、敢テ問フ各位ハ華族銀行ノ計算ヲ可トスルカ、今総理代人ノ説ク所ニ同スルカ、今日目下ニ決スヘカラスト雖トモ宜シク各予算ヲ定メ、近日臨時会議ヲ開キテ之ヲ述フヘシ、而シテ或ハ決ヲ在西京ノ君侯ニ取リ、以テ岩倉公ニ確答スル者ハ如何、各位皆此言ニ従フ
因テ総理代人ハ各位ニ詢リ明後廿八日ヲ以テ更ニ会議ヲ開クヘキコトヲ定メ、且今日ノ所説ヲ録シテ廿八日ノ会場ニ於テ之ヲ各位君侯ニ問候ノ為メニ開呈スヘキコトヲ告ケ、畢テ一同退場ス、時五時三十分
    第三拾弐回臨時会議 明治十年三月廿八日於第一国立銀行閣内開之
                 出席人名
                     榊原政敬代理
                      加藤直栗
                     亀井玆監代理
                      清水格亮
                     前田利嗣代理
                      高橋作善
                     久松勝成久松定謨代理
                      河東坤
                     毛利元敏代理
                      難波舟平
                     大村純熙代理
                      佐藤甚兵衛
                     松平頼聡代理
                      三宅十郎
                     蜂須賀茂韶代理
                      林厚徳
                     池田章政代理
                      三谷峻
                     伊達宗徳代理
                      井関盛艮
                     井伊直安代理
                      奥山藤十郎
                     井伊直憲代理
                      更田荘蔵
                     前田利同代理
                      高沢忠義
                     九条道孝代理
                      藤井祐澄
                     徳川慶勝代理
                      井上喬
                     山内豊範代理
                      中尾好礼
 - 第8巻 p.509 -ページ画像 
                     毛利元忠代理
                      柏村信
                     池田慶徳代理
                      勝部静男
                 総理代人 渋沢栄一
                 欠席   松平慶永
