デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2018.12.15

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

2章 交通
2節 鉄道
29款 鉄道国有問題
■綱文

第9巻 p.649-679(DK090062k) ページ画像

明治41年10月5日(1908年)

是ヨリ先、西園寺内閣倒レ桂内閣成立スルヤ、栄一、豊川良平・原六郎・園田孝吉・早川千吉郎等ト共ニ引続キ鉄道公債問題ニ関シ斡旋尽力シ屡々桂首相トモ会見セシガ、是日桂首相ヲ其官邸ニ訪ネ、鉄道公債交付ノ内示ヲ受ク。尋デ二十一日銀行集会所ニ於テ被買収私設鉄道会社関係者ニ其旨ヲ伝ヘ、二十六日其ノ同意ヲ得テ問題解決ス。


■資料

渋沢栄一 日記 明治四一年(DK090062k-0001)
第9巻 p.649-650 ページ画像

渋沢栄一 日記 明治四一年
七月二十七日 晴 大暑
○上略十一時銀行倶楽部ニ抵リ、園田・豊川・原氏等ト仙石・片岡二氏ヲ会シテ、鉄道公債ノコトヲ協議ス○下略
七月二十九日 晴 大暑
○上略午前九時自働車ニテ桂首相官邸ヲ訪ヒ、園田・豊川・原三氏ト共ニ、各鉄道会社ニ交付スヘキ公債ノ価格維持ニ関シ首相ト種々ノ談話ヲ為ス○下略
八月三日 晴 大暑
○上略午後一時第一銀行ニ於テ午飧シ、二時銀行集会所ニ抵リ、公債整理ニ関スル各交換所聯合会ニ出席シ、要件ヲ議決ス○下略
八月八日 半晴 暑
○上略十一時桂首相ヲ三田ノ私邸ニ訪ヒ、財政ニ関スル要務及鉄道国有ニ関スルコト等ヲ談話ス○下略
十月五日 晴 冷
○上略午前九時半桂総理大臣ヲ官舎ニ訪ヒ、鉄道公債ノ件ニ関シ談話ス豊川・早川・園田・原四氏同席ス○下略
十月二十一日 曇 冷
午前八時起床、直ニ朝飧ヲ食シ、九時半銀行集会所ニ抵リ、園田・豊川・早川・原ノ諸氏ト共ニ鉄道公債ノ件ニ付談話ス、仙石・片岡其他
 - 第9巻 p.650 -ページ画像 
数名来会ス○下略
十月二十六日 晴 冷
午前八時起床風邪気ナルヲ以テ入浴スル能ハス、褥中ニ在テ書類ヲ点検ス、此日ハ種々ノ招宴ヲ受ケタルモ病ノ為メ応スルヲ得ス、依テ電話ヲ以テ之ヲ謝ス、終日家ニ在テ読書ス


東京日日新聞 第一一四二六号〔明治四一年一〇月七日〕 鉄道公債問題 (桂首相の言明)(DK090062k-0002)
第9巻 p.650 ページ画像

東京日日新聞 第一一四二六号〔明治四一年一〇月七日〕
    鉄道公債問題 (桂首相の言明)
渋沢男・園田孝吉・豊川良平・早川千吉郎の諸氏は予ねて被買収鉄道会社の依頼を受けて鉄道公債の価格維持に関し前内閣時代に屡々当局者に要求する所あり、現内閣に対しても一応其の希望を具陳し置くの必要ありとして、既記の如く一昨五日右の諸氏打揃ふて桂首相を訪問するに至りたる次第なるが、其の銀行家の要求に対して桂首相の言明せる所を聞くに首相は鉄道会社側の要求する如く鉄道公債のみに対して特殊の待遇を為し、其の価格を釣上ぐるも他の公債にして下落することゝならば財政上甚だ宜しきを得ざるのみならず政府にしては等しく政府の公債に対して各別の取扱ひを為すを得ず、政府は既に公債の整理方針を確定し年々五千万円を下らざる程度に於て償還するの計画を立て総ての公債に対し一様に信用を高むるの方針を採れり、而して年々五千万円宛償還すとせば現在の廿億円の公債は向後廿七箇年にして全く償還し尽すを得るの計算となるが故に、事実果して廿七箇年間に全部の公債を償還するの必要あるや否は疑問なれども、兎に角年々五千万円宛償還することゝせば、其間公債に対する信用高まり価格適当の処に維持し得べき見込なり、従て此際鉄道公債のみに限りて特殊の取扱を為すを要せざるべし、事情右の如くなるを以て今後公債の価格に関しては別に憂慮するに足らざるべく、同時に鉄道公債も相当の程度に其価格を維持し得ることゝなるべし、而して既に公債価格の上進するに於ては被買収鉄道会社に対する公債の交付も期限眼前に迫りつゝある今日なれば成る可く速に之を交附することゝなし、買収日の順序に依りて前後二回位に交付することに定め、差当り其第一回を明年四月頃に交附する考なり、尚ほ従来政府自ら其信用を傷けたるの傾きあり、例へば政府が保証金を求むる場合に公債に対して時価を以て提供せしめつゝあり、此の如きは取りも直さず政府自ら其信用を傷くるものにして決して市価を上進せしむる所以に非ざるを以て、今後は額面金額を以て取扱ふことに改正する考なり云々と語れる由なり


東京経済雑誌 第五八巻第一四六〇号・第六七七―六七八頁〔明治四一年一〇月一〇日〕 ○買収鉄道公債問題に関する桂首相の言明(DK090062k-0003)
第9巻 p.650-651 ページ画像

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東京経済雑誌 第五八巻第一四六〇号・第六四五―六四七頁〔明治四一年一〇月一〇日〕 政府漸く鉄道代償公債を発行せんとす(DK090062k-0004)
第9巻 p.651-653 ページ画像

東京経済雑誌 第五八巻第一四六〇号・第六四五―六四七頁〔明治四一年一〇月一〇日〕
    政府漸く鉄道代償公債を発行せんとす
政府は軽々に鉄道の国有を実行したるに似ず、之が代償公債の交付に関しては逡巡踟蹰して、殆と其の決する所を知らざるの状ありき、而して此の間に於て鉄道会社の清算人は、代償公債に関して殊遇特典を得んと欲し種々の要求を提出し、渋沢男外数名の銀行家を介して政府に迫る所ありき、然れども歳月は流るゝか如し、政府若し代償公債の交付に関して荏苒決する所なくんば、五箇年の期限は漸く近邇し来り結局五億円の公債を一時に発行するの止むなきに至らんとす、而して公債価格の騰貴は固より願はしと雖も、独り代償公債に特典を与ふるか為めに、爾余内外公債所有者の利益を害するが如きは、国家として断じて為し得べき所にあらず、故に余輩は鉄道会社側の要求にして、苟も一般の公債所有者に不利の影響ありと認むるものに就ては、常に之に反対し、政府が決して之を採用する莫らんことを希望したり
然るに今や新聞紙上伝ふる所に依れば、桂首相は数日前渋沢男外数名の銀行家を招き、『政府は種々講究したる結果、代償公債は明年三四月頃より、金融の状態に鑑み、徐々に交付するの方針なるが、鉄道公債に限り特殊の恩恵を与へられたしとの希望は、到底応じ得べき者にあらず、又償還年限短縮の事は、同公債が整理公債条例に準拠し発行せらるゝ以上は亦之を如何ともす可からず』との趣意を談じ、又『従来保証金の代用として納入せしむる場合、時価に拠りしが如きは鉄道公債価格の維持上矛盾せる次第なれば、此の点に関しては額面価を以てすることに改むべし』との趣意を述べしと云ふ、政府の方針果して斯の如しとせば、余輩は大体に於て其の可なるを認むるものなり
政府は既に鉄道国有を実行したれば、再び之を民間に払戻すの勇断に
 - 第9巻 p.652 -ページ画像 
出でざる限りは、勿論代償公債の発行を避け得べきにあらず、故に速に之を発行し其の処分に関する世間の疑惑を除くに如かざるなり、而して之を発行するに及び、多少公債市価の下落を起すなきを保せずと雖も、今日の市価は其の発行を予期して定まれるものにして、代償公債の影響は其の発行を俟ちて始めて現はるゝに非ざるのみならず、其の発行と共に従来の鉄道株券は消滅するなり、且此等の株券は最早や純然たる株券にあらずして、事実上半ば公債に変形せるものなれば、代償公債を発行して株券と交換するは、殆ど公債と公債とを交換するに異ならざるものあり、然るに政府が公債市価の暴落を憂慮し、代償公債の発行を何時迄も未決の儘に遷延するあれば、永く不具的なる鉄道株券を存せしめて、有価証券の売買移転を妨げ、資金の循環を壅塞し、公債の市価に何等の好影響を生せずして、却て市場に不安と不便とを与ふるに過ぎざるべし、是れ決して策の得たるものと云ふべからず、故に政府が終に代償公債交付の方針を決したるは、素より当然の事にして、到底避くべからざる事たる以上は、速に之を実行するを可とするなり、蓋し公債市価の騰貴は之を公債の根本的整理に求むるの外なくして、其の他の姑息策は真正の好結果を生ずるに足らざるなり而して今や政府は新に公債を募集せざるの方針を固守し、年々五千万円以上の公債償還を行はんとするものにして、余輩は減債基金の運転殖利を謀るの愚と危険とを排斥すと雖も、政府が財政状況の許す極度まで、年々多額の公債を償還し、大に其の利子の負担を省くは、最も急務たるを認めずんばあらず、政府にして年々厳に此の方針を履行し且減債資金を得るに従ひ、必ず現実に公債を銷却して怠るなくんば、何ぞ又公債の騰貴せざるを憂へんや
政府が鉄道公債のみに特典を与ふるを拒みたるは、是れ亦当然の事にして、敢て之を称賛するに足らずと雖も、由来政府は情実の為めに束縛せらるゝこと少なからずして、其結果意外なる政治上の弊害を醸すの危険なきにあらず、故に鉄道公債の特遇問題に関しても、情実の纏綿は如何なる結果を生ずるやも知るべからずして、余輩の私に不安を感じたる所なりしに、今回桂首相が鉄道会社側の希望は到底応じ得べきものに非ずとして、之を斥けたるは、聊か以て快とする所なり、而して鉄道会社側に於ても、徒らに斯の如き要求に労するを止め、常に政府を責めて、全体より公債を整理せしむべきなり、是れ其の利益を保護するに於て、最も宜きを得たるの道なりと云ふべし
唯公債を保証金の代用と為す場合に於て、額面価を以て之を受取るべしと云ふに至ては、毎度ながら政府が姑息策を喜ぶに驚かざるを得ず政府は之に依りて公債の需要を増加せんと欲するならんと雖も、実際果して幾何の需要を増加するを得べきか、思ふに其の影響は甚だ軽少なるものならん、政府に納付すべき保証金に限りあるが故に、公債を以て之を納付するもの増加せば、他の有価証券を以て之を納付するもの減せざるべからず、之に依りて公債を騰貴せしむるの結果ありとせば、必ず又他の有価証券を下落せしむるの結果なきを得ず、政府が公債を銷却して、其市価の騰貴を起すは可なりと雖も、差別主義を行ふが為めに、他の有価証券を下落せしむるは、決して穏当の処置と云ふ
 - 第9巻 p.653 -ページ画像 
べからず、何となれば斯かる差別主義は他の有価証券に対する需要を禁止するに同じければなり、若し又今日にても保証金は多く公債を以て納付せられありとせば、政府の此の処置は納付すべき公債の高を減少せしむるものにして、却て公債の需要を減少するの結果なかるべからず、一般の公債市価を騰貴せしむるに足らずして、唯保証金納付の義務あるものに特恵を与へ、而して保証金徴収の目的を没却するものなり、是れ豈に失当の処置にあらずや、故に政府にして公債の騰貴を謀らんと欲せば、成るべく官営事業を民間に払下げ、公債を以て其の代価を仕払はしむるに如かざるなり


東京経済雑誌 第五八巻第一四六三号・第八一八頁〔明治四一年一〇月三一日〕 ○鉄道清算人聯合会議と代償公債問題(DK090062k-0005)
第9巻 p.653 ページ画像

東京経済雑誌 第五八巻第一四六三号・第八一八頁〔明治四一年一〇月三一日〕
    ○鉄道清算人聯合会議と代償公債問題
被買収十七鉄道会社清算人は去る廿六日日本鉄道清算事務所に於て聯合会議を開き、仙石・山田の両清算人より兼て渋沢男外三名の銀行家に依頼して政府に交渉しつつありし代償公債市価保証の件に就き、渋沢男等より政府の伝言ありとて左の如く聞き取りたる旨を報告したり
 政府は鉄道公債のみに対し特に別種の取扱を為す能はす、然れども内外債廿二億円及買収鉄道公債五億円併せて廿七億円は、今後廿七ケ年以内に全部償還することに決したれば、鉄道公債も亦鉄道側の希望の如く廿五ケ年内位にて償還さるゝ訳なり、又時価も九十円を下らざる様引上に努む可し
之に対して議論百出したるも、結局政府にして公債の市価は九十円以上を維持せしむべしとの言明を与へたる上は須らく政府の措置に任すべしとの議に決したり


