デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

3章 商工業
25節 取引所
1款 東京株式取引所
■綱文

第13巻 p.544-549(DK130050k) ページ画像

明治20年8月5日(1887年)

栄一等東京取引所創立委員十一名、創立仮事務所ヘ参集シ、八月三日ノ起草委員会ニ於テ調査セル事項及ビ規約編成上、条例並ニ施行細則中ノ疑義ヲ起草委員ヨリ当局ニ伺出ヅルコト、ソノ他ノ諸件ニツキ協議ス。


■資料

朝野新聞 第四一四六号 〔明治二〇年八月五日〕 起業委員会(DK130050k-0001)
第13巻 p.544-545 ページ画像

朝野新聞 第四一四六号〔明治二〇年八月五日〕
○起業委員会 一昨日東京取引所の起業委員渋沢喜作・朝吹英二・中
 - 第13巻 p.545 -ページ画像 
野武営・小川為三郎《(マヽ)》・町野五八の諸氏は坂本町なる銀行集会所の楼上に会し営業上のことに付種々協議を遂げし由なるが、当日協議せし件件は第一会員の入退会手続、第二会員権利義務、第三役員常置委員の人員配置、第四違約人処分に関する方法等にして本日午後五時よりは河野敏鎌・渋沢栄一等の諸氏を始め創立委員十五名が同所に集会して同案に付き更に審議を遂げらるゝ由なり


中外物価新報 第一六〇三号〔明治二〇年八月五日〕 ○取引所創立委員の集会(DK130050k-0002)
第13巻 p.545 ページ画像

中外物価新報 第一六〇三号〔明治二〇年八月五日〕
    ○取引所創立委員の集会
東京取引所創立員中の起草委員五名が一昨日協議会を開きたる摸様は既に前号の紙上へ記載せしが、尚其詳細を聞くに会員の入退手続、会員の権利義務、役員常置員の人員配置、違約人処分に関する方法等に就きても下相談を為したる由にて、尚此事に付今五日午後五時より創立委員河野敏鎌・渋沢栄一の両氏を始め其他委員一同が創立仮事務所銀行集会所へ会合して評議を遂げらるゝ筈なる由、又取引所条例施行細則第四条に拠り昨日農商務省並東京府庁へ届出られたる東京取引所創立委員の姓名は、河野敏鎌・渋沢栄一・早川勇・安田善次郎・西村虎四郎・三野村利介《(三野村利助)》・大倉喜八郎・川崎八右衛門・中村道太・谷元道之・渋沢喜作・朝吹栄二《(朝吹英二)》・中野武営・小川為次郎・町野五八の十五氏なりと聞けり


中外物価新報 第一六〇五号〔明治二〇年八月七日〕 ○取引所創立委員会(DK130050k-0003)
第13巻 p.545 ページ画像

中外物価新報 第一六〇五号〔明治二〇年八月七日〕
    ○取引所創立委員会
兼て中外物価新報に記載せし通り一昨日午後六時より東京取引所創立委員河野・渋沢・西村・川崎・早川・大倉・町野・渋沢(喜作)・中野・朝吹・小川等の諸氏が創立仮事務所へ参集し、去る三日起草委員の調査したる事項其他渾て規約編成上に付条例並細則の疑義に亘る不分明の廉々は書面に認めて起草委員より其筋へ伺出ることゝなり、又会員の資格は条例第二章の各条に規定しある外満一ケ年以上東京に在住し且所得税一ケ年に付金十五円以上(所得髙金千円以上)を納むる者に限加入を許すことに定めんとの協議もありて遂に同十二時頃一同退散し、尚昨日午後より起草委員が打寄りて伺書を作り多分明八日頃農商務省へ差出す筈なりと云ふ
   ○八月十六日農商務省官吏佐野常樹・同青木貞三、東京取引所委員ヲ命ゼラレ、十八日コノ旨創立仮事務所ニ通達セラル。ヨツテ二十日起草委員等会シ総代ヲシテソノ故ヲ稟伺セシム。次ギニソノ資料ヲ掲グ。