                 同    松平茂昭
                 同    伊達宗城
                 同    毛利元徳
                 同    池田茂政
                 同    池田徳潤

    第一節
右一同午後三時前刻ニ議席ニ着シ、総理代人ハ各位ニ問テ曰、各位前会ニ於テ求メアルニ従ヒ華族銀行ノ考案ニ対シ更ニ方案ヲ設ケ其草録ヲ以テ前刻已ニ衆覧ニ供セリ、蓋是前会演述ノ旨ニ異ナラスシテ若之ヲ用ヒハ彼ノ考案ノ我ニ不利アル者ヲ免カルヽ耳ナラス彼我共ニ支障スル所ナカルヘシ、各位此考案ニ於テ如何ノ見解ヲナスヤ、考案ハ編尾ニ載ス於玆テ各自該考案ニ就テ其不審アル所ヲ総理代人ニ質シ、又甲乙ノ問答アツテ一旦談論支出セリト雖トモ之カ為メ疑点氷釈シ、遂ニ本議ノ団結スルニ至レリ、因テ其質問答弁ノ要領ヲ採リ、録シテ議次ニ挿入スルコト左ノ如シ
林厚徳問フ、華族銀行ノ資本中三百万円ノ別額アルヲ以テ我属ハ之ヲ借用シテ此組合ノ上納金ニ充テントス、然レトモ其中壱百万円ハ宮内省ニ於テ借上ルトセハ其準備トシテ弐拾五万円ヲ要スヘシ、然則他弐百万円ノ如キハ一時ニ貸スモ毎季ニ貸スモ亦其準備ヲ設ケサルヲ免カルヘカラス、其籌算ヲ如何セン
総理代人答、是則実務ノ活法ニ在テ存スルナリ、若夫華族銀行ニ於テ壱百万円ハ宮内省ニ借上ケ他ノ弐百万円ヲ閑却セシムルトキハ固ヨリ歯牙スルニ足ラスト雖トモ、既ニ此組合ニ貸付スルトセハ之ヲ一時ニセサルモ亦何ノ妨アラン、何者此組合ニ貸与スルノ残額ハ漸次之ヲ他方ヘ貸出シ、又之ヲ還収シ、其応分ノ準備ヲ積ミ季ヲ逐テ此組合ノ需ニ充ツ亦何ノ障害カ之有ラン、然リ而シテ華族銀行ハ年々政府ヨリ収納スル利子許多ニ居ルヘシ、モシ或ハ之ヲ用ヒハ此組合ニ貸出スヘキ金額ノ準備ニ充ツルコトヲ得ヘシ、是他人ノ財ヲ数ルニ似タリト雖トモ、同銀行ガ必ス我ニ貸スコトヲ欲セハ則此推測モ無益ト謂フヘカラス
総理代人問フ、華族銀行ヨリ宮内省ニ貸出スヘキ金額ノ還収年限ハ幾許ナリヤ
柏村信答、大約五ケ年ヲ以テ元利平収スヘキ計算ノ如シ
総理代人曰、然則華族銀行ハ其三百万円ノ紙幣ヲ運用シテ此組会ニ貸与スルハ向後六ケ年ノ賦納タレハ、漸次宮内省ヨリ返収スルモノヲ以テ之ニ充ルモ亦容易タルヘシ
    第二節
右ノ問答ニ由テ互ニ精ヲ釈キ、薀ヲ審カニセリ、因テ勝部静男ハ此組合中両三名ヲ撰テ彼ノ銀行事務経掌ノ人ニ接シ、此反案ノ要旨ヲ説キ
 - 第8巻 p.510 -ページ画像 
以テ彼ノ向背ヲ試問センコトヲ発議ス、而シテ総理代人ハ先ツ本日ノ議次ヲ立テ、各位両案ヲ可否シテ之ヲ決シ、果シテ新案ヲ取ルニ至レハ其際勝部氏ノ議ヲ要スヘキコトヲ以テス、蓋林氏柏村氏等モ亦嘗テ此説ニ同スル所ナリ
因テ総理代人ハ更ニ各位ニ対シ宜シク両案ヲ採択スヘキコトヲ告ク、衆位概ネ反案即チ総理代人ノ考察ヲ取テ之ヲ可トス、但久松氏代理河東坤・山内氏代理中尾好礼ノ二名ハ原案即チ華族銀行ノ考案ニ従フト云、於是テ総理代人ハ復タ各位ニ対シ議已ニ多寡ヲ判ツ、多数ニ因テ決スヘキヤヲ問フ、林厚徳第一答議ヲ立テ多数ニ従テ決スヘキコトヲ以テシ、衆位之ニ同シ、即チ反案ヲ以テ華族銀行ニ商議スヘキコトニ決定セリ