日本鉄道株式会社解散始末 下・第二七八―二八〇丁(DK090062k-0006)
第9巻 p.653-654 ページ画像

日本鉄道株式会社解散始末 下・第二七八―二八〇丁
                      (山田英太郎氏所蔵)
十月五日○明治四一年ニ至リ新内閣ノ首相兼蔵相タル桂侯爵ハ渋沢栄一・園田孝吉・早川千吉郎・豊川良平・原六郎ノ五氏ヲ官邸ニ招キ鉄道公債交付ニ関シ内示スル所アリタリ、其要領ニ依レハ鉄道公債ハ四十二三ノ両年ニ交付シ、其交付方法ハ金融界ニ紛更《(マヽ)》ヲ生セシメサル様分割スル事トシ、価格維持ニ就テハ国債整理基金ヲ利用シ、鉄道公債ト一般公債トノ権衡ヲ保持スルノ方法ヲ講スルト云フニ在リ、而シテ十月二十一日渋沢栄一・園田孝吉・原六郎・豊川良平・早川千吉郎ノ五氏ハ銀行集会所ニ於テ仙石貢・山田英太郎・片岡直温・西村治兵衛・大島六郎ノ諸氏ト会見ノ際首相ノ内示ニ就テ更ニ詳細ノ説明ヲ為セリ、其言ニ拠レハ、政府ハ二十七ケ年間ニ我国公債ノ全部ヲ償還スルノ予定ニシテ、鉄道公債ハ五ケ年ノ据置ヲ待タス明年ヨリ直ニ抽籤償還ニ加フル事トシ、尚公債ノ時価九十円以下ニ低落スル場合ニハ政府ハ国債整理基金ヲ利用シテ価格ノ維持ヲ謀ルヘシトノ事ナリ、依テ被買収会社ハ之ニ対スル態度ヲ決スルカ為メ十月二十六日第十回研究会ヲ本社清算事務所ニ開キタルニ、各社代表者ノ意見ハ区々ニ分レ容易ニ首相ノ内示ニ首肯スルノ模様ナカリシモ、種々討論ノ末、兎ニ角銀行家ノ言ニ信頼シテ公債問題ノ一段落ヲ告クルヲ穏当トシ、銀行家ニ対シテ
 - 第9巻 p.654 -ページ画像 
ハ頃来斡旋ノ労ヲ謝スル旨ヲ決議シ、玆に其運動ヲ中止セリ、即チ公債価格ノ維持ニ就テハ法律上ノ保証ニ関シ何等得ル所ナク、唯之ヲ政府者ノ運為《(云)》ニ一任スルノ外ナキ事トナレリ
   ○明治四十一年十月二十六日公債交付期日四十二年四月三十日ノ通知アリ。


山田英太郎氏談話 昭和九年七月六日於白金台町山田邸(DK090062k-0007)
第9巻 p.654-655 ページ画像

山田英太郎氏談話 昭和九年七月六日於白金台町山田邸
                   佐治祐吉・山口栄蔵 筆記
私鉄十七会社の買収価格は決定した。さてこれを公債で渡すについて一問題起つた。
それは此の時、日鉄清算事務所に十七鉄道の聯合研究会を設けて研究したのだが、その結果として当時(明治四十一年一月)帝国五分利公債が市場相場七十九円、これをその額面高百円で受とることは甚だ困る、これは元金も百円のものでなければ困る、我々私鉄会社はリヤルプロパテイーを提供してゐるのだからと云ふ議論。之は外国人所有公債と同じく、金貨支払の裏書をした公債でもらひたい、さもなければ半額は通貨でもらひたい、と云ふ要求を提出した。(当時日鉄株主中には外国人も多かつたが、横浜のセールフレザーなどその総代となつて、金貨裏書公債で支払を願出た)
これは政府でも大問題で、当時三千二百五十万円の買価収格の増加につき大蔵大臣坂谷芳郎《(阪谷芳郎)》は反対で、これを認めた山県伊三郎逓相と喧嘩をし、二人が辞表を呈出し、ために西園寺内閣は瓦解するに至り、桂内閣となつて桂太郎が首相蔵相を兼任した時であつだ。
で我々鉄道屋が考へたことにはこれは鉄道屋ばかりではいけない、銀行と聯合をしよう、公債問題については銀行でも同様に困つてゐるのだ、と云ふので私が第一銀行へ渋沢さんを訪れて話をした。又豊川良平氏にも話した。渋沢・豊川両氏相談して銀行と鉄道会社と両者の聯合会を開いた。
銀行側からは渋沢さん、豊川良平・原六郎・池田謙三・早川千吉郎氏等がみえた。
かうして桂さんとの交渉には渋沢さんが当り随分と骨を折られた。その結果最後に桂首相の出した条件といふのは、金貨裏書公債は御免だこれでは内国債が、外国に皆行つて了ふおそれがある。その代り次の三条件を出さう
1 法律を以て国債利息には税金を課せない
2 還債基金制を確立して天下に発表しよう
3 従前政府筋へ受負人が提供する保証公債を額面通用に改める(これは四分利まで及ぼす)
この条件に対して渋沢さんは賛意を表された「桂さんも折角あゝ云ふのだから」と云はれたが私は不服、もつと強腰に出なければと云ふ猪武者的考へであつたが、まあまあと渋沢さんの云はれる、他の一同も渋沢さんについて賛成するのでとうとうこれでおさまつてしまつた。
明治四十二年一月法律第五号で発布せられた
 第一条 国債ノ利子ニハ所得税ヲ課セス
  附則 本令ハ発布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
 - 第9巻 p.655 -ページ画像 
の条文はかうして出来たのであつた。
又還債基金制については桂首相が貴族院に於て演説してその趣意を明かにした、当時の計算では公債二十億円余、これを年々八千万円宛元利還債又は基金に積立れば二十六年かゝれば公債全部還へせると云ふわけ。公債を全部なくするがよいか悪いかは問題だが、明治十五―十八年の松方正義の紙幣整理に成功したあの方法をまたこゝにとつたわけである。
果せる哉、公債は一〇五円にまで騰貴した。そして銀行も鉄道会社もホツと息をついたのであつた。


竜門雑誌 第四八一号・第三五二頁〔昭和三年一〇月二五日〕 鉄道事業及道路改良と青淵子爵(山田英太郎)(DK090062k-0008)
第9巻 p.655 ページ画像

竜門雑誌 第四八一号・第三五二頁〔昭和三年一〇月二五日〕
    鉄道事業及道路改良と青淵子爵 (山田英太郎)
○上略特に四十年六月より被買収十七会社の聯各会起《(合)》りて代償公債の価格維持に関し所謂公債問題の沸騰するや(当時財界一般に鉄道の買収による数億の公債発行を見越したるによりて、頓に公債価格の激落を来し、四十一年には五分利公債の価額七十八九円を唱ふるに至れり)子爵は聯合会社側の懇請を快諾し、豊川良平・早川千吉郎・園田孝吉・原六郎等の銀行諸家と共に起て鉄道側に協力し、時の首相西園寺公、及元老井上侯等の間に奔走周旋する所あり、西園寺内閣罷めて桂内閣代り任ずるに及んで、更に百方計議する所あり、遂に桂首相より(一)向ふ二十七ケ年を期し現在二十数億の公債を全部償還するの計画を以て還償基金八千万円《(債)》の制度確立すべき事(二)公債の利子に所得税を課せざる法律を制定すべき事(三)一般官公衙の保証金に代用する公債を額面通用と為すべき事等の提言を領すに至りて流石は《(マヽ)》沸騰したる聯合会社間の議論も漸次に沈静し、其後日ならずして、右三事項等の愈々実現せらるに及び、市場公債の価額の漸次回復し騰貴して、一時額面を上下するの盛況を呈し、玆に四十二年五月頃より各被買収会社とも無滞代償公債の授受を了し、国有買収の完結を見るに至つた次第であつたが、其他何に付け歟に付け、国有買収の跡始末に関しては、子爵を煩したものも蓋し尠少でなかつた。


竜門雑誌 第四四九号・第五九―六〇頁〔大正一五年二月〕 鉄道国有当時の回顧(中)(山田英太郎)(DK090062k-0009)
第9巻 p.655-656 ページ画像

竜門雑誌 第四四九号・第五九―六〇頁〔大正一五年二月〕
  鉄道国有当時の回顧(中) (山田英太郎)
    十一 鉄道公債の交付と特点
 斯くて新組織の桂内閣は首相に於て大蔵大臣を兼任して、鋭意善処を策せられてあつたが、被買収会社聯合研究会と銀行諸家の聯合運動は幾回か繰返へされ、渋沢子爵初め銀行家は斡旋最も努められた、其末四十一年十月五日に至り、桂首相は特に銀行諸家を官邸に招き鉄道公債交付に関し内示する所あり、一定の善処策を決して、愈々公債を交付することとなつた、之を綜合すれば凡そ次の様な事項であつた。
  一、鉄道公債は明治四十二、三の両年に交付し、其交付方法は金融界に悪影響を及ぼすことなき様適当に分割すべし
  二、鉄道公債と一般公債との権衡を保持するに努め時価九十円以下に低落する場合には国債整理基金を利用して価格の維持を
 - 第9巻 p.656 -ページ画像 
計るべし
  三、将来年々還債基金八千万円宛を積立、前途二十七ケ年間に我国公債の全額を償還するの方策を確立すべし、此事たる明治十二三年頃松方蔵相《(マヽ)》が紙幣整理策を確立したるが如く、後来の政府をして遵由して違ふなからしむべし、若し違背者あらば予自ら率先鼓を鳴らして之を攻むべし
  四、鉄道公債は五年据置五十ケ年償還の整理公債条例によるものなれども五ケ年の据置を待たず交付の翌年より直に抽籤償還の列に加ふべし
  五、鉄道公債は総て甲種登録の形式を以て交付し濫売の弊なからしむべし
  六、一般公債鉄道公債の別なく、総て国債の利子には所得税を課せざる新法を定むべし
  七、公債は総て券面金額に依り政府納入の保証金に代用するを得るの新制を定むべし
 被買収会社は桂首相の此等の内示は《(に)》対する態度を決するが為め、四十一年十月二十六日を以て第十回研究会を開きたるに各社代表の意見は区々に分れ、容易に首相の内示に首肯するの模様なかりしも兎に角銀行家の言に信頼して公債問題の一段落を告ぐるを穏当として銀行家に対しては頃来斡旋の労を謝する旨を決議し、玆に其運動を中止することとした、即ち公債価格の維持に就ては法律上の保障としては何等最初要請の決議の如きものを得る処なく唯々政府の云為に一任するの外なき事となつた。然るに桂内閣が能く内示したる所を実行するに努めたると及び予て採算に鋭敏なる外商等が我公債及公債の代用たる買収鉄道の株券の暴落に乗じ投機的多額の購買を為したる上、之を欧洲市場に輸出したる等の結果とに由り、我公債は漸次に其市価を回復し来り、明治四十二年春夏夏秋《(衍カ)》に渉り、政府が鉄道公債を交付する頃には一時券面金額を越えて百五円の時価を有するに至り、被買収会社及銀行業者、金融業者等の非議苦情を鎮静することを得たまでのところは流石は桂内閣の手腕であつたが、人為の価格は遂に久しきを持する能はずして、其後逐年低落の一途を辿り、彼の世界戦時代の好経済界を以てして、尚且つ八十円台を上下し辛うじて八十円を破らざるを得た等の事跡を顧みるに於ては、鉄道公債激増爾来の経過如何は特に専門の調査研究に値するものあるなきか。○下略


明治大正財政史 (大蔵省編纂) 第十一巻・第八七三―八八三頁〔昭和一一年五月三一日〕(DK090062k-0010)
第9巻 p.656-658 ページ画像

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日本銀行沿革史 第九巻・第一一八八―一一九〇頁(DK090062k-0011)
第9巻 p.658-660 ページ画像

