デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2018.12.15

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

2章 交通
2節 鉄道
20款 九州鉄道株式会社
■綱文

第9巻 p.265-303(DK090027k) ページ画像

明治32年9月26日(1899年)

九州鉄道株式会社ノ紛議調停ニツキ伯爵井上馨ヲ援ケ、調査委員詮衡ニ与リ、是日益田孝・片岡直温・住江常雄・根津嘉一郎ノ四名選バル、井上是等委員ト共ニ会社内容ヲ調査シ、翌三十三年二月其調査報告ニ基ク裁定ヲナシ、四月臨時株主総会ニ於テ重役改選行ハレ、玆ニ紛議全ク止ムニ至ル。此ノ間栄一関係者ト接見シ紛議解決ニ種種努ムル所アリタリ。


■資料

渋沢栄一 書翰 井上馨宛 ○(明治三二年)九月二五日(DK090027k-0001)
第9巻 p.265 ページ画像

渋沢栄一 書翰 井上馨宛 (井上侯爵家所蔵)
 ○(明治三二年)九月二五日
奉啓、然者過刻拝眉之後岩崎久弥氏へ面会いたし種々打合候処、明夕ハ多分深川邸ニて相催可申、人数ハ可成少人数ニ相願ひ、充分各自之意向も吐露して行違等無之様致度と申居候、且仙石氏ニも既ニ岩崎氏ハ面会之上、昨夕之御談話も逐一承り候由ニ御座候、又調査之為ニ東京大坂又ハ九州ニて各一人宛御指名と申事ニハ異存とてハ無之様子ニ候得共、仙石も一寸気六ツケ敷人物ニ付、精々井上伯之高案も御細示被下、思違抔不相生様致度と、其辺ニハ聊懸念致候哉ニ相見ひ候

頓首
右様之次第ニ付、此上駿河台ニ特ニ話合候迄も無之、明夕之御会同ニて方針等も妥協を得可申と存候、右書中申上度、尚委曲ハ明夕拝光ニて陳上可仕候 匆々謹言
  九月二十五日            渋沢栄一
    世外老閣
       侍史

麻生区宮村町四拾弐番地 井上馨殿 御直展
日本橋区兜町弐番地 渋沢栄一


渋沢栄一 書翰 井上馨宛 ○(明治三二年)九月二八日(DK090027k-0002)
第9巻 p.265-266 ページ画像

 ○(明治三二年)九月二八日
拝啓、過刻ハ尊書被下候処、折節途中ニて拝見致候ニ付、鉛筆匆卒之御答申上、欠敬多罪之至ニ候、然者過夕御示之調査員ハ益田氏ニ御談相成、同人も稍御引受申上候様子、又中上川氏より御回答申上候書中ニても大概不同意無之様子ニ相見候、就而ハ阿部泰蔵氏之事ハ見合候様取計、末延へも其段申通候義ニ御座候、又住江氏御談話之模様も過日仙石氏彼是申居候ニ付而も、此御仲裁之将来ニハ種々御懸念之点被為在候而、或ハ御断被成候場合不相性とも難被申云々御内示拝承、別而
 - 第9巻 p.266 -ページ画像 
恐縮之至ニ候、もしも右様之場合相置候《(起カ)》ハヽ、九鉄会社ニハ又々容易ならさる物議相起り、却而昔日ニ相増候紛擾と相成可申と存候間、目下之事情より御考被遊候ハヽ、随分御迷惑之段御察上候得共、何卒此処御耐忍被成下候様懇祈仕候、仙石とても閣下之御厚意ハ万々相心得百事感佩致居候義ニ付向後格別我儘申張候様之事ハ無之と奉存候、尚委細ハ明夕拝光ニて可申上候得共、不取敢奉復如此御座候 匆々不宣
  九月二十八日 渋沢栄一
    世外老閣
        侍史
  尚々中上川氏書状封入返上仕候也

井上伯爵様 渋沢栄一 御直展拝復


渋沢栄一 日記 明治三二年(DK090027k-0003)
第9巻 p.266 ページ画像

渋沢栄一 日記
 ○明治三二年
九月廿五日
朝今村清之助・安川敬一郎来ル、九州鉄道会社ノコトヲ話ス○中略二時過麻布井上伯ヲ訪ヒ、九州鉄道会社善後ノコトヲ談話ス○下略
九月廿六日 曇
午後第一銀行ニ於テ事務ヲ視ル、今村清之助来ル○中略五時岩崎弥之助邸ニ抵ル、井上伯・仙石貢・今村・麻生其他ノ諸氏来会、九鉄会社紛議調停ノコトヲ談話ス○下略
九月廿九日 雨
○上略 午後六時、浜町常盤屋ニ於テ開宴スル九州鉄道会社ノ懇親会ニ列ス○下略
九月三十日 曇
○上略 此夜築地香雪軒ニ於テ尾崎三良外数名ヨリノ招宴アリシモ、電話ニテ謝絶ス

渋沢栄一 日記 ○明治三三年(DK090027k-0004)
第9巻 p.266 ページ画像

○明治三三年
二月十日 晴
○上略 午後益田孝氏・井上伯・島田三郎・田中源太郎・萩原源太郎等ヘ書状ヲ発ス、三時医師三名来ル、内外部ノ治療ヲ受ク、病漸ク癒ルヲ覚フルモ、未タ外出ヲ為スニ至ラス
二月廿三日 晴
午前二三ノ来人ニ接ス、午後日本鉄道会社重役会ニ列ス、三時三井倶楽部ニ抵リ、井上伯ヨリ九州鉄道会社ノ実況調査ノ報告ヲ受ク○下略
三月三日 曇
午前数多ノ来人ニ接ス、益田孝・今村清之助・安川敬一郎諸氏来リ、九州鉄道重役選挙ノコトヲ内話ス○下略


東京経済雑誌 第四一巻一〇一七号・第二七五―二七七頁〔明治三三年二月一七日〕 ○九鉄事件の裁定(DK090027k-0005)
第9巻 p.266-268 ページ画像

東京経済雑誌 第四一巻一〇一七号・第二七五―二七七頁〔明治三三年二月一七日〕
    ○九鉄事件の裁定
 - 第9巻 p.267 -ページ画像 
重役と株主との間に確執を生し、久しく紛擾を累ねたる九鉄事件は、井上伯に請ひて其の裁定に一任することとなり、爾来伯は委員をして諸般の事項を調査せしめ、之れを材料として裁定を下したり、其の調査要領は頗る長きものにて、頃日関係者を召集し、先づ伯自ら朗読し次に安川・片岡の二氏伯に代りて朗読を継続し、二時間余にして漸く朗読を終りたりと云ふ、今伯が下したる裁定の箇条なりと云ふを聞くに左の如し
 一、商業に練熟なる人士を雇聘し専ら業務に従事せしむること
 一、現在の取締役十五名を九名以下に減少し、現在の監査役五名を三名以下となすこと
 一、株主の議決権利は商法に基き、一票に付き一個となすこと
 一、以上の主意に基き、定款の章句を修正すること
 一、以上の三項は次の株主総会に提出して決行せしむること
 一、各駅に赤帽を置き、乗降客の便利を謀らしむること
 一、各主要駅に於て公衆電報を取扱はしむること
 一、各駅に於て送迎切符を発売すること
 一、田の浦線布設工事を廃止すること
 一、船越線の一部たる博多篠栗間線路のみを布設し、其他は之を廃止すること
 一、貨物の市況に顧みて時々割引きを為し、就中石炭の如きは更に一歩を進め、実際に適切なる方法を為すこと
 一、稲佐線竣成の後には、佐世保線は営利上永く有益なる線路とは認むべからざるに付、佐世保停車場築造の設計を成るべく縮小すること
 一、事務員の取締法を施行し、且つ訓練方法を講じ、然る後漸次減員すること
元来重役と株主との確執せる論点は一にして足らずと雖、要するに株主は事業を縮小してまても配当の多きを希望し、重役は配当を減しても事業を拡張せんことを主張せるに在り、左れば株主は概して伯の裁定に悦服すべしと雖も、重役は果して之に服従すへきや否や、之を聞く、右の箇条中第一項は商業熟練家を雇聘し、万般の事務を一任するの意味にて、井上伯の意見は社長の外に専務取締役を置かんとするに在りしかば、斯くては仙石社長を俳斥することとなり、甚だ穏かならさるべしとて、伯に再思を求むるものあり、遂に前記の如く修正せられたるなりと云へり、而かも現任重役の外に商業に熟練なる人士を雇聘し、専ら業務に従事せしむることとありては、現任重役諸氏は決して平かなるを得さるべし、況や現在の重役を減少せんとするに於てをや、而して雨宮敬次郎氏は既に裁決の箇条中に十五名の取締役を減じて九名以下に減ずるとある以上は、現取締役に於ても誰を淘汰し、誰を居残らしむると云ふことも出来難かるべく、必ず総辞職の挙に出でらるゝならん、左すれば総辞職後の取締役撰任の事も、井上伯に依頼することとなしては如何と発言せしに、仙石氏は取締役撰任の事は当初依頼せし事件とは自ら別問題なれば、之をして再び井上伯に依頼することは如何はしく、加之後任の撰定を井上伯に依頼することとなす
 - 第9巻 p.268 -ページ画像 
に就いては、再び井上伯の門司行を煩はさゝるべからず、是れ忍びざる所なり、又総辞職の事も取締役減員より来りたる問題にして、取締役減員と云ふが如き事定款に関係を有する問題は、元来株主を代表して仲裁を依頼したるにもあらされば、此席にては何とも返答し難しと云ひ、両氏の間に押問答を累ねたれとも、結局要領を得さりしと云ふ左れば現任重役諸氏の意向は略々知るを得べしと雖も、伯の裁定は株主間には信用厚かるべきを以て、重役諸氏にして、之に不服なれば、辞職の外なかるべきか


中外商業新報 第五四七二号〔明治三三年五月一日〕 九州鉄道の総会(DK090027k-0006)
第9巻 p.268 ページ画像

中外商業新報 第五四七二号〔明治三三年五月一日〕
    九州鉄道の総会
九州鉄道会社は別項電報欄内に再録せる如く去廿八日門司本社に総会を開き、定式総会を終りて臨時総会に移り、予ねて本紙に掲載(二月廿五日及廿七日の紙上参照)せし井上伯の裁定書に基き議事を開きたるが、現任重役諸氏は徳義上悉く辞表を呈出し、更に井上伯の裁定に基き、取締役九名、監査役三名の選挙を行ひたるものゝ如し、今左に新任及辞任の重役氏名を列挙すべし
    取締役
   松田源五郎 仙石貢 坂井等 安川敬一郎 鹿野淳二(以上重任)
   阿部泰蔵 原六郎 片岡直輝 伊庭貞剛(以上新任)
    監査役
   住江常雄 伊丹弥太郎(以上新任)
   小河久四郎(重任)
    辞職重役
   今村清之助 井上保次郎 田中市兵衛 本山彦一
   麻生太吉 小林作五郎 江副義郎(以上取締役)
   山崎隆馬 斎藤美知彦
未だ総会の詳報に接せずと雖も、右に依りて見る時は、会社重役並に株主も能く井上伯の裁定を服膺し、其裁定の方針に依りて社務を経営せんとするものゝ如し
之より会社の基礎益々鞏固に其営業愈々経済的となるを得べきか


東京経済雑誌 第四一巻・第一〇二八号・第九一一頁 〔明治三三年五月五日〕 ○九州鉄道の総会(DK090027k-0007)
第9巻 p.268-269 ページ画像

東京経済雑誌 第四一巻・第一〇二八号・第九一一頁 〔明治三三年五月五日〕
○九州鉄道の総会 同会社は去月二十八日門司本社に於て定式総会及臨時総会を開き○中略重役改選に及びしが、其の結果○中略今村・井上・田中・本山・麻生・小林・江副の七取締役及山崎・斎藤の両監査役辞職し、左の如き重役となれりと
   取締役 松田源五郎 仙石貢 坂井等 安川敬一郎 鹿野淳二(以上重任)
       阿部泰蔵 原六郎 片岡直輝 伊庭貞剛(以上新任)
   監査役 住江常雄 伊丹弥太郎(以上新任)
       小河久四郎(重任)
 - 第9巻 p.269 -ページ画像 
   ○本款明治三十二年九月十七日ノ項(本巻第二三七頁)参照。


世外井上公伝 第四巻・第六八六―六八七頁 〔昭和九年五月〕(DK090027k-0008)
第9巻 p.269 ページ画像

世外井上公伝 第四巻・第六八六―六八七頁〔昭和九年五月〕
 かくて公は先づ会社の内容を調査することとし、同二十六日○明治三二年九月夕、深川の岩崎別邸に渋沢等と会してその打合はせをなした。而して益田孝・片岡直温・根津嘉一郎・住江常雄の四人を同行させて九州に出張し、十月十六日に門司の本社に前記四名の外、会社側仙石社長以下数名と会同して調査に著手することになつた。この時公は、会社創立以来の株金払込総額、及びそれに対する事業の結果、営業収支予算の方法等に関する十八箇条の質問をなした。仙石社長は之に対し、書面又は口頭を以て詳細説明する所あり、公も大体之を諒としたが、更に将来を考慮して工事著手中の支線及びその哩数、収支予算等七項目に亘る質問をなした。之に対しても仙石は委細を返答したので公も十分の諒解を得、同月二十五日を以てこの調査は終つた。この時公は会社の利益配当金をして七分に増率せしめようとしたが、当時の事情から会社はそれには同意出来ず、六分を固執して譲らなかつたので、公もそれを認めざるを得なかつた。
 かくて翌三十三年三月に公は内容調査の結果による裁定書を発表した。これは要するに、会社の内容を調査したが、会社には一として不正の事実なく、又社長の経営方針は之を是とするといふ、一種の判決書に似たものであつた。かくてさしもに紛擾を極めた問題も公の裁定によつて円満解決を見るに至つた。


今村清之助君事歴 (足立栗園著) 第一九六―二〇三頁〔明治三九年九月〕(DK090027k-0009)
第9巻 p.269-271 ページ画像

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中外商業新報 第五四〇七号〔明治三三年二月一一日〕 九鉄事件の裁定(DK090027k-0010)
第9巻 p.271 ページ画像

中外商業新報 第五四〇七号〔明治三三年二月一一日〕
    九鉄事件の裁定
 九州鉄道紛議事件の無条件裁定を依頼せられたる井上伯は、去三日夜益田・片岡外二氏を麻布宮村町の自邸に招き裁定書案に就き内談する所ありたる由は既に去四日の紙上に報道せし如くなるが、昨日は午後二時より同事件の関係者一統と自邸に招き、予て調製したる浩澣なる裁定書を示し、諄々理由を説明して裁定を与えたる由なるが、当日の来会者は仙石・今村・麻生・安川・末延・山崎・山中(隣之助)・雨宮・堀部・魚住・根津・片岡(直温)の十二氏にして、渋沢・益田両氏は病気の為め、不参し、尾崎男は議会の都合にて参邸せざりしと、而して列席者は孰れも伯の裁定に満足して之に服従するに至るべしと云ふ尚ほ裁定書は他日の紙上に掲載すべし