    第三節
柏村信曰、已ニ本議ノ決定ヲ得タレハ此反案ノ要旨ヲ華族銀行ニ商議スヘキ其委員ノ如キハ肝煎ト総理代人ノ両名ニ之ヲ委托スヘシ、蓋彼ノ準備ノ談ノ如キニ到テハ吾儕能ク之ニ当ルヘカラス、而シテ彼猶草創ニ居ルモノ、若シ我カ熟手ヲ以テ接スルトキハ彼却テ得ル所アツテ我亦求ムル所ニ於テ機会ヲ得ン、請フ両氏此委任ニ当レヨ、因テ肝煎林厚徳及ヒ総理代人渋沢栄一ハ此委托ヲ肯諾シ衆位亦頗ル安足セリト云、而シテ柏村信及ヒ勝部静男ヨリ華族銀行ニ此件ヲ紹介シ、其日ヲトシテ更ニ委托ノ両員ニ通知スヘキコトヲ約ス
総理代人ハ又衆位ニ告テ曰、爾後華族銀行ニ商議ヲ経テ更ニ臨時会議ヲ開クヘキナレハ、各位宜シク今日ノ定案ヲ以テ其君侯従輦ニ在ル者ハ之ニ申報シ、他日各其確定ヲ回陳スヘシト、各位皆之ヲ諾シテ退場ス、時五時下
   ○華族銀行ハ嚮ニ明治九年十一月以来華族局督部長岩倉具視カ、全華族所有ノ金禄公債ヲ集合シ之カ協同運用ノタメ創立ヲハカリシモノニシテ、明治十年三月七日徳川慶勝外五名ノ名ヲ以テ創立ヲ出願シ、同月二十一日第十五国立銀行ノ名称ト共ニ許可セラル、其創立沿革及ヒ資金運用ノ予算ハ「参考」ノ華族会館誌附録第四巻及岩倉公実記下巻ヲ参照スヘシ。
   ○右第十五国立銀行ヨリ宮内省ヘノ貸上壱百万円ハ岩倉具視ハ更ニ之ヲ宮内省ヨリ貸下ヲ請ヒ、衆華族ノ負債消却資金トナサント計画セルヲ云フ、即チ後是歳八月二十七日具視書ヲ宮内省ニ呈シ同省ヨリ六十万円ノ貸下ヲ請ヒ、九月十二日宮内省令ニヨリ第十五国立銀行ヲ通シテ六十万円ノ借用ヲ許セルモノ之ニ当ルカ(華族会館誌附録第四巻)。
   ○ナホ東京鉄道組合ト第十五国立銀行トノ借款交渉ニツキテハ、明治十年四月二日、八月十八日及十一月二十九日ノ各条参照スヘシ。
   ○第三十二回会議要件録ニ編尾所載トアル栄一ノ反案草稿ハ是書ニ附載セス今他ニモ之ヲ得ス、蓋シ第三十一回臨時会議ニ於テ栄一演説スルトコロノ提案ニ略等シキモノカ、前掲同会議第三節参照。



〔参考〕華族会館誌附録 第四巻 華族共立第十五国立銀行(DK080039k-0004)
第8巻 p.510-511 ページ画像

華族会館誌附録 第四巻
    華族共立第十五国立銀行
明治九年八月五日、太政官華士族ノ家禄賞典禄ノ制ヲ改メ、更ニ条例ヲ設ケ、明治十年ヨリ公債証書ニ換ヘ一時ニ之ヲ下賜スヘキヲ令ス、同月二十六日宮内省督部長岩倉具視ヲ召シ之ニ命シテ云ク、今般禄制
 - 第8巻 p.511 -ページ画像 
改革ニ付テハ衆華族前途ノ目的ヲ立テ、一層家政ヲ斉理セシムルニ注意スヘシト
九月二日ヨリ同十三日ニ至リ、督部長日々華族ヲ部分招集シテ宮内省ノ命ヲ伝ヘ、九ケ条ノ演説書書ハ会館ノ部ニ詳ナリヲ示シ、不動産ヲ興シ、協同会社ヲ結ヒ、公益ヲ図リ、各家保存ノ道ヲ立テン事ヲ説諭ス、此ニ於テ同族大ニ感激シ、其禄券ヲ集合シ資本トナシ一大銀行ヲ設立シ、公益ヲ図ルノ議興ル