日本銀行沿革史 第九巻・第一一八八―一一九〇頁
右二法律○鉄道国有法及ビ京釜鉄道買収法ニ規定セル如ク各鉄道ノ買収代償トシテハ何レモ公債証書ヲ発行シテ之ヲ交付セラレ、而シテ之カ公債取扱方ニ関シ該二法律ニ別段ノ規定アルモノヲ除クノ外ハ整理公債条例ヲ適用スルコトヽ定メラレタリ
其後数回逓信省令ノ公布ニ依リ、京釜鉄道買収期日ヲ明治三十九年七月一日ニ、北海道炭砿及甲武鉄道ヲ同年十月一日ニ、日本及岩越鉄道ヲ同年十一月一日ニ、山陽及西成鉄道ヲ同年十二月一日ニ、九州及北海道鉄道ヲ同年七月一日ニ、京都・阪鶴及北越鉄道ヲ同年八月一日ニ総武・房総・七尾及徳島鉄道ヲ同年九月一日ニ、関西及参宮鉄道ヲ同年十月一日ニ定メラレタリ
斯クテ鉄道国有法及京釜鉄道買収法ニ依リ発行スル鉄道買収公債ハ明治四十一年三月ヨリ四十二年七月ニ至ルマテ前後十数回ニ亘リテ発行
 - 第9巻 p.659 -ページ画像 
セラレ、其総額ハ四億七千六百三十一万八千八百円ニ達セリ
又明治四十年八月二十四日勅令第二百九十一号ヲ以テ、鉄道国有法及京釜鉄道買収法ニ依リ、買収セラレタル鉄道株式会社ノ株券ハ政府ニ納ムヘキ保証金其他ノ担保ニ充当セラルヘキ国債証券ニ代用スルコトヲ得ル旨ヲ規定セラレタリ
尋テ明治四十一年六月四日大蔵省令第三十号ノ発布アリ、鉄道国有法及京釜鉄道買収法ニ依リ発行スル鉄道買収公債ノ登録ニ関スル請求ニシテ、左ニ掲クルモノハ手数料ヲ納ムルコトヲ要セサル旨ヲ規定セラレタリ
 一 公債交付期日又は其ノ前ニ於テ当該会社ヨリ請求スル甲種国債登録簿ノ新規登録
 二 当該会社ニ於テ前項登録ノ公債ヲ株主ニ分配スル為株主名義ニ変更ヲ請求スル甲種国債登録簿ノ登録変更、但シ請求者ハ国債事務取扱店ニ対シ新記名者カ現ニ当該会社ノ株主タルコトヲ証明スヘシ
 三 分配ヲ受ケタル株主ニ於テ前項ノ登録変更後六箇月以内ニ請求スル甲種国債登録簿ノ登録変更及質権設定ノ登録
 四 分配ヲ受ケタル株主ヨリ請求スル甲種国債登録簿ノ登録除却
然ルニ之カ解釈ニ関シ疑義ノ存スルモノアリシニ依リ、明治四十二年一月二十五日ヲ以テ左ノ数項ニ就キ大蔵大臣ニ伺出テタリ
 一 会社ヨリ分配ヲ受ケタル株主カ他ヨリ同種ノ公債ヲ買受ケ、曩キニ分配ヲ受ケタルモノト併セテ登録変更又は質権設定ノ登録ヲ請求スル場合ニハ手数料ヲ徴収スヘキヤ否ヤ
 二 会社ヨリ分配ヲ受ケタル株主カ質権設定ノ登録ヲ請求スルトキハ、仮令他人ノ債務ヲ担保スル為メニ質権ヲ設定シタル場合ト雖モ手数料ヲ免除スヘキヤ否
 三 会社ヨリ分配ヲ受ケタル株主カ他ヨリ同種ノ公債ヲ買受ケ、曩ニ分配ヲ受ケタルモノト併セテ登録除却ノ請求ヲ為ストキ、除却ニ因リ交付ヲ受ク可キ証券一枚中ニ分配ヲ受ケタル公債ト買受ケニ係ル公債トヲ含ム場合(例之ハ分配ヲ受ケタル公債六百円ノ上ニ買受ニ係ル公債四百円ヲ加ヘ千円券一枚若クハ五百円券二枚ヲ請求スルカ如シ)ニハ其一枚ノ証券ニ対シテ手数料ヲ徴収ス可キヤ否
右ニ対シ二月五日ヲ以テ前記各項ノ中第一項第三項ハ共ニ手数料ヲ徴収シ、第二項ハ手数料ヲ免除スヘキ旨指命セラレタリ
従来甲種国債登録簿ニ登録シタル国債ノ登録変更ハ仮令一口座ニ登録シアルモノニシテ、譲受人同一ノ場合ト雖一件毎ニ削除並ニ登録ヲ為スノ例ナリシガ、政府カ鉄道国有法ニ依リ買収鉄道会社ニ交付シタル代償公債ヲ甲種国債登録簿ニ登録シタルモノニ対シ、会社カ残余財産分配ノ為メニスル登録変更請求書ハ非常ノ多数ニシテ一件毎ニ会社ノ口座ニ於ケル現在金額ヨリ請求金額ヲ削除スルトキハ到底短時日ノ間ニ登録変更ヲ完了シ難ク、之カ為メ譲受人タル株主其他ノ利害関係人ニ迷惑ヲ及ボスコト尠カラサルヘキコトヲ以テ右ノ分ニ限リ、特ニ日日ノ集計金額ヲ以テ会社ノ口座ヨリ削除スルコトヽシタキ旨明治四十
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一年八月二十五日大蔵大臣ニ稟請セシニ同月二十六日認可セラレタリ又本公債ハ大日本帝国政府五分利公債証書ヲ以テ交付シテ之ヲ他ノ五分利公債ト区別スル為メ記号ニ「甲」ノ字ヲ冠スルコトヽセラレタリ又鉄道買収公債ノ元利金仕払ハ鉄道国有法第十六条及京釜鉄道買収法第十四条ニ依リ整理公債条例ニ準拠スルコトヽナリタレハ、利子ハ毎年六月及十二月ノ両度ニ於テ之ヲ仕払ヒ、其元金ハ発行ノ年ヨリ五箇年間据置其翌年ヨリ向五十箇年間ニ抽籤法ヲ以テ償還スルモノトセルモ、明治四十二年末迄ニハ未タ一回ノ償還タモナカリキ


日本銀行沿革史 第九巻・第一一九一―一一九二頁(DK090062k-0012)
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日本銀行沿革史 第九巻・第一一九一―一一九二頁
    第二十八章 旧鉄道会社債務整理公債
明治三十九年三月法律第十七号鉄道国有法第四条ニ依リ政府ハ私立鉄道買収ノ日ニ於テ会社ノ現ニ有スル権利義務ヲ承継スルコトヽナリ、而シテ其第十五条ニ依リ右承継シタル債券《(務)》ノ整理ニ必要ナル額ヲ限度トシ公債ヲ発行スルヲ得ルコトヽナリタルニ依リ、之ニ基キ同年十二月十日大蔵省令第四十九号ヲ以テ旧鉄道会社債務整理公債発行規定ヲ発布セラレタリ、其全文左ノ如シ
    旧鉄道会社債務整理公債発行規程
 第一条 政府ハ私設鉄道株式会社ヨリ承継シタル債務ヲ整理償還スル為鉄道国有法第十五条ニ依リ公債ヲ発行ス
 第二条 本公債ノ利率ハ一箇年百分ノ五トス
 第三条 本公債ノ証券ハ大日本帝国政府五分利公債証書トシ随時之ヲ発行シテ日本銀行ニ交付ス
 第四条 本公債ノ元金ハ発行ノ年ヨリ五箇年据置キ其翌年ヨリ向五十箇年以内ニ償還ス
 第五条 本公債ノ利子ハ毎年三月及九月ニ於テ其月以前六箇月間ニ属スルモノヲ仕払フ
 第六条 本公債ノ利子ハ其発行カ月ノ十五日以前ニ在ルモノハ下半月分ヨリ月ノ十六日以後ニ在ルモノハ翌月分ヨリ之ヲ附シ、元金償還ノトキハ其ノ償還ノ月マテ之ヲ附ス
又同月三日大蔵大臣ヨリ、鉄道国有法第四条ニ依リ政府ノ承継シタル旧鉄道会社手形債務ノ仕払上必要アルトキハ、会計法第十五条第二項ニ依リ本行ニ現金ヲ前渡シ之カ仕払ヲ為サシメ、而シテ此場合ニ於テハ国債事務命任書ノ規定本編、一般、命任書ノ部参照ニ準拠シ之ヲ取扱フヘキ旨達セラレ、尋テ翌四十年七月二十七日同大臣ヨリ、旧鉄道会社ノ借入金元利ノ仕払上必要アルトキモ前記手形債務ノ仕払同様取扱ヲナスヘキ旨ヲ達セラレタリ
既記旧鉄道会社債務整理公債発行規程ニ依リ発行ニ係ル同公債ハ、明治三十九年十二月ヨリ明治四十二年十二月マテ前後十回ニ亘リ総計二千七百六十八万三千八百五十円ニ達シタリ、而シテ其発行価格ハ初メノ六回ハ九十五円、次ノ三回ハ九十円、後ノ一回ハ九十六円ナリキ
又本公債ノ利子ハ毎年三月及九月ニ於テ仕払ヒ、其元金ハ発行ノ年ヨリ五箇年間据置キ、其翌年ヨリ向五十箇年以内ニ償還スヘキモノナルニ依リ、明治四十二年末マテハ全部未償還ニ属セリ
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竜門雑誌 第二四七号・第五―六頁〔明治四一年一二月二五日〕 ○鉄道院及清国凶変に就て(青淵先生)(DK090062k-0013)
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竜門雑誌 第二四七号・第五―六頁〔明治四一年一二月二五日〕
    ○鉄道院及清国凶変に就て(青淵先生)
  左の一篇は鉄道院設置及去月中旬の清国凶変に就き青淵先生の談話せられし所にして去月廿七日の東京日々新聞に掲載せられたるものなり
問 政府は今回鉄道院なるものを新設する趣きなるが、斯の如くにして政府は果して能く鉄道経営の実蹟を挙げ得べきや
答 私は鉄道院の設置に就き未だ内容の如何なるものかを聞かないが鉄道院でも省でも宜しい、只実際の経営を良くして呉れゝば結構だ、名称は敢て問ふ所でない、権兵衛と云ふ名前には現在御存知の様なえらい人もあれば、種を蒔て烏にほじくられる権兵衛もあるではないか、併し政府が鉄道を経営すると云たとて旨く出来るかどうかは疑問であらう、御役人が万事を規則的にやる事は民間で会社の仕事をするよりは余程呑気であるから、十分に遣り切れるか如何であらう、全体鉄道を国有にしたのが第一間違つた政策である、昨春此問題の起つた時も私は大々的の反対で阪谷にも種々に忠言を試みたが、阪谷の云ふには此問題は既に廟議で決定して居て私の力では如何することも出来ぬと云ふ話であつたから井上侯に逢つて此事を尋ねて見ると、侯は大体は自分も承知して居るがアア云ふ訳ではなかつたと云はれた、兎に角私は元来国有には反対であつた、政府が若し国有にするとしても収支の償はぬ小会社などを買収することは宜しいが、既に立派に営業して居る大会社迄も国有にされたのは実に感心しない所である、そして既に国有にしてからが公債の発行も出来ず、今更再び民業に移すことも出来ず、遂に院とか省とか特別の組織に改めなければならぬやうなことになつたのは当然の事である、従来の鉄道庁の遣方は例へば今日切符の売上百円ありとすれば直様日本銀行に供託する、之では一向埒があかず、民業なれば其金で直ぐ日々の仕事の方に向けるから大に金の融通もつくが、政府ではコンナ遣方は出来ぬ、其れから車輛の改良にしても旧山陽鉄道時代には随分改良に苦心したものであるが、官業になつてからは此等の事も殆んど思はしくない、其他多くの点に於て官業は民業より良成績を挙げて居らぬ、詰まり経済が財政を紊す事は無いが、財政が経済を紊す事の往々ある事実を証明して居る


竜門雑誌 第四六〇号・第九九頁〔昭和二年一月二五日〕 米寿を迎へた私の思ひ出(DK090062k-0014)
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竜門雑誌 第四六〇号・第九九頁〔昭和二年一月二五日〕
  米寿を迎へた私の思ひ出
    一番残念に思つたこと
 残念に思つたことは私は日本に鉄道を多く敷設しようとして民設鉄道法なるものを制定して法律にした。所が、之れと反対に国有となつて、その法律を実施することが出来ないのは、今以て残念に思つて居る。若しさうでなかつたら日本の鉄道は、今よりも一層多く布設されて如何に国民の利便を図つて居つたか知れない。と思ふと今以てその感が深い。(実業の世界一月号所載)

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竜門雑誌 第四六四号・第九―一〇頁〔昭和二年五月二五日〕 諸々の回顧(五) 私の関係した鉄道に付て(青淵先生)(DK090062k-0015)
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竜門雑誌 第四六四号・第九―一〇頁〔昭和二年五月二五日〕
  諸々の回顧(五)
    私の関係した鉄道に付て(青淵先生)
○上略元来鉄道の普及は地方産業の開発上最も必要なものであるから、一層進めたいと考へ、それには資金が充分でないから外国から借入れるようにしたい。就ては私設鉄道の公債募集が出来るやうにせねばならぬと考へた。恰度明治三十五年欧米へ旅行することになり、一緒に行つた市原盛宏君と、又倫敦で懇意になつた植村俊平君と共に、ペヤリング《(ベヤリング・ブラザアス)》・ブラザアスと云ふ金融会社を訪問した、会社の主脳であるペヤリングは英蘭銀行重役の一人でもあり、相当有力者であるらしかつたから、鉄道担保公債の話をすると大に賛成したので、鉄道担保公債に関する覚書まで取つて帰国しました。此鉄道公債に対し岩崎弥之助氏、松方正義氏などが非常に反対したが、私は是非実現したいと思ひ井上さんに相談し、結局其法案が議会を通過しました。それは三十七年のことであります。然るに翌々三十九年に至つて鉄道国有法が発布せられたから、民間に於ける鉄道公債のことは自然消滅になりました。然し私は今でも鉄道は私設会社で経営すべきである、此の制度の下に進んだ方が、国有よりも発達するだらうと考へて居ります。此点では阪谷と意見が反対で、鉄道国有に対しては幾多の疑問を有して居り、調査考究の要があるとして居るのであります。○下略
○左ニ参考資料トシテ鉄道国有問題ヲ繞ル諸家ノ言説及ビ関係記事ヲ掲グ。



