デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2021.8.27

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

3章 商工業
25節 取引所
2款 東京米商会所
■綱文

第14巻 p.52-97(DK140007k) ページ画像

明治19年7月17日(1886年)

当時米商社会ノ腐敗甚シク、之ガ改革ノ声、朝野ニ満ツ。農商務次官吉田清成マタ夙ニ粛正ヲ志シ、是月東京ニ催サレタル全国米商会所協同会ニ改革方ヲ諮問ス。ソノ復申書ノ上呈サルヽヤ、コレヲ栄一ニ示シテソノ意ヲ問フ。乃チ栄一是日、書ヲ寄セテ之ヲ批判シ、株式組織ニヨル米商会所ノ不適当ナルヲ論ズ。


■資料

吉田家文書 【復申書 米商会所協同会】(DK140007k-0001)
第14巻 p.52-57 ページ画像

吉田家文書                (吉田子爵家所蔵)
    復申書
                      米商会所協同会
本年五月二十三日雑八八号ヲ以テ本会ヘ御下問相成候項目審議ノ末、別紙ノ通リ決議仕候ニ付此段上申仕候也
  明治十九年七月十日
                米商会所協同会
                  会頭
                      林徳左衛門
    商務局長 高橋新吉殿
第一御問目
 - 第14巻 p.53 -ページ画像 
 米商会所ナルモノハ将来民間ニ必需ノ事業ナルヤ否
    拝答
  米穀ハ民命ノ繋ル所人ニ最モ緊切ナル貴重ノ品類ニシテ其産額ハ凡ソ三千五百万石余ト聞ク、一石ノ代価平均五円トスレハ一億七千五百万円、生糸ノ産額ニ超ユルコト十数倍実ニ我国産ノ第一位ヲ占ムルモノナリ、故ニ需要供給ノ釣合及市価ノ活動等仮初ニモ該品ニ発スル所ノ異動ハ必ス人世生業ノ盛衰消長ニ関係シ、且ツ其商況ノ冷熱ニ拠リ諸物品ノ集散変動ヲ支配スルノ実力アルモノト云フモ敢テ失当ナラサルハ従来ノ蹟ヲ視テ之レヲ証スヘシ、而リ然シテ米穀ノ流通ヲ円滑ニシ且ツ市価ノ活動ヲ正当ニ司掌スルノ要具ハ蓋シ米商会所是ナリ、何トナレハ米商会所ニ於テ約定スル所ノ売買取引ハ普ク米穀売買上ノ標的トナリ、又糶糴上偏重偏軽ノ不平均ヲ防制スル等種々ノ実利ニ併テ其商況ニ拠リ諸般ノ情勢ヲ推知スルノ利便アルニ於テヲヤ、既ニ如斯効験アル米商会所ハ将来欠クベカラザル緊要必需ノ事業ト確認仕候
第二御問目
 果シテ米商会所ヲ必需ノ事業ナリトセハ従来各米商会所ニ見ル所ノ弊習ヲ矯正シ改良ノ緒ニ就カシメサルベカラス、其方法如何
    拝答
  弊習ヲ矯正シ諸般改良ノ緒ニ就カシムルニハ其弊源ヲ探究シ以テ匡治ノ方案ヲ計劃セサルヘカラス、故ニ玆ニ其弊習ノ由来ヲ略陳セン、往昔相場会所創始ノ頃ハ現場売買ニ限リ公許セラレ定期売買ハ公許セラレサリシトイヘドモ、実際上定期売買ノ殊ニ必要ナル実利アルカ故ニ隠然定期ノ約定ヲ以テ売買ヲ為シタリ、尤モ定期売買ハ相互ノ約定則チ預ケ合(現行規則ニ於テ之ヲ密売買ト指定ス)ノ方法ニ拠リ売買取引ヲ為シタルモノナリ、其後預ケ合ノ売買約定ニハ往々違約ヲ為ス等不都合ノ事情アリシニヨリ大坂ニ於テハ便宜上遣繰両替ナル者ヲ設ケ之レニ其約定金ヲ預ケ保管ノ任ニ当ラシメ、表面ニハ米銀ヲ貸借シタルモノヽ如ク仕做シ日々現場取引ヲ以テ其勘定ヲ決済スルノ手続ニ依準シテ定期約定ノ取引ヲ結了セリ、故ニ其保管料ハ之レヲ歩銀ト称シ仲買人ヨリ若干ノ金員ヲ支出ス、則チ目今会所ニ収入スル所ノ手数料ハ遣繰両替歩銀ノ変体ナリ、尤モ遣繰両替ニ保管セシムルモノハ既ニ前陳ノ如ク約束上堅固ヲ要スルモノニ限リ之レヲ嘱託セシモノニ付、其数実ニ僅少ニシテ多クハ預ケ合ヲ以テ其取引ヲ整了セリ、之レヲ以テ悉ク遣繰両替ニ托センカ仲買カ得ル所ノ口銭ハ甚タ少ク保管料即チ歩銀ヲ償テ余ス所ノモノハ以テ其生業ヲ維スルニ堪ヘス、之レニ因テ遣繰両替ニ托スルモノ、石高ハ殊ニ少数トナリ密カニ定期売買ノ約定ヲ為スモノ多キニ至リシナリ、此等ノ事情アルカ故ニ保管料ト仲買口銭トノ割合大ニ其ノ失当ヲ生シタルモノトス、爾後定期売買ヲ公許セラレシ以来明治二年迄ハ総テ従来ノ慣行ヲ継続セリ、明治四年ニ於テ米会所ヲ創立シタルトキハ遣繰両替ヲ廃シ会所ハ其売買ヲ保管スルノ方法ニ更メ、其歩銀ハ之レヲ手数料トシテ会所ニ収入スルコトトセリ(其他ノ地方ハ其方法大坂ト大同小異ナルヲ以テ一々列記セス)然レトモ其他ノ
 - 第14巻 p.54 -ページ画像 
取引方法並ニ預ケ合ノ旧慣ハ依然トシテ存在セリ、原来仲買人ハ口銭ヲ以テ生計ヲ立ツヘキ筈ナレトモ前陳ノ次第ニ付口銭ヲ以テ本業ノ目的トナサス専ラ預ケ合ニ拠テ得ル所ノ利益ヲ主眼トセリ故ニ其預ケ合ノ不正ナルヲ訝シマズ、尤其当時ニアリテハ又正当ト認メサルヲ得サル者アリ、何トナレハ仲買口銭ハ極メテ僅少ニシテ、会所手数料ニ比較スルモ仲買人カ担保スル所ノ責任ニ対シテ失当不釣合ノ金額ナレバナリ、蓋シ他ノ商業者ニ於テハ其口銭ノ不釣合如斯モノアルヲ見ザル所ナリ、故ニ仲買人ノ敢テ之ヲ以テ意トセサルハ其利トスル所ノ目的ハ全ク此規定ノ口銭ニアラスシテ、其実ハ預ケ合則チ現行規則ニ於テ密売買ト認定セラルヽ者ニアリシ所以ナリ、実際已ニ斯ノ如キ事実ナルヲ以テ米商会所条例及税則等御制定ノ砌慣習等ノ吟味セラレタル上ノコトト確信スト雖モ、或ハ其際隠伏セシ慣習ノ起因ハ詳密ノ御調査ニ洩レシニハアラサルカ、然ラサレハ今日ノ如キ有様ニ立到ラサリシカト奉存候、尤モ各米商会所並ニ仲買人等ニ於テ是迄其規則ノ適否並ニ慣習ノ因果等詳カニ之レヲ調査シ医治方案ヲ具申シテ真正ノ御改正ヲ仰クニ至ラス、多少旧慣ニ安ンスル所アリシモ又以テ真個ノ改良ヲ為シ得サリシモノト言ハサルヘカラス、既ニ前段ニ列述シタル次第ニ付規則ノ口銭ヲ以テ業ヲ正路ニ営マンコトハ蓋シ事実ニ於テ為シ能ハサル所ナリ、又仲買口銭ヲ増加スレバ売買本主ノ負担ニ堪ヘサルカ故ニ拠ロ無ク規則ヲ犯シ以テ密売買ヲ為スハ洵ニ万止ムヲ得サルニ出タルモノヽ如シ、然リ而シテ先回減税ノ恩典ヲ蒙リシ以来其市価ノ沈滞ナルニモ拘ラス、多少売買米ノ増加シタルハ其実売買米ノ増額シタルニハアラスシテ全ク密売買ノ減少シタル結果ト認メサルヲ得ス、然リ而シテ近時警察ノ厳ニシテ毫モ仮借セラレス往々其手数ヲ煩ハシ条例違犯ノ罪人ヲ生シ実ニ畏縮ノ限ニ御座候
  前陳ノ弊習ヲ矯正シ諸般改良ノ緒ニ就カシムルノ方法数多アルヘシト雖モ、其最モ重因ト認ムルモノハ蓋シ税金手数料口銭等其釣合ヲ正当ナラシムルニアリ、故ニ条例及規則中改正ヲ仰クヘキモノヲ挙レハ左ノ如シ、其他ノ法案ハ追次各米商会所ヨリ意見書ヲ以テ開申可仕候
  一税金改正ノ事
   仲買人カ収受スル口銭ノ内十分ノ三乃至四ヲ会所手数料トシテ其手数料ノ内十分ノ四ヲ税トシテ上納スル事ニ御改正アランコトヲ祈望仕候
  一仲買人資格改正ノ事
   条例第八条第一節ニ仲買人タルヲ得ヘキモノハ丁年ニシテ会所所在ノ地ニ満一ケ年以上米商営業ヲ為シタルモノニ限ル云々トアリ、蓋シ適当ノ規定ニシテ即チ条例第一条第一節ト其主旨ヲ聯貫スルモノナレトモ、如何セン相当ノ資産アルモノニシテ仲買人タランコトヲ欲スルモノモ其資格ニ適セサルヲ以テ、仮リニ其資格アルモノヽ名義ヲ仮用スル等其他種々ノ不便ヲ与ヘ又様々ノ弊害ヲ醸成シ、仲買人ノ品格ヲ潰損スル等ノ事実アルヲ
 - 第14巻 p.55 -ページ画像 
以テ左ノ如ク改正アランコト冀望仕候
  仲買人タルヲ得ヘキモノハ丁年以上ノ男子ニシテ会所々在ノ地ニ居住シ品行方正ナル者ニ限ル、而シテ仲買人トナラント欲スル者ハ云々(下略)
   但認許ヲ得タル本人死去ノ場合ニ於テ其相続人ハ丁年以下ト雖モ相当ノ後見人ヲ定メ本人ノ手続ニ拠リ営業継続ノ認許ヲ乞フコトヲ得
  一仲買人自己ノ売買ト一口ニ付双方ノ依頼ニ応セシムルコトニ改正ノ事
   明治十五年五月第二十六号布告ヲ以テ現行ノ如ク改正ナリシ其御趣意ノ存スル所ハ敢テ之レヲ窺知スルヲ得サレトモ、仲買人ニ自己ノ売買ヲ為サシメ又一口ニ付売買双方ノ依頼ヲ受ケシムルトキハ、公正ニ約定スルノ規則ニ依ラス密カニ其自己ノ売買米ト他人ヨリ依托ヲ受ケシ売買人トヲ併結シ、或ハ甲ノ委托ノ売米ト乙ノ依頼ノ買米トヲ併合シ以テ納税ヲ隠掠スル而已ナラス、為メニ米価平均ノ実位ヲ変失スルノ弊害アルモノト認知セラレ、之レヲ矯正制止センコトヲ要シ現行ノ如ク改正セラレタルモノト拝察仕候、果シテ然ラハ実ニ密売買ノ弊ヲ制止シ、其売買米ハ総テ規則ニ拠リ以テ公正ニ約定ヲ為サシムル義ハ殊ニ緊要ノ条件ニシテ、米商会所ニ於テモ屡々規則ヲ改正シ猶ホ其他種々ノ方法ヲ計設シ実行スト雖モ剪除改良スルニ至ラサルハ未タ全ク適実ノ方法ヲ得サルモノト推知仕候、而シテ現行ノ規則ヲ以テ前陳ノ弊害ヲ矯正制止スル事ハ乍恐為シ能ハサル義ト奉存候、何トナレハ仲買人自己ノ売買ヲナストナサヽルトニ関セス、又一口ノ取引ニ付売買双方ノ依頼ヲ受クルト否ラサルトニ拘ハラス密売買ヲ為スノ上ニ於テハ敢テ関係セサルモノヽ如シ、之レヲ矯正改良スルノ方法手段ハ蓋シ他ニアリ、則チ答申書ノ緒言ニ略陳仕候
   条例第八条第二節ノ法律ノ精神ハ仲買人自己ノ売買ヲ禁止セラレタルニアラスシテ、仲買人ノ資格ヲ以テ自己ノ売買米ヲ躬ラ市場所ニ於テ売買約定ヲナスコトヲ得サル迄ニシテ、委托者即チ売買本主ノ資格ヲ以テ他ノ仲買人ニ依頼シ売買約定ヲ為スコトハ条例範囲ノ外ニシテ決シテ抵触セサル者ト見解仕候、果シテ然ラハ仲買人ノ資格ヲ以テ売買約定ヲナスト否ナラサルトノ上ニ於テ其利弊ノ所在那辺ニアル乎未タ之レヲ認知シ能ハサルナリ、或仲買人ノ名称ト体格上ニ帯フル所ノ責任ニ其如ク限制セサルヘカラサル理由アル者カ、道理上果シテ其理アル者トスルモ我国商業者殊ニ仲買人タル名称ニ帯フルモノヽ慣習商情ヲ参酌セラレ度、蓋シ其改正ノ御趣旨如何ハ姑ラク擱キ仲買人自己ノ売買ヲ他ノ仲買人ニ依頼シ売買約定ヲナサシムルコトハ実際行ハレ難キ義ナリ、現ニ其品類ハ異ニスルモ株式仲買人ハ自己ノ売買ハ躬カラ之レヲ市場ニ売買ナシ、又一口ノ取引ニ付売買双方ノ依頼ヲ受クルノ自由ヲ以テ商業スルコトヲ允許セラレタリ、然ルニ特ニ米商会所ノ売買人ニ限リ之ヲ允許セラレザル
 - 第14巻 p.56 -ページ画像 
ハ聊カ其当ヲ得サルモノヽ如シ、依テ明治十三年四月第十九号ヲ以テ追加セラレタル公布ノ如ク回復アランコトヲ冀望仕候
  一証拠金ハ会所ニ於テ其額ヲ定メ農商務大臣ノ認許ヲ得ルコトニ改正ノ事
   証拠金ノ如キハ其時ノ景状ニ依リテハ条例ニ定メアル範囲外ニテ相当ナルコトアリ、故ニ証拠金ノ定度ハ其時ノ摸様ニ依リ会所之レヲ相定メ而シテ其筋ノ認許ヲ受ケ置クコトニ為セハ、世上商業ノ運行ニ連レ最モ適当ナル高ヲ得ルヤ必セリ、故ニ此定限ヲ廃止セラレ其時々会所ニ於テ相定メ認許ヲ乞フニ当リ、其時ノ情況ニ依リ取捨アランコトヲ冀望仕候
  一公選役員ヲ三名以上ト改正ノ事
   米商会所ノ業務ハ地方ニ依リ其繁閑ハ之レアルモ実際五人ヲ不用トスル場所アリ、依テ肝煎人員ノ定度ヲ三人以上ト為セハ至極利便ナラント存候ニ付、本項ノ如ク改正アランコトヲ冀望仕候
  一営業年限ヲ延伸スル事
   営業年限ハ満五ケ年ヲ以テ一期ト制定セラレタリ、営業年限ノ短キハ仲買人ヲシテ期限毎ニ其進退及営業継続ノ如何ヲ顧慮シ為メニ兎角眼前ノ小利ニ孜々トシテ永遠此営業ヲ持続スルノ念望ヲ冷薄ナラシムルノ傾向ナシトセス、故ニ年限ノ延伸ヲ冀望仕候
第三御問目
 米商会所ハ株式発行ノ組織ヲ以テ適当ト認ムルヤ
    拝答
  我国米商ノ営業ハ各種ノ商業中最モ活動ノ著シキモノナルヲ以テ其売買約定ヲ鞏固ニシ其取引ヲ完結セシムルニハ特ニ担保ノ責ニ当ルモノナカルヘカラス、是則チ米商会所ノ由テ起ル所以ニシテ目下我国商業上ノ秩序猶整理セス取引上ノ信憑未タ発達セサルノ今日ニ於テハ現行条例ノ組織ノ如ク株式発行ノ会所ヲシテ此担保ノ責ニ当ラシムルニアラサレハ決シテ売買本主ノ安心ヲ得ルコト能ハス、夫レ株式発行ノ組織タル元来売買本主ニ関係セス別ニ双方ノ間ニ介立シテ能ク其約定ヲ保証スルモノナルカ故ニ、之ヲ彼ノ売買本主ヲ代理スルノ仲買人ガ集合体ヲ組織シテ自ラ担保ノ責ニ当ル者ニ比スレハ其実際ノ得失果シテ如何ソヤ、蓋シ英米ノ如ク商業上ノ秩序能ク整理シ取引上ノ信憑充分ニ発達セシ国柄ニ於テハ、株式発行ノ組織ヲ要セス仲買人ノ集合体ヲ以充分担保ノ責ヲ尽シ得ヘシト雖モ、直ニ之ヲ我国ニ行ハントスルハ甚至難ノ事業ナリトス、今仮ニ我国ニ於テ強テ如此新組織ヲ起ストスルモ、能ク売買担保ノ責ヲ尽シ売買本主ヲシテ充分安心ヲ得セシムルノ効果ハ予期スヘカラサルナリ、故ニ米商会所ハ株式発行ノ組織ヲ以テ適当ト信認仕候
第四御問目
 米商会所ヲ設立シテ他商業鼓動ノ具ト為スヲ目的トスル地方アリト聞ク、果シテ其実アリトセハ該地方ニ於テハ当該事業ノ必要アリト
 - 第14巻 p.57 -ページ画像 
認ムルヤ
    拝答
  米商会所ナルモノハ米穀ノ需要供給ヲ適宜ニ支配シ偏重偏軽ヲ制止シ其価格ヲ公平ナラシムルニ必要欠クヘカラサルノ具タルコトハ第一御問目拝答中ニ縷述仕候如クニシテ、則チ現在ノ会所ハ皆此目的ニ外ナラサルモノニシテ他商業鼓動ノ具ト為スノ目的ニハアラス、然レトモ之レヨリシテ自ラ幾分カ鼓動ノ具トナルハ疑ナキモノニ似タリ、若シ単ニ他商業鼓動ノ具トナスヲ以テ目的トシテ設立セントスルカ如キハ、米商会所ノ本旨ニ背クモノニシテ設立ノ必要無之ト信認仕候

    副申
今般米商会所第三回協同会ヘ御下問相成、数日討議ノ末拝答仕候項目ハ尤モ営業緊要ノ儀ニ御座候得ハ、速ニ御裁可御実施相成度、切ニ希望ニ不堪、此段奉懇願候也
                米商会所協同会
  明治十九年七月十日
                  会頭
                      林徳左衛門
    商務局長 高橋新吉殿