九州鉄道株式会社調査報告書(DK090027k-0011)
第9巻 p.271-302 ページ画像

九州鉄道株式会社調査報告書
明治三十二年九月十七日渋沢栄一・尾崎三良・末延道成・堀部直臣・今村清之助・雨宮敬二郎《雨宮敬次郎》・麻生太吉・山中隣之助・山崎隆篤・根津嘉一郎・益田孝ノ諸君来邸シ、当時九州鉄道会社ノ紛議ニ付仲裁アランコトヲ切望セラレタリ、余ハ其事情ノ子細ヲ聞キ仲裁ノ依頼ニ耳ヲ傾ケタル所以ノモノ他ナシ、今ヤ欧米諸国ニテハ成ルベク国内ノ資本ヲ合同シ、尚進ンデハ自国ト他国トノ資本ヲモ合シテ規模益々大ニ、基礎愈々固ク、以テ実利世界ニ縦横スルノ勢ヲ成シ、殊ニ近来ハ西隣ノ支那ニ対シ列国何レモ開放ノ主義ヲ取リ、其利ヲ占領セントスルニ汲汲タルノ有様ナレバ、我経済社会ニ於テモ袖手傍観スヘカラサルノ時機ナラン、然ルニ我経済社会ノ実況ヲ顧ミレバ、之レニ反シテ既ニ貿易上ニ於テモ戦後事業勃興ノ結果トシテ輸入ヲ促シタル事実アリ、則三十一年ハ一億余円卅二年モ上半季ニ於テ三百万円前後ノ輸入超過ヲ示シ、輸出入ノ均勢甚タ非ナルニ拘ハラス国内実業界ノ景況ハ毫モ未ダ整頓セス、例ヘバ運輸交通ノ点ニ於テモ其経営区々トシテ秩序ヲ失シ、海陸ノ連絡ノ如キ最モ必要ノ計画スラ未ダ完カラザルモノ比々皆然リ、宜シク大小ノ資本ヲ合シ未来ヲ察シテ其計画ノ基礎ヲ鞏固ニスルノ方針ヲ定メ、内ヲ整ヘ外ニ進ムノ方法ヲ講スヘキニ、経済組織ノ
 - 第9巻 p.272 -ページ画像 
発達極メテ不秩序ノミナラス動モスレバ却テ紛擾ノ流弊ニ陥リ、一時ノ感情一時ノ利益配当等ニ駆ラレテ会社ノ如キ資本合同制ノ発達ヲ阻害スルノ傾向アルハ、正シク欧米ノ近状ニ逆馳シ危境ニ退歩スルモノニシテ、日本ガ外国ノ合同力ト競争シ経済世界ニ地歩ヲ占メントスルニ当リ実ニ不利ノ現象ト言ハサルヲ得ス、左スレハ此回九州鉄道ノ紛擾ヲ以テ直ニ国家ノ経済ニ関係アルモノト認ムルニ非サレトモ一機関紛擾ノ波動ハ過去ニ徴シ将来モ諸会社ニ悪影響ヲ及ボスノ惧アリ軽々看過ス可ラサルカ故ニ、余ハ其紛紜ノ間ニ処シ敢テ仲裁ノ労ヲ取ルヲ厭ハサルモ諸君ノ意向果シテ何レノ辺ニアルヤヲ明ニセサル可ラサルニヨリ、先ツ第一仲裁ニ付テハ何カ条件アルヤ否ヤヲ問ヒシニ全ク無条件ナリトノ答ヲ得タリ、第二ニ諸君ハ会社重役派及改革派ノ代表者ナルヤ否ヤヲ問ヒシニ、代表者ニハアラズ斯ル紛擾ハ勝敗何レニ帰スルニセヨ実業界ノ秩序ヲ紊乱スルノ惧アルカ故ニ今ニシテ早ク其流弊ヲ防止センコトヲ庶幾フニ外ナラスト答フ、第三然ラハ紛争両派ノ代表者ニアラスシテ経済社会ノ為メ憂ヲ共ニスル者トスレハ、従来ノ派争ノ悪感情ノ如キハ断然今日限リ一掃セサル可ラス、果シテ如此坦懐虚心ナルヲ得ルヤ否ヤト云ヒシニ、満坐一同従来ノ感情ハ今ヨリ全ク一洗スベシト明言セラレタリ、依テ第四ニ諸君ハ代表者ニ非ストスルモ、万一或株主ニ於テ仲裁ニ異存ヲ挟ミ再ビ動揺ヲ惹キ起スガ如キコトアルニ際シテハ一同協力以テ之ガ鎮静ノ任ニ当ルベキヤ否ヤト問ヒシニ、誓テ其責ヲ空フセサルベシト云ヘリ、仍テ余ハ仲裁ノ依頼ヲ承諾スルコトヲ断言セシニ、坐中尾崎三良君ハ成ルヘク公平ノ裁断アランコトヲ希望スト云ヒ、堀部直臣君ハ一同安心スル様ニ、今村清之助君ハ満足スル様ニト希望ヲ述ベラレタリ、曰ク公平、曰ク安心、曰ク満足、此等ハ何レモ世間普通ノ好辞ナレトモ素ト是レ人々自信思慮ノ判断ニ存スル者ナリ、故ニ余ハ其要求ヲ拒絶シ公平安心満足等モ亦一ノ条件タルニ外ナラズ、余ガ主意トスル所ハ九州鉄道会社ノ基礎ヲ鞏固ナラシメ、且ツ経済的ニ事業ヲ計営センコトヲ期スル迄ノコトナレバ、之ヨリ以外如何ナル希望ニモ応スル能ハスト云ヒ、諸氏モ此旨ヲ諒シテ愈々無条件ニテ仲裁ヲ請ヒシニヨリ其任ヲ承諾スルコトトハナレリ、越テ同月二十二日三井倶楽部ニ於テ会社ノ重役及重役派改革派ノ重立チタル人々相会シ、渋沢君ヨリ余ガ仲裁ノ任ヲ承諾シタルニ付キ左ノ通リ挨拶アリタリ
 九州鉄道会社此度ノ紛議ニ対シマシテハ爾来種々心配致シテ下サル方々モアリマシテ、先頃カラシテ益田君雨宮君ト共ニ計ツテ所謂会社方ト又改革ヲ御希望ノ向ノ方々トノ間ニ種々調和ノ御相談ヲ致シタ結果、其咄カ追々進ンデ参ツテ去ル十七日吾々ト両派ノ一部ノ人ガ打揃ツテ井上伯邸ニ罷出デ、同伯ニ御仲裁ヲ御依頼シタイト云フコトニナツテ遂ニ同伯ノ御苦労ヲ願フト申スコトニ相成リマシタ
 当日双方ノ方々モ打揃ツテ――今玆ニ残ラス御姓名ハ申上マセンデモ御承知デモコサイマセウガ――井上伯ニ御願ヒ申シマシタ処ガ、伯ハ我々ノ請願ニ対シテ随分御迷惑ナコトデハアリマスケレドモ、会社ノ重大ナルコトト信スルニ依ツテ敢テ其労ヲ執ラスデハナイガ唯趣旨ナシニ引受ケル訳ニハナラヌ、故ニ第一趣旨ヲ明ニシタイ、
 - 第9巻 p.273 -ページ画像 
則チ会社ノ基礎ヲ鞏固ニシ且ツ経済的ニ会社ノ事業ヲ経営シテ行クコトヲ目的トシテ従事シヤウ、而シテ双方ノ間ニ未タ全クノ一致ト云フ手続ニ進ンデ居ラヌ、自分カ仲裁スルニハ双方ノ一致ヲ得ナケレバナラヌ、然ルニ未タ一致ニ少シク欠ケル所ガアリハセヌカト云フ御尋ガアリマシタ、我々御答スルニハ勿論先キヲ急グ為メニソレ等ノ点ハ止ムヲ得ズ完全ヲ期スル迄ニハナツテ居リマセヌ、我々取リ敢ヘズ双方共ニ意思ヲ一ニシテ御願シタ訳デアリマス、故ニ向後必ス一致タラシムルコトヲ努メル、今日ハ形式上一致タルコトヲ認ムルコトガ出来ヌト思召スカモ知ラヌガ、一致タラシメル様ニ我々大ニ努メルカラ御信用下サルヤウニ申上マシタ、右ニ付テ宜シイ然ラバ敢テ任シテ此難関ニ当テ是非双方共ニ意思ノ相通スルヤウニ致サウト云フコトデ御承諾下サツタ訳デアリマス
 爾来本社ヨリ社長其他ノ重役モ来ラレルシ又改革ヲ希望サレル御方モ――其時分不参ナ御方モ御揃ニナツテ互ニ話シ合ツテ見レバ、丁度我々ガ伯ノ邸ニ罷リ出テ御願致シタ所ト結局同論デアツタト云フ有様デアリマス
 就キマシテ玆ニソレ等ノコトヲ更ニ伯ニ御依頼スルコトハ甚ダ必要ト考ヘマシタカラ、玆ニ一ノ集会ヲ開ヒテ特ニ我々カラ再ヒ伯ニ申上ゲ、亦一方カラハ伯カラ御意見ヲ申聞ケテ下サラウシ双方カラモ改メテ伯ニ申上ルコトモアルダロウト思ツテ此集会ヲ開ヒタ訳デアリマス、併セテ其咄ガ運ンダナラバ双方ノ意思モ必ス融解スルニ相違ナイカラ融解ヲ期シテ、更ニ互ヒニ懇親ナル談話ヲ致シテ差縺レタ感情ヲ全ク復旧サセタイト我々ノ微意カラ小宴ヲ設ケタ次第デアリマス
余ハ席上再ヒ左ノ演説ヲナシ
 此九州鉄道ノコトハ一部ノ御方トハ御相談ハ致シマシタガ、他ノ大部分ノ御方トハ御話シタ訳デモアリマセヌカラ、一応私ヨリ申述ベテ置キタイト考ヘマス
 私ガ前ニ九州ヲ巡回致シタ時ニモソロソロ九州鉄道ノ紛議ガ起ルト云フコトハ耳ニシタコトデアリマシタガ、其時私ハ実ニ困ツタ病気ガ流行スル之モ今日ニ始ツタノデハナイ、彼ノ山陽鉄道、郵船会社日本鉄道或ハ十五銀行、日本銀行ト云フ風ニ此流行病ガ随分アリマシテ困ツタコトガ起ルモノト感シマシタ、ソコデ大阪ニ着キマシタ時二三ノ人ニ斯ウ云フ病気ノ流行スルノハ、何時迄モ日本ノ経済社会ノ秩序ガ立タヌコトデアラウト云フ話モ致シマシタ、夫ト申スガ第一日本デハ小資本ヲ集メタ合同的ノ事業ガ十四五年頃カラ起ツテ此九州鉄道ノ如キ即チ其合同制ノ会社トシテ起ツタノデアリ升ガ、此合同制ト云フ者ハ即チ欧米ニ傚ツテ起ツタノデ大ニ国ノ利益ヲ起スト云フ場合ニ成ツタノデアリ升ガ、一利一害ハ数ノ免レザル所デ遂ニ此流行病ガ始ツテ来マシタ、ソコデ其結果ハダウカト云フト日本ニハ合同制ハ適当シナイ、安心シテ之ニ出資カ出来ナイト云フコトニナリハセヌカト思フノデ、日清戦役後ニ於テハ官民共ニ事業ノ勃興ヲ致シテ我国ノ起業カ大ニ盛大トナツタノデアリ升ガ、サウ云フ時ニ当ツテ此流行病ガ起ルト今後吾々ガ大ニ考ヘナケレバナラヌ
 - 第9巻 p.274 -ページ画像 
コトガアル、御承知ノ通リ今日ノ欧米ノ有様ハ可成資本ヲ合同シテ往コウ尚進ンデハ国ト国トノ資本迄モ合シテ往コウト云フ趨勢デアル、此趨勢ハ何処ニ往クカ即支那ニ向ツテ往クト云フ有様デアル、処デ例ヘハ英国ガ支那ニ対シ開放主義ヲ採ルトスルト夫ハ啻ニ明ケ放シト云フ意味デハナイ、此倉ニ是丈ノ宝物ガアル夫ニ吾々ノ資本ヲ投ジテ利ヲ得ヤウト云フ意向デアル、ソコデ又是ハ英国バカリデハ往カヌ、米国ノ輸出入ヲ見ルト近年、著シキ輸出超過ガアル、シテ見レバ米国モ中間ニ這入ツテ支那ニ向ツテ往コウト云フ傾向デアル、サー斯ウ云フ時ニ我国ニ一種ノ流行病ガ起ツテ経済社会ノ秩序ヲ紊スト云フコトハ実ニ慷概スベキコトデ、私ノ思フニハ此株主ノ一時ノ感情一時ノ利益ト云フコトノミヲ目的トセズ、此固定資本ヲ可成経済社会ニ利益アルヤウニスルト云フ方法ヲ取ツテ往カヌト、実ニ不安心デ発達モ何モ望マレヌト云フコトデアル、ソコデ此九州鉄道ニ付テモ渋沢サンナゾニモ其意味デ御話シ致シタノデ、夫ト申スモ我国ノ経済ノ有様ヲ見マスルト既ニ昨年ハ一億余円ノ輸入超過デアル、此結果ハ日本ノ正金ヲ夫丈外国ヘ出スト云フテ宜イノデ、本年ノ如キモ七月ノ勘定デ四百七十万ノ輸入超過デアル、又今後ト雖モ随分日用品ノ如キ輸入ヲ仰ガネバナラヌモノガアル、其結果ハ正金ヲ外国ニ出サナケレバナラヌ、然ルニ一方ヲ見ルト金銀等ノ産出ガ亜非利加、亜米利加ノ如ク沢山アルトモ思ヘヌ、サウシテ見ルト結局ドウナルカト云フト正金ガ段々少ナクナツテ是亦経済社会ヲ紊スト云フコトニナル、又戦争後日本ノ事業ハ進ミハ致シタガ運輸交通ニシテモ実ハ秩序的ニ進ンデハ居ラヌ、第一ニ連絡ト云フモノガ付イテ居ラヌ海ト陸トノ連絡モ附イテ居ラヌト云フ有様デアル、夫デ日本デ製造シ得ラルヽモノモ外国ノ輸入ヲ仰ガネバナラヌト云フコトニナルノデ、運搬ノ便ガ悪イト夫丈労働賃ヲ余計ニ掛ケ時間ヲ徒費スルト云フコトニナツテ其結果其品物ガ高クナルト云フコトニナル、昨年私ガ大蔵省ニ居ルトキ調ベタノニ材料モ高イ賃銀モ高イト云フノデ非常ナ勝貴ニナツテ居ル、支那カラ三億ノ償金ハ取ツタガ今日トナレバ其購買力ガ違ツテ居ル、夫故前ニ積ツタモノハ迚モ実行ガ出来ヌト云フ有様デアル、サウ云フ訳デ詰リ極端ノコトヲスレバ其ノ反動力即チ恐慌ガ来ルト云フコトハ争フベカラザル道理ト思フ、ソコデ官民共ニ此所ハ一時各事業ヲ延ベタラ宜カラウト云フ考ヲ私ハ持ツタ位デアル、扨サウ云フ日本現今ノ状態デアルニ日本ノ内輪デ互ニ競争ヲシテゴタゴタスルノハ、遂ニ外国ノ合同力ノ競争ニ抗スルコトガ出来ヌト云フコトニナルト思フ、ソコデ九州鉄道ノ紛擾ガ非常ニ大ナル関係ヲ経済社会ニ持トハ申シマセヌカ、一部ノ秩序ヲ紊ルト云フコトハ必ズアルト信ズルノデアリマス、夫デ渋沢サン益田サンノ如キ段々之ヲ憂ヒラレテ此事ガドチラニ勝敗ガ附ヒテモ誠ニ困ルコトデアルカラ、ドウカ円満ニ局ヲ結ビタイト云フコトデ色々御話シガアツテ私ニ仲裁ヲ依頼サレマシタ、ソコデ私ハ条件ヲ附ケルト云フコトデハ困ルト云フコトヲ申シタノデ、其後十七日ニ私ノ宅ニ会合シタ時ニ此席ニ御出ノ人ハ是迄ノ悪感情ヲ一切捨テヽ御仕舞ニナルカト云フコトヲ御問ヒ申シテ、夫ハ御異議ナ
 - 第9巻 p.275 -ページ画像 
イト云フコトデ、夫カラ又双方トモ皆サンヲ代表シテ御仰シヤルコトデアルカト云フコトモ申シタ、所ガ夫ハ代表ト云フコトハナイガ改革派非改革派ノ区別ナク吾々ガ何所迄モ一身同体トナツテ尽シマスカラト云フコトデ、夫デハ御請ケヲシヤウト申シテ、夫カラ又何分公平ナル仲裁ヲ願イタイト云ハレマシタカラ、夫ハ困ル公平ト云ヤウナコトハ各ノ判断ニ依ツテ違フコトデアルカラ夫ハ御請合ハ出来ヌ、私ノ目的ハ九州鉄道ノ基礎ヲ堅固ニシテ経済的営業ヲヤルヤウニシヤウト云フノデ、皆サンノ御希望モ其通リデアレバ外其ニハ何事モ御請ケハ出来ヌト云フ訳デ、遂ニ無条件デ一切御引受ヲスルコトニナリマシタ、夫デ結局重役派改革派ト云フコトデナク、只一部ノ株主トシテ御依頼ヲ受ケテ夫デ私ガ御尽力致スト云フコトニナリマシタ、其後渋沢サン益田サン抔カラ今日ノ会ヲ御催シニナルト云フコトデアリマシタカラ、夫ハ丁度宜シウゴザイマセウ、私モ出テ皆サンノ御意向モ篤ト承ツテ見タイ、皆サンノ内ニ面白クナイト思召ス御方ガアルナラハ御腹蔵ナク御述ニナルコトヲ希望スルノデ今日ハ未ダ調査ニ着手シナイコトデアリマスカラ若シ皆サンノ内ニ仲裁ノ事ハ面白クナイト云フコトナレバ、御止メニナルコトヲ今日ナラ御承諾致シマス云々
猶九州鉄道ノ事ニ関シテハ徒ニ過去ニ遡リテ論難スルノ必要ナク、唯往ヲ見テ来ヲ知ランカ為メノ参考トナスベキコト、又其調査ヲナスニ付テハ篤ト質問攻究セサル可ラサルヲ以テ余ハ仮スニ日月ヲ以テセザル可ラサルコト等ヲ陳述セリ、尋テ仙石社長ハ前日ノ重役会議ノ結果重役一同ハ井上伯ニ仲裁依頼ノコトヲ異議ナク決定シタル旨ヲ述ベ、尚尾崎三良君ハ改革派ヲ代表シテ是亦異議ナキニ付キ尽力アランコトヲ望ムトノ意ヲ述ベタリ
如斯ニシテ仲裁ヲ引受クルコトトハナリタレトモ、余一人ニテハ調査行届カサルコトアルベキニヨリ単ニ余ノ指定ヲ以テ益田孝・片岡直温住江常雄・根津嘉一郎ノ四君ヲ労シ調査ノ補助ヲ依頼スルコトト定メ相伴フテ九州鉄道会社ニ赴キ、十月十六日ヨリ同二十三日ニ至ルマデ仙石社長外二三重役ト会シ述テ曰ク
 余ガ此回九州紛紜ノ仲裁ヲナスニ至リタル次第ハ諸君ノ知ラルヽ通リナリ、抑モ斯ル大会社ニ於テ内部ニ紛紜ヲ生スルハ経済社会ノ秩序ヲ紊乱スルモノニシテ、特リ九鉄会社ノ累ノミナラス実ニ経済社会ノ不幸ト云フベシ、蓋シ此種ノ流弊タル最モ伝播シ易クシテ、甲会社ヨリ乙会社ニ及ヒ丙丁相伝ヘテ帰スル処経済界ノ基礎ヲ紊乱セシメ一般ノ不振ヲ招クノミ、然ルニ顧ミレバ列国各其国ノ拡大ヲ競ヒ近来ハ西隣ノ支那帝国ヲ開放シ競フテ其利ヲ占領セントシツヽアル姿ニシテ、我国勢上決シテ袖手傍観スヘキ秋ニアラズ、斯ル時機ニ際シテ国内ノ実業界ハ唯徒ニ分裂紛擾シ進取拡張ノ余力ナキ有様ニテハ如何ニシテ能ク経済ノ実利地歩ヲ占ムベケンヤ、又政府ニ於テモ夙ニ財政ノ整理鞏固ヲ図リ鋭意経営スル所ナレトモ、財政ノ根本ハ結局国内経済界ノ整否如何ニ繋ルヲ以テ、余ハ国家ノ為メ実業会社ノ紛擾ヲ傍観スルニ忍ビス此回ヲ敢テ仲裁ノ任ニ当リタルコトナレトモ、九鉄会社ハ一ノ歴然タル有形物ニシテ其事実如何ヲ詳ニ
 - 第9巻 p.276 -ページ画像 
スルニ非サレバ、漫リニ無形ノ理想ニ訴ヘテ裁断ヲ下シ得ベキニアラズ、且ツ余ハ鉄道ノ専門家ニ非サルヲ以テ篤ト質問攻究ノ上ナラデハ判断ヲ下シ難キヤ勿論ナリトモ、主トスル処ハ当局者ト株主トノ間ニ於ケル感情ノ衝突ヲ排除シ、鉄道ノ基礎ヲ鞏固ナラシメ、且ツ営業法ノ経済的ニ処理セラレンコトヲ期望スル旨仲裁依頼者ニ約シテ来社シタルコトナリ、左レバ今日以後ハ重役派ト云ヒ改革派ト云フガ如キ派争ノ悪感情ヲ一掃スヘキハ勿論、会社ノ業務ニ就テモ過去ニ遡リテ論難スルハ寧ロ無益ノ徒労タルベク、唯往ヲ見テ来ヲ知ランカ為メ参考ニ資センノミ、又此回株主中ヨリ数氏ヲ労シタル所以ノモノモ自分一人ニテハ調査行届キ兼ルヲ以テノ故ニシテ他アルニアラズ、要スルニ今日ハ彼ノ紛紜アリタルカ故ニ特ニ調査ヲナスニ非ズシテ、将来ノ為メ是迄通ゼザルノ事情ヲ通シ相融和シテ懇談ヲナサントスルニアリ、凡ソ一週間位ニシテ大体ノ方向モ定メ得ヘキ乎、其間自然問題ノ性質ニヨリテハ特ニ随行ノ人ヲシテ調査セシムルコトモアルヘク、或ハ左迄細論ヲ要セサルモノハ時ニ其冗長ニ渉ルヲ制スルコトモアラン、夫等ハ予メ余ニ一任セラレンコトヲ望ム、本来平穏ノ収局ヲ見ント欲シテ爰ニ仲裁ヲナスノ場合ニ立到リタルコトナレバ、若シ此調査中ニ於テ論談破裂ヲ来ス様ニテハ、寧ロ始メヨリ仲裁ナキニ如カサルヲ以テ飽マテ平穏ノ旨ヲ失フ可カラス
右ノ意味ヲ述ベ凡左ノ箇条ヲ示シテ調査ニ着手セリ
 第一創立以来資本金ノ沿革
    株金払込総額及其ニ対スル事業ノ結果、未払株金ノ総額及其支払ノ見込
 第二営業費各科目ノ増減スル理由
 第三官線日本山陽ノ諸鉄道ト営業費ノ比較
 第四営業収支予算ノ方法
 第五現在車輛ノ総数ト事業ノ割合
 第六山陽ト対照シ社員数ノ割合及差違ノ理由
 第七会社内ノ組織及事務取扱ノ順序
 第八物品購買ノ方法
 第九仮出金ノ内訳
 第十貯蔵品ノ内訳
 第十一若松船舶会社トノ関係及其実況
 第十二若松築港会社及洞海北湾埋渫会社ノ株式買入ニ関スル始末
 第十三門司ノ鉄道用地買戻訴訟事件ノ始末
 第十四三十一年十一月借入金七拾万円ノ始末
 第十五貨車千百台及客車五十台製造ノ始末
 第十六機関車修繕用チユーブ購入過誤ノ始末
 第十七新株五万九千八百株ノ払込延引ノ理由
 第十八第二十一回計算ニ於テ石炭費其他ノ内金九万円余ヲ後期ヘ繰入レタル理由
    第一 資本金ノ沿革
  株金払込総額及其ニ対スル事業ノ結果、未払株金ノ総額及其
 - 第9巻 p.277 -ページ画像 
支払ノ見込
九州鉄道会社ハ明治十九年中福岡佐賀熊本ノ三県知事首唱者トナリ有志者ヲ集メテ鉄道私設ヲ勧誘シタルヲ起原トシ、二十一年五月出願同年六月本免状ヲ下附セラレタリシガ、当時世間一般未ダ鉄道会社ノ利益如何ヲ熟知セサルヨリ充分ノ信用ヲ博スルニ至ラス成立頗ル困難ナリシヲ以テ、政府ニ特別ノ保護ヲ請ヒ初メハ株金払込額ニ対シ一ケ年百分ノ四ノ補助金下附ヲ請願セシガ、後改メテ毎区ノ工事落成次第其哩数ニ応シ一哩ニ付金弐千円ノ割合ヲ以テ補助セラルヽコトトナリ纔ニ成立シタルモノニシテ、創業ノ困難ハ実ニ他会社ノ比ニ非サリシナリ、左レバ当初予定ノ資本額金壱千百万円(二十二万株)ノ中七百五拾万円即チ拾五万株ニ対シ
    株金払込表

