デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

2章 交通
2節 鉄道
29款 鉄道国有問題
■綱文

第9巻 p.563-579(DK090059k) ページ画像

明治34年12月25日(1901年)

是ヨリ先、二月六、七日栄一、東京商業会議所ヲ代表シテ経済整理ノ為メ内国公債償還・私設鉄道買収ノ二件ヲ政府ニ建議請願シ、爾後屡々経済整理ノ件陳情委員会議ヲ開キ之ニ臨ミシガ、十一月十九日東京・京都・大阪・神戸四商業会議所聯合ノ下ニ決議セシ鉄道国有実行ノ建議(請願)書ヲ是日東京商業会議所会頭ノ名ヲ以テ内閣総理・大蔵・逓信・農商務各大臣並ニ貴衆両院議長ニ提出ス。


■資料

東京商業会議所報告 第一〇〇号・第一七―二一頁〔明治三四年二月一五日〕(DK090059k-0001)
第9巻 p.563-564 ページ画像

東京商業会議所報告 第一〇〇号・第一七―二一頁〔明治三四年二月一五日〕
    ○臨時商業会議所聯合会記事要領
明治三十四年一月大阪商業会議所外五会議所ノ発企ニ依リ、東京商業会議所ニ於テ臨時商業会議所聯合会ヲ開設ス、該聯合会ハ一月二十一日ヲ以テ開会ノ予定ナリシモ、会同ノ会議所定数ニ達セサリシ為メ二日間延会シ、二十三日開会シ、二十七日閉会セリ、而シテ今回会同セル会議所ノ数ハ四十二箇所ナルカ、今其決議ノ要領ヲ摘記スレハ左ノ如シ
○第一号議案○略ス
○第二号議案○略ス
○第三号議案○以下第十五号議案迄省略
即チ今回ノ聯合会ニ提出サレタル議案ハ以上十五件ニシテ、其中宿題トナリタルモノ四件、可決サレタルモノ十一件ナリ、而シテ此等可決事項中最モ重要問題タル経済整理ノ件、国家経済ノ方針ニ関スル件、協定税率廃止ニ関スル件、協定税率廃止期成同盟会組織ノ件、都合四件ニ関スル決議文ヲ掲載スレハ左ノ如シ
  ○経済整理ニ関スル件
目下経済界ノ萎靡衰憊ノ極ニ沈淪セルコトハ蔽フヘカラサルノ事実ニシテ、殊ニ民間ノ資本ノ如キハ比年益々欠乏シテ、各部ノ経済脈絡全ク其営養ヲ失シ、若シ一日ヲ緩フセハ或ハ将ニ不治ノ難症ニ陥ラントス、斯ノ如キ場合ニ際シテハ須ラク速ニ之カ救治ノ法ヲ講セサルヘカラス、其法他ナシ、外資ヲ輸入シテ左ノ二策ヲ断行スルニ在リ
  第一 内国公債ヲ償還スル事
  第二 私設鉄道ヲ買収スル事
目下経済界ノ萎靡衰憊ヲ根治スルノ法ハ之ヲ外ニシテ他ニ良策ナキヲ信スルナリ、蓋シ此二策ヲ断行スルトキハ能ク民間ノ資本ヲ充実ニシテ大ニ経済脈絡ヲ興奮スルノ効アルヘク、私設鉄道買収ニ至リテ更ニ運輸機関ノ発達ニ裨補スル所少ナシトセス、若シ夫レ外資輸入ニ対シ
 - 第9巻 p.564 -ページ画像 
テ担保ヲ提供スルカ如キハ未ダ以テ国家ノ信用如何ヲ云為スルニ足ラス、要ハ只其輸入方法ノ便否如何ニ在ルノミ
今此二策ヲ断行スルニ当リ更ニ一事ノ施設ヲ希望スルモノアリ、何ソヤ、即チ我カ幣制ヲ改良シテ硬貨主義ノ実行ヲ期スルコト是ナリ、思フニ現行貨幣制度ノ下ニ於テハ硬貨主義実際ニ行ハレスシテ、金融ノ一張一弛其常ナク、動モスレハ財界ノ秩序ヲ擾乱スルコトヲ免カレス若シ此際現行幣制ヲ改良スルコトナクシテ俄ニ多額ノ外資ヲ輸入スルトキハ、一時民間ノ資本ヲ充実ニシテ経済界ニ回春ノ効ヲ奏スルコトアルモ、幾許モナク其資本復タ欠乏シテ今日ノ萎靡衰憊ヲ再演スルノ恐ナシトセス、是亦深ク鑑戒ヲ要スル所ナリ、故ニ外資ヲ輸入シテ前ノ二策ヲ断行スルニ当リテハ、之ト同時ニ我幣制ヲ改良シテ硬貨主義ノ実行ヲ勉メ、要スルニ其根治ノ策ヲシテ完全ノ効果ヲ収メシメンコトヲ希望ス、然リ而シテ前ノ二策ト云ヒ将タ幣制ノ改良ト云ヒ、共ニ之ヲ実行スルニ当リテハ、予メ慎重ノ調査ヲ遂ケ、時ノ情況ニ応シテ緩急宜ヲ制セサルヘカラサルコト勿論ナリト雖トモ、此等ハ挙テ之ヲ当局者ノ施措ニ一任セント欲ス


東京商業会議所報告 第一〇〇号・第一一―一二頁〔明治三四年二月一五日〕(DK090059k-0002)
第9巻 p.564 ページ画像

東京商業会議所報告 第一〇〇号・第一一―一二頁〔明治三四年二月一五日〕
    ◎参照
○第五号
 明治三十四年二月六日及七日附ヲ以テ経済整理ニ関スル件ニ付内閣総理・大蔵・農商務・逓信四大臣及貴族・衆議両院ヘ進達セル建議請願書ノ全文ハ左ノ如シ
     経済整理ニ関スル建議(請願)
   ○建議(請願)ノ本文ハ前掲、経済整理ニ関スル件ノ本文ト同一ナルヲ以テ略ス。
希クハ閣下(貴院)之ヲ採納セラレンコトヲ
右本会議所ノ決議ニ依リ建議(請願)仕候也
  明治三十四年二月六日(請願ハ七日付)
         東京商業会議所会頭 男爵 渋沢栄一
   内閣総理大臣 侯爵 伊藤博文殿
   大蔵大臣   子爵 渡辺国武殿
   農商務大臣     林有造殿  (各通)
   逓信大臣      原敬殿
   貴族院議長  公爵 近衛篤麿殿
   衆議院議長     片岡健吉殿