渋沢栄一 上陳書 明治一九年七月一七日(DK140007k-0002)
第14巻 p.57-58 ページ画像

渋沢栄一 上陳書  明治一九年七月一七日
                   (吉田子爵家所蔵)
米商会所協同会ヘ御諮問相成候項目ニ対シ同会ヨリ復申セシ拝答書熟覧仕候処小生平生思惟致居候愚案トハ大ニ其説ヲ異ニスル所有之候ニ付、御内諮ニ応シ卑見左ニ条陳仕候
 第一御問目ニ対シ協同会ヨリ拝答セシ趣旨ハ小生モ常ニ同感ヲ寓シ居候儀ニテ、現ニ我邦ノ如ク農産ノ重要品ハ米ヲ以テ第一トスル今日ニ在リテハ其売買取引上ニ共同約定所ノ施設アルハ独リ其給需ノ権衡ヲ平均ナラシムルノミナラス、売買モ亦活動シテ取引ハ円滑ナルヲ得、大ニ全般ノ商業ヲ裨補スヘキハ論ヲ俟タスト云トモ、此レハ是レ該米商会所設立法其宜ヲ得テ能ク実際ニ適応シ真成ノ米商人ハ必ス此会所ニ依テ其業ヲ営ムノ時ニ於テ生スルノ効果ニシテ、今我米商会所ノ如キハ決テ前陳ノ効果ヲ有スルモノニアラス、然ラハ則現今ノ米商会所ハ只其理アリテ未タ其用ヲ見サルモノトス、豈啻其用ヲ見サルノミナラス甚シキハ弊害或ハ其利益ヲ減セントス、是レ小生カ常ニ憾トスル所ナリ、故ニ此協同会ニ於テ既ニ米商会所ノ商業上至緊ノ要具タルノ理ヲ知ラハ何ソ進テ之レヲ改良シテ真成ノ公利ヲ発揚スルコトヲ勉メサルヤ、然ルヲ只旧制ニ因依シテ姑息以テ今日ヲ弥縫セントスルハ小生未タ其意ヲ了スル能ハサルナリ、諺曰ク護身ノ利器モ其人ヲ得サレハ却テ其身ヲ戕賊スト小生今日ノ米商会所ニ於テ之レヲ見ルナリ
 第二御問目ニ対シ協同会ヨリ拝答セシ趣旨ハ従来ノ弊源等ヲ詳記スルニ於テハ能ク其蘊奥ヲ尽スト云トモ、其匡正ノ要ハ税金ヲ減シ仲買人資格ヲ改正シ其取引上瑣少ノ更革ヲ望ムニ止マリ、其根治法ニ
 - 第14巻 p.58 -ページ画像 
於テハ一モ論及スル所アルヲ見ス、蓋シ現行税額ニ於テハ小生モ其過当ナルヲ恐ルヽニ付他日此米商会所ヲシテ真成ノ改正ヲ行フニ於テハ大ニ之レヲ減少セサルヘカラサルモノト信ス、然レトモ仲買人資格改正ニ付テ協同会ノ論スル所ハ全ク小生ト其見解ヲ異ニス、之レヲ要スルニ、協同会ハ此仲買人ハ今日ノ如ク毫モ実米売買等ニ関セス只架空投機ノ術ヲ以テ多ク転売ヲ為スヲコトトスルノ小黠商ヲ好ミ、小生ハ之レニ反シテ専心米穀売買ノコトヲ営ミ其力亦之レニ堪ユル実業者ナラザレハ決テ仲買人タルヘカラサルノ意見ヨリ、此大差ヲ生スルナリ
 仲買人自己ノ売買ト他人ノ依頼ニ応スルトニ付テ方法ノ改正ヲ要シ及証拠金ノコト役員公撰ノコト営業年限延伸ノコト等ハ、都テ小生ハ其大本ニ異見ヲ有スルニ付、協同会ノ拝答セシ趣旨ニ付テ別ニ評論ヲ下タスヲ要セサルモノト思考ス
 第三御問目ニ対シ協同会拝答ノ趣旨ハ小生カ平生思考スル所ト全ク反対ノ意見ニシテ小生ハ勉テ之レカ誤謬ヲ論駁セサルヲ得ス、今協同会ハ此米商会所ニ於テ其約定ヲ鞏固ニシ取引ヲ定結ナラシムルニハ担保ノ責ナカルヘカラス、而シテ株式会社トセハ株主ハ其払込ミタル株金ヲ以テ之レカ担保者ノ位地ニ立ツ者ナルニ付売買本主ノ安心ヲ得ルニ足ルト論セリ、是レ誤見ノ甚シキモノト云フヘシ、何トナレハ売買約定ノ際ニハ相当ノ証拠金ヲ双方ヨリ提供スルヲ以テ既ニ充分ノ安心ヲ有ス、何ヲ苦テ更ニ二重ノ株金ヲ要スヘキヤ、元来此共同約定会所ナルモノハ其要只実業者相集テ各自ノ取引ヲ便利スルニ在テ、他ノ銀行又ハ商会等ノ如ク株金ヲ募集シテ之レニ由テ其経業ヲ為スモノニアラス、然ルヲ協同会ハ不急ノ安心ヲ求メテ株式会社ノ組織ヲ主張シ、却テ此組織ノ為メニ売買人ニ無用ノ浪費ヲ増サシムルヲ識ラサルハ抑亦事理ニ達セサルモノト云フヘシ、況ヤ此株式会社ノ組織ナルニ於テハ到底仲買人ノ資格ヲ改良スル能ハサルノ実アルニ於テオヤ、是レ小生カ此拝答ノ趣旨ニ同意スル能ハサル所以ナリ
 第四御問目ニ対シ協同会ノ拝答ハ小生モ同感ニシテ毫モ異見アルコトナシ、故ニ小生ハ現今官許セラルヽ米商会所ノ中ニモ、或ハ此拝答ノ趣旨ニ悖リ他ノ商業鼓動ノ目的ヲ以テ之レヲ経営スル者アラハ宜シク之レヲ鑑別シテ弊害ナカラシメンコトヲ欲スルナリ
右御内諮ニ付愚見上陳仕候也
  明治十九年七月十七日
                    渋沢栄一栄一
    吉田農商務次官殿



〔参考〕吉田家文書 【米商会所ノ隆盛ヲ謀ルノ途ヲ議ス 大阪堂嶋米商会所仲買人 田中太七郎稿】(DK140007k-0003)
第14巻 p.58-68 ページ画像

吉田家文書                (吉田子爵家所蔵)
(表紙)

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   明治十九年五月     米商会所ノ隆盛ヲ     謀ルノ途ヲ議ス 



 - 第14巻 p.59 -ページ画像 
    米商会所ノ隆盛ヲ謀ルノ途ヲ議ス
          大阪堂嶋米商会所仲買人 田中太七郎稿
倩々思フニ我米商会所ノ隆盛ヲ謀ランニハ宜シク先ヅ従来仲買人ノ営業上ニ行ハルヽ密売買ノ弊ヲ矯正セザルベカラズ、然ルニアラザレバ到底真個ノ隆盛ヲ見ル能ハザルベキヲ信ズ、然リト雖モ此弊タル素ト数十年ノ間ニ於テ種々ノ事情ヨリ生ジタルモノナレバ、唯規則ノ厳ト責罰ノ重トヲ以テ之ヲ矯正セントスルモ得ベカラズ、否仮令矯正シ得ルモ為メニ該業ノ衰頽ヲ招クヲ如何セン、斯ノ如キハ所謂角ヲ矯メントシテ牛ヲ殺ス者ニ異ナラズ、蓋シ人ハ不利ヲ避テ有利ニ附クモノナリ、故ニ利益多キ職業ニハ人々多ク之ニ聚リ利益薄キ職業ハ人漸ク之ヲ去ル、而シテ競争ノ多少ハ人々ノ利益ヲ平均セシムルモノナルガ故ニ我仲買業ニ於テ密売買ノ行ハレ、由テ若干ノ利益ヲ生ズルコトアルモ之ヲ他業ノ利益ニ比シテ特ニ饒多ナルヲ得ザルナリ、是故ニ今若シ該業ノ実際如何ヲ顧ズシテ唯規則ノ厳ト責罰ノ重トヲ以テ密売買ノ弊ヲ芟除シ、即チ従来密売買ニ由テ得タル所ノ利益ヲ奪取シ去テ、更ニ之ニ代ルノ利益ヲ与ヘザルニ於テハ勢自ラ該業ノ衰頽ヲ来タサヾルヲ得ズ、蓋シ従来該業ノ利益ノ他業ニ比シテ粗平等ノ釣合ヲ得タルハ実ニ密売買ノ実際ニ行ハレタルニ因テナリ、故ニ若シ密売買ノ之ナカリセバ該業ハ日ニ月ニ衰頽シテ終ニ一人ノ営業者ナキニ至レルヤモ亦未ダ知ルベカラザルモノアリ、其故如何トナレバ今日現行ノ諸規則ヲ確守シテ営業ヲ為ストキハ如何ニモ損益相償ハザルノ実アレバナリ、今試ニ其理由ヲ述ベン
謹テ明治十九年度ノ歳計予算表ヲ捧読スルニ、米商会所税三拾壱万弐千三拾壱円トアリ、之ニ依テ見レバ全国米商会所一ケ年ノ売買米高ハ大凡ソ三千万石ト見積ラレタルモノヽ如シ、何トナレバ今平均米価ヲ壱石ニ付五円ト仮定シ之ニ三千万石ヲ乗ズルトキハ其代価高壱億五千万ニシテ、此千分ノ二(現行ノ税率)即チ三拾万円トナルヲ以テナリ、而シテ今日法律上ニ於テハ仲買人ハ自己ノ売買ヲ為スコトヲ得ザル筈ナレドモ是レ実際ニ行ハルヽ所ニアラザルヲ以テ、今売買米総高ノ四分ノ一即チ七百五拾万石ハ仲買人自己ノ売買ト看做シ其四分ノ三即チ弐千弐百五拾万石ハ他人ノ依頼ニ係ルモノト為ストキハ、其仲買口銭金弐拾弐万五千円(米拾石ニ付金拾銭ノ割)ナリ、而シテ該営業上ニ生ズル所ノ滞貸損金高ハ如何ト云フニ鮮クトモ弐拾万円ヲ下ダラザルベシ、何ヲ以テ之ヲ知ル、曰ク昨明治十八年中我堂島米商会所ノ売買米高ハ弐百廿壱万八千八百四拾石ニシテ其売買ニ係ル損金トシテ仲買人ヨリ米商会所ニ払込ミタル金額ハ三拾五万七千八百拾六円(即チ米壱石ニ付金拾六銭壱厘ニ当ル)ナリ、今此例ニ依テ右ノ二千二百五拾万石(即チ他人ノ依頼ニ係ル分)ニ対スル損金高ヲ計算スルトキハ即チ三百六拾弐万弐千五百円ニシテ、之ニ加フルニ口銭及手数料金五拾六万弐千五百円(米拾石ニ付金廿五銭ノ割)ヲ以テセバ合計四百拾八万五千円トナルベシ、然リ而シテ此巨額ノ金円ヲ売買依頼人ヨリ領収スルニ際シテ一厘一毛ノ滞貸ヲ生セサルコトハ実際上能ハザル所ナリ、試ミニ思ヘ今日政府ニ納ムル所ノ税金デスラ之ヲ怠納スルモノアリ、大蔵省主税局ノ調査ニ拠レバ明治十六年度国税額ハ五千九百四拾万七千二百廿九円ニシテ之ニ対スル不納金額ハ五拾六万五千四百拾二
 - 第14巻 p.60 -ページ画像 
円(税額百円ニ付不納金九拾五銭壱厘七毛ニ当ル)ナリ就中酒造税ノ如キハ壱千三百六拾六万七千二百八拾九円ノ徴収額ニ対シ五拾五万二千二百九拾円ノ不納(税額百円ニ付不納金四円四銭九毛ニ当ル)ヲ示セリ、今夫レ国民ノ最大義務タル所ノ税金ニシテ尚且斯ノ如シ、況ンヤ人民相互ノ貸借ニ於テオヤ、殊ニ況ンヤ我仲買業ニ於テハ滞貸損金ヲ生スルコトノ他業ニ比シテ多量ナルハ世人ノ能ク知ル所ニシテ、而シテ其貸借ハ負債主ニ於テ之ヲ他ノ貸借ト別視スルガ如キ慣習ノ存スルヲヤ、今仮リニ滞貸金高ヲ売買損金高ノ百分ノ五ト見積ルトキハ即チ二拾万九千弐百五拾円ニシテ同上百分ノ六ト見ルトキハ廿五万壱千百円トナルベシ、此推算ニシテ果シテ甚シキ誤謬ナク即チ仲買口銭金廿弐万五千円ニ対シ廿万円乃至廿五万円ノ滞貸ヲ生ズルモノトセバ全国四百廿五名(此人員ハ明治十八年六月三十日刊行官報ニ拠ル)ノ仲買人ハ何ヲ以テ生活ヲ為シ得ベキヤ、是レ現行ノ諸規則ヲ確守シテ営業ヲ為ストキハ損益相償ハザルノ実アリト明言スル所以ナリ、以上陳述スルガ如キ次第ナルヲ以テ今密売買ノ弊ヲ一洗シテ以テ該業ノ隆盛ヲ需メントナラバ、先ヅ此弊ノ因テ起リシ所ノ事情ヲ詳ニシ而シテ後適当ノ措置ヲ施サヾルベカラザルナリ、因テ詳ニ其事情ヲ陳セン
蓋シ我仲買業ナルモノハ所謂委托売買業ニシテ総テ他客ノ依頼ニ応シテ売買取引ヲ為シ、其取引ニ付相当ノ口銭ヲ領収シテ生計ヲ立ルモノニシテ売買上ノ損益ニハ毫モ関係セザル筈ナレバ、表面ヨリ之ヲ看レバ堅固ナル営業ノ如クナレドモ其実際ニ於テハ決シテ然ラザルモノアリ、何トナレバ他ノ依頼ヲ受ケテ売買取引ヲ為シタル分ト雖モ米商会所ニ対シテ自ラ一切ノ責任ヲ負担セザルベカラズ、譬ヘバ今某ヨリ定則ノ証拠金ヲ領シテ売買ノ依頼ニ応シ而シテ定則ノ手続ヲ履行シテ之ヲ米商会所ニ届出タリトセンニ、其後相場ノ高低ニヨリ米商会所ヨリ追証拠金ノ請求ヲ受クルトキハ差向キ自分手許ニ於テ之ヲ立換ヘ米商会所ニ入金為シタル上、其依頼人ニ向フテ之ヲ請求セザルベカラザル順序ナレバ、相場高低ノ甚シキ場合ニ当リテハ依頼人ヨリ未ダ第一回ノ追証拠金ヲ領収セザルニ、米商会所ニ対シテハ第二回・第三回ノ追証拠金ヲ差入ザルベカラザルコト屡々之アリ、而シテ若シ一時間ニテモ其入金ヲ怠ルトキハ、忽地違約人ヲ以テ論ゼラレ身元証拠金ヲ没収シ及ヒ除名セラルヽコトナルガ故ニ、之ガ為メ意外ノ損害ヲ被フルコト挙テ算フベカラズ、亦以テ我営業上ニ滞貸損金ヲ生ズルコト多量ナル所以ヲ知ルベシ、然リ而シテ其取引ニ付収入スル所ノ口銭ノ額ヲ問ヘハ寔ニ僅少ニシテ、他ノ委托売買業ノ口銭ニ比シテ殆ンド不釣合ナルモノアリ、之ヲ聞ク欧米諸国ノ「マアケツト」ニ於ケル米穀委托売買ノ口銭ノ如キハ大抵代価高百分ノ一・五乃至百分ノ二ニ至レリト、然レドモ今例ヲ遠ク欧米ニ求ムルヲ要セズ試ニ我国ノ正米ノ委托販売口銭ニ比較センニ、正米口銭ハ概子代価高百分ノ一・五即チ百円ニ付壱円五拾銭ノ割合ナルニ、我定期口銭ハ代価高千分ノ二即チ百円ニ付二拾銭ノ割合ナリ、均シク是レ米穀ノ取引ニシテ其口銭ノ懸隔スルコト此ノ如ク夫レ甚シ、議者或ハ云ハン、正米取引ハ現品ノ水揚蔵入等ヨリ受渡済ニ至ルマデ、数多ノ手数ヲ要スルコト定期米ノ比ニアラズト、夫レ然リ、然リト雖モ其所謂手数ノ如キハ我仲買人ガ約定期限中米商会所ニ対シテ負フ所ノ責任ノ重大ナルモノニ比スレバ其難易軽重
 - 第14巻 p.61 -ページ画像 
果シテ如何ゾヤ、況ンヤ定期米タル其期限ニ至ラバ正米取引ト同一ノ受渡手数ヲ要スルニ於テオヤ
我仲買口銭ノ他ノ委托売買業ノ口銭ニ比シテ不釣合ナルコト斯ノ如シ而シテ又転ジテ之ヲ我米商会所ノ手数料ニ比較センニ、是レ亦殆ント不都合ナルモノアリ、蓋シ今米商会所ノ手数料ハ代価高千分ノ三ニシテ、即チ大凡ソ我仲買口銭ニ一倍セリ、尤モ此手数料ハ悉ク米商会所ノ所得ニ帰スルニアラズシテ凡ソ其三分ノ二ハ税金トシテ政府ニ上納スルモノナレドモ、今此釣合如何ヲ論ゼントスルニハ仮ニ皆米商会所ノ領収スルモノト定メザルヲ得ズ(故ニ玆ニ手数料ト云フハ総テ税金ヲモ含有セルモノト知ルベシ)而シテ今日営業上ニ於テ負フ所ノ責任如何、又売買米ノ取扱上ニ要スル所ノ手数如何ヲ比較シテ以テ其釣合ヲ要ムルトキハ、会所手数料ヲ代価高千分ノ一トシ、仲買口銭ヲ同高千分ノ三トスルモ尚ホ仲買口銭ノ廉ニシテ会所手数料ノ貴キヲ覚ユルナリ、然ルヲ況ンヤ現行ノ如キ彼此相反対セルオヤ、然レドモ今斯ノ如ク我仲買口銭ノ会所手数料ニ比シ又他業ノ口銭ニ対シテ其釣合ヲ失シタル者ハ素ト密売買ノ結果ニシテ実ニ数十年来ノ因襲ニ係ル者ナリ、今其由来ヲ説カン
熟々旧記ニ就テ我堂島米商ノ沿革ヲ按スルニ、昔時諸藩ノ倉邸ヲ置キ其国ノ産米ハ概ネ之ヲ当地ニ輪シテ販売シタル時代ニアツテハ当地米商ノ繁栄ヲ致セルコト素ヨリ今日ノ比ニアラズシテ、而シテ其売買取引ノ頻繁ナルニ従ヒ勢自ラ延売買ノ必要ヲ感ジ玆ニ始メテ限月売買ヲ起セリ、所謂帳合米是ナリ、尤モ其当初ニ在テハ売買者双方相対ニテ其取引ヲ決済シ来リシガ、漸次売買取引ノ盛大ヲ致セルニ連レ売買者相対ノ取引ニテハ不便利ノ事共少ナカラザルニ依リ始メテ支配人ト云フヲ置キ、相当ノ賃銀ヲ給シテ其売買米ヲ支配セシムルコトニ任ジタリ、而シテ其支配人ヲ目シテ遣来両換《ヤリクリ》ト唱ヘ其給銀ヲ支配銀又ハ歩銀ト唱ヘタルコトニテ、即チ遣来両替ハ今ノ米商会所ニ当リ歩銀ハ今ノ米商会所ノ手数料ニ当ルコトナリ、然レドモ遣来両換ハ素ト右様ノ事情ヨリ成立タルモノナレバ其売買者ニ対スル関係ニ於テモ自ラ今ノ米商会所ガ仲買人ニ対スル如キ権利ヲ有スルモノニアラズ、且遣来両換ハ素ト売買者ノ便利ト其信用如何トニヨリ成立タルモノナレバ、苟クモ売買者ノ間ニ十分信用ヲ保チ即チ相互ニ其売買約定ヲ確実ニ履行スベキ見込アルトキハ敢テ之ニ依頼スルノ必要ヲ見ザルコトアリ、既ニ売買者ニ於テ敢テ之ニ依頼スルノ必要ナク又遣来両換ニ於テ其依頼セザル者ヲ責ムルニ十分ノ権利ヲ有セザルカラハ勢自ラ密売買ノ行ハレザルヲ得ザル理ニシテ、即チ該営業上古来密売買ノ盛ンナリシ所以ナリ、情況既ニ比ノ如キ有様ナルヲ以テ彼ノ歩銀即チ会所手数料ト仲買口銭トノ釣合如何ノ如キハ売買者即チ仲買人ノ敢テ顧ル所ニアラザルノミナラズ、寧ロ手数料ノ高貴ナランコトヲ望ムベキモノアリ、何トナレバ売買依頼人ヨリ金額ヲ領収スルニ際シ仲買口銭トシテ領スルヨリ会所手数料ノ名ニヨリテ領スル方頗ル都合ヨキ事情アレバナリ、見ルベシ、彼此其釣合ヲ失シタル者ハ素ト密売買ノ結果ニシテ而シテ転タ其原因トナルニ至リシコトヲ
蓋シ密売買ノ最モ盛ンナリシハ旧米会所ノ時(即チ明治四年該会所創立以来同九年条例御頒布ニ至ル迄ノ間)ニアツテ而シテ夫ノ手数料ト口銭トノ釣合ヲ失シタルノ最モ甚
 - 第14巻 p.62 -ページ画像 
シキモ亦此時ニアリ、即チ当時仲買口銭ハ米拾石ニ付金拾銭ニシテ会所手数料ハ同前ニ付日別金壱銭トス、故ニ新規売買約定後三十日目ニ転売買戻シスルトキハ会所手数料ハ金三拾銭ニシテ、即チ仲買口銭ニ二倍シ六十日目ニ於テスルトキハ之ニ五倍スルノ割合ナリ、是ヲ以テ当時仲買人ニ於テ密売買ヲナストキハ其口銭ニ数倍スルノ利益アリ、況ンヤ現今ノ如ク条例ト云フモノモナク、会所ノ規則モ極メテ寛大ニシテ仲買身元金ノ如キモ僅々五拾円ニ過ギザルヲヤ、是レ当時密売買ノ最モ盛ンナリシ所以ナリ、之ヲ要スルニ会所手数料ノ多量ナルトキハ密売買者ニ利益多キヲ以テ其自ラ増加シ、之ニ反シテ手数料ノ少量ナルトキハ密売買者ニ利益少ナキヲ以テ其自ラ減少スルコトナリ
密売買ノ弊ヤ実ニ以上陳述スルガ如キ事情ヨリ生ジタルモノナリ、故ニ之ヲ矯正セントスルニハ宜シク右等ノ事情ヲ酌量シテ以テ適当ノ措置ヲ施サヾルベカラズ、然ルニ明治九年条例御頒布以来当局者ガ施サルヽ所ノ措置如何ヲ観察スルニ、或ハ右等ノ事情ニハ注意セラレズシテ唯規則ノ厳ト責罰ノ重トヲ以テ之ヲ矯正セントセラルヽモノヽ如シ然ルガ故ニ其弊ヲ矯メントシテ却テ倍々之ヲ増長セシメタルノ実ナシトセズ、今其一二ノ例ヲ挙レバ、夫ノ仲買口銭ノ制限ヲ立テラレタルガ如キ、又仲買人税ヲ課セラレ若クハ会所手数料ヲ増加シテ殆ンド過当ノ額ニ至ラシメタルガ如キコト是ナリ、凡ソ賃金ヲ領スルモノハ其賃金ニ対スル丈ケノ効用ナカルベカラズ、而シテ現行ノ如キハ賃金ト効用ノ釣合ヲ失フノ実ナシトセズ、素ヨリ今ノ会所ノ手数料ハ他ノ賃金ト同一視スベカラザルモノアリト雖モ要スルニ売買約定ヲ保証スル為メノ賃金ニ外ナラズ、況ンヤ米商会所ハ原ト売買者ノ便利上ヨリ成立タルモノニアラズヤ、然ルニ今日仲買人ガ米商会所ニ依頼シ即チ正則ニ拠テ売買取引ヲ為ス所以ハ毫モ便利如何ニ関係アラズシテ、唯責罰ノ厳重ナルニ制セラレ余儀ナク之ニ依頼スルガ如キ情況アリ、是レ畢竟其効用ニ対スル手数料ノ不相当ナルニ起因スルニアラズヤ、目今ノ情況実ニ此ノ如クナルガ故ニ若シ皮想ノ観察ヲ為シテ其真際ニ適セサル厳法ヲ設ケラルヽガ如キコトアラバ仲買人ハ勢ヒ止業ノ一途アルノミ、是レ乃チ依頼人ノ売買ヲ保険シ其保険料ニ対スル口銭ナクシテ之ヲ担任セザル可カラザル位置ニ在ルニ因テナリ、該業者ノ困難ナルコトヲ想察スベシ、然ルニ幸ニシテ客年十一月第三十六号ノ御布告ニ依リ仲買口銭ノ制限ハ之ヲ解除セラレタリト雖ドモ、悲哉今日ノ実際上ニ於テ其改正ノ恩沢ニ浴スルコト能ハザルヲ如何セン、何トナレバ今我仲買口銭ハ彼ガ如ク僅少ナリト雖モ米商会所手数料ノ多額ナルガ為メ、売買依頼人ヨリ支出スル所ノ金額ハ甚ダ少小ナラザルガ故ニ、此上仲買口銭ヲ増加セバ依頼人ニ於テ其負担ニ堪ヘズシテ自然売買高ヲ減少スベキ恐アリテ之ヲ増加スルヲ得ザレバナリ
以上陳述スル所ニ由テ之ヲ見レバ、今日ノ急務ハ止ダ仲買口銭ヲ増加シテ米商会所手数料ヲ減少シ、以テ彼此其釣合ヲ正当ナラシムルニアリ、是レ併シナガラ会社税ノ軽減ヲ仰グニアラザレバ能ハズ、何トナレバ今日米商会所手数料ノ高貴ナルハ素ト会社税ノ高貴ナルニ基クモノ居多ナレバナリ、然レドモ此事ニシテ行ハレズンバ到底密売買ノ弊ヲ実際ニ矯正スル能ハザルベクシテ而シテ又我米商会所真個ノ隆盛ヲ
 - 第14巻 p.63 -ページ画像 
見ル能ハザルベキヲ信ズ、然リ而シテ今会社税ノ軽減ヲ仰グニ際シテ更ニ希望スル所アリ、現行ノ従価税法ヲ改メ之ヲ会所手数料ヨリ算出シテ其五割乃至六割ヲ徴収スルコト是ナリ、蓋シ今日会所手数料ハ代価高千分ノ三ニシテ其税額ハ同高千分ノ二ナレバ即チ手数料ノ六割六分ヲ上納スルコトナリ、故ニ其手数料ニ対スル税額ノ割合ニ於テハ嘗テ希望スル所ト敢テ甚シキ差違ナキコトナレバ、此希望ハ減税ニアラズシテ寧ロ徴収方法ノ改正ニアリトスルモ不可ナキナリ、然リ而シテ何故ニ此改正ヲ望ムヤトナレバ、素ト会所手数料ナルモノハ市況ノ如何ニ応シテ時々増減ヲ要スルコトアリ、然ルニ現行ノ制ニ於テハ時ニ或ハ手数料ノ多キニ失シ又其少ナキニ失シテ為メニ其収入額ヲ減少シ併セテ売買取引ヲ妨害スルアリト思惟スルモ会所ハ之ヲ如何トモスル能ハザルナリ、故ニ今若シ現行ノ従価税法ヲ改正シテ之ヲ会所手数料ヨリ算出スルコトトセバ、米商会所ハ常ニ市況ノ如何ニ注目シ便宜ノ計画ヲ施シテ最モ多量ノ手数料ヲ得ンコトヲ務ムベシ、而シテ政府ハ従ヒテ最モ多量ノ租税ヲ収入スルヲ得ベクシテ売買者モ亦為メニ売買取引ヲ妨害セラルヽガ如キ患ヲ免ルコトヲ得ベシ、是レ実ニ官民双方ノ利益ニアラズヤ、今此徴収方法ノ改正ヲ希望スル所以ノモノハ全ク之ニ外ナラザルナリ、然リ而シテ此希望ヲシテ満足セシムルモ政府ノ収入ニ於テ敢テ減少セザルノミナラズ却テ其増加ヲ見ルニ至ルベキコトヲ証センガタメ、旧冬減税以降今日ニ至ル迄ノ実蹟ト前年同時限ノ事実トヲ対照比較シテ以テ当局者ノ参考ニ供セントス、而シテ之ヲ対比セントスルニ際シ会所手数料ニ関シテ一言セザルベカラザルモノアリ、他ナシ会所手数料ナルモノハ固ト市況ノ如何ニ依リ売買者ニ於テ時ニ其軽重ヲ感ズルモノナレバ、唯々其金額ノ多少ノミヲ以テ之ガ増減ヲ論ズベカラズ、宜シク市況ノ冷熱ト相場高低ノ割合ニ比準シテ之ヲ論ズベキナリ、譬ヘハ市況活溌ニシテ相場高低ノ甚シキトキハ其金額ノ多量ナルモ売買者ニ於テ敢テ之ヲ意トセザレドモ、市況沈滞シテ相場動揺ノ見込薄キトキハ其少量ナルモ尚之ヲ厭フコト是ナリ、因テ今相場高低ノ割合ニ比準シテ手数料ノ増減如何ヲ対照シ、次ニ売買出来高ノ増減《(衍カ)》ノ増減ヲ比較スル即チ左ノ如シ(但シ左ノ表ハ堂島米商会所定期先物ノ相場ヲ示スモノナリ)

