公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15
第13巻 p.552-575(DK130052k) ページ画像
明治20年10月21日(1887年)
曩ニ東京取引所規約起草委員等、規約編成上参考スベク、取引所条例並ニ同施行細則中ノ疑義ヲ農商務省ニ伺中ナリシ処、是月十三日漸ク指令ノアリタルヲ以テ、十九日起草委員会ヲ開キ、尋イデ是日、栄一等創立委員十名創立仮事務所ニ会ス。然レドモ指令タル、徒ラニ峻厳ナルノミナラズ、取引所問題ニ対スル農商務省ノ方針モ亦同省人事ノ異動ニ伴ヒテ変化シ、是月十九日、曩ニ命ゼシ商務局次長佐野常樹等ノ東京取引所委員ヲ免ジ、マタ是日東京株式取引所ノ営業継続ヲ許可スル等ノコトアリ、創立業務ノ促進ニ必ズシモ利アリトセズ。ヨツテ暫ク形勢ヲ観望、所謂規程準則ノ公表ヲ待ツニ決ス。
中外物価新報 第一六六三号〔明治二〇年一〇月一五日〕 ○取引所に関する伺指令(DK130052k-0001)
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中外物価新報 第一六六三号〔明治二〇年一〇月一五日〕
○取引所に関する伺指令
東京取引所創立委員より規約編纂心得の為め取引所条例並同細則中の要点十九ケ条を抜摘し曾て其筋へ伺書を差出し置れし処一昨日指令ありし由なるが、該指令の主意は大抵創立委員の伺出でとは異なれりと聞く
中外物価新報 第一六六四号〔明治二〇年一〇月一六日〕 ○取引所に関する伺指令(DK130052k-0002)
第13巻 p.552-553 ページ画像
中外物価新報 第一六六四号〔明治二〇年一〇月一六日〕
○取引所に関する伺指令
東京取引所創立委員より曾て其筋へ差出されし伺書に対し去る十三日指令ありたる由は前号の紙上へ記載し置しが、尚左に其要領を記載して各地当局者の参考に供す
第一条 条例第二章第十二条に「会員たる事を得る者は其取引所々在の地に住居する商人云々」とある住居とは寄留人をも包含するは勿論と信じ候得共、其寄留日浅くして去就図り難き者をも均しく其寄留の名儀に泥み加入を許す時は朝に来りて夕に去るの徒を混入し自然取引上の不信用を来し申べきに付き寄留人中に就き聊か区別を設け、満一ケ年以上寄留する者にあらざれば加入を許さゞる規約を設け候て妨げ無之候哉
均しく寄留の内にも独身若くは其家族の幾分を携へ他人の家に寄寓致居候者有之、右等は最も去就の定め難き者と看做し候外無之、依て一家を為したる寄留者にあらざれば加入を許さゞる事と為し、又本籍者と雖他府県より転籍せし時限満壱ケ年に至らざる者は前項同様の弊を免れざるを以て加員を許さゞる規約を設け候て妨け無之候哉
(指令)別段の制限を設くることを得ず
第二条 前同条中に「会員たるの義ムを尽す事を得る者に限る」とあり、其義務を尽す事を得るや否やの見解は当取引所に於て定る身元金
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を差出し得るや否の範囲内に止むべきや、又は仮令身元金を差出すも資産薄弱にして其義務に堪へざる者と思料する者は該条例の精神に依り其加入を許さゞる儀に候哉、然れ共其身元の薄弱なるや否やを判別する事は至難の業にして苟も其依るべき標準を設けざる限りは容易に其取捨を役員の推定に一任するを得ず、故に一の標準を設け所得税十五円以上を納むる者にあらざれば加入を許さゞる事に規約を設けて妨げ無之候哉
(指令)前条に同じ
第三条 細則第十二条にある商社の代表人は支配人以上の役員に限るべき規約を設け妨げ無之候哉
(指令)支配人以上は制限すべきものにあらず
第四条 条例第十四条第四項に「第六条・第十五条に依り除名せられたる者」とあるに依れば、取引所設立後条例違反者及び取引上違約人は再び会員たるを得ざる儀に有之候処、従前相場会所、乃ち株式取引所・米商会社条例《(所)》に違反し、或は規約に違ひ除名せられたる者の如きも、条例に新旧の別こそあれ均しく相場取引上の法律規約に違反せしものにして固より信を措く能はざる者なれば、該条例の精神に準じ従前公許の相場取引所に於て反則若くは違約処分により除名せられ未だ其の権利を回復せざる者は、加入を許さゞることに規約を設けて妨げ無之候哉
(指令)第一条に同じ
第五条 非職官員は本年勅令第三十九号官吏服務紀律第十二条に関係なきものと看做し入会を許し候て妨げ無之候哉
(指令)非職官吏は明治十七年第三号太政官達官吏非職条例第二条及本年勅令第三十九号官吏服務紀律第十二条に依るべき者とす