〔参考〕世外井上公伝 第五巻・第一五六―一六七頁 〔昭和九年九月〕(DK090062k-0016)
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世外井上公伝 第五巻・第一五六―一六七頁〔昭和九年九月〕
 ○第十一編第三章第一節
    二 鉄道国有問題
 西園寺内閣成立当初の第二十二議会に於て協賛を得た諸法案の中、最も重要なものは鉄道国有法案である。抑々我が国の鉄道は創立の当初から総べて之を国有とする方針であつたが、国家の財政が之を許さなかつたので、政府は将来之を買収することを得るといふ条件を定めて私設鉄道を認可し、交通産業の発達の為に、両者並び進んで行く方針を執つた。然るに二十四年の頃になつて鉄道国有論が起り、鉄道経営を国家に統一することなく、私設の儘に放置して置けば、勢ひ利益のある地方のみ敷設が盛になり、利益僅少の地方は全く敷設の利便を見ぬこととなつて、延いては軍略上にも経済発展の上にも妨碍となる虞があるといふ観察から、鉄道を国有とすべしとの声が漸く盛んとなつて来た。特に軍部には頗る強硬な主張を為すものが多かつた。かくて逓信省に於て私設鉄道買収の為の実地調査を行つた結果、政府は私設鉄道買収法案を第三議会に提出して協賛を求めたが、その買収に巨額の出費を要する為、否決の運命に遭遇し、僅かに同時に提出した鉄道敷設法案のみが通過した。併し乍らこの敷設法は鉄道官設の方針を定めるのを目的とし、既成私設鉄道は、予定線敷設の為必要なものに限り、之を買収することを得るといふに過ぎなかつた。従つて該法の
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制定以来と雖も、官私並び進んで鉄道の普及を図るといふ従来の政策以上には出ることが出来なかつた。かくて官私両線が共に普及して行くにつれ、両者連絡の不便が益々痛感せられるに至り、鉄道国有の議論は亦漸次朝野に盛んとなつた。
 東京商業会議所・京都商業会議所が三十一年五月に相次いで鉄道国有を当局に建議し、一方私鉄側に於ても北海道炭砿鉄道会社の如き貴族院に請願して国有たるを望むものもあつた。かくて三十二年二月に第十三議会に於て鉄道国有に関する建議案は衆議院議員星亨外三名に依つて提出せられ、幸ひに可決せられた。政府もその建議の趣旨に同意し、同月二十三日に勅令を以て鉄道国有調査会規則を公布し、続いて調査会を設けて調査を開始した。その結果鉄道国有法・私設鉄道買収法の二案が決定せられ、三十三年二月を以て第十四議会に提出し、委員附託となつたが、不幸にして事成らうとして握潰しの運命に遭ふに至つた。次いで三十四年十二月十五日に再び同法案は国有同志会代議士によつて第十六議会に提出せられたが、これ亦不成功に終つた。このやうに鉄道国有問題は次第に盛んとなつて来たが、公は該問題については未だ機熟せずとして全く傍観の態であつた。
かくして三十四年六月桂内閣が成立して、芳川顕正が逓相となり、田健治郎が同次官に就任するに及んで、該問題は益々痛切に叫ばれるに至つた。芳川も田次官も共に従前からの鉄道国有の急先鋒であつた。田次官は、このやうな経済上の重大問題はどうしても公の援助を求める必要あることを痛感し、三十六年十二月に公を内田山邸に訪ね、当時の問題であつた京釜鉄道速成問題と併せて、将来鉄道を国有とする為に、先づ鉄道会計を一般会計から分離し、鉄道特別会計法を制定しようとしてこの理由を公に説明に及んだ。時機尚早として傍観的態度にあつた公は、日露風雲急を告げ来れるこの頃から次第に国有問題に関心を持つに至つた。公は田次官の提案に直ちに賛成の意を表した。公は鉄道国有に至る準備として、鉄道特別会計法を認めたが、今一つの準備行動として鉄道抵当法の制定を望んでゐた。従来我が国に於いては、私設鉄道の物件は箇々別々には抵当権の目的物と為し得たが、之を一括して抵当となすことが出来ない為、当事者は頗る不便と不利益とを蒙つてゐた。元来鉄道は土地・線路・車輛その他附属物件を綜合して始めて鉄道の価値を定め効力を生ずるものであるから、当時の如き箇々の物件では、鉄道としての実価を定め難い。公はこの不便を除き、一つは外資輸入に抵当たらしめる便利を得るために該法の制定を望んだのである。そこで三十七年八月二十日に桂首相官邸に於て公を始め桂首相・曾禰蔵相・大浦逓相・波多野法相・阪谷大蔵次官・田次官その他数名会合し、公のこの趣旨に基づいて鉄道抵当法律案の研究協議が行はれた。而して鉄道抵当法案は、三十八年一月に第二十一議会に提出せられ、無事両院の協賛を得て、同年三月十三日に公布せられるに至つた。
 公の鉄道国有に至る準備事項中には、以上の外なほ鉄道工場の統一に関する件がある。当時我が国の鉄道に於ては各独立した工場が頗る多く、その間に少しの連絡も無い有様であつて、我が国全交通の上か
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ら見てその不便と不利とは頗る大なるものがあつた。公はこの点に大改革の必要を認め、鉄道工場の統一を主張しこの調査を田次官に依頼した。そこで三十七年十一月に田次官は鉄道工場統一に関する調査を終り、公を内田山邸に訪ねてその結果を報告に及んだ。
 かくの如く鉄道の改革が次第に実現せられて、漸次国有への道を歩みつつあつた。而も日露戦争は我が軍の連戦連勝を以て愈々終局に近づき、戦捷による我が国民の士気は頗る勃興して来た。公も戦後経営の為には産業の振興・国民経済の発展を必要とすることを極力主張し従つてこれと重要な関係にある鉄道は、速かに国有として統一すべきことを決心した。そして三十八年八月に大浦逓相は田次官・山之内鉄道局長を伴ひ、公を内田山邸に訪ねて国有の方策を謀つたところ、公は「実はこれまで鉄道国有といふことには余り賛成ではなかつたが、既に時機が熟したと考へる。自分も賛成するから大いに努力するやうに。」と述べて種々激励するところがあつた。かくて公の了解と賛成を得た後は、国有問題は順調に解決への歩を進め、同年十一月三十日に大浦は桂・曾禰・児玉と協議して鉄道国有の大体を決し、十二月五日に覚書を以て閣議の内定を見た。桂が内閣を辞して三十九年に西園寺内閣が成立し、その政策はそのまゝ踏襲せられ、鉄道国有問題も前内閣の立案に基づき第二十二議会に提出の運びとなつたのである。
 国有鉄道問題が既に成就しようとした際、こゝに有力な一つの反対論が現れた。それは戦時公債募集の為、海外に在つた高橋が帰朝し、該問題に就いて反対を唱へたことである。高橋の反対説は、「戦後経営の立場から、戦時中莫大な外債を起した結果、この元利償還といふことも仲々容易ならぬ現今の状態に在る。この際国民は挙げて勤倹を旨として行かねばならぬと同時に、産業の発展は十分に之を行はねばならぬ。故に極端に不生産的の政費は之を節約して民間の富力を養はねばならない。然るに今鉄道を国有とする事は、新たにそれだけの政費を増すことになる。鉄道は不生産的なものでないことはいふ迄もないが、理論はともかくも、之を実行するには余程時機を考へる必要がある。鉄道国有を実行するに就いては、公債を国内或は国外に発行することとなるが、この上政府の公債を増加するといふことは、戦時中の発行外債が下落する恐があり、為に我が国の信用も失はれる事ともなるであらう。」といふのであつた。高橋は戦後国民の信頼を得てゐたこととて、右の反対論は痛く世を刺戟したことはいふ迄もない。殊に従来鉄道国有に難色があつた貴族院は更に硬化するに至つた。併し乍ら西園寺内閣はその瓦解を賭してもこれが実現を期してゐたのである。而して内閣の瓦解は、後継難に落ち、戦後の重大時局に政界を暗澹たらしめるものがあり、且つ海外の不信用を招来すべきは、火を睹るより明かな所であつた。公としては戦時中外債募集につき辛酸を共にし来つた高橋の説には真に傾聴すべきものがあると考へたけれども、またこの内閣瓦解を顧みぬ訳にもゆかなかつた。この重大難局に際して財界の統率者たる公の態度こそ、実に鉄道国有問題の成敗、延いては内閣の運命を決する鍵となるので、公の苦衷は想像の外であつた。而して公は突如として政府に対し高橋の説を以て妥当とする旨を
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通告に及んだ、政府の狼狽はその極に達した。蓋し公のこの豹変は深く心に策する所があつた結果に基づくものであつたやうに思はれる。阪谷蔵相の後日談に、「井上老侯が之を纏めるには、――此事局を収拾するには、己が一つ反対するより外、仕方がない。西園寺が思ひ切る○内閣をかも知れない。思ひ切らない中に、人には己が反対して居ると言つて居るから、皆が己を中心としてずつと集つて来る。其時、どうも仕方がないと己が引つくり返へれば、皆一緒に引くり返へると云ふので……。さう云ふ所は親切なものです。それを一枚看板に固執はしないのです。全局をどうするかと云ふことが目に見えるのです。」とあるによつて公の苦心とこの間の事情とが略々想像せられよう。
 一たび公が反対を叫ぶと、予期の如く各方面から反対の烽火が挙げられた。政府に於ては当路者の阪谷蔵相が西園寺首相と種々対策を講じたが、閣員中でも加藤外相の如きは強硬に反対するに至つた。かくて鉄道国有問題に由つて内閣は危機に直面するに至つたのである。ここに於て公並びに高橋、及び西園寺・寺内・阪谷・山県等の各関係大臣が集つて協議会を開くこととなつた。その時逓信次官仲小路が陪席してゐたが、私鉄買収費として発行する「鉄道公債ハ他ノ公債ト異リ従来経済市場ニ流通セル有価証券即チ株式及社債券約二億二千五百万円ニ代リ市場ニ出現スルモノナレバ我経済市場ノ証券吸収力ニ対スル影響ハ深ク顧慮スルニタラズ。アルトスルモ些々タルモノデ不生産的事業ノ為新ニ公債ヲ発行スルガ如キ場合ト同日ノ論ニ非ズ。」鉄道国有始末一斑と高橋に弁じてその了解を求めた。高橋もその意を了とし、公も内閣の苦境にあるのを見て直ちに賛成の意を表した。公・高橋が鉄道国有に賛成するや否や、他の反対論者も之に応じたことはいふ迄もない。そして政府は鉄道国有案を提げて第二十二議会に臨んで、阪谷が該案の説明に当り、遂に両院は之に協賛を与へ、三月二十一日《(三十)》に鉄道国有に関する法律が公布せられた。而して政府は同年及び翌四十年を以て私設鉄道を買収し、四十二年を以て買収事務を完結した。被買収鉄道会社は京釜鉄道を合せて十八に達し、その買収価格は実に四億五千六百二十余万円に及んだ。
 一方公の賛成を得た鉄道特別会計法案も亦第二十三議会に提出議決せられ、亦鉄道国有実施と同時に、地方分立の鉄道工場も統一せられることになり、全国の交通はこゝに於てその連絡を全うし、軍事上産業上経済発展上頗る利便を得るに至つた。
 鉄道国有の問題と関聯して、こゝに鉄道軌制問題に就いて一言を要する。抑々軌制問題は国有問題と平行して論ぜられたもので、鉄道創業時代に於て参謀本部の立論にその端緒が開かれ、二十五年に鉄道会議の議題となり、二十九年には衆議院に於ける建議となり、同年逓信省に於て軌制取調委員が置かれ、調査は三十一年まで継続せられた。併しこの頃軍部では以前と論旨が一転して、軍略上の第一義は軌制問題よりも国有問題にあることを主張し、軌制問題は第二次的のものとするに至り、一時該問題は下火となつたが、三十八年、ハリマンが来朝後再びこの問題が盛んに論ぜられるに至つた。ハリマンが我が国の鉄道の規模が狭小であるのを視て、公並びに政府当局者に広軌改築の
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ことを勧告し、資金融通の意のあることをも漏したので、公も政府当局も之に賛成したことは前述の如くである。されどハリマンの勧告を俟つ迄もなく、公は戦後経営の方策上、広軌改築を当局に慫慂したのであつて、その後当局側に於て広狭両軌の得失調査が行はれ、第二次桂内閣の時、四十四年一月に桂は西園寺政友会総裁と広軌鉄道改築問題を議し、該問題に就き政友会は之に反対することなく、政府と協議し、一箇年間調査を為すことに妥協し、広軌鉄道臨時調査委員を設けることになつた。而してこの旨を公にも報告に及んだ。その結果同年四月に勅令を以て広軌鉄道改築準備委員会官制が公布せられるに至り広軌改築問題も次第に具体化したが、遂にその実現を見るに至らずして今日に及んでゐる。


〔参考〕大浦兼武伝(大浦氏記念事業会編) 第八五―八六頁〔大正一〇年一〇月〕(DK090062k-0017)
第9巻 p.666 ページ画像

著作権保護期間中、著者没年不詳、および著作権調査中の著作物は、ウェブでの全文公開対象としておりません。
冊子版の『渋沢栄一伝記資料』をご参照ください。

〔参考〕田健治郎伝(田健治郎伝記編纂会編)第二〇一―二〇二頁〔昭和七年六月〕(DK090062k-0018)
第9巻 p.666-667 ページ画像

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冊子版の『渋沢栄一伝記資料』をご参照ください。

〔参考〕東京経済雑誌 第五三巻第一三四〇号・第九七一―九七四頁〔明治三九年六月九日〕 鉄道国有法実施に関する調査(一)(東京銀行集会所調査)(DK090062k-0019)
第9巻 p.667-670 ページ画像