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      明治十七年十二月ヨリ十八年五月廿日ニ至ル相場高低表   明治十八年十二月即チ減税以降十九年五月廿日ニ至ル相場高低表 月次     最高     最低                  最高     最低           円       円                  円        円 十二月   六、八二〇   五、九二五              五、六七〇   五、三二〇 一月    六、七八五   六、一〇〇              五、六九〇   五、四八〇 二月    六、七五〇   六、一三〇              五、五七〇   五、二三五 三月    六、八八〇   六、五九〇              五、五四〇   五、二八五 四月    六、六九〇   六、一一〇              五、三六五   五、一七五 五月    六、二六五   五、五〇〇              五、五一五   五、三三五 平均    六、六九八   六、〇五九              五、五五八   五、三〇五 最高最低ノ較差         六十三銭九厘                  二十五銭三厘 売買米拾石ニ対スル会所手数料  三十六銭                     十六銭五厘 較差壱円ニ対スル会所手数料ノ比例  五銭六厘                    六銭五厘 



前表ニ拠レバ旧冬減税以降会所手数料ノ金額ハ之ヲ前年同時限ニ比較
 - 第14巻 p.64 -ページ画像 
シテ著シク減少セリト雖トモ、相場高低ノ割合ニ此準シテ之ヲ観レバ敢テ減少セリト云フベカラザルノミナラズ却テ増加セシモノアリ、是レ即チ減税以降未ダ其割合ニ売買高ノ増加セザル所以ナランカ、然レドモ減税以降今日迄ノ売買高ヲ以テ之ヲ前年同時限ノ売買高ニ比較スレバ実ニ左ノ如キ増額ヲ示セリ(但シ左ノ表ハ堂島米商会所定期売買米ノ総出来高ヲ示スモノナリ)

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 月次   明治十七年十二月ヨリ十八年五月廿日ニ至ル売買米出来高   明治十八年十二月即チ減税以降十九年五月廿日ニ至ル売買米出来高              石 十二月    四九五、五四〇                      四三七、三八〇 一月     四四四、一六〇                      三五二、三八〇 二月     三五五、九四〇                      四五一、五八〇 三月     二六三、八二〇                      五〇五、〇四〇 四月     二七〇、六〇〇                      四〇八、九六〇 五月     二四〇、九六〇                      三三六、二四〇 総計   二、〇七一、〇二〇                    二、四九一、五八〇 



前表ニ拠レバ旧冬減税以降今日迄ノ売買高ハ弐百四十九万千五百八拾石ニシテ、之ヲ前年同時限ノ売買高弐百七万千弐拾石ニ比スレバ四拾弐万五百六拾石ノ増額ヲ示セリ、蓋シ前年ニ在テハ彼ノ十七年ノ米作ノ凶歉ヨリ引続キ朝鮮事変ノ発出シ猶対清談判等ノ事アツテ諸色一般非常ノ活溌ヲ呈シ、就中米銀取引ノ如キハ特ニ頻繁ヲ致セリ、然ルニ本年ニ在テハ其景況全ク右ニ反対シ不景気ハ日ニ増シ不景気ニシテ殆ンド其到底ヲ知ラザルモノヽ如ク、殊ニ我米商ノ如キハ彼ノ警察事件ヨリシテ大ニ売買取引ノ衰頽ヲ醸セシノミナラス、会所ニ於テ仲買人十余名ノ営業ヲ停止セシモノアルモ尚売買高ノ増額ヲ示セルコト斯ノ如シ、之ヲ以テ観レバ若シ本年ノ事情ヲシテ悉ク前年ト同一ナラシメバ其盛衰増減ハ瞭トシテ火ヲ見ルヨリモ明ラカナルベク、亦以テ減額以降密売買ノ漸ク実際ニ減少セシコトヲ知リ得ベクシテ、而シテ其税額ノ減少セシニモ拘ラズ却テ其実収額ノ増加スベキ傾向アルヲ知リ得ベシ、依之推之夫ノ減額ノ如キハ誠ニ其当ヲ得テ官民共ニ利益スルモノアルハ更ニ疑ヲ容レザルナリ、故ニ今一歩ヲ進メテ猶其税額ヲ減少シ且ツ徴収方法ヲ改正シテ以テ倍々官民ノ利益ヲ増加センコト余輩千希万望ニ堪ヘザル所ナリ
蓋シ本論ノ主眼ハ仲買口銭ト会所手数料トノ釣合ヲ正当ナラシメンコトヲ求ムルノ一点ニアリテ、而シテ此希望ヲ達セントスルニハ先ヅ税則ノ改正ヲ仰グニアラザレバ能ハズ、故ニ幸ニ鄙言ヲ聴納セラレ税則改正ノ恩命ヲ辱フスルニ至リナバ第一委托定期売買ニ付至当ナル仲買口銭ノ額ヲ定メ、次ニ会所手数料ハ凡ソ仲買口銭ノ半額ト為シ而シテ税額ハ前段ニ述ルガ如ク会所手数料ノ五割乃至六割ト為サレンコトヲ望ムナリ、或ハ云ハン会所手数料ヲ減ズルモ仲買口銭ヲ増ストキハ勢自ラ売買高ヲ減少シテ為メニ会所ノ経済ヲ保ツ能ハザルヲ如何ンセント、是レ所謂其一ヲ知テ未ダ其二ヲ知ラザルモノヽ言ノミ、何トナレバ今仲買口銭ノ増加シテ会所手数料ノ減少スルトキハ、現時仲買人ニ托シテ多量ノ売買ヲ為ス者ハ皆自ラ仲買業ニ加入シテ直ニ売買取引ヲ為スニ至ル(玆ニ至テ仲買人ノ自己ノ売買ヲ禁スル法ノ愈実際ニ行ハ
 - 第14巻 p.65 -ページ画像 
レザルコトヲ知ル故ニ今併セテ此法律ノ改正ヲ仰カザルヲ得ズ)ベキヲ以テナリ、況ンヤ会所手数料ノ減少スルトキハ彼ノ密売買ノ跡ヲ実際ニ絶チ皆悉ク公然タル売買取引ヲ為スニ至ルベキオヤ、是レ乃チ二者ノ釣合ヲ正当ナラシムルヲ以テ今日ノ急務ト為ス所以ナリ、斯ノ如クニシテ而シテ始メテ我米商会所真個ノ隆盛ヲ見ルベシ、意長ク筆短シ、書尽サヾルモノハ左表ニ就テ明察アレ、目下該業ノ情況ニ関シ黙止スルニ堪ヘザルモノアリ、敢テ鄙言ヲ陳述シテ当途ノ裁択ヲ仰ガント欲スルモノ如此
 左ノ表ハ明治九年十一月即チ我堂島米商会所創業以降月々ノ米価高低ノ割合ト売買高トヲ比較シ、加フルニ条例規則ノ沿革ヲ略叙シテ以テ米商会所ノ盛衰ハ米価ノ動静ト条例規則ノ寛厳如何ニ根基スルノ事実ヲ示スモノニテ、乃チ以テ本論ノ実際ナルコトヲ証シ、併セテ既往ニ徴シテ将来ニ処スルノ参考ニ供スルモノナリ(但条例規則ハ其最モ太タ当業者ノ利害ニ関係スルモノヲ撰ミ揚グ)


