デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2017.12.19

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

3章 商工業
25節 取引所
1款 東京株式取引所
■綱文

第13巻 p.473-495(DK130037k) ページ画像

明治20年1月30日(1887年)

是日栄一、益田孝・大倉喜八郎ト共ニ、農商務次官吉田清成ト会談ノ予定ナリシモ微恙ニヨリ果サズ。コノ会合ノ何ノ為タルカヲ詳ラカニセズト雖モ、曩ニ農商務省ニ於テ、栄一等ノ意見ヲ酌ンデ編成、閣議ニ提出セル商品取引所条例草案ノ修正ヲ要スベキコトアリ、是年ノ首ニアタリ、更ニ討議修正、二月二十八日再提出セシコトアレバ、或ハコノ件ニ関スルカ。


■資料

渋沢栄一 書翰 吉田清成宛(明治二〇年)一月三〇日(DK130037k-0001)
第13巻 p.473 ページ画像

渋沢栄一 書翰 吉田清成宛(明治二〇年)一月三〇日
              (京都帝国大学文学部国史研究室所蔵)
  尚々只今本文之段申上候積之処ヘ御使被下候ニ付、乍失敬拝答仕候也
今朝拝趨之御約束申上候処昨夜来風邪気ニて何分罷出兼候間御違約之段不都合之至ニ候得共、吉田次官殿ヘ宜御申上被下可然御評議被下度候、此段拝答如此御坐候 頓首
  一月卅日                渋沢栄一
    益田様
    大倉様
   ○吉田清成ノ農商務次官ニ任ゼラレシハ明治十九年三月四日ニシテ、ソレヨリ元老院議官ニ転ゼシハ翌二十年七月二十六日ナルヲ以テ、本書翰ハ明治二十年一月三十日付ノモノナルヲ知ル。(顕要職務補任録参照)


農商務省第七回報告 第二〇〇頁明治二一年三月三一日(DK130037k-0002)
第13巻 p.473-474 ページ画像

農商務省第七回報告 第二〇〇頁明治二一年三月三一日
  商務局
○上略
    取引所
○上略 条例案ヲ編成シ同年○十九年十一月之ヲ内閣ニ提出ス、然ルニ提出案ニ対シ修正ヲ要スヘキ事アリ、二十年ノ首ニ当リ更ニ討議修正ノ上ニ
 - 第13巻 p.474 -ページ画像 
二月十八日ヲ以テ前案ト交換セリ○下略


秘書類纂法制関係資料(伊藤博文編)下巻第四八三―四九二頁〔昭和一〇年七月〕(DK130037k-0003)
第13巻 p.474-478 ページ画像

秘書類纂法制関係資料(伊藤博文編)下巻第四八三―四九二頁〔昭和一〇年七月〕
    商品取引所意見書(伊東巳代治)
 問題ノ要旨ハ商品取引所ハ仲買人ノ会社トシテ之ヲ設置シ、仲買人ノ利益ノ為ニ特種ノ商業ヲ壟断スルノ場所トナスベキ乎、将タ商業全般ノ進歩ヲ図ル為ニ商人ノ組合トシテ之ヲ設置スベキ乎ニ在リ。既ニ日本商法草案ニアルガ如ク、仲買人ハ固ヨリ仲買業務ノ措弁整頓ノ為ニ、組合又ハ会社ヲ構成スルヲ得ベキハ勿論ナリト雖、斯ノ如キ仲買人組合ハ全ク商品取引所ト異ナルモノナリ。
 各国商品取引所ヲ観ルニ、其原義トスル所ハ皆各商人ヲシテ其常員若クハ入場人《ウヰジトルス》タラシメ、且商業取引ノ媒介者トシテ仲買人ヲ其役員ニ選挙スルニ在リ。即チ
 仏蘭西国商法第七十一条
  商品取引所ハ商人船主株式仲買人其他国王ノ特許ヲ有スルモノヽ集会スル所ナリ(千七百九十五年十月二十日ノ法律第一条ヲ参考スベシ)
 白耳義国商法第六十一条
  商品取引所ハ各商業地ノ商人船主株式其他ノ仲買人ノ公共ノ組合ナリ。
 独逸国ニ於テハ商品取引所ニ関スル一定ノ法律ナク各商業地ニ対シ特ニ成定法ヲ設ケ明条ヲ掲グ。
 伯林千八百六十六年四月二十日ノ成定法第一条
  伯林商品取引所ハ政府ノ特許ニ依リ売買取引ヲ便利ニセン為メ商人仲買人代理人其他ノ人ノ集会スル所ナリ。
 ダンチツク千八百六十五年九月十四日ノ成定法第一条
  商品取引所ハ政府ノ特許ニ依リ売買取引ヲ便利ニセン為メ商人仲買人船主其他ノ人ノ集会スル所ナリ。
 コローン千八百六十二年六月九日ノ成定法第一条
  商品取引所ハ政府ノ特許ニ依リ、商法議所《(会脱カ)》ノ監督ヲ以テ売買取引ヲ便利ニセン為メ商人仲買人其他ノ人ノ集会スル所ナリ。
 ライプチヒ千八百七十年三月廿八日ノ成定法第一条・第三条並ニ第六条
  ライプチヒ商品取引所ノ目的ハ一定ノ期日ニ集会ヲ開キ、以テ売買取引ヲ便利ニスルニ在リ、成定ノ例外ヲ除キ何人タリトモ入場券ヲ所持シ、又ハ商法会議所ニ納ムベキ手数料ヲ払込タルモノハ此集会ニ臨ムコトヲ得。
 スタツトガルト千八百七十七年五月廿四日ノ成定法第一条並ニ第三条
  商品取引所ハ政府ノ特許ニ依リ商法会議所ノ監督ニ属シ、売買取引ヲ便利ニセン為メ商人仲買人及其他ノ者ノ集会スル所ナリ。
  集会ニ臨マントスルモノハ一年期ノ入場料ヲ払フヲ要ス。
 墺太利国千八百六十年二月廿六日ノ物産取引所条例第一条《プロデユースエキスチエンチ》・第五条並ニ第七条
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  物産取引所ノ目的ハ商品売買其他(保険船賃等ノ如キ)商業上ノ事務ヲ便利ニスルニ在リ。総テ独立ノ人ハ手数料ヲ納テ其集会ニ臨ムコトヲ得。
 千八百五十四年七月十一日ノ維納株式取引所条例第一条第二条並ニ第四条ニ於テモ亦同一ノ明条ヲ設ケタリ。
 和蘭国商法第五十九条
  商品取引所ハ商人船主仲買人商社出納取扱人其他商業《カシエール》ニ従事スル人ノ集会スル所ニシテ地方官ノ監督ニ属スルモノナリ。
 ルーメニヤ国千八百八十一年六月一日ノ法律第一条並ニ第二条
  商品取引所ハ総テ売買ヲ便利ニセン為メ商人船主仲買人並ニ代理人ノ集会スル所ナリ。
 凡ソ商品取引所ナルモノハ以上臚列スル所ノ原義ニ基テ設立スルモノニシテ独リ仲買人ノ為ニ之ヲ設立スルノ例アルヲ聞カザルナリ。
今更ニ紐育物産取引所ノ例ヲ挙ゲンニ千八百六十二年四月十九日ノ同取引所条例ニ依レバ同取引所ハ紐育商法組合会員ノ組織スル所タリ。
 然レドモ常員ニ関シテハ各国成定法ニ少異同ナキコト能ハズ、往時ニ在テハ商人ニ限リ常員タルコトヲ得、且常員ニ限リ商品取引所ニ於テ売買ヲ営ムヲ得ルノ原義行レ、現時合衆国並ニ独逸国ニ於テモ各地商社社員又ハ商法会議所ノ会員ハ其地ノ商品取引所常員タルベシト云フノ程度内ニハ此原義ヲ存シ守ルモノナリ。且名義上ニ於テハ其他ノ人ニテモ入場料ヲ納メ商業上ノ目的ヲ以テ入場セントスルモノハ集会ニ加フルコトヲ得ルト雖モ、実際斯ノ如キ入場人ハ例外ニシテ、商品取引所ハ依然トシテ通常商人ニ限リ出入スル所タリ。
 巴里商品取引所ニ於テハ往時商人ニ限リ其常員タルヲ得ルノ成規ナリシガ、近年入場料ヲ納ムルモノハ皆之ニ入場スルコトヲ許スニ至レリ。物産ノ売買ニ関シテハ商人ニ限リ入場ヲ許スヲ以テ通例トスト雖モ、株式即チ公債証書ノ売買ニ関シテハ、復タ敢テ然ラザルモノノ如シ。蓋シ株式売買ニ従事スルモノヽ内ニハ商人ニアラザルモノ多キガ故ニ、商人タルノ資格ヲ有セズト雖モ入場スルヲ得ルナリ。然レドモ仏蘭西国ニ於テハ株式ノ投機売買甚ダ盛ニシテ、国家ノ禍害ヲ為スガ故ニ、余ハ決シテ仏国ノ例ヲ以テ着実ニシテ且称揚スベキモノト認ムルコト能ハズ。何トナレバ株式売買ニ於テ投機輸贏ヲ争フノ賭博ニ類スル悪弊ヲ誘導スルノ憂アレバナリ。