第六条 条例第十二条に「会員に非れば取引所に集会し売買取引を為すことを得ず」とあるに拠れば会員は無論取引を為し得る者と信ずれども、無数の会員一市場に立会して競売買を為すことは実地に行はれざるのみならず結局取締法も相立ち不申る儀に付き、定期取引は仲買人に限るものとし会員は直取引の外定期取引を為さゞることに規約を設け妨げ無之候哉
(指令)会員の取引を制限し仲買人に定期取引の専権を与ふるの規約を設る事を得ず
第七条 会員の員数に制限なき時は、取引所創立及び維持の法確立せず、故に相当の人員を定限する規約を設け候て妨げ無之候哉
(指令)会員の数を制限する事を得ず
第八条 条例中会員の責任上分限の定め無之、然る上は若し取引所の負担に帰すべき損害弁償を要する事件の起る時は、会員連帯して無限の責任を負ふべき筋合に候哉
(指令)損害弁償を要する事件の事実を指明するに非ざれば指令すべき限にあらず(未完)
中外物価新報 第一六六五号〔明治二〇年一〇月一九日〕 ○取引所に関する伺指令(去る十六日の続)(DK130052k-0003)
第13巻 p.553-555 ページ画像
中外物価新報 第一六六五号〔明治二〇年一〇月一九日〕
○取引所に関する伺指令(去る十六日の続)
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第九条 細則第十五条に「会員は適宜人員を定めて組合を為し組合中より委員一名を撰定し役員に届出つべし、委員は其組合会員の代議人となり取引所の総会に列するものとす」とあれども組合を設くるは実地行はれ難き事と信じ候に付、総会員中に於て若干名を委員と定め之に公撰せしむるも妨け無之候哉
(指令)細則第十五条の組合を設けず又は同条に掲くる手続に依らずして組合の委員を公撰することを得ず
第十条 前条に反し会員の人数甚だ多からずして其数総会に出席するも妨けなき場合に於ては、別に委員を設けざるも妨け無之候哉
(指令)第九条の例に同し
第十一条 細則第三十二条にある仲買人の補助員にして若し其雇主たる仲買人病気等にて差支を生せし時は、役員に於て特に其代務を許し候ても妨け無之候哉
(指令)代務を許すことを得ず
第十二条 理事上便利の為め理事長の次に理事副長一名を置くも妨け無之候哉
(指令)本年勅令第十一号取引所条例第十六条に掲くるものゝ外役員を設くることを得ず
第十三条 細則第三十九条に「直取引は五日以内に受渡を為すべし」とあり、此場合に於ては定期取引の例に傚ひ証拠金を差入れしむるも妨げ無之候哉
(指令)定期取引に傚ひ証拠金を差入れしむることを得ず
第十四条 細則第四十一条に「定期取引の約定を為したる時は売主より其記名の売渡証書を買主に交付すべし」とあり、斯く一旦証書を発する以上は其の証書が本の記名者即ち売渡人に復帰する時は其の売買の結了するは勿論、其の売渡人にして他より同品種同限月の買付あるものも亦た之れを相殺し売買結了するの規約を設け候て妨け無之候哉
(指令)本条の売買契約は売主買主双方の間に結了すべきものなるを以て、其一方に於て細則第四十一条第二項の手続を経るに非らざれば其契約を他に譲渡すことを得ず、其売主又は買主の一方に於て其後他に売買の契約を為すも之を以て関係なき最初の売買契約と相殺することを得ず
第十五条 細則第四十三条に、定期取引の約定を鞏固ならしめんが為め、売買主の一方に於て証拠金の差入れを必要とする時は相手方に其差入れを請求することを得云々とあり、然れども売買上取締の為め一方の請求あると否とに拘はらず常に一定の額を定め置き売買結約の時は必らず双方より証拠金を差入ることに規約を設るも妨け無之候哉
又一旦証拠金を差入れしめたる後物価に高低を生せる時は一定の追証拠金を差入れしむるは当然と信じ候得共、此場合に於ては損の傾向ある一方(例へば約定後相場の騰貴せし時は売方、低落せし時は買方)より追徴するものと定め候て妨け無之候哉
(指令)前段細則第四十三条の定むる所に依る、後段規約を以て追証拠金を差入れしむる事を定むるは、他の一方より請求ある時に限る、但此場合に於て請求者は更に証拠金を差出す事を要せず
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第十六条 売買者の一方に於て違約者を生ずる時は其違約者の証拠金身元金を以て之を弁償せしめ、猶不足を生じたる時は、単に其相手者に拘はらず売買者一方の惣体を其損毛を割付べし(例へば売方の一人に違約者あれば其同物品の買方一同を相手と看倣し其損毛を其買付高に割付くるの類)の規約を設け候て妨け無之候哉
(指令)契約上の責任は其契約本主に止まり他人に及ぼすべきものに非ず
第十七条 細則第五十七条に「会議は理事長之が議長となるべし」とあれども委員の請求に依り臨時会を開く場合、時宜に依り出席会員の撰挙を以て議長を定むることを規約に掲くるも妨無之候哉