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 年月          定期先物相場       最高    最低       高低ノ差    売買総石高    条例規則ノ沿革        円 銭    円 銭     銭           石 九年 十一月   四・六〇   四・二一    三九     一四四、四二〇   九年十一月四日会所開業于時仲買人身元金ハ一等ヲ弐百円トシ二等ヲ百円トス、但二等仲買ハ一等仲買ノ手ヲ経ズ直ニ他人ノ依頼ヲ受ケテ売買取引ヲ為スコトヲ得ズ」仲買人密売買ヲ為シタルトキハ除名シ身元金ヲ没収ス」売買約定証拠金ハ代価高十分ノ一」会所手数料ハ定期取引米拾石ニ付金拾銭、現場取引米拾石ニ付金壱銭トス 十二月   四・四五   四・二六    一九     一八五、一二〇 十年 一月    五・一八   四・六六    五二     九三〇、一二〇 二月    五・六一   五・〇三    五八   二、〇三一、四二〇 三月    五・三一   四・八九    四二   二、七三一、三二〇 四月    四・九一   四・五八    三三   一、七三一、八四〇 五月    五・三三   四・八五    四八   二、三八八、二三〇 六月    五・五六   五・二九    二七   一、九三二、二四〇 七月    六・二二   五・六八    五四   三、二六四、三五〇 八月    五・七八   五・一四    六四   三、五七八、三二〇 九月    五・四六   四・九一    五五   三、一三八、一七〇   十年九月現場取引手数料ヲ米拾石ニ付金壱銭五厘ト改正ス 十月    五・〇六   四・八二    二三   一、一九三、〇三〇 十一月   五・一一   四・八二    二九   一、七四六、五九〇 十二月   五・二一   五・〇一    二〇   一、二一三、六四〇 十一年 一月    五・七八   五・三五    四三   二、二一四、二九〇 二月    五・八二   五・三八    四四   二、〇三〇、一九〇 三月    五・七四   五・四〇    三四   二、五七四、二一〇 四月    五・八八   五・五二    三六   一、一一八、五二〇 五月    六・六六   六・二五    四一   二、五三〇、二五〇 六月    六・二九   五・七七    五二   一、八三七、五五〇 七月    六・一七   五・六〇    五六   三、二三七、二三〇 八月    五・九五   五・六六    二九   二、四九九、五六〇 九月    五・六三   五・〇一    六二   二、九〇六、〇三〇 十月    六・一五   五・一四  一・〇〇   三、六八五、〇七〇 十一月   六・六二   六・〇一    六一   三、九三三、〇一〇 十二月   六・六四   六・一一    五三   二、八〇二、二一〇 十二年 一月    六・五八   六・一六    四一   二、五五三、三三〇 二月    六・三四   六・一五    一九   一、一九九、八一〇  以下p.66 ページ画像  三月    六・五八   六・一六    四一   一、五五六、七三〇   十二年三月定期取引手数料米価四円以上五円未満米拾石ニ付金八銭、米価五円以上拾円未満金拾銭」現場取引手数料米価四円以上五円未満米拾石ニ付金弐銭五厘米価五円以上六円未満金三銭余ハ之ニ準スト改正シ、仲買口銭ハ会所手数料ノ高ニ超ユルベカラズトス 四月    六・九六   六・六二    二四   一、二六六、四三〇 五月    六・九一   六・七三    一八   一、一一六、二九〇 六月    七・八五   七・二一    六四   二、五八九、八四〇 七月    七・九六   七・一四    八一   二、四二三、七四〇 八月    七・九一   七・〇四    八七   三、五六八、七六〇 九月    七・七二   七・〇六    六六   二、八六〇、四六〇 十月    七・六一   七・三六    二五   一、六一二、三五〇 十一月   七・八九   六・九五    九四   一、一五三、二九〇 十二月   八・五〇   七・五九    九一   一、六五九、九二〇 十三年 一月    八・七五   七・八七    八七   一、三八〇、七五〇 二月    九・二四   八・四〇    八四   二、〇一〇、〇四〇 三月    九・二〇   八・五三    六七   二、一一一、八三〇   十三年三月仲買人他人ノ依頼ヲ受ケテ売買ヲ為シタルトキハ会所ヨリ発付スル証拠金預リ証ヲ売買本主ニ交付スベシ」定則ノ証拠金ヲ領収セズシテ売買ノ依頼ヲ受クル者ハ除名シ身元金ヲ没収ス」仲買人ニ犯則ノ所為アルコトヲ知テ会所ニ申出ル者ヘハ犯則者ノ身元金ヲ没収シテ附与スベシ」等ノ規則ヲ設ケ○四月十三日売買停止ヲ命セラル○同月米商会所外若クハ内タリトモ窃ニ定期売買ヲ為シタル者ハ拾円以上弐百円以下ノ罰金ニ処スベキ旨ヲ公布セラル○十月一日解停此際大ニ規則ヲ改正シ頗ル厳法ヲ設ク即チ仲買人身元金ヲ壱千弐百円トシ売買約定証拠金ヲ代価高十分ノ二トシ会所手数料ヲ現場定期ノ別無ク米価五円五拾銭以上六円未満米拾石ニ付金拾壱銭米価六円以上六円五十銭未満金拾弐銭余ハ之ニ準ズトス 四月   一〇・二八   八・八六  一・四二     三七三、二〇〇 五月     ――     ――    ――         ―― 六月     ――     ――    ――         ―― 七月     ――     ――    ――         ―― 八月     ――     ――    ――         ―― 九月     ――     ――    ――         ―― 十月   一一・四五   九・七〇  一・七五      二一、一七〇 十一月  一二・二五  一一・四六    七九      四五、五〇〇 十二月  一二・一一  一〇・八二  一・二九      六九、四七〇 十四年 一月   一一・一八  一〇・〇二  一・一六     一二二、〇四〇 二月   一一・〇三  一〇・三七    六五     一一八、六九〇 三月   一一・一三  一〇・五一    六二      九六、五七〇 四月   一〇・八五  一〇・〇六    七九     一〇八、五二〇   十四年四月会所手数料ヲ米価六円以上七円未満米拾石ニ付金拾銭五厘、米価七円以上八円未満金拾弐銭余ハ之ニ準ズト改正ス 五月   一〇・四九   八・九四  一・五五     三一四、二一〇 六月   一〇・四六   九・一三  一・三三     二九二、〇八〇 七月   一〇・〇二   九・二〇    八二     二九五、三九〇 八月    九・二五   八・三七    八八     三一五、一八〇 九月    九・二五   七・七八  一・四七     四五六、九九〇 十月    九・二七   八・七〇    五七     三五九、〇四〇 十一月   九・八四   九・〇九    七五     二八八、四九〇 十二月   九・六一   九・〇八    五三     二四三、五三〇 十五年 一月    九・二三   八・六五    五八     五二五、一〇〇 二月    九・〇八   八・五二    五五     四五八、五八〇 三月    八・七九   六・九八  一・八一   一、一四九、六〇〇 四月    七・八九   七・三九    五〇     九〇五、二四〇  以下p.67 ページ画像  五月    八・三八   七・七八    六〇     六四八、〇二〇   十五年五月条例中改正「仲買人タルモノハ他人ノ依頼ヲ受クルニアラザレバ売買取引ヲ為スコトヲ得ズ」一口ノ取引ニ付売買双方ノ依頼ヲ受クルコトヲ得ズ」等ノ事項ヲ示サル 六月    八・三〇   七・八二    四八     五九六、七二〇 七月    七・九二   七・二八    六三     六四四、三〇〇 八月    九・二二   七・三五  一・八七   一、六二七、三〇〇 九月    九・〇八   八・二三    八五   一、〇二〇、三〇〇 十月    九・二四   八・〇〇  一・二四     八一五、二六〇 十一月   八・三六   七・三三  一・〇三     九三四、五二〇 十二月   七・五一   六・七二    七九     九四六、九六〇 十六年 一月    七・一四   六・三五    七八     九五八、九四〇 二月    七・三六   六・七三    六二     九〇六、八〇〇 三月    七・二五   六・七二    五三   一、五七一、五一〇   十六年三月六日犯則ノ嫌疑ニ依リ仲買人一同警察署ニ拘引セラレ後若干名罰金ニ処セラル 四月    六・九一   六・一七    七四     七八三、八二〇   四月一日ヨリ仲買人納税規則ヲ実施ス、即チ仲買人定期売買ヲ為ストキハ代価高千分ノ五ヲ納税ス、但税金ヲ納メズシテ売買ヲ為ス者ハ脱税高三倍ノ罰金ニ処セラレ仲買人タル認許ノ効ヲ失フ 五月    六・九四   六・三九    五五     四〇六、二八〇   五月売買約定証拠金ヲ代価高十分ノ一ト改正 六月    七・九〇   七・二二    六七     一一五、五二〇 七月    七・六三   六・九三    七〇     一五一、七七〇 八月    六・九九   六・一九    八〇     一六八、〇八〇   八月仲買人ニシテ窃ニ定期売買ヲ為シタル者ハ五十円以上千円以下ノ罰金ニ処スベキ旨ヲ公布セラル 九月    六・一五   五・四一    七三     三一二、一七〇   九月会所手数料ヲ代価高万分ノ六ト改正シ 十月    五・一七   四・五三    六四     四七二、八三〇 十一月   五・〇八   四・一〇    九七     七四九、九一〇 十二月   四・九〇   四・四五    四五     三九八、二四〇   十二月更ニ千分ノ一ト改正ス○十二月売買約定証拠金ヲ代価高十分ノ一以上十分ノ二以下トシ時価ノ状況ニ応シテ其割合ヲ定ムベシト改正ス 十七年 一月    四・八七   四・四五    四二     三三九、〇四〇 二月    五・四〇   四・九二    四八     五〇一、六四〇 三月    五・三九   五・一〇    二九     三二三、四八〇 四月    五・四五   五・一一    三四     二八七、八二〇 五月    六・一七   五・六四    五二     四三三、七〇〇 六月    六・二二   五・三六    八六     四〇七、四四〇 七月    五・六〇   四・八五    七五     六二一、二六〇 八月    五・一三   四・三九    七三     五五五、六六〇 九月    五・三〇   四・六六    六四     五三九、四六〇 十月    五・六〇   四・九六    六四     四三九、二〇〇 十一月   六・一八   五・三五    八二     四八四、一六〇 十二月   六・八二   五・九二    八九     四九五、五四〇 十八年 一月    六・七八   六・一〇    六八     四四四、一六〇 二月    六・七五   六・一三    六二     三五五、九四〇 三月    六・八八   六・五九    二九     二六三、八二〇 四月    六・六九   六・一一    五八     二七〇、六〇〇  以下p.68 ページ画像  五月    六・二六   五・五〇    七六     三六八、六八〇 六月    六・〇八   五・五三    五五     三〇一、七八〇 七月    七・〇八   六・三七    七四     三九三、一六〇 八月    六・八〇   五・七〇  一・一〇     三五六、八四〇 九月    五・五〇   四・五一    九九     五〇一、五〇〇 十月    五・一三   四・六〇    五三     三六一、九四〇 十一月   五・五四   五・一〇    四四     三三六、〇〇〇   十一月廿八日仲買人納税規則ヲ廃止シ並ニ仲買口銭ノ制限ヲ解除セラル○十二月一日会所手数料ヲ改正シ証拠金未入ノ分ヲ代価高千分ノ二トシ証拠金既入ノ分ヲ代価高千分ノ三トス 十二月   五・六七   五・三二    三五     四三七、三八〇 十九年 一月    五・六九   五・四八    二一     三五二、三八〇 二月    五・五七   五・二三    三三     四五一、五八〇 三月    五・五四   五・二八    二五     五〇五、〇四〇   三月十八日犯則ノ嫌疑ニ依リ仲買人廿余名其筋ノ取調ヲ受ク○同月会所役員ニ於テ仲買人十余名ノ営業ヲ停止シ尋テ退社ヲ命ス○四月仲買人ノ営業上ニ関シ種々厳密ナル取締法ヲ設ク 四月    五・三六   五・一七    一九     四〇八、九六〇 五月    五・五一   五・三三    一八     四四四、一四〇 



 要計 表面売買高ノ中二行ニ示スモノ右行ハ現場売買ニシテ左行ハ定期売買ナリ又納税高ノ中二行ニ示スモノ右行ハ会社税ニシテ左行ハ仲買人税ナリト知ルヘシ

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 年次       定期先物相場         最高     最低    売買石数         会所手数料収入高   納税高      仲買人員         円 銭    円 銭            石         円         円          人 明治十年   六・二二   四・六六   二四、七三九、二二〇   不詳         不詳              ―                       一、一七〇、〇七〇 同十一年   六・六六   五・〇一   二九、九五六、三八〇    五九、〇五一    二六、六二五          ―                       一、四一一、七四〇 同十二年   八・五〇   六・一五   二一、一七九、〇一〇   一〇五、三三二    四五、〇三二   十二月末 一九八                       二、四二四、九三〇 同十三年  一二・二五   七・八七    四、八九五、二一〇    四二、二一三    二〇、九八六   六月末   八四                       一、一一六、七五〇 同十四年  一一・三〇   七・七八    三、〇一〇、七三〇    四六、一三八    二一、〇三二          ― 同十五年   九・二四   六・七二    五、二一八、二六〇    六七、一二二    二七、八八七   十二月末  六〇 同十六年   七・九〇   四・一〇    二、六五三、九二〇    二一、四九三     六、八三三   同     四九                                    四〇、八六一 同十七年   六・八二   四・三九    二、八四四、九三〇    一五、一五一     三、〇三〇   同     五五                                              七五、六六六 同十八年   七・〇八   四・五一    二、二一八、八四〇    一五、四四七     四、七九七   同     六四                                              五九、三二二 



 (備考)明治十三年以前ニ於テ現場売買ノ多量ナルモノハ其手数料ノ特ニ低廉ナルニ基クト雖モ、一ツハ当時密売買ヲ為スノ容易ナルヲ以テ仲買人ニ於テ定期売買ヲ現場売買ニ仕做シテ会所ニ届出タルモノ多キニ由レリ、又会所税額ハ明治十五年六月迄ハ収入金額ノ十分ノ四ヲ納税シ、十五年七月ヨリ十六年三月迄ハ売買手数料高ノ十分ノ四ヲ納税シ、十六年四月ヨリ十八年十一月迄ハ同高十分ノ二ヲ納税シ、十八年十二月ヨリ現行ノ税額即チ売買金高ノ千分ノ二ヲ納税ス