 是レヲ以テ余ハ入場料ヲ納ムル商人ハ其地ノ商品取引所常員タルコトヲ得ルト云フ持説ヲ主張セントス。但、其他ノ者ト雖モ商法ニ従事シ、且成規ノ入場料ヲ納ムルモノニシテ商品取引所ニ出入セシムルコトニ付テハ余ハ敢テ反論ヲ唱ヘズト雖モ、独リ賭博ヲ目的ト為ス如キ輩ニ至テハ断ジテ其入場ヲ禁止セザル可カラズ。何トナレバ商品取引所ハ真実正当ノ商業ヲ営ムモノノ便益ノ為ニ設置スベキ組合ナレバナリ。
 商品取引所ハ左ノ方法ニ依テ之ヲ設置スルモノトス。即チ
 第一ハ組合又ハ会社ノ組織ヲ以テスルト否トヲ問ハズ、土地ノ商人商業上ノ建設物トシテ之ヲ設置スルモノトス。此ノ場合ニ於テハ商品取引所ノ役員ハ其商人ノ内ヨリ成立チ、其集会ニ出入スルハ自ラ
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其常員ノ専ラニスル所ニシテ、時宜ニ依リ臨時商業ニ従事スル者ニ出入ヲ許スコトヲ得ベシ。
 第二ハ仏蘭西国ニ於ケル如ク政府ノ設立ニ係ルモノトス。此ノ場合ニ於テハ商品取引所ノ事務ハ主トシテ地方庁又ハ中央政府ノ措弁ニ属シ、銀行者商人等之ヲ補助シ、商人ニ限リ又ハ其他ノ臨時商人モ均シク商品取引所集会ニ出入スルコトヲ得ルモノトス。
 以上二個ノ場合ニ於テ仲買人ハ商品取引所役員タルモノトス。
 商品取引所ノ組織ヲ独リ仲買人ニ限リ、仲買人ノ組織スル所ノ会社ヲシテ商品取引所ノ効用ヲ為サシメントスルガ如キハ決シテ多ク見ザル所ナリ。仏蘭西ニ於ケルモ猶ホ商人ハ或ル点ニ於テハ商品取引所常員ト認メザルコトヲ得サルモノアリ。何トナレバ商人ハ各自其専売税ノ額ニ応ジテ賦金ヲ為シ、以テ商品取引所ノ歳費ヲ支弁スルノ義務アレバナリ。
 故ニ商品取引所ノ入場人又ハ常人タルコトヲ許サレタル商人ハ、同商品取引所ニ於テ商業上ノ取引ヲ為スヲ得ベキモノトス。是レ各国ニ行ハルヽ通則ニシテ何ノ故ニ独リ仲買人ニ限リ商品取引所ニ於テ売買取引ヲ為スコトヲ得ル歟、是レ実ニ解ス可ラザルノ論ナリ。抑モ仲買人ナルモノハ何レノ国ニ於テモ他人ノ中間ニ立テ其商業取引ノ周旋ヲ為スモノニシテ、其聯務《(マヽ)》ヲ尽サンニハ公平無私ノ心ヲ以テ之ニ従事セザル可ラザルヲ以テ、自己ノ商業ヲ営ムコトヲ得ズ。若シ仲買人ニシテ自己ノ為ニ売買ヲ為スコトヲ得ル時ハ、自ラ物価ノ高低ニ依リテ自家ノ利害ヲ生ズルニ至リ、人々之ニ信任ヲ措ク能ハザル可シ。又斯ノ如キ許可ヲ仲買人ニ与フルノ要アルコトナシ。何トナレバ其員数ニシテ須要ノ点ヲ過グルコトナキ時ハ、其間ニ有害ノ競争ヲ生ズルノ恐ナク、且斯ノ如キ許可ヲ与フル時ハ反テ利益アル営業ヲ為スコト能ハザル可ケレバナリ。或ル地方ニ於テ法律ニ反シ暗ニ株式売買上仲買人ヲシテ法律ノ厳禁ヲ犯サシムルガ如キハ是レ一個ノ悪習タルニ外ナラザルナリ。法律ノ厳禁ハ左ノ如シ。
 仏蘭西国商法第七十四条並ニ第八十五条
  法律ハ仲買人ヲ認テ売買取引ノ仲買周旋人トナス。
  仲買人ハ何等ノ場合ニ於テモ又何等ノ口実アリトモ自己ノ名義ヲ以テ銀行事業又ハ売買取引ヲ為スヲ得ズ。
 倫敦仲買人規則
  他ノ商業ヲ営ムモノハ仲買業ニ従事スルヲ得ズ、又已ニ仲買人タルノ免許ヲ得タルモノニシテ商業其他ノ職業ニ従事スルモノハ、商社又ハ仲買人ノ雇ヲ解クベシ。仲買人ハ自己ノ名ヲ以テ小荷物ノ送状等ヲ認ム可ラズ。
 独逸国商法第六十六条並ニ第六十九条
  仲買人ハ売買取引ヲ為スタメニ公然選任セラレタル周旋人ナリ。
  仲買人ハ直接若クハ間接ニ自己ノ名義ヲ以テ商業ヲ営ムヲ得ズ、又其仲買業ニ於テハ自ラ其事ニ従事スベシ。
 合衆国ケント氏釈解巻二第六百二十二頁第六「ノート」
  仲買人ハ唯商業上契約ノ周旋ヲ為ス為ニ使用サルヽモノニシテ商品ノ所有権ナリ《(ク)》、又自己ノ名義ヲ以テ其取引ニ従事スルコトナカ
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ルベシ。何トナレバ仲買人ノ職業ハ取引即チ株式並ニ商品ノ売買ヲ周旋スルニ在レバナリ。株式仲買人ハ掛金ニテ売渡シヲ為スヲ得ズ、是レ其職業ノ常道ニアラザレバナリ。
 和蘭国商法第六十二条並ニ第六十五条
  仲買人ハ公然選任セラレタル周旋人ナレバ自己ノ名義ヲ以テ取引ヲ為スヲ得ズ。
 墺太利国千八百七十五年四月四日ノ法律
  仲買人ハ売買取引ノ為ニ選任サレタル周旋人ナリ。
  仲買人ハ自己ノ名義ヲ以テ何等ノ商業モ営ムコトヲ許サズ。
 ルーメニア国千八百八十一年六月一日ノ法律第三十五条
  仲買人ハ自己ノ名義ヲ以テ何等ノ取引モ為スヲ許サズ。
 仏蘭西ニ於テハ(商法第八十七条)仲買人ニシテ自己ノ名義ヲ以テ取引ヲ為シタルモノハ之ヲ解職シ、復ビ之ヲ仲買人ニ選任スルコトヲ得ズ。又孛墺其他諸国ニ於テモ之ト同義ノ成規アリ。
 商品取引所ノ組立ヲ仲買人ニ限ルノ不可ナル所以ハ独リ法律ノ通義ニ相悖ルノミナラズ、猶左ノ批評ヲ免レザルナリ。
 第一 何故ニ商品取引所ノ事務ヲ其地方商人ノ一小部ヲ成ス所ノ仲買人ニ限リ之ヲ委托スベシトスルカ。
 第二 何故ニ仲買人ニ限リ商業上ノ規則慣習ヲ設立ニ馴致スル事ヲ専ラニセシムベキカ。
 第三 何故ニ仲買人他ノ商人ニ協議スルコトナクシテ公定時価ヲ専定セシムベキカ。況ンヤ仲買人ト雖モ自己ノ名義ヲ以テ取引ヲ為ス以上ニ於テ何故ニ此ノ如キ専断ヲ許スベキ歟。
 第四 何故ニ仲買人ヲシテ、独リ仲裁委員ノ事務ヲ担当セシムベキカ。
 斯ノ如キ非常ノ権力ヲ挙テ仲買人ニ委托スル時ハ他ノ商人ノ正当ノ利益ヲ損害セザラント欲スルモ豈得ベケンヤ。
 仏蘭西ニ於テハ商品取引所ノ管理ハ警察官吏ノ権内ニ属ス、故ニ警察官ハ特ニ商品取引所委員ヲ搆成シテ其用ニ充ツ、他ノ諸国ニ於テハ其管理ハ常員ノ推挙ニ係ル、特別ノ役員若クハ其土地ノ尋常商人即チ商社役員ニ帰ス。
 仏蘭西ニ於テハ千八百一年四月十九日ノ命令第十四条ヨリ第十六条ニ至ル諸条ヲ以テ、株式仲買人ヲシテ組合ヲ組織シ、委員ヲ選挙シテ仲買人間ノ内部ノ取締ヲ掌リ、且其営業上相互ノ間ニ生ズル紛議ヲ調停セシムルコトヲ許シタリ。然レドモ斯ノ如キ裁決ハ強迫ノ権力アルコトナク、且其応用ハ株式仲買人間ニ止リ他ノ商人ハ其権力ニ屈従スルコトヲ要セザルナリ。
 草案第十九条ニ於テ、商品取引所ノ規則ニ犯触スルモノニ罰金ヲ科シ、又ハ之ヲ除名スルノ権ヲ商品取引所ニ与フルハ決シテ其当ヲ得ザルモノナリ。独逸ニ於テハ商品取引所ノ科罪権ハ瑣細ノ犯則ニ限リ之ヲ認許シ、罰金ノ最高額ヲ二十「ターレル」ト定メ、其以上ノ科罪ノ申渡ハ法庭又ハ警察官署ニ於テ之ヲ為ス。
 以上開陳スル所ニ依レバ農商務省ノ草案ハ其要点ニ於テ各国ニ行ハルヽ所ノ通義ニ反スルコト昭然トシテ明ナレバ更ニ充分ノ削正修補ヲ
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要スルナリ。