図表を画像で表示株金払込表

 払込期日       回数  金額   総金額        期日迄払込金額   払込済金ノ割合   完納年月日      摘要                 円          円         円        割 明治廿一年八月卅一日 一    五    五二四、五〇五    二二八、四三五   三、九三三   十ケ月        発起、十万四千九百一株ニ対スル分                                                   明治廿二年七月四日 同年十一月卅日    一    五    二二五、四九五     五六、五六五           八ケ月        賛成四万五千九十九株ニ対スル分                                                   明治廿二年七月四日 同二十二年三月卅一日 二    五    七五〇、〇〇〇     八七、三二〇   一、一六四   四ケ月        今回ヨリ発起賛成株ノ名称ヲ廃ス                                                   同年同月同日 同年八月卅一日    三   一〇  一、五〇〇、〇〇〇  一、一六八、七三〇   七、七九一   十ケ月                                                   同廿三年六月廿四日 同二十三年五月卅一日 四    五    七五〇、〇〇〇    五七〇、二七五   七、六〇三   十六ケ月                                                   同二十四年九月卅日 同年十月卅一日    五    五    七五〇、〇〇〇    五五五、八九五   七、四一一   十一ケ月                                                   同年九月卅日 同二十四年三月五日  六    五    七五〇、〇〇〇    五二二、二八五   六、九六三   十九ケ月                                                   明治廿五年九月卅日 同年八月五日     七    二    三〇〇、〇〇〇    一〇六、八一二   三、五六〇   十四ケ月                                                   同年九月卅日 同年十一月卅日    八    一    一五〇、〇〇〇    一二一、六二四   八、一〇八   十ケ月                                                   同年同月同日 合計                 五、七〇〇、〇〇〇 



    事業進行表

図表を画像で表示事業進行表

 線路区域    布設出願月日     仮免状下附月日  本免状下附月日     開業免状下附月日     哩数                                                        哩数 博多千歳川間  明治廿年一月廿五日           明治廿一年六月廿五日  明治廿二年十二月三日  二二、四〇 (千歳川北岸迄) 千歳川久留米間 同上                              同廿三年二月廿八日 博多赤間間   同上                              同年九月廿六日     一九、五〇 赤間遠賀川間  同上                              同年十一月一日      七、四〇 遠賀川黒崎間  同上                              同廿四年二月十九日    五、六一 黒崎門司間   同上                              同年三月廿五日     一四、四〇 久留米高瀬間  同上                              同年同月同日      三四、一〇 高瀬熊本間間  同上                              同年六月廿六日     一七、三〇 鳥栖佐賀間   同上                              同年八月十七日     一五、一五 合計                                                 一三六、四六 



右表ノ如ク事業ノ進行ト共ニ年々漸次払込ヲナサシメタレトモ、毎度渋滞シテ資本ノ不充分ニ苦ミツヽ二十二年末ヨリ落成次第運輸ヲ開始シ、之ニ政府ノ補助金ト預金利子トヲ合セテ年六朱ノ配当ヲナシ来リシガ、二十四年第六回ノ払込ニ際シテハ世上一般金融必迫ノ結果大ニ株主ヲ当惑セシメ、遂ニ百数十名ノ連署ヲ以テ熊本及佐賀迄ノ線路竣工シタル上ハ残工事ヲ見合セ、暫ク株金募集ヲ中止セラレタシトノ請求アリ、時ノ社長ハ余儀ナク之ヲ参酌シ、第七工区熊本松橋間第八工区佐賀柄崎間ノ工事ヲ二十六年迄見合ハスルコト、及第七回払込ヲ二十四年八月五日限リ一株ニ付金弐円宛、又第八回払込ヲ同年十一月三十日限リ一株ニ付金壱円宛募集スルコトトナシ、夫ヨリ以上払込ヲ催サザルコトトナセリ、然レトモ第七第八工区ノ工事ハ予定ノ期限モア
 - 第9巻 p.278 -ページ画像 
リテ永ク延引ス可ラス、且ツハ半成ニテ時機ヲ待ツトキハ愈以テ不経済ノ結果ヲ来タスノ恐レアルヲ以テ、株金募集ノ困難ヲ察シ二十六年ニ五朱利付社債
  金百五拾万円
    内訳
  金九拾五万円 第七第八工区工事費
  金五拾五万円 既成線ニ属スル必要ノ諸建築費
ヲ募リ、更ニ二十七年八月限リ前記十五万株ノ外ナル七万株ヲ増募シ爾後追々払込ヲナサシメタリシカ、二十四年下半季以降利益ノ配当六朱ヲ下リ二十七年上半季ニ至リテ漸ク七朱ニ達シタルノ有様ナリシカバ、動モスレバ供資ノ苦情ニ会ヒテ創業以来日清戦争マデハ毎々資金ノ募集ニ苦ミ、困難ヲ犯シ、事業ヲ進行シ来リタルカ故ニ、止ムヲ得ス工費モ成ルヘク節約ヲ旨トシタルモ、尚二十八年ニ至リ予算ニ不足ヲ生シ、且ツ物価騰貴ノ関係モアリテ遂ニ五百五十万円ヲ増資スルノ止ヲ得サルコトトナリ、資本合計千六百五拾万円トナセリ、然レトモ前記ノ如キ資本不充分ノ事情ニヨリ諸般ノ設備ノ完整セサルハ勿論、線路ノ建設等モ勾配ヲ避ケ得可キ所モ避クル能ハサル等欠点ノ多キヲ免レサリキ、雇技師独逸人「ルムシヨツラル」氏ハ当初ヨリシテ設計ノ不充分ナルヲ知リ後日ニ遺憾ヲ免レサルヘシト予言セシガ、資本意ノ如クナラザルヨリ遂ニ其説ヲ容ルヽ能ハス、都テ鉄道ノ完全ヲ顧ルノ遑ナク仮ノ工事ヲ施行シタル如キノ有様ニテ進行シツヽアリタリ、爾後三十年四月二十日ノ株主総会ニ於テ左ノ件ヲ決議シ、筑豊鉄道ト合併ノ議整ヒテ同鉄道会社ノ資本額四百八十五万円、及ヒ同時ニ金八百六十五万円ヲ増資シ爰ニ金参千万円ノ資ニ達セリ
  明治三十年四月二十日開会同日閉会
(第一号議件)
本会社ヘ筑豊鉄道株式会社ヲ合併引受ノ事
右合併引受ニ関スル出願ノ手続其他臨時ニ生スル要件ハ、取締役ノ決議ヲ以テ執行スル事
    理由
筑豊鉄道株式会社ヲ本会社ニ合併シ斯業ヲ一ニスルハ、運輸交通上便益ヲ増進スルノミナラス経済上亦大ナル利益ヲ生スルニ付、本会社ヘ筑豊鉄道株式会社ヲ合併シ其全線路ヲ本会社ノ延長線路トシ以テ運輸営業ヲナサンカ為メ、合併ニ関スル要件ヲ左ノ如ク定メ決議ノ上ハ直ニ実施ニ着手セントス
 一両会社ヲ合併シ本会社ニ新株二十七万株ヲ増資スル事
 一筑豊鉄道式株会社ノ財産一切ト既得ノ権利トヲ引受クル為メ、本会社ハ該会社ノ現ニ発行スル株券ト同一払込ノ株券ヲ発行シ引換ヲ為ス事
 一新株二十七万株ノ中九万七千株ハ前項ノ引換株数ニ充テ残十七万三千株ヲ左ノ通リ割当ル事
    九州鉄道株式会社(現在株三十三万株ニ対シ) 十万株
    筑豊鉄道株式会社(現在株九万七千株ニ対シ) 七万三千株
 一筑豊鉄道株式会社ノ重役五名ヲ九州鉄道株式会社重役ニ選定スル
 - 第9巻 p.279 -ページ画像 

 一新株ハ七月十日ノ九州筑豊両鉄道株式会社現在ノ株主ニ割当ル事
 一筑豊鉄道株式会社ノ社債ニ対スル債務ハ本会社ニ引受クル事
 一筑豊鉄道株式会社ノ財産ハ財産目録及帳簿ニ依リ授受ヲナス事
 一新株十七万三千株ニ対スル募集ハ七月十日ノ九州筑豊両鉄道株式会社現在ノ株主ヨリ、予約証拠金トシテ一株ニ付弐円五拾銭ヲ差入レシムル事
 一前項予約ノ申込ハ其期日ヲ八月十日限トスル事
原案ノ通リ可決
(第二号議件)
本会社ニ資本金壱千参百五拾万円ヲ増加スル事
右増資ニ対スル株式募集ノ方法ハ取締役ノ議決ヲ以テ之ヲ定ム
    理由
 筑豊鉄道株式会社ヲ合併シ其線路ヲ本会社ノ延長線トシ営業ヲナシ尚進ンデ業務ヲ伸張シ社運ノ隆盛ヲ図ルニハ、停車場ノ改築線路ノ増設車輛ノ増加等営業上収益アル物件ノ創設ヲ要スルモノ極メテ多ク、加之目下起工中ノ未成線ノ如キモ今日ニ於テ其規模ヲ拡張スヘキモノ、設計協議ノ結果ニヨリ予定外ノ増工事ヲ為スヘキモノアルノミナラス、一般ノ物価騰貴セシ為メ之カ建築費ニ補充増加ヲ要スル等是等費途ニ供スル為メ本案ノ如ク資本金ノ増加ヲ要スル所以ナリ、而シテ其増加ニ対スル資金ノ内訳左ノ如シ
  一金四百八拾五万円 合併引受ニ要スル資金
  一金参百拾七万円 車輛増加ニ要スル資金
  一金参百万円 未成線建築増加金
  一金弐百四拾八万円 増益費即チ将来事業拡張ノ為メ要スル資金
 原案ノ通リ可決
又筑豊鉄道ノ資本額四百八拾五万円トテモ、決シテ容易ニ成立シタルモノニアラズ、明治廿二年最初百万円ヲ以テ纔ニ成立ヲ告ゲタレトモ爾来資本金欠乏命脈将ニ絶エントスルノ境遇ニ陥リ、二十五年ノ増資ニ係ル七拾万円ノ如キハ八朱配当ノ先取権ヲ村《(付)》シテ募集シ、猶二十五年ヨリ二十六年ニ亘リ七朱利付社債六拾万円ヲ募リテ応急ノ窮策ヲ取リシニ、爾後炭況漸ク好運ニ向ヒタルヨリ二十七年度以降事業ノ面目ヲ一新シ、株主ハ増資ニ躊躇スルコトナク容易ニ四百八拾五万円トハナレリ
合併後三十年十一月ニハ
 金五百万円
    内訳
  金四拾万円    長尾線興業費
  金四拾六万円   戸畑線興業費
  金四拾万円    田ノ浦線興業費
  金四拾五万円   筑紫運炭線興業費
  金四拾五万円   鞍手線興業費
  金弐拾五万円   小倉線興業費
  金拾万円     上山田線興業費
 - 第9巻 p.280 -ページ画像 
  金九万円     伊田線興業費
  金弐百四拾万円  増益費、即チ将来事業拡張ニ要スル資金
三十一年三月及十月ニハ
 金五百七拾五万円
    内訳
  金五百万円    船越鉄道線路興業費
  金四拾万円    若松外各駅拡張ノ増益費
  金参拾五万円   伊万里鉄道買収金
   (備考)伊万里鉄道八哩十一鎖ハ金五拾弐万円ヲ投シ建設シタルモノナレトモ、本会社ハ之ニ参拾五万円ニ相当スル本株券ヲ交付シ買収セリ、本線ハ単独ノ計算ニテハ其利益少ナシト雖トモ船越線ト九鉄既成線トノ聯絡上必要ノ線路ナルヲ以テナリ、其買収価格モ同鉄道会社経済困厄ノ際ナリシヲ以テ此ノ如ク廉価ナルヲ得タリ
ヲ増シ総計四千七拾五万円ナリ、其他社債ノ償還残高ハ九州ノ百五拾万円ト旧筑豊ノ弐拾八万参千円トヲ合セテ卅二年度上半季末現在ノ社債残高百七拾八万参千円ナリトス、今資本総額四千七拾五万円ノ内訳ヲ表示スレバ左ノ如シ

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                  円 払込済株金   二六、五九〇、〇〇〇・〇〇〇 未払込株金    三、七六〇、〇〇〇・〇〇〇 未募集株金   一〇、四〇〇、〇〇〇・〇〇〇 合計      四〇、七五〇、〇〇〇・〇〇〇 