〔参考〕吉田家文書 【商務局長閣下ノ下問ニ答フ 於米商会所共同会 田中太七郎演】(DK140007k-0004)
第14巻 p.68-72 ページ画像

吉田家文書                (吉田子爵家所蔵)
    商務局長閣下ノ下問ニ答フ
               於米商会所共同会
 - 第14巻 p.69 -ページ画像 
                       田中太七郎演
問項 果シテ米商会所ヲ以テ必要ノ事業ナリトセハ従来各米商会所ニ見ル所ノ弊習ヲ矯正シ改良ノ緒ニ就カシメサルヘカラス、其方法如何
予ハ本項ノ下問ニ対シテハ特ニ十分意見ヲ開陳シテ当局者ノ参考ニ供セント欲スルナリ、何トナレハ今日各地米商会所ノ斯ノ如キ衰運ニ陥リ、且ツ終ニ米商会所ハ有害無益ノ具ナリト言ハルヽモ詮方ナキ場合ニ立至ラシメタルモノハ実ニ此弊習ノ然ラシメタル所ナレハナリ、併シ凡ソ事物ノ弊害ヲ矯メントスルニハ先ツ其弊ノ由テ発セシ所ノ原因ヲ詳ニセサルヘカラス、若シ夫レ原因ヲ明カニセスシテ之カ矯正ノ策ヲ講スルカ如キハ恰モ病人ノ顔色ノミヲ見テ薬剤ヲ投スルモノニ異ナラスシテ、或ハ下痢病ニ下剤ヲ与ヘテ終ニ虎列刺往生ヲ遂ケシムルカ如キコトナキヲ保セス、故ニ予ハ先ツ此弊習ノ発シタル原因ヲ詳ニシ而シテ後之レカ矯正ノ方法ヲ陳述セント欲ス
蓋シ所謂密売買トハ相互ノ信用ニ依テ売買取引ヲ為シ之ヲ会所ニ届ケサルモノヲ指スナリ、然ルニ此密売買タル今日ニ在テコソ之ヲ不正ノ所為ト云フヘキモ、素ト其密売買ノ起リタル昔時ニ遡ツテ之ヲ見レハ敢テ不正ノ処為ト云フヲ得サルノミナラス、此売買コソ実ニ本業ノ正則ニシテ、今日ノ所謂正則即チ会所ニ届出ルコトノ如キハ畢竟売買者ノ都合如何ニ属セシモノナリ
熟々限月売買ノ起源ヲ原タルニ昔時元禄享保ノ頃大阪堂島ニ濫觴セシモノヽ如シ、而シテ其当初ニ在テハ売買者相互ノ信用ニ依リ売買取引ヲ為シ(今日ノ所謂密売買)タリシカ就中相互ノ間或ハ其相手方ノ違約センコトヲ恐ルヽノ事情ヨリシテ若干ノ証拠金ヲ双方ヨリ掛合セ或ハ両換ナルモノヘ托シテ其売買ヲ保証セシムルコトニ為シタリ(是レ今日ノ所謂正則ナリ而シテ両換ハ則チ今ノ米商会所ト同一ノ事業ヲ営ムモノニシテ其数拾余戸アリキ)然ルニ当時限月売買ハ法律ノ禁スル所ナルカ故ニ其取引ヲハ正銀正米ト唱ヘ両換ノ帳面上ニハ金銭ノ貸借ニ仕做シ両換ニ取ル所ノ手数料(即チ今ノ会所手数料)ハ歩銀ト称シ当時一般ノ利足ニ比準シテ其割合ヲ定メ日歩勘定ヲ以テ之レヲ領収セシニヨリ其金額ハ甚シキ多量ニ登レリ、之ニ反シテ仲買人ニ於テハ其売買ハ現場ニ於テ取引ヲ決了セシモノヽ如ク仕做シタルカ故ニ其領スル所ノ口銭ノ額ハ極メテ僅少ナラサルヲ得ス、由テ此口銭ヲ以テ彼ノ両換手数料則チ歩銀ニ比較セハ殆ント失当不釣合ナルモノアリ、然レトモ此両換ニ托スルト否トハ全ク仲買人ノ随意タルガ如キ姿ナルヲ以テ其釣合如何ノ如キハ仲買人ノ敢テ顧ル所ニアラサルノミナラス或ハ其釣合ヲシテ倍々失当ナランコトヲ望ムヘキモノアリ、他ナシ売買本主ヨリ金額ヲ領スルニ当リ仲買口銭トシテ領スルヨリハ寧ロ歩銀(即チ会所手数料)ノ名ニヨリテ領スル方頗ル都合能キ事情アレハナリ
維新後、明治四年官許ヲ得テ米会所ヲ堂島ニ創立スルヤ、其目的ハ従来数拾軒ノ両換ニ於テ経営セシ事業ヲ該会所ノ一手ニ於テスルニアリ而シテ会所ヘ収入スル所ノ利益金ノ内ヲ以テ会所一切ノ経費ヲ仕弁シ余ハ悉ク税金トシテ政府ニ上納セリ、然ルニ其会所手数料及仲買口銭ハ総テ旧時ノ額ヲ標準トシテ其割合ヲ定メタル故ニ彼ノ弊習ハ依然ト
 - 第14巻 p.70 -ページ画像 
シテ盛ニ行ハレタリ、蓋シ其行ハレサルヲ得サルナリ、何トナレハ規定ノ口銭ヲ以テ業ヲ正路ニ営マンコトハ事実ニ於テ能ハサル所ナレハナリ、是レ明治四年旧米会所創立以降明治九年条例御頒布ニ至ルマテノ実況ナリ」蓋シ仲買業ナルモノハ素ト仲買口銭ヲ以テ生計ヲ立ツヘキ筈ナルモ既ニ前段ニ述ルカ如ク今日規定ノ口銭(現行仲買口銭ハ旧時密売買ノ最モ盛リシ時ノ額ヲ標準トシテ定メタルモノナリ)ヲ以テ業ヲ正路ニ営マンコトハ事実ニ於テ能ハサル所ナルカ故ニ、此弊習ヲ一洗シ業ヲ正路ニ誘導セントナラハ宜シク右等ノ事情ヲ明ニシ一方ニ密売買ヲ制スル為メニ取締法ヲ設クル時(即チ従来密売買ニ由テ得タル所ノ利益ヲ奪取シ去ルトキ)ハ一万ニ規定ノ仲買口銭ヲ増加シテ以テ其釣合ヲ得セシメサルヘカラス、然ルニ従来当局者ノ措置玆ニ出テスシテ唯規則ノ厳ト責罰ノ重トヲ以テ弊習ヲ矯正セントナシタルヨリ勢ヒ自カラ営業上ニ要スル所ノ資本ト之ニ対シ得ル所ノ利益トノ釣合ヲ失ヒ愈々以テ密売買ヲ為スニアラザレバ生計ノ目途ナキニ至レリ、之レヲ要スルニ今日正則ヲ守ランカ損益相償ハス犯則ヲ為サンカ責罰ノ厳重ナルヲ如何セン、玆ニ於テカ資産アルモノハ漸ク去テ他ニ転シ資産ナク名望ナク当初ヨリ不正ノ所為ヲ以テ僥倖射利ヲ目的トスルモノ入社シテ之ニ代ルノ傾向ヲ呈セリ、蓋シ密売買ノ弊ヤ実ニ前陳ノ如ク数百年来ノ因襲ニ係ルモノナリト雖モ現行会所組織ノ宜シキヲ得サルカ為メニ大ニ之カ矯正ノ途ヲ妨ケタルモノアリ、何トナレハ今若シ会所ノ組織ニシテ株主ナルモノナク仲買人ノ集合体ヨリ成立タルモノナラシメタランニハ、一方ニ取締法ヲ設ケラレ由テ従来ノ利益ヲ減少スルトキハ必スヤ他ノ一方ニ仲買口銭ヲ増額シテ以テ其釣合ヲ求ムヘシ、然ルニ如何セン現行ノ組織ニ於テ仲買人ハ営業上総テ株主ノ命ニ従ハサルヲ得ス、而シテ其取締法ノ厳ナルハ株主ノ利トスル所ニシテ仲買口銭ヲ増額スルハ株主ノ不利トスル所ナルカ故ニ、株主ハ政府ニ対シテハ取締法ノ厳ナランコトヲ求メ仲買ニ向テハ仲買口銭ヲ増加スルヲ許サス、玆ニ於テカ規則ト責罰ハ次第ニ厳且重ニシテ営業上ノ利益ハ次第ニ薄シ、然レトモ其利益ノ薄シトスルハ正業者ノ為メニ然ル所ニシテ不正者ニ在テハ或ハ利益ノ増加セシモノアリ、他ナシ、税金ノ増加則チ不正ニ依テ掠メ得ル処ノ金額ノ増加センコト是ナリ、是レ実ニ弊習ヲ矯正セント欲シテ却テ倍々之ヲ増長セシメ、仲買人ノ品等ヲ進メント欲シテ却テ倍々之ヲ劣ラシメタルモノナリ、然ルニ旧冬減税ノ恩典ニヨリ不正者ノ利益モ亦頓ニ減少シテ今日ニ在テハ正者不正者ノ別ナク全ク営業ノ目途ナキニ至レリ、之ヲ要スルニ正者ノ為メニハ資本ト利益トノ釣合ヲ失ヒ、不正者ノ為メニハ利益ト責罰トノ釣合ヲ失フニ至リ以テ今日ノ衰頽ヲ来タセシコトナリ
以上陳述スル所ニ依テ弊習ノ由来スル所ト従来種々ノ厳法ヲ施サレシニモ拘ラス之レカ矯正ノ効果ヲ見ル能ハサリシ所以、及其矯正改良ニ付要スル所ノ要点ハ自カラ明了セシモノアラント雖モ、目下希望スル所ノ条件ヲ挙クレハ
 一会所資本金(株金)ノ半額乃至三分ノ一ヲ減スル事
 二仲買人身元金ヲ増加シ金弐千円以上トスル事
 三仲買人身元金ノ四分ノ三マテハ之ヲ売買約定ノ証拠金ニ代用スル
 - 第14巻 p.71 -ページ画像 
ヲ許ス事
 四会所資本金及ヒ仲買人身元金総額ノ凡ソ三分ノ二ハ之ヲ地方庁ニ預ケ置ク事
 五仲買口銭トシテ売買本主ヨリ仲買人ヘ領収スル金額(会所手数料及税金ヲモ含有ス)ハ凡ソ左ノ割合ヲ標準トシ領収スル事
   三ケ月限約定米 代価高千分ノ七
   二ケ月限約定米 代価高千分ノ五、五
   一ケ月限約定米 代価高千分ノ四
 六会所手数料ハ仲買口銭ノ十分ノ三トシ仲買口銭ノ内ヨリ徴収スル事
 七税金ハ会所手数料ノ三分ノ二トシ会所手数料ノ内ヨリ上納スル事
一仲買人ヲ五拾名トシ一名ヲ壱株ト定メ株金身元金トモ三千円以上五千円トナス
  但仲買人株五十名ト定メタル以上ハ増員ヲナスヘカラス
一仲買人売買証拠金ハ概略区域ヲ定メ兼テ農商務大臣ノ許可ヲ得テ頭取ノ見込ニヨリ信用ノ点ヲ以テ代用セシムヘシ
  但信用ヲ得タル仲買人ハ必義務ヲ果タスモノトス、故ニ株金ヲ以テ他ニ負債スヘカラス、仮令公私共此株金ヲ他用ノ為ニ請求スルモ会社ハ拒絶スヘシ
一仲買人五十名ノ結社人ハ連帯義務タルヘシ
一結社人ニテ売買法ヨリ生スル積金ヲ設ケ到底株金身元金ヲ壱万円ト定限スヘシ
一税金ハ仲買人ノ株ヨリ徴収スヘシ
  但徴収ノ事ハ官令ニヨル
一会所ハ頭取ヲ置キ之ニ委托シ一切ノ事務ヲ管理セシムルモノトス
  但肝煎以下役員ハ事務ノ適当ニヨツテ定ム
一頭取ハ結社人ノ衆望スル社外ノ人拾名ヲ結社人投票ニテ選適シ之ヲ官ニ乞ヒ官ノ適定スル所ニヨリ官ヨリ命セラルヽモノトス、故ニ十名ノ内ニテ官ノ適定ナラザル時ハ再度迄ハ票ヲ取ルモノトス
  但頭取ハ保証金トシテ三千円ノ公債証書ヲ会社ニ預ケ収メ置モノトス
  以下ノ役員ノ見込ミニテ制規ヲ定ムヘシ
一結社人員ノ内ヨリ検査役両名ヲ会社エ出務シ事務ヲ鑑査セシメ又ハ結社仲買ノ総代ヲ三名置モノトス
一売買手数料ヲ会社エ収ルモノトス
  但結社仲買人ニテ議定シ且時機ニヨリ更革アルモノトス
一会社費目ハ手数料ヨリ予メ定額ヲ要シ頭取ニ委托スルモノトス
  但臨時費ヲ要求スルハ仲買総代ニ謀リ決定スヘシ
一仲買結社人ハ自己ニ退社スルヲ許サス
一仲買人結社ノ株ヲ譲与スルモノハ結社人ノ許諾ヲ得然而仲買総代人ノ印章ヲ要スルモノトス
  但譲受人モ同様ナルヘシ
一仲買株式譲受スル価格ハ相対タルヘシ
一結社方法ハ別ニ設クルモノトス
 - 第14巻 p.72 -ページ画像 
現今之頭取肝煎ハ従前之モノニ比スレハ幾分非公平非心ヲ以テ論スルモノニ候ヘ共、目下相接スル処ノモノハ尚ホ且ツ十株以上ヲ所有スル株主ヨリ成立処ノ頭取及肝煎ニシテ仲買人之実情ハ未タ御恵聴ナキヲ信ス、閣下平素ノ公的盛大ナル大図ヲ以テ宜シク仲買総代人ノ弁明スル処ヲ酌量シ賜ハンニハ三者ノ意中徹底シ此際御処置上ニ利便ナルヤト存上候ニ付、総代之懇請御酌取一時間計御寛聴懇請候ハヾ纏方ニモ関係アルヤニ付特ニ御允許ヲ乞上候
                    (書判)
  六月廿四日              ○
    次官公閣下
  則チ其所述ノ要目ハ別冊ノ範囲内ニアル而已改正ニハ尤モ熱心ノモノニ候


〔参考〕吉田家文書 【米商改良ニ関スル意見書】(DK140007k-0005)
第14巻 p.72-77 ページ画像

吉田家文書               (吉田子爵家所蔵)
(包紙)

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    (朱書)          (朱書)     「十九年八月十一日出    「大坂米商仲買          同十五日到ル」       田中太七郎」 (墨書) 「米商改良ニ関スル意見書」            (朱書)              「十六日呈出ス」 



(表紙)
 米商改良ニ関スル意見書
  (本文)
    米商改良ニ関スル意見書
凡ソ商売ノ取引ニ現場売買ト定期売買トノ二法アリ、売者ト買者ト相遭遇シテ直チニ其売買ヲ決済スルモノ是レ即チ現場売買ナリ、予メ売買ヲ結約シ其期ノ到ルニ臨ンテ之ヲ決済スルモノ是レ即チ定期売買ナリ、而シテ需要供給ノ頻繁ニシテ売買取引ノ活溌ナル貨物ニ在テハ商売上自然ノ成行ニ於テ相場会所ナルモノ発シテ夫ノ現場定期ノ二法並ヒ行ハレ因テ其効ヲ見ルヘシ、蓋シ相場会所トハ何ソヤ商人ノ相集リテ売買取引ヲ行フノ会場タルニ外ナラサルナリ、然レトモ其取引方法ノ完全ナラサルトキハ為メニ種々ノ弊害ヲ醸成シ売買取引ノ渋滞ヲ来シテ大ニ商業ノ進歩ヲ妨クルモノ往々ニシテ然ラサルハ無シ、去レハ其取引上ノ弊害ヲ防止シ方法ヲ改良シテ以テ業務ノ隆盛ヲ企図スルハ実ニ当業者ノ本務タルヘキ所ナリトス
米ハ我国第一ノ産物ニシテ其産額ハ毎年凡ソ三千万石ニ下ラス、仮リニ壱石ノ代価ヲ五円トスルトキハ其価格壱億五千万円ニシテ生糸ノ産額ニ十倍シ茶ノ産額ニ二十倍ス、是故ニ其売買取引ノ頻繁ニシテ商況ノ活溌ナルハ他ニ其比ヲ求ムルモノナク、殊ニ我大阪ノ如キハ昔時諸藩ノ倉屋舗ナルモノアツテ諸国ノ産米ハ概ネ之ヲ当地ニ輸シテ売買シタル時代ニアツテ、其売買取引ノ盛大ヲ致セシ事ハ当時ヲ追想スルニ足ルノ実アリテ、遠ク元禄享保ノ頃ヨリ業已ニ相場会所ノ発生シ現場(諸藩ノ正米切手売買ヲ指定ス)定期(帳合米売買ヲ指定ス)ノ二法并セ行ハレテ永ク二百有余年ノ間連綿トシテ最トモ繁昌ヲ致セシ所ナリ、然ルニ世運漸ク変遷シ弘化嘉永ノ頃ヨリシテ藩政ノ多難ヲ来シ因テ米商業ノ上ニ影響ヲ及ホシ、特ニ定期売買ノ如キハ其取引方法ノ不完全ナルカ為メ一層ノ衰頽
 - 第14巻 p.73 -ページ画像 
ヲ致シテ殆ント退転同様ノ状ヲ顕ハセシカ、明治維新ノ際全ク其取引ヲ禁止セラレ、正米取引ノ如キモ亦其状況ヲ一変シ、従来相場会所商人即チ堂島米商ノ掌握セシ所ノ商権ハ挙テ納屋物商ノ手ニ移ルニ至レリ、蓋シ納屋物商トハ各地商買ノ送米ヲ引受ケ販売スルヲ業トスルモノニテ現今ノ米穀問屋則チ是ナリ、而シテ此問屋業タル昔時ハ極メテ微々タルモノニテ堂島米商等ノ甚タ賤視シテ共ニ歯セサル所ナリキ
明治四年官許ヲ得テ米会所ナルモノヲ堂島ニ設立スルヤ其目的ハ限月売買ノ一途ニアリ、故ニ売買取引ノ方法ハ之ヲ旧時ノ帳合米ニ比シテ稍々完全ナルモノアリト雖モ正米取引トノ関係ハ極メテ薄ク随テ取引上数多ノ弊害ヲ醸成シ屡々不穏当ノ状勢ヲ呈セリ、玆ニ於テカ明治九年米商会所条例ノ制定アリテ現行米商会所ハ即チ此条例ニ依テ創立セシモノナレトモ、其条例ノ旨趣タル今日ヨリ之ヲ見レハ甚タ周密ナラスシテ之ヲ旧時ノ社則慣例等ニ比シテ敢テ著シキ変革ヲ見ス、唯々会所組織ノ上ニ於テ大ニ従前ト異ナルモノアルノミ、故ニ取引上ノ諸弊ハ依然トシテ行ハレ毫モ之ヲ矯正改良スルノ効ナカリキ、爾後明治十二三年ノ交彼ノ紙幣下落物価騰貴ノ時ニ際シ世上一般投機事業ノ競起スルニ連レ我米商会所ノ如キモ一時隆盛ノ観ヲ来シ米価ハ日ニ月ニ騰進シテ其底止スル所ヲ知ラサルマテニ至リシカ、是レ紙幣失価ノ影響ニ外ナラスト雖モ惟フニ投機者流ノ集合シテ買気ヲ鼓舞スルモ蓋シ亦其一原因ナラント為シ我政府ハ一時米商会所ノ営業ヲ停止セリ、而シテ此際大イニ条例規則ヲ改正セラレ就中現米直取引ノ方法ヲ示サレタルカ如キハ大ニ従来ノ諸弊ヲ矯正スルノ美意ニ出タルモノナランカ、然ルニ惜哉其方法ノ実際ニ適合セサルト其改正ノ目的タル主トシテ投機ノ弊ヲ制シ米価ノ騰貴ヲ鎮圧スルニアリシカハ、之ヲ要スルニ売買取引ノ資金ト費用ヲ増加シテ以テ薄資ノ商人ヲ会所外ニ駆逐スルノ手段ニ外ナラサルカ如キノ感ヲ招ケリ、今其二三ノ例ヲ挙レハ身元金額ヲ増加(百円以上ヲ千円以上トス)セシカ如キ、証拠金ノ規定ヲ改正(壱割以上ヲ二割以上トス)セシカ如キ、租税ヲ増加セシカ如キ、密売買者ノ責罰ヲ厳重(密売買ノ目的タル単ニ脱税ヲ謀ルノミニアラス一ツハ証拠金ノ融通ヲ得ンカ為メナリ)ニセシカ如キ、取引ノ手続ヲ鄭重ニシテ之ヲ制束シタルカ如キ事是レナリ、蓋シ経済ノ要ハ資金ト費用ヲ減少スルニアルモノナルニ米商会所ノ取引ハ全ク之ニ反シ、其結果ハ売買取引ニ於テ著ク衰頽ニ陥リ、而シテ所謂密売買ハ倍々行ハレサルヲ得ス、仲買人ノ品等ハ弥々劣下セサルヲ得ス、正米ト定期トノ関係ハ最モ離隔セサルヲ得サル事トハナリヌ、是レ皆改正ノ要旨経済ノ原理ニ背馳スルニ基クモノニアラスシテ何ソヤ、然レトモ以上ノ諸弊ヲ以テ単ニ改正ノ結果ナリトノミ断定スヘカラス、一ツハ亦現行会所組織ノ宜シキヲ得サルカ為メ大ニ之カ改良ノ途ヲ妨害シタルモノナキヲ得ス蓋シ米商会所ナルモノハ其条例ノ緒言ニモアル如ク米穀流通ノ為メ米穀商人ノ会合シテ売買取引ヲ行フノ場所タルニ外ナラス、故ニ之ヲ設立スルニ米穀商人ノ集合体ヲ以テ組織スルハ正当ノ方法ナルヘシ、然ルニ現行ノ制ニアツテハ別ニ株主ナルモノアツテ巨額ノ資本金ヲ出セリ、既ニ巨額ノ資本金アリ随テ多クノ利益金ヲ分配セサルヲ得ス、故ニ株主ノ利害ト仲買人ノ利害トハ相衝突シテ株主ノ利益ハ仲買人ノ利益ヲ殺キタルノ結果ナラサルヘカラス、随テ売買本主ヨリモ多クノ手
 - 第14巻 p.74 -ページ画像 
数料ヲ求メサルヘカラサル事トナルナリ、要スルニ現行ノ組織ハ徒ラニ米穀取引ノ入費ヲ増加セシムル者ニシテ仲買人ノ利益減少セサルヲ得ス、仲買人ノ利益ノ減少スル是レ所謂密売買等ノ諸弊由テ生スルノ源ナリ、蓋シ密売買ノ弊タル古来相場取引上自然ノ習慣ニ出テタルモノニテ、其由来スル所ハ一言ニシテ尽シ得スト雖モ、要スルニ現今規則上仲買口銭ノ割合甚タ僅少ニシテ其得ル所ヲ以テ失フ所ヲ償フニ足ラサルト証拠金徴収方ノ過厳ニシテ金融ノ便ヲ得サルトニ起因スルモノナリ、然リ而シテ其仲買口銭ノ僅少ナルハ素ト条例ノ制束ニ基クト雖モ、一ツハ之ヲ増加セハ自ラ株主ノ利益減少スルノ故ヲ以テ従来会所ニ於テ之ヲ限制セシカ如キ事情ナキニアラス、又証拠金徴収方ノ過厳ナルモ同シク条例ノ制束ニ基クト雖モ、是亦一ツハ株主ノ損害ヲ予防スルノ事情ヨリ来レルモノナキヲ得サルナリ、是レ現行会所組織ノ不完全ナルカ為メニ改良ノ途ヲ妨害シタルモノアリトスル所以ナリ
現今当地米穀取引ノ実況ヲ視察スルニ、現場売買ハ多ク米穀問屋ニ於テシ定期売買ハ専ラ米商会所ニ於テス、故ニ各地ヨリ米ヲ当地ニ送付スル荷主ニ在テ其米穀ヲ販売セントスルニ際シ、定期ヲ以テセンカ米商会所仲買ニ依頼セサルヲ得ス、現場ヲ以テセンカ米穀問屋ニ依托セサルヲ得ス、然ルニ商売ハ活機ナリ、初メ定期ニ売繋キシモノ後ニ現場ニテ売ラサルヘカラサル事アリ、朝ニ現場ニテ売ラントセシモノ暮ニ定期ニ売繋ガサルヲ得サル事アリ、而シテ其都度二重三重ノ手数ト費用ヲ要スル事ナルカ故ニ自然米穀ノ流通ハ円滑ナルヲ得ス、随テ売買取引ハ渋滞セサルヲ得ス、又随テ米商会所ノ効用ハ浅少ナラサルヲ得サル事ナリ、加フルニ近年彼ノ米穀問屋ノ営業上ニ種々ノ弊害ヲ醸成シ、之ヲ大ニシテハ受托ノ物品ヲ恣ニ典売シテ巨多ノ損失ヲ荷主ニ与ヘ、之ヲ小ニシテハ直段桝目ヲ隠掠シテ信ヲ荷主ニ失フ等弊害枚挙ニ遑アラス、一昨年東京深川倉騒擾ノ如キハ其最モ顕著ナルモノナリ故ニ今大ニ米商会所ノ事業ヲ改良シ仲買人ノ品等ヲ進メテ其取引ヲ確実ナラシメ以テ利便ト安心トヲ荷主ニ与ヘタランニハ、彼ノ米穀問屋ノ事業ハ漸ク転シテ米商会所ニ移ルヘキナリ、玆ニ於テカ所謂現場定期ノ二法並ヒ行ハレテ始メテ米商会所ノ実効ヲ見ルヘシ
以上陳述スルカ如キ次第ナルヲ以テ、今大ニ米商会所ノ事業ヲ改良シ諸般ノ弊害ヲ防止シテ以テ其効用ヲ完全ナラシメントスルニハ、宜シク現行ノ条例及税則ヲ全廃シ更ニ適当ノ規則ヲ制定アラン事ヲ希望セサルヲ得サルナリ、然リ而シテ其新法ニ関シ我々カ多年ノ経験ト推考トニヨリ鄙懐ニ存スル所ノ梗概ヲ開陳スル別紙ノ如シ、仰キ願クハ取捨斟酌セラレ以テ適当ノ改良アリテ真正ニ米商ノ隆興ヲ見ン事ヲ、是レ特ニ太七郎ノ一己私見ニ止マルモノニアラスシテ実ニ米商有志者ノ日夜希望シテ措カサル所ナリ
  明治十九年七月 日
     大阪府北区堂島浜通一丁目六十五番地
       米商         田中太七郎再拝