東京経済雑誌 第五三巻第一三四〇号・第九七一―九七四頁〔明治三九年六月九日〕
  鉄道国有法実施に関する調査(一)(東京銀行集会所調査)
    第一章 緒言
鉄道国有法に規定せる私設鉄道買収価額は、明治三十五年後半期乃至明治三十八年前半期の六営業年度間に於ける、建設費に対する益金の平均割合を買収の日に於ける建設費に乗じたる額を二十倍したる金額及貯蔵物品の実費にして、建設費及貯蔵物品実費中、借入金を以てせるものは之を控除し、而して其控除すべき建設費及貯蔵物品に使用したる借入金は、時価に依り公債券面金額に換算するものにして、其公債時価は買収期日前六箇月間に於ける帝国五分利公債の平均相場に依る(鉄道国有法第五条、第六条第一項及第十七条第一項)ものなるが、其買収価額は実に七種の数字を基礎として計算するものにして、其方法極めて明瞭なるに拘らず、其計算の基礎たる可き数字の多くは、買収期日の到来するまでは常に変動すべきものなるを以て、孰れの鉄道が幾何の価額にて買収せらる可きかは、買収期日の到来するに非ざるよりは之を確定すること能はざるなり、而して所謂七種の数字とは即ち左の如し
 一、明治三十五年後半期乃至明治三十八年前半期の六営業年度間に於ける益金平均割合(鉄道国有法第五条第一項第一号)
 二、買収の日に於ける建設費(同上)
 三、借入金にて購入したるものに非ざる貯蔵物品の実費(鉄道国有
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法第五条第一項第二号)
 四、建設費に使用したる借入金(鉄道国有法第六条第一項)
 五、鉄道及附属物件の補修又は鉄道建設規程に依る期限内の改築若くは改造を為さゞりし場合の補修、改築又は改造の費用(鉄道国有法第六条第二項)
 六、買収期日前六箇月間に於ける帝国五分利公債の平均相場(鉄道国有法第十七条)
 七、第五条第一項第一号の金額が建設費に達せざる場合に於て会社との協定金額(鉄道国有法第八条)
以上七項の内第一の益金平均割合を除くの外、他の六項は買収期日の到来するまで常に変動するものなりと雖、此六項の内、買収価格に直接の大関係を有するものは第二項の建設費なるが、其金額は両三年の前後に由りて重大の変更を生ずるものにあらず、又他の五項に至りては其影響一層小にして、殊に第五項の如きは正当なる経営を為す会社に於ては全く之を見ること無かる可し、之を要するに現在の数字に拠りて計算するも大体上、敢て甚しき相違を生ずることなかるべき歟、依て姑く最近の材料を基とし以下試に之を計算せんとす
    第二章 鉄道買収後の株主収得
鉄道局の調査は甲、乙、丙の三種より成り甲は益金平均割合と建設費との相乗二十倍の金額を買収価額として計算し乙、丙は買収価額が建設費に達せざる場合に於ける会社との協定価額を、前者は益金二十倍と建設費との平均額とし、後者は建設費を買収価額として協定成立せる場合を仮定したるものにして、運輸開始後六営業年度を経過せざるもの(北海道鉄道)に限り、益金二十倍に代ふるに建設費を以てせることは三者皆同じ。
今玆に掲ぐるは右丙号調査書を基礎とし多少の加除、修正を行ひたるものなり、即ち鉄道局の買収株主収得調は、買収価額を先づ九十円の公債相場にて換算し、之より社債其他負債額を実額にて控除し、而して株主の得べき一株当公債実価を算出し、更に一株当の公債額面を算出せりと雖も、斯くては鉄道国有法の規定と相応ぜざるを以て、玆には之を修正して先づ建設費に対する益金割合相乗二十倍の金額を掲げ其内より九十円の公債相場にて換算せる社債、其他負債額を控除して買収公債額面を定め、而して株主の得べき一株当公債額面及九十円相場にて計算せる其価格を算出せり
右の表○六六九頁に拠りて之を見れば建設費に使用したる借入金を額面百円に付き九十円の相場を以て、公債券面金額に換算して買収価額より控除するときは、株主の受取る可き公債の一株当額面は日本鉄道株に於ては五十円払込済の旧株に対し百二十九円四十四銭、二十円払込の新株に対し五十一円七十七銭となり、山陽鉄道株に於ては五十円払込済旧株に対し百十二円十五銭、二十五円払込の第一新株に対し五十六円七銭、十七円五十銭払込の第二新株に対し三十九円二十五銭となる、今九十円の相場を以て之を換算すれば日本鉄道旧株百十六円四十九銭、山陽鉄道旧株百円九十四銭なり、以下皆之に準ず
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図表を画像で表示第一号表 鉄道買収価額及買収後株主収得調

          第一号表 鉄道買収価額及買収後株主収得調 会社        株数       一株の払込額  払込総額        建設費         益金割合と建設費との相乗額の二十倍    買収価額       借入金社債其他負債   借入金を九十円の公債相場にて換算せる額   差引買収公債額面     積立金及繰越金額             一株に対し株主の得べき金額                                                                                                                                              一株当公債額面   九十円相場ニテ計算セル同上公債価格   一株当積立金及繰越金額   合計                 個    円              円           円            円                  円          円          円                        円          円       円         円                 円                円           八〇〇、〇〇〇  五〇・〇〇                                                                                                                      旧一二九・四四〇  旧一一六・四九六            旧四・三六八      旧一二〇・八六四 日本        五二〇、〇〇〇  二〇・〇〇   五〇、四〇〇、〇〇〇  五四、四七九、三五九  一三〇、五三二、五四〇        一三〇、五三二、五四〇     五一、八〇〇     五七、五五六              一三〇、四七四、九八四  四、四〇二、六三四         一、三二〇、〇〇〇      ―                                                                                                                      新五一・七七六    新四六・五九八            新一・七四七      新四八・三四五           五一二、〇〇〇  五〇・〇〇                                                                                                                      旧一一二・一五四  旧一〇〇・九三九            旧三・一五〇      旧一〇四・〇八九 山陽        二〇九、九六〇  二五・〇〇   三〇、八四九、七〇〇  三六、七二七、六六四   七四、〇四二、九八〇         七四、〇四二、九八〇  四、三六〇、〇〇〇  四、八四四、四四四               六九、一九八、五三六  一、九四三、五四一   第一新五六・〇七八 第一新五〇・四七〇           第一新一・五七五    第一新五二・〇四五                四〇  一七・五〇                                                                                                                      第二新三九・二五四 第二新三五・三二九           第二新一・一〇三    第二新三六・四三二           七二二、〇〇〇      ―            二七、〇〇〇  四五・〇〇                                                                                                                      旧一三七・五九六    一二三・八三六            二・九〇六       一二六・七四二 甲武         三三、〇〇〇  二五・〇〇    二、六六五、〇〇〇   三、三一八、二一九    九、七二九、〇二〇          九、七二九、〇二〇  一、四二〇、〇〇〇   一、五七七、七七八               八、一五一、二四二    一七二、一二五   第一新七六・四四二    六八・七九八            一・六一五       七〇・四一三            五〇、〇〇〇  一二・五〇                                                                                                                      第二新四八・二二一    三四・三九九            ・八〇七   三五・二〇六           一一〇、〇〇〇      ―                                     関西        四八三、六三六  五〇・〇〇   二四、一八一、八〇〇  二七、四六三、二〇二   三一、三〇八、〇六〇         三一、三〇八、〇六〇  一、八一〇、〇〇〇  二、〇一一、一一一               二九、二九六、九四九    五一七、九〇三    六〇・五七七      五四・五一九           一・〇七一        五五・五九〇 京都         九〇、〇〇〇  三八・〇〇    三、四二〇、〇〇〇   三、四七一、七〇〇    二、〇五五、二四〇          三、四七一、七〇〇          ―          ―                三、四七一、七〇〇     七七、六二八    三八・五七四      三四・七一七            ・八六三        三五・五八〇 阪鶴         八〇、〇〇〇  五〇・〇〇    四、〇〇〇、〇〇〇   六、四二九、〇七四    六、二七四、七八〇          六、四二九、〇七四  二、五八五、〇〇〇  二、八七二、二二二                三、五五六、八五二     三二、一二六    四四・四六一      四〇・〇一五            ・四〇二        四〇・四一七 北越         七四、〇〇〇  五〇・〇〇    三、七〇〇、〇〇〇   七、二〇六、〇二一    七、〇六一、九〇〇          七、二〇六、〇二一  三、二八二、〇〇〇  三、六四六、六六七                三、五五九、三五四     三四、〇四〇    四八・〇九九      四三・二八九            ・四六〇        四三・七四九 西成         三三、〇〇〇  五〇・〇〇    一、六五〇、〇〇〇   一、九五六、五〇五      五六三、四八〇          一、九五六、五〇五    三五〇、〇〇〇    三八八、八八九                一、五六七、六一六          ―    四七・五〇三      四二・七五三               ―        四二・七五三 七尾         二二、〇〇〇  五〇・〇〇    一、一〇〇、〇〇〇   一、五一五、二三一    一、三四五、五二〇          一、五一五、二三一    四〇八、〇〇〇    四五三、三三三                一、〇六一、八九八      五、六六二    四八・二六八      四三・四四一            ・二五七        四三・六九八 岩越        一二〇、〇〇〇  二二・〇〇    二、六四〇、〇〇〇   二、五八四、五九六    一、三一二、九八〇          二、五八四、五九六     一九、八八九     二二、〇九九                二、五六二、四九七     二六、一九九    二一・三五四      一九・二一九            ・二一八        一九・四三七           七七二、〇〇〇  五〇・〇〇                                                                                                                      旧九八・四七〇      八八・六二三           二・六九七        九一・三二〇 九州        二〇八、〇〇〇  四二・五〇   四八、七四〇、〇〇〇  五一、三九七、一五三   九七、六五四、六〇〇         九七、六五四、六〇〇  一、五〇〇、〇〇〇  一、六六六、六六七               九五、九八七、九三三  二、六二八、九二三   第一新八三・六九九    七五・三二九           二・二九二        七七・六二一           二六〇、〇〇〇   五・〇〇                                                                                                                      第二新九・八四七      八・八六二            ・二七〇         九・一三二         一、二四〇、〇〇〇      ―           一六〇、〇〇〇  五〇・〇〇 北海道炭砿鉄道部   九〇、〇〇〇  三五・〇〇   一一、一五〇、〇〇〇  一一、七〇四、七二六   二九、一六八、一八〇         二九、一六八、一八〇  一、七八六、八〇〇  一、九八五、三三三               二七、一八二、八四七    四五五、七三三   旧一二一・八九七     一〇九・七〇七          二・〇四四        一一・七五一           二五〇、〇〇〇      ―                                                                                                                      新八五・三二八       七六・七九五          一・三八一        七八・一七六 北海道       一二六、八〇〇  五〇・〇〇    六、三四〇、〇〇〇  一〇、九二四、七八八   一〇、九二四、七八八         一〇、九二四、七八八  四、一五〇、〇〇〇  四、六一一、一一一                六、三一三、六七七     七四、七五三    四九・七九二       四四・八一三           ・五九〇        四五・四〇三            三三、〇〇〇  五〇・〇〇                                                                                                                      旧一〇一・九九六      九一・七九六          二・七二七        九四・五二三  以下p.670 ページ画像  参宮          五、〇〇〇  四〇・〇〇    一、八五〇、〇〇〇   一、八九四、四九三    三、七七三、八四〇          三、七七三、八四〇          ―          ―                三、七七三、八四〇    一〇〇、八八七   新八一・五九七       七三・四三七          二・一八一        七五・六一八            三八、〇〇〇      ―            七二、〇〇〇  五〇・〇〇 総武         四八、〇〇〇  一二・五〇    四、二〇〇、〇〇〇   五、一九四、四〇五   一〇、三二六、四八〇         一〇、三二六、四八〇    七六〇、〇〇〇    八四四、四四四                九、四八二、〇三六    二五六、六二七   旧一一二・八八一     一〇一・五九三          三・〇五五       一〇四・六四八           一二〇、〇〇〇      ―                                                                                                                      新二八・二二〇       二五・三九八           ・七六四        二六・一六二 房総         二六、〇〇〇  四〇・〇〇    一、〇四〇、〇〇〇   二、〇七〇、六〇一    一、七七二、四四〇          二、〇七〇、六〇一  一、〇一八、〇〇〇  一、一三一、一一一                  九三九、四九〇     二三、一六九    三六・一三四       三二・五二一           ・八九一        三三・四一二            一一、〇〇〇  五〇・〇〇                                                                                                                      旧四二・九四二       三八・六四八           ・二一〇        三八・八五八             四、五一五  四〇・〇〇                                                                                                                      第一新三四・三五三     三〇・九一八           ・一六八        三一・〇八六 徳島            三〇五  三五・〇〇      七四六、六七五   一、三〇三、五〇三    一、一六七、九四〇          一、三〇三、五〇三    五九六、〇〇〇    六六二、二二二                  六四一、二八一      三、一三八   第二新三〇・〇六〇     二七・〇五四           ・一四七        二七・二〇一               一八〇  三〇・〇〇                                                                                                                      第三新二五・七六六     二三・一八九           ・一二六        二三・三一五            一六、〇〇〇      ― 合計              ―      ―  一九八、六七三、一七五 二二九、六四一、二四〇  四一九、〇一四、七六八        四二三、九九七、七一九 二四、〇九七、四八九 二六、七七四、九八七              三九七、二二二、七三二 一〇、七五五、〇八八           ―          ―              ―             ― 



   備考
 一、本表は鉄道局の鉄道買収見込価格表(丙号)及買収後株主収得調(丙号)を基礎として調製せるものなり
 二、株数・払込額・借入金・積立金及繰越金は明治三十八年上半期末現在調に拠る
 三、山陽・阪鶴・西成の三鉄道は兼業に係る事業をも買収するものとして計算す、但し北海道炭砿鉄道は鉄道部のみに就て計算す
 四、建設費は明治三十八年上半期末調に拠る
 五、益金二十倍は明治三十五年下半期乃至明治三十八年上半期の六営業年度未建設費合計《(末)》を以て同期間の益金合計を除したるものの二倍を明治三十九年上半期未建設費《(末)》に乗じたる額を二十倍したるものなり(第五条第一項第一号)
 六、買収価額が建設費に達せざる鉄道は建設費を採る(第八条第一項)
 七、公債を時価に換算するには百円に対し九十円の割合に依る
 八、収益勘定以外の諸勘定より生じたる利息は之を算定するの材料なきを以て建設費に対する益金割合は該利息額を営業収入より控除せずして之を算出す、故に買収価格は実価より幾分の増加を示す


〔参考〕東京経済雑誌 第五三巻第一三四一号・第一〇一一―一〇一四頁〔明治三九年六月一六日〕 鉄道国有法実施に関する調査(二)(東京銀行集会所調査)(DK090062k-0020)
第9巻 p.670-674 ページ画像

東京経済雑誌 第五三巻第一三四一号・第一〇一一―一〇一四頁〔明治三九年六月一六日〕
  鉄道国有法実施に関する調査(二)(東京銀行集会所調査)
    第三章 買収価額変動ノ範囲
然れども買収期日前、六箇月間に於ける帝国五分利公債の平均相場が九十円なることは之を必すべからず、試に最近八年間に於ける同公債毎月の相場を調査するに左の如し