東京商業会議所報告 第一〇三号・第三三―三四頁〔明治三五年一二月二五日〕(DK090059k-0003)
第9巻 p.564-565 ページ画像

東京商業会議所報告 第一〇三号・第三三―三四頁〔明治三五年一二月二五日〕
    ◎委員会議
○第三回経済整理ノ件陳情委員会議
               明治三十四年十二月九日開
       出席者
          渋沢栄一君  雨宮敬次郎君
          木村粂市君  大倉喜八郎君
 - 第9巻 p.565 -ページ画像 
午後六時開議 左ノ事項ヲ決議セリ
 一 経済整理ニ関スル件ニ付協議ノ為メ京都・大阪・横浜・神戸四会議所ヘ照会シテ委員ノ上京ヲ求ムル事
午後七時閉会
○第四回経済整理ノ件陳情委員会議 十二月十六日開
       出席者
          渋沢栄一君  雨宮敬次郎君
          藤山雷太君  渋沢喜作君
          本村粂市君
午前十一時開議 左ノ事項ヲ決議セリ
 一 経済整理ノ件ノ内鉄道国有実行ニ関スル件ハ四会議所委員ノ着京次第直チニ会同シテ協議ヲ遂ケ、尚ホ本件ハ来ル二十一日ノ臨時会議ニ追加議案トシテ之ヲ提出スヘキ事
午前十一時五十分閉会
○第五回経済整理ノ件陳情委員会議 十二月十七日開
       出席者
          渋沢栄一君  雨宮敬次郎君
          井上角五郎君 木村粂市君
午後一時五十分開議 京都会議所委員田中源太郎君・中野忠八君、大阪会議所委員法橋善作君参席ノ上鉄道国有実行ニ関スル件ニ付種々審議ヲ尽クシタル末、結局神戸会議所委員ノ着京ヲ待テ更ニ明後十九日午後三時更ニ会合スルニ決ス
午後四時二十分閉会
○第六回経済整理ノ件陳情委員会議 十二月十九日開
       出席者
          渋沢栄一君  雨宮敬次郎君
          藤山雷太君  木村粂市君
午後四時四十分開議 京都会議所委員田中源太郎君・中野忠八君、大阪会議所委員法橋善作君、神戸会議所委員岡崎高厚君参席ノ上鉄道国有実行ノ件ニ関シ種々協議ヲ遂ケタル末、左ノ決議ヲ為セリ
 一 鉄道国有問題ハ是迄既ニ全国商業会議所聯合会ニ於テ可決シタル所ニシテ、今更其得失ヲ研究スル迄モナク各会議所共ニ之ヲ希望スル所ナレハ、此際其実行ノ事ハ主トシテ東京商業会議所ニ委託スルコトヽシ、猶必要ノ場合ニ於テハ此ニ会合ノ四会議所発企人トナリ、更ニ全国各会議所委員ノ会同ヲ促シ、運動方ヲ協議スヘシ、尤モ東京商業会議所委員ノ調査ニ係ル鉄道国有実行方法ハ一種ノ方案ニシテ研究ノ価値アル問題ニ付、各自持帰リ審議ヲ尽クスヘシ
午後九時閉会


東京商業会議所報告 第一〇三号・第一―三頁〔明治三五年一二月二五日〕(DK090059k-0004)
第9巻 p.565-566 ページ画像

東京商業会議所報告 第一〇三号・第一―三頁〔明治三五年一二月二五日〕
○第百十回臨時会議   明治三十四年十二月二十一日開
       出席者
          渋沢栄一君○外二十名略ス
 - 第9巻 p.566 -ページ画像 
午後六時三十分開議
会頭渋沢栄一君議長席ニ就キ、先ツ左ノ件々ヲ報告ス
 一 経済整理ニ関スル件陳情委員ノ大臣訪問ノ件○略ス
 一 経済整理ニ関スル件ノ内鉄道国有問題ニ付京都・大阪・神戸・東京四会議所委員協議ノ件
    経済整理ニ関スル件陳情委員ノ請求ニ基キ明治三十四年十一月十九日午後三時本会議所ニ於テ京都・大阪・神戸・東京四会議所委員ノ会同ヲ催シ、鉄道国有問題ニ付協議ヲ遂ケタリ
次ニ議長ハ左ノ件々ヲ議事ニ附ス
  ○第一―三号略ス。
○第四号
 一 鉄道国有実行ノ義ニ付経済整理ニ関スル件調査委員報告
   (本件ノ全文ハ明治三十四年事務報告ニ掲載シタル者ト同一ニ付之ヲ略ス)
本件ハ多数ヲ以テ原案ヲ可決シ、更ニ本件ノ調査委員七名ニ其ノ陳情ヲモ合セテ委托スルニ決ス
○中略
○同月○明治三四年一二月二十五日 鉄道国有実行ノ儀ニ付内閣総理・大蔵・農商務・逓信ノ各大臣ヘ建議書ヲ、貴族・衆議両院議長ヘ請願書ヲ呈出ス