    内訳

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                                                                                                    哩鎖      一哩建設費                                                                                                                   円 一五、四三六、一七二 七六四  既成   門司八代間(百四十三哩三十五鎖)鳥栖長崎間(九十七哩三十九鎖)早岐佐世保間(五哩四十六鎖)有田伊万里間(八哩十一鎖)小倉行橋間(十四哩六十四鎖)建設費   二六九、三五   五七、三一〇強  三、二四二、三〇二 九一五  同    筑豊線 若松下山田間(三十二哩十七鎖)直方金田間(六哩十鎖)小竹幸袋間(三哩四鎖)建設費                                  四一、四一   同                                                                                                             七八、一〇三強     九〇、〇〇〇 〇〇〇  同    同 金田伊田間建設費                                                                    三、四九    同                                                                                                             二五、七一四強    八七二、一八三 九一六  工事中  宇土三角間建設費                                                                     一六、二〇    同                                                                                                             五四、五一一強    四〇〇、〇〇〇 〇〇〇  同    飯塚長尾間建設                                                                       四、六七    同                                                                                                             八〇、〇〇〇弱    一〇〇、〇〇〇 〇〇〇  同    下山田上山田間建設費                                                                    一、二三    同                                                                                                            一〇〇、〇〇〇弱    四六〇、〇〇〇 〇〇〇  未着手  黒崎戸畑間建設費                                                                      四、六〇    同                                                                                                            一九三、〇〇〇弱    四〇〇、〇〇〇 〇〇〇  同    門司田ノ浦間建設費                                                                     三、六六    同                                                                                                            一〇〇、〇〇〇強    四五〇、〇〇〇 〇〇〇  同    筑紫運炭線(中間木屋瀬間)建設費                                                              三、二四    同                                                                                                             五〇、〇〇〇弱    四五〇、〇〇〇 〇〇〇  同    鞍手線(遠賀川室木間)建設費                                                                七、四〇    同                                                                                                             六〇、〇〇〇    二五〇、〇〇〇 〇〇〇  同    小倉線(小倉戸畑間)建設費                                                                 三、五八    同                                                                                                             六一、〇〇〇強  四、六六五、一七五 〇〇〇  同    船越線                                                                          五八、三四    同                                                                                                             七九、〇七六強  六、六一七、〇九六 六三九       車輛費                                                                              ―           ―    三六五、三五二 九七六       製作所費                                                                             ―           ―  六、九五一、七一五 七九〇       増益費                                                                              ―           ― 四〇、七五〇、〇〇〇 〇〇〇       合 計                                                                         四一八、三七           ― 



    第二 営業費各科目増減ノ理由
営業費ハ三十年度下半季ヲ境トシテ其以前ハ収入ニ対シ三割五六分ニ過キザリシニ、其以後ニ於テハ俄然暴騰シテ五割以上ニ達シタリ、普
 - 第9巻 p.281 -ページ画像 
通鉄道ニ於テ五割ヲ超過スルモノハ殆ント稀ナル所ナルニ九州鉄道ハ如何ナル特別ノ事情アリテ然ルヤト云フニ、線路ノ形状及地方ノ情況等コレヲ東海道及山陽鉄道ニ比シ実ニ非常ノ差違アリ、線路ノ傾斜多キコト、技線ノ多キコト、労働賃ノ高価ナルコト、諸物価ノ不廉ナルコト、機関車用水ノ不良ナルコト、旅客貨物ノ走行哩短キコト、及当初資金募集ニ困難シタル結果已ムヲ得ス万般不充分ノ設備ヲナシ、殊ニ軌条車輛等粗弱ノ材料ヲ用ヒタルコト等ニヨリ本来営業費ノ多キヲ免レサル道理ナリシニ、以前ノ経営法ハ第一項ニ記載セル如キ種々ノ事情ヨリシテ節減ヲ主トセサルヲ得サルニ至リ、僅ニ三割五六分ニ過キザルノ営業費用ヲ投シテ唯姑息ナル修繕ニ止メタルカ故ニ、近来ハ数年ノ虚脱其甚シキニ達シテ種々ノ危険ヲ見ルニ至レリ、東海道及山陽ニテハ始終同一ノ方針ヲ取リ線路ノ保存車輛ノ修繕及運輸ノ程度ニ比年大差ナキモ、九州ハ専ラ経費節減ノ方針ヲ取リ必要ノ保存修繕モ成ルベク後日ニ譲リタルカ為メ、遂ニ一時ニ回復ノ手段ヲ施サヾル可ラザルコトトナリ、為メニ三十年度下半季以後ニ於テ急激ナル営業費ノ増費ヲ要シ、随テ収入ノ多キニモ拘ラズ利益ヲ減少スルノ結果ヲ呈セリ、今各科目ニ就テ之レヲ見ルニ保線費ニ於テハ砂利撒布、枕木其他軌道用品ノ毀損シタルモノヲ取替ヘ及従来怠リタル各種必要ノ施工ヲナシ、運輸費ニ於テハ従来一駅長ニシテ二駅ヲ兼勤スル等無理ナル繰合セヲナシ居タルヲ改メ、総テ人員ノ増加ト物品ノ完備ヲ謀リタル上ニ列車運転ノ繁劇ニ赴キタルヲ主因トシ、滊車費ニ於テハ従前構造粗弱ナル車輛ヲ過当ニ虐使シタルガ為メ一般ニ甚タシク破損シタルモノニ修繕ヲ加ヘ、同時ニ新車輛ヲ購入スルノ止ムヲ得サルニ出テタルヲ以テ、之ニ対スル費用ノ増加ハ勿論機関車ノ如キハ新式ノモノヲ増シタルガ為メ其取扱ニ慣レザルヨリ消耗品ノ不経済ニ失シタル事情モアリ、又運転当務者及ヒ事務員トモ九州ハ明治廿七八年炭坑業ノ勃興シタルガ為メ給料ノ競争ヲ促シ坑業者ヨリ誘致セラレ若クハ自ラ進テ坑業ニ使用セラルヽヲ望ム者アリ、其出入頻々トシテ業務ニ熟練ヲ積ムノ遑ナク、随テ他鉄道ニテハ一人ニテ済ムヘキコトモ二人ヲ要スル等ノコトモアリ、且ツ車輛ノ安全ヲ保持スルガ為メ掃除検査ヲ励行スル等一般ニ人員経費ノ増加ヲ要シ、殊ニ諸物価ノ騰貴ハ三十年度ノ前後ヲ比較スルニ著シキ相違ナルヨリ各科目共同様ニ其影響ヲ蒙リ随テ営業費ノ割合ニ一層劇変ヲ来タスコトトナレリ、又総係費ノ如キハ他ノ三費目ノ増減ニ随伴スルノ定則ナレトモ、税金ノ如キ特別ノ支出ヲ区別スルトキハ業務ノ改良拡張ニモ拘ハラス却テ経常費用ノ減少ヲ示セリ、則チ近来営業費ノ増加ハ鉄道ノ義務上多年ノ積累ヲ一掃スルノ止ムヲ得ザルカ為メ、特ニ例外ノ現象ヲ示シタルモノナレトモ、三十二年上半季迄ノ所ニテ整理モ大抵一段落ニ近ヅキ今後徐々ニ整頓スルノ見込ニ付、収支ノ比較凡五割ヲ超過スル程ノコトナカルベシ
    第三 東海道日本山陽ノ諸鉄道ト営業費ノ比較
九州鉄道ノ特質トシテ他ノ山陽若クハ東海道鉄道ニ比シ割合ニ多額ノ営業費ヲ要スル次第ハ既ニ前項ニ明カナレトモ、其大要ヲ作業ノ程度ニ照シテ比較スルニ左ノ如シ
    営業哩壱哩平均営業費
 - 第9巻 p.282 -ページ画像 
         九州     山陽     東海道    日本
             円
二十九年上半期  一、八三四      ―      ―      ―
                    円
同下半期     二、〇〇六  一、五七五      ―      ―
三十年上半期   二、三一三  一、七九九      ―      ―
                           円
同下半期     二、六八一  一、七三八  三、二三一  三、五〇一
三十一年上半期  三、三三五  一、八〇一      ―      ―
同下半期     三、三四五  一、八一二  五、一三九  五、二〇九
(備考)本表中東海道ニ属スルモノハ一ケ年分ヲ折半シテ算出セリ
    列車走行哩壱千哩平均営業費
         九州     山陽     東海道    日本
             円
二十九年上半期    五五五      ―      ―      ―
                    円
同下半期       五七九    三九一      ―      ―
三十年上半期     六五二    四一八      ―      ―
                           円      円
同下半期       七七三    四六〇    八五八    六〇二
三十一年上半期    八八六    四九九      ―      ―
同下半期       八一二    四七八    八九八    八一六
    旅客貨物延哩拾万哩平均営業費
         九州     山陽     東海道    日本
             円      円      円      円
二十九年上半期    五八二      ―      ―      ―
同下半期       五九六    四八九      ―      ―
三十年上半期     六五四    五二九      ―      ―
同下半期       七二〇    六四七    五七三    六三五
三十一年上半期    八八五    六一七      ―      ―
同下半期       八七五    五五三    六六一    九三九
    貨物噸哩拾万噸哩平均営業費(旅客弐人哩ヲ壱噸哩トス)
         九州     山陽     東海道    日本
             円      円      円      円
二十九年上半期    八四六      ―      ―      ―
同下半期       八四四    七七八      ―      ―
三十年上半期     九五四    八五九      ―      ―
同下半期     一、一〇〇    九六〇  一、〇〇八    九八三
三十一年上半期  一、三三〇  一、一〇四      ―      ―
同下半期     一、三四五    九〇九  一、一三六  一、四一六
    第四 営業収支予算ノ方法
収支ノ予算ハ統計ヲ応用スルノ適当ナルヲ認メ、年々収支増減ノダイヤグラムヲ製シ其高低ノ程度ヲ測リ、兼テ特別ノ事情ヲ考量シテ玆ニ一切ノ標準ヲ定メ、各課ノ予算会議ヲ経テ社長コレヲ決定スルヲ制規トシ別ニ重役会議ニ付スルコトナシ
    第五 現在車輛ノ総数ト事業ノ割合
事業ノ程度ニ照シテ車輛ノ過不足如何ハ往々人ノ所見ヲ異ニスル所ナレトモ、九州鉄道ニテハ鉄道営業学上ノ原則ニ随ヒ統計上ニ得タル材料ヲ基礎トシテ一定ノ法式ニヨリ算出設備スルコトトナセリ、以前ハ斯ク充分ノ設計ヲ立ツル能ハサル事情ヨリシテ勢ヒ車輛ヲ虐使スルコトトナリタリシガ、今其一斑ヲ言ハンニ例ヘハ客車ニ於テ各国各鉄道多年ノ統計上旅客ニ甚シク座席ノ狭隘ヲ感ゼザラシメントスルニハ、
 - 第9巻 p.283 -ページ画像 
一客車ノ乗客定数ノ百分ノ二十乃至二十五ヲ標準トシテ設備スルヲ適当トナセリ、山陽ニテハ百分ノ十七八、東海道線ニテハ二十四五ノ割合ナルニ九州鉄道ニテハ二十八年後半季ヨリ三十一年後半季ニ至ル各七季間ノ一車平均旅客員数ヲ見ルニ二九・五、二九・三、二九・八、三二・六、三九・一、三一・〇、二八・八等ニシテ二五ノ制限ヲ遥ニ超過セシガ故ニ実際果シテ非常ノ狭隘ヲ感ゼシメタリ、又客車ノ走行哩数トテモ漫ニ多キヲ望ム可ラザルノ定則ニシテ、修繕等適当ノ注意ヲ加フルトキハ一客車一ケ年平均三万哩ヲ超ユル能ハサレトモ、従前九鉄客車ノ走行哩ハ実ニ五万哩以上ニ達セリ、其使用過当ニシテ修繕ノ不行届ナル素ヨリ当然ナルヲ知ルヲ得ベシ、今ヤ九鉄ハ凡ソ此等ノ標準ニ基キテ経営シツヽアレトモ猶百余台ノ不足ヲ感スルモノナリ
貨車ハ一ケ年間ノ平均走行哩一万哩ヲ超ユル能ハズ、而シテ其積載数ニ就テハ九鉄数年ノ統計ニヨリ計算スルニ一車平均凡三噸二以上ニ出ル能ハサリキ、貨車ノ現在数ハ注文中ノモノヲ合セ二千四百四十二台ナレトモ内木製炭車三百台ハ殆ント用ヲナサズ、鉄製炭車中ニモ車輪車軸ヲ取替ヘサレハ使用ニ耐ヘサルモノ五十台許、其他砂利車等ヲ除キ実際使用ニ供スルモノ二千台前後ニ過ギザレバ、三十二年度ニ於テ千百台三十三年度ニ於テ少クモ三百台ノ増加ヲ要スルナラン
機関車ノ所要数モ亦定則ニヨリ算出セザルヲ得ズ、而シテ其一ケ年平均走行哩数ハ二万哩ヲ超ユル能ハズ、然ルニ現在ノ機関車中旧九鉄ノ三台元筑豊ノ二台ノ如キハ到底停車場構内入替ノ用ヲモナサズ廃物同様ノ有様ニシテ、此外九鉄ニ於ケル独逸製四輪車二十六台、英国製六輪車二台、元筑豊ノ米国製六輪車六台、元伊万里ノ六輪車二台、合計三十台ハ現今停車場構内入替推進、建築或ハ旅客貨物ノ僅少ナル支線ニ使用スルヲ得ルノミニシテ実際機関車総数ヲ計算スルニ一機関車ト看做スコトヲ得ズ、サレバ九筑合併ノ際機関車ノ総数七十九台ナリシガ営業ノ進歩ニ随ヒ機関車数ノ不足ナルヲ以テ、三十一年前半季ニハ十六台ヲ増シ、同年後半季ニハ弐拾五台ヲ増シ、三十二年前半季ニハ弐拾壱台ヲ増シ、同後半季ニハ更ニ拾弐台ヲ増シ、旧新ヲ合計シテ百五拾三台ニ達セシガ、内五台ハ殆ント廃物ニシテ三十台ハ前述ノ如ク数ニ加フルノ能力ナク、且ツ修繕ヲ要スルモノ常ニ三十五台ヲ下ラサルノ有様ナレバ、目下新ニ十二台注文中ナレトモ猶以テ充分ナリトハ言フ可ラス
全体車輛ハ修繕ノ作用ニヨリ不死ヲ原則トナスト雖トモ、元来粗悪ニシテ修繕ノ為メ、新製ニ勝ルノ費用ヲ要スルモノ又ハ旧製ニシテ不能力ナルモノヽ如キハ止ムヲ得ズ廃物トシテ殺スノ外ナシ、然ルニ九鉄ニテハ当初資金ニ乏シカリシヨリ已ムヲ得ズ車輛費ヲ節約シタルカ為メ旧来ノ車輛ニ此種ノモノ多ク随テ新製ノ急ヲ要スル事情アリ、又車輛ハ事業ノ進歩ニ伴ヒ増加セザル可ラザルモノニシテ、其割合ヲ各国各鉄道ノ統計ニ照シ見レバ、車輛ニ投シタル資本金ノ総額ハ其鉄道一ケ年間ノ収入金額ト略ボ同額ヲ要スルコト一定ノ事実ナルガ故ニ、九州鉄道ニテモ今後一ケ年収入金壱千万円ニ上ルトキハ能力ヲ有スル車輛資金ノ額モ亦タ壱千万円ニ達スルコトナラン
    第六 山陽ト対比シ社員数ノ割合及其相違ノ理由
 - 第9巻 p.284 -ページ画像 
両会社ノ組織互ニ相同シカラス、山陽ノ運輸課ニ属スルモノニシテ九鉄ノ滊車課ニ属スルアリ、或ハ九鉄ノ総務課ノ如キ山陽ニテハ其事務課ヲ分チテ特ニ一課トナサヽルアリ、又人員取調ノ方法モ相異リテ九鉄ノ報告書ニハ給仕小使ノ如キ使用人ヲモ漏レナク掲ケ、山陽ニテハ職工ノ如キスラ小頭以下ノモノヲ省略スル等ノ事情アリテ、両社ノ計算法ヲ異ニスルコトナレハ単ニ人員ノミニテハ正当ノ比較ヲナスニ由ナケレトモ、三十一年下半季分ヲ強テ対照スレバ左表ノ如キ乎

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            人員        率            割合               人                    人 総務課  九鉄      二一            ―      四、三七九      山陽       五            ―      一、八一三                           人噸 運輸課  九鉄   一、八九二    三、七四九、二五六     五〇、四六三      山陽   一、二一一    一、六七三、八八七     七二、三四六                          列車哩 滊車課  九鉄   一、四一七    一、二三〇、二五六    一一五、一七九      山陽     五二八    一、〇六一、二三三     四九、七五三                          人噸哩数 工務課  九鉄   一、四八四   七四、三一四、八三〇      一、九九六      山陽   一、〇一八   五五、八二九、八九三      一、八二三 計理課  九鉄     一九七            ―     四一、〇八四      山陽     一二五            ―     四五、三三九 



三十一年下半季ノ分ヲ一括シタル結果左ノ如シ

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      人員     率          割合         人               人 九鉄  五、〇一一  七九、三〇三、九三二  六、三一九 山陽  二、八八七  五八、五七〇、五四五  四、九二九 