図表を画像で表示第二号表 最近八年間帝国五分利公債累月相場表

  以下p.671 ページ画像  第二号表 最近八年間帝国五分利公債累月相場表            一月     二月       三月      四月     五月     六月     七月     八月     九月     十月     十一月    十二月             円       円       円       円      円      円      円      円      円      円      円      円 明治三十二年 最高 九二・五〇   九二・〇〇   九二・五〇   九二・五〇  九三・八〇  九四・〇〇  九四・〇〇  九四・五〇  九五・〇〇  九五・〇〇  九五・〇〇  九三・〇〇        最低 九〇・六〇   九〇・五〇   九〇・八〇   九一・一〇  九二・〇〇  九二・五〇  九三・五〇  九四・〇〇  九三・〇〇  九四・八〇  九三・五〇  九二・五〇 同 三十三年 最高 九二・八〇   九二・八〇   九二・五〇   八九・〇〇  九一・〇〇  九〇・〇〇  八九・〇〇  八八・五〇  九〇・〇〇  九〇・〇〇  九一・〇〇  八七・五〇        最低 九二・〇〇   九二・五〇   九〇・〇〇   八七・〇〇  八七・五〇  九〇・〇〇  八八・五〇  八八・二〇  八七・〇〇  八九・〇〇  九〇・〇〇  八六・五〇 同 三十四年 最高 八八・〇〇   八八・五〇   八五・〇〇   八四・五〇  八五・〇〇  八四・五〇  八五・五〇  八五・〇〇  八四・八〇  八四・〇〇  八四・〇〇  八二・〇〇        最低 八八・〇〇   八八・〇〇   八四・八〇   八四・〇〇  八四・〇〇  八四・〇〇  八五・〇〇  八三・〇〇  八二・五〇  八二・〇〇  八四・八〇  八〇・二五 同 三十五年 最高 八三・六〇   八三・三〇   八八・五〇   八六・八五  八四・四〇  八六・五〇  八六・〇〇  八六・〇〇  八四・二〇  八三・九〇  八八・一〇  八七・七〇        最低 八〇・三〇   八三・三〇   八六・〇〇   八六・〇〇  八四・〇〇  八四・一〇  八六・〇〇  八六・〇〇  八四・二〇  八三・九〇  八七・五〇  八七・〇〇 同 三十六年 最高 八七・三〇   九〇・五〇   九一・七〇   九二・六〇  九〇・八〇  九〇・一〇  八九・五〇  八九・七〇  八八・二〇  八八・五〇  八九・三〇  九〇・七〇        最低 八七・三〇   九〇・五〇   九一・五〇   九一・三〇  八九・七〇  八九・五〇  八八・八〇  八九・二〇  八七・五〇  八八・二五  八八・三〇  九〇・四〇 同 三十七年 最高 八九・七〇   八九・二〇   八五・七〇   八四・四〇  八五・五〇  八八・五〇  八五・一〇  八五・五〇  八三・二〇  八三・一〇  八二・五〇      ―        最低 八九・四〇   八七・七〇   八四・八〇   八四・三〇  八五・一〇  八五・一〇  八五・一〇  八五・五〇  八三・二〇  八三・一〇  八一・七〇      ― 同 三十八年 最高 八一・三〇   八一・五〇   七九・五〇   七八・〇〇  七五・八〇  七五・五〇  七九・〇〇  八一・〇〇  七八・〇〇  八五・五〇  九二・七〇  九二・六〇        最低 八一・三〇   八一・五〇   七九・五〇   七八・〇〇  七五・七〇  七五・五〇  七九・〇〇  八一・〇〇  七八・〇〇  八五・五〇  八九・八〇  八八・四〇 同 三十九年 最高 九四・五〇 大 九七・〇〇 大 九四・五〇 大 九三・一〇                 小 九五・六〇 小     ― 小     ―        最低 九〇・二〇 大 九四・八〇 大 九一・五〇 大 九〇・三〇                 小 九三・〇〇 小     ― 小     ― 



  (備考)三十九年二月以後ノ相場ニ大小ノ印アルハ、千円大券ト千円以下ノ小券トノ相場ナリ
以上八箇年の相場に依りて之を見るに、該公債は今や纔に九十円以上の相場を保てりと雖も、今後鉄道買収終了までの十箇年間には、尚如何なる高低を見るや之を知るべからず、仮令再び七十円と云ふが如き最低相場に下ること無しとするも、亦明治三十四五年の頃の八十円位までは下落することなしと謂ふ可からずして、斯る場合に於ては一般株主の受くる実際買収代価は甚しく減少せざるを得ず、何となれば益金二十倍の買収価額は、券面金額に依り五分利附公債証書を以て交付せらるゝものにして(鉄道国有法第十二条第一項)公債相場の高低に
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依りて増減するものに非ず、而も其内より控除せらるべき建設費に使用したる借入金の公債換算額(鉄道国有法第六条第一項)は、公債の下落するに従ひ其金額を増加するが故に、公債の下落は二重に株主の利益を害するを以てなり、是を以て借入金の多き会社程株主の受取る可き公債は減少して其収得を小ならしむべく、独り借入金の無き会社にありては公債の高低に拘らず、同一の公債額面を受くることを得べきも、其実際買収代価に至りては亦増減あるを免かるべからず、故に鉄道局の計算即ち九十円の相場を以てせる調査は、未だ以て公債変動に準ずる損益の増減を見るに足らざるなり、依て前掲第二号表公債相場の高低に鑑み其下落の限度を八十円と仮定し、株主の収得す可き損益増減の範囲を算出するに左表の如し

図表を画像で表示第三号表 鉄道買収価額変動範囲調

     第三号表 鉄道買収価額変動範囲調 会社     買収価額          借入金(換算額)                             差引買収公債額面                       一株当公債額面                     一株当公債実価                   一株当収得総額(公債実価及積立金繰越金合計)                    甲          乙        丙           甲           乙           丙          甲       乙       丙       九十円ノ相場ニテ  八十五円ノ相場ニテ  八十円ノ相場ニテ  九十円ノ相場ニテ  八十五円ノ相場ニテ  八十円ノ相場ニテ                円         円         円         円           円           円           円     円       円       円        円         円         円         円          円         円 日本   一三〇、五三二、五四〇    五七、五五六    六〇、九四一    六四、七五〇 一三〇、四七四、九八四 一三〇、四七一、五九九 一三〇、四六七、七九〇  一二九・四四〇 一二九・四三六 一二九・四三二  一一六・四九八   一一〇・〇二一   一〇三・五四六   一二〇・八六四    一一四・三八九   一〇七・九一四 山陽    七四、〇四二、九八〇 四、八四四、四四四 五、一二九、四一三 五、四五〇、〇〇〇  六九、一九八、五三六  六八、九一三、五六七  六八、五九二、九八〇  一一二・一五四 一一一・六九二 一一一・一七三  一〇〇・九三九    九四・九三八    八八・九三八   一〇四・〇八九     九八・〇八八    九二・〇八八 甲武     九、七二九、〇二〇 一、五七七、七七八 一、六七〇、五八八 一、七七五、〇〇〇   八、一五一、二四二   八、〇五八、四三二   七、九五四、〇二〇  一三七・五九六 一三六・〇七一 一三四・三〇八  一二三・八三六   一一五・六六〇   一〇七・四四六   一二六・七四二    一一八・五六六   一一〇・三五二 関西    三一、三〇八、〇六〇 二、〇一一、一一一 二、一二九、四一二 二、二六二、五〇〇  二九、二九六、九四九  二九、一七八、六四八  二九、〇四五、五六〇   六〇・五七七  六〇・三三二  六〇・〇五七   五四・五一九    五一・二八二    四八・〇四六    五五・五九〇     五二・三五三    四九・一一七 京都     三、四七一、七〇〇         ―         ―         ―   三、四七一、七〇〇   三、四七一、七〇〇   三、四七一、七〇〇   三八・五七四  三八・五七四  三八・五七四   三四・七一七    三二・七八八    三〇・八五九    三五・五八〇     三三・六五一    三一・七二二 阪鶴     六、四二九、〇七四 二、八七二、二二二 三、〇四一、一七六 三、二三一、二五〇   三、五五六、八五二   三、三八七、八九八   三、一九七、八二四   四四・四六一  四二・三四九  三九・九七三   四〇・〇一五    三五・九九七    三一・九七八    四〇・四一七     三六・三九九    三二・三八〇 北越     七、二〇六、〇二一 三、六四六、六六七 三、八六一、一七六 四、一〇二、五〇〇   三、五三九、三五四   三、三四四、八四五   三、一〇三、五二一   四八・〇九九  四五・二〇一  四一・九三九   四三・二八九    三八・四二一    三三・五五一    四三・七四九     八八・八八一    三四・〇一一 西成     一、九五六、五〇五   三八八、八八九   四一一、七六四   四三七、五〇〇   一、五六七、六一六   一、五四四、七四一   一、五一九、〇〇五   四七・五〇三  四六・八一〇  四六・〇三〇   四二・七五三    三九・七八九    三六・八二四    四二・七五三     三九・七八九    三六・八二四 七尾     一、五一五、二三一   四五三、三三三   四八〇、〇〇〇   五一〇、〇〇〇   一、〇六一、八九八   一、〇三五、二三一   一、〇〇五、二三一   四八・二六八  四七・〇五六  四五・六九二   四三・四四一    三九・九九八    三六・五五四    四三・六九八     四〇・二五五    三六・八一一 岩越     二、五八四、五九六    二二、〇九九    二三、四九九    二四、八六一   二、五六二、四九七   二、五六一、一九七   二、五五九、七三五   二一・三五四  二一・三四三  二一・三三一   一九・二一九    一八・一四二    七八・〇六五    一九・四三七     一八・三六〇    一七・二八三 九州    九七、六五四、六〇〇 一、六六六、六六七 一、七六四、七〇六 一、八七五、〇〇〇  九五、九八七、九三三  九五、八八九、八九四  九五、七七九、六〇〇   九八・四七〇  九八・三六九  九八・二五六   八八・六二三    八三・六一四    七八・六〇五    九一・三二〇     八六・三一一    八一・三〇二 北海道炭砿 二九、一六八、一八〇 一、九八五、三三三 二、一〇二、一一七 二、二三三、五〇〇  二七、一八二、八四七  二七、〇六六、〇六三  二六、九三四、六八〇  一二一・八九七 一二一・三七二 一二〇・七八三  一〇九・七〇七   一〇三・一六六    九六・六二六   一一一・七五一    一〇五・二一〇    九八・六七〇 北海道   一〇、九二四、七八八 四、六一一、一一一 四、八八二、三五三 五、一八七、五〇〇   六、三一三、六七七   六、〇四二、四三五   五、七三七、二八八   四九・七九二  四七・六五三  四五・二四七   四四・八一三    四〇・五〇五    三六・一九八    四五・四〇三     四一・〇九五    三六・七八八 参宮     三、七七三、八四〇         ―         ―         ―   三、七七三、八四〇   三、七七三、八四〇   三、七七三、八四〇  一〇一・九九六 一〇一・九九六 一〇一・九九六   九一・七九六    八六・六九七    八一・五九七    九四・五二三     八九・四二四    八四・三二四 総武    一〇、三二六、四八〇   八四四、四四四   八九四、一一八   九五〇、〇〇〇   九、四八二、〇三六   九、四三二、三六二   九、三七六、四八〇  一一二・八八一 一一二・二九〇 一一一・六二五  一〇一・五九三    九五・四四七    八九・三〇〇   一〇四・六四八     九八・五〇二    九二・三五五 房総     二、〇七〇、六〇一 一、一三一、一一一 一、一九七、六四七 一、二七二、五〇〇     九三九、四九〇     八七二、九五四     七九八、一〇一   三六・一三四  三三・五七五  三〇・六九六   三二・五二一    二八・五三九    二四・五五七    三三・四一二     二九・四三〇    二五・四四八 徳島     一、三〇三、五〇三   六六二、二二二   七〇一、一七六   七四五、〇〇〇     六四一、二八一     六〇二、三二七     五五八、五〇三   四二・九四二  四〇・三三四  三七・三九九   三八・六四八    三四・二八四    二九・九一九    三八・八五八     三四・四九四    三〇・一二九 



 備考 (甲)ハ鉄道国有法第十七条第一項買収期日前六箇月間ニ於ケル平均相場ヲ九十円トシ(乙)ハ同八十五円トシ(丙)ハ同八十円ト
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仮定シテ借入金ヲ換算シタルモノナリ
之に由て之を見れば、買収公債額面の絶対に変動せざる者は、借入金なき京都・参宮両鉄道のみにして、其他は皆多少の変動を免かれず、唯日本・山陽・関西・西成・岩越・九州・北海道炭砿及総武の八鉄道は、建設費に対する借入金の割合極めて少なきが故に、買収の為め交付せらるべき公債額面に甚しき減少を見ずと雖も、北越・房総・徳島若くは北海道鉄道の如き、借入金が建設費の半額に上れる者に在りては、公債の下落に伴ふ交付公債額面の減少頗る大なるものありとす、特に其実際代価に至ては更に一層の減少を示し、比較的公債額面の増減小なる日本・山陽両鉄道の如きすら、猶一株に付き十三円弱の大差を見る、北越、房総等の如きは一株当公債額面が日本・山陽等の三分の一乃至四分の一に過ぎざるに拘らず、猶八円乃至十円の大差を生ずるを見る
今九十円乃至八十円間の相場に於ける各鉄道本株一株に対する買収公債額面、及其実際代価を計算するに左の如し