東京商業会議所事務報告 第一一回明治三五年(DK090059k-0005)
第9巻 p.566-572 ページ画像

東京商業会議所事務報告 第一一回明治三五年
一鉄道国有実行ノ義ニ付内閣総理・逓信・農商務・大蔵四大臣ニ建議貴族・衆議両院ニ請願ノ件
 本件ハ経済整理ノ件陳情委員ノ提議ニ係リ、其要旨ハ、鉄道国有問題ハ既ニ国論ノ一致スル所ナルニ拘ハラス未タ実行ヲ見ルニ至ラサルハ、其方法ノ研鑽充分ナラサルカ為メナルヲ以テ、之カ実行方法ヲ具シテ建議請願スヘシト云フニ在リ、仍テ明治三十四年十二月二十一日第百十回ノ臨時会議ニ附シ其可決ヲ得タルニ付、同月二十五日附ヲ以テ左ノ如ク内閣総理・逓信・農商務・大蔵四大臣ニ建議、貴族・衆議両院ニ請願シタリ、尚ホ本件ニ関シテハ同上ノ臨時会議ニ於テ陳情委員七名ヲ選挙シ、同月二十八日ヲ以テ桂総理大臣ニ陳情セシメタリ
    鉄道国有実行ノ義ニ付建議(請願)
  案スルニ鉄道国有ノ問題ハ既ニ国論ノ一致スル所ニシテ数年来各商業会議所カ之ヲ政府ニ建議シ、且ツ議会ニ請願シタルコト一再ニ止ラス、又政府ニ於テモ夙ニ之ヲ是認シ嘗テ之カ遂行ヲ企画セラレタルコトアルニ拘ラス今日ニ至ル迄未タ実行ノ端緒ヲ得サルモノハ、要スルニ私設鉄道ノ買収並ニ之カ経費支弁ニ関シ其方法充分ノ研鑽ヲ経サルカ為メニシテ、是本会議所ノ深ク遺憾トスル所ナリ、蓋シ此問題タル事態重要ニシテ其影響スル所亦至大ナルハ固ヨリ論ヲ待タスト雖トモ、今熟々本会議所ノ審案スル所ニ拠レハ、例ヘハ私設鉄道買収価格ノ如キハ既往数年間ノ平均益金ヲ標準トシテ之ヲ計算シ、其買収ニ要スル経費ノ如キハ或ル特種ノ
 - 第9巻 p.567 -ページ画像 
公債ヲ発行シテ之ヲ支弁スルモノトシ、能ク現下経済ノ実況ヲ参酌シ、緩急宜ニ従ツテ其方法ヲ定ムルニ於テハ、之ヲ実行スルコト決シテ難事ニアラスト信ス、是ヲ以テ本会議所ハ今鉄道国有ノ目的ヲ達スル為メ仮リニ全国幹線ニ属スル私設鉄道九線ヲ買収スルモノトシ、試ニ其実行ノ方法ヲ起案シテ参考ノ為メ之ヲ閣下ニ上呈ス、仰キ願ハクハ閣下本建議ノ趣旨ヲ採納シ速ニ必要ノ手続ヲ決行セラレンコトヲ、然リ而シテ今ヤ経済界ノ情勢最モ時機ニ適セルモノアリ、故ニ政府ハ此機ヲ失セス先ツ之カ施設ノ準備トシテ予メ各私設鉄道会社ト交渉ヲ開始シ、宜シク買収価格ノ協定ニ着手セラレンコトヲ望ム
  右本会議所ノ決議ニ依リ建議(請願)仕候也
  (請願書ハ本文末段ノ部分ニ多少字句ノ削正ヲ為シ呈出シタリ)
   明治三十四年十二月二十五日
         東京商業会議所会頭 男爵 渋沢栄一
    内閣総理大臣 子爵 桂太郎殿
    逓信大臣   子爵 芳川顕正殿
    農商務大臣     平田東助殿  (各通)
    大蔵大臣      曾禰荒助殿
    貴族院議長  公爵 近衛篤麿殿
    衆議院議長     片岡健吉殿
     鉄道国有実行ノ方法
第一 政府ニ於テ左ノ私設幹線鉄道ヲ買収スル事
   日本鉄道・山陽鉄道・甲武鉄道・九州鉄道・関西鉄道・炭砿鉄道・京都鉄道・北越鉄道・西成鉄道
第二 私設鉄道買収価格ハ最近三ケ年間平均益金率(京都・北越・西成三鉄道ハ最近二ケ年間平均益金率)ヲ資本総額ニ乗シ之ヲ二十五倍シタル者ヨリ未払込額及其三ケ年間ノ利子ヲ控除シタル者トスル事、即チ左ノ如シ
                       円
    日本鉄道      一二一、五七五、八四〇
    山陽鉄道       四三、六二三、二六九
    甲武鉄道        八、三二一、八四四
    九州鉄道       五九、一六四、七八五
    関西鉄道       二四、二八二、三九八
    炭砿鉄道       二四、八八四、六二二
    京都鉄道        二、四五三、六九二
    北越鉄道        六、五五八、二五〇
    西成鉄道          五四四、五〇〇
     合計       二九一、四〇九、二〇〇
第三 私設幹線鉄道買収ノ費用ハ鉄道買収公債ヲ以テ之ニ充ツル事
第四 前項ノ公債証書ハ買収代価トシテ額面ヲ以テ鉄道会社ヘ交附スル事
第五 鉄道買収公債ハ証書額面弐億九千万円ヲ限リ之ヲ発行スル事
 - 第9巻 p.568 -ページ画像 
第六 此公債ノ利子ハ年四朱トスル事
第七 此公債ノ元金ハ証書発行ノ年ヨリ三ケ年据置、其翌年ヨリ向フ二十五ケ年間ニ毎年壱千弐百万円宛抽籖法ヲ以テ償還スル事
第八 此公債ノ元利ハ帝国官有鉄道全部ノ純益ヲ以テ之カ償還ニ充ツル事
第九 此公債ノ元利ハ日本銀行本支店ノ外各国大都府ノ銀行ニ於テ英貨ニ換算シテ便宜支払ヲ為ス事
第十 此公債証書ニハ右第五ヨリ第九ニ至ル条項ノ外帝国官有鉄道全部ノ建設費総額並ニ最近三ケ年間平均ノ収入支出及純益等ヲ記載スル事
右ハ実行方法ノ概要ヲ掲ケタルモノニシテ、特ニ買収価格ノ如キハ単ニ其標準ヲ示シタルニ過キス、且ツ又其調査匆卒ノ間ニ成レルヲ以テ数字ニ於テ素ヨリ少誤ナキヲ保セス、若シ夫レ愈々之レヲ実行セントスルニ当リテハ、当局者ニ於テ予メ各鉄道会社ニ交渉ノ上、宜シク相当ノ価格ヲ協定セラレンコトヲ望ム
◎参考第一号
  全国私設幹線鉄道ヲ買収シ現在ノ官線鉄道ト共ニ之カ収支ヲ特別会計トスル損益概算書
一金壱千弐百弐拾七万壱千七百拾参円
  但私設幹線鉄道三十三年度利益金総額
一金八百八拾壱万九千弐百七拾七円
  但官設鉄道三十三年度利益金総額
合計金弐千百九万九百九拾円
 外ニ
  金五百六万壱千八百参拾七円
   但三ケ年後ニ於ケル私設幹線及官設鉄道利益増加額(即チ最近ノ例ニ依リ総額ノ八分ヲ年々増加スルモノトシテ計算シタルモノナリ)
総計金弐千六百拾五万弐千八百弐拾七円
一金弐億九千百四拾万九千弐百円
   但私設幹線鉄道買収四分利附公債総額
一金壱千百六拾五万六千参百六拾八円
   但前項四分利附公債ノ利子
    ○四分利附公債支払及償却割合
一金弐千六百拾五万弐千八百弐拾七円 鉄道利益金総額
 内
  金壱千百六拾五万六千参百六拾八円 四分利附公債利子
  金壱千弐百万円 四分利附公債償却金
   残
  金弐百四拾九万六千四百五拾九円
   但毎年鉄道ノ利益金増加額ニ合シテ改良延長費ニ使用ス
即チ四分利付公債ヲ以テ全国私設幹線鉄道ヲ買収シ、現在ノ官線鉄道ト共ニ之レカ収支ヲ特別会計トナスニ於テハ、国有鉄道ヨリ
 - 第9巻 p.569 -ページ画像 
