デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治31年2月17日（1898年）

浅野セメント工場其組織ヲ改メ資本金八十万円ノ浅野セメント合資会社ヲ設立ス。栄一、出資社員ト為リ、是日第一回社員総会ニ於テ監査役ニ選バレ、此後重任シテ同四十二年六月ニ至ル。明治四十年三月当会社資本金ヲ五百万円ニ増加ス。

浅野セメント合資会社考課状　第一回明治三一年七月
　　　　　　　　　　　　　　（浅野セメント株式会社所蔵）
　　　　浅野セメント合資会社第一考課状
明治三十一年一月一日ヨリ六月三十日ニ至ル本社業務ノ要領及諸勘定ヲ報告スルコト左ノ如シ
　　　　　本社事務ノ事
二月一日　警視総監ヨリ本社設立ノ認可ヲ受ク
同月七日　東京市区裁判所ニ於テ本社ノ登記ヲ了セリ
同月廿四日　東洋滊船株式会社支配人白石元治郎氏欧米出張ニ際シ、本社第三工場機械注文ヲ嘱托セリ
三月十九日　日本勧業銀行ヨリ本社地所家屋抵当トシテ、金八万円ヲ二ケ年間据置拾ケ年賦返済ヲ以テ借受ク
三月廿日　第三工場々所撿査ノ為メ、社長山口・福岡二県ヘ出張、四
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月九日帰京ス
○中略
　　　　貸借計算ノ事

　資産　　　　　　　　　　金額　　　　　負債　　　　　　　　　　金額
　　　　　　　　　　　　　　　円　　　　　　　　　　　　　　　　　　円
　未払込資本金　二二五、〇〇〇・〇〇〇　資本金　　　　八〇〇、〇〇〇･〇〇〇
　地所　　　　　　六五、六五五・〇〇〇　借入金　　　　　八九、三二六・〇〇〇
　器械　　　　　　九二、二八一・六九三　○中略
　建物　　　　　　二五、四一九・五〇〇　当半季利益金　　五二、九三六･二六二
　門司支店　　　三六六、八六七・一六八
　増設費　　　　　二九、二三九・七一九
　○中略
　合計　　　　　九六八、二七六・〇九五　合計　　　　　九六八、二七六･〇九五
○下略

　　　○第一工場ハ深川工場、第二工場ハ門司工場ヲ云ヒ、第三工場ハ長門国厚狭及ビ豊前国彦山村ヲ測量シ建設計画ヲ立テタルモ起工ニ至ラズ中止セリ。

浅野セメント合資会社総会提出議案綴
　　　　　　　　　　　　　（浅野セメント株式会社所蔵）
　　　　社員総会決議録
一、渋沢栄一・安田善次郎二氏ヲ監査役ニ撰挙スルコト
二、浅野総一郎氏ヨリ引継クヘキ諸帳簿計算ハ、監査役就任後、其監査ヲ経テ之ヲ認定スルコト
三、第三工場新設ニ係ル経営ハ直ニ着手スルコト
四、深川工場内第二増設工事ニ就キテハ、警視庁ニテ認可ノ有無ヲ確定シタル後、更ニ協議スヘキコト
五、未払込資本金三拾万円ノ内七万五千円ハ明治三十一年二月二十日限リ払込ノ事
六、未払込資本金残額金弐拾弐万五千円ハ工事ノ都合ニ依リ、必要ニ際シ二週間以前ニ通知シ、一回ニ金額ノ三分ノ一ヨリ多カラサル高ヲ以テ、数回ニ分チ払込ヲ為スコト
七、第三工場新設着手ニ付テハ、金弐拾万円借入ノ件ヲ安田銀行及第一銀行ニ交渉スルコト
八、第三工場設計資金ハ前項ノ金弐拾万円ノ外、諸積立金ヲ流用シ、尚金弐拾五万弐千九百円ノ不足アリ、此不足額ハ必要ニ臨ミ、現出資者ニ於テ其出資額ニ割当テ之ヲ負担スヘキコト
九、旧資本主立替金拾七万千七拾六円七拾五銭八厘ハ第五項ノ払込金及勧業銀行借入金ノ内ヲ以テ消却シ、其残余ハ第三工場増設資金ニ充ツヘキコト
　　　　　（浅野）　　　　　　　　　　（大川）　　　（尾高）
右決議候也　(印)　栄一　　(印)　（善）　(印)
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 (印)
　　明治三十一年二月十七日

　　　　承諾書
明治三十一年二月十七日、浅野セメント合資会社第一回社員総会ニ於テ、拙者監査役ニ当選候段承諾致候也
　　明治三十一年二月十七日　　　　　　　渋沢栄一栄一
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　　　○栄一、爾後明治四十二年六月六日辞任ニ至ル迄ノ重任年表左ノ如シ。

　　　　明治三三年三月二三日　再選重任
　　　　同　三五年二月三日　　〃
　　　　同　三七年一月二五日　〃
　　　　同　三九年一月二七日　〃
　　　　同　四一年二月二日　　〃