図表を画像で表示第四号表 買収の為め交付せらる可き一株当公債額面調

     第四号表 買収の為め交付せらる可き一株当公債額面調 会社     九十円ノ時   八十九円ノ時   八十八円ノ時   八十七円ノ時   八十六円ノ時   八十五円ノ時   八十四円ノ時   八十三円ノ時   八十二円ノ時   八十一円ノ時   八十円ノ時          円       円        円         円        円        円        円        円        円        円        円 日本    一二九・四四   一二九・四四   一二九・四四   一二九・四四   一二九・四四   一二九・四四   一二九・四四   一二九・四四   一二九・四四   一二九・四四   一二九・四三 山陽    一一二・一五   一一二・〇七   一一一・九七   一一一・八八   一一一・七九   一一一・六九   一一一・五九   一一一・四九   一一一・三九   一一一・二八   一一一・一七 甲武    一三七・六〇   一三七・三四   一三七・〇三   一三六・七二   一三六・四〇   一三六・〇七   一三五・七三   一三五・三九   一三五・〇四   一三四・六八   一三四・三一 関西     六〇・五八    六〇・五三    六〇・四八    六〇・四三    六〇・三八    六〇・三三    六〇・二八    六〇・二三    六〇・一七    六〇・一一    六〇・〇六 京都     三八・五七    三八・五七    三八・五七    三八・五七    三八・五七    三八・五七    三八・五七    三八・五七    三八・五七    三八・五七    三八・五七 阪鶴     四四・四六    四四・〇六    四三・六四    四三・二二    四二・七九    四二・三五    四一・九〇    四一・四三    四〇・九六    四〇・四七    三九・九七 北越     四八・一〇    四七・五四    四六・九八    四六・四〇    四五・八一    四五・二〇    四四・五八    四三・九四    四三・二九    四二・六二    四一・九四 西成     四七・五〇    四七・三七    四六・九七    四七・一〇    四六・九五    四六・八一    四六・六六    四六・五一    四六・三五    四六・一九    四六・〇三 七尾     四八・二七    四八・〇四    四七・八一    四七・五六    四七・三一    四七・〇六    四六・八〇    四六・五二    四六・二六    四五・九八    四五・六九 岩越     二一・三五    二一・三五    二一・三五    二一・三五    二一・三五    二一・三四    二一・三四    二一・三四    二一・三四    二一・三三    二一・三三 九州     九八・四七    九八・四五    九八・四三    九八・四一    九八・三九    九八・三七    九八・三五    九八・三三    九八・三〇    九八・二八    九八・二六 北海道炭砿 一二一・九〇   一二一・七九   一二一・六九   一二一・五八   一二一・四八   一二一・三七   一二一・二六   一二一・一四   一二一・〇三   一二〇・九一   一二〇・七八 北海道    四九・七九    四九・四四    四九・〇八    四八・七一    四八・三三    四七・六五    四七・五五    四七・一五    四六・七三    四六・三一    四五・二五 参宮    一〇一・九九   一〇一・九九   一〇一・九九   一〇一・九九   一〇一・九九   一〇一・九九   一〇一・九九   一〇一・九九   一〇一・九九   一〇一・九九   一〇一・九九 総武    一一二・八八   一一二・七七   一一二・六五   一一二・五三   一一二・四一   一一二・二九   一一二・一六   一一二・〇三   一一一・九〇   一一一・七六   一一一・六三 房総     三六・一三    三五・六四    三五・一四    三四・六三    三四・一一    三三・五八    三三・〇三    三二・四七    三一・八九    三一・三〇    三〇・七〇 徳島     四二・九四    四二・四四    四一・九三    四一・四一    四〇・八七    四〇・三三    三九・七七    三九・二〇    三八・六二    三八・〇一    三七・四〇 



 - 第9巻 p.674 -ページ画像 
 備考 本表ハ鉄道国有法第十七条第一項買収期日前六箇月間ニ於ケル平均相場ガ八十円乃至九十円ノ各場合ニ於テ買収セラルベキ一株当公債額面ヲ示スモノナリ

図表を画像で表示第五号表 買収ノ為メ交付セラルベキ一株当公債相場調

     第五号表 買収ノ為メ交付セラルベキ一株当公債相場調 会社      九十円ノ時   八十九円ノ時    八十八円ノ時    八十七円ノ時    八十六円ノ時    八十五円ノ時    八十四円ノ時    八十三円ノ時    八十二円ノ時    八十一円ノ時    八十円ノ時          円         円         円         円         円         円         円         円         円         円         円 日本    一一六・四九六   一一五・二〇一   一一三・九〇六   一一二・六一二   一一一・三一七   一一〇・〇二一   一〇八・七二六   一〇七・四三二   一〇六・一三七   一〇四・八四三   一〇三・五四六 山陽    一〇〇・九三五    九九・七三九    九八・五三九    九七・三三九    九六・一三九    九四・九三八    九三・七三九    九二・五三九    九一・三三九    九〇・一三九    八八・九三八 甲武    一二三・八三六   一二二・二三一   一二〇・五八八   一一八・九四五   一一七・三〇三   一一五・六六〇   一一四・〇一七   一一二・三七五   一一〇・七三一   一〇九・〇八九   一〇七・四四六 関西     五四・五一九    五三・八七一    五三・二二四    五二・五七七    五一・九二九    五一・二八二    五〇・六三五    四九・九八七    四九・三四〇    四八・六九二    四八・〇四六 京都     三四・七一七    三四・三三一    三三・九四五    三三・五五九    三三・一七四    三二・七八八    三二・四〇二    三二・〇一六    三一・六三一    三一・二四五    三〇・八五九 阪鶴     四〇・〇一五    三九・二一一    三八・四〇七    三七・六〇四    三六・八〇〇    三五・九九七    三五・一九三    三四・三八九    三三・五八六    三二・七八二    三一・九七八 北越     四三・二八九    四二・三一五    四一・三四一    四〇・三六七    三九・三九四    三八・四二一    三七・四四六    三六・四七三    三五・四九八    三四・五二五    三三・五五一 西成     四二・七五三    四二・一六〇    四一・五六七    四〇・九七四    四〇・三八一    三九・七八九    三九・一九五    三八・六〇三    三八・〇一〇    三七・四一七    三六・八二四 七尾     四三・四四一    四二・七五二    四二・〇六三    四一・三七五    四〇・六八六    三九・九九八    三九・三〇八    三八・六二〇    三七・九三一    三七・二四二    三六・五五四 岩越     一九・二一九    一九・〇〇三    一八・七八八    一八・五七三    一八・三五七    一八・一四二    一七・九二六    一七・七一一    一七・四九六    一七・二八〇    一七・〇六五 九州     八八・六二三    八七・六二一    八六・六一九    八五・六一七    八四・六一六    八三・六一四    八二・六一二    八一・六一〇    八〇・六〇八    七九・六〇七    七八・六〇五 北海道炭砿 一〇九・七〇七   一〇八・三九九   一〇七・〇九一   一〇五・七八三   一〇四・四七五   一〇三・一六六   一〇一・八五九   一〇〇・五五一    九九・二四三    九七・九三五    九六・六二六 北海道    四四・八一三    四四・〇〇一    四三・一九〇    四二・三七八    四一・五六七    四〇・五〇五    三九・九四三    三九・一三二    三八・三二〇    三七・五〇八    三六・一九八 参宮     九一・七九六    九〇・七七六    八九・七五六    八八・七三六    八七・七一六    八六・六九七    八五・六七六    八四・六五六    八三・六三六    八二・六一六    八一・五九七 総武    一〇一・五九三   一〇〇・三六三    九九・一三四    九七・九〇五    九六・六七五    九五・四四七    九四・二一六    九二・九八七    九一・七五八    九〇・五二九    八九・三〇〇 房総     三二・五二一    三一・七二四    三〇・九二八    三〇・一三二    二九・三三五    二八・五三九    二七・七四三    二六・九四六    二六・一五〇    二五・三五三    二四・五五七 徳島     三八・六四八    三七・七七五    三六・九〇二    三六・〇二九    三五・一五六    三四・二八四    三三・四一〇    三二・五三八    三一・六六五    三〇・七九二    二九・九一九 



 備考 本表ハ買収後公債相場ガ八十円乃至九十円間ノ各場合ニ於ケル一株当交付公債ノ時価ヲ示スモノナリ


〔参考〕東京経済雑誌 第五三巻第一三四二号・第一〇六〇―一〇六二頁〔明治三九年六月二三日〕 鉄道国有法実施に関する調査(三)(東京銀行集会所調査)(DK090062k-0021)
第9巻 p.674-676 ページ画像

東京経済雑誌 第五三巻第一三四二号・第一〇六〇―一〇六二頁〔明治三九年六月二三日〕
  鉄道国有法実施に関する調査(三)(東京銀行集会所調査)
    第四章 公債相場変動の範囲
以上の計算は買収の日に於ける公債の相場若くは公債交付の日に於ける公債の相場が、鉄道国有法第十七条第一項に規定せる平均相場と一致せる場合に於てのみ、株主実際の収得と吻合すべしと雖、事実上此二者は、極めて稀有なる偶然の場合の外、決して相一致するものに非ず、何となれば公債の相場は日に変動して片時も一定すること無く、而して法律に規定せる所は買収期日前六箇月間に於ける平均相場なれ
 - 第9巻 p.675 -ページ画像 
ばなり、故に以上の計算と愈々公債の交付を受けたる場合に於ける株主の現実収得額との間には大なる懸隔を生ずることある可く、或は之より多き時あり或は少なきことあるを免かるべからず、買収期日前六箇月間に於ける平均相場は高価なりとするも、買収後に於て相場下落するに於ては交付公債額面金額の大なるに拘らず、実際の収得は減少すべきを以て、株主は損失を被らざるを得ずと雖、之に反して右の平均相場は少しく低価なりとするも、買収後に於て相場騰貴せんか、公債の額面金額は減少するに拘らず、実際の収得は増加すべきを以て株主は寧ろ利益なりと謂ふ可し、今之を明にせん為め日本其他の鉄道に就て八十円乃至九十円間に於ける最高最低両極端の相場変動の場合を算定するに左表の如し

図表を画像で表示第六号表 公債相場変動範囲調の一

     第六号表 公債相場変動範囲調の一 会社         平均相場九十円の場合              平均相場八十円の場合          一株に対する差益       一株当公債額面  八十円相場にて計算せる実価   一株当公債額面  九十円相場にて計算せる実価          円        円               円        円             円 日本    一二九・四四   一〇三・五五          一二九・四三   一一六・四九         一二・九四 山陽    一一二・一五    八九・七二          一一一・一七   一〇〇・〇五         一〇・三三 甲武    一三七・六〇   一一〇・〇八          一三四・三一   一二〇・八八         一〇・八〇 関西     六〇・五八    四八・四六           六〇・〇六    五四・〇五          五・五九 京都     三八・五七    三〇・八六           三八・五七    三四・七一          三・八五 岩越     二一・三五    一七・〇八           二一・三三    一九・二〇          二・一二 九州     九八・四七    七八・七八           九八・二六    八八・四三          九・六五 北海道炭砿 一二一・九〇    九七・五二          一二〇・七八   一〇八・七〇         一一・一八 参宮    一〇一・九九    八一・五九          一〇一・九九    九一・七九         一〇・二〇 



以上は相場が八十円及九十円の高低両極端に変動せる場合を示したるものにして、大変動の場合に於ける例に属するを以て、更に日本・山陽・甲武・関西及九州五鉄道に就き、買収期日前六箇月間の公債平均相場が九十円にして、買収後実際の相場が八十九円に下落せる場合と平均相場が八十九円にして実際の相場が九十円に騰貴せる場合との比較、即ち一円づゝ高低したる場合の例(第一例)と、平均相場が九十円にして実際の相場が八十八円に下落せる場合と、平均相場が八十八円にして実際の相場が九十円に騰貴せる場合との比較、即ち二円づゝ高低したる場合の例(第二例)とを示せば左表の如し

図表を画像で表示第七号表 公債相場変動範囲調の二

     第七号表 公債相場変動範囲調の二   第一例 会社  平均相場九十円の時交付公債額面  八十九円の相場にて同上実価  平均相場八十九円の時交付公債額面  九十円相場にて同上実価  実価比較差益        円                円              円                 円          円 日本  一二九・四四           一一五・二〇         一二九・四四            一一六・五〇       一・三〇 山陽  一一二・一五            九九・八一         一一二・〇七            一〇〇・七七       一・〇五 甲武  一三七・六〇           一二二・四六         一二七・三四            一二三・三三       一・一五 関西   六〇・五八            五三・九二          六〇・五三             五四・四三        ・五六 九州   九八・四七            八七・六四          九八・四五             八八・五九        ・九七   第二例 会社  平均相場九十円の時交付公債額面  八十八円の相場にて同上実価  平均相場八十八円の時交付公債額面  九十円の相場にて同上実価  実価比較差益        円                円              円                 円           円 日本  一二九・四四           一一三・九一         一二九・四四            一一六・五〇        二・五九 山陽  一一二・一五            九八・六九         一一一・九七            一〇〇・八六        二・〇八 甲武  一三七・六〇           一二一・〇九         一三七・〇三            一二三・六一        二・二四 関西   六〇・五八            五三・三一          六〇・四八             五四・四八        一・一二 九州   九八・四七            八六・六五          九八・四三             八八・六一        一・九四 


 - 第9巻 p.676 -ページ画像 
之に由りて之を観れば、平均相場高価にして交付公債の額面多額なるも、買収後相場の下落せんよりは、平均相場低価にして交付公債額面少額なるも、買収後相場の騰貴する方、啻に株主の利益なるのみならず、又政府の負担を減少して財政上に於ても大に利益ある可きなり、今試に之を計算すれば左表の如き結果を生ずるを見る

図表を画像で表示第八号表 公債相場変動範囲調の三

     第八号表 公債相場変動範囲調の三   第一例              買収公債総額      借入金         同上換算額       差引交付公債額      同上実価                      円           円           円            円                    円 平均相場九十円の時  四二三、九九七、七一二  二四、〇九七、四八九  二六、七七四、九八八  三九七、二二二、七二四  八十九円として 三五三、五二八、二二四 同八十九円の時    四二三、九九七、七一二  二四、〇九七、四八九  二七、〇七五、八三〇  三九六、九二一、八八二  九十円トシテ  三五七、二二九、六九四 増減                   ―           ―  増  三〇〇、八四二  減   三〇〇、八四二  増         三、七〇一、四七〇   第二例              買収公債総額      借入金         同上換算額       差引交付公債額      同上実価                      円           円           円            円                    円 平均相場九十円の時  四二三、九九七、七一二  二四、〇九七、四八九  二六、七七四、九八八  三九七、二二二、七二四  八十八円トシテ 三四九、五五五、九九七 同八十八円の時    四二三、九九七、七一二  二四、〇九七、四八九  二七、三八三、五一〇  三九六、六一四、二〇二  九十円として  三五六、九五二、七八二 増減                   ―           ―  増  六〇八、五二二  減   六〇八、五二二  増         七、三九六、七八五 