生スル利益金ヲ以テ弐億九千万円ノ買収公債ヲ僅々二十七ケ年間ニ償却シ尽シ、依リテ以テ国家必要ノ鉄道ヲ無償ニテ取得スルコトヲ得ヘシ、而カモ一方ニ於テハ年々弐百四拾余万円ニ加フルニ三ケ年以後年々増加スヘキ鉄道益金ヲ挙ケテ総ヘテ之レカ改良延長ノ費用ニ充テ、特ニ公債ノ据置年限三ケ年間ハ毎年九百四拾余万円ヲ鉄道改良費トシテ使用スルコトヲ得ヘキカ故ニ、交通機関ハ益々完備ヲ告ケ、運賃ノ如キ亦次第ニ低減ヲ来シ、商工業者ハ勿論一般公衆ニ与フル利益頗ル大ナルト同時ニ、殖産興業ハ俄然トシテ振興ヲ見ルニ至ルヘシ
◎参考第二号
  日本外八鉄道買収価格算出法
○日本鉄道株式会社
資本総額金六千六百万円     株数百三十二万株
 最近三ケ年間平均益金率    八分九厘六毛
 此利益金五百九拾壱万参千六百円
 之ヲ二十五倍スレハ
壱億四千七百八拾四万円     一株ニ付 百拾弐円
 之ヨリ未払込額弐千七拾万円ト其三ケ年間ノ利子(八分九厘六毛)五百五拾六万四千百六拾円ヲ減スレハ
壱億弐千百五拾七万五千八百四拾円 買収価格
 之ニ対スル四分利公債利子ハ
 四百八拾六万参千参拾四円
 此金額ヲ最近一ケ年ノ利益金五百弐拾弐万弐千八百六拾八円ヨリ減スレハ
金参拾五万九千八百参拾四円   差引利益金
○山陽鉄道株式会社
資本総額弐千四百万円      株数四十八万株
 最近三ケ年間平均益金率    七分九厘四毛
 此利益金百九拾万五千六百円
 之ヲ二十五倍スレハ
四千七百六拾四万円       一株ニ付 九拾九円弐拾五銭
 之ヨリ未払込額参百弐拾四万四千九円ト其三ケ年間ノ利子(七分九厘四毛)七拾七万弐千七百弐拾弐円ヲ減スレハ
四千参百六拾弐万参千弐百六拾九円 買収価格
 之ニ対スル四分利公債利子ハ
 百七拾四万四千九百参拾壱円
 此内ヨリ最近一ケ年ノ利益金百六拾参万九千弐百五拾九円ヲ減スレハ
金拾万五千六百七拾弐円     差引損失金
○甲武鉄道株式会社
資本総額参百万円        株数六万株
 最近三ケ年間平均益金率    一割二分八厘七毛
 此利益金参拾八万六千百円
 之ヲ二十五倍スレハ
 - 第9巻 p.570 -ページ画像 
九百六拾五万弐千五百円 一株ニ付 百六拾円八十七銭
 之ヨリ未払込額九拾六万円ト其三ケ年間ノ利子(一割二分八厘七毛)参拾七万六百五拾六円ヲ減スレハ
八百参拾弐万千八百四拾四円 買収価格
 之ニ対スル四分利公債利子ハ
 参拾参万弐千八百七十四円
 此内ヨリ最近一ケ年ノ利益金参拾壱万参千八百拾九円ヲ減スレハ
金壱万九千五拾五円      差引損失金
○九州鉄道株式会社
資本総額四千七拾五万円    株数八十一万五千株
 最近三ケ年間平均益金率   七分六毛
此利益金弐百八拾七万六千九百五拾円
 之ヲ二十五倍スレハ
七千百九拾弐万参千七百円   一株ニ付 八十八円弐拾七銭
 之ヨリ未払込額壱千五拾弐万八千八百九拾五円ト其三ケ年間ノ利子(七分六毛)弐百弐拾参万弐拾円ヲ減スレハ
五千九百拾六万四千七百八拾五円 買収価格
 之ニ対スル四分利公債利子ハ
 弐百参拾六万六千五百九拾壱円
 此金額ヲ最近一ケ年ノ利益金弐百六拾壱万四千五百六十四円ヨリ減スレハ
金弐拾四万七千九百七十三円   差引利益金
○関西鉄道株式会社
資本総額二千百弐拾万円     株数四十二万四千株
 最近三ケ年間平均益金率    四分六厘九毛
 此利益金九拾九万四千弐百八拾円
 之ヲ二十五倍スレハ
弐千四百八拾五万七千円     一株ニ付 五拾八円六拾弐銭
 之ヨリ未払込額五拾万参千七百弐拾八円ト其三ケ年間ノ利子(四分六厘九毛)七万八百七拾四円ヲ減スレハ
弐千四百弐拾八万弐千参百九拾八円 買収価格
 之ニ対スル四分利公債利子ハ
 九拾七万壱千弐百九拾六円
 此ノ金額ヲ最近一ケ年ノ利益金百拾四万弐千六百弐拾五円ヨリ減スレハ
金拾七万壱千参百弐拾九円    差引利益金
○北海道炭砿鉄道株式会社
資本総額壱千弐百万円      株数二十四万株
 最近三ケ年間平均益金率    一割三厘八毛
 此利益金百弐拾四万五千六百円
 之レヲ二十五倍スレハ
参千百拾四万円         一株ニ付百弐拾九円七拾九銭
 之ヨリ未払込額四百七十七万円ト其三ケ年間ノ利子(一割三厘
 - 第9巻 p.571 -ページ画像 
八毛)百四拾八万五千参百七拾八円ヲ減スレハ
弐千四百八拾八万四千六百弐拾弐円 買収価格
 之ニ対スル四分利公債利子ハ
 九拾九万五千参百八拾九円
 此内ヨリ最近一ケ年ノ利益金八拾九万四千三百七拾壱円ヲ減スレハ
金拾万千拾八円         差引損失金
○京都鉄道株式会社
資本総額五百拾万円       株数十万二千株
 最近二ケ年間平均益金率    二分九厘七毛
 此利益金拾五万千四百七拾円
 之ヲ二十五倍スレハ
参百七拾八万六千七百五拾円 一株ニ付 参拾七円拾弐銭
 之ヨリ未払込額百弐拾弐万四千円ト其三ケ年間ノ利子(二分九厘七毛)拾万九千五拾八円ヲ減スレハ
弐百四拾五万参千六百九拾弐円 買収価格
 之ニ対スル四分利公債利子ハ
 九万八千百四拾八円
 此金額ヲ最近一ケ年ノ利益金拾参万五千四百五拾参円ヨリ減スレハ
金参万七千参百五円       差引利益金
○北越鉄道株式会社
資本総額参百七拾万円      株数七万四千株
 最近二ケ年間平均益金率    七分九毛
 此利益金弐拾六万弐千参百参拾円
 之ヲ二十五倍スレハ
六百五拾五万八千弐百五拾円   買収価格
                一株ニ付 八拾八円六拾弐銭
 之ニ対スル四分利公債利子ハ
 弐拾六万弐千参百参拾円
 此金額ヲ最近一ケ年ノ利益金弐拾八万九千参百弐拾壱円ヨリ減スレハ
金弐万六千九百九拾壱円     差引利益金
○西成鉄道株式会社
資本総額百六拾五万円      株数三万三千株
 最近二ケ年間平均益金率    一分三厘二毛
 此利益金弐万千七百八拾円
 之ヲ二拾五倍スレハ
五拾四万四千五百円       買収価格
                一株ニ付 拾六円五拾銭
 之ニ対スル四分利公債利子ハ
 弐万千七百八拾円
 此内ヨリ最近一ケ年ノ利益金壱万九千四百参拾参円ヲ減スレハ
金弐千参百四拾七円     差引損失金
 - 第9巻 p.572 -ページ画像 
 以上ヲ合計スレハ
 資本総額金壱億七千七百四拾万円
  払込済額金壱億参千五百四拾六万九千参百六拾八円
  買収価格金弐億九千百四拾万九千弐百円
  此買収資金ニ対スル公債利子
   金壱千百六拾五万六千参百六拾八円
  最近一ケ年利益金