農商務省沿革略志 第一四三頁〔明治二五年四月〕(DK130050k-0004)
第13巻 p.545 ページ画像

農商務省沿革略志 第一四三頁〔明治二五年四月〕
○二十年
八月十六日 商務局次長佐野常樹ニ東京取引所委員ヲ命ス


中外物価新報 第一六一五号〔明治二〇年八月一九日〕 ○東京取引所特選委員(DK130050k-0005)
第13巻 p.545-546 ページ画像

中外物価新報 第一六一五号〔明治二〇年八月一九日〕
    ○東京取引所特選委員
今度東京取引所に特選委員を置るゝとの事に就ては前号の紙上にも記
 - 第13巻 p.546 -ページ画像 
載したる通り、吾々は不明にして其今日に於て創立委員十五名の外特に委員を置くの必要なしと思考し居たれは早速其筋に至りて問合せたる処、右の評議はあれど未た決定したることなしとの事なりしかば直に其事由を報道し置たりしに、其筋にては此際是非に委員を置くの必要なる理由を発見されしものと見へ青木貞三氏を俄に農商務省の雇吏とし、更に同氏と佐野商務局次長へ東京取引所委員を命したる旨昨日午後三時頃突然農商務大臣秘書官より東京取引所創立事務所へ通達ありしに付、同事務所にては早速創立委員一同へ、夫々通知せられたる由、併し此事に就ては余程深き仔細のある事なりと云ふ者あれと如何にや


中外物価新報 第一六一六号〔明治二〇年八月二〇日〕 ○官選委員任命に関する疑惑(DK130050k-0006)
第13巻 p.546-547 ページ画像

中外物価新報 第一六一六号〔明治二〇年八月二〇日〕
    ○官選委員任命に関する疑惑
今度農商務省に於ては東京取引所に対して新に二名の委員を置かれし事は前号の紙上に記載せし如くなるが、此事に就ては吾々も如何なる必要ありしに因るや頓と其意味を解する能はざるに依り、創立委員其他の方々に右の理由を聞質したるも、吾々同様矢張り疑惑せるもの多し、今其疑惑の存する所以なりと云ふを聞くに全体取引所条例の主旨に拠れば農商務大臣が取引所に対して委員を命ずるは則ち其取引所の売買取引上又は会員並に役員の挙動如何にも公衆の安寧に妨害ありと云ふが如き場合に臨み始めて委員を命じ、其一般の事務を監察し取引所に関する法律命令の施行を監視し且つ其役員の集会を整理せしめらるゝ筈なり、然るに東京取引所は目下設立に関する規約其他の準備中にて未だ開設の場合に至らざるに突然官選の委員を命ぜられたるは抑も何の必要あるに因るや(第一)又此の委員を設けられたるは創立委員十五名の為す儘に打捨て置くときは到底完全なる東京取引所の設立を見る能はざるものと認定されたるが為なる歟、左るにても既に此の十五名の創立委員より出願したる東京取引所は疾く其設立を特許せられたるに、今更斯る不信用を被りたるは如何にも心外千万不可思議千万なり、但し政府の当局者は此際何か特に必要を認めらるゝ所あるにや吾々は如何にも其意の在る処を得るに苦しむなりと云へり、成程河野・渋沢・三野村・大倉・安田・中野・西村等の諸氏を始め創立委員に推選されし十五名の方々は皆経験あり名望あり財産あり智識ある孰れも全国屈指の紳商にして、此等の人々は最初些細の事情ありしにも拘らず其後互に相和合団結して専ら東京取引所の設立に尽力し諸事好都合に運びつゝある今日に於て突然此事ありし義なれば其人々の驚きも亦尤もの次第なりと云ふべし、併し斯て止むべきにあらざれば本日午前先づ起草委員の人々即ち渋沢喜作・中野武営・朝吹英二・小川為次郎並町野五八の五氏が銀行集会所内なる創立仮事務所へ参集し一昨日農商務大臣秘書官より達せられたる、佐野商務局次長並青木貞三の両氏が、官選を以て特に東京取引所委員に命ぜられたる理由に就て農商務大臣へ説明を請ふの廉々を評議せらるゝ筈にて、其要領は先つ両名の委員は条例第八条に拠りて任命せられたるものなる歟、或は他に理由ありて特選せられたるものなる歟、果して条例第八条に拠りて命
 - 第13巻 p.547 -ページ画像 
ぜられたるものなりとせば同例第六七条とは関係なき哉、又其大臣が委員を置くを必要と認められし点は何々なる歟、又官選委員は今日に於て何等の事務所を監察し何等の法律命令を施行し何等の集会を整理すべき権理あるものなる歟、特に官選委員の資格は如何なるものなる歟、又該委員は平常創立事務所へ出勤さるゝ者なるか或は時々出張さるゝものなる歟、又は全く来らさるものなる歟等の件々なるべしと云ふ、又其説明を得たる上更に創立委員一同の総会を開きて此事を報告し一同の評議を経て将来の進退を決せらるゝ覚悟なる由
又農商務省が右委員を命ぜられたる理由を聞くに本年五月頃より取引所創立に関しては種々の紛紜もあり、且つ株式取引所営業延期願の事もあり、其後創立の特許を得たるも此際能く調和整頓せしめ速に一般の安心を得せしめんとの主意にて、特に土方大臣より命せられたるものゝ由、又青木貞三氏を特命したるものは別意あるにあらず、もと相識の人にして此人ならば能く此事を処理するに足るべし、即其適任なりと認められたるが故なりと云ふ、左れば農商務省は固より公明正大唯東京取引所の為を思ひ特に大臣より命ぜられたる訳なれば都合に依ては数週若くは数月間にて解任せらるゝ事もあるべく、又大臣に於て必要と認めらるゝ以上は何時迄も引続きて置かるゝ由に聞けり