    大阪穀物取引所設立順序及方法草按
第一条 穀物取引所ハ諸穀物流通ノ為穀物商人ノ共設シテ売買取引ヲ
 - 第14巻 p.75 -ページ画像 
為ス所ナリ
第二条 穀物取引所ヲ設立セントスルニハ発起人十五名以上ニシテ地方庁ヲ経由シ農商務大臣ノ許可ヲ受クヘシ
  但発起人ハ堂島米商会所発起人又ハ丁年以上ニシテ大阪市中ニ於テ満一ケ年以上米穀問屋営業ヲ為シタル者ニ限ル
第三条 発起人等ニ於テ取引所設立ノ許可ヲ受ケタルトキハ其総員ノ集会ヲ為シ第八条ノ程限ニ従ヒ三名以上ノ役員ヲ選任シ其住所姓名等ヲ詳記シタル書面ヲ以テ地方庁ヲ経由シ農商務大臣ノ認可ヲ受クヘシ
第四条 発起人及追テ入社シタル者トモ総テ之ヲ取引所社員又ハ取引所穀物商人ト称シ取引所ニ於テ諸穀物売買取引ヲ為スヲ本務トス
第五条 取引所社員ハ五十名ヲ定限トシ入社金トシテ各金三千円ヲ取引所ニ差出スヘシ
第六条 右入社金ハ之ヲ社員全体ノ共有金ト為ス可シ、而シテ其総額ノ凡ソ三分ノ二ニ当ル金額ヲ以テ公債証書ヲ購入シ之ヲ地方庁或ハ国立銀行ニ預ケ公正ナル預リ証書ヲ乞受ケ其写ヲ農商務大臣ニ差出シ開業免状ヲ受クヘシ
  但本文預ケ金ノ残額ヲ以テ取引所建築費其他一切ノ創業入費ヲ弁了シ残余アラハ之ヲ取引所ニ保存スヘシ
第七条 取引所ニ於テ開業免状ヲ受ケタルトキハ其旨ヲ世上ニ公告シ始メテ業務ニ従事スル事ヲ得
第八条 取引所ノ役員ト称スル者左ノ如シ
  頭取 一名
  肝煎 二名以上
   以下支配人書記等ノ名義ヲ以テ役員ヲ定ムルハ取引所ノ都合ニ従フ
第九条 右役員ハ社員ノ公選ヲ以テ社員中ヨリ選任スルモノトス、然レトモ社員ノ衆望ニ依テハ社外人ヲ挙テ役員ニ任スル事アルヘシ
第十条 取引所役員タル者ハ該取引所ニ於テ一切売買取引ヲ為ス事ヲ得ス
第十一条 頭取ハ取引所ノ事務ヲ総轄シ他ノ役員ヲ指揮シ取引所一切ノ責ニ任ス
第十二条 肝煎ハ支配人書記等ノ役名ヲ議定シ其者等分掌ノ課程及俸給ヲ定メ社中差縺ノ事ヲ判決シ金穀ノ出納ヲ管理スルモノトス
第十三条 肝煎ハ社員ト社外人トノ間ニ生シタル取引上ノ紛議ト雖モ双方ノ請求ニ依テハ之ヲ仲裁シ和解ノ取扱ヲ為ス事アル可シ
第十四条 肝煎ハ頭取事故アルトキ其代理ノ任ニ当ル事アルヘシ
第十五条 頭取肝煎ハ売買取引上不正犯則若クハ不穏当ノ所業アリト認ムルトキハ其衆議ヲ以テ一時社員ノ営業ヲ停止スルノ権アル可シ
第十六条 政府ハ常ニ一名乃至二名ノ官員ヲ取引所ニ派出シ取引所及社員ノ業務ヲ監督セシムヘシ
第十七条 取引所ニ於テ為ス所ノ取引ハ現物売買ト定期売買トノ二様ニ分チ、又其定期ヲ二種ト為シ其一ヲ約定ノ期限ニ至リ現米金ノ受渡ヲ為スモノトシ、其二ヲ予定ノ期限内ニ其取引ヲ完結シ又ハ解約
 - 第14巻 p.76 -ページ画像 
スルモノトス
  但売買者ノ都合ニ依リ既ニ約定済ノ分ヲ其期限内ニ買戻シ転売スル事ヲ得
第十八条 定期売買約定ノ期限ハ凡ソ三ケ月ヨリ永カルヘカラス、但米穀ヲ除ク外ハ当分ノ内定期売買取引ヲ為サヽルモノトス
第十九条 現場売買ハ社員ニ於テ荷主ノ委托ヲ受ケタル穀物ヲ社員又ハ普通穀物商若クハ一般需要者ニ販売スルモノトス、但其売買取引ノ手続ハ社則ヲ以テ之ヲ定ム
第二十条 定期売買ハ社員ニ限リ売買取引スルモノトス、而シテ其売買ヲ為シタルトキハ取引所ニ届出テ売買双方ヨリ約定ノ証拠金ヲ取引所ヘ差入ルヘシ
  但売買取引ノ手続及証拠金ノ割合等ハ社則ヲ以テ之ヲ定ム
第二十一条 定期約定売買ニ付売買本主ヨリ社員ヘ預カル証拠金ノ割合ハ凡ソ代価高ノ一割トス
  但相場高低ニヨリ損失ヲ生シタルトキハ追証拠金トシテ本文ノ割合ニ当ルマテノ金額ヲ請求スル事ヲ得
第二十二条 現場売買ニ付荷主ヨリ社員ヘ領収スル口銭ノ割合ハ凡ソ左ノ如シ
  米穀 代価高千分ノ十二
  雑穀 同千分ノ十五
第二十三条 定期売買ニ付売買本主ヨリ社員ヘ領収スル口銭ノ割合ハ凡ソ左ノ如シ
  三ケ月限約定米 代価高千分ノ五
  二ケ月限約定米 同  千分ノ四
  一ケ月限約定米 同  千分ノ三
第二十四条 右口銭ハ其決算ノ時ニ至リ売買取引ニ関スル他ノ債主ニ先テ之ヲ収受スル事ヲ得
第二十五条 取引所諸規則ハ社員全体ノ会議ヲ以テ之ヲ定メ地方庁ヲ経由シ農商務大臣ノ認可ヲ得テ施行スルモノトス
第二十六条 第八条ニ定ムル役員ノ外社員ノ公選ヲ以テ社員中ヨリ会頭一名委員三名乃至五名ヲ選挙スヘシ
第二十七条 会頭ハ社員総会議及委員会議ノ議長トナリ又常ニ本業ノ実況ニ注目シ其利害得失ニ付意見アル時ハ社員ノ衆議ヲ得農商務大臣其他主務諸官庁ヘ直接ニ文書ノ往復ヲ為ス事ヲ得
第二十八条 委員ハ社中一般ノ取締ヲ為シ又諸規則等ノ原按ヲ作リ会頭事故アルトキハ其代理ノ任ニ当ル事アルヘシ
第二十九条 会頭及委員ハ売買取引ヲ禁スルノ限ニアラス
第三十条 取引所ハ売買主双方ノ約定ヲ履行セシメ違約ノ処分ヲ為スノ責任アルモノトス
  但現場売買ニシテ取引所ニ関係セス売買約定ヲ為シタルモノハ此限ニアラス
第三十一条 取引所社員ハ他人ノ依頼ヲ受ケテ売買取引ヲ為スト自己ノ為メニスルトヲ問ハス取引所及売買相手人ニ対シテ其取引上一切ノ責任ヲ負フヘキモノトス
 - 第14巻 p.77 -ページ画像 
第三十二条 取引所ニ於テ違約人ヲ処分スルハ其違約者ノ権利ヲ没シ更ニ之ニ代ル所ノ社員ヲ募リ其権利即チ取引所米商株ノ代金ヲ得テ被害者ノ損害ヲ償フモノトス而シテ之ヲ以テ其損害ヲ償フニ足ラサルトキハ被害者ニ於テ更ニ違約者ヲ相手トシテ要償スル事ヲ得ヘシ
  但本文株式代金ヲ以テ被害者ノ損害ヲ弁償シ残余アルトキハ取引所ニ没入スヘシ
第三十三条 取引所社員タルヲ得ヘキ者ハ丁年以上ニシテ大阪市中ニ於テ満一ケ年以上商業ニ従事シタル者ニ限ル而シテ該社員タラント欲スル者ハ第五条ノ入社金(前条ノ募ニ応シタル者ハ其株式代金)ヲ出シ社員二名以上ノ保証ヲ以テ取引所ニ申出テ其承認ヲ得タル上地方庁ヲ経由シ農商務大臣ノ認可ヲ受クヘシ
  但取引所ニ於テハ社員ノ衆議ヲ以テ入社ノ許否ヲ決スルモノトス
第三十四条 取引所ニ於テ違約処分ヲ受ケタル者及犯則ニヨリ除名セラレタル者ハ爾後満三ケ年ヲ経過スルニアラサレハ再ヒ入社スル事ヲ許サス
第三十五条 取引所社員タル者退社セント欲スルトキハ其旨取引所ニ申出ヘシ、取引所ニ於テ社中ニ連帯シタル計算上ノ関係ナキヲ認メタル上ハ速ニ其退社ヲ許ス可シト雖モ第五条ノ入社金ヲ返付スル事ナシ
第三十六条 取引所社員タル者其社員タルノ権利ヲ他人ニ譲渡ス事ヲ得ヘシ、但其譲受人ハ第五条ノ入社金ヲ差出スニ及ハスト雖モ社員タルヲ得ヘキ資格ヲ有スル者ニ限ルハ勿論、第三十三条ノ規定ニ従ヒ入社ノ手続ヲ為スヘキモノトス
第三十七条 取引所社員死亡スルトキハ取引所ヨリ金三千円ヲ其遺族者ニ救与スヘシ、因テ取引所社員ハ毎月各金五円宛ヲ醵出シ積立置クヘシ
第三十八条 取引所ハ会社税トシテ一ケ年金三万円ヲ政府ニ上納スヘシ
第三十九条 取引所ハ定期売買米ニ対シ左ノ割合ヲ以テ手数料ヲ収受スヘシ
  三ケ月限約定米 代価高千分ノ一
  二ケ月限約定米 同  万分ノ八
  一ケ月限約定米 同  万分ノ六
  但本文手数料ハ仲買口銭ノ内ヲ以テ支弁スルモノトス
第四十条 右収受シタル手数料並ニ共有金利子及犯則者ヨリ取立タル過怠金等ヲ以テ取引所一切ノ経費並ニ第三十八条ノ税金ヲ支弁シタル上残余アラハ翌年度ニ繰越スモノトシ、不足ヲ生スルトキハ売買石高ニ応シテ社員ヨリ追徴スルモノトス
第四十一条 取引所社員ハ其営業上地方税ヲ免除スヘシ
第四十二条 取引所役員及社員タル者社中ノ諸税則《(マヽ)》ニ背戻シタルトキハ頭取肝煎ノ集議ヲ以テ相当ノ過怠金ヲ徴収シ、其事情重キ者ハ除名シ、猶事柄ニ依リ其者ニ対シテ要償スル事アルヘシ