(指令)細則第五十七条の定むる所に依るべし
第十八条 条例第十九条に「役員は法律命令の範囲内に於て農商務大臣の認可を経て其業務に関し規約を定むることを得」とあるに依れば規約の編成は役員職権に属し総会の議決を要せすして農商務大臣の認可を請ふを得るものゝ如く、又細則第五十二条にある総会の議目に拠れば総会の議権に属し決議を要するものゝ如し、何となれば規約とは即ち細則第六条に列挙せる項目にして其関する所細則第五十二条に掲くる議目の範囲に含有せしものなればなり、右は何れに準拠し可然哉
(指令)業務に関する規約の編成は役員の職権に属す、但細則第五十二条に載する事項は総会の議に附すべきものとす
第十九条 仲裁を請ふものを受理するに時限なきときは啻に際限なきのみならず其事実を審理するに於て其便宜を欠く少なからず、故に六ケ月を経過したる者は仲裁の請求を受理せざることに規約を定むるも妨け無之候哉
(指令)仲裁の請求を受理すべき期限を定むるも妨けなし
中外物価新報 第一六六五号〔明治二〇年一〇月一九日〕 ○起草委員の集会(DK130052k-0004)
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中外物価新報 第一六六五号〔明治二〇年一〇月一九日〕
○起草委員の集会
東京取引所創立委員中の規約起草委員渋沢喜作・小川為次郎・朝吹栄二《(朝吹英二)》の三氏(中野・町野両氏は他行中)は本日午前十一時より創立仮事務所へ集会して別項に記する伺指令の件に付、創立員一同の評議会を開くや否やの相談を遂げらるゝ筈なる由
中外物価新報 第一六六六号〔明治二〇年一〇月二〇日〕 ○創立委員の総会(DK130052k-0005)
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中外物価新報 第一六六六号〔明治二〇年一〇月二〇日〕
○創立委員の総会
前号の紙上へ記載し置たる通り東京取引所創立員中の起草委員渋沢喜作・朝吹英二・小川為次郎・中野武営(中野氏は他行中の処一昨夜帰京したるに付臨時出席したり)等の諸氏は昨日阪本町の創立仮事務所へ参集し、兼て本紙上へ掲載したる伺書に対する指令の旨趣に基き将来取扱ふべき事務の順序方向等を相談されしも、到底起草委員限にて軽々に取極むべき事柄にあらざるを以て、愈よ明廿一日午後四時より創立員一同の総会を開きて評議を遂くる事になりたる由、尤も未だ新旧取引所接続の協議整はざる為め、新取引所創立の準備も是迄は兎角遅々として振はず事務も一向に捗取らざる姿なるが、今回伺書に対す
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る指令の主意に拠れば今後の摸様も敢て捗取るべき様にも想はれず、此末果して如何に成行すべきものにや
中外物価新報 第一六六八号〔明治二〇年一〇月二二日〕 ○東京取引所委員を免ぜらる(DK130052k-0006)
第13巻 p.556 ページ画像
中外物価新報 第一六六八号〔明治二〇年一〇月二二日〕
○東京取引所委員を免ぜらる
農商務省商務局次長佐野常樹・農商務省雇青木貞三の両氏が東京取引所委員を命せられたる事に付きては過般来世間にては不審を抱く者も多かりしか、最早其必要もなきに至りしものと見え去十九日孰れも右委員を免ぜられたり
中外物価新報 第一六六九号〔明治二〇年一〇月二三日〕 ○創立委員会の模様(DK130052k-0007)
第13巻 p.556 ページ画像
中外物価新報 第一六六九号〔明治二〇年一〇月二三日〕
○創立委員会の模様
兼て本紙上に記載せし通り東京取引所創立委員両渋沢・安田・西村・谷元・大倉・川崎・早川・中野・小川等の諸氏には一昨日午後四時より坂本町の創立仮事務所へ参集し、曩に起草委員五名より取引所条例並同細則の範囲内に於て規約編纂上適宜の便法を設くるを得るや否やの伺書を農商務省へ差出し置れし処、去る十九日指令《(三)》(本月十六・十九日の中外物価新報に掲載あり)ありしを以て該指令の主意を起草委員より一同に報告し創立前途の方法を評議せしも、何分該指令の通りにては実際上規約の編纂も頗る困難なるのみならず、且其筋にては頃日来頻りに新取引所創立の速かならんことを勧告し乍ら又旧取引所に向ては延期を与へられしのみならず、本年九月一日より実施すべしと云ふ取引所条例に随伴すべき税則の発令もなく、又一旦必要ありと認めて特命ありし東京取引所官選委員両名も最早必要なきに至りしものと見へ、去る十九日突然被免せられ、又独り東京のみならず桑名・大津・大坂等の取引所より規約認可願として四五十日以前より出京し居る各創立委員へも内達ありし彼の規程準則と云ふは疾く調査済になり居れりとの話しなるに、是規程準則すら今に公にせられざる故創立委員と雖ども当局者の主旨の在る所を知る能はざる耳ならず、所謂五里霧中に彷徨するが如き有様なれは、今より直に委員の見込を以て創立の準備に着手するも規程準則の主意に違へば皆無効に属するの道理にして実に詮方なき事なれば、今日に於て敢て新取引所の創立を急かんより寧ろ他日規程準則を公示せらるゝの日を俟て徐ろに準備計画を為すこそ得策なるべしとて、結局一同に此評議に一決し同八時過に退散せられたりと云ふ、又当日は河野・中村・朝吹・町野・三野村の五氏は差支にて出席せられざりし由