斯の如く第一例に於ては平均相場九十円にして、買収後実際の相場が八十九円に下落したる場合に比し平均相場八十九円にして買収後実際の相場が九十円に騰貴したる場合に於ては、政府の負担三十万八百四十二円を減少して、而も株主の実際収得額三百七十万千四百七十円を増加することゝなり、又第二例に於ては平均相場九十円にして買収後実際の相場が八十八円に下落したる場合に比し、平均相場八十八円にして買収後実際の相場が九十円に騰貴したる場合に於ては、政府の負担六十万八千五百二十二円を減少して、而も株主の実際収得額七百三十九万六千七百八十五円を増加することゝなるなり、故に買収後公債の騰貴することは株主の之を希望するは勿論、政府亦之を希望せざるべからざるなり


〔参考〕東京経済雑誌 第五三巻第一三四三号・第一一〇七―一一一一頁〔明治三九年六月三〇日〕 鉄道国有法実施に関する調査(四)(東京銀行集会所調査)(DK090062k-0022)
第9巻 p.676-679 ページ画像

東京経済雑誌 第五三巻第一三四三号・第一一〇七―一一一一頁〔明治三九年六月三〇日〕
  鉄道国有法実施に関する調査(四)(東京銀行集会所調査)
    第五章 買収後ノ公債利子ト現時ノ配当トノ比較
然れども買収の為め交付せられたる公債を売却せずして長く之を所有し、唯其利息を収得するものにありては、買収後に於ける公債相場の高低より、寧ろ買収の際交付せらるゝ公債額面の多少が、直接其利害に関するを以て、此場合に於ては全く前章に記する所と相反するものあり
買収期日前六箇月間の公債平均相場が、八十円乃至九十円間の場合に於ける各鉄道本株一株に対する買収公債額面は第四号表に掲ぐる所の如くなるが、今該表に拠り九十円の相場と八十円の場合とに於ける交付公債利子と現時配当との比較を示せば左表の如し

図表を画像で表示第九号表 買収後の公債利子と現時の配当との比較調

  以下p.677 ページ画像     第九号表 買収後の公債利子と現時の配当との比較調 会社                    公債利子                       変動範囲     現時配当                         買収前後収入比較       平均相場九十円の場合に於ける交付公債利子 平均相場八十円の場合に於ける交付公債利子        配当割合  配当金額  配当を平均相場九十円の場合に於ける交付公債利子に比し  配当を平均相場八十円の場合に於ける交付公債利子に比し        円                    円                    円      割     円        円                           円 日本    六・四七                 六・四七                    ―   一・三〇  六・五〇   減  ・〇三                      減  ・〇三 山陽    五・六一                 五・五五                  ・〇六   一・〇〇  五・〇〇   増  ・六一                      増  ・五五 甲武    六・八八                 六・七一                  ・一七   一・〇〇  四・五〇   増 二・三八                      増 二・二一 関西    三・〇三                 三・〇〇                  ・〇三    ・五六  二・八〇   増  ・二三                      増  ・二〇 京都    一・九三                 一・九三                    ―    ・二四   ・九一   増 一・〇二                      増 一・〇二 阪鶴    二・二二                 二・〇〇                  ・二二    ・三二  一・六〇   増  ・六二                      増  ・四〇 北越    二・四〇                 二・一〇                  ・三〇    ・二八  一・四〇   増 一・〇〇                      増  ・七〇 西成    二・三八                 二・三〇                  ・〇八    ・二〇  一・〇〇   増 一・三八                      増 一・三〇 七尾    二・四一                 二・二九                  ・一二      ―     ―        ―                           ― 岩越    一・〇七                 一・〇七                    ―      ―     ―        ―                           ― 九州    四・九二                 四・九一                  ・〇一    ・八五  四・二五   増  ・六七                         ・六六 北海道炭砿 六・〇九                 六・〇四                  ・〇五   一・五〇  七・五〇   減 一・四一                      減 一・四六 北海道   二・四九                 二・二六                  ・二三      ―     ―        ―                           ― 参宮    五・一〇                 五・一〇                    ―    ・八〇  四・〇〇   増 一・一〇                      増 一・一〇 総武    五・六四                 五・五八                  ・〇六   一・〇〇  五・〇〇   増  ・六四                      増  ・五八 房総    一・八一                 一・五三                  ・二八    ・二五  一・〇〇   増  ・八一                      増  ・五三 徳島    二・一五                 一・八七                  ・二八      ―     ―        ―                           ― 



    第六章 鉄道株ヲ買入レタル者ノ将来ノ利益限度
本年四月末日に於ける東京株式取引所先物相場を以て、鉄道株を買入れたるものに対し、損失無くして之を転売し得るまでの公債相場下落の限度を示せば、左表の如し

図表を画像で表示第十号表 公債相場下落限度調

     第十号表 公債相場下落限度調   第一例(積立及繰越金算入の分) 会社     四月納会大引先物相場  一株に対し株主の得べき積立金  差引株券買入実費  公債平均相場九十円の時買収せられたるものは  同上八十五円の時買収せられたるものは  同上八十円の時買収せられたるものは            円         円                円        円                      円                   円 日本      一〇六・三〇     四・三六八           一〇一・九三二   七八・七四八                 七八・七五一              七八・七五三 山陽       八七・〇五     三・一五〇            八三・九〇〇   七四・八〇七                 七五・一一七              七五・四六七 甲武      一〇四・五〇     二・九〇六           一〇一・五九四   七三・八三五                 七四・六六二              七五・六四二 関西       四七・一〇     一・〇七一            四六・〇二九   七五・九八四                 七六・二九二              七六・六四二 京都       二二・三〇      ・八六三            二一・四三七   五五・五七四                 五五・五七三              五五・五七三 阪鶴    現物 三五・〇〇      ・四〇二            三四・五九八   七七・八一六                 八一・六九七              八六・五五三 北越       三三・二五      ・四六〇            三二・七九〇   六八・一七一                 七二・五四二              七八・一八四 西成    現物 三八・五〇         ―            三八・五〇〇   八一・〇四七                 八二・二四三              八三・六四一 九州       七五・〇〇     二・六九七            七二・三〇三   七三・四二六                 七三・五〇一              七三・五八六 北海道炭砿   一〇二・〇〇     二・〇四四            九九・九五六   八二・〇〇〇                 八二・三七一              八二・七五三 北海道      三〇・九五      ・五九〇            三〇・三六〇   六〇・九七三                 六三・七一〇              六七・〇九八 参宮    現物 九〇・〇〇     二・七二七            八七・二七三   八五・五六五                 八五・五六五              八五・五六五 総武       八二・三〇     三・〇五五            七九・二四五   七〇・二〇二                 七〇・五七一              七〇・九九二 房総       二二・六〇      ・八九一            二一・七〇九   六〇・〇七九                 六四・六五八              七〇・七二二   第二例(積立及繰越金を算入せさる分) 会社    四月納会大引先物相場  公債平均相場九十円の時買収せられたるものは  同上八十五円の時買収せられたるものは  同上八十円の時買収せられたるものは            円        円                      円                   円 日本      一〇六・三〇    八二・一二                  八二・一二               八二・一二 山陽       八七・〇五    七七・六二                  七七・九四               七八・三〇 甲武      一〇四・五〇    七五・九二                  七六・一六               七七・八一 関西       四七・一〇    七七・七五                  七八・〇七               七八・四三 京都       二二・三〇    五七・八一                  五七・八一               五七・八一 阪鶴    現物 三五・〇〇    七八・七二                  八二・六五               八七・五六 北越       三三・二五    六九・一三                  七三・五六               七九・二八  以下p.678 ページ画像  西成    現物 三八・五〇    八一・〇五                  八二・二五               八三・六四 九州       七五・〇〇    七六・一七                  七六・二四               七六・三三 北海道炭砿   一〇二・〇〇    八三・六八                  八四・〇四               八四・四五 北海道      三〇・九五    六二・一六                  六四・九五               六八・四〇 参宮    現物 九〇・〇〇    八八・二四                  八八・二四               八八・二四 総武       八二・三〇    七二・九一                  七三・二九               七三・七三 房総       二二・六〇    六二・五五                  六七・三一               七三・六三 



右第一例は積立金及繰越金を算入せるものにして、此場合に於ては四月二十七日(四月は二十七日を以て納会とし、翌日受渡を行ひ、其翌日は日曜、其翌日は陸軍凱旋観兵式にて休業せり)鉄道株を買入れたる者は、若し買収期日前六箇月間の公債平均相場が九十円の時に買収せられたりとせば、日本鉄道株主は公債相場が七十八円七十四銭八厘に、山陽鉄道株主は公債相場が七十四円八十銭七厘に下落するまでは之を売却するも損失を被むること無くして、其株式の買入代価を還収することを得べく、又前記平均相場が八十円の時に買収せられたりとするも、猶日本鉄道株主は公債相場が七十八円七十五銭三厘に、山陽鉄道株主は公債相場が七十五円四十六銭七厘に下落するまでは損失を被むることなかるべし、其他皆之に準ず、然れども第二例即ち積立金繰越金を算入せざる場合に於ては、日本鉄道株主は八十二円十二銭以下、山陽鉄道株主は七十七円六十二銭乃至七十八円三十銭以下に公債の下落する時は、其株式の買入代価を還収すること能はざる計算なり然れども時価を以て鉄道株を買入れたる人の其買収後に受くる損益は到底一々之を算出するを得ず、啻に買収期日前六箇月間に於ける公債平均相場の一定せざるのみならず、買収後公債相場の高低する毎に一一其実価を異にすべきを以て、極めて巨多の実価を推算せざるべからず、是れ決して実行すべからざることなり、然れども前に掲げたる最高最低限度(八十円及九十円)に就き、各其受くべき利益の最高最低限度を見るは敢て難事に非ず、左表は本年四月末日の先物相場にて鉄道株を購入したる人が、平均相場九十円の時買収せられて、而も公債が実際九十円の相場を保てる最高の場合と、平均相場八十円の時買収せられて、而も公債が実際八十円に下落したる最低の場合とに於ける利益変動の限界を算出せるものなり

図表を画像で表示第十一号表 公債相場高低限界調

     第十一号表 公債相場高低限界調 会社     四月納会大引先物相場              一株宛公債実価                 利益高低限界                    平均相場時価共に九十円の場合  平均相場時価共に八十円の場合  九十円の場合  八十円の場合            円          円               円              円        円 日本      一〇六・三〇     一一六・五〇          一〇三・五五          一〇・二〇  損失 二・七五 山陽       八七・〇五     一〇〇・九四           八八・九四          一三・八九     一・八九 甲武      一〇四・五〇     一二三・八四          一〇七・四五          一九・三四     二・九五 関西       四七・一〇      五四・五二           四八・〇五           七・四二      ・九五 京都       二二・三〇      三四・七二           三〇・八六          一二・四二     八・五六 阪鶴    現物 三五・〇〇      四〇・〇二           三一・九八           五・〇二  損失 三・〇二 北越       三三・二五      四三・二九           三三・五五          一〇・〇四      ・三〇 西成    現物 三八・五〇      四二・七五           三六・八二           四・二五  損失 一・六八 九州       七五・〇〇      八八・六二           七八・六一          一三・六二     三・六一 北海道炭砿   一〇二・〇〇     一〇九・七一           九六・六三           七・七一  損失 五・三七 北海道      三〇・九五      四四・八一           三六・二〇          一三・八六     五・二五 参宮    現物 九〇・〇〇      九一・八〇           八一・六〇           一・八〇  損失 八・四〇 総武       八二・三〇     一〇一・五九           八九・三〇          一九・二九     七・〇〇 房総       二二・六〇      三二・五二           二四・五六           九・九二     一・九六 



 - 第9巻 p.679 -ページ画像 
    第七章 結論
以上研究せる所は明治三十八年上半期末現在の建設費、社債其他の債務を基礎とし、又積立金及繰越金も同期末現在高を取りて、毫も建設費其他に流用せざるものとして之を計算せり、然れども積立金及繰越金は清算費用其他の為め減少を見る可きこと勿論なるを以て、政府計算の例に傚ひたる第一号及第三号表の外は、総て株主の実際収得計算より之を除外せり、然れども各鉄道の買収は明治三十九年以降同四十八年に至る十年間に漸次行はるゝものにして、買収期日の到来するまでは建設費、積立金、繰越金及借入金は皆常に変動すべきを以て、斯る不定の数字を基礎として算出せる諸表が、買収の時の実際と符合せざる可きは論を俟たざる所なり、加之買収価額が建設費に達せざる鉄道は、其会社と協定して買収価額を定むるの規定なるが、前に掲げたる諸表は右の協定建設費と同額にて成立するものと見て計算したるが故に、若し建設費以内に於て協定成立するに於ては、此点に於ても亦変動を生ず可きなり、然れども是れ全く未知の問題にして、今日に於ては到底其近邇額をすら知ること能はざるなり
終に臨み注意すべきは、第十号表及第一号表に就て研究したる結果に依るに、十七鉄道の内に於て現在市価の最も割高なるは参宮鉄道株にして、之に次ぐを阪鶴鉄道株とし、北海道炭砿・西成・日本又之に次ぎ、関西・山陽・甲武・九州更に又之に次ぐこと是なり、是れ(第一)参宮・阪鶴・西成・北海道炭砿各鉄道の利益が其建設費に対して真実に多きの致す所か、(第二)或は明治三十八年後半期末の建設費が明治三十八年前半期以前六営業年度間の分より特に増加したる結果なるか(第三)或は鉄道国有法に於ける買収価額算出の規定に当を得ざる者ある為めならずんばあらず、然れども以上三原因中最も事実に近きは第二の原因なるべく、特に西成・阪鶴両鉄道の如きは買収価額が建設費に達せざる為め、建設費を以て仮に協定買収価額として計算せる為め以上の如き結果を生じたるものなり、従て第三の原因亦理由なしと謂ふべからず、若し夫れ第一の原因に至ては、事実の問題に属し、爰に論ずるの限に非ざるなり