秘書類纂法制関係資料(伊藤博文編)下巻第四九三―五〇六頁〔昭和一〇年七月〕(DK130037k-0004)
第13巻 p.478-484 ページ画像

秘書類纂法制関係資料(伊藤博文編)下巻第四九三―五〇六頁〔昭和一〇年七月)
    商品取引所条例案意見書(ロヱスレル氏口述伊藤巳代治筆記)
 農商務省ノ提案ニ係ル商品取引所条例ヲ通閲スルニ、緊要ノ項目ニ関シテ杜撰ヲ免レザルモノ、及異議ヲ容ルベキモノ一ニシテ足ラズ、故ニ余ハ別ニ案ヲ起シ謹デ裁鑑ヲ仰グ。
 凡ソ商品取引所ハ商業上ノ利益ヲ謀ル為ニ設ケラルル公共ノ組合ニシテ、商品ノ売買取引スル為ニ商人ヲ集会シ公正精確ナル営業規程ヲ設ケ、各商品ニ正実ナル市価ヲ確定シ、信拠スベキ報告ヲ伝布シ、取引上ニ生ズル争論並ニ苦情ヲ予防調停シ、以テ商業取引ヲ便利ニシ、且ツ之ヲ発達セシムルモノナリ。之ヲ要スルニ商品取引所ハ確実ニシテ昌栄ナル商業ニ就テ、前述ノ須要ニ応ゼンガ為ニ設立スル商人ノ集会所ナリ。然ラバ即チ商品取引所ハ素ヨリ官署ノ性質ニ属スルモノニアラズ、即チ政府ノ一部分ニアラザルナリ。何トナレバ政府ハ商業ノ細事ニ干与シテ其責ヲ負フモノニアラズ。商品取引所ノ事務ハ商業上ノ智識ト実際ノ経験ヲ兼備スル商人自ラ之ヲ措弁セザルベカラザレバナリ。而テ商品取引所ハ商業上ノ会社即チ全ク自己ノ利益ノ為ニ或ル商業ヲ営マントシテ設スル私立会社ニ同ジカラズ。是レ商業ノ会社ト商品取引所ノ相異ナル所以ニシテ、商業上ノ会社ハ二三ノ商人協力シテ利益ヲ収メン為ニ設立スル私立ノ組合ナリト雖モ商品取引所ハ一国ノ貿易及商業全体ノ便益ノ為ニ設立スル公共ノ組合ナリ。惟フニ日本ニ於テハ商品取引所ナルモノハ米穀等特殊ノ商業並ニ其利益ヲ壟断シ一般商人ニ対シテ売買取引ノ上ニ於テ其方法ヲ措麾スル為ニ二三資本家ノ特有ニ属スル組合トシテ之ヲ設立シ得ベキモノノ如ク考慮スル者ニアラン。若シ此ノ如キ目的ヲ以テ設立シタル商品取引所ナリセバ、或ル専科ノ商業ニ莫大ノ資産ヲ使用シ、所謂常員ナル者ハ自ラ其商品取引所ノ株主トナリ、随テ其株式ハ非常ニ騰昂シ、取引所ハ徒ダ巨利アル資本ノ注入所トナランノミ。抑モ真正ノ商品取引所ハ資本ヲ有シテ商業ヲ営ムベキモノニアラズ。其常員モ亦株主トナリテ以テ其株式ヨリ巨利ヲ博スルコトナシ。欧洲ニ於テ商品取引所ナルモノハ元来商人等ノ売買取引ヲ便益ナラシメン為ニ集会スル場所ヲ云フニ過ギザリキ。然レドモ其利益ハ専ラ会合ニ止マラズ、勢ヒ自ラ他ノ便益モ之ニ随伴シ来リ、殊ニ確実公平ナル営業規程及商業上ノ慣習ヲ馴致シ、必要有益ナル報道ヲ伝布シ、且商業上ノ事件ニ関シテ一定ノ裁判権ヲ有シ、彼ノ法廷ノ緩漫ニシテ洪費ヲ要スル審判ノ煩ヲ省クニ至リシコト等ヲ以テ、又商品取引所ハ或ル場合ニ於テ商法会議所ニ比スルヲ得ベシ。抑商法会議所ナルモノハ商品取引所ニ均シク公共ノ組合ニシテ、殊ニ立法上行政上ニ於テ商業ヲ発達セシムルコトニ関シ、実地ノ意見ヲ政府ニ具申スルニ於テハ、二者甚ダ相肖タルモノアリ。唯タ其異同アル点ハ商品取引所ハ専ラ一地方ニ於テ商人間ノ売買取引ヲ便ナラシムル為ニ設立セラレタルモノナリト云フニ在リ。而テ其便益ノ重要ナルモノハ載セテ条例第二条ニ詳ナリ。夫レ此ノ如キ便益ハ普ク其地方ノ商品ニ蒙ラシムベキモノニシテ、決シテ之ヲ二三ノ商人ニ専有セシ
 - 第13巻 p.479 -ページ画像 
メ、新ニ其常員タランヲ欲スル者アルモ之ヲ許否スル権ハ全ク旧常員ノ取捨ニ任ズルガ如キ情弊アルベカラズ。此主義ヲ推シテ論ズルトキハ、素ヨリ仲買人ノミヲ以テ商品取引所ノ常員タラシムベカラズ。凡ソ仲買人ハ代理人ト均シク商業上ノ輔助人ニシテ、売買ヲ為サントスル商業者ノ間ニ介立シ、以テ其双方ノ為ニ売買ニ関スル有益ナル報道ヲ為スヲ以テ其責任トス。是ヲ以テ仲買人ハ其商品取引所ノ内外ヲ論ゼズ、自己ノ為ニ商業ヲ営ムコトヲ許サレズ。是レ其職任ヲ尽スニ公平無私ニシテ利己ノ念慮ナカラシメンガ為ナリ。
 然ルニ農商務省ノ提案ハ以上論述スル所ノ要点ニ反スルモノ多シ。試ニ同省ノ提案ニ拠レバ、仲買人ニ限リ商品取引所ノ常員トナルヲ得仲買人ハ自己ノ名義ヲ以テ営業シ、其売買ヨリ起ル一切ノ義務ヲ負担スルモノナリ。
 農商務省立案ノ趣旨ハ全ク欧洲商品取引所ヲ組織スルノ主義ト相反シ、他ノ商人ヲシテ常員トナルヲ得セシメザルガ故ニ、其既ニ常員トナリタル者ハ商品取引所内ニ於テ売買スル商品ニ限リ殆ンド専売者トナルヲ得ベシ。言ヲ換テ之ヲ云ヘバ、商品取引所ハ巨利壟断ノ地ト為リ、仲買人ハ之ニ由テ利益スルモ他ノ商人ハ為ニ非常ノ不利ヲ被ルヤ必セリ。
 欧洲ニ於テハ決シテ巨利壟断ノ為ニ商品取引所ヲ設クルニアラズ、之ニ反シ商人一般ノ利益ヲ増進センガ為ニ之ヲ設置スルナリ。此ノ如クニシテ始メテ取引所ノ設立ハ其効用実益ヲ顕ハスベキナリ。余ノ知ル所ニ依レバ、常員ヲシテ売買取引ノ業ヲ専占セシムルモノハ独リ倫敦株式取引所アルノミ。素ヨリ此株式取引所ハ仲買人ヨリ成立スル純然タル私立ノ組合ナリ。故ニ新ニ常員ヲ加入セシムルノ権ハ其組合中ノ取捨ニ存スベシ。然レドモ竜動株式取引所ハ月々之ガ釐革アルノ必要ヲ感ジ、已ニ其端緒ヲ啓キタリ。畢竟此株式取引所ハ全ク他ノ商品取引所ト其性質ヲ異ニスルモノナリ。而テ日本商品取引所ヲ之ニ模做《(倣)》シテ設立セントスルガ如キハ万々得策ニアラザルナリ。
 余ノ新案ノ趣旨ハ、商品取引所ナルモノハ商業全般ノ便益ノ為ニ設立スル公共ノ組合ニシテ、其売買取引ヲ準備シ、且之ヲ整理スルノ便益ヲ与フルヲ以テ目的トシ、所在ノ商人ニシテ不正ナル者、殊ニ負債ヲ償還セザル者、又ハ其取引所ニ対スル義務ヲ尽スコトヲ務メザル者ヲ除クノ外、商品取引所ノ費用ヲ支弁スル為ニ相当ノ賦金ヲ納ムル者ハ、総テ商品取引所ノ常員トナルヲ得セシメ、自己ノ利益ノ為ニ営業セズシテ、他ノ商人ノ為ニ取引ノ業務ニ従事スル仲買人ハ商品取引所ノ役員ニ選挙セラルヽヲ得セシメントスルニ在リ。
 以上叙述スル所ノ如クナルヲ以テ、苟モ仲買人タル者ハ信用経験ナカラザルベカラズ。又必要ナル資格ヲ維持セン為メニ其員数ヲ限リ、之ヲシテ一定制限ノ下ニ居ラシメザルベカラズ。
 商品取引所ノ要ハ専ラ商業ノ利益ヲ図ルニ在ルヲ以テ、一定ノ程度ヲ設ケテ自由ナラシメザルベカラズ。之ヲ換言スレバ十分ナル結果ヲ得ベキ商業盛ナルノ地方アリテ、其地ノ商民商品取引所ノ設立ヲ望ム者アルトキハ、之ヲ設立スルノ自由ヲ与ヘザルベカラズ。然レドモ其設立ハ政府ノ認可ヲ経、且常ニ政府監督ノ下ニ在ルベシト雖モ、既ニ
 - 第13巻 p.480 -ページ画像 