〔参考〕吉田家文書 【米商会所ニ於テ為ス所ノ売買取引上ノ種類概略】(DK140007k-0006)
第14巻 p.77-82 ページ画像

吉田家文書                 (吉田子爵家所蔵)
 - 第14巻 p.78 -ページ画像 
  米商会所ニ於テ為ス所ノ売買取引上ノ種類概略
  附東京米商仲買間ニ行ハルヽ習弊及方言
    真正商業ノ事
甲地方ヨリ米価ノ報知ヲ得ルニ当リ之ヲ乙地米商会所ノ相庭ト比較シ運賃其他ノ雑費ヲ見積リ多少利益アリト認ルトキハ、直ニ甲地ニ於テ米穀ノ買付ヲ為シ其石数ヲ乙地ノ米商会所ニ於テ定期売ノ約定ヲ為シ置キ、其期日迄ニ回漕シテ之ヲ買主ニ渡スモノアリ、此類ハ全ク定期売買上真正ノ商業ニシテ此市場アルカ為ニ危険ノ憂ナク恰モ保険附ノ商業ヲ営ムモノト謂フモ可ナラン
    定期約定米売替及買戻シ為スコト
現米渡ノ目的ヲ以テ定期ノ売約定ヲ為シタルモノ若シ期日ニ迫リ予テ或ル地方ニ買付アル現米回着セサルトキハ其期ノ米ヲ買戻シ、翌月又ハ翌々月期ノモノニ売替ヘヲ為シテ其期日ニ右ノ現米ヲ渡スコトアリ此ノ如キハ一旦買戻シヲ為スモ終ニ当初ノ目途ヲ遂ルモノナレハ正当ノ取引ナリ
    定期受渡米ノコト
東京米商会所定期受渡米ハ三陸及越後米最モ其多キニ居ルト云、是全ク大船ノ輸送ニシテ現米小口ノ売捌ニ便ナラサルト回漕ノ時日多キヲ要スルトニ因リ定期売買ヲ便トスルモノナルヘシ
    空米変シテ実商業トナルコト
現米渡シノ目的ヲ以テ定期ノ売約定ヲ為シタルモノ他ノ地方ヘ現米ヲ転輸シテ利アリトスルカ、若クハ数口ニ分ケ現米商ヘ売タル方利アリト認ルトキハ直チニ定期売ノ方ハ買戻シヲ為シ或ハ解約シテ、会所ノ取引ハ現米ノ受渡シヲ為サヽルモノアリ、此等ノ類ハ表面空米取引ノ如ク見ユルモノナリト雖モ其実商業上現米ノ運転ナリ
    実米変シテ空米トナルコト
現米受渡シノ目的ニテ定期売買ノ約定ヲ為シアレトモ価格ノ高低ニ依リ已ニ損失ノ顕然タルニ、此上現米ノ受渡シヲ為ストキハ猶一層ノ損失ヲ重ルモノト認ムルトキハ忽チ売買戻シヲ為シ損失ヲ小分ニ止ムルコトアリ、是等ハ実米変シテ空米トナルモノナリ
    甲地買付米ヲ乙地ニ売却スルコト
甲地ノ米商会所ニ於テ買付アル米ヲ乙地ノ米商会所ニ売ルコトアリ、然レトモ現今成規ノ証拠金ニテハ容易ニ行ハレ難キコトナルヘシ、如何トナレハ証拠金ノミニテモ代価ノ四割ヲ要スレハナリ、譬ハ価壱万円ノ米ヲ甲地ノ会所ニ於テ買付ルニ弐千円(代価十分ノ二)ノ証拠金ヲ要シ之ヲ乙地ノ会所ニ売ルニ当リ又弐千円ノ証拠金ヲ要ス、而シテ甲地ニテ買タル米ヲ受取ラントスルニハ期日十日前ニ又弐千円ノ増証拠金ヲ差入、弥現米ヲ受取ニ際シ皆代金即チ壱万円ヲ渡サヽルヲ得ス、其上売タル分ニモ期日前ノ増証拠金弐千円ヲ要スルニ付、此取引ヲ了スル迄ハ代価壱万円ノ品ニテ総計壱万八千円及運賃蔵敷其他ノ入費ヲ見込サルヲ得ス、左スレハ殆ント弐万円ヲ要スルカ故少々ノ利益ニテハ金利ニ充ツルニ足ラス実際迚モ手ヲ出タスモノナカルヘシ
    期内仕切ノコト
専ラ相庭高低ノ間差金ヲ目的トシテ売買ヲ為スモノハ多クハ期内仕切
 - 第14巻 p.79 -ページ画像 
ト唱ヒ、定期ニテ一旦売リ或ハ買タル米ヲ其期内ニ於テ売買戻シ(売買戻シトハ最初売リタル分ハ同石数ヲ買ヒテ前ノ売米ヲ取消シ、最初買タルモノナレハ同石数ヲ売リテ前ノ買米ヲ取消シ、其相場高低ノ間際差金ノミヲ以テ損益ヲ為スモノナリ)ヲ為シ又ハ解ケ合(売買者相対示談ニテ内実相場ノ高低ニ依リ生スル所ノ間際差金ノミノ取引ヲ為シ解約シテ会所ニ届出ルモノナリ)ヲ為シ実米受渡シヲ避ク、此類ハ米商会所ニシテ除キ得ヘカラサルノ弊害ニシテ則空米取引ナルモノナリ、然レトモ実米ヲ取引為スモノト雖モ時トシテハ此法ニ因ラサルヘカラサルヲ以テ現行条例ノ許ス所ナリ
    空米ヨリ起リテ実米ニ変スルコト
差金取引ノ目的ヲ以テ若干ノ石数ヲ定期ニテ買約定ヲ為シ置キ機会ヲ見テ売買戻シヲ為サントスレト、投ス可キ好機ヲ得ス終ニ期日ニ至リ解約セントスルモ之ニ応スルモノ(米商会所ノ売買ハ最初取組タルモノヽ外ハ転々売買ニテ相手分カラストナルカ故解約ノ如キモ其時ノ相談ニ依テ成ルモノナリ)無キトキハ、止ムヲ得スシテ現米ヲ引受ケサルヲ得サルコトアリ、是即チ空米ヨリ起リ実米ニ変スルモノナリ
又タ差金取引ノ目途ヲ以テ売リ約定ヲ為シタルトキモ前項同様ノ成行ヲ以テ期日ニ至ルトキハ止ムヲ得スシテ現米ヲ他ニ買求メ買主ニ渡ササルヲ得サルニ至ルコトアリ、是又空ノ実ニ変スルモノナリ
    泣キヲ入ルコト
前二項ノ如キ場合ニ於テ規則通リ現米金ノ受渡シヲ為ストキハ大ナル損失ニ至リ到底支ヘ難ク違約人トモ成ル可キノ仕義ニ立至ルトキ泣キ(相手方ニ対シ損失金額ノ負担ヲ軽クシテ解約ヲ為シ呉レヨト言入レ相手方承諾シテ示談整フトキハ解約ノ旨ヲ会所ニ届出ルナリ)ヲ入レルト云フコトアリ、之レ素ヨリ資力ニ能ハスシテ止ムヲ得サルニ出テ且売買者双方ノ示談ニ依ルト雖モ是又空物ニ帰スルモノナリ
右ハ米商会所ニ於テ売買取引上種類ノ概略ナリ、而シテ該会所ニ於テ取引ヲ為スモノヽ中幾分カ正実ノ取引ヲ行フモノ有ルベキハ論ヲ俟タスト雖モ、概スルニ投機ヲ事トスルモノ多クハ薄資ヲ以テ奇利ヲ網セント試ムルモノナレハ、現米ヲ運転シテ却テ利益ヲ見ルコトアルヲ知ルモ之ニ応スルノ資本ニ乏キヲ以テ、啻ニ相場高低ノ間際ニ眼目ヲ注キ差金ノ取引ヲ為スモノ多キカ故ニ常ニ売買ノ数ニ比スルニ現米取引ノ割合ハ極メテ僅少ナリ、是全ク売買戻シ解ケ合等ノ多キカ故ナリ、而シテ東京米商仲買等ノ間ニ行ハルヽ弊習及方言等ヲ左ニ節録ス
    十銭二十銭張ノコト
取引上ノ仕組ニ於テ会所ノ取引順序ト敢テ替ルコト無ク然レトモ期日ニ至ルモ一切現米ヲ取引カス只差金ノ取引ノミヲ為スモノナル由、素ヨリ是等ノ取引ハ仲買ノ窃ニ営ムモノニシテ証拠金ヲ少額ニシ薄資ノ客ヲ多ク延クノ手段ナリ、譬ヘハ十銭張ニシテ五枚(売買ハ五枚即チ五十石以上トス)ヲ買フニ五円(一石ニ付十銭手数料ヲ見込)ノ証拠金ヲ仲買ニ預ケ定期ノ約定ヲ為シ置クナリ、若相場下落シ証拠金不足ヲ生スルトキハ仲買ヨリ其買主ヘ直ニ通知シ証拠金ノ追入ヲ促ス、買主ニ於テ追証拠金ヲ直ニ差入ルヽトキハ其取引ノ期迄約定ヲ保持スルヲ得ヘシト雖モ、若追証拠金差入ノ時限ヲ怠ルトキハ該仲買ハ証拠金ノ内ニテ手数料ヲ差引仕切勘定ヲ立(之ヲクヒ切ルト云)右残金ハ相手方ニ渡シ之ヲ結局スト云フ、又二十銭張ト云フモ其法ニ異ルコトナシト雖、相場高低ノ多キトキハ証拠金ノ多キヲ要スルヲ以テ二十銭張トスト云
    合百ノコト
 - 第14巻 p.80 -ページ画像 
合百ノ名義ハ往日一合ノ高低ヲ百文ト仮定セシコトアリテ起リタル由近来ハ合百世話人(仲買人ノ外)ト唱ルモノアリテ其注文ヲ聞合セ歩行ク由ナリ、之ヲ買ハントスルモノハ一枚ニ付金一円(手数料六銭二厘五毛モ其内ニ籠ル)ヲ出シ差直ヲ為ス、譬ヘハ八円五十銭ノ相場ニテ一枚ヲ買ヒタルトキ其日ノ会所平均相場八円五十一銭トナルトキハ買方ノ利益ナレハ買方ハ最初差出シタル敷金一円ト相手方ヨリ出シタル一円トヲ併テ取ル、尤此内ニテ手数料ノ差引ヲ立ル由、全ク会所立相場ノ平均ヲ目的トシテ一場ノ輪贏ヲ争フモノニシテ、彼ノ競馬競船等ノ勝敗ヲ傍観シテ賭博スルモノト一般ナルモノナリ
    丸廻シノコト
丸廻シトハ甲乙ノ仲買途上或ハ銘々ノ宅ニ会シ窃ニ売買シ、譬ヘハ甲ヨリ乙ヘ百石ノ米ヲ売リ又丙ヨリ甲ヘ百石ノ米ヲ買フタルトキ、甲ハ已ニ取引上自ラ物品受渡シヲ為サスシテ済ムヘキニ付之ヲ乙丙ニ談シ甲ハ取引上ノ関係ヲ脱却シ乙丙ノ売買ト為シ会所ノ記帳ヲ乞フモノニシテ、約リ密売買ノ結局ヲ表面ヘ持出スモノナリ
    入レ引ノコト
入レ引トハ専ラ証拠金ノ差入ヲ脱ンカ為メ一旦帳簿ニ記入シタル売買ヲ人名違トシテ正誤ヲ申出テ売買戻トナシテ帳記ヲ引抜キ隠密喰合フ手段ナリ、借《(仮カ)》ヘハ甲乙五十石丙丁五十石ト二口ノ新規売買アルトキ甲丁相談シ、丁ハ甲ノ誤ニシテ丁ノ買ハ即チ甲ノ買戻ナリト言立テ帳簿ヲ正誤セシメ、而シテ内密甲丁五十石ノ喰合ヲ為スノ類ナリ、然レトモ甲丁ノ喰合ヲ解クニハ再ヒ会所ノ帳簿ニ附出シテ真正ノ売買ニ立帰ラシムト云フ
    抜貰ト云フコト
抜貰ト云フコトハ売買高夥多ナルトキハ、売買戻シヲ為サント欲スレハ、自分テ自分ニ相場ノ高下ヲ助勢スルノ恐レアリテ進退ナス能ハサルヨリ、之レ等ハ幾許カ現相場ヨリ高下ニ算入シ解合ヲ抜貰ト云フ
    馬ト云フコト
馬ト云フコトハ已ヲ得ザルヨリ生ズル所ニシテ、仮ヘハ甲ナル仲買人客ヨリ売買注文ヲ受ケ本人又ハ代理人不在ニシテ会所ニ於テ売買ヲ為ス能ハサルカ、又ハ商機ノ工合ニ拠テハ一時一手ニ多数ノ売買ヲ為シ難キ場合アルトキ、乙又ハ丙ナル仲買人若クハ代理人ニ依頼シ其者ノ名義ヲ以テ売買取組ヲナサシメ、而シテ後甲乙仲買人会所ニ至リ該乙ノ売買米ハ甲ノ売買米ナリト申立テ場帳ヲ正誤セシムコトヲ云フ、此等ハ入レ引キトハ異リ悪弊ト見做スベキ事カラニ非ズ
    車仕掛ノコト
車仕掛ケトハ売買者ノ一方連合協力シテ売買上ノ危急ヲ維持スルナリ譬ハ当初十枚百石ヲ買タルトキ忽チ相場低落シテ其敷金証拠金不足スルニ至レハ猶又二十枚ヲ買ヒ、此二十枚ノ敷金ニテ前ノ十枚ノ分ト都合三十枚分ノ敷金ニ流用シ之ヲ喰留メ置キ相場ノ復スルヲ待ツ、然レトモ猶相場低落シテ前ノ敷金不足スレハ又三十枚或ハ四十枚ヲ買ヒ、前文ノ如ク幾度モ維持シ置クナリ、斯ノ如クスルトキハ、必ス数日ノ内ニ相場ノ恢復シ或ハ恢復セサルモ小戻リスルコトアルモノナレハ、前ニ買ヒタル少数ノ損失ハ後チニ買ヒタル多数ノ利益ヲ以テ補フコトナレ
 - 第14巻 p.81 -ページ画像 
ハ程能ク連合スルヲ得レハ損失ヲ受ルコト少シト云フ、然レトモ之ヲ行フニハ多分ノ資金ヲ要スルヲ以テ仲間組合ヲ結ヒ多クハ併合シテ之ヲ行フ由ナリ
    乗リ替ノコト
期日ニ近ツキタルトキ其取引ヲ避ントスルニハ、売方ナレハ其期ノモノヲ買戻シ翌月又ハ翌々月ノモノヲ売リテ取引ノ期ヲ延ス、之ヲ乗リ替ト唱フ、此場合ニ於テハ前ニ差入タル証拠金ハ其儘ニテ乗リ替スルコトヲ得ルト云
    喰ヒ合セ及呑ムト云コト(喰ヒ合堂島ニテハ突合セト云フ)
仲買ニ於テ売買ノ両客ヨリ注文ヲ引受タルトキ双方同高ナレハ、客ヘハ会所ニテ売買シタル旨ヲ通シ置キ、仲買限リ双方ノ売買ヲ取組置ヲ喰ヒ合セ又懐ロ商内ト云ヒ、又売買一方ナルトキハ同様仲買限リ引受置クヲ呑ムト云フ、此場合ニ於テハ仲買自ラ相手ト成ルモノナリ、是等ノ事ヲ行ハントスルニハ、客ヘハ公然市場ニ於テ売買為シタル如ク見セ掛ケ置キ自己ノ手帳ノミ記シ置クモノナル由
    カマヲ立ルコト
大手筋即資力者ノ売買手強ク其相手ト成リタル仲買孤力ニテ支ヘ難キトキ其仲買等協同一致シテ之ニ抵抗シテ売買スルヲカマヲ立ルト云
    引キ相場ノコト
引キ相場ナルモノハ仲買等ノ二楷等ニテ窃カニ為スコトノ由、其高・安・同ト三ツニ分チ又之ヲ各四ツ宛トシ都合十二トス、之ニ銘々ノ見込ニテ金銭ヲ賭ケ会所ノ平均相場ニ依リ勝敗ヲ分ケ予メ定メタル割合ニテ計算ヲ為スモノナリト云
    両算ト云フコト
両算ト云フ仕方ハ一方ヲ包人又《ツヽミテ》ハ持人《モチテ》ト云ヒ相手方ヲ見人《ミテ》ト云ヒテ、包人ハ本日ヨリ凡ソ幾日間ハ相場高下少ク高キモ何十銭ニ上ラス低キモ何十銭ヲ下ラスト見込ミ、又見人ハ其範囲外ノ高低アリト見込ミタルトキ始メテ其約束ヲ為スモノニテ、日限ニ至リ相場範囲内ニ在レハ包人ノ勝トナルヲ以テ一石一円ノ割ニテ其約定シタル石数ニ対スル金円ヲ収得スル由
    横浜株式取引所景況
近来横浜株式取引所仲買等ニ於テ袂相場ト唱ル一種不正ノ売買ヲ取引所市場ニ於テ公然為スモ、該所帳場ニ於テハ之ヲ黙許ニ附シ記帳セサル等ノ弊風行ハルヽ旨新聞紙上ニ散見スルヲ以テ、該所視察ノ節篤ト尋問スルニ、仲買人ノ内該地従来ノ両替商ヨリ成立タルモノハ自ラ右等ノ弊風モ少シト雖モ、近来米商仲買等ヨリ転業シ好得意ヲ得サルモノニハ往々是等ノ弊モ有之哉ニテ予テ取締方ニ注意致シ居ル由、且此袂相庭ト唱フルモノハ譬ヘハ甲乙二人ノ仲買人ニ於テ甲ハ客(売買依頼人)ヨリ若干ノ売注文ヲ受ケ乙ハ客ヨリ若干ノ買注文ヲ受ケ、甲乙仲買人取引所内又ハ外ニテモ私ニ売買ヲ約シ或ハ一人ノ仲買人ニシテ売買両客ノ注文ヲ引受公然ノ売買ヲ為サス、客ヘハ取引所ニ於テ売買シタル旨ヲ報シ同所ヘ払フヘキ手数料及仲買手数料トモ客ヨリ収入シ取引所ヘハ記帳セサルモノナレハ、手数料ハ素ヨリ払入ヲ為サスシテ共ニ之ヲ一己ノ所得トナスモノニシテ全ク仲買等隠慝ノ所業ナル由
 - 第14巻 p.82 -ページ画像 
一該所ニ於テ従来預ケ合ト唱ル一弊アルヤノ風聞アリ因テ其事実ヲ尋問スルニ、此預ケ合ト称スルモノハ昨年営業停止ノ際ヨリ行ハレタルモノニシテ其起因スル所ハ定期売買ノ禁止ヨリ変転シ来リタルモノナルヘシ、又其方法タル取引所ニ於テ其日為シタル売買ハ帳簿上一旦之ヲ結局シ、其日銀貨ヲ買受ケタルモノニテ之ヲ必用トセサルトキハ当日定リタル日歩ヲ以テ売方又ハ他ノ之ヲ必用トスルモノニ預ケ翌日ニ至リ市場立相場ヲ以テ取引ヲ為スモノニシテ、若又猶一日相場ノ景況ヲ見テ後チ売払ハント思料スルトキハ前日ノ預リ人或ハ他ノ望人ヲ求メ又一日ノ預ケ継キヲ為ス(前文ノ手続ヲ以テ一日宛ノ預ケ継ヲ為ス)モノナリ、其事柄ニ於テハ信用上相対ノ時貸ニシテ便利ノ方法ト見ユルト雖モ随テ無期無証拠ノ延売買ノ弊其多キニ居ルモノト思考セラル