中外物価新報 第一六七〇号〔明治二〇年一〇月二五日〕 ○株式米商の営業延期(DK130052k-0008)
第13巻 p.556-558 ページ画像
中外物価新報 第一六七〇号〔明治二〇年一〇月二五日〕
○株式米商の営業延期
取引所条例の公布ありし以来既に其設置の特許を得たるものは東京・大坂・兵庫・桑名・高岡・佐賀・新潟・金沢・名古屋・大津の十箇所にして目下各々其準備中なるも、就中桑名の如きは其手廻し最も迅速にして現に其米商会所の営業期限中なるにも拘らず既に之を解散して新取引所規約をも其筋へ差出し只管其指令を待居りし折柄、図らずも
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東京株式米商の両所は大坂株式取引所と共に愈々去る廿一日に至りて突然其営業延期を許可せられ即ち明治二十二年五月三十一日まては安心して其業を営む事となりたるにぞ、各地新取引所創立委員は勿論世人も其予想外に出でたるを以て一寸一驚を喫したるも株主は此の意外の恩典に遭いたる事なれば得々然として各々祝盃を挙くるの催ふしあるも固より然かあるべき事共なり、但し米商会所は元来非常の重税を課せられ為めに買買取引《(売)》も常に思はしからざる事なるが故に減税の沙汰なき以上は左まで喜ぶべき程の事もなかるべき歟、是我輩が嘗て営業延期願を評して、均しく営業延期を請願するも株式と米商の間には大に其趣きを異にする所あるべしと云ひし所以なり、去りながら東京大坂の株式取引所並に東京米商会所は已に其営業延期の一例を示したる事なれば、他の株式取引所若くは米商会所にして苟も収利の見込あるものは一旦断念したるものも亦再び之を願出るものあるべく、又其筋に於ても固より此に許して彼に許さゞるの道理なければ同様一ケ年の猶予を与へらるゝ事ならん歟、果して然らば新取引所は設令其準備の充分整ふことあるも現在米商株式両所の営業満期までは其開業を見合はさゞるを得ざるものなる乎、是れ世人の最も注目すべき所なり
夫れ斯くの如く一方には勅令を以て新条例を公布して新取引所の設立を特許せられたるにも拘らず、実際取引に最も大切なる規約には未だ何たる指令なく且つ之に伴随すべき税則も未だ発表なき折柄、又他の一方に於ては先づ旧相場会所の営業延期を許可せられたるを見て忽ち種々の臆説を下し、此の塩梅にて押進めば折角の計画も如何成行くべきやとて深く其前途を気遣ひ、甚しきに至ては政府は遂に其方略を変更するに至らざる乎抔と途法もなき疑惑を為す者ありと雖、静かに其事情を考察する時は毫も疑惑するに足らず、新取引所創立の運びの捗捗しからざるを見て直ちに種々の揣摩を逞ふする者は畢竟政府の意の在る処を知らざるに因るものならんのみ、抑も政府が世上囂々の異論(其実一小局部の異論なりしにもせよ)ありしにも拘らず非常の英断を以て遂に此の条例を制定公布されたるものは何が為めぞと云はゞ、則ち唯深く現在相場会所組織の不完全なるを看破し、何とか之を改革して我が商業社界真に必用欠くべからざるの機関たる効能を発揚せしめ、以て広く一般の福利を増進せんとするの決意よりして結果したるに外ならざるべく、而して我が政府は今日と雖も決して此意を変易せざる所なりと信ずるなり、然るに其計画の捗々しく進歩せざるものは蓋し主務大臣並に次官の交迭ありしと又殊に東京・大坂の株式取引所に於ては其営業年限の長短は最も痛く株主の利害に感ずる所なるを以て新旧双方の折合免角六ケ敷場合あるが為ならんのみ、故に其筋に於ても大に此辺を憂慮し、特に二名の委員を置きて其間の調和を謀らしめ、又創立委員に於ても何とか円滑に新旧相接続せしめんとて再三協議を遂げられたる中にも、新取引所は其建築に余程の時日を要すべければ其間現在の株式米商両所の家屋を借受け其代として現行同様の手数料を収入せしむる事とせば条例の精神にも背かず、又株主も営業延期の許可を得たると同一の結果あるべしとの方案を立てたるものありしが、尚他に事情ありて容易に運び兼ぬるやの模様あるより止むなく
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一ケ年の猶予を与へられたるものならんと思はるゝなり