上文ニ論ゼル如ク、商品取引所ハ果シテ政府ノ一部ニアラズトスル以上ハ、其管理ノ如キ之ヲ商人即チ其被選役員ノ手裡ニ委ネザルベカラズ。此点ニ於テ商品取引所ノ他ノ商業会社ト大ニ異ナル点アルヲ看ルベシ。乃チ商業会社ノ社員ハ収利ヲ目的トシテ特種ノ商業ヲ営ミ、為ニ其資本ヲ積ミ、便宜之ヲ其商業ニ使用シ、其会社内ノ協議ニ依リ何等ノ指揮命令ト雖モ之ヲ其役員ニ下スコトヲ得ルナリ。然レドモ商品取引所ニ於テハ此ノ如キ事絶テ無シ。商品取引所ニ於テハ役員ハ常員ノ信用ヲ有スルモノナラザルベカラズト云フノ故ヲ以テ、常員其役員ヲ選挙スルヲ正当ニシテ且便利ナリトスルナリ。而テ他ノ場合ニ於テハ常員役員ノ職務ニ干与スルヲ不可トス。何トナレバ役員ハ其職務上ニ於テ独立ノ地歩ヲ占メ、裁判官又ハ行政官ニ比スルヲ得ベケレバナリ。唯ダ専科委員ヨリ意見ヲ理事員ニ開陳シ、且疑議ニ渉ルモノハ理事員其忠告又ハ報道ヲ要求スルヲ以テ足レリトスルノミ。
 以上論述スル所ニ次デ起ルベキ問題ハ、凡ソ商品取引所ナルモノハ商業全般ノ為ニ設立スベキカ、将タ某種ノ商業ニ限リ之ヲ設立スベキカト云フニ在リ。而テ現時ニ於テ某種ノ商品、殊ニ重要ナルモノニ限リ之ヲ設立スベキノ説稍世上ニ伝播スルノ勢アリト雖モ、此問題ニ付緊要ナル点ハ、商品取引所ナルモノハ米又ハ茶等ノ如キ一種ノ商品ニ対シ、各別ニ之ヲ設立スベキヤ、乃チ十種ノ商品アル地方ニハ十種ノ商品取引所ヲ設置スベキヤ、否ニ在リ。然レドモ此点ニ付一理直截ノ言ヲ以テ答フルハ最モ難事ニシテ、然カモ実際ニ劃一ノ実例アルヲ見ズ。独仏二国ニ於テハ、一地方ニ一ケ所ノ商品取引所ヲ設置スルノ風行ハレ、伯林・ライプジヒ其他独仏二国ノ市府ニ於テモ亦然リトス。然リト雖モ墺英米国等ニ於テハ各種ノ商品ニ付分設スルノ習致アリ。故ニ株式取引所ト物産取引所ヲ分別シ、其物産ノ内ニ於テモ穀類家畜類ノ為ニ各別ニ之ヲ設置スルモノアリ。是レ其地方ノ慣行或ハ沿革ノ事情ニ因リ然ルモノトス。今汎ク観察ヲ下ス時ハ分設法ノ不可ナルヲ示スガ如シ。其理由ヲ挙グレバ、
第一 商品取引所ハ商法会議所ト均シク商業全般ノ利益ノ為ニ設置シ各種ノ商業ヲ奨励スルニ在ルヲ以テ、其役員タルモノ能ク各種ノ商業ヲ代表スル時ハ其目的ヲ遠スルヲ得。
第二 政府ヨリ之ヲ視ルモ商品取引所ヲ一個所ニ限ル時ハ、其監督上ニ便ニシテ且其業務上ニ著大ナル勢力ヲ及ボスコトヲ得。
第三 経済上ヨリ云フ時ハ商品取引所ヲ一個所ニ限ルノ利ハ其経費少ク随テ常員ノ納ムベキ賦金ヲ軽減スルコトヲ得。
第四 商業上ノ利益ヨリ論ズルモ、商品取引所ハ一地方ニ一個所ニ限ル時ハ、更ニ其勢力ノ強大ヲ致シ、自ラ其目的ヲ達スルニ便ナリ。一地方ニ於テ一個所ノ商品取引所ノ為ニ必要有力ナル理事員ヲ其商人中ヨリ選挙スルハ容易ナリト雖モ、若シ二個以上アリテ各適任ノ理事員ヲ得ントスルハ最モ難事ニシテ、殆ンド絶望ノ事タリ。家屋或ハ業務ノ為ニ欠クベカラザル要具其他取引上ノ便利ニ付テモ亦然リトス。又商人ノ為ニ云フモ、数種ノ商品ニ就テ営業セントスル時ハ、勢ヒ数多ノ商品取引所ニ出入セザルヲ得ズ。故ニ其往来ニ時間ヲ空費スルノ憂アリ。
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商品取引所真正ノ目的ヨリ観察スルモ、商業全般ノ為ニ設立スルモノニアラザレバ、決シテ其要ヲ得ルコト能ハザルガ如シ。夫レ商品取引所ハ啻ニ売買双方ノ為ニ市場トナルノミナラズ、売買取引ノ須要事項ヲ蒐集スル機軸タラザルベカラズ。試ニ売買取引ノ須要ヲ挙ゲンニ一ニ曰ク事実殊ニ商品ノ性質並ニ価値ニ関スル正当ナル報告、二ニ曰ク確実ナル市場時価ノ査定、三ニ曰ク商業慣習劃一ヲ保持スル事、四ニ曰ク商法ノ外ニ公正直実ナル営業規程ノ確定、五ニ曰ク法廷ヲ煩ハサズシテ売買取引ニ関シ商人ノ間ニ為スベキ調停和解等是ナリ。以上記載スル所ノ枢要事項ハ商品ノ種類ニ依テ其体裁ヲ異ニスト雖モ、皆均シク公正実利ノ精神ヲ以テ之ヲ貫通スルヲ要スルガ故ニ、各々其間ニ分離スベカラザル密着ノ関繋アルガ如シ。而テ分設ノ商品取引所ハ決シテ商業全般ノ為ニ設立スルモノヽ如ク強大ナル勢力ヲ顕シ之ト同一ナル効験ヲ顕ハスコト能ハザルナリ。其役員ノ如キモ亦夐カニ権力孱弱ニシテ重キヲ示スコト能ハズ。是レ其施措スル所商業全般ニ関シ統一ヲ主持スルコト能ハザレバナリ。夫レ既ニ此ノ如クナレバ各所ニ分設スル商品取引所ハ決シテ其創設ノ旨趣ヲ貫クコト能ハズ、殊ニ狭小ナル土地ニ於テハ単ニ之ヲ看ルニ一市場ヲ以テスルニ過ギザルベシ。
 以上ノ関係ニ於テ猶ホ爰ニ重要ナル一事アリ。乃チ商業全般ノ為ニ設立スル商品取引所ニ於テハ、不正ナル売買殊ニ賭博ニ類スル投機売買ヲ予防シ又之ヲ禁制スルヲ得ルハ分設商品取引所ニ於ケルヨリ一層容易ニシテ且実効ヲ奏スベシ。此一事ハ就中株式或ハ通貨ノ売買ニ就テ国家ノ財政上ニ重大ナル影響ヲ及ボスベシ。之ニ依テ観レバ商業全般ノ為ニ設立スル取引所ヲ以テ優等ナルモノト判定セザルヲ得ズ。但ダ特別ノ場合即チ仮例セバ全般ノ商業未ダ発達セズ、或ル商品ニ限リ売買取引ノ隆盛ナル土地ニ於テハ必ズシモ此説ニ適合セザルコトアリ然レドモ此ノ如キ土地ニ在テモ亦一個所ヨリ多クノ商品取引所ヲ設置スルハ甚ダ不可ナリトスル所ナリ。故ニ若シ商業上ニ変動ヲ生ズルコトアルモ、之ニ応ジテ商品取引所ノ組織ヲ変更セバ可ナランノミ。
 仮ニ一地方ニ於テ一種ノ商品毎ニ一個所ノ商品取引所ヲ設置スルトセバ、十種ノ商品アル地方ニハ十個所ノ商品取引所ヲ設置セザルヲ得ズ。若シ此ノ如クナレバ一定ノ規律ヲ維持スル能ハズシテ遂ニ其数ニ制限ナキヨリ不測ノ禍害ヲ惹起スルニ至ランノミ。
 以上全体ヨリ観察シ了リタルヲ以テ更ニ進デ特ニ左ノ諸点ニ付異見ヲ陳述セントス。
一 政府商品取引所ノ設置ヲ許可スルニ年月ヲ限ルベカラズ。何トナレバ某種ノ商業ヲ営ム者ニ限リ特種権ヲ与ヘラレ、他ノ商業者ニ向ツテハ之ヲ与ヘザルノ理ナケレバナリ。又特権ヲ有スル商社ノ為ニハ斯ノ如キ期限ヲ制定スルコト或ハ允当ナラント雖モ、苟モ一般商業者ノ利益ヲ増進スル為ニ設立シタル公共組合ノ為ニハ不利ナリト云ハザルベカラズ。
ニ 商品取引所ハ資本ヲ所有スル要ナキヲ以テ、其常員ヨリ株金ヲ募集スルコトナシ。其経費ハ成ルベク常員ヨリ之ヲ弁ゼザルベカラザルヲ以テ、常員ハ為ニ手数料ヲ納メ、尚ホ不足ナル時ハ補充賦金ヲ納ムルモノトス。又営業税ヲ徴収セラルベキ地方ニ於テハ常員各自
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ヨリ政府ニ納ムベキ営業税額ニ応ジテ其手数料並補充賦金ヲ課セラルベシ。若シ営業税ヲ徴収セザル地方ニ於テハ理事員会ニ於テ此手数料並補充賦金ヲ酌定スベシ。又手数料ニ等級ヲ設クルコトハ其酌定ヲ彼此ノ間ニ不公平ナカラシムル為ニ便法ナリトス。通常仲買人ハ他ノ常員ト同一ノ手数料ヲ納ムベキモノナリト雖モ、商品取引所ニ於テ其従事スル売買ヨリ生ズル収得金ハ甚ダ僅少ナラザルコトヲ得ベキガ故ニ、之ニ対シテ更ニ手数料ヲ課スルモ妨ナシトス