◎参考第三号
    ◎三十三年度営業線路資本金益金並建設費一覧表

図表を画像で表示三十三年度営業線路資本金益金並建設費一覧表

        営業線路            資本金                 益金          建設費                 総額            払込額           哩額            円            円           円            円 日本    八五七、〇七   六六、〇〇〇、〇〇〇   四五、三〇〇、〇〇〇   五、二二二、八六八   四五、九五六、〇七六 山陽    三一二、六九   二四、〇〇〇、〇〇〇   二〇、七五五、九九一   一、六三九、二五九   二三、三五三、四二一 甲武     二六、七七    三、〇〇〇、〇〇〇    二、〇四〇、〇〇〇     三一三、八一九    一、九五三、三〇五 九州    三二九、六〇   四〇、七五〇、〇〇〇   三〇、二二一、一〇五   二、六一四、五六四   三〇、四九五、一三二 関西    一九三、五四   二一、二〇〇、〇〇〇   二〇、六九六、二七二   一、一四二、六二五   二一、二九五、九八五 炭砿    二〇七、〇六   一二、〇〇〇、〇〇〇    七、二三〇、〇〇〇     八九四、三七一    七、八六八、四〇五 京都     二二、一六    五、一〇〇、〇〇〇    三、八七六、〇〇〇     一三五、四五三    三、七五九、一一一 北越     八四、五二    三、七〇〇、〇〇〇    三、七〇〇、〇〇〇     二八九、三二一    六、一八〇、九二七 西成      三、五二    一、六五〇、〇〇〇    一、六五〇、〇〇〇      一九、四三三        一、五一五 合計  二、〇三七、七三  一七七、四〇〇、〇〇〇  一三五、四六九、三六八  一二、二七一、七一三  一四二、三七七、四八四 官設    九四九、六九            ―            ―   八、八一九、二七七  一〇七、二六三、三〇〇 



    金壱千弐百弐拾七万壱千七百拾参円
   差引利益金
     金六拾壱万五千参百四拾五円
◎参考第四号
  最近三ケ年間払込金額及益金比較表○略ス
◎参考第五号
  過去五ケ年間官私鉄道収入経費並益金比較表○略ス


渋沢栄一 日記 明治三四年(DK090059k-0006)
第9巻 p.572 ページ画像

渋沢栄一日記 明治三四年
十二月廿一日
東京商業会議所ノ臨時会ヲ開ク
十二月廿七日《(八カ)》
商業会議所ノ件ニ関シ桂総理大臣ヲ官邸ニ訪フ
十二月二日
商業会議所委員等ト共ニ曾禰大蔵大臣ヲ官邸ニ訪フ
   ○日附前後セルモ訂正ヲ加エズ。


日本鉄道史 中篇・第八一一―八一四頁〔大正一〇年八月〕(DK090059k-0007)
第9巻 p.572-573 ページ画像

日本鉄道史 中篇・第八一一―八一四頁〔大正一〇年八月〕
  第十七章 鉄道国有始末
    第一節 国有案ノ由来
○上略
明治三十四年十二月末東京商業会議所ハ再ヒ鉄道国有実行ニ関スルコ
 - 第9巻 p.573 -ページ画像 
トヲ建議シ、国有ノ準備トシテ予メ各私設鉄道会社ト交渉ヲ開始シ、買収価額ノ協定ニ著手センコトヲ希望セリ、其実行方法ハ左ノ如シ
   ○実行方法略ス。前掲東京商業会議所事務報告所載ノ記事(本巻第五六七頁)ト同ジ。
該建議案ハ尚ホ買収鉄道ト現在官線トヲ併セテ其収支ヲ特別会計ト為スモノトシ、其概算ハ明治三十三年度官線利益総額八百八十一万九千二百七十七円、同私設幹線利益総額一千二百二十七万千七百十三円、及最近ノ例ニ依リ利益ハ毎年総額ノ八分ツツ増加スルモノトシテ、三箇年後ニ於ケル右官私線利益増額五百六万千八百三十七円ノ総計二千六百十五万二千八百二十七円ノ利益ヲ得、其中買収ニ要スル公債総額二億九千百四十万九千二百円ニ対スル四分ノ利子一千百六十五万六千三百六十八円、及公債償却一千二百万円ヲ控除シ、残額約二百五十万円ヲ毎年ノ利益増加額ト合シ、改良延長費ニ充ツレハ買収公債ハ二十七箇年間ニ償却ヲ終ルヘシトセリ


東京経済雑誌 第四四巻第一一一三号・第一二九七頁〔明治三四年一二月二八日〕 ○鉄道国有問題と渋沢男(DK090059k-0008)
第9巻 p.573 ページ画像