然れども又一歩を進めて既に其特許を得たる新取引所は尚旧会所取引所の営業尽期の時までは是非とも其開業を猶予せざるを得ざるものなるや否やは、是れ新旧双方の人々に取て最も大切なる問題なりとす、而して新条例の附則に拠れば本条例は明治廿年九月一日より施行す、但し株式取引所・米商会所は其営業満期を俟て廃止するものとあり、又新取引所設立の特許状には明治二十年勅令第十一号取引所条例に拠り「何の某処」に於て取引所設立を特許すとのみありて別に制限の箇条もなく、殊に新取引所に於ては其組織も全く異なり其の取引物件も米・公債・株式のみならず綿・肥料・食塩・油等種々の重要品を売買する事なれば、若し其準備も全く整ひ創立委員にして其既得の特権を行はんと欲するときは、設令米商会所・株式取引所の営業延期中なるにも拘らず政府は之を許可さるべきものなるや、若し果して其条例を特許の権に依て自由に開業し得るものとせば折角営業延期の許可を得たる株式取引所・米商会所も遂に其実利を失ひ其満期を俟ずして自滅を招ぐより外なかるべし、此辺に関する政府の処置は果して如何なる方略に依らるゝもの乎、太た緊要の問題なりと信するを以て、吾輩は玆に其疑を述べ敢て識者の教を俟つものなり
中外物価新報 第一六七〇号〔明治二〇年一〇月二五日〕 ○規程準則の公示を望めり(DK130052k-0009)
第13巻 p.558 ページ画像
中外物価新報 第一六七〇号〔明治二〇年一〇月二五日〕
○規程準則の公示を望めり
東京取引所の規約起草委員五名は目今農商務省に於て取調中なりと云ふ規程準則の脱稿せし上は成るべく速に公示せられことを請ふの上申書を認め、今明日中に其筋へ差出さるゝ筈なる由、聞く所に拠れば同準則は随分条項の多きものにて取引所条例並同細則中各条の精神を緻密に解釈し、且売買取引上に用ゆる帳簿の制に至る迄詳しく網羅しありと云ふ
東京経済雑誌 第一六巻第三九〇号・第五四八頁〔明治二〇年一〇月二二日〕 ○取引所条例及ひ細則中の疑義に対する指令(DK130052k-0010)
第13巻 p.558 ページ画像
東京経済雑誌 第一六巻第三九〇号・第五四八頁〔明治二〇年一〇月二二日〕
○取引所条例及ひ細則中の疑義に対する指令
去る八月中東京取引所創立委員諸氏より取引所条例及び其の施行細則中の疑義の件々を挙けて農商務省へ伺出てたる事は兼て本誌に記載せし所なるが、今度同省より指令ありしに付き其の伺指令の要領を掲載すること左の如し
○伺指令前掲(第五五二―五五五頁)ニツキ略ス。
新聞集成明治編年史 第六巻・第五三四頁〔昭和一〇年一〇月〕(DK130052k-0011)
第13巻 p.558-559 ページ画像
新聞集成 明治編年史 第六巻・第五三四頁〔昭和一〇年一〇月〕
ブールス熱下火
但し準備の発表を待つて善処の方針
〔一一・九○明治二〇年朝野〕東京相場会所 ○久しく世上の大問題たりし所のブールスも、此頃に至ては更に何等の評判もなき事なるが、先般創立委員の差出せる伺書に対する其筋の指令は、頗る之に尽力せる諸商人の意想外に出でし者と見へ、爾来株式取引所は俄に景気を回復しブールス論者は口を閉て逡巡する模様なるが、此分にては発起人若く
- 第13巻 p.559 -ページ画像
は仲買人と為て出金するもの甚だ少なかるべく、結局立消への姿と為らねばよいがと心配する人もあり、又横浜にても唯だ従来成り立てる取引所の延期を希望するのみにて、進んでブールス設立に尽力せんとするもの極めて少なき模様なりと聞けり。左もありなん乎。夫れにしても兼て世上に評判あるブールス準則は如何なる性質の者なるべきや其性質次第にて、其景気も或は一変すべしとて、領を延て其発布を待つものあり。
東京経済雑誌 第一六巻第三九三号・第六六一―六六二頁〔明治二〇年一一月一二日〕 ○取引所条例及び同細則の伺指令(DK130052k-0012)
第13巻 p.559 ページ画像
東京経済雑誌 第一六巻第三九三号・第六六一―六六二頁〔明治二〇年一一月一二日〕
○取引所条例及び同細則の伺指令
東京取引所創立委員より差出したる取引所条例及び其の施行細則に関する伺並に指令は本誌第三百九十号に掲載せしか、去る八月廿三日神戸取引所創立委員より差出したる伺及ひ之に対して去る五日農商務省より下附せられたる指令の要領を掲ぐれば左の如し
第一条 条例第二章第十二条の法文に会員たることを得る者は其取引所々在地に居住する商人にして云々とあり、由是観之其所在地と云は例へば神戸取引所に於ては神戸区内則ち神戸・兵庫の両港内に居住するもの而已に限り所在地と看做すべきものなるや、若くは又会員たらんと欲する者、仮令右区外の居住人に相係るも其距離僅かに一里若くは二里を隔つも該取引所々在地と商業上常に密接の関係を有する場処に居住するものにして、尚且取引所に於て諸般の取締上敢て不都合なきものと相認むるときは会員たらしむることを得べきものに候哉