三 一地方ノ商人ハ必要ノ資格ヲ具備スルニ於テハ何人ト雖モ商品取引所ノ常員トナルノ権アラシムルヲ要ス。但不正実者若クハ負債ヲ弁償セザル者ハ常員トナルヲ許サズ。如何トナレバ商品取引所ハ公正着実ナル商業上ノ組合ナレバナリ。商品取引所ノ役員ハ自己ノ裁量ヲ以テ其常員ノ登簿ヲ制限スルノ権アルベカラズ。蓋シ取引所ハ壟断ノ性質ヲ有スル会社ニ異ナルヲ以テ擅ニ登簿ヲ左右シ私利ヲ謀ルノ道ナカルベシ。又婦女ヲ挙テ常員タラシメザルハ、男子ノ公会ニ女子ノ加入スルノ不便アルヲ以テナリ。然リト雖モ商法ニ依テ婦女ノ商業ニ従事スルヲ許シタル以上ハ、復タ以テ商品取引所ニ於ケル便益ヲ享受スルヲ禁ズベカラザルガ如シ。故ニ婦女ハ其代理人又ハ手代ヲシテ商品取引所ニ対シテ自己ヲ代表セシムルヲ得ベシ。
四 外国殊ニ独国ノ商品取引所条例ニ依レバ、常員ニシテ過失アルカ又ハ不正ノ所為アル時ハ之ヲ除名スルノ条款アリ、何トナレバ商業上ノ徳義ヲ維持スルハ国家ノ重事ニシテ、売買ヨリ生ズル紛擾百端ナルヲ以テ之ヲ予防セザルベカラザレバナリ。
五 総テ商品取引所ニ於テハ、其常員ノ売買集会時間ヲ一定スルヲ要ス。是レ常員ヲシテ商品取引所外ニ於テ其商業ノ為ニ拮据奔走スルニ便ナラシメ、且商品取引所ノ公務就中公定時価ノ査定並ニ仲裁事務等ヲ弁理スルノ便ヲ与ヘンガ為メナリトス。若シ之ニ反シテ時間ヲ制限スルコトナク、終日売買ヲ為サシムル時ハ精確ナル時価ヲ査定スルニ由ナシ。故ニ商品取引所ニ於テハ一定ノ時間ヲ恪守スルコト最モ緊要事トス。而テ其時間外ニ為シタル一切ノ売買ハ商品取引所ニ於テ之ヲ公認セザルベシ。
六 常員ハ通常其売買取引ノ為ニ仲買人ヲ使用スルノ自由アリ、何トナレバ仲買人ハ必要欠クベカラザル区域ノ外ハ権力ヲ有セザレバナリ。是レ近世ノ商品取引所条例ノ通則タリ。仲買人ヲ使用スレバ売買取引ヲ進捗スルガ故ニ、商品取引所ノ売買ハ多ク其媒介者ニ依テ之ヲ為スナリ。又巴里商品取引所ニ於ケル如ク、公債証書ヲ売買スル等或ル特種ノ取引ニ就テハ必ズ仲買人ヲ使用スルノ規程ヲ定ムルヲ得ベシ。凡ソ此ノ如キ例外ハ全ク政府ノ意見ニ存スルモノニシテ其目的トスル所ハ政府財政上ノ便宜ヲ増進スルカ、若クハ国家重要ノ商品ニ関スル営業規程ヲ決行スルニ在リトス。
七 新案第三十九条ニ載スル如ク、多少ノ特権ヲ商品取引所ニ与フルコトアリ、此特権ノ例ハ外国ニ於テモ亦往々之レアリ、現ニ墺国商品取引所条例ノ如キ是ナリ。蓋シ商品取引所ノ売買ハ其商品取引所ノ権内ニ於テ之ヲ為スモノニシテ、一個人ノ売買ニ於ケル如ク法廷ノ故障干渉ヲ受クベキモノニアラザルガ故ナリ。
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八 仲買人ノ資格及其職務執行ニ関スル法律ノ意義ハ載セテ商法ニ詳ナルヲ以テ、復タ本条例ニ之ヲ記載セズ。而シテ其資格ニ関シテハ商法草案中左ノ如キ事項ヲ載セタリ。
 (一)仲買人ハ年齢二十五歳以上ニ限ルベシ、何トナレバ仲買人ハ其業務ニ就キ、多少ノ判断力及ビ経験ヲ有セザルベカラザレバナリ
 (二)仲買人ハ其選任セラレタル特種ノ商業ニ五個年以上従事シタル者ニ限ルベシ、何トナレバ仲買人ハ其商業ニ関シ殊ニ商品ノ価値性質売買ノ方法営業ノ慣習等ニ付、十分ナル意見ヲ有セザルベカラザレバナリ(三)仲買人ハ善良ノ声望ヲ有セザルベカラズ。何トナレバ仲買人ハ信用スルニ足ルベキ確実ノ人タラザルベカラザレバナリ(四)仲買人ハ前ニ述ベタルノ理由ヨリシテ負債ヲ弁償セザル者賭博ヲ為ス者、又ハ之ニ類スル所為アル者タラ《(マヽ)》ザルベカラズ。仲買人ハ其商品取引所ノ売買ヨリ生ズル罰金又ハ損害賠償ニ充ツル為ニ保証金ヲ納ムベシ。仲買人ハ啻ニ其業務上ニ於テ為ス所ノ犯罪ニ対シテ加罰セラルヽノミナラズ、義務上ノ怠慢ニ依リ其売買主ニ被ラシムル損失、其他不正ノ所為ニ対シテ其責ニ任ズベキモノタリ。而シテ其保証金額ハ商業ノ状況及ビ仲買人ノ要償予算額ヲ酌量シテ各商品取引所ニ於テ各別ニ之ヲ定ムルヲ要ス。
 仲買人ノ法律ニ於ケル義務ノ重要ナルモノヲ挙グレバ下文ノ如シ。
 (一)仲買人ハ其自己ノ名義ヲ以テ又ハ其利益ノ為ニ売買ヲ為サズシテ、売買主(顕名若クハ匿名)ノ名義ヲ以テ並ニ其利益ノ為メニ之ヲ為スベシ。又仲買人ハ商品取引所ノ売買ニ関シ時価ノ高低ニ利己ノ意見ヲ狭《(挟)》ムベカラズ。若シ然ル時ハ其職務ヲ公平ニ執行シ能ハザルヲ以テナリ(二)仲買人ハ売買主ノ代表者トシテ受授スベキモノヽ外、其売買主ノ為ニ金銭ヲ仕払ヒ、又ハ之ヲ受取ルベカラズ。何トナレバ仲買ノ職ハ代弁人又《フアクトル》ハ銀行者ノ職業ト同ジカラザレバナリ(三)仲買人ハ其売買ニ於テ売買主ノ為ニ自ラ従事シ、決シテ其代理人又ハ手代ヲシテ代理セシムベカラズ。何トナレバ仲買人ノ義務ハ其一身ニ関シタルモノニシテ、之ヲ執行センガ為ニ特種ノ資格ヲ要シ、若シ其資格ナキ時ハ法律上選挙セラルヽコト能ハザレバナリ。是ヲ以テ仲買人ハ筆算其他ノ技芸ニ関スル業務ニ限リ、代理人又ハ手代ヲ使用スルヲ得ベシ。其他仲買人記録簿ノ保存、約定記録ノ渡方及ビ仲買人手数料ノ受取方等ニ関スル規程ハ既ニ商法草案ニ於テ詳細記載シ且之ヲ解説シタルヲ以テ復ビ玆ニ贅論スルノ要ナカルベシ。
 該草案ニ依レバ仲買人ハ相集合シテ一ノ組合ヲ成シ、仲買人委員会ヲ構成スルコトヲ得ト雖モ、此ノ如キ組合ハ全ク商品取引所ニ同ジカラズシテ、特ニ仲買業ノ利益ヲ図ルベキモノタリ。然レドモ双方互ニ其細則ニ矛盾セザランガ為メ、仲買組合ハ商品取引所ト多少ノ連絡ヲ通ゼサルベカラズ。又仲買委員会ハ少クモ一名ノ代表人ヲ商品取引所ノ理事員会ニ出席セシムルヲ緊要トス。
九 農商務大臣ハ一国商務ノ監督主任者ナレバ、商品取引所ニ関シテ最高等ノ監視権ヲ執行スベキモノナリ。新案商品取引所条例ニ於テハ、多少ノ協同権ヲ大蔵大臣ニ委嘱セリ。蓋シ大蔵大臣ハ通貨ノ融
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通公債証書ノ売買其他国家ノ信用ニ関スル事項ニ付、政府財政上ノ利益ヲ監視スルノ任アルヲ以テナリ。是ヲ以テ株式売買ニ関スル事項ハ特ニ大蔵大臣ノ監督ニ属スベキモノナリ。
十 商品取引所理事員ハ其常員若クハ参観人ニ対シ多少ノ裁判権ヲ有スト雖モ、其程度ハ商品取引所ノ秩序ヲ整理センガ為ニ必要ナル範囲内ニ止ルベキモノナリ。其他商品取引所規程ノ犯罪ニ関シテハ之ガ処分ヲ担当ノ法廷若クハ警察官ニ仰ギ、以テ一定ノ管轄ニ違フコトナカルベキナリ。
十一 苦情並ニ争論ノ調停ニ関スル法理モ亦商法草案ニ詳載シタリ。然レドモ商品取引所ニ於テ為ス所ノ調停ヲシテ他ノ商業上ノ争論ニ於ケルヨリモ更ニ服従義務ヲ厳ニシ、且之ヲ有効ナラシムル為ニ、商品取引所ノ調停ニ関シ商法ノ意義ニ多少ノ更正ヲ加ヘタリ。例ヘバ商品取引所ノ常員ノ間ニ生ジタル争論ハ取引所ノ調停和解ヲ仰クベキノ義務、仲裁委員ノ身分及ビ裁決ヲ下スノ手続等ニ於ケルガ如シ。若シ被判人ニ於テ相当ノ事由ナクシテ裁決ニ服セザル者ハ、商品取引所ノ処分ニ服従セザルノ故ヲ以テ其常員タルノ資格ヲ禁止スベシ。事玆ニ到ル時ハ乃チ其事ヲ以テ法廷ノ審判ヲ仰グノ一途アルノミ。