   (備考)此割合ハ十万位ニテ算出ス
此比較ヲナスニ付テハ事業ノ繁閑ニヨリ比較セサル可ラザルガ故ニ、運輸課ニ在テハ貨物噸数ト乗客人員ノ半数ヲ合シ之ヲ率トシテ課員ノ割合ヲ対比シ、滊車課ニ在テハ列車哩数ニヨリ、工務課ニ在リテハ噸哩数ト人哩数ノ半数ヲ合シタルモノニヨリテ比較シ、総務課・計理課ハ他三課員合計ニ照シテ其割合ヲ算出シタルモノナリ、即チ運輸課ニ於テハ九鉄ノ方少ナク滊車課ハ非常ニ多ク其他概シテ九鉄ノ方稍々多キヲ見ルベシ、是レ山陽ニ在テハ社員ノ出入代謝少ナキヨリノ自然執務ニ熟練ヲ得ヘキモ、九鉄ニテハ第二項ニ記スル如ク地方ノ事情大ニ殊ニシテ出入甚タ頻繁ナルカ故ニ随テ其熟練ヲ欠キ、勢ヒ多人数ヲ要スル等モ其大ナル源因タルニ相違ナカラン
    第七 会社内ノ組織及事務取扱ノ順序
合併前ハ庶務運輸建築汽車会計倉庫ノ六課ニ分チ居タリシガ、合併後総務・運輸・工務・汽車・計理ノ五課ニ分チ、其執務ノ方法ハ爾来漸次制規ヲ厳ニシテ実行セリ、従来ニアリテハ各課責任ノ区分劃然タラス人ニヨリテ業務ヲ消長スルノ有様ナリシガ故ニ、庶務課ニ属スヘキ書類ニシテ会計課ニ保存セラルヽアリ、建築所属ノモノニシテ運輸ニ蔵ルヽアリ、紛乱混雑シテ既往ノ事蹟ハ殆ント尋ルニ由ナキモノ少ナカラザリシガ、新規則ハ人ニヨリテ事ヲ行フノ弊ヲ避ケ、法ニヨリテ責ヲ分ツヲ主旨トナセリ、即チ各本課ハ其分掌事務ノ首脳ニシテ、地方ニハ総務課ヲ除キ他課イツレモ各事務所ヲ設ケテ手足トナシ相貫通聯絡スルノ仕組ナリ
 - 第9巻 p.285 -ページ画像 
    第八 物品購買ノ方法
外国品ノ注文其他購買物ノ重ナルモノハ予メ重役会ノ決議ヲ経ルナリ其注文ノ実際ニ当テハ社長ノ取計ニ一任スルノ習慣ニシテ、又一口五拾円以下ノ買物ハ計理課長之ヲ行フノ定規ナリ、其定規タルヤ概シテ競争入札ニ附スルノ定メナレトモ、入札モ亦タ近来甚シキ弊害アルガ故ニ会社ニ於テハ予メ凡ソ品質代価ノ標準ヲ定メ、内実某商店ハ適当ナリト思考スレドモ用心ノ為メ他商店ヨリモ見積ヲ徴シ失誤ナカランコトヲ期スルノ例ニシテ、入札トハ云フモノヽ則チ注文上ノ参考ノ為メ広ク各商店ノ振合ヲ調査シ、価格ニ著シキ差違ナキ限リハ信用アル商店ヲ撰ミテ托スルナリ、例ヘハ外国品ニアリテハ従前ハ某商会一手請負ノ姿ナリシカドモ、其物品粗悪又ハ代価高直ニシテ現法実施以来曾テ落札シタルコトナシ、又駅員其他ノ制服ノ如キ若クハ印刷物ノ如キモ広ク都会ノ地ニ注文セシ以来、地方ノ商店モ漸次専恣ノ弊ヲ除キ得タルト同時ニ或ハ怨声ヲ生スルモ免ル可ラサルコトナラン、先ツ今日迄ノ処ニテハ右ノ方法ニヨリ好結果ヲ収メ得タルガ如シ
    第九 仮出金ノ内訳
既往ノ仮出金中未決算ノマヽ前担任者既ニ退社セシニ因リ尋ヌルニ由ナキモノアリ、精算ヲ怠リテ延引シタルモアリ、随分不始末ノ形跡アリタレトモ此等ハ漸ク以テ悉皆整理ヲ了セリ、試ニ毎季末ノ仮出金高ヲ挙クレバ

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                円                    円 二十三年下半期  二八四、五四〇   二十四年上半期     六〇、〇六二 同   下半期  一〇九、八五七   同   下半期    三五五、八二七 二十五年上半期   八五、一三三   二十九年上半期    七〇三、八三九 同   下半期   九三、七八二   同   下半期    五二五、二六〇 二十六年上半期   一四、八九二   三十年上半期     四五二、一三六 同   下半期   三八、〇八九   同  下半期   一、一四〇、五六二 二十七年上半期   五三、〇四九   三十一年上半期  一、六五七、一二五 同   下半期  一一七、四三一   同   下半期  二、七二〇、六五四 二十八年上半期  一八一、〇四三   三十二年上半期    五一五、七八九 



右ノ如ク三十一年下半期ニ弐百七拾弐万六百五拾四円ノ巨額ニ達シタルハ、必竟二十七年以後未決算ニ経過シタルカ故ニシテ、三十二年ニ於テ同季間ノ仮出金高ト共ニ整理シタル高金参百七拾八万弐千六百五拾五円ニ上リシモ、猶残高金五拾壱万五千七百九拾八円余ニシテ、今後整理ヲ加ヘ仮出金ヲ減スルノ方針ヲ取リツツアルナリ
    第十 貯蔵品ノ内訳
従来貯蔵品ノ出納極メテ不整理ナリシヲ以テ其係員ヲ更迭シ、本年六月来各種物品ノ排列方ヲ定メ倉庫ヲ区分シテ一大調査ニ着手シ、爾後七十余日ヲ経テ漸ク之ヲ完了シタル結果各地倉庫ニテ台帳面ニ対スル現品ノ超過高拾参万六千余円、現品ノ不足高拾壱万八百余円、差引弐万五千五百余円ノ超過ヲ示シタリシカ、其後不足高ノ内ニ就テ物品払渡ノ儘未タ決算セサルモノナキヤ否ヤヲ調査セシニ、六万四千九百余円ハ未決算ノ儘ナリシヲ発見シタリ、依テ真ノ超過高ハ
 - 第9巻 p.286 -ページ画像 
 金九万四百九拾円五拾弐銭六厘
    内訳
  金七万四千百八拾四円六拾弐銭七厘 レール五千四百四十五本見積代金
  金壱万六千参百五円八拾九銭九厘  雑品代金
ナリ、右超過ノ原因ハ新線工事ノ際工務課ヨリ請求ヲ受ケタル軌条中其幾許ヲ送リタル後工事ノ都合ニヨリ初メ請求シタル丈ノ数ヲ要セサルニ至リシモ、其際請求券ノ訂正ヲナサヽリシモノ又ハ全数配給後不用ニ属シ戻入ヲ為シタルモ、正当手続ヲ経ズシテ倉庫所管ニ移リタルカ如キモノ等アリシニ由ルナラン、又雑品ニ至テハ甲品ニ不足シ乙品ニ余剰アルノ類少ナカラス、例ヘハ円鉄ニ過剰アリテ半円鉄ニ不足アルカ如キ其種類相似タルヨリ受入ノ際台帳ニ座違ノ記入ヲナシタルモノアルベク、又度量衡ニヨリ受渡ヲナス物品ニ至テハ殊ニ異動ヲ免レザリシガ如シ、斯クテ一旦調査結了シタリト雖トモ尚万一ノ遺漏モ測ル可ラサルニヨリ、今後一ケ年間超過高トシテ其儘ニ保管シ弥々相違ナキヲ確メタル後処分ノ法ヲ定ムル筈ナリ
本年九月末日ノ貯蔵現品高ハ左ノ如シ
 金九拾七万弐千五百参拾六円拾六銭参厘也
    内訳
  金拾八万四百八拾参円四厘        材料素品
  金四万参千六百四拾円弐銭弐厘      運転用品
  金四万九千百参拾八円六拾銭壱厘     停車場及事務所用品
  金参万八千弐百八拾参円七拾参銭九厘   機械器具
  金六拾弐万七千六百参拾七円七拾壱銭六厘 資品
  金参万参千参百五拾参円八銭壱厘     雑類
    第十一 九州鉄道会社ト若松船舶会社トノ関係及其実況
若松船舶会社ハ旧筑豊鉄道会社ノ経営ニ成リタルモノニシテ、同鉄道ニヨリ若松港ニ集合スル石炭ハ海路門司ニ至リテ始メテ夫々需要地ニ配分セラルヽモノナルカ故ニ、門司若松間運送ノ便利ヲ欠クトキハ若松構内ニ石炭ノ盈車停滞シ為メニ運送ヲ妨クルコト容易ナラス、然ルニ当時ハ石炭荷主ニ於テモ今日ノ如ク自用ノ運送船充分ナラザリシヲ以テ、会社ニ於テハ此停滞ヲ疏通センガ為メ自ラ進ンデ海漕ノ便利ヲモ供給セザルベカラサル現況トナリ乃チ艀舟及曳船用滊船ヲ購入セシナリ、同時ニ旅客ノ定期航海ヲ開始シタル所以ハ、石炭ト共ニ炭客ノ若松馬関門司間ニ往来スルモノヽ便利ヲ図リ傍ラ九州鉄道ノ旅客ヲ筑豊線ニ誘致センガ為メナリシモ、鉄道会社ニテハ海漕ヲ兼営スル能ハザルニヨリ別ニ船舶会社ナルモノヲ組織シ船舶会社株式全部即チ二千四百株拾弐万円ヲ引受クルニ決シ計画十余月漸ク二十九年六月ニ至テ成立セリ、当時九鉄ニテハ黒崎戸畑間ノ支線ヲ出願シ、他ニハ又小倉鉄道会社ナルモノヲ組織シテ小倉戸畑間鉄道布設ノ運動ヲナス等都テ筑豊ノ競争者トシテ現レタルガ為メ、筑豊鉄道会社ニ於テハ自己ノ利益ヲ保護センカ為メ已ムヲ得ス海漕ノ便利ヲ計ルコトトナリタルモノナリ、越テ三十年四月ニ至リ九筑合併ノ結果之ヲ以テ其儘引継グコトトハナレリ、サレバ九筑互ニ競争ノ位置ニ立チタルトキハ其必要モア
 - 第9巻 p.287 -ページ画像 
リタリシガ、已ニ合併セシ以上ハ亦タ之ガ存立ノ要ヲ認メザルノミナラズ却テ煩累アルヲ以テ解散ノ手続ヲナシ目下清算中ナリ
    第十二 若松築港会社及洞海北湾埋渫会社ノ株式買入ニ関スル始末
旧筑豊鉄道会社ガ若松港ニ於テ海陸ノ連絡ヲ便利ナラシメントスレハ築港ノ計画ハ決シテ等閑ニ付スベカラス、築港会社ノ計画ニ容喙シテ海陸連絡ノ便宜ヲ筑豊鉄道会社ニ得ントスレハ資本ヲ供給シテ株主トナルヲ必要トス、之レ則チ其株式ヲ買入レタル所以ニシテ九筑合併ノ際九鉄会社ニ其儘引受其株数七百九十四株ヲ所有セリ
洞海北湾埋渫会社ノ埋築スベキ地所タルヤ現ニ若松停車場ニ接続シ将来貯炭場トナルベキ要地ナリ、若シモ今日ヨリ同会社ニ加入合資セサルトキハ他日敷地買収ノ際非常ノ高価ヲ支払ハサルヲ得サルベキニヨリ、必要ノ地所ヲ廉価ニ購入スルノ予備手段トシテ出資セルモノニテ其総額ハ八万円既払込額ハ四万八千円ナリ
今ヤ若松築港会社ハ更ニ海陸ノ連絡ヲ謀リ且ツ官設製鉄所ト港湾連絡ノ必要ヲ認メ全湾拡張ノ計画中ナルガ故ニ、今後トモ九鉄ニ於テ同会社ノ株券ヲ引続キ所有シ又洞海北湾埋渫会社ノ株券ヲ所有スルニアラサレハ、右等ノ設計完成ノ後ニ於テ停車場構内ノ改良又ハ変更ノ必要ヲ生スル時期ニ至リ必要ノ地所ニシテ埋渫会社ノ専有タラバ、非常ノ困難ト失費トニ損害ヲ被ムルコトアルベシ
    第十三 門司ノ鉄道用地買戻訴訟事件ノ始末
本社及停車場ノ敷地ハ明治二十三年四月払下ヲ出願シ、私設鉄道条例第十五条(官有ノ土地ニシテ鉄道用地ニ必要ナルモノ及第九条ノ土地ハ相当代価ヲ以テ之ヲ払下ゲ、其民有ニ係ルモノハ公用土地買上規則ニ拠リ買上ゲ会社ニ払下クベシ、但其土地ニ建物アルトキハ本条ニ準ジテ之ヲ処分スベシ)ニ依リ地方庁ト数回交渉ノ上本社ノ所有ニ帰シタルニ二十九年五月前所有者前田助次郎外五名ヨリ
 鉄道用地トシテ公用土地買上規則(第一則公用土地買上トハ国郡村市ノ保護便益ニ供スルタメ院省使庁府県ニ於テ人民所有ノ土地ヲ買上ルヲ云フ、但国郡村市ノ保護便益ニ供スル為メ人民ニテ鉄道電線上水等ノ大土工ヲ起ス時ハ其事業ニヨリ特別官許ノ上此規則ニ準スルヲ得ヘシ)及私設鉄道条例(第八条左ニ記載スルモノヲ以テ鉄道用地トス、第一線路ニ当ル敷地但其幅員ハ築提切取架橋等工事ノ必要ニ応シテ定ムルモノトス、第二停車場及之ニ付属スル車庫貨物庫等ノ建築用ニ供スル土地、第三前項ノ構内ニ常住ヲ要スル駅長車長及機関方等ノ家宅番人小屋等ノ建築用ニ供スル土地、茅田鉄道布設又《(第四)》ハ運輸ニ要スル車輛器具ヲ製作修繕スル器械場及同上ノ資材器具ヲ貯蔵スル倉庫ノ建築用ニ供スル線路ニ沿ヒタル土地)(第十五条ハ前出)ニ由リ買上ケタルニ拘ハラス之ヲ鉄道用地ニ使用セズ依テ原所有者ニ於テ買上代金ヲ以テ買戻シ得ベキ権利アリト其請求ヲナシタルモ会社ハ之ニ応セサルニ付買上代金ヲ受取リ右地所売戻ノ手続ヲ求ムル
旨ヲ以テ福岡地方裁判所小倉支部ヘ訴訟ヲ提起シタリ、依テ弁護士松井某ニ弁護ヲ依頼セシニ、其年九月ノ裁判期日前ニハ松井ハ上京中ナ
 - 第9巻 p.288 -ページ画像 
リシニ当時非常ノ暴風雨アリ、東海道鉄道モ久シク不通トナリシ為メ期日ニ至ルモ帰ルヲ得ス闕席判決アリ、本社ノ敗訴トナリタルヲ以テ直ニ原裁判所ヘ故障ヲ申立テ三十年五月ノ裁判ニ於テ
 被告会社ニ付テ鉄道布設ヲ止メ又ハ線路ノ変更ニ依リ地所ガ全然不用ニ帰シタル確証ナキ限リハ、工事竣功期限内ニアリテ原告ハ地所売戻手続ヲ請求スルノ権利ナシ
 ノ判決アリシモ原告ノ之レニ服セス長崎控訴院ニ控訴シ三十一年二月
 工事進行中ナル今日ニ於テ鉄道用地タルノ必要止ミタリトノコトハ極メテ明確ナル挙証ヲ要スルモノナルニ之ヲ認ムルニ足ルヘキ一ノ確証ナキカ故ニ、控訴人ノ請求ハ採用セス
トノ言渡アリ、原告人ノ控訴ハ却下セラレタリ、然レトモ判決ノ要領ヲ考フルニ私設鉄道条例第八条ニ規定シアル外本社及社宅ノ一部ハ明年旧九鉄予定工事竣功ノ暁ニ至レハ遂ニ取払ノ請求ヲ再起スルニ至ルヲ免レス、当時門司ノ有志者コノ訴訟事件ヲ聞キ、門司ハ九鉄ニヨリテ其繁栄ヲ保ツコトナレハ有志者ヨリ原告人ニ補償金壱万六千円ヲ与ヘ再ヒ用地問題ヲ提起セシメサルコトヲ約束シタリト云フ、然ルニ本社ヨリ之ヲ見レバ裁判ハ一時ノ勝訴ナルモ、判決ノ主意書ニヨレハ有志者ノ調停ニヨリ結了スルニ非サレバ遂ニハ再ヒ訴訟ヲ起シ会社ノ不利タランモ知ル可ラサルヲ以テ、唯コレヲ門司有志者ノ負担ニ帰シテ傍観シ得ヘキニアラス、殊ニ他日此等ノ為メ門司市ニ対シ徳義上ノ束縛ヲ受クル様ニテハ実ニ不本意ノ至ナリ、二万七千七百余坪ニ対シ壱万六千円トスレバ一坪五六十銭ニシテ、購入ノ際五六十銭高価ナリシモノト仮想シ該金額ヲ門司有志者ニ交付シタルヲ以テ間接ニ補償ヲ与ヘ調停シタル姿トハレナリ
    第十四 三十一年十一月借入金七拾万円ノ始末
明治三十一年十一月第一銀行ヨリ金拾万円、三井銀行、第百銀行及今村銀行ヨリ各金拾万円、三菱銀行ヨリ金弐拾五万円、合計金七拾万円ヲ借入レタリ、然ルニ二十一回報告書卅一年後半季ニ一方ニハ百万円ノ預金アリ貸借両立セルヲ以テ往々疑義ヲ挟ムモノアレトモ、当時会社経済ノ有様ヲ明ニスレバ左ノ如シ