東京経済雑誌 第四四巻第一一一三号・第一二九七頁〔明治三四年一二月二八日〕
    ○鉄道国有問題と渋沢男
渋沢男爵は東京商業会議所委員の起案に係る、鉄道国有の建議に反対なるやに聞及びしが、過日男爵は或人に其真相を洩して曰く、世間或は予を以て鉄道国有実行の反対論者の如く認むるものあれども、予は決して商業会議所委員等の多数意見に反対し、之れが阻碍を為さんとするものに非ず、予が該委員会に於て開陳したる意見は、鉄道国有其物は素より賛成なれば之が実行は希望する処なれど、今回委員等が案出したる実行方法に就ては未だ輒く同意を表する能はず、即ち選定したる九鉄道にして若し買収に応ずるものとし、其買収公債として二億九千万円を一時に発行せば、或は為に我が経済界に多少の活動力を与へんも、其活動の反動は果して如何あるべきか、又所謂鉄道買収公債は未曾有の公債にして、其元利は日本銀行本支店の外各国大都府に於て英貨に換算して便宜支払ひを為すべしといひ、而して其元利償還資金は官有鉄道全部の純益を以て之れに充つべしといふ、是官有鉄道の全部を以て公債の担保に供すると同一のものにして、提案者は金利さへ廉なれば鉄道を担保に供するも、毫も国家の信用上に関係を生することなかるべしといへど、是れ最も慎重に考慮を要すべき処にして、軽々に断案を下す能はず、殊に現政府が果して国有を実行するの英断あるや否やは疑問の最も大なるものにして、是等数多疑問の明かに解釈せられざるに於て、経済界の現勢最も国有実行の時機に適せるものとなし、政府に建議して其実行を迫るは聊か早計の誹りを免れざるかと注意したるに過ぎざる也云々と


東京経済雑誌 第四五巻第一一一四号・第二九―三〇頁〔明治三五年一月一一日〕 ○東京商業会議所陳情委員の首相訪問(DK090059k-0009)
第9巻 p.573-575 ページ画像

東京経済雑誌 第四五巻第一一一四号・第二九―三〇頁〔明治三五年一月一一日〕
    ○東京商業会議所陳情委員の首相訪問
東京商業会議所に於ける会計法及び会計規則改正の件、及鉄道国有実行の件陳情委員渋沢栄一・委員雨宮敬二郎《(雨宮敬次郎)》・井上角五郎・小松正一・堀江恒三郎の諸氏は、客臘廿八日午前八時桂総理大臣を永田町の官邸
 - 第9巻 p.574 -ページ画像 
に訪問し、前記両件に付き交々陳情する所ありしが、其顛末左の如し
   (一)会計法及会計規則改正の件
渋沢委員長は先づ会計法及会計規則改正の件たる従来各地商業会議所の共に希望する処にして、且つ工業家の団体たる日本工業協会に於ても夙に改正の意見を発表する所あり、要するに本件は既に輿論の一定したる問題なれば、其節目に関する可否は暫く措き、若し其大体に就き改正の必要を認めらるゝに於ては至急政府案として帝国議会へ提出せられたき旨を述べたるに、之れに対する
桂首相答弁の要領に曰く『会計法及会計規則の改正を要することは是迄屡々耳にする処にして、過日渋沢・大倉両君より談話ありたる後も特に大蔵大臣に注意する処ありたる位にて、余に於ても大体に就き必要を認むるなり、蓋し其節目に関しては或は官庁と当業者との間に各其所見を異にするの箇条もあるべければ、此の上諸君に満足を与へん為め大蔵大臣にも協議し、先づ当庁属僚に訓示して諸君と会同の上充分利害の在る処を討議せしめ、其結果に依り政府案として本期帝国議会へ提出することになすべし』
   (二)鉄道国有実行の件
渋沢委員長は先づ鉄道国有問題の本年一月東京に開きたる全国商業会議所聯合会に於て可決せられ、当時京都・大阪・神戸・横浜・東京の五会議所が実行委員として時の政府へ建議し、且つ帝国議会へ請願したる事、此の問題の再び本年九月新潟に開きたる全国商業会議所聯合会の議に上り可決せられたる事、及び本月中旬此の問題に付き京都・大阪・神戸・東京の四会議所の委員東京に会同して協議したる結果、今回東京会議所より政府へ建議し、且つ帝国議会へ請願したる事等、此の問題の来歴を詳陳したる上、猶建議書に添付する「鉄道国有実行方法」なるものは
雨宮委員の起案に係るものなれば委細は主として同委員より陳情すべき旨を述べ、尋で雨宮委員の《(は)》鉄道国有実行の今日に急務なる所以並に其実行方法起案の趣旨に就き説明する処あり、猶此方法に対する反対論を列挙して一々此れが弁駁を試み熱心に陳情したるが之に対して桂首相の答弁に曰く『鉄道国有は多年来余の宿論にして、其実行を希望するの熱心は決して諸君に譲らずと信ず、而して曩きに山県内閣の時に当り余は努めて之を主張し、一旦之を企画したることありしも財政其他の事情の為め不幸にして之を遂行するを得ざりしは余の私に遺憾とする処なり、蓋し戦後経営の為め財政膨脹し、比年国家経済の不振を来したるは諸君の熟知せらるゝ通にして、従来政府は之れに処するの財政計画としては只瀰縫《(弥)》に瀰縫を重ぬるの政策を執り、以て今日の現況を致したるものゝ如しと雖も、熟々財界の現況に由り将来を考ふるに今後斯の如き瀰縫策のみを続行するときは我財政は益々繁雑となり、遂に整理に就くの期なきに至らんことを恐る、之を以て余は現職に就きたる当時より私に玆に慮る処あり、従来の財政計画は一と先づ之を打切りて整理を遂げ、只管財政の基礎を鞏固にするの方針を画し、既に三十五年度予算の如きも此方針に依て計画したるものなり、左れば此鉄道国有問題を《(は)》前にも述ぶるが如く余の熱心に其実行を希望
 - 第9巻 p.575 -ページ画像 
する処なりと雖も、経済救治と云ふが如き瀰縫策として之を行ふは不可なり、宜しく財政の整理と伴ひ別段の計画として之を行はんことを望む、然るに今回貴会議所より提出したる実行方法なるものを見るに固より一種の方案にして参考の価値なきにあらずと雖も、果して能く前述の方針と相戻ることなくして之れを行ひ得べきや、是れ余の私に安ぜざる処なり、故に此問題は政府に於ても充分之を調査すべきに付き、猶諸君に於ても一層練磨の上可成的前述の方法と相戻らずして之を行ひ得る方法を研究せられたし』