中外物価新報 第一六一八号〔明治二〇年八月二三日〕 ○起草委員の集会(DK130050k-0007)
第13巻 p.547 ページ画像

中外物価新報 第一六一八号〔明治二〇年八月二三日〕
    ○起草委員の集会
兼て本紙に記載せし通り東京取引所創立委員中の起草委員三四名は去る二十日午前仮事務所へ集会し、小川為次郎氏を起草委員の総代として農商務省商務局へ出張せしめ今度官選委員両名を置れたる理由を伺ひたる処、吉田商務局長の云はるゝには今度委員を設けられたるは大臣が特に必要と認めらるゝ廉ありて命せられたるものにして、其必要の点は大臣の意中に在て存するものなれは小官より敢て説明すべき限にあらず、勿論官選委員と民選委員との間には別に面倒なる関係なければ創立事務は矢張是迄通り執計ふて差支なしと答へられたる由、左れば小川氏は早速事務所へ立帰りて其旨を他の起草委員へ伝達せられしか、何分未だ監督を受くべき必要の事務も分らず又権限も判然せず創立事務は是迄通りと云へば別に干渉を受ると云ふにもあらざれば、是か為めに態々創立委員一同の集会を催すべき必要なしとて遂に其儘にて止みたりと云ふ


東京経済雑誌 第一六巻第三八一号・第二五四―二五五頁〔明治二〇年八月二〇日〕 ○東京取引所委員(DK130050k-0008)
第13巻 p.547-548 ページ画像

東京経済雑誌 第一六巻第三八一号・第二五四―二五五頁〔明治二〇年八月二〇日〕
    ○東京取引所委員
去る十六日の事なりとか農商務省より突然佐野常樹(商務局次長)青木貞三の両氏を官撰委員となせる旨取引所に向け通達ありしに付き、取引所にては未だ開業に至らざるに此達ありとは如何にも解し難し、時宜によれば其筋に申出でんと只管疑惑し居たりしに、翌十七日同省属官水野某来り前日の通知書は少しく都合あれば差戻し呉れよとの事なりしゆへ、扨てこそと其まゝ差戻せしに何故にや又々十八日に至り前の二氏を委員と為す旨の通達ありしと、尤も前の達書には青木貞三
 - 第13巻 p.548 -ページ画像 
氏の肩書に正六位とありしに後の達書には雇とありしよし、左れば此事に関しては何か入込みし次第もあるやに云ふものあり


東京経済雑誌 第一六巻第三八二号・第二九〇―二九一頁〔明治二〇年八月二七日〕 ○東京取引所官選委員(DK130050k-0009)
第13巻 p.548-549 ページ画像