十一月三十日、銀行創立ノ議略ホ定マルヲ以テ、一等弁事中村清行ニ銀行創立ノ事務ヲ担当セシメ、柳原前光之ヲ督シ、乃チ事務所ヲ会館中ニ設ケ創立ノ事ヲ計画ス、然ルニ同族中或ハ異議ヲ主張シ、或ハ遅疑ヲ抱キ、苦情百出、之ヲ説諭スル殆ト頻煩ヲ極ム、是月館長岩倉具視外債償却鉄道建築銀行創立ノ順序書ヲ草シ衆華族ニ示シ、之ヲ諮詢ス○順序書略
十二月十二日、毛利元徳・万里小路通房・武者小路実世ヲ以テ銀行創立㕝務調査掛トナス
三十一日、衆議稍定ル、乃チ書ヲ大蔵省ニ出シ、銀行創立ノ事ヲ請願ス○下略
十年二月三日○中略是ヨリ先キ衆議シテ銀行創立ノ事ヲ岩倉氏ニ委任ス、同氏乃チ其事務ニ練達スル者ヲ撰用シテ創立ノ事ニ著手シ熊谷武五郎・柏村信・肥田浜五郎・肥田昭作等ヲシテ専ラ其事ヲ担当セシム二十四日、蓬莱社ノ家屋ヲ購入シ、銀行本舗トナシ、及ヒ銀行発起人五名ノ姓名ヲ公掲スル等ノ事ヲ内決ス、発起人五名ハ毛利元徳・徳川慶勝・藤堂高潔・松平茂昭・南部利恭ナリ
二十八日、会館中ニ設置スル所ノ銀行事務所ヲ廃シ、宝田町岩倉氏ノ邸内ニ銀行創立仮局ヲ置ク
四月二十七日、大蔵卿代理大蔵大輔松方正義、前日請願スル所ノ六条ヲ許可ス、是月督部長岩倉具視更ニ銀行創立順序条款変革ノ事ヲ衆華族ニ報告ス○報告書略ス
五月三日、毛利元徳ヲ以テ銀行頭取トナシ、中村清行ヲ同支配人トナス
二十一日、徳川慶勝副頭取ニ選定ス、是日大蔵省本舗開業ノ免状ヲ下付ス、仍テ即日開業


〔参考〕岩倉公実記 (岩倉公旧蹟保存会発行) 下巻・第五〇二―五一一頁〔昭和二年七月〕(DK080039k-0005)
第8巻 p.511-513 ページ画像

岩倉公実記 (岩倉公旧蹟保存会発行) 下巻・第五〇二―五一一頁〔昭和二年七月〕
是ニ於テ具視ハ衆華族ニ国立銀行設立ノ許可ヲ得タルヲ以テ、既往将来ニ係ル施行順序ヲ報告ス、其口演書ニ曰ク
 勅諭ヲ欽奉シ、其旨趣ニ依遵シテ客歳十二月三十一日別冊第一号、則チ外債償却鉄道築造銀行設立ノ願書ヲ大蔵卿ニ呈セシニ、本年二月三日其紙尾ニ朱書ノ如ク指令セラル、因テ銀行設立ノ調査ニ従事シ、一般ノ手続ヲ以テ三月七日第二号、則チ銀行創立ノ願書ヲ大蔵卿ニ呈セリ、其後三月廿一日ニ至リ其紙尾ニ朱批シテ之ヲ許可セラル○中略今マ其概略ヲ陳述スルコト左ノ如シ○別紙略ス
 一華族一同受領スル所ノ金禄公債証書ヲ合集シ一箇ノ銀行ヲ設立センカ為メ、客歳其創立ノ順序書ヲ編成シ、之ヲ諸君ニ報告セシ
 - 第8巻 p.512 -ページ画像 
ニ、具視ハ諸君ノ推薦ニ膺リ銀行創立ノ方法凡百営為ノ事務一切之ヲ担当スヘキノ委託ヲ受ケタリ、因テ華族総代ノ名義ヲ以テ第一号ノ願書ヲ大蔵卿ニ呈セリ、既ニシテ其許可ノ命下ル、是ニ於テ一般ノ手続ヲ以テ銀行設立ノ出願ヲ為スニ至レリ、然リト雖具視官ニ在ルヲ以テ銀行発起人トナリテ其願書ニ調印スルヲ得ス、故ニ創立証書及大蔵省命令書ノ請書ノ如キハ固ヨリ担当調理スト雖、大蔵卿ニ開申等ノ事ハ発起人ヲ置キ、其名ヲ以テ之ヲ開申セシメタリ