秘書類纂法制関係資料(伊藤博文編)下巻・第五一六―五三三頁〔昭和一〇年七月〕(DK130037k-0005)
第13巻 p.484-492 ページ画像

秘書類纂法制関係資料(伊藤博文編)下巻・第五一六―五三三頁〔昭和一〇年七月〕
    鄙見 (河野敏鎌)
 近来取引所改革ノ議頻ニ興リ、頗ル世上緊要ノ問題トナリ、殊ニ直接ノ関係ヲ有スル商人賈客ノ間ニハ一層ノ感覚ヲ惹起シタルコト誠ニ自然ノ状勢ニシテ、凡斯等ノ施設ハ全国ノ殖産財用ニ非常ノ関係アルコト敢テ某ノ贅言ヲ要スルマデモ之ナク、而シテ其関係極メテ大ナルガ故ニ、之レガ改革ヲ施スニ方リテモ一挙一措務メテ之ヲ慎重ニシ、其本質ヲ精究シ其利害ヲ熟計シ、必ズ十分ノ審査ヲ尽シテ而シテ後決然之ヲ実行セラルベキコト是レ亦敢テ喋々ノ弁ヲ待タズ。抑旧ヲ去リテ新ニ就クハ世態ノ上進ニ伴フベキ自然ノ行路ニシテ、徒ニ之ヲ以テ奇ヲ好ミ新ヲ愛スルノ心ニ帰スベカラザルハ勿論、苟モ旧物ニシテ弊端アレバ翻然之ヲ改メテ吝ナルベカラザルコト固ヨリ当然ノコトニシテ、某ト雖モ夙夜之ヲ以テ志トシ、未ダ曾テ一日モ懐ニ忘レズ。然レドモ旧物ノ弊ヲ革ムルト新業ヲ刱始スルトハ、自ラ確然タル区別アリテ、旧物ノ廃スベキハ百弊アリテ其利ヲ償ハザル時ニ於テスベク、新業ノ興スベキハ百利アリテ其害ヲ償フテ余アルノ時ニ於テスベシ。利害ノ計較是ニ於テ乎最モ欠クベカラズ。而シテ凡社会ノ事物一トシテ利弊相伴ハザルモノナク、唯其多寡ヲ計リテ、利害ノ判ヲナスベキノミ。苟モ其害ノミヲ挙ゲテ之ヲ斥クレバ一事モ之ヲ実際ニ施スヲ得ザルベク、彼一利ヲ生ズルハ一害ヲ除クニ如カズトイヘルコト、往々事実ニ的中スルコトナレドモ、徒ニ一害ヲ除カントシテ併セテ之ニ伴フノ百利ヲ失フト、漫ニ一利ヲ興サントシテ総テ之ニ随フノ百害ヲ顧ミザルガ如キハ固ヨリ改良ニ任ズルモノヽ当ニ避嫌スベキコトト謂フベク、真成ノ改革ハ、利ノ在ル所ハ務メテ之ヲ存シ、害ノ存スル所ハ漸ヲ以テ之ヲ除クニ在リ。是レ固ヨリ某ノ私言ニ非ズ、当局者諸公ニ於
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テモ必ズ已ニ深思熟計セラレタル所ナルベシ。唯利害ノ判定ヲナスニハ事実ヲ以テ之レガ材料トナサヾルベカラザルガ故ニ、今聊カ某ガ親験スル所ニ由リ事実ヲ挙ゲ以テ諸公ノ参考ニ供セントスルノミ。苟モ採択セラルヽ所アラバ某ノ幸実ニ甚シ。
 今世上ニ喧伝スル商品取引所新設ノ論旨ヲ聞クニ、其新者ヲ以テ利トシ旧者ヲ以テ害トスルノ事由大抵下ニ論ズル三要点ニ出デザルガ如シ。
 其一ニ曰ク、商品取引所ハ大都会ニ欠クベカラザルモノニシテ、時価ノ平均ヲ保持シ投機者ノ妄濫ヲ防ガントスルニハ取引所ヲ設ケ、社員即仲買人ヲ定メ、以テ確実ノ売買ヲ為サシムルニ如クハナシ。而シテ限月取引ニ係ルモノハ米穀ト株式ト敢テ異ナル所ナキガ故ニ、之ヲ一所ニ集メ、之ヲ一条例管理ノ下ニ置クハ最便トスベキナリト。夫レ商品取引所ノ必要ハ今日敢テ論ズルマデモナケレドモ、株式取引ヲモ之ニ併スルハ某窃ニ以テ然ルベカラズト思惟セリ。
 抑物品ニ真価ヲ生ゼシメ、物貨ニ停滞不動ノ弊ヲ絶チ、需給ノ平均ヲ得セシメ、生産者ハ之ニ由テ労セズシテ販路ヲ得、安ンジテ業ニ従フヲ得ルハ商品取引所ノ用ニシテ、政府ノ公債証書諸会社株式ノ真価ヲ生ゼシメ、金融ノ繁閑金利ノ昂低ヲ徴シ、諸会社ノ盛衰ヲトシ、財本家ハ之ニ由リ労セズシテ運転ノ便ヲ知リ、安ジテ金融ノ道ヲ得ルハ是レ株式取引所ノ効ナリ。一ハ殖産ヲ利シ一ハ財用ヲ利ス。其目的性質自然相異ナルガ故ニ商業不振ノ時ト取引狭隘ナルノ地ニ在テハ往々之ヲ併一セルモノアリト雖モ、通邑大都商業ノ中心タル地ニ在テハ各別ノ施設ヲ要スルコト欧米諸国其実例多シ。蓋シ事物ノ進歩ニ伴フテ事業ノ繁密ヲ来シ、従テ分業ノ必要ヲ生ズルコト論ヲ俟タズ。苟モ将来ノ発達ヲ謀ラントスレバ、新置ノ際已ニ之ヲ分設スルノ希図ナカルベカラズ。況ヤ今已ニ専業ノ株式取引所アリ、愈益業ヲ分テ以テ前途ノ盛大ヲ期スルハ宜シク然ルベシ。之ヲ廃シテ合業ノ取引所ニ帰スルハ或ハ喬木ヲ下リテ幽谷ニ入ルノ嫌ナシトセズ。東京ノ地商業振ハズ販路雍塞シ、取引亦広濶ナラズトセバ、合併ノ策或ハ不可ナカラン。苟モ吾国商業ノ中心タルヲ失ハズ、株式取引所ノ必要其設立ノ年ト敢テ異ナルコトナキニ於テハ、強テ退歩ヲ求ムルハ其理ナキニ似タリ。
 又従来ノ組織ニ従ヒ諸種ノ取引所ヲ別置スルハ徒ニ費用ヲ嵩ムガ故ニ、改メテ一所ノ管理ニ帰シ、以テ節約簡便ヲ期スベシトイフモノアリ。某ヲ以テ見レバ他種ノ取引ハ暫ク措キ、株式ヲ以テ他ノ商品ト同ジク一所ニ取引ヲナサシムルモ専業ノ役員、帳簿ノ取扱、仲買ノ熟練等自ラ旧取引所ト同様ノ殊別ヲ生ゼザルヲ得ザルベク、多少ノ節約簡便ハ或ハ之ヲ得ベシ。未ダ顕著ナル利用アリト謂フベカラズ。之ニ反シテ両種相異ナルノ事業ヲ併セテ之ヲ一所ニ集ムルノ弊ハ、必ズ混雑ト紛議トヲ免レザルベク、取扱フ所ノ物品ニ殊別アリ、実業者ニ殊別アリ、利害ノ感彼此互ニ相同ジカラズ。苟モ其間ニ立テ十分ノ整理調停ヲ施サンコトヲ期スレバ、自ラ其準備ナカルベカラズ。然ラバ論者ノ望ム費用節減ノ果ヲ得ズシテ却テ混雑紛議ノ煩ヲ観ルニ堪ヘザラントス。加之論者ノ中従前ノ組織ニ於テ株式仲買ノ両立セルヲ以テ利害ヲ殊ニスルノ弊アルヲ咎ムルモノアリ、事実ニ於テ斯弊ナキハ後段ニ
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陳述スルガ如シト雖モ、苟モコレヲ以テ弊ナリトスレバ、一所ニ集レル実業者ノ利害ヲ異ニセザルヨリ起ルノ弊ハ果シテ如何ナルベキ。論者ノ見玆ニ及バザルハ其ノ解スル能ハザル所ニシテ、当局者諸公モ必ズ某ト疑ヲ同クセラルヽ所ナラン。
 其二ニ曰ク、株主仲買人ノ両立スルハ弊害ノ存スル所ナリ。所謂併資会社ハ素ト株金ヲ募集シテ組織スルモノナレバ、会社ハ其株主総体ノ所有ニシテ其役員ハ即チ其株主総体ノ代任者ナルガ故ニ、唯株主ノ利害ノミヲ謀リ商業上全般ノ便否ヲ思ハザルニ至リ、又仲買人タル者ハ株主ノ利害ト相離レテ只管一個ノ私利ヲ営ミ、取引所ノ損益ヲ顧ミズ、遂ニ公然タル取引ヲ避テ密売買ヲナスニ至ル、是レ株主ト実業者ト利害ヲ異ニスルヨリ生ズル弊ニシテ、其極売買取引ヲ渋滞セシムルニ至ルト。某思フニ此ノ如キ弊害果シテ此ノ如キ会社ニ存スルモノトセバ、是レ決シテ組織ノ上ニ存スルニアラズシテ社員其人ノ徳義ニ存スルモノナリ。若シ夫レ社員中共同ノ利害ヲ忘レ、自己ノ利害ニノミ走ルトキハ何等ノ組織ヲ以テスルモ決シテ其害ヲ遏ムルコト能ハザルベシ。此ノ如キハ唯ニ株式取引所ノミナラズ、何等ノ会社ト雖モ其弊ヲ免レザルナリ。而シテ今実際上ヨリ取引所ノ組織ヲ観察スルニ、株主ハ仲買人ノ便宜ヲ謀リ、仲買人ハ取引所ノ繁昌ヲ主トシテ各其務ニ従事スルノ効果アリ。是レ道理上当然ノ事ニシテ、仲買人ノ利益ハ取引所ノ保護ヨリ生ジ、取引所ノ繁昌ハ仲買人ノ便利ヨリ来ルガ故ニ、其利害ノ相関スル所極メテ切実ナリ。斯ク切実ナル関係アリテ両者相扶ケ相頼ルノ必要ハ各自利害ヲ共ニスベキ情由ヲ其組織ノ中ニ存セシムルモノナリ。是レ事実ニ於テ両者利害ヲ異ニスルノ跡ナクシテ却テ利害ヲ同フスルノ情フル所以ナリ。論者又取引所ノ組織ニ就テ説ヲナシテ曰ク、株主ハ其資本ノ殖利ノミニ着目シ、仲買人ヲシテ市場ノ売買ニ多額ノ手数料ヲ払ハシメテ自ラ利センコトヲ勉メ、随テ取引上ニ不便ヲ生ズルノ弊アリト、是レ亦思ハザルノ甚シキモノナリ。元来株主ノ組織ハ株主ニ於テ仲買人ニ対シ売買上ノ保険ヲナスモノナレバ、仲買人ハ之ニ対シテ手数料ヲ払フハ理ニ於テ当然ナルノミナラズ、従来ノ実験ニ於テモ仲買人ハ常ニ此事ヲ以テ便ナリトシ、客モ亦此事ヲ以テ至当トナシ、毫モ此等ノ為メニ取引ヲ渋滞ナラシムルノ弊アルコトナケレバナリ。
 現行ノ条例ト雖モ未ダ以テ安全ナリト云フヲ得ズ。然レドモ熟ラ同条例ノ頒布以来今日ニ至ル迄ノ沿革及ビ実際ノ成跡ニ就テ観察スルトキハ思ヒ半バニ過グルコトアリ。抑モ同条例ノ初メテ裁定セラレシ当時、民間ノ情況如何ヲ顧ルニ慣習ノ然ラシムル所世上頗ル商業ヲ賤ムノ風アリ。殊ニ往日ノ米市場ト称スルモノハ奸商狡賈ノ奇利ヲ博スル賭場ノ如ク、正業ノ最モ忌避セル所ナルヲ知ルベシ。徳川政府モ常ニ之ヲ目シテ狡商ノ弊竇ト做シ、遂ニ法律ヲ以テ其効用ヲ発作スルノ念ヲ絶チ、唯其害ヲシテ甚シキニ至ラシメザルヲ以テ管理ノ目的トセシモノノ如シ。明治七年ニ至リ米油限月売買ヲ差止メ、更ニ此営業ヲシテ同年第百三十八号布告株式取引所条例ニ傚ハシメントシ、次デ明治九年第百五号布告ヲ以テ米商会所条例ヲ頒布セラレ、其後明治十一年第八号布告ヲ以テ株式取引所条例ヲ改正発布セラレタリ。此ニ於テ米
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商ト株式ノ別漸ク劃然タルヲ得タリ。惟フニ此条例中株主仲買両立ノ組織ヲ為シタル所以ハ、因襲ノ久シキ世ノ仲買人ヲ視ルコト猶或ハ往日ノ相場師ニ於ケルガ如キ情アルガ故ニ、安ジテ取引ヲ委托スルヲ得ザルニ由リ、条例ニ於テ別ニ株主ナル者ヲ設ケ、資金ヲ備ヘ以テ仲買人ノ取引上ニ対スル保険ニ供セシメ、専ラ商業上ノ安固ヲ求メタルモノナリ。是レ此組織ニ由リテ株主ト仲買人ヲ両立セシメ、取引上ノ危険ヲ防護スルノ本意ヲ達シ、頗ル世上ノ信用ヲ誘起シタルヲ知ルベキナリ。要スルニ此条例アリテ株式取引所ハ他ノ会社ト相分レテ始メテ真成ノ市場トナリ、漸ク商業発達ノ状ヲ呈シタリ。果シテ然ラバ株主モ仲買人モ皆此条例ヨリ生出セルモノニシテ、商業ノ発達シタルモ亦此条例ノ効果ニ帰セザルヲ得ズ。