　　　○安田善次郎ハ監査役ヲ辞退シ、大川平三郎代ツテ就任ス。

浅野総一郎（浅野泰治郎　浅野良三著）　第三三八―三三九頁〔大正一四年二月改訂版〕
　○第七章
　　　　八、セメント（二）
○上略
　悪戦を続け苦闘を重ねたが明治十四年から十七ケ年間の努力は、芽に芽を噴いて五十万円の財産があると認められるやうになつた。漸く工場も拡張していゝ気運にあつたので、五十万円の中三分の二を自分のものとして、残り三分の一を渋沢さんに差上げたら、渋沢さんは、『俺の代表として大川を関係者として来たのだから、その三分の一は大川の名義にして、大川に与へるが、大川一人で取るべきものでもなからうから、大川の分の中の又三分の一を、俺の会計役をしてゐる尾高幸五郎に与へる。』
　と言はれた。
　斯くしてセメント工場は、総一郎と大川平三郎氏と尾高幸五郎氏との三人合資の五十万円の工場となつた。それへ拡張資金として、渋沢さんから十万円、徳川さんから十万円、安田さんから十万円、都合三十万円の出資をして貰つて、八十万円の合資会社とした、他から現金出資を得たのは此時が始めてゞある、これが明治三十一年二月である。
○下略
　　　○上掲「青淵先生と洋灰事業」及ビ「浅野総一郎」ニ記ス栄一出資額十万円徳川家十万円ハ誤ニシテ、後掲明治四十年三月ノ増資決議案ニ依レバ資本金八十万円ノ出資内訳ハ左ノ如シ。
　　　　　　　　　　　　　　　　円
　　　　浅野総一郎　三三五、〇〇〇
　　　　　　　　　　　　　　　　〃　　　　　　　　円
　　　　尾高幸五郎　　五五、〇〇〇　　五〇〇、〇〇〇（旧資本金払込済）
　　　　　　　　　　　　　　　　〃
　　　　大川平三郎　一一〇、〇〇〇
　　　　　　　　　　　　　　　　円
　　　　渋沢栄一　　二〇〇、〇〇〇　　　　　　　　円
　　　　　　　　　　　　　　　　〃　　三〇〇、〇〇〇（増加資本金七五、〇〇〇円払込）
　　　　安田善次郎　一〇〇、〇〇〇
　　　　右ノ中、浅野・大川・尾高ノ三名ヲ旧出資者ト称ス。払込資本額ニ対シテハ年八分配当ヲ業務執行社員（浅野総一郎）ニ於テ保証シ、之ニ満タザル時ハ旧出資者ノ取得分ヨリ補償スル規定ナリ。徳川家達公及徳川慶久公ノ出資ハ明治四十年増資以後ナリ。

浅野セメント合資会社総会提出議案綴
　　　　　　　　　　　　　（浅野セメント株式会社所蔵）
　　　　決議案
一当会社ハ其事業ヲ拡張スル為メ増資ノ必要ヲ認メ、従来ノ資本金八拾万円ヲ五百万円ト為シ、増資額四百弐拾万円ノ内百弐拾万円ハ左ノ如ク旧出資額ニ準シ、財産ノ増価ヲ以テ払込ニ充テ、残額三百万円ハ改正定款ノ規定ニ従ヒ、払込ヲ為スヘキコト、並ニ此趣旨ニ従
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ヒ定款ヲ改正スヘキコトヲ決議ス
　　一、金五拾万円也　　　　　　渋沢栄一
　　　　内旧出資額金弐拾万円也　増価額金参拾万円也
　　一、金弐拾五万円也　　　　　安田善次郎
　　　　内旧出資額金拾万円也　増価額金拾五万円也
　　一金弐拾七万五千円也　　　　大川平三郎
　　　　内旧出資額金拾壱万円也　増価額金拾六万五千円也
　　一、金拾参万七千五百円也　　尾高幸五郎
　　　　内旧出資額金五万五千円也　増価額金八万弐千五百円也
　　一、金八拾参万七千五百円也　浅野総一郎
　　　　内旧出資額金参拾参万五千円也　増価額金五拾万弐千五百円也
右之通
　　明治四十年三月一日
右ノ通リ五枚ヲ製シ三銭収入印紙貼用各自壱枚宛持帰リノ事

　　　　決議案
一未払込資本金参百万円ニ対シ、百円ニ付金五円ノ割合ヲ以テ明治四十年六月三十日限リ払込ヲ為ス事
右之通決議候事
　　明治四十年三月一日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　渋沢栄一(印)
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　安田善次郎(印)
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　大川平三郎(印)
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　尾高幸五郎(印)
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　浅野総一郎(印)

渋沢栄一　日記　明治三二年
一月三十日　曇
○上略　午後三時北新堀浅野総一郎氏ニ至リ、セメント合資会社ノ社員会ニ列シ、其計算書ヲ閲ス○下略

渋沢栄一　日記　明治三四年
七月十六日　稍晴
午前浅野総一郎氏来リ、セメント工場ノコトヲ談ス○下略

渋沢栄一　日記　明治三八年
七月二十八日　晴　暑強シ
○上略　四時過常磐屋ニ抵リ浅野セメント会社ノ会合ニ出席シ　○下略

（八十島親徳）日録　明治三六年　（八十島親義氏所蔵）
七月廿二日　雨
午後一時ヨリ若主人ハ男爵代トシテ浅のセメント会社ヘ監査ニ赴カルルニ際シ同行ス、惣一郎氏引接シ監査終リテ工場ニ案内シ、且此度輸入ノ輪転竈ヲ示サル