(指令)後段伺の通
第二条 条例第二章第十四条に左に掲ぐる者は会員たることを得ずとの禁制ありて該条第一項の本文に婦女及未丁年者とあり、而して其の但書に婦女の代理人未丁年者の後見人ハ会員たることを得との許可法あるを以て視れば、婦女の代理人未丁年者の後見人は啻単に会員たることを得べき而已ならず従て仲買人たることをも得らるべき者と相心得可然哉
(指令)伺文通
第三条 細則第二章第十五条に会員ハ適宜人員を定めて組合中より委員一名を撰定し役員に届け置くべしとの正条あり、又同細則第三章第二十条にも仲買人は其部内同業者中適宜人員を定めて組合を為し組長一名を撰定し役員の認可を受け云々との規定ありとす、因て其規定に則り会員の委員仲買人の組長を撰定する場合に於て、常置員勤役中のものを会員の委員に撰定し之れに常置員と会員の委員とを兼任せしめ、又常置員にして仲買営業を為すものは常置員と仲買組長とを兼任せしむるも妨げ無之ものなるや
(指令)常置委員に於て委員又は組長を兼るも妨なし
農商務省沿革略志 第一四四頁〔明治二五年四月〕(DK130052k-0013)
第13巻 p.559-560 ページ画像
農商務省沿革略志 第一四四頁〔明治二五年四月〕
○二十年
九月十七日 農商務大臣兼議定官子爵土方久元宮内大臣ニ任シ、内閣
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顧問陸軍中将伯爵黒田清隆農商務大臣ニ任ス
農商務省沿革略志 第一四四頁〔明治二五年四月〕(DK130052k-0014)
第13巻 p.560 ページ画像
農商務省沿革略志 第一四四頁〔明治二五年四月〕
○二十年
十月十九日 商務局次長佐野常樹ノ東京取引所委員ヲ免ス
諸願伺届 明治二十年(DK130052k-0015)
第13巻 p.560 ページ画像
諸願伺届 明治二十年 (東京株式取引所所蔵)
再願書御伝達願
別冊再願書之義至急其筋ヘ御伝達被成下度此段奉願候也
仲買総代
明治二十年十月十四日 天矢正剛
諸葛小弥太
須藤吉右衛門
小布施新三郎
高野藤吉
山口雄蔵
片桐起太郎
加藤忠蔵
井上兵蔵
鶴岡長次郎
東京株式取引所頭取
河野敏鎌殿
諸願伺届 明治二十年(DK130052k-0016)
第13巻 p.560-561 ページ画像
諸願伺届 明治二十年 (東京株式取引所所蔵)
営業年限延期再願書
東京株式取引所仲買
岡本善助
外六拾八名
営業年限延期再願書
謹テ奉再願候私共本年六月三日附ヲ以テ上願仕候株式取引所営業年限延期之儀願意御諒察爾来御詮議中ト相信シ罷在候得共、恩命ヲ賜ラサル間ハ種々ノ感情相嵩ミ一同切々ノ念慮止ム時無御座、右ノ情況ニ付近来自然市場ニ影響ヲ及ホシ、一般売買依頼者ニ於テモ其付托ニ多少危惧ノ念ヲ懐キ候モノヽ如ク兎角躊躇逡巡ノ一方ニ傾向仕リ、商況緩縵逐日取引高ノ減少ヲ来シ目下一層困難ヲ加ヘ罷在候間、何卒実況御洞察ノ上特別ノ御詮議ヲ以テ至急営業延期ノ御沙汰被成下置度、此段奉再願候也
明治二十年十月十五日
岡本善七
高野藤吉
山県保兵衛
神戸清兵衛
吉川金兵衛
森田文右衛門
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杉平新造
関谷善八
木村源兵衛
加藤忠蔵
山口雄蔵
須藤吉右衛門
近藤善助
寺林藤太郎
茂木弥太郎
井口三郎兵衛
山郷善助
疋田平造
天矢正剛
吉沢作之助
石井源三郎
織田昇次郎
伊藤宗七
市川善兵衛
野本貞次郎
小布施新三郎
○外四十三名氏名略
農商務大臣 伯爵 黒田清隆殿
諸願伺届 明治二十年中(DK130052k-0017)
第13巻 p.561 ページ画像
諸願伺届 明治二十年中 (東京株式取引所所蔵)
明治二十年十月廿二日
頭取印 支配人(印)(印) 書記(印)
商議掛(印)(印)(印)
肝煎(印)
昨廿一日営業延期御許可ヲ蒙リ候ニ付テハ左案ヲ以テ東京府ヘ御届相成可然哉
営業延期御許可ノ義御届
当取引所営業延期ノ義兼テ上願中ニ御座候処、昨廿一日農商務大臣ヨリ特別ノ詮議ヲ以テ明治廿二年五月三十一日マテ満一ケ年間営業延期聞届ク旨御指令相成候、此段御届申上候也
東京株式取引所頭取
明治廿年十月廿二日
河野敏鎌
東京府知事 男爵 高崎五六殿
諸願伺届 明治二十年中(DK130052k-0018)
第13巻 p.561-562 ページ画像
諸願伺届 明治二十年中 (東京株式取引所所蔵)
明治二十年十月廿二日
頭取印 支配人(印)(印) 書記(印)
商議掛(印)(印)(印)
肝煎(印)
当取引所営業延期ノ義兼テ御出願中ノ処、昨廿一日御許可相成候ニ