 然レドモ明治二十年ノ商業世界ハ、復タ明治十一年ノ商業世界ニ非ズ。十年間ニ現ハレタル事物ノ進歩ハ現行ノ条例ニ改良ヲ促スノ情勢ナキニ非ズ。故ニ今日ニ当リテ取引所ノ制ヲ改良スルノ基ヲ立テ漸ヲ以テ之ヲ実行スルノ計画ヲ定ムルハ実ニ緊要ノ事ニシテ、某ノ最モ希図スル所ナリ。若シ此改良ヲ求ムルニ於テ株主仲買人両立ノ制ニ弊害アルヲ認メバ、仲買人ヲシテ相当ノ株式ヲ所有セシムルモ可ナリ、又株式ヲ売買セシムルトキハ常ニ責任者ノ移動ヲ生ジ、資本緊固ナラズシテ商業上ノ弊害ニ帰スルトノ説ニシテ多少拠ルベキノ道理アラシメバ其売買ニ就テ適当ノ制限ヲ設ケ、以テ資本ヲ堅クスルノ方法ヲ定ムルモ決シテ難キニ非ズ。又資本薄弱ナリトノ慊アラバ更ニ株式ヲ増加セシメ、多額ノ資本ヲ募集スルモ亦可ナリ。之ヲ要スルニ現在成立セルモノニ就キ至当ノ改良ヲ加ヘ、以テ世ノ期望ニ副フノ道ヲ求ムベキノミ。某実ニ改良ヲ希図スルモノナリ。唯之ヲ急劇ノ手段ニ求メズシテ円滑ノ方便ニ求ムルモノナリ。夫ノ現制ノ弊害ノミヲ察シテ之ヲ矯正スルニ鋭意ナルヨリ、現制ヲ挙ゲテ之ヲ破壊シ之ニ代フルニ全ク経験ナキ新制ヲ以テシ、以テ旧物ニ勝ルノ便益ヲ其改革ニ収メントスルガ如キ、某未ダ其得策タルヲ信ゼザルナリ。凡ソ事物ニ経験ノ効アリ練習ノ用アリ、養成ノ果アリ、其実際ニ存スル事情ヲ究メズシテ単ニ旧物取ルニ足ラズ、宜シク之ヲ除却スベシト云フガ如キハ某未ダ其穏当ナルヲ知ラザルナリ。若シ夫レ従来我邦ニ取引所ノ設ナク、恰モ曠原ニ家屋ヲ築クガ如キ場合ナランニハ、直チニ欧米ノ法ニ傚ヒ一意新ヲ競フモ妨ゲナキガ如シト雖モ、今我邦ニハ已ニ久シク成立セル取引所アリテ民皆其便ニ由リ、其益ヲ受ケ、数年来拮据経営シテ養成シタルノ信用ハ争フ可ラザル所ナリ。今時勢ノ進歩ニ応ジテ之ガ改良ヲ求ムルニ当リテ、旧物ヲ全廃シテ別ニ取引所ヲ新設シ、多年ノ間ニ生成シタル富ヲ取去テ他ニ移スガ如キ急劇ノ変動ヲ攪起スルハ、社会ノ秩序ヲ重ジ世帯ノ着実ヲ望ムモノノ最モ恐ルヽ所ナリ。人アリ或ハ曰フ営業期限内ニ於テ之ヲ廃スルコトアラバ激変ト云フベキモ其年限ヲ終リテ後更ラニ法律ヲ改メ新規ノ設置ヲ為スハ当然ニシテ誰レカ之ヲ争フモノアラント、此ノ如キハ坐上ノ理論ニシテ実務者ノ取ラザル所ナリ。所謂期限トハ其実改正期限ト認メテ可ナリ。已ニ一会社ノ設立ヲ認可シ、法律ヲ以テ之ヲ裁定シ、規定ヲ設ケテ之ヲ検束シ、其事ニ従フノ種族此ニ生成シ、其業ヲ営ムノ道途此ニ開発シ、数年ヲ経歴シテ
 - 第13巻 p.488 -ページ画像 
商業上最モ活溌ナル性質ヲ具有セシメタル今日ニ当リ、俄然之ヲ全廃スベシト云フガ如キハ政治上ノ徳義ヲ顧ミザルノ嫌ナキニ非ズ。蓋シ旧物ニシテ之ヲ滅絶スルノ外他ニ改良ノ道ナシトセバ、固ヨリ已ム可ラズト雖モ、他ニ改良ノ道アルモ捨テヽ講ゼズ、一概ニ旧物ヲ滅絶シテ既ニ成立セル富ヲ取リテ新タニ他人ニ授クルガ如キハ徳義上忍ブベカラザルコトニシテ、人情其不幸ヲ感ゼザルヲ得ズ。既ニ人情ニ感ズベキ徳義上ノ責アリトセバ、仮令表面ノ論理ハ之ヲ防グニ足ルモノアリトスルモ、其事ノ激変ヲ咎ムルニ於テハ其揆一ナリ。況ヤ人民ノ財本ヲ投ジテ事業ヲ興スモノハ皆信用上ヨリ成立スル結果ナレバ、徒ラニ理論ニ拠リテ之ヲ斥クルガ如キハ為スニ忍ビザル所ナルヲヤ。是レ某ガ此改良ヲ講ズルニ徐々其歩ヲ進メ、漸ヲ期シテ円滑ナル改良ヲ取ランコトヲ希望シ、急激ノ改革ヲ忌ム所以ナリ。
 其三ニ曰ク、従来ノ仲買人ナルモノハ多クハ鄙劣ノ徒ニシテ自ラ慎重セズ、唯空相場ヲ事トシテ奇利ヲ擁セント欲スルモノナルガ故ニ、世人ニ対シテ一切信用ナシ。故ニ之ニ換フルニ身元確実ナル紳商ヲ以テスベシト、是レ果シテ事実ヲ尽セルノ言ナルヤ。某ヲ以テ之ヲ視レバ或ハ一班ヲ挙ゲテ全貌ヲ槩
スルノ過ヲ免レザルニ似タリ。他ノ仲買人ハ玆ニ論ズベキ限ニ非ズ、当取引所ノ仲買人ニ在テハ明治十一年創業以来玆ニ十年、年ヲ経ル已ニ多クシテ斯業ニ従事スルモノ其人亦多シ。然レドモ密売買等ヲ以テ法律ニ触レタルモノ未ダ曾テ之アラズ。現品受渡ノ約期ヲ誤リタルモノ終始唯二人ノミ。而シテ深ク其情ヲ按ズレバ其二人ト雖モ痛ク其罪跡ヲ責ムベカラザルモノアリ。当取引所ノ仲買人ガ其本務ニ服スルニ於テ常ニ慎重ヲ専トシタルノ迹ハ某窃ニ識者ノ諒知セル所ナランコトヲ信ズルナリ。又其身元資産及営業上信用ノ如何ニ就テハ当取引所ノ実際報告ニ徴シテ之ヲ明判スルコト敢テ難シトセザルナリ。
 試ニ昨十九年下半期間ノ総出来高ヲ挙グレバ、諸公債証書額面八百○一万九千○四十円ニシテ(営業日数百四十四日平均一日ニ付五万五千六百十六円ニ当ル)此出来高ヲ仲買六十五名(総員六十七名ナレドモ内二名ハ一切営業ヲナサヾルニ依リ除ク)ニ平均スレバ一名ニ付十二万三千六十九円ニ当レリト雖モ、該半季間ハ公債証書ノ売買寡少ニシテ仲買人中此取引ニ従事シタル人員ハ僅ニ十名ニ過ギザルヲ以テ更ニ総出来高ヲ以テ十名ニ平均スレバ一名ニ付八十万○千九百○四円トナレリ。
 又同半期間ニ於テ諸株式ノ売買員額ハ四十八万千五百五十五株ニシテ(営業日割一日ニ付三千三百四十四株一分二厘ニ当ル)此出来高ヲ仲買六十五名ニ平均スレバ一名ニ付七千四百○八株五分トナレリ。而シテ同半期間売買取引上ヨリ生ズル手数料収入額ハ八万六千二百五十二円二十八銭五厘ヲ得タリ。此額ニ準ズレバ仲買人ガ収入スル口銭モ亦此割合ニ同ジカルベシ(取引所ニ収ムル手数料ノ額ト仲買人ガ収ムル口銭トハ其割合ヲ同フセシヲ以テナリ)試ニ之レヲ仲買人六十五名ニ平均スレバ一名ニ付千三百二十六円九十五銭八厘(一ケ月平均二百二十一円十五銭七厘余)トナレリ。又同半期間当取引所ニ於テ諸証拠金ノ出納金額ヲ算出スルニ、入高四百○八万六千百九十円五銭、出高
 - 第13巻 p.489 -ページ画像 
三百八十二万二千○二十三円九十銭ニシテ一日ノ平均有高ハ金四十六万七千五百二十七円トス。之レヲ仲買人六十五名ニ平均スレバ一人ニ付七千○九十二円七十銭余トナルベシ。
 夫レ取引ヲ為シタル公債株式ノ数此ノ如ク其レ多ク、客ヨリ領置シタル証拠金ノ額此ノ如ク其レ夥シ。而シテ仲買人ノ収利モ平均一ケ月二百二十円ノ多キニ上リ、現今普通商人ノ資産ニ比スレバ之ヲ中等以上ニ位セシムベキコト亦彼レガ如ク其レ明カナリ。之ヲ以テ身元資産ナキヲ危ブミ之ヲ以テ信用ナキモノトスルハ乃チ太過ナルコトナカランカ。夫レ密売買空相場ヲ忌避スルコト已ニ著シク信用ノ存スルコト亦顕然タルニ、論者ハ動モスレバ鄙劣無信ヲ以テ之ヲ誣ユ、某窃ニ当取引所仲買人ノ為メニ其不幸ヲ歎ジ、併セテ当路諸公ノ明固ヨリ涇渭ヲ分チ罪寃ヲ弁セラルルアランコトヲ期望スルナリ。
 抑身元トイヒ資産トイフニ固ヨリ一定ノ標準ナシ。今従前ノ仲買人ヨリモ身元アリ資産アルモノヲシテ斯業ニ従事セシメントイフハ、信用ヲ厚フスルニ於テ感覚上或ハ寸毫ノ効果ナキニシモアラザルベシト雖モ、抑亦何ノ必要アリテ然ルヤ、無限責任ノ取引所ヲ設クルガ如キハ蓋之ヲ今日ニ望ムベキニ非ズ、苟モ其責任ニシテ限ル所アリトセバ信用ノ存スル所ハ単ニ身元金ニ止マルベシ。身元金額ノ多寡ハ信用ノ厚薄ニ関スベキガ故ニ、権宜ヲ計リテ之ヲ増額スルハ固ヨリ可ナリ。之ヲ出スモノノ人物資産ヲ問フハ果シテ如何ナル重要ノ関係アリテ然ルヤ。況ヤ従前当所仲買人ノ身元資産已ニ世上ノ人ノ信用ヲ満足スルニ足リシコト事実ニ徴シテ明ナルニ於テヲヤ。又況ヤ一定ノ標準ナキ身元資産ヲ取テ、此レ彼レヨリ確実ナリトイヒ、信用スベシトイフモ定拠ナキニ於テヲヤ。世間固ヨリ紳商其人アリ、其人物資産依頼スルニ足ルベキモノ誠ニ多カルベシ。然レドモ其人果シテ自ラ仲買人ノ業務ニ従事スルヲ得ベキカ、必ズヤ従前ノ仲買人ヲ求メテ己レノ代理トナスニ止マルベキナリ。今夫レ人物資産已ニ依頼スベカラザルガ故ニ自ラ身元金ヲ納レ自ラ己レノ為メニ営業スルモ猶奸黠制スベカラズト思ハレタル仲買人ヲ以テ、直接ニ痛痒ナキ他人ノ使役ニ供セシメ、而シテ好結果ヲ得ント欲スルハ論者ノ思慮果シテ到ラザル所アルカ、何ゾ其前後相反スルノ甚シキヤ。抑事実ニ於テハ当所仲買人ノ身元資産固ヨリ論者ノ誣ユルガ如キニ非ズ、徒ニ紳商ノ声望ヲ仮リテ其外面ヲ塗抹スルモ、特ニ信用ニ益スル所尠キノミナラズ、紳商其人ノ撰択宜シキヲ得ザルニ於テハ往々不測ノ弊害ヲ生ズルノ虞ナシトセズ。今日紳商ト呼バルヽ人々ノ中、公債株式等ノ相場ニ手ヲ出シ各腹心ノ仲買ヲ擁スル事実ハ固ヨリ蔽フベキニ非ズ。而シテ当取引所ニ於テ現品受渡ノ約期ヲ誤リタル前後唯二人ノ仲買人ハ、果シテ如何ナル事情ニ由リテ罪責ヲ負フニ至リシカト尋ヌルニ、全ク客仲間ノ術中ニ陥リタルモノニシテ、悟ラズシテ圏套ニ落チタル仲買人ノ失計ハ固ヨリ憐ムベキモノアリト雖モ、故ラニ之ヲ陥レタル客ヲ精究スレバ或ハ紳商其人ヲ算入セザルヲ得ザルノ帰着ニ至ルベシ。乃チ新旧二制ノ利害得失更ニ明弁ヲ待タザルベキナリ。