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           預金其他収入見込      支出見込 三十一年十一月  弐百参万弐千参円     弐百参拾万参千参百七拾参円 同   十二月  参拾五万参百参拾八円   百九万五千九百八拾九円 三十二年一月   六拾万弐千九百六拾参円  六拾六万九千七百拾壱円 同   二月   参拾五万五百拾円     七拾万六千八百九十五円 同   三月   百壱万七千八百円     五拾四万四千九百参拾参円 



故ニ毎月ノ過不足左ノ如キ勘定トナル
 十一月不足   弐拾七万千参百七拾円
 十二月不足   七拾四万五千六百五拾壱円
 一月不足    六万六千七百四拾八円
 二月不足    参拾五万六千参百八拾五円
 三月超過    四拾七万弐千八百六拾七円
即チ三十一年十月ニ於テ前途ヲ見込ムトキハ十一月及十二月ニ於テ凡百万円余ノ不足ヲ生スル見込ナリ、而シテ此不足ヲ補充スルニハ一時
 - 第9巻 p.289 -ページ画像 
借入金ヲナスヲ要スレトモ年末ニ迫ルトキハ金融繁忙ノ際困難ナルベキヲ察シ、十一月初旬ニ於テ翌年一月ノ期限ニテ七拾万円ノ借入ヲナシタルナリ
偖此借入金ノ期限ハ其後更ニ延期シ四月迄トナセリ、当時三月中旬ヲ期シ払込金ノ受入アルヘキ筈ナリシヲ以テ三月返済ノ約束ニテ差支ナキガ如クナレトモ、募集毎回ノ例トシテ払込金ハ必スシモ期限通ニ収了スル能ハス、従来ノ実験上期日マデニハ凡ソ其六分余ヲ収納スベキ見込ヲ以テ七拾万円ノ内弐拾万円ヲ三月ニ返済シ、余ハ四月ニ跨リテ払込金受入次第返済セントノ計画ヲナセシニ、当時金融漸ク緩慢ニ赴キタルノ結果ニヤ意外ニモ期日ニ凡ソ九分通リノ払込アリタリ、依テ四月ノ初メ速ニ借入金全部ヲ皆済セシガ三月末日ハ半季決算日ナルヲ以テ、同日調ノ報告書ニハ多額ノ預金アルニモ拘ハラス一方ニ借入金アルヲ示シタリ、畢竟払込ノ例外ニ多カリシト当時恰モ半季決算日ニ際会シタルカ為メ人ヲシテ意外ノ疑団ヲ抱カシムルニ至リタルノミ
    第十五 貨車千百台及客車五十台製造ノ始末
三十二年度ニ於テボギー客車百五十台余・貨車一千台余ノ不足ヲ生ズベキ予定ナリシヲ以テ三十一年初季ニ於テボギー客車百台・貨車千百台増加ノ計画ヲナシ、内外国ノ重ナル車輛製造所ヨリ見積書ヲ徴セシニ、外国製ハ甚シク高価ナルヲ以テ車輛、車軸、スプリング、バソフアー、ソールバー等ノ鉄製物ノ材料ヲ外国ニ注文シ、他ハ内地ニテ製造セシムルコトトセリ、然ルニ多数車輛ヲ一時ニ製造スルニハ一二製造所ノ堪フベキニアラザルヲ以テ、客車数ヲ半減シ五拾台トシ数ケ所ニ分テ注文シ、製造用外国品ハ本社ニ於テ取纏メ材料トシテ各製造所ニ供給スルコトヽセリ、此材料ハ三十一年十二月門司ニ於テ引受クベキ筈ナリシモ、偶々英国ニ於テハ五ケ月ニ亘ル同盟罷工ノ騒ギアリ、為メニ期ヲ誤リシモ、三井物産会社ノ非常ニ尽力セシ為メ本年三月ニハ悉皆到着セリ、又車輛製造ニ付テハ注文ノ際代金三分ノ一ヲ交付シ製工度三分ノ一ニ達シ又代金三分ノ一ヲ交付シ、落成ノ上残額ヲ交付シタリ、落成期限ハ可成取リ急ギタルモ為メニ代価ノ不廉ナルヲ認メズ、貨車ニ往々雨漏ノモノアリシハ、是レ塗料ノペンキ濃厚ニ過ギ為メニ亀裂ヲ生シタルニヨルヲ以テ悉皆受負者ニ塗替ヲ命シタリ、又車軸ニ発熱スルモノアリタレトモ、是ハ新製車ニ於テハ免レサル所ニシテ、追々使用シ車軸触接ノ部分円滑トナレハ亦タ此患ナキモノナリ
    第十六 機関車修繕用チユーブ購入ノ過誤
チユーブ購入ノ注文ハ三十一年九月東京磯野商会ニ契約セシモノナルガチユーブノ直経ニ二様アリ、総直経乃チ外経ヲ「ダイヤシター」ト云ヒ、穴ノ直径ヲ「ボーア」ト云フ、即チ其管ノ厚サ丈ケノ相違ナリ其過誤ノ原因ハ汽鑵用チユーブハ通常経何吋ト称シ別ニ内外ノ文字ヲ附セズシテ外経タルコト明カナルニ、此チユーブヲ注文スルト同時ニ他ノ銅管ヲモ注文セリ、而シテ銅管ハ通常「ボーア(内経)何吋」ト称シ注文書ニハ銅管ト列記シアリタルガ為メ遂ニ誤テ銅管同様ボーア何吋ト書シタルノ致ス所ナレトモ、此チユーブトテ決シテ使用スル能ハサルニアラス、新機関車ニハ其儘使用スルヲ得ルナリ、其数量金額ヲ挙クレバ
 - 第9巻 p.290 -ページ画像 
 機関車用チユーブ 内経二吋 六千四百本
 同 内経一吋四分ノ三 二千三百本
 同 内経一吋半 五百本
此代価金五万五拾五円ナリ
    第十七 新株五万九千八百株払込延引ノ理由
明治三十年十一月五日ノ臨時株主総会ニ於テ左ノ議案ヲ可決シタリ
 第四号議案(抄録)
    資本金増加ノ件
 一本会社ニ資本金五百万円ヲ増加シ、筑紫運炭、鞍手、小倉ノ三鉄道(布設権)買収ノ為メ同三鉄道会社株主ヨリ募集スヘキ株金百十五万円ヲ除キ、残額参百八十五万円ハ、卅一年二月十日九州鉄道会社現在株主ヨリ募集シ、此増資ニ対スル株式募集ノ方法ハ取締役ノ決議ヲ以テ之ヲ定ムル事
 右増資ノ内訳左ノ如シ
  一 金四拾万円    長尾線興業費
  二 金拾万円     上山田線興業費
  三 金九万円     伊田線興業費
  四 金弐百四拾万円  増益費即チ将来事業拡張ニ要スル資金
  五 金四拾六万円   戸畑線興業費
  六 金四拾万円    田ノ浦線興業費
  七 金四拾五万円   筑紫運炭鉄道買収費
  八 金四拾五万円   鞍手鉄道買収費
  九 金弐拾五万円   小倉鉄道買収費
    計金五百万円
  (備考)筑紫、鞍手、小倉ノ三鉄道会社株主ハ唯前記買収費ニ充テタル金額ノ株式ヲ引受クルノミニシテ参百八十五万円ノ増資割当株ハ引受ケズ
 第五号議案(抄録)
    定款附則追加ノ件
 一本会社ガ今後募集スル拾万株(即五百万円)ハ定款改正認可後三ケ月以内ニ一株ニ付金五円宛ヲ第一回払込金トシテ払込マシメ、残額ハ三十五年十二月迄ニ定款第十五条ニ従ヒ払込マシム
 右改正増補出願ノ上若シ修正加除ヲ要スル事アリテ其事柄決議ノ趣旨ニ牴触セサル限リハ、取締役会ノ決議ヲ以テ変更ノ出願ヲナス事
此決議ニ基キ其認可ヲ逓信省ヘ出願セシニ、第四号議案ノ増資費目中五ヨリ九マデノ線路ハ当時未タ布設本免状ヲ下付セラレサルモノニ付之ヲ除キ、一ヨリ四マテノ増資ヲ分割出願スヘシトノ内意ナリシヲ以テ其内意ニ随ヒ願書ヲ訂正シ、其結果トシテ第五号議案ノ「拾万株」トアルヲ五万九千八百株(即二百九十九万円)ト訂正シテ卅一年十二月廿一日認可ヲ得タリ、即チ部分認可トモ云フベキモノナリ、然ルニ第四号議案ニモ明記セル如ク増資金五百万円全部ヲ卅一年二月十日現在ノ株主ヨリ募集スヘキ筈ナルヲ以テ、其一部ナル弐百九拾九万円ヲ分割シテ募集スル能ハス、仍テ定款附則ニハ定款改正認可後三ケ月以内ニ募集スヘシト明記シアレトモ五百万円全部ノ許可ヲ得ルマテ同附則ノ実施ヲ延期スルコトニ重役会議ニ於テ議決シ、乃チ卅二年四月ノ
 - 第9巻 p.291 -ページ画像 
株主総会ニ其旨ヲ報告シタリ、而シテ一方ニ於テハ其筋ヘ全部認可ヲ取急ギ手続ヲナシツヽアリ、故ニ株主ニ於テハ定款附則ノ明文ニ拘ハラス新株募集延期ヲ承認シ居ルモノニシテ会社当局者モ亦右ノ如ク延期ノ取計ヲナシ総会ニ報告シ承認ヲ得ルノ外他ニ手段ナキモノナリ
第四、五号決議ニ基キ出願中未ダ認可ヲ得サル内ニ又船越線及若宮線(布設権)買収ヲ要スルノ事件アリテ、卅一年三月一日臨時株主総会ヲ開キ左ノ決議ヲナセリ
 議案(抄録)
 一本会社ニ資本金六百万円ヲ増加スル事
  其内訳左ノ如シ
  一金五百万円 船越鉄道線路興業費
  一金六拾万円 若宮鉄道線路興業費
  一金四拾万円 若松外各駅拡張ノ増益費
又次デ既設伊万里鉄道買収ノ事件起リ、卅一年十月廿八日ニ臨時株主総会ヲ開キ左ノ決議ヲナセリ
 議案(抄録)
 一伊万里鉄道(既設)買収之件
 此代価トシテ更ニ資本金参拾五万円ヲ増加シ、政府ノ許可ヲ得次第七千株ノ払込済株券ヲ本会社ヨリ発行シテ伊万里鉄道株式会社ノ株主ニ交付セントス
  (備考)伊万里鉄道(八哩十一鎖)ハ五拾弐万円ノ建設費ヲ投シタルモノナレトモ、九州鉄道会社ニ於テ之ヲ参拾五万円ニテ買収シタルモノナリ
然ルニ若宮線ハ逓信省ニテ不認可トナリタルニ付其興業費六拾万円ヲ削除シ、残額五百四拾万円ニ加フルニ伊万里線ノ参拾五万円ヲ合シテ五百七拾五万円、コレニ卅年十一月五日決議ノ五百万円ヲ合セ総計金千〇七十五万円トナシ一括シテ増資ノ認可ヲ出願セシニ、前記ノ如ク弐百九拾九万円ト伊万里ノ参拾五万円合計参百参拾四万円ノミ分割ノ上許可セラレ余ハ未ダ認可ヲ得ス、蓋シ伊万里鉄道ハ既成線ナルヲ以テ速ニ認可セラレタレトモ、船越ノ如キハ未ダ本免状ヲ得サルモノニ付キ未許可トナリタルナリ
  (備考)以上本免状ヲ得サルカ為メ増資ノ認可ヲ得サリシ残額七百四拾壱万円ノ分モ、卅二年十二月ニ悉皆認可トナリ、会社ニ於テ直ニ其株金募集ニ着手シタリ
    第十八 第廿一回報告ニ於テ石炭費其他ノ内金九万円余ヲ後期ヘ繰入レタル理由
会社ノ計算ハ、決算期ニ際シテハ便宜上予メ時日ヲ限リ決算書ヲ計理課ニ回付シ、其期日内ニ各課ヨリ到着セシモノヲ以テ其期ノ決算ヲナスノ例ナリ、此九万余円モ右ノ期日内ニ決算書ノ計理課ニ到達セサリシガ為メ後期ヘ繰入レタルモノニシテ、実際ノ消費高ト決算高ト相違スルニ至レリ、其内訳左ノ如シ
  金四万千弐百弐円弐拾九銭六厘 石炭費
  金四万弐千百七拾七円四拾四銭壱厘 車類修繕費
  金八千六百五拾四円四拾弐銭九厘 軌道修繕費
   計金九万弐千参拾四円七拾六銭六厘
質問調査ハ前記ノ如ク一応結了シタルヲ以テ三十二年十月十八日益田
 - 第9巻 p.292 -ページ画像 
孝、片岡直温、根津嘉一郎、住ノ江常雄、仙石貢、松田源五郎、安川敬一郎、麻生太吉、山崎隆篤、斎藤美知彦ノ諸君ト九州鉄道本社ニ相会シ、将来ニ関スル考量ノ為メ更ニ左ノ事項ヲ質問シ、又同月二十三日ノ集会ニ於テ別記ノ通リ意見ヲ述ベ、之ニ対スル答弁ハ或ハ即答シ難カルヘキヲ慮リ追テ社長出京ノ上協商スルコトヽナシ、尚ホ同行セル益田、片岡、住ノ江、根津、諸君ニモ他ニ述ヘント欲スル廉アラバ各自ニ述ル所アルベシト告ケタリシニ、四君ガ其実地視察シタル所ニヨリ別記ノ箇条ヲ挙ケテ意見ヲ呈出セリ
    ○十八日質問ノ事項
第一九 既ニ営業シタル線路ニシテ旧九鉄ニ合併シタル部分ノ収支、既往三年間該各社ノ収支及、合併後三年間ノ収支
第二〇 工事着手中ノ支線、其哩数及、収支予算
第二一 工事未着手ノ支線、其哩数、及収支予算
第二二 新出願ニ係ル権利
第二三 右ハ増資ヲ要スルヤ否ヤ
第二四 現行定款ノ適否
    ○廿三日最終会合ノトキ示シタル意見
第二五 社長ノ下ニ商売取引ニ熟練ナル者ヲ聘シ営利ノ事ニ当ラシムルコト
第二六 定款改正ヲナス事
 取締役 減員ヲ要スルナラン
 株主ノ権利ハ商法ノ原則ニ基キ一様ナラシムヘシ
 右ノ外、章句ノ修正ハ法律家ニ托シ一般ノ模範トナルヘキモノヲ調製セシムルコト
第二七 新線ノ計画ニ付テハ緩急ヲ見計ヒ施設ニ注意スヘキ事
 田ノ浦線、船越線、稲佐線等《(飽ノ浦カ)》ハ熟考スヘキモノナリ
第二八 貨物運賃ハ標準ヲ定メ、臨時割引特約ヲナスノ方策ヲ立テ、務メテ貨物ヲ多カラシムルコト
第二九 乗客ニ対シテハ務メテ満足セシムル方ヲ講シ、訳長以下《(駅)》ノ脳髄ヲシテ常ニ営利ノ二字ヲ忘レシメスシテ懇切ナラシムルコト
第三〇 会社既定ノ諸規則ハ完全ナルモノヽ如シ、宜シク監督ヲ厳ニシ実行ヲ務ムヘシ、就中駅員ノ監督ハ一層励行ヲ要スルナラン乎、表面監督ノ外尚社長限リ密偵ヲ使用シ視察報告ノ制ヲ定ムルコト
第三一 大銀行ノ内三四ヲ取引銀行トシ、貸越ノ金額ヲ定メ置クコト
第三二 経費ノ節減ヲ講シ可成人員ヲ減少スルコト
    ○同行者四君ヨリ呈出シタル意見
第三三 速力ニ関スル事
 (イ)線路ニ傾斜多キ事
 (ロ)停車場ノ事
 (ハ)ブレーキノ事
 (ニ)運転手ノ事
 (ホ)事務員ノ事
第三四 佐世保線ノ事
第三五 一等旅客運賃引上ノ事
 - 第9巻 p.293 -ページ画像 
第三六 車内ノ取締
第三七 公衆電信ノ取扱
    第十九 既ニ営業シタル線路ニシテ旧九鉄ニ合併シタル部分ノ収支、既往三年間該各社ノ収支、及合併後三年間ノ収支
既開業線ニシテ旧九鉄ニ合併シタルモノハ筑豊鉄道及伊万里鉄道ノ二線是レナリ、筑豊鉄道ノ既往ニ遡リテ合併前ニ於ケル三年間ノ収支ヲ比較スレバ、支出ハ収入ノ凡四割六分ヲ占メ、而シテ其利益配当率ハ