- 第13巻 p.562 -ページ画像
付テハ左案ヲ以テ東京府収税長ヘ御届相成可然哉
営業延期御許可之儀御届
当取引所営業延期ノ儀兼テ上願中ノ処、昨廿一日ヲ以テ農商務大臣ヨリ明治二十二年五月三十一日迄一ケ年間営業延期被聞届候、此段御届申候也
東京株式取引所頭取
明治廿年十月廿二日
河野敏鎌
東京府収税長 田中正道殿
諸願伺届 明治二十年中(DK130052k-0019)
第13巻 p.562 ページ画像
諸願伺届 明治二十年中 (東京株式取引所所蔵)
明治二十年十月廿六日
頭取印 支配人(印)(印) 書記(印)(印)(印)
商議掛(印)(印)(印)
肝煎(印)
当取引所営業延期之義今般御許可ヲ賜リ候ニ付来ル十一月三日鎧神社臨時祭御執行可相成ニ付テハ、町内ヘ建設之囃子台及ヒ電信柱模造ノ提灯掛ケ杭木等取設之義所轄警察署ヘ出願可致筈之処、右ハ例祭之通リ左案ヲ以テ出願之義田中伝吉ヘ御依頼相成可然哉
鎧神社臨時祭ニ付提灯フラフ棹及ヒ囃子台建設願
一今般日本橋区兜町四番地東京株式取引所営業之延期ヲ祝シ、来ル十一月三日当町鎮守鎧神社臨時祭執行致候ニ付而ハ、同町二番地ヨリ六番地ニ至ル官私道路ヘ提灯等建設致度箇所左ニ
一別紙図面朱線ノ場所ヘ家前下水縁リヨリ弐尺以内ヘ凡ソ三間毎ニ提灯掛ケ杭木電信柱模造ニ建設シ提灯及ヒ柱上ヘ小フラフヲ建候事
一官私道路入口別紙図面×印ノ場所ヘ巾六尺長サ九尺ノフラフヲ筋違ヒ致道路通行及馬車等差支無之様取設度候事
一別紙図面之内□印ノ場所兜町二番地川岸兜橋際ヘ囃子台壱ケ所、同町四番地ヘ神楽殿一ケ所、同町六番地鎧橋際ヘ囃子台壱ケ所、同町三番地ヘ同壱ケ所建設シ尤通行差支無之様取設度候事
一株式取引所構内在来フラフ棹ヨリ三筋ノ綱ヲ私有地道路ヘ引出シ丸提灯百弐拾箇点灯致度候事
一鎧神社前ヘ幟柱弐ケ所並ニ造リ庭壱ケ所取設度候事
前記之通取設祭祀執行仕度候間、別紙図面相添此段奉願候也
日本橋区兜町居住人総代
同町二番地
明治二十年十月 日
田中伝吉
坂本町警察署
御中
○別紙図面略ス。
株主関渉書類 明治二〇年中(DK130052k-0020)
第13巻 p.562-563 ページ画像
株主関渉書類 明治二〇年中 (東京株式取引所所蔵)
明治二十年十月廿五日
頭取印 支配人(印) 書記(印)(印)(印)(印)
商議掛(印)(印)(印)
- 第13巻 p.563 -ページ画像
肝煎(印)
今般当取引所営業年限延期御許可ヲ蒙リ候ニ付右祝意ヲ表シ、来月三日祭典御執行可相成ニ付テハ左案ヲ以テ御案内可然哉
拝啓愈御昌隆奉賀候陳者今般当取引所営業延期御許可ヲ賜リ候ニ付、右祝意ヲ表シ来ル十一月三日鎮守社臨時祭執行候間、同日午後二時御来所被下度、此段御案内申上候 頓首
東京株式取引所頭取
明治二十年十月 日
河野敏鎌
株主宛
追啓別紙折詰切符 葉贈呈仕置候間、御来所之節御持参被下度候也
第十八回半季営業実際考課状 第一四頁明治二〇年自一月至六月(DK130052k-0021)
第13巻 p.563 ページ画像
第十八回半季営業実際考課状 第一四頁明治二〇年自一月至六月
(東京株式取引所所蔵)
東京府下日本橋区兜町四番地 東京株式取引所
○営業事務ノ事
一本年五月勅令第拾壱号ヲ以テ取引所条例ノ発布アリシニ由リ、仲買人ハ当取引所営業満期後直ニ廃止セラルヽニ於テハ仲買人一同非常ノ困難ニ陥ルハ必然ナルニ依リ、旧ヨリ新ニ移ルノ間其用意ヲ為シ得ル為メ、営業年限ヲ延期セラレンコトヲ希望シ、農商務大臣閣下ニ宛タル情願書ヲ提出シテ当取引所ヨリ其筋ヘ上呈アランコトヲ願出タリ、仍テ六月四日東京府庁ヲ経テ農商務省ニ進達セリ
一本年五月勅令第拾壱号ヲ以テ取引所条例ノ発布ハ当取引所株主ノ財産ニ対シ非常ノ損害ヲ蒙ルニ由リ、此際株主臨時総会ヲ開キ一同協議ヲ遂ンコトヲ望ミ、株主笠野吉二郎氏外三十四名ヨリ五月三十一日附ヲ以テ臨時総会ノ請求書ヲ提出セリ、依テ定款第七章第三拾九条ニ拠リ開会ヲ要スルモ定式総会ノ期近キニ在ルヲ以テ、来ル七月三日定式総会ヲ開キ右議了ノ後引続キ同日臨時総会ヲ開クヘキコトニ定メ、六月廿五日之ヲ農商務省ヘ開申シ、且株主一同ヘ通知セリ
第十九回半季営業実際考課状 第一頁 明治二〇年自七月至一二月(DK130052k-0022)
第13巻 p.563 ページ画像
第十九回半季営業実際考課状 第一頁 明治二〇年自七月至一二月
(東京株式取引所所蔵)
東京府下日本橋区兜町四番地 東京株式取引所
○株主集会決議ノ事