東京日日新聞 第九〇七四号〔明治三五年一月一日〕 経済界の前途(男爵渋沢栄一君)(DK090059k-0010)
第9巻 p.575-576 ページ画像

東京日日新聞 第九〇七四号〔明治三五年一月一日〕
    経済界の前途 (男爵 渋沢栄一君)
○上略東洋に於ける生産の中心に立つて南洋にあれ支那にあれ朝鮮にあれ相当の製品を以て海外列強と競争しやうと思ふならば、どうしてもモウ一層確実な進みをしなければならぬが、第一に金利の安きを努めなければならぬと思ふ、己れ自身などの重もなる業務は銀行でありますから単に銀行の側から論じて一身の利益から打算したら詰らぬ不利益を努るやうな嫌ひがあるか知らぬが、是れは一箇の私利であつて国家の方から論じたならば仮令銀行が困難であらうともどうしても金利を引下げるに努めるが今日の場合大に肝要であらうと思ふ、されば金利を引下げるには何ういふ手段が良いかといへば是れは余程考究問題で、商業会議所でも鉄道国有論などを主張して現に此間も建議を致しましたけれども私は鉄道国有といふものに対して敢て反対意見を主張するを好みませぬ、なぜなれば殆ど国家が是認する様に見えますから或党派とか若くは商売運動ばかりでなしに国家の為になるのであるからである、併し深く考て見たならば将来に日本の隅々まで鉄道を延長せしむるといふには単に国有といふ目的を以てのみ論じたならば却てそれをして遅延せしむる虞がありはせぬか、例として望む訳ではないが支那の如きは国有に大反対で政府の眼力は一もない為に日本とは比較的早く敷ける様になりはせぬか、さうしたならば国家将来の利益に就てはどういふ有様を生ずるか、是れは甚だ疑を懐く所である、併し金利を安くするには海外資本の共通を図るより外策はないと思ふ、是れが無暗に公債を売るとか若くは或投機者の一種の手段からして資本を入れるとかいふ方法でのみ海外資本の共通を図り得られるものでない、先づ国として外国人を排斥せぬやうに又一般の人情も相当の利益を与へ自他を区別して俗に云ふ彼を籠めやるといふ目的でなしに信義に基き而して此資本を入れて成程種々な事業が出来るといふやうな観念から追々欧米の金が這入て来る途を求めなければならぬと思ふ、私は土地の事に就ても是非所有権を渡すが宜いといふことを主張して居るが、また一般の人気が其処まで向かぬといけない、今日当局者が考へて居らるゝか知らぬが若し向かぬならば向くまでに努めたら宜からうと思ふ、そこまで考へると外国の資本の這入るは今の鉄道国有論者の公債で入れるよりは即ち鉄道を私用にして置いても外国の資本を入れる方便にはなりはせぬか、或は一箇の会社が社債を起しても這入つて来るであらう、故に寧ろ之を国有にせぬでも相当に資本の入れ途は
 - 第9巻 p.576 -ページ画像 
大にありはせぬかと思ふ而して外国人が資本を入れる好い材料ではないかと思ふのであります、殊に商業会議所にて今日論ずる鉄道国有の方法の如きは事に依ると鉄道抵当の債券を発行するやうになりはせぬか、若しそれまでの手段であつたならば外国人がその債券をズンズン買つて来て呉れるかも知れぬ、併しそれであつたならば日本は抵当株券を出すやうになるから国の信用の上から軽忽に議定し軽忽に実施することは出来ぬ、是れは経済意見を論ずる為に鉄道国有論者の反対意見を述べるやうになつて甚だ好みませぬが此序に極く悪るい事であるけれども金利を引下げたい、海外資本の共通を図るといふ事に就て此れと綜合して申述べた次第である、デ今申す海外資本の供給を図るにも相当の順序がございます、日本だけの商工業を維持するには現在の有様でも一寸二寸づゝの進みはあるか知らぬが東洋貿易の中心となる如きは到底今日のまゝで望むことは出来ぬ、頼みない有様ではないかと斯う考へて見ますると、明治三十五年の経済界は左程気遣ではないといふ言葉の中に甚だ憂ふべき未来といはなければならぬと思ふ、経済界の意見は談ずれば談ずる程種々な問題を引起して参りますが、先づ大体に対する意見は今申すやうな事であらうと考ます


東京経済雑誌 第四五巻第一一一五号・第五六―五八頁〔明治三五年一月一八日〕 ○鉄道国有問題(DK090059k-0011)
第9巻 p.576-578 ページ画像