 二十七年上半季   八分
 同下半季      九分
 二十八年上半季   壱割
 同下半季      壱割
 二十九年上半季   壱割
 同下半季      壱割
猶ホ別途積立金ヲナシ得タルコトニシテ今日ニテモ九鉄線路中ノ最モ有利ナルモノナリ、然レトモ合併後ハ旧九鉄線ト筑豊線トノ計算ヲ一ニシテ区別ヲ置カザリシガ故ニ、三十年度以後筑豊線ノ収支ハ爰ニ明示スル能ハザレトモ、合併前ヨリハ旅客ノ数モ著ルシク増加シ運炭亦タ益々繁忙ヲ加ヘタルヲ以テ、其収入ハ増スアルモ減ズルコトナク、以テ旧九鉄線ノ利益ニ滋潤ヲ及ボスヤ蓋シ疑ヲ容レザルナリ
伊万里鉄道(八哩十一鎖)ハ金五拾弐万円ヲ投シ建設シタル会社ニシテ、明治三十一年十二月九鉄ニ合併セリ、合併前ノ収支ヲ比較スレバ平均一日凡百円ノ利益アリタルモノニシテ、合併後三十二年上半季間ノ計算ニヨレバ
 金壱万〇百八拾参円弐拾弐銭四厘   支出
 金壱万弐千弐百七拾八円九拾八銭   収入
差引金弐千〇九拾五円七拾五銭六厘ノ利益ニ過ギザレトモ追々好況ニ向フベキ見込アリ、元来本線ヲ買収シタル所以ハ船越線ト九鉄既設線トノ聯絡上必要ノ線路ナルカ故ニシテ、九鉄ノ予定計画完成ノ上ハ本線ノ収益モ亦タ遠ク今日ノ比ニ非サルヤ勿論ナレトモ、何故ニ船越線ノ未タ成ラザルニ早クモ之ヲ買収シタルヤト云フニ、抑モ伊万里鉄道ハ五拾弐万円ノ建設費中弐拾五万円ハ借入金ヲ以テ支弁シタルモノナリ、此借入金ヲ返済セントスレバ資本ヲ増募セサル可ラス、然ルニ比年鉄道ノ景況一般ニ沈衰シテ資金ヲ得ル能ハサリシヨリ止ムヲ得ズ九鉄ニ対シ其線路売譲ノ義ヲ申込ミ、九鉄ハ之ニ参拾五万円ニ相当スル本株券ヲ交付シ買収シタルモノニシテ、伊万里鉄道会社ガ現ニ其借入金ノ処置ニ苦ミタル際ナレバコソ低価ニ甘ジテ譲与セシナラン、一旦ソノ処置法ヲ得ルニ及デハ九鉄ノ必要ヲ見透シ高価ヲ主張スベキヤ明白ナルヲ以テ、其請求ニ応シ速ニ買収スルノ得策ナルヲ認メ、敢テ一時収益ノ割合ニ低キヲ忍ビタルモノナリ
    第二〇 工事着手中ノ支線、其哩数、及収支予算、新線布設着手ノ部
一幸袋潤野線   延長   二哩八鎖
  建設費予算   金拾弐万円
 - 第9巻 p.294 -ページ画像 
  営業収入予算  金拾弐万千七百弐拾七円五拾銭
  営業支出予算  金四万四千参百四拾七円五拾銭
  純益予算    金七万七千参百八拾円
          (此利率凡壱割三分六厘)
    第二《(二一)》 工事未着手ノ支線、其哩数、及収支予算、新線布設未着手ノ部
一小倉戸畑線   延長   三哩五拾八鎖
  建設費予算   金五拾五万円
  営業収入予算  金拾四万参千五百七拾参円四拾銭七厘
  営業支出予算  金六万七千参百弐円弐拾銭六厘
  営業純益    金七万六千弐百七拾壱円弐拾銭壱厘
          (此利率凡壱割弐分弐厘)
一黒崎戸畑線   延長   四哩六拾鎖
  建設費予算   金六拾万円
  営業収入予算  金弐拾六万弐千七拾円
  営業支出予算  金拾壱万五千五百拾八円弐拾七銭七厘
  営業純益    金拾四万六千五百五拾壱円七拾弐銭参厘
          (此利率凡弐割四分四厘)
一中間木屋瀬線  延長   三哩五拾五鎖
  建設費予算   金四拾五万円
  営業収入予算  金弐拾九万千五百九拾八円
  営業支出予算  金拾壱万千五百九円拾壱銭八厘
  営業純益    金拾八万八拾八円八拾八銭弐厘
          (此利率凡四割)
一遠賀川室木線  延長   七哩四拾鎖
  建設費予算   金四拾五万円
  営業収入予算  金弐拾八万五千参百五拾七円
  営業支出予算  金拾四万九千参百六拾弐円七拾参銭
  営業純益    金拾参万五千九百九拾四円弐拾七銭
          (此利率凡三割〇弐厘)
一飯塚長尾線   延長   五哩
  建設費予算   金四拾万円
  営業収入予算  金拾壱万四千六百拾円
  営業支出予算  金八万九千参百円九拾壱銭壱厘
  営業純益    金弐万五千参百九円八銭壱厘《(マヽ)》
          (此利率凡六分三厘)
一門司田ノ浦線  延長   三哩六拾六鎖
  建設費予算   金百参拾参万円
  営業収入予算  金九万五千五百六拾六円五拾銭
  営業支出予算  金四万五千九百九拾円
  営業純益    金四万九千五百七拾六円五拾銭
          (此利率凡三分七厘)
一大城線     延長   壱哩四拾六鎖
  建設費予算   金九万円
 - 第9巻 p.295 -ページ画像 
  営業収入予算  金五万八千四百円
  営業支出予算  金参万八千拾八円六拾九銭参厘
  営業純益    金弐万参百八拾壱円参拾銭七厘
          (此利率凡弐割弐分六厘)
一芳雄山野線   延長   三哩六鎖
  建設費予算   金弐拾万円
  営業収入予算  金八万参千弐百弐拾円
  営業支出予算  金五万四千弐百六拾四円拾七銭壱厘
  営業純益    金弐万八千九百五拾五円八拾弐銭九厘
          (此利率凡壱割四分五厘)
一小竹潮頭線   延長   壱哩弐拾八鎖
  建設費予算   金六万円
  営業収入予算  金五万四千七百五拾円
  営業支出予算  金参万弐拾壱円六拾八銭八厘
  営業純益    金弐万四千七百弐拾八円参拾壱銭弐厘
          (此利率凡四割一分弐厘)
一門司貨物線   延長   四拾五鎖
  建設費予算   金弐拾五万円
  営業収入予算  金四万五千参百四拾六円参拾弐銭
  営業支出予算  金弐万参千七百九拾八円
  営業純益    金弐万千五百四拾八円参拾弐銭
          (此利率凡八分六厘)
一下山田上山田線 延長   壱哩弐拾参鎖
  建設費予算   金拾万円
  営業収入予算  金九万参百参拾七円五拾銭
  営業支出予算  金六万七百五拾弐円八拾八銭
  営業純益    金弐万九千五百八拾四円六拾弐銭
          (此利率凡弐割九分六厘)
一船越線     延長   五拾八哩三拾四鎖
  建設費予算   金四百六拾六万五千百七拾五円
  営業収入予算  金五拾参万七千八百弐拾七円五拾銭
  営業支出予算  金弐拾壱万参千弐百五拾壱円廿五銭
  営業純益    金参拾弐万四千五百七拾六円弐拾五銭
          (此利率凡六分九厘)
一小倉裏線    延長   三哩弐拾四鎖
  建設費予算   金四拾四万円
   (備考)本収支予算中ニ支出ノ収入ニ対スル比例一ナラス、中ニ五割以上ノ支出ヲ要スルモノモアリ、都テ諸線路ノ状況ニヨリ差違ヲ生スルモノナリ又第二十第二十一項ノ諸線路トモ予算ノ年月一様ナラス、今日ノ如キ労力賃及諸物価殊ニ鉄材ノ騰貴ノ有様ニテハ実地着手ニ当リ前現ノ予算金高ヲ超過スルヲ免レサル可シ
      (二二)
     (第二)新出願ニ係ル権利
      (二三)
     (第三)右ハ増資ヲ要スルヤ否ヤ
第二十及第二十一項ノ外新ニ権利ヲ得ントシテ出願シタルモノナシト雖トモ、長崎出島線ハ一般貨物旅客ノ便ヲ謀ルカ為メ、又長崎飽ノ浦
 - 第9巻 p.296 -ページ画像 
線ハ佐賀県杵島郡ノ石炭ヲ長崎ニ輸出センガ為メ目下其布設計画中ナリ、其資本及収支概算左ノ如シ
一長崎出島線   延長   壱哩六十二鎖
  建設費     金七拾五万円
  営業収入    金参拾七万四千五百六拾弐円五拾銭
  営業支出    金拾九万弐千七百弐拾円
  純益      金拾八万千八百四拾弐円五拾銭
          (利率二割四分弐厘)
一長崎飽ノ浦線  延長   壱哩五十鎖
  建設費     金壱百〇壱万円
  営業収入    金七拾六万六千五百円
  営業支出    金参拾五万四千六百参拾四円
  純益      金四拾壱万千八百六拾六円
          (利率四割〇七厘)
右ハ未タ出願シタルモノニ非サルヲ以テ、若シイヨイヨ布設セントスルニ際シテハ株主総会ノ議ニ付シ、更ニ資本ヲ募集セサル可ラサルモノナリ
    第二四 現行定款ノ適否
右ハ第廿六項ニ譲ル
    第二五 社長ノ下ニ商売取引ニ熟練ナルモノヲ聘シ営利ノ事ニ当ラシムルコト
該業務ニ熟練鋭敏ナル人ヲ採用センコトヲ務ムヘシ
    第二六 定款改正ヲナス事
    (イ)取締役 減員ヲ要スルナラン
    (ロ)株主ノ権利ハ商法ノ原則ニ基キ一様ナラシムベシ
    (ハ)右ノ外、章句ノ修正ハ法律家ニ托シ一般ノ模範トナルヘキモノヲ調製セシムルコト
(一)定款第十八条ニ「本会社ハ取締役六名以上十五名以下、監査役二名又ハ三名ヲ置クトアリテ、今日ノ現員ハ取締役十二名、監査役三名ナリ、其数稍々多キガ如キハ九筑合併ノ際筑豊ヨリ五名ノ取締役ヲ転任セシメタル結果ナルヲ以テハ《(イヽ)》多少コレヲ減少スルモ妨ナシト認ム
(ロ)株主ノ議決権利(ハ)定款章句ノ修正モ敢テ異存ナシ
    第二七 新線路計画ニ就テハ緩急ヲ見計ヒ施設ニ注意スヘキ事
        田ノ浦線、船越線、長崎飽ノ浦線等ハ熟考スヘキモノ也
        (四君ノ意見ニ係ル「新線路ノコトモ」同一ノ意味ナルヲ以テ爰ニ併記ス)
新線ヲ延長センヨリハ既成線ヲ改良スヘシト云フト雖トモ、延長ト改良トハ二者併行ヲ要スル場合モアリ、抑モ九州鉄道ハ種々ナル事情モアリテ幹線ノ経営ヲ主トシタリシガ、爾来炭坑其他事業ノ発達スルニ随ヒ枝線ノ布設ヲ急要トスルモノアリ、又競争線ノ布設ヲ企図スルモノ頻々続出シタルカ故ニ、本会社ニ於テ独リ当初ノ線路ノミヲ布設シマタ他ヲ顧ミサルトキハ、数多ノ他会社ニヨリ幾多ノ競争線又ハ枝線
 - 第9巻 p.297 -ページ画像 
ヲ布設セラレ、啻ニ会社双互間ノ営業ヲ艱難ナラシムルノミナラス、公衆ニ不便ヲ与ヘ、会社経済上ニモ亦悪影響ヲ免ル可ラス、之ヲ以テ会社ハ近傍ノ線路ヲ調査シ、其枝線ヲ布設シテ利益ヲ得ルノ見込アレバ採テ以テ自ラ布設シ、又競争線ノ布設アル為メニ本会社ニ妨害ヲ被ムルノ恐アルモノハ之ヲ併収スルノ必要ヲ生シタリ、然リト雖トモ之カ為メニ既成線ノ改良ヲ踈ニスルカ如キハ、九州鉄道ノ基礎ヲ不鞏固ニ至ラシムルノ悪結果ヲ生センコトヲ恐レタルガ故ニ前ニ陳述シタル如ク三十一年ヨリ線路並ニ車輛ノ修繕等ニ多額ノ費用ヲ要シタルナリ尤モ将来ノ計画ニ属スル新線路中ニハ更ニ熟考セサル可ラサルモノナキニ非ス、田ノ浦線ノ如キハ最初興業費四十万円ノ予算ナリシガ、調査ノ結果百十万円ノ多額ヲ要シ頗ル不利ナルヲ以テ、断然廃企スル方得策ナラン、船越線モ悉ク急設ノ必要アルニ非サルヲ以テ、其一部分ナル博多篠栗間ノ線路ヲ布設シ、余ハ免状ノ期限ノ許ス限リ之ガ起工ヲ延引スベク、又飽ノ浦線ハ未ダ出願シタルニ非サルヲ以テ、更ニ調査ノ上之ガ取捨ヲ決定スルノ外ナシ
    (二八)
    第六 貨物運賃ハ標準ヲ定メ、臨時割引特約ヲナスノ方策ヲ立テ、務メテ貨物ヲ多カラシムルコト
       (四君ノ意見ニ係ル荷物運輸ノ方針ト関連セルヲ以テ爰ニ併記ス)
九鉄ノ運賃ヲ定ムルヤ運送ノ実費及荷主ノ負担力ヲ参酌シテ標準トナセリ、運送区間ノ長短ニ随ヒ貨率ヲ増減スルノ規定ハ則チ此標準ニ基クモノナレトモ、亦タ地方ノ状況物価ノ高低等種々ノ考量ヲ加ヘ荷主ノ便利ト会社ノ収益トヲ併セ常ニ注意シテ怠ラサル所ナリ、九鉄カ世間ノ状態貨物ノ市況等ヲ顧慮セサルニハアラス、又船舶ノ競争ノ如キモ敢テ度外ニ措クコトナシト雖トモ、船舶ト鉄道トハ元来貨物ヲ運送スル実費ニ於テ差違アルガ故ニ、船舶ノ能クスル所必スシモ鉄道ノ能クスル所ニアラズ、如何ニ貨物ヲ吸収セントスレバトテ永ク運送実費ヲ損スルガ如キハ到底会社ノ不利益ヲ免レズ、且ツ貨物ノ種類ニヨリテハ運賃ノ廉貴如何ニ拘ハラス、船舶ニ限リ又ハ鉄道ノミニ倚ラザルヲ得ザルモノアリテ、一概ニ船舶ヲ目的トシ競争鉄道ト同一視ス可ラサルヤ勿論ナリ、要スルニ永ク運送実費ノ損セズシテ鉄道ニ倚ラシムルヲ得ヘキ貨物ハ九鉄ニ於テ之ヲ吸集スルニ、貨物運賃ノ割引ハ現今左記ノ如キ規則ニシテ此外時々特別ノ割引ヲナスコトアリ
    貨物運賃割引規定ノ大要
通常貸切車賃金ノ割引割合左ノ如シ
    但明治三十二年十月三十日甲第二六号達ニテ改正

