デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

3章 商工業
6節 製紙業
5款 製紙所聯合会
■綱文

第11巻 p.140-141(DK110028k) ページ画像

明治16年7月27日(1883年)

是ヨリ先、会員中紙価ノ低落ニ関シ聯合会ノ之ヲ防遏スル能ハサルヲ見テ会ノ解散ヲ唱フル者アリ。栄一等之ニ反対シ、是日大阪・梅津両製紙所ノ脱会ヲ承認シ、条規ヲ改正シ以テ当会ノ維持ニ努ム。


■資料

王子製紙株式会社回顧談 (男爵 渋沢栄一) 第四六―四九丁(DK110028k-0001)
第11巻 p.140-141 ページ画像

王子製紙株式会社回顧談 (男爵 渋沢栄一) 第四六―四九丁
    一一、同業会議と紙価協定及び舶来紙防遏策
○上略
其の年○明治十五年十月十日に第五回聯合会を大阪に開き、本社から大川氏が出席して最低紙価を一封度拾壱銭五厘に引下げ案を提出した所が、反対論が多くて容易に決定せず、十三日の会合に及んで初めて可決した。其の時の附帯条件は左の如きものである。
 一、截落紙又は刎紙等の如きも総て最低点以下の価を以て売却するを得ざる事
 一、最低点を改正したる上は、向後の取引に於て歩引手数料賞与其他の名目を以て値引を為す可らず、又諸方へ積送する運賃其他の諸費は無論定価の外たるべし
 一、延売約定を以て売出す時は、其の期限中相当の利子を加へ売捌く事
 一、各製紙所に於て製品販売の節は実際の正量を上包又はレツテル等に記載し置くべき事
 一、前条の通り決定せし上は若し違背者あるときは、条規第十九条に照し、督責すべき事
右の通りで聯合会の設立以来価格のことのみで持ち切つた有様であつた。然るに苦心した割合に、其の効果も余り著しいものが無かつたので、明治十六年一月二十七日に深川福住町の自分の宅で臨時会議を開
 - 第11巻 p.141 -ページ画像 
き、「自今当分の間最低紙価の決定を廃する事」といふ決議をした。然るに梅津製紙所が脱会を申込んだ所から、従来聯合会の執り来れる方針の面白からざることに気付き、有恒社は同年十一月製紙組合を起して聯合会の組織を変更せんとの議を出した。所が其の提案の文意が徹底せぬといふので、本社はそれに反対して聯合会維持に関する意見書を発表した。
    聯合会維持の件に付意見書
 去る十四年聯合会創設の時にありては、米・銀の価頻りに騰貴し、諸物価も亦日々之に追随するの際にして、一時最低紙価の十四銭に迄昇騰するを得たるものは、固より時勢の然らしむる所なりしと雖も、亦専ら同業の共同して之を謀りしよりは速に此に至りしものにして、即ち我聯合会の得たる利益なることは疑ふべからず、斯く聯合会は紙価を引上るに於ては甚だ便益ありと雖も、目下の如く米・銀と共に諸物価の日に低落する場合にありては、舶来紙の下落は直接に我製紙の価に影響を及し、又同業相互の間に自ら競争を生ずるが故に聯合会の力と雖も紙価の低落を救ふ能はざるは、真に不得止所なり、畢竟現今の聯合会は市場の景況繁盛に赴くの際に臨み、速に紙価を引上る効あるものなれども、之に反して市場の景況衰退の時に臨みて、紙価の低落を防ぐことを望むべき会にあらざるなり、然るに、或は聯合会が目下紙価の低落を防遏し得ざるを咎むる者あるは、此の理を推究せざるの過に坐する者なり、弊社の冀望する所は会員に於て審に前述の事情を酌量し、聯合会は今日其効を見ること鮮きも、一朝市場の景況一変して、旺盛の徴を現するに及ばゝ必ず其大に効力あるを信じて、今日の儘益聯合を固うするの方法を求められんことを要す、唯今日に在ては同会の費用稍多きに過ぐるが如くなるを以て、当分左記の方案によりて其費用を節減するを得ば、仮令聯合会に於て得る所の利益が目下の如く鮮少なるも、其れが為に受る所の損失は極めて少ければ、以て此会を永遠に維持するに於て何の難きことあらんか、依て左に其方案を記して会員諸君の議決を乞ふ。
これが其の全文であるが、議案といふのは聯合会条規第一条の聯合会定式会を廃し、其の費用弐百円を節約すること、会員の衆議に依り必要に応じて臨時会を開くこと、書記の給料を減じて経費を節約すること、本会の費用は各自の製紙高に応じて醵出すること、書記の事務章程を改正すること等、総て五項であつた。然るに此の時大阪製紙所は脱会の意向があつたのに、却て外国人の経営する神戸製紙所は書を寄せて我が社の趣旨に賛同の意を表して来た。依て七月二十七日臨時会を開き、本社の谷敬三、有恒社の高木要蔵・足助房次郎、神戸製紙所の森錠太郎の四氏会合し、大阪・梅津両所の退会を承諾し、其の結果残つたものは本社及び有恒・神戸の三製紙所となつたが、三社は会則などの改正を行ひ、是より結束して今後大に斯界の為に活躍しようと約した。而して本社が率先して、聯合会存続に尽力した功は空しからず、今日に至るも尚同業者唯一の機関となつて、紙業の発達に貢献する点が尠くないのである。