 一華族一同ニ賜ハル金禄公債証書ノ総額ヲ概算スルニ三千万円ニ下ラス、此ヲ以テ客歳大蔵卿ニ稟議ノ上五朱利付ハ百円ニ付六十円六朱利付ハ百円ニ付七十円、七朱利付ハ百円ニ付八十円トシテ其実価ヲ予算スルニ、総額凡ソ千八百拾八万余円ニ至レリ、然ルニ愈銀行開設ノ期ニ臨ミ其実価ノ確定セサルニ於テハ随テ確算シ得ヘカラサルヲ以テ、今年更ニ其価格ヲ大蔵省ニ稟議セリ、然ル処同省ノ議ニ於テ公債証書ヲ預納スルハ素ヨリ銀行紙幣ノ抵当タルヲ以テ尋常至当ノ価格至当ノ価格トハ一割利引ノ算法ニテ大蔵省ノ規矩ナリ、譬ハ秩禄公債証書ヲ一割利引ノ算法ニテ此実価ヲ算出スル時ハ、百円ニ付九十二円余ニ当ルヲ得ル、然レトモ銀行抵当ニ之ヲ預納スル時ハ百円ニ付八十四円ヨリ以上ノ抵当ニ預納セサルノ類ナリヨリ尚幾分ヲ減少シテ之ヲ納ムヘキノ規矩ナリト、然レトモ当銀行ノ如キハ特別ノ詮議ヲ以テ尋常至当ノ価ヨリ格別ノ減少ヲ為サヽルカ故ニ、五朱利付ハ百円ニ付五十五円、六朱利付百円ニ付六十三円、七朱利付百円ニ付七十一円ノ割ニ預納セラルヽノ旨ナリ、此ヲ以テ計算スルトキハ実価総額ハ則チ千六百六十六万円余トナル、故ニ再三懇願シテ客歳ノ議ニ復センコトヲ大蔵省ニ請フト雖同省ノ規矩已ニ前述ノ如クナルヲ以テ増価ノ議行ハレス、此ヲ以テ止ムヲ得ス本年ノ議ニ決シ一般ノ計算ヲナス則チ左ノ如シ
 一金三千〇二十七万九千〇〇円 華族一同受領ノ禄券総高
  内訳
  金三千〇十一万千二百九十五円 五朱利付ノ分
  金十六万三千七百三十円    六朱利付ノ分
  金三千九百八十円       七朱利付ノ分
  外ニ
  金千〇四十八円二十二銭五厘
   是ハ明治九年太政官第百八号布告中第五条ニ掲クル所ノ成規ニ拠リ、各家受領金禄高ノ内五円未満ニシテ現金渡ノ総計ナリ
  右ノ禄券ヲ以テ銀行ニ加入スルニ方リ、先ツ其実価ヲ算出シ該実価丈ケノ銀行紙幣ヲ大蔵省ヨリ銀行ニ受取ル者トス
   客歳ノ稟議ヲ以テ予定ノ実価則チ銀行紙幣ノ総高
 一金千八百十八万四千五百七十二円
   但シ禄券百円ニ付五朱利ハ六十円、六朱利ハ七十円、七朱利ハ八十円ノ賦
    本年再三稟議ノ上確定ノ実価則銀行紙幣ノ総高
 一金千六百六十六万七千百八十七円九十五銭
   但シ禄券百円ニ付五朱利ハ五十五円、六朱利ハ六十三円、七
 - 第8巻 p.513 -ページ画像 
  朱利ハ七十一円ノ賦
   内
  金千五百万円            大蔵省ヘ貸上
  金百六十六万七千百八十七円九十五銭 余金
   右余金ノ処分ハ、客歳諸君ヘ協議ノ如ク、諸省使府県ヘ貸上スルカ、又ハ京浜間鉄道ノ資金等ニ充ツルノ見込ナリ
○中略
 一取締役ハ金禄多寡ノ次第ニ拠リ其首額ヨリ順次五名ヲ挙クルニ決シタリ、然ルニ其間事故アリテ固辞スル者アリ、或ハ未丁年ニシテ其任ニ適セサル者アリ、故ニ之ヲ除キ、順次ニ推及シテ以テ毛利元徳・徳川慶勝・山内豊範・黒田長知・池田章政ノ五名ヲ撰定セリ、此五名ノ中更ニ首額ノ一名ヲ挙ケ以テ頭取トナシタリ、然レトモ銀行創立ノ初ニ当テハ、発起人ノ称呼ニ非サレハ条例成規ニ適当セサルヲ以テ、此五名ヲ発起人トナシタリ
 一銀行創立ノ寛急ニ由リ大ニ利害損失ニ関係アリ、故ニ其開業ヲ大蔵卿ニ稟請スルハ務メテ迅速ナルヲ要スト雖、予定スル所ノ発起人中或ハ他行不在ノ者アルヲ以テ、藤堂高潔・松平茂昭・南部利恭ノ三氏ニ協議シ、一時発起人中ニ列セシメ、其闕員ヲ充ツ、然レトモ此挙ケ方タルモ亦金禄額ノ順次ノ例ニ依レリ○中略
  明治十年四月           督部長 岩倉具視