図表を画像で表示--

  哩数          三級品以下一品積一噸哩ニ付   同以下混合積同上   五級品以下一品又ハ混合積同上 二十哩未満         参銭弐厘            参銭弐厘       四銭 二十哩以上四十五哩未満   弐銭五厘            参銭         参銭五厘 四十五哩以上百哩未満    弐銭              弐銭五厘       参銭 百哩以上百五十哩未満    壱銭五厘            弐銭         弐銭五厘 百五十哩以上        壱銭弐厘            壱銭五厘       弐銭 



又鉱属扱ヲ除キ一般大貨物運賃ノ割引歩合左ノ如シ
 - 第9巻 p.298 -ページ画像 
  二十哩以上四十五哩未満    壱割引
  四十五哩以上百哩未満     弐割引
  百哩以上           参割引
   明治三十二年五月二日乙第一八号達
又貨物(石炭及𥔱石ヲ除ク)運賃高ニ応シ、送荷主ニ対シ毎月運賃ノ割戻ヲナスコト左ノ割合ノ如シ(同前乙第一九号達)
  三百円以上六百円未満    二分
  六百円以上千円未満     二分五厘
  千円以上千五百円未満    三分
  千五百円以上弐千円未満   三分五厘
  弐千円以上参千円未満    四分
  参千円以上五千円未満    四分五厘
  五千円以上         五分
    第廿九 乗客ニ対シテハ務メテ満足セシムルノ方ヲ講シ駅長以下の脳髄ヲシテ常ニ営利ノ二字ヲ忘レシメスシテ懇切ナラシムルコト
    (四君ノ意見ニ係ル旅客取扱ノ事(ヘ)旅客ノ待遇(ト)手荷物ノ運搬(チ)送迎者ノ拒絶モ同一ノ事項ニ付之ヲ併記ス)
(ヘ)九鉄ノ事務員ハ旅客ニ対シ丁寧親切ノ風ニ乏シトハ往々世評ニモ聞ク所ナルヲ以テ、常ニ戒飭ヲ加ヘ、取締ヲ厳ニシ、敢テ等閑ニ付スルコトナシ、近来ハ日月ト共ニ漸次ニ矯正ノ実アルガ如シ、尚事務員ノ熟練方法ヲ施行シ深ク注意スヘシ
(ト)手荷物ノ運搬ニ付所謂赤帽ヲ置クハ洵ニ容易ノ談ナレトモ、詳ニ其利獘ヲ察スルトキハ決シテ俄ニ今日目前ノ便利ヲ追フ可ラサルガ如シ、九鉄ハ欧米諸国ノ例ニ傚ヒ旅客ノ手荷物ノ運搬ハ駅夫ヲシテ之ヲ弁ゼシメンガ為メ既ニ試験中ニ属セリ、独普ク旅客ノ需要ニ慮ズルヲ得ルニ至ルモ其日遠キニ非ザルベシ、手荷物運搬ノ駅夫ニハ特ニ旅行人ノ見認メ易キ標章ヲ付シ旅客ノ識別ニ便ナラシムルトキハ、赤帽ト敢テ異ナル所ナケン
(チ)送迎者ヲプラツトホームニ入場セシムルト否トハ当時予メ一定セズ、自今一般ニ入場ヲ許スコトトナスベク、又入場者ニ対シ入場切符発売ノコトモ今後決行スル積リナリ
    第卅  会社既定ノ規則ハ完全ナルモノヽ如シ、宜シク監督ヲ厳ニシ実行ヲ務ムベシ就中駅員ノ監督ハ一層励行ヲ要スルナラン乎、表面監督ノ外尚社長限リ密偵ヲ使用シ視察報告ノ制ヲ定ムルコト
規則ノ励行職員ノ監督ニ付テハ当局者ノ最モ注意ヲ加フル所ニシテ、其手段ハ予メ爰ニ言明スルヲ得ズ、殊ニ密偵使用云々ヲ公言スルカ如キハ素ヨリ忌ムベキ所ナルヲ以テ、唯当局者ノ意中ニ収メ、随時監督ノ方法ヲ施行スヘシ
    第卅一 大銀行ノ内三四ヲ取引銀行トシ、貸越ノ金額ヲ定メ置クコト
三菱銀行トハ従来拾万円迄ノ貸越約定ヲナシ居タリシカ、先般更ニ弐
 - 第9巻 p.299 -ページ画像 
拾万円迄トナシ、又三井銀行門司支店トノ間ニ拾万円迄ノ貸越ヲ約シ合セテ参拾万円迄金融ノ余地ヲ設ケタルカ故ニ、今後ハ他ニ対シ臨時急遽ノ借入金ヲナスノ必要ナキヲ得ベシ
    第卅二 経費節減ヲ講シ可成人員ヲ減少スル事
冗員ヲ汰シ冗費ヲ除クハ勿論、成ルベク職員ヲ活動セシメ、成ヘク無用ノ経費ヲ節約スルヲ務ム可シ、但シ事業ノ危険又ハ事務ノ不整理ニ陥ルヲ顧ミズ漫ニ節倹ヲ事トシ一時ノ収益ノミヲ謀ル可キニアラズ、九州鉄道会社信用ト物品ノ破損ヲ来スヲ放任スルニ至ラサル限リノ程度ニ於テ注意スベシ
職員ノ淘汰ハ既ニ三十二年二月ヨリ再次コレヲ行ヒタリ
    第卅三 速力ニ関スル事
    (イ)線路ニ傾斜多キ事
    (ロ)停車場ノ事
    (ハ)ブレーキノ事
    (ニ)運転手ノ事
    (ホ)事務員ノ事
九鉄列車ノ速力遅緩ナルハ事実ナリ、之ヲシテ成ルヘク高度ノ速力ヲ保タシメンコトハ当局者ノ素ヨリ期望スル所ナリ
(イ)線路ニ傾斜多ク之ガ為メ速力ヲ遅緩ナラシムルニ相違ナキヲ以テ事業ノ緒ヲ追ヒ成ルベク傾斜ヲ減セント欲スルモノナリ、但シ之ヲ減スルノ設計方法ニ付テハ最モ熟慮ト実地ノ調査ヲ要スルナリ、遠賀赤間間ニ於ケル四十四分一ノ傾斜ニ付テハ此間ニ複線ヲ布設スベキ計画ナルヲ以テ、其際充分調査ノ上傾斜ヲ隧道ニ代フルカ、若クハ他ニ方法ヲ取ルカ、実際ニ因テ経済的ニ叶フ様決定スル積リナリ(ロ)停車場ノ設備概ネ狭隘不完全ニシテ為メニ列車ノ運転上ニモ亦タ不自由ヲ免レザルガ故ニ、門司、熊本、若松、直方ヲ始トシテ漸次六十七駅ニ改善ヲ施サントハ既ニ計画シツヽアルナリ(ハ)ブレーキノ改良ハ兼テ計画スル所ナレトモ、其如何ナル式ヲ応用スヘキヤハ欧米諸国ニ於テモ現ニ講究中ニ属スルガ故ニ、九鉄ハ曩ニ技師ヲ欧米ニ派遣シ其調査ヲ俟チテ最モ有効ナルモノヲ採用スベキ積リナリ(ニ)運転手ノ技倆ヲ熟練セシムルノ方法ハ既ニ著々実施シ来レリ、猶又石炭油脂等消耗品ノ節用ニ付テモ奨励ノ方法ヲ設ケ実行シツヽアリ(ホ)其他ノ事務員列車員等ノ訓練ニ付テモ敢テ之ヲ忽諸ニ付スルニ非ズ、服務規程ヲ励行セシムルト共ニ駅員ノ如キハ先年来養成ノ制ヲ定メ、現ニ卒業次第採用シ自由退身スルヲ得サルノ強制法ヲモ設ケ、九鉄ニ此等ノ制度ハ既ニ施行シ奨励シツヽアリ、又毎半季ノ賞与金ノ如キモ従前ハ殆ント社員間ニ競争心ヲ起サシムルノ活用ヲ欠キタリシガ、近来ハ追々奨励ノ主旨ニ因リ競争勉励ノ実ヲ得タルガ如シ、猶善良ナル事務員ヲ得ルノ道ハ今後トテモ敢テ講究ヲ怠ラザルベシ
    第卅四 佐世保線ノ事
飽ノ浦線ノ竣成ヲ告クル迄ハ当分佐世保ヲ経テ長崎ニ石炭ヲ輸出セントハ炭坑主(一二ヲ除ク)ノ希望スル所ニシテ、既ニ運炭約定済ノ向モアリ、会社ハ決シテ貨主ノ意向ヲ度外ニ措キタルニハアラズ、又唐津炭輸送ノ計画ニ付テハ調査ノ後ニ非ザレバ今爰ニ断言スル能ハズ
 - 第9巻 p.300 -ページ画像 
    第卅五 一等旅客運賃引上ノ事
九鉄ノ一等客車ハ往々閑却シテ乗客ノ少ナキヲ遺憾トセリ、若シ此上ニ其運賃ヲ引上グルトキハ益々一等客ヲ減ズルノ不結果ヲ見ルベシ、従来ニ於テ同客車ノ多少雑沓スルコトアリタル所以ハ二等客車ノ設備乏シカリシヨリ往々二等客ノ混乗スルニ由リタルナリ、今日ニ於テハ殆ント此等ノ迷惑ナキヲ得タリ
    第卅六 車内ノ制限
二等客ニシテ一等車ニ混乗スル次第ハ前項ニ述ヘタル如クナルヲ以テ今後ハ此等ノ獘ナキヲ得ベク、又車掌ニモ車内改札ヲ励行セシムルコトニ厳達セルヲ以テ敢テ等閑ニ付セザル可シ、又三等客ニ対シ車内改札ヲ不必要ナリト云フト雖トモ実際停車場出口ノミノ改札ニテハ乗逃ノ弊アルコト独リ九鉄ノミニ非ス、車内改札決シテ無用ナラサルナリ
    第卅七 公衆電信ノ取扱
九鉄線路一般ニ公衆電信取扱所ヲ成シ得サルハ、是全ク逓信省ノ意向如何ニアルコトニシテ、九鉄一己ニテハ之レヲ奈何トモスル能ハス
   ○右調査報告ハ「中外商業新報」明治三十三年二月二十五日・二十七日付ニ全文掲載サレアリ。
    仲裁意見
既往ニ属スル事項ハ以上ノ如ク逐一条件ヲ列挙シテ仔細ニ其事実ヲ質問調査シ、或ハ其元帳簿等ニ就キ又実地ニ臨ミ調査シタル所ニヨルモ其真相ハ前記ノ通ニシテ爰ニ再ビ解釈スルヲ俟タス、要スルニ九州鉄道創業ノ当初ヨリシテ資金募集ノ困難等種々止ムヲ得サル事情ニ制セラレ、専ラ節約ヲ主トシテ姑息ナル仕方ニ経過スルノ外他ニ手段方法ナキヨリ其積累今日ニ至リ、車輛並ニ線路等ノ修繕ニ多額ノ費用ヲ要スルニ至リタルコト多シ、就テハ特ニ其責ヲ何人ニモ帰シ得可ラスト雖トモ、将来鉄道ノ基礎ヲ鞏固ナラシメ、且ツ経済的ニ事業ヲ処理スルノ方法ニ付テハ、大ニ改良スヘキモノアルヲ認ム、其箇条ヲ前記取調ノ順序ニ随ヒ列挙スレハ左ノ如シ
    第二十五
商売取引ニ熟練ナル者ヲ以テ専ラ営利ノ事ニ当ラシムルヲ必要ト認ム
    第二十六
定款第十八条ヲ改正シ取締役ヲ九名以下トシ、監査役ヲ三名以下トナスヲ適当ト認ム
株主ノ議決権利ハ商法第百六十二条ニ基キ改正スルヲ適当ト認ム
右ハ来ル株主総会ニ提出シテ決行アランコトヲ望ム
    第二十七
船越線ノ一部ナル博多篠栗間線路ハ糟屋郡ノ炭田ヲ貫通スルモノニシテ、運炭ノ利益アルヘキ推定ニ付之ヲ布設シ、余ハ免状ノ期限ノ許ス限リ起工ヲ延引スルヲ得策ト認ム
長崎出島線及飽ノ浦線布設ニ付テハ、長崎湾築港ノ完成並ニ金融社界ノ状態ヲ熟察シ、又杵島郡地方含有炭量ノ多寡又ソノ採掘年限尚他ニ運輸スヘキ石炭ノ有無数量等ヲ調査シタル上ニ非サレハ、匆卒ソノ布設ヲ出願セサルヲ可トス
此ノ如ク予定線ノ布設ヲ中止スル結果、コレニ充テタル興業費ハ株主
 - 第9巻 p.301 -ページ画像 
ノ同意ヲ得テ既成線ノ改良拡張費ニ転用シ、或ハ急勾配ヲ除キ或ハ停車場ノ設備ヲ完全ナラシムルノ方針ヲ取ルヘシ、会社営業上ノ利益又ハ炭坑其他事業ノ発達ニ必要ナル支線ノ布設ハ素ヨリ止ムヲ得サル所ナレトモ、唯不完全ナル儘ニ膨張センヨリモ既成線ノ基礎ヲ鞏固ナラシムルハ、則チ経済的事業進行ノ旨意ニ適フモノナラム
此外未ダ実地ニ企画シアラサレトモ若松停車場ノ如キハ同湾築港事業ノ進ムニ応シ、更ニ海陸ノ連絡ヲ便利ナラシメ、又製鉄所ト港湾連絡ノ便ヲ謀リ、或ハ貯炭場ノ増設等ノ為メニ線路ノ変更等ヲ要スルコトアルヘキニヨリ、漸次ソノ調査ヲナシ計画ヲ定ムルノ必要アラム
既定線路ノ外仮令他ニ競争線ヲ企図スルモノアリト雖トモ、只競争ノ勢ニ駆ラレ実益ヲ顧慮セサルカ如キハ決シテ営業ノ法ニアラス、不利ナル新線ヲ増設スルハ取リモ直サス既成線ノ利潤ヲ殺グモノニシテ、一時目前ノ利益ヲ見ルコトアルモ遂ニ永遠救フ可ラサルノ損害ヲ貽スモノナリ、此等ノ利害ハ重役ニ於テ特ニ其責任ヲ重ンジ、将来新線ヲ計画シ又ハ競争線ヲ買収セントスルコトアルモ、決シテ目前ノ趨勢事情ニ拘泥セサランコトヲ特ニ切望スル所ナリ
    第二十八
貨物ヲ誘致スルノ方法ハ最モ注意講究セサル可ラス、殊ニ石炭ノ如キハ炭価ノ高下ニ注意シ、随時運賃ヲ加減シ、現行割引ノ範囲ヲ細分シテ運送哩ノ長短ニヨリ割引ヲナシ、又運送ノ数量ニ応シ割戻ノ制規ヲ石炭ニモ適用スルヲ必要ト認ム
    第二十九
事務員ノ取締法ハ殊ニ励行アランコトヲ望ム
手荷物運搬夫ノ事ニ付テハ乗客等ノ多少ニ関セス会社ノ費用ヲ以テ常ニ雇傭スルハ経済上得策ニアラス、故ニ東海道山陽諸鉄道ノ例ニ倣ヒ所謂赤帽ヲ置クモ何ゾ妨ケアラン、若シ実行ノ後弊害アルヲ発見セバ他ノ方法ヲ採用スルニ勉ムヘキノミ
送迎人ニハ入場切符ヲ発売シプラツトホームニ入場ヲ許可スルヲ至当ト認ム
    第三十
事務員ノ訓練方法ヲ講シ其結果ヲ見テ尚更ニ減員スルノ方法ヲ取ルヘシ、訓練法ノ一例ヲ挙クレバ、賞与金ノ幾分ヲ蓄積セシメ、相当ノ規則ヲ設ケテ永ク会社ニ従事スルノ意志ヲ養成スヘシ
九州鉄道地方ノ状況ハ他ノ諸鉄道ト事情ヲ異ニシ、炭業ノ繁盛ナルカ為メ運転手其他事務員トモ炭業者ニ誘引セラルヽカ故ニ、之ヲシテ出入頻繁ナラシメサルノ方法ハ特ニ注意講究ヲ要ス
    第三十四
佐世保線ニヨリテ石炭ヲ運搬スルハ永遠ノ計ニ非サルヲ以テ、之カ設計モ成ルヘク拡張セサルヲ得策ト認ム
    第三十七
公衆電信取扱所ハ、成ルヘク主務省ニ懇願シテ之ヲ増設スルノ手段ヲ取ルコト必要ナラム
以上ノ外事稍々些末ニ属スレトモ
    第四項
 - 第9巻 p.302 -ページ画像 
営業収支ノ予算ハ以後重役会議ニ付スルコト至当ナラム
    第五項
ニ記載セル旧製機関車ノ不能力ナルモノヽ如キハ之ヲ存シテ却テ損失ヲ被ムルコトアルヘク、第十項ニ記載セル貯蔵品ノ残余中ニハ或ハ今日ノ用ヲ為サヽルモノアラム、是等ハ精査ノ上速ニ処分法ヲ定ムルノ必要アルヘシ
    第六項
ノ繰越計算ハ務テ之ヲ避ケサル可ラス、宜シク処務ノ方法ヲ厳制シ、成ルヘク季末計算ノ符号センセコトヲ望ム
    調査ノ余言
余ハ明治卅二年九月十七日ヲ以テ渋沢・益田外有志諸君ノ需ニ応シ九州鉄道会社ノ粉擾ヲ仲裁センカ為メ、会社ノ既往ヲ調査シ又将来ヲ考量シテ、今爰ニ依頼セラレタル諸君ニ対シ調査シタル事実ニ付仲裁シタル判断書ヲ提出スルニ至レリ、諸君ハ之ニヨリテ熟考セラレタル上余ノ意見ニ異議ナクンバ、次ノ株主総会ニ於テ余ニ仲裁ヲ依頼セラレタル最初ヨリノ顛末ヲ明示セラレ、余カ徳義上ノ裁断ニ満足セシムル様充分尽力アランコトヲ望ム
此ノ調査ニヨリテ会社ノ真相ヲ明カニシ、又余ノ意見ニヨリテ会社ノ将来ニ裨益スル所アルヲ得バ啻ニ余ノ本懐ニ適フノミナラス、襄ニ改革論起リテ粉擾シタルモ偶々事実ヲ明瞭ナラシメ、後日ノ粉紜ヲ除キ恰モ此機ヲ以テ禍ヲ転シ福トナシタルノ奇効ヲ奏シタルモノト云フ可シ、要スルニ調査ノ初ニ当リ明言シタル如ク、既往ニ照シテ将来ヲ考量シ、秩序ヲ追フテ事実ノ方針ヲ取ルトキハ、鉄道ノ基礎ヲ鞏固ナラシメ、且ツ前途経済的ニ進歩スルヲ得ヘキヤ敢テ疑ヲ容レサルナリ
  明治卅二年二月


渋沢栄一 書翰 井上馨宛 ○(明治三五年)五月一一日(DK090027k-0012)
第9巻 p.302 ページ画像

渋沢栄一 書翰 井上馨宛 (井上侯爵家所蔵)
 ○(明治三五年)五月一一日
○上略 九州北越鉄道抵当社債相談も何分法律之改正小生等之企望通ニ相運兼困却罷在候、桂総理も奥田長官も余程心配致呉候得共、是迄之行掛有之候為充分ニ行届申兼候、昨日も仙石と共ニ其筋ニ引合色々と論弁致候始末ニ御坐候、尚委曲ハ仙石氏ニ御聞取被下、此上御高配も相願度候、小生ハ概略之処ニてビセツト氏と引合いたし英国ニ於てベイリングブロゾルと談判相試候積ニ御坐候
○中略
  五月十一日               渋沢栄一
    井上老閣侍史

渋沢栄一 書翰 井上馨宛 ○(明治三五年)七月二八日(DK090027k-0013)
第9巻 p.302-303 ページ画像

○(明治三五年)七月二八日
○上略
九州鉄道北越鉄道両会社之社債ニ関しベヤリングとの引合向も着後両三回相談いたし候得共、抵当法律成立之上ハ多くハ成功可致歟と存候即今交渉中ニ付尚決定候ハヽ模様可申上と存候
○中略
  七月廿八日
 - 第9巻 p.303 -ページ画像 
                      渋沢栄一
    井上老閣侍史
   ○本書翰ハ倫敦ヨリ発シタルモノナリ。


渋沢栄一 書翰 阪谷芳郎宛(明治三五年)七月二八日(DK090027k-0014)
第9巻 p.303 ページ画像

渋沢栄一 書翰 阪谷芳郎宛(明治三五年)七月二八日
                   (阪谷男爵家所蔵)
○上略
九州北越両鉄道会社之方ハベヤリング引合中ニ候法律問題ハ妥協を得候得共、利足割合と正式之委任状相望候ニ付其手続相談中ニ候、思ふ様ニ折合候歟、先方之見込ハ少々高利相望候様子ニ付、或ハ相纏兼候事無之とも難申候、御含ニ申上候
○中略
  七月廿八日倫敦ニて
                     渋沢栄一
    阪谷芳郎殿