東京経済雑誌 第四五巻第一一一五号・第五六―五八頁〔明治三五年一月一八日〕
    ○鉄道国有問題
鉄道国有問題、即ち私設鉄道を買収して国有と為すの議は、未た法律案として議会に提出せられずと雖、一部の代議士は熱心に之を主張し全国の商業会議所之に和し、本期の議会に於て是非とも其の目的を達せんことを期せり、今東京商業会議所に於て調査せる鉄道国有実行の方法に拠れば、四分利付鉄道買収公債二億九千万円(額面)を発行し之を鉄道会社に交付し、以て其の鉄道を買収せんとするものにして、買収すべき鉄道及び其の買収価額は左の如し
                       円
 日本鉄道        一二一、四七五、八四〇
 山陽鉄道         四三、六二七、一二八
 甲武鉄道          八、三二一、八四四
 九州鉄道         五九、一八九、〇八五
 関西鉄道         二四、二八二、三九八
 炭砿鉄道         二四、八八五、五二二
 京都鉄道          二、四五三、六九二
 北越鉄道          六、五五八、二五〇
 西成鉄道            五四四、二五〇
  合計         二九一、三三八、〇〇九
此の買収価額は最近三ケ年間平均益金率(京都・北越・西成の三鉄道は最近二ケ年間平均益金率)を資本総額に乗し、之を二十五倍したるものより未払込額及び其の三ケ年間の利子を控除したるものなり、而して買収公債の利子を最近一ケ年鉄道益金より差引くときは、国庫の為に六十一万八千余円の利益あるべしと云ふ、其の計算左の如し
                         円
 買収鉄道の資本金総額    一七七、四〇〇、〇〇〇
  右の内払込済額      一三五、四六九、三六八
 - 第9巻 p.577 -ページ画像 
 買収価額          二九一、三三八、〇〇九
  此利子(四分)       一一、六五三、五二〇
 最近一ケ年鉄道利益金     一二、二七一、七一三
 差引国庫の利益           六一八、一九三
更に右の算法にて各鉄道に対する国庫の損益を計算すれば左の如し
                         円
 日本鉄道 利益金          三六三、八三四
 山陽鉄道 損失金          一〇六、八二六
 甲武鉄道 損失金           一九、〇五五
 九州鉄道 利益金          二四七、〇〇一
 関西鉄道 利益金          一七一、三二九
 炭砿鉄道 損失金          一〇一、〇五〇
 京都鉄道 利益金           三七、三〇五
 北越鉄道 利益金           二六、九九一
 西成鉄道 損失金            二、三三七
民業を官業に移して、果して従前の通りに利益を挙げ得べきや否やは一疑問なりと雖、姑く従前の通りに利益を挙け得べしと仮定すべし、然るに政府は私設鉄道を買収して利益すべき線路と損失すべき線路とあり、而して国庫の利益は会社の損失にして、国庫の損失は会社の利益となるものなれば、同一の法律に拠りて私設鉄道を買収しながら、損益の別あるは不公平なる処分ならずや、勿論差引に於ては国庫の為に六十一万八千余円の利益ありと雖、政府は何故に会社を損失せしめて利益せざるべからざる乎、且夫れ私設鉄道の払込済金額一億三千五百四十六万余円に対して、弐億九千百三十三万余円の公債を発行するは、仮令其の利率は四分なるにもせよ、将来に於て国民の負担を増加することなき乎、況や僅々廿五ケ年間に之を償還せんとするに於てをや
更に私設鉄道を買収し、現在の官設鉄道と共に之が収支を特別会計と為すの損失概算書を見るに、左の如し
 一金一千二百二十七万一千七百十三円
  但私設幹線鉄道三十三年度利益金総額
 一金八百八十一万九千二百七十七円
  但官設鉄道三十三年度利益金総額
 合計金二千百九万九百九十円
  外に金五百六万一千八百三十七円
  但し三ケ年後に於ける私設幹線及官設鉄道利益金増加額(即ち最近の例に依り総額の八分を年年増加するものとして計算したるものなり)
 総計金二千六百十五万二千八百二十七円
 一金二億九千百三十三万八千九円
  但私設幹線鉄道買収四分利付公債総額
 一金一千百六十五万三千五百二十円
  但し前項四分利付公債の利子
      四分利付公債支払及償却割合
 一金二千六百十五万二千八百二十七円     鉄道利益金総額
 - 第9巻 p.578 -ページ画像 
  内
  一千百六十五万三千五百二十円 四分利付公債利子
  金一千二百万円 四分利付公債償却金
  残金二百四十九万九千三百七円
   但毎年鉄道の利益金増加額に合して改良延長費に使用す
明治三十三年九月三十日の現在調査に拠れば、官設鉄道の資本金即ち建設費は総計六千九百九十七万九千四十九円にして、其の五分利は三百四十九万八千九百五十二円なるを以て、現今官設鉄道は大約五百万円の利益を挙ぐるものにして、其の国家財政を助くること鮮少ならざるものなり、然るに之を特別会計に移して、其の利益を一般歳入に入れず、専ら私設鉄道買収公債の償還費に供せんとするものなり、然るに右計算の結論を見れば即ち曰く
 四分利付公債を以て全国私設幹線鉄道を買収し、現在の官線鉄道と共に之が収支を特別会計となすに於ては、国有鉄道より生ずる利益金を以て二億九千万円の買収公債を僅々廿五ケ年間に償却し尽し、依りて以て国家必要の鉄道を無償にて取得することを得可し、而かも一方に於ては年々二百四十余万円に加ふるに、三年以後年々増加すべき鉄道益金を挙げて総て之が改良延長の費用に充て、特に公債の据置年限三ケ年間は毎年九百四十余万円を鉄道改良費として使用することを得べきが故に、交通機関は益々完備を告げ、運賃の如き亦次第に低減を来し、商工業者は勿論、一般公衆に与ふる利益の大なると同時に、殖産工業は俄然として振興を見るに至るべし
 官設鉄道の収入を挙げて買収公債の償還費に費しながら、無償にて私設鉄道を国家に収得することを得べしと説く、天下是より都合よき計算はなかるべし、之を要するに鉄道の私設と官設とは互に一得一失なきにあらずと雖、運輸交通の目的を達するに於て毫も差支あることなし、何ぞ特に私設鉄道を買収して国有と為さゞるべからざるの理由あらんや


東京経済雑誌 第四五巻第一一一六号・第一二一頁〔明治三五年一月二五日〕 ○鉄道国有案と貴族院(DK090059k-0012)
第9巻 p.578-579 ページ画像

東京経済雑誌 第四五巻第一一一六号・第一二一頁〔明治三五年一月二五日〕
    ○鉄道国有案と貴族院
鉄道国有問題に関し頃者株屋連の商業会議所陳情委員として桂首相を訪問したる処によれば、該問題に対しては現内閣とて絶対的反対にあらざるも、唯だ財政整理と伴はざる計画なるにより賛成する能はずと云ふが如し、然るに衆議院議員中には鉄道躍起最も多く、鉄道問題を条件として選出せられたる議員もあれば、商業会議所あたりの運動如何によりては鉄道案も案外速かに衆議院を通過するや知るべからず、而して貴族院の鉄国案に対する意向如何と云ふに、貴族院は衆議院と異ひ株屋少なきのみならず、株屋の所為と云へば一も二もなく之に反対する傾向ある上に、今回桂内閣に同情を表したるは、桂内閣の財政計画は公債募集を中止し、抽籤償還を実行せんとするためなれば、現内閣にして若し衆議院の大勢に制せられ、財政計画と矛盾する鉄道国有案に賛成するが如き事あらば、貴族院は忽ち鋒を倒にして政府に反抗すべし、之を察せず商業会議所委員に向ひ能い加減の答弁を為し、
 - 第9巻 p.579 -ページ画像 
株屋をして一縷の望を政府に置かしめたる桂首相の円満主義は例によりて呆るゝ外なし云々貴族院中の或る有力者は語りき


渋沢栄一 書翰 萩原源太郎宛(明治三四年?)六月五日(DK090059k-0013)
第9巻 p.579 ページ画像

渋沢栄一 書翰 萩原源太郎宛(明治三四年?)六月五日 (萩原英一氏所蔵)
拝啓、然者過日御廻被下候会議所議事録拝見之上返上仕候、右之中鉄道国有之建議ハ小生ハ大ニ異見有之、不在中ニ右様之御取扱有之候ハ不満足千万ニ候得共、今更致方無之候、尚近日拝眉夫々相伺可申候得共、別紙返上此段申上候 匆々不一
  六月五日                渋沢栄一
    萩原源太郎様


渋沢栄一 書翰 八十島親徳宛(明治三八年)一月一〇日(DK090059k-0014)
第9巻 p.579 ページ画像

渋沢栄一 書翰 八十島親徳宛(明治三八年)一月一〇日 (八十島親義氏所蔵)
○上略昨年末添田氏より相廻候鉄道抵当法案ニ付今日仙石貢氏より一覧被相望候間、早々御届可被下候、但其届場処ハ東京倶楽部ニ於て仙石貢氏と御認被成候ハヽ相達し可申と申居候、明日にも御取計可被下候
○中略
  一月十日                    栄一
    八十島親徳殿
            梧下