東京経済雑誌 第一六巻第三八二号・第二九〇―二九一頁〔明治二〇年八月二七日〕
    ○東京取引所官選委員
過日佐野常樹・青木貞三の両氏が東京取引所委員に任命せられたることの信偽に関し種々の説ありしが、十九日の官報に両氏の任命を明記しあれば今や疑ふべからさる事実となりたるが、扨て十八日農商務大臣秘書官より此の事を取引所創立委員に通達せらるゝや、委員諸氏は皆な如何なる必要ありて官選委員を設けられたるものなるや更に其の理由を解する能はず、去りとて既に通達せられたる上は空しく捨て置くべきにあらずとて、廿日渋沢喜作・中野武営・朝吹英二・小川為次郎・町野五八の五氏は坂本町銀行集会所内なる創立仮事務所に参集して右の疑団に対し大臣に説明を請ふへき箇条箇条を協議したる由なるか、其の要領は大臣か両名の委員を任命せられたる理由は何等の必要に出てたるものなる歟、条例第八条に拠れるものなる歟、将た他に理由ありて然る歟、又た委員の権利・資格等は如何なるものなる哉等なりと云へり、之を要するに条例第八条に農商務大臣は必要と認むるときは取引所に対し委員を命し其一般の事務を監督し取引所に関する法律命令を施行し且つ其の役員の集会を整理せしむることを得」とあり更らに条例は其の場合を制限して(第一)一般の事務挙らさるとき(第二)法律命令を遵奉するを怠るとき(第三)役員集会の整理を欠くと思考するとき」とあるに東京取引所は僅かに本月一日附を以て特許状を下附せられ同く八日会員の資格及び取引法等に関する種々の疑問に対し創立委員より伺書を農商務省に捧呈し目下指令の下るを待居る最中にて、未だ取引所を開始せさる前なれば右の三項を適用して官選委員を設けらるべきにあらずとの理由より、創立委員を始め世上一般にも疑惑を引起さしめたることなり、然り而して大臣が委員を任命せられたる趣意は吾儕之を知る能はずと雖も、流石は半官報の聞えある丈けに東京日々新聞は、農商務省に伺ふも其の説明は凡そ吾曹が報知の趣意に異ならざるべしとまでに保証して、二十日の紙上に左の如く説明せり
 先づ東京取引所の創立に付きては本年五月以来其計画に従事すれども、計画者諸人の間に於ても種々の紛紜ありて其の相談も纏らんとして纏らず創立発起者が経営に苦心せるは世の挙て知る所たり、加るに株式取引所営業延期願の事もありて更に一層の混雑を添へたるが如し、其後創立の特許を得たるに紛雑は未だ全く氷散したるにも非るが如くに見ゆるなれば、農商務省は一方にては創立発起人の間を調和整頓を得せしめん事を望み、一方にては其の創立も速に運びて取引所創立委員に安心を得せしめん事を望て農商務大臣は特に此両委員を命ずるを必要とせられたるなりと聞く、去れば此の佐野・青木の両委員は取引所創立委員には非ずして寧ろ農商務省中の東京取引所創立掛りと云ふが如き位置なるべし、創立の相談其外は固より取引所創立委員が計画するに任せて佐野・青木両氏は敢て之に干
 - 第13巻 p.549 -ページ画像 
渉する訳には非ず、或は創立委員の開陳を聞きて之を大臣に具申し或は大臣若くは省議の意を創立委員に伝達し、且つは発起者の打合を円滑にし且つは官民の間の意を通じて隔靴の情なからしむるが為に命ぜられたるものと思はるゝなり
然るに翌廿一日の同新聞は全く前議を翻へし社説欄内に於て更に之を論じたるが其文中左の如き語あり
 (上略)此取引所ハ商業上の自治を行ふ場所とも見做すべき設立なれば苟も其の法律の範囲内に於ては其の商人をして経営するの自由を得せしむることを勉めざる可からざるなり(中略)未だ営業をも始めざる東京取引所に対して此条を適用せらるべき理なしとは世上が共に言ふ所にして、吾曹も亦今度の委員は決して此の第八条に出でたるに非ざるを信ず(中略)東京取引所設立の計画は創立員が為す所に任せられ置きても早晩其設立を見んは必定なり、良しや意外に遷延するとも、究竟東京商人等が自己の便利を得るを遷延するに過ぎざれば自業自得たるに外ならざるのみ、豈に之を催かし、之を助けて干渉するを要せんや、然るを農商務省が其創立の計画如何折合如何を気遣はるゝの余りに此の委員を命ぜられたること信切は則ち信切なりと雖も、世上より視れば寧ろ其信切は稍々信切に過ぐるが如しと考察する者もあるべし云々
右に拠りて見れは日報記者も政府が法律の範囲外に於て商人の事業に干渉すべからざることを認め又た今回の委員任命は条例第八条に基きたるにあらざるを明言せるを知るべし、然らば則ち大臣は如何なる法律に基き如何なる埋由に出てゝ此の委員を任命せられたるや吾儕は日報記者の説明に拠りて大臣の真意を知る能はざるなり、請ふ日報記者よ果して能く之を説明し得可くんは幸に之を説明せよ