 以上ニ述ブル所ヲ概括スレバ第一論者ハ商品取引ト株式取引トノ殊別ヲ注意セザルノ過アリ。第二現行組織ノ実際運用ニ通ゼザルノ過ア
 - 第13巻 p.490 -ページ画像 
リ。第三現行仲買人ノ身元信用ヲ誣ユルノ過アリ。凡ソ斯等ノ要項ハ事実ノ瞭然トシテ疑ヲ容ルベカラザルモノニシテ、新旧両制ノ得失ヲ判ズルニ方リテハ、第一ニ参考ニ資スベキ材料タリ。論者ノ改革ニ鋭意ナル、其志ハ固ヨリ嘉スベシト雖モ、狂奔ニ過ギテ事実ヲ誤リ、疎漏ニ失シ、利害ノ判ヲ顛倒スルガ如キアラバ特ニ新物ノ利用ヲ見ルコト能ハザルノミナラズ、旧物ノ遺利モ併セテ蕩滅ニ就カントス。当路諸公ノ明、改良ノ方案ト利害ノ計較トニ於テ策ニ遺算ナキコト固ヨリ某ガ言ヲ待タズ。唯其現ニ取引所ノ役員ニ列シ、実際ノ事業ニ従事セルガ故ニ心殊ニ利害ニ切ニシテ之ヲ事実ニ徴スルノ便宜亦頗ル備ハレリ、故ニ敢テ黙止セズ聊カ絮言ヲ以テ諸公ノ高聴ヲ煩ハス。改良ノ美事タルハ某ト雖モ之ヲ知リ、之ヲ企図シ、苟モ過激無謀ノ挙ニ出デズ確然タル根拠ニ由リ、政治上ノ徳義ヲ損セズ、円滑ノ改革ヲ為スノ道アレバ朝夕之ヲ聞カンコトヲ楽ミ、夙夜之ヲ言ハンコトヲ願ヘリ。唯一朝ニシテ急激ノ改革ヲ施シ、其利未ダ興ラズシテ其害先ヅ生ジ、旧物ヲ廃スルノ余弊遂ニ民人多年ノ経営ヲ一空スルガ如キハ某ノ最モ懼ルヽ所ニシテ、諸公ノ高見亦之レニ出デザルベキヲ知ルト雖モ、一片ノ愚衷切々偲々止ム能ハザルモノアリ、是ニ於テ乎尽言スルコト此ノ如シ。若シ夫レ改良方按ニ至テハ其亦千慮ノ一得ナキニ非ズ、幸ニ諮問ヲ辱フシ肺肝ヲ叩クヲ得バ、某ノ本懐何物カ之レニ加ヘン。書意ヲ尽サズ千万諒察ヲ賜ハレ。再拝
  明治廿年二月
   米商会所株式取引所組織改正ノ案ニ付テハ曾テ卑見ヲ陳シテ其得失ノ帰スル所ヲ論究セシガ、今復タ其改正順序ニ付テ最モ必要ト思考スル各項ヲ玆ニ摘載シ明鑑ニ供スルコト左ノ如シ。
一 米商会所並ニ株式取引所ハ従前ノ株式会社タルノ性質ヲ廃シ、更ニ仲買共立取引所ヲ創設セシムベキ事。
  玆ニ従前ノ株式会社ヲ廃シ、更ニ仲買共立取引所ヲ創設センコトヲ希望スル所以ハ、是レ等取引所ニシテ併資ノ性質タルハ其弊アリテ其利少ナク、寧ロ共立取引所ノ弊ナク、利アルニ若カザレバナリ。今試ニ其利弊ノ要項ヲ指点スレバ、併資会社ハ素ト株金ヲ募集シ以テ組織セルモノナレバ、会社ハ即チ其株主惣体ノ所有物ニシテ其役員ハ又株主惣体ノ代授者タルニ過ギズ。故ニ会社役員ハ成ルベク其所有者ナリ其委授者ナル株主惣体ニ利益ヲ与ヘンコトニ熱心スベキハ是レ当然ノ情状ニシテ、亦本分ノ務メト云フベシ。果シテ然ラバ会社ニ於テハ是非トモ会社一切ノ諸経費ニ充ツベキ外、尚ホ株主惣体ニ配当スベキ金額ヲモ収入中ニ要求セザルベカラズ。而シテ其収入ハ何レニ向テ要求スルト為サン乎。会社ハ之レヲ仲買人ニ要ムベク、仲買人ハ復タ之レヲ需用供給者ニ要スルノ外途ナカルベシ。如斯ハ徒ニ需用供給者ノ費途ヲ重クスルノミナラズ、為メニ売買ヲシテ渋滞ナラシムルニ至ルベキナリ。然レドモ共立取引所ハ之レニ反シ全ク仲買人中ヨリ組織セル方法ニシテ、取モ直サズ仲買人ノ一集会場ニ過ギザレバ、素ヨリ他ニ一ノ株主ヲ有スルコトナク従テ又配当金ノ必要ヲモ見ザルナリ。
 - 第13巻 p.491 -ページ画像 
而シテ其要スル費用ハ僅ニ諸経費ノ一項ニ過ギザレバ、其収入スベキ手数料モ可及的低減スルヲ得ベシ。然ルトキハ需用供給者ノ費途軽クシテ其売買ヲ活溌ナラシムルヤ必然ナリ。加之ナラズ仲買人ノ共有タルニ於テハ、其取引所ノ盛衰興廃ハ直ニ仲買人ノ利害ニ関係スルヲ以テ互ニ弊害ヲ匡正シテ繁栄ヲ謀ルニ至ルベシ。是ヲ以テ取引所ノ基礎愈々堅固ナルヲ得仲買人ハ益々正当着実ニ帰シ、遂ニ昔日ノ如ク自カラ法律ヲ犯シ法廷ヲ煩ハスノ醜態ヲ絶ツニ至ラン。
一 右ノ改正ヲ実施セント欲セバ先ヅ全国米商会所株式取引所ニ向テ目下許可セラルヽ年限ノ外ハ今日ノ条例ニ拠テ両会所ノ設立ハ禁止セラルヽノ布告ヲ発セラレ、且米穀又ハ株券公債証書等ニ於テハ共立取引所ヲ設置シテ其営業者共ニ一所ニ団集シテ定期又ハ現物ノ売買ヲ為シ得ベキ共立取引所条例ヲ頒布セラルベキ事。
  既ニ従来ノ会社法ヲ非トシテ之レガ改正ヲ要スルモ、苟モ条例ニ拠テ創立セシ各会社ヲシテ一朝俄然廃停セシムルハ其措置ノ宜キヲ得ルモノト云フベカラズ。故ニ現ニ許可セラルヽ年限ヲ以テ之レヲ禁止スル旨ヲ布告セラレ、之レニ共立取引所条例ヲ頒布セラルヽ時ハ、営業者ハ他日共立取引所ヲ設置スルノ目的ヲ得テ此類ノ営業ヲ渋滞セシムルノ患ナカルベシ。
一 共立取引所条例ハ欧米各国其制ヲ異ニシ、現ニ仏国ノ如キハ法制厳正ニシテ其仲買者ヲ免許スルハ大政院ノ裁可ヲ以テスルガ如キ鄭重ナル手続アリト雖モ、米国ノ如キハ之レニ反シテ此取引所ニ関シテハ毫モ政権ヲ以テ干渉スルモノナキガ故ニ、今此条例ヲ調査スルハ宜シク其土地人情ヲ斟酌シテ折衷ノ制ヲ設ケラレンコトヲ希望スルト雖モ、爰ニ其取引所ノ仲買人タルベキ者ノ資格及其他ノ要件ニ付テ二三ノ卑見ヲ開陳スルコト左ノ如シ。
 一、仲買人免許法ノ事。
  第一、仲買人タルベキ者ハ満二十歳以上タルベキコト。
  第二、仲買人タルベキ者ハ取引所所在ノ地ニ於テ其実業ニ満三ケ年以上従事セシ者若クハ該営業ノ練達ヲ明証シ得ベキ者ニ限ルベキコト。
  第三、仲買人ノ身元金ハ五千円以上一万円位ニ定ムベキコト。
   但此身元金ハ畢竟共立取引所ノ共同資産タルニ付、一同ノ申合ニヨリテハ公債証書ニテモ差支ナキノ寛恕法ハアリタキモノナリ。
  第四、仲買人ハ其取引ニ付テ二人迄ノ手代ヲ使用スルヲ得ベキコト。
   但此手代ノ取扱ニ付テハ仲買人其責ニ任ズベキコト。
  第五、身代限ノ処分ヲ受ケ其負債ノ義務ヲ果サヾル者、又ハ一ノ取引所ニ於テ違約者トナリタル者ハ仲買人ヲ免許セザルコト。
一 仲買人限数ノ事。
  仲買人限数ノ米商会所ヲ百五十名以上二百名、株式取引所ヲ百名以上百五十名位ト定メラレタキコト。
 一、共立取引所課税法ノコト
 - 第13巻 p.492 -ページ画像 
   現行法ノ如ク其売買高ニ賦課スルハ営業者重キニ堪ヘザルノ実情アレバ、更ニ之レヲ会社税即チ其取引所ニ収納スベキ手数料ノ全額ヨリ其幾分ヲ徴収スルノ方法ヲ制定セラレタキコト。
   但人為ノ激動ニ因リ相場空位ニ奔ル如キ弊ナキ能ハザレバ、政府ハ宜シク之レヲ抑制スルノ方法ヲ設ケザルベカラズ。依テハ此課税法ヲシテ臨時上下シ得ベキ余地ヲ備ヘ置キ、之レヲ以テ右等ノ弊ヲ防グノ用トナサレンコトヲ希望ス。
一 申合規則ノ事。
   申合規則ハ仲買人ヲシテ制定セシムベシト雖モ、其規則中ニハ必ズ頭取以下諸役員(仮令バ取引所ニ起レル紛議ヲ裁理スベキ者、又ハ仲買者ノ行為ヲ監察スベキ者)等撰任ノ手続ヲ掲載スベキ旨予テ政府ヨリ令達シ置カレタキコト。
一、共立取引所名称ノ事。
   共立取引所ハ穀物取引所株式取引所ト名称セシムベキコト。
一、共立取引所允許場所ノ事。
   共立取引所ハ成ルベク其数ヲ限制シテ濫設ノ弊ナカランコトヲ欲スルガ故ニ、此改正ノ際ニ於テ更ニ其土地人情及ビ商業ノ実況等ヲ審査シ、果シテ必要ナリト視認スル地、譬ヘバ東京大阪ノ如キ場所ノミニ限リ許可セラレタキコト。
一、共立取引所管理ノ事。
   共立取引所ハ其主務ノ省ニ於テ直轄セラレタシ、但シ一般取締ニ関スル警察上ノ如キハ、之レヲ地方庁ニ委任スル方便利ナラン。



〔参考〕中外物価新報 第一四八九号 〔明治二〇年三月二五日〕 ○米商会所協議会(DK130037k-0006)
第13巻 p.492 ページ画像

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〔参考〕中外物価新報 第一五〇八号〔明治二〇年四月一六日〕 現在相場会所の寿命定まる(DK130037k-0007)
第13巻 p.492-493 ページ画像

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〔参考〕中外物価新報 第一五一三号〔明治二〇年四月二二日〕 ○協同会(DK130037k-0008)
第13巻 p.493 ページ画像

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〔参考〕中外物価新報 第一五一六号〔明治二〇年四月二六日〕 ○協同会(DK130037k-0009)
第13巻 p.493-494 ページ画像

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〔参考〕中外物価新報 第一五一七号〔明治二〇年四月二七日〕 ○協同会(DK130037k-0010)
第13巻 p.494-495 ページ画像

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〔参考〕中外物価新報 第一五二一号〔明治二〇年五月一日〕 米商会所協同会の結了(DK130037k-0011)
第13巻 p.495 ページ画像

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