一右定式総会結了ノ上引続キ予テ株主笠野吉二郎外三拾四名ヨリノ請求ニ係ル臨時総会ヲ開ケリ、其要旨タル本年五月十一日勅令第拾壱号ヲ以テ発布セラレタル取引所条例ハ、株主ノ財産上損害尠カラサルニ依リ株主臨時総会ノ上何分ノ協議ヲ遂ケントスルニアリ、仍テ株主ハ衆議ノ末一同ヨリ総代拾名ヲ定メ営業延期ヲ請願スヘキコトニ議決セリ、而シテ其総代拾名ハ会長ノ指名ヲ以テ選択スヘキコトヲ依托セリ、因テ会長ハ平松甚四郎・山中隣之助・色川誠一・黒須仙太郎・水原実・田村訥・朝吹英二・岡本善七・松野和邦・本間耕曹ノ拾名ヲ撰挙セシニ、朝吹英二・松野和邦・本間耕曹ノ三名ハ辞退セシヲ以テ、更ニ大矢富次郎・諸葛小弥太・井上兵蔵ヲ追撰シ何レモ応諾セシニ付之ヲ株主一同ニ報告セリ
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第十九回半季営業実際考課状 第四頁 明治二〇年自七月至一二月(DK130052k-0023)
第13巻 p.564 ページ画像
第十九回半季営業実際考課状 第四頁 明治二〇年自七月至一二月
(東京株式取引所所蔵)
東京府下日本橋区兜町四番地 東京株式取引所
○営業事務ノ事
一株主臨時総会ニ於テ撰挙サレタル株主総代平松甚四郎外九名ヨリハ七月廿八日付ヲ以テ、仲買一同ヨリハ再ヒ十月十五日付ヲ以テ、農商務大臣閣下ニ宛テ当取引所営業延期ノ請願書ヲ提出シテ其筋ヘ上呈センコトヲ出願セシニ依リ、之レニ副申書ヲ付シ東京府庁ヲ経由シテ農商務省ニ進達セリ
一当取引所営業延期ノ悃願ハ前回ニ於テ報告セシ如ク上願中ノ処、爾後猶株主総代及ヒ仲買一同ヨリモ請願ノ末十月廿一日ニ至リ株主総代ノ書面ニ対シ、農商務大臣閣下ヨリ特別ノ詮議ヲ以テ明治廿二年五月三十一日迄満一ケ年間営業延期聞届ク旨ノ御指令ヲ蒙レリ、仍テ株主一同ヘ報告シ且東京府庁ヘハ翌廿二日之ヲ上申セリ
〔参考〕東京株式取引所五十年史 第三〇―三一頁 〔昭和三年一〇月〕(DK130052k-0024)
第13巻 p.564-565 ページ画像
東京株式取引所五十年史 第三〇―三一頁 〔昭和三年一〇月〕
不換紙幣の整理開始せられてより、通貨収縮の為め物価下落し、商業沈静に趨き、特に明治十六・七・八年の三年間は最も甚しかりしが、十九年に至り、該事業完成し、金紙の差価消滅するに至るや、経済界の気運一転して、漸次、合本会社興起し、随て株券の売買取引は著しく活況を呈するに至れり。然るに同年十月頃に至り、政府は欧米取引所の組織に倣ひてブールスを設立するの議ありと伝へられ、為めに取引所株の価格動揺甚しく、市場は殆んど恐慌の状を呈したり。
斯くて翌二十年五月、取引所条例発布せられ、旧条例に拠り設立したる会所又は取引所は、各其の営業満期に至り、廃滅することとなれり。是れ即ちブールス条例と別名せられたるものにして、我国取引所界に大動揺を惹起し、爾後、数年間に亘り、朝野の一大問題として盛に論議せられたるものなり。
右取引所条例発布の結果、本所株式の市価半減したる為め、株主の損害大なるものあり、且つ変革余りに急劇にして市場の取引を撹乱するの虞ありたるを以て、本所は一方に条例の不当を社会に愬ふると共に、他方、明治二十一年五月三十日を以て満期となる可き営業期限を同二十四年六月迄(旧条例に拠り設立したる取引所の最終営業満期迄)延期することを農商務大臣に稟申したるが、二十年十月二十一日、同大臣より二十二年五月三十一日迄、一箇年間の営業延期の許可を得たり。二十一年七月、井上馨氏農商務大臣となるや、取引所改善問題は、更に講究を要するものとし、同年十月三日、本所に対し、更に二十四年六月三十日迄営業延期を許可したり。而して政府は欧米取引所の実情調査の為め、二十二年六月、官吏を海外に派遣すると共に、東京の新旧取引所に対しても亦海外に調査員を派出す可き旨を諭達したるを以て、新取引所は発起人中より小川為次郎氏を、本所は同年七月十七日、肝煎相良剛造・株主総代小野友次郎両氏を派遣したるが、両氏は英・米・独・仏等、重な
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る取引所の実況を視察し、翌二十三年七・八月の交、相前後して帰朝したり。既にして政府は視察員の帰朝復命に依り取引所条例の改正調査に著手したるも、其の功容易に挙らず。一方には本所の営業期限尽きんとせるを以て、二十三年九月十日、更に二十七年六月三十日迄延期の許可を得たり。但し延期の条件として(一)仲裁機関を設くること(二)仲買人身元金を二千四百円と為すこと(三)通常積立金の外に利益金十分の二を別途積立金と為すこと(四)株式取引所の株式を市場に於て売買せざること(五)平均相場決定の方法を改むること、等の実行を命ぜられたり。
〔参考〕(大阪株式取引所)大株五十年史 第二八―四四頁〔昭和三年一一月〕(DK130052k-0025)
第13巻 p.565-575 ページ画像
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冊子版の『渋沢栄一伝記資料』をご参照ください。