〔参考〕吉田家文書 【弊風】(DK140007k-0007)
第14巻 p.82-88 ページ画像

吉田家文書                (吉田子爵家所蔵)
    弊風
一定期米売買社会ノ習慣弊風ハ百有余年前ヨリノコトニシテ、就中天保年度以後ニ於テ甚シク、又御維新ニ際シテモ引続キ此習慣弊風相止マス遂ニハ一種云フ可カラサルノ悪弊トナレリ、今仲買人ノ内幕ヲ想像スルニ客人ノ内本証拠金ヲ注文ト同時ニ渡シ而シテ売買ヲ依頼スルモノ稀ナリトス、偶々同時ニ証拠金ヲ渡シ注文スルモノアルモ之レヲ素人ト云フ、又ハ百石ニ対シ弐拾円若クハ三拾円ノ証拠金ヲ以テ依頼スルモノヲ通常客人ト云フ(之レヲ「間バラ」客ト唱フ)大石数ヲ注文スルモノハ多クハ無敷(敷トハ証拠金ヲ云フ)ニシテ若シ相場ノ高低ニ依リ損アルトキハ其損金額ヲ概算シ之レヲ受取ルナリ、此客ヲ大手商人ト云フ、最モ大手ト雖モ相場ノ足取リ(足取トハ高低ヲ云フ)ニ依テ本証拠金ヲ掛ルコトアリ、之レハ人気ヲ変動ナラシムルノ駈引ナリ
一地方ヨリシテ注文アルトキ其郵便ナルトキハ差直注文ナリ、又市中注文ト雖モ間々差直注文アリ、此差値当日若クハ翌日又ハ日数ヲ経テ相庭ニ出合注文ノ石数売買ナシタルトキハ之ヲ注文主ニ報スルモ多クハ留主アリ、又苦情等アリ(差直出令直ニ報スルト雖モ瞬間ニ高下スルハ相場ノ常ナレハ幾分ノ損ニナルトキハ多クハ苦情ヲ云フナリ、之レヲ一々訴フルトキハ其仲買人ノ信用ヲ失スルノミナラス又充分ノ証拠アルニアラサレハ多クハ泣寝入トナルナリ)又地方注文ノ内ニハ電信ヲ以テ為スモノアリ、其証拠金ハ電信為替ニテ為スモ其取組先ナル銀行又ハ取引商人等ニ於テ彼是行違或ハ苦情等アリテ不渡ニ帰スルコトアリ、斯ルトキハ其証拠金差入ノ間ニ合ハサレハ不得已仲買人ニ於テ之レヲ立換サルヲ得ス、立換ント欲スルモ多クハ資力ニ乏敷、又資力アルモ際限ナク、況ンヤ追証拠金ノ如キ即刻差入レサル可カラサル規則アルニ於テオヤ、故ニ不得已之レ等ハ証拠金未入中即チ現場ニ於テ手仕舞ヲ為スナリ(現場ト云フ売買ハ末項ニ記載ス)
 前記ノ如キ仲買ノ内幕ニシテ帳入隔日附出シ手数料半額ト昔ヨリ為シタルハ実際ヲ酌量シタル規則ト云フヘシ、其酌量シタル所以ノモノハ前記ノ如キ無敷又ハ弐拾円三拾円ノ証拠金ヲ預リタル注文米或
 - 第14巻 p.83 -ページ画像 
ハ差直注文等ニ一種ノ便利法アリ、何ヲ以テ便法ト云フカ、曰ク甲客ノ買注文アレハ之レヲ会所市場ニ買、又間モナク乙客ノ売注文アレハ之レヲ市場ニ売リ、丙丁ト各々売買注文ヲシテ悉ク会所市場ニ売買ナシ、帳入ニ至リ売買石数ヲ転売買ト会所ニ申出之レヲ落シ、差引残リタル売買ノ米ニ対シ嚮キニ客ヨリ預リ置キタル証拠金ヲ以テ本証拠金ニ払込ナリ、又売買米ノ一方若シクハ預リタル証拠金不足ナルトキハ、自分信用アル仲買人ニ聞合セ互ニ会所ニ対シ転売買ヲ為シタルコトニ為シ(之レヲ入レ引ト云フ)其売買ハ甲乙仲買人ノ間ニ存シ置キ、而シテ甲乙一方ノ客人之ヲ手仕舞申来ルトキハ又市場ニ於テ之ヲ転売買為セハ乙丙トノ約束ニ転スルナリ、然レトモ相場高下甚シキトキニ際シ若一方ノ仲買ヲ信用セサルトキハ更ニ該米ヲ相手方ヨリ会所ヘ附出スナリ、故ニ一ノ注文米ニシテ数度現場売買ニ出入スルヲ以テ半手数料トナシタルモノナリ
一偖又仲買同志現場落シ米ヲ甲手仕舞丙ニ転シタルトキ、甲乙ノ損益勘定ハ丙ニ転シタル相場即チ直立テヲ以テ精算スルナリ、之レヲ預ケ合トモ云フ、又該米ノ丙ニ転スルヲ廻ストモ云フ、若シ預ケ合米ノ一方損金ヲ払ハサル者アルトキハ仲間中ノ信用ヲ失シ、後日預ケ合セノ相手トナル者ナキナリ(之レヲ「トヤ」又ハ「ガツタ」或ハ「屁ヲヒツ掛ケラレタ」トモ云フ)然レトモ其損金一割程モ償ヒ詫入レ或ハ残金ヲ証文等ニ為シ一旦事済トナシ、又々其仲間同志預ケ合ヲ為スナリ
一非常高下売買高夥多ナルトキハ売買戻シセント欲スレハ自分テ自分ニ相場ノ高下ヲ助勢シ進退為ス能ハサル場合アリ、之レ等升建ノ頃ハ壱円ニ付五合、円建ニナリテハ壱石ニ付拾銭ヲ現相場ヨリ高下ニ算シ入レ引米ヲ解合タリ、之レヲ抜貰ヒト云フ、其甚シキハ本証拠金ヲ掛ケタル売買米迄モ貰ヒ又ハ泣キ(強テ解合ハンコトヲ乞フヲ云フ)タリシコトアリシモ、明治九年以後十六年十月迄ハ此泣キヲ入ルヽ者ナク、相場非常ニ高下ヲ顕ハシタルトキ懇意同志抜貰ヒ為セシコトアリシノミ、是レ等ノ如キハ客方ノ云カ儘甘ンシテ仲買人其依頼ニ応ス、之レ不得已事情ニシテ之レ又客ト仲買トノ間ニ生スル一種ノ弊風ナリ、何トナレハ我国ノ商業ハ概ネ義理人情深切ヲ旨トシ以テ商業ノ繁昌ヲ仰クニアレハ、己レノ苦敷ヲ厭ハス客ノ無理ヲ我慢スルハ商売社会ノ通例ト云フ可シ、且商人ニ於テハ百円ノ資力アレハ五百円千円ノ商業ヲ営ミ而シテ一家ノ生活ヲ立ツルモノナレハ、正直ニ本証拠金ヲ渡シ売買為スモノヲシテ素人ト相唱フルノ次第ナリ、況ンヤ米商ノ如キ遠国ニ正米ヲ買附ケ之レニ三割以上ノ手金ヲ差入、荷為替取組廻着スレハ直ニ運賃ヲ払ヒ、而シテ其米ノ繋キニ定期ニ売ルトキハ又壱割以上ノ金員用意セサルヲ得ス、且利子ノ損益等細カニ算当シ以テ損益ヲ計ル商人ニアレハ出金スルモ寧ロセサルヲ望マサル者ナカランヤ、然ルニ彼我ノ弁理アレハ帳入米ヨリ現場売買ノ多キコトハ実ニ不思議ト思フ程ノ石高ナリト雖モ、之レ前記ノ差操アルヲ知ルトキハ敢テ怪シムニ足ラサル可シ
一玆ニ仲買人ニ一ノ困難アリ、曰ク前記ノ如キ人情徳義ヲ主トシ互ニ信用ヲ得以テ繁昌ヲ祈ル情態ナレハ彼ノ無敷又ハ弐参拾円ノ証拠金
 - 第14巻 p.84 -ページ画像 
ヲ預リ依頼ニ応シタル仕掛米若シ損失トナリタルトキハ、追敷又ハ不足金ヲ促スモ彼是ト遷延シ終ニ非常ノ損トナレハ容易ニ客人ヨリハ送金為サス、竟ニ仲買人ハ之レカ為メ会所ニ対シ違約人ノ処分ヲ受クルノ場合ニモ至ルナリ、又相対約定(懐ロ商内ト云フ)為シタル仲買ハ相手方ヨリ之レヲ会所ニ附出サ(新ニ売買為シタル体ニシテ会所ノ帳簿ニ記入スルヲ云フ)ンコトヲ促サレ、客人ノ為メ不得已仲買ノ信用ヲ失スルニ至レリ、如斯場合ニハ該注文米ハ仲買独断ヲ以テ転売買手仕舞ヲ為スノ外ナシト雖モ無敷ノ注文ニ応スル程ノ信用アル客ナレハ何ト歟好結果アルナラント遷延スル間合ニ自分ハ知ラス々々々身代ヲ投クルコト屡アリ、又弐参拾円ノ証拠金ヲ預リタル注文米モ身元慥ナル客ハ之レヲ信用シ断リ無ク手仕舞ナスハ人情ニ対シ為シ得サルノミナラス、後日ノ為メヲ思ヒ之レヲ為サヽレハ真ノ仲買而已営業トスルモノハ客人ト倶ニ僥倖ナラテハ容易ニ殖産スル能ハス、故ニ昔ヨリ仲買人ノ金満家トナリタルモノ殆ト稀ナリ、然レトモ自分売買ノ為メ僥倖ニ利ヲ得タルモノハ亦少シトセス
一夫レ前記ノ如キ習慣弊風モ維新後ニ至リテハ一ノ悪弊トナリタル所以ノモノハ昔ヨリ入レ引米盛ナレハ現場商内多ク、之レカ転シテ甲乙客ヨリ同時ニ売買ノ注文アリ然ルトキハ会所ニ於テ売買為サスシテ自分手限リニテ(俗ニ懐ロ商内)喰合フコトアリ、若シ一方ノ客方転売買為セハ其残リタルヲ会所ニ於テ売買スルコトアリ、又丸廻シト唱フル一種ノ悪弊醸生シタリ、之レハ会所ニ附出サスシテ甲乙仲買人相互ニ売買約定為スナリ、其解合・附出等ハ現場落シ同様ノ手続キニ依ルナリ、又明治八年頃ヨリ奥村何某ト云ヘル者客方ニ甘ク誘導シテ会所ノ手数料(十分ノ四税金十分ノ六会所手数料)ヲ減スルヲ名トシ己ノ利益ヲ謀ルノ業ヲ始メタリ、之レ即チ呑屋ナリ、之レヲ始トシテ追次呑屋ヲ試ミタルモ十五年五月太政官第弐拾六号ヲ以テ仲買人ハ他人ノ依頼ヲ受ケ候ニ非ラサレハ売買取引ヲ為スコトヲ得スト被達、之レニ依テカ正直ノ仲買ハ驚怖シテ稍此競争心ヲ脱シタルノ姿トナリ、自分売買ヲ欲スル者又ハ名義ヲ重ンスル輩ハ自分ノ名前ヲ厭ヒ朋友又ハ手代ノ名義ヲ以テ仲買人トナシ、或ハ放蕩社会ヨリ成立タルモノヲシテ仲買人ト為サシメタレハ追々風儀ヲ乱シ、折柄十五年十一月蠣殻町米商会所営業停止ヲ蒙リ続テ仲買人拘引ノ末各弐万円ツヽノ罰金ニ処セラレ、始メテ条例及ヒ会所ノ定款並ニ申合規則ノ重キヲ知リタルカ如キ実ニ浅間シキノ限リナリトス
一十五年十二月太政官第六拾五号ヲ以テ仲買人売買代金ニ対シ千分ノ五課税セラレシニ、忽チ米商人ノ感覚ヲ動シ全ク禁止税ニ外ナラスト思ヒ客方売買注文非常ニ減シ、税法実施ノ十六年四月ヨリ六月迄ノ両会所出来高ハ一ケ月平均僅ニ八万八千六百八十石ニシテ、之レヲ最モ商業ノ円滑ナリシ十二年中兜町蠣殻町両会所ノ出来高一ケ月平均三百三拾九万弐千六百六十石ニ比スレハ莫大ノ差違ニシテ実ニ定期米売買ノ衰頽此時ニ極レリト云ヘシ、玆ニ於テ両会所合併ノ可ナルヲ考ヘ十六年七月ニ至リ両所合併ノ許可ヲ得漸々売買高増加ノ景状ヲ顕ハシタリト雖モ、十二年度ノ出来高ニ比スレハ未タ以テ霄壌ノ差異ナリ
 - 第14巻 p.85 -ページ画像 
一同年十一月小商人ノ客方多数(俗ニ間ハラト云フ)惣売ニテ某大商人買方トナリ十一月・十二月・一月期共大喰合大手売埋ントスレハ瞬間ニ下落シ買乗スレハ陸続売人アリ、進退玆ニ極リ素ヨリ公然タル売買ニアラサレハ旧ト流行シタル泣キ入レシニ、其売方ノ仲買人ハ不承知ヲ主張シタリト雖モ、買方ニ於テ強情ニ合ヒ金(即チ利益)ヲ払ハス、終ニ呟キナカラ若干ノ直立ヲ以テ解合ヒトナレリ、然ルニ売客ハ自分ノ利益ヲ殺カレルニアレハ仲買ト客ノ間タニ苦情起リ仲買ハ不得已償ハサルヲ得ス、之レ仲買人ノ最モ困難トス、乍去素ヨリ会所帳記売買ニアレハ如斯難事ハ無キニ、仲買ノ内幕ニ在テハ客人ハ証拠金ノ出金ヲ厭ヒ仲買ハ税金手数料ヲ省キタルヨリ起リタルモノナレハ速ニ更正スヘキナレトモ、客方ニ償フ可キ道ナキヲ以テ所謂懐ロ商内ヲ行ヒ、又本証拠金ヲ以テスル客方ハ利益薄キカ故ニ之レヲ嫌忌スルノ気味アリ、十七年・十八年ハ最モ泣キト云フコト甚シク、之レ等ノ内幕ヲ推考スレハ強キハ勝チ弱キハ勝ヘキヲ負ルト云フカ如キ有様ナレハ、之レカ為メ愈呑屋ハ繁昌シ正当ノ仲買モ終ニ呑屋ニ誘レ商内ノ仕方ヲ改ムルニ至ルアリ、呑屋ハ同志競争シ拾銭張・拾五銭張ト素ヨリ敷金ニ当テタル商範ニ止メ客人ニ酒食ヲ饗シ以テ客人ヲ引込ノ手段競争増々烈シク、薄資ヲ以テ呑屋ヲ始メタルモノ抔ハ忽チ客人ニ喰込レ(喰ハレルトハ総テ客人ノ売買共ニ相手トナルニアレハ損益相償ハサル時ハ客ニ渡ス益金多キモノヲ取リ去ラレタルコトヲ云、或ハ「ガツチ」トモ云フナリ)或ハ客ニ対シ泣クアリ、種々様々ノ悪弊醸生シ、正当ノ仲買モ今ハ容易ニ活計立タサルノミナラス、泣キ又ハ喰ハレテ経営スル能ハス、竟ニハ仲買ノ看板ヲ月々若干ノ貸料ヲ定メ他人ニ名義ヲ貸与スル者陸続之レアルニ至レリ
一十八年十一月廿八日太政官第三拾八号ヲ以テ会社税及仲買税廃セラレ更ニ会社税ノミトナリ、其税率売買約定代金ニ対シ千分ノ二課税十二月一日ヨリ施行相成会所ト共ニ仲買ノ恩典ナリトス、然レトモ会所ノ手数料仲買口銭ヲ合スルトキハ千分ノ四五、即チ米価五円ノ時ハ壱石ニ付弐拾参銭七厘ニシテ未タ客人ニ在テハ之レヲ甘セス、如何ソ斯ノ如ク減税ナリシヲ甘セサル哉ト思ヘハ、十六年以後課税ノ為メ仲買相対売買行レ此商内ノ口銭ハ米拾石ニ付十六年頃ハ弐拾五銭ヨリ追々競争シ弐拾銭拾五銭大手ノ注文ハ拾銭モアリシヤト其上僅少ノ敷金ヲ以テ容易ク売買ヲ為スヲ得、又仲買ニ於テモ商内ハ手敷ノ少ナキノミナラス口銭ハ丸儲ケヲ為スヲ以テスル故ナリト、実ニ不義者ノ徒ナラスヤ、方今手数料ノ比較ハ左ノ通リ
    手数料並口銭
  相場壱石五円壱銭ヨリ五円五拾銭マテ
   会所手数料 千分ノ三  拾五銭八厘内 拾銭五厘 税金 五銭三厘 会所実収
   仲買口銭  百分ノ一五 七銭九厘
   〆弐拾三銭七厘
   同未入証拠金ノ分
   会所手教料 千分ノ二七 拾四銭弐厘内 拾銭五厘 納税 三銭七厘 会所実収
   仲買口銭  百分ノ八  四銭弐厘
 - 第14巻 p.86 -ページ画像 
    〆拾八銭四厘
 偖又前記ノ如ク税法御改正即チ十二月一日後ハ手数料口銭ヲ改正シタル故ニ得意乃チ客方ノ少キ仲買人ハ収入少ク、且ツ規則ヲ守リテハ其収入少キヲ以テヤ或ハ弐参拾円ノ証拠金ナラテハ客方ノ依頼売買少ナキカ、往々彼ノ呑屋即チ不正ノ依頼売買ヲ受クル者アルヤノ聞ヘアリ、故ニ十二月三日会所ハ不正ノ行為アルト認メル仲買七名ヲ会所定款第六十条ニ依リ営業停止申付、又同月十日五名同様停止シタリ、各々一週間程ニテ解停ナシタルモ会所ハ不怠仲買ノ営業ニ注意シ且屡説諭ヲ加ヘタリ、加之品川商務局長ニ於テモ会所ニ臨マレ仲買一同ニ篤ク訓戒セラレタリ、然レトモ未タ世上ノ風評喧々タリシニ十二月廿三日警視庁ヨリ数名ノ警官出張仲買人壱名及ヒ其手代・客人等一同拘引、同十九年一月十一日尚又仲買人三名其手代・客人拘引、最モ該仲買人ノ売買ニ関スル諸帳簿モ引上ラレ取調ノ末各罰金ノ処分ヲ蒙ルニ至レリ(当今不服ニテ控訴中ト云フ)右ノ内十二月廿三日拘引セラレタル仲買人ノ売買高ハ十二月一日ヨリ同廿二日迄ニ五万三千石余ト云フ、然ルニ会所ニ於テ為シタル売買高ハ壱万弐千石余ニシテ殆ント十分ノ二三ニ過キス、果シテ然ルトキハ十分ノ七八ハ客人ノ相手トナリ即チ呑屋ヲ働キタルモノト云フヘシ
一十九年一月十二日十一名同十三日七名同廿日十五名都合三十三名ハ農商務大臣ノ詮議ノ次第有之ヲ以テ仲買営業停止ヲ蒙レリ、玆ニ於テ仲買一般寝食ヲ忘レ銘々後途ノ如何ヲ心痛シ一層質素ニ営業シ人人注意ニ注意ヲ加ヘ停止ノ者ハ勿論正業者モ手代・丁稚ニ至ル迄人員ヲ減少シ、又客人ニ於テハ多クハ仲買人ノ店ニ出張スルヲ見合セ殊ニ道路ノ説ヲ聞ケハ米屋町(仲買ノ住居スル町内ヲ云)ヲ通行ス可カラス巻添ヲ喰フ抔ト如斯有様ナレハ一際淋シク火ノ消タル姿トナリタレトモ、元来正米商其他ノ商業ト雖モ此定期米ヲ機関トシテ利用スルニアラサレハ真ノ商法人ニアラサルノ効用ヲ発明シタルノ今日ナレハ、世間不景気且持合相場ニ拘ハラス会所ノ売買高ニハ敢テ其影響ヲ顕ハサス、然ルニ前記ノ如キ仲買人ノ有様ニアレハ、解雇ノ手代及ヒ無産ノ客人等其依ル処ナキヲ見透シ俄ニ「モグリヤ」(仲買人ニアラスシテ呑屋ヲ為スヲ云フ)ヲ為スモノ有之シモ、終ニ其筋ノ聞ク処トナリ拘引セラレタルモノ、本人及ヒ手代客人ヲ合スレハ五十有余人ナリシト、又解雇ノ手代無産ノ者或ハ十八年ノ頃「合百」(合百ノ原由ハ末項ニ記ス)ト唱フル一種ノ取引ヲ為シ其筋ノ処分ニ洩レタル輩顕レ出テ、或ハ刑事巡査ノ手先抔ト云触レ仲買人又ハ停止中ノ者ヲ威迫シ金員ヲ騙取スルノ悪漢者徘徊スルニ至レリ
一玆ニ又一種特別ナル両算ト云ヘル商内アリ、最初銀貨ニテ行ハレタルモノニシテ定期米ニ行ハレタルハ明治三年頃静岡ノ者カ横浜ノ商社ニ於テ為シタルヲ始メトシ、明治五年頃ニ至リ東京商社ニ行ハレ爾後引続キ行ハレタルモノナリ、其仕方ハ一方ヲ包人又《ツヽミテ》ハ持人《モチテ》ト謂ヒ相手方ヲ見人《ミテ》ト云ヒテ、包人ハ本日ヨリ若クハ弐日間ハ相場高下少ク高キモ何十銭ニ上ラス低キモ何十銭ヲ下ラスト見込ミ、又見人ハ其範囲以外ノ高低アリト見込ミタルトキニ始メテ其約束ヲ為スコ
 - 第14巻 p.87 -ページ画像 
トヲ得ルモノナリ、故ニ日限短カク相場保合ナルトキハ包ミノ直巾(何十銭ヨリ何十銭迄ト其範囲ヲ云フ)少ナク之レニ反シ日限長ク相場動揺セルトキハ其直巾多シ、併シ此両算ハ重モニ相場不活溌商勢萎徴ノトキ行ハレタルモノニシテ商勢活溌ナルトキハ稀ナリ、其約定ヲ為スニハ先ツ持人ヨリ何月何日迄何十銭巾ニテ何月限米何千石持ツ可シト云フトキ之レヲ見ン(其相手方トナラントスルヲ云フ)ト云フトキハ始メニ石数ヲ定メ、次ニ其直段ヲ(上直何十銭ナレハ売ルヘシ下直何十銭ナレハ買フヘシト)定ムルナリ(当日ノ相場五円五十銭ニシテ直巾四十銭ナルトキ、持人ニ於テ別段ニ高値ノ見込アラサレハ五円五十銭ヲ中直トシ、上直五円七十銭下直五円三十銭ト為ス可ク、又高低ノ見込ニヨリテ上直七十五銭、下直三十五銭トモ定ムヘク持人ノ随意ナリ)此ノ如クシテ其期限迄ニ相場高下少ナク包ノ範囲内ニアレハ持人ハ其見込ニ違ハサルモノニシテ利益アレトモ相場範囲外ニ高低シタルトキハ之レヲ抜ケルト唱ヘ損失トナルナリ、其損益ノ計算ハ見人ヨリ其米ヲ会所ニ附出シ始メテ決着スルモノナレハ、附出ス当日ノ相場包ミノ正中ニアレハ売米ヲ廻ス(自分ノ売米ヲ持人ノ名義トナスヲ云フ)モ買米ヲ廻スモ共ニ一石ニ付弐拾銭ヅヽノ差金ヲ払ハザルヲ得ザレドモ、相場六十銭ナレハ其損少ナキ方即チ売米ヲ廻シ十銭ノ差金ヲ払フナリ、又附出当日ノ相場包ミ直段以外五円八十銭ナレハ之レヲ上抜ト云ヒ売米ヲ廻シ十銭ノ差金ヲ得、五円弐十銭ナレハ之レヲ下抜ト云ヒ買米ヲ廻シ亦十銭ノ差金ヲ得ルナリ、此他種々ノ懸引アレトモ玆ニ贅セス、抑此両算持方ハ安全ノ掛引ニナス者多ク、其故ハ何商売ニ不拘物価低落シテ損毛トナルトキハ安キヲ買テ平均スル者ニシテ定期売買モ損アレハ其損ヲ補ハンカ為メニ平均スルコトアリ、又大石ヲ売買ナシタルトキハ之レヲ売買戻シ為サントスルモ自分ノ売買ノ為メニ高下ヲ促スコト屡々(大石ノ売買ニナルト衆人其進退ニ注目スレハナリ)ニシテ進退自由ナラス、此場合ニ売米ヲ手仕舞セントスルニ両算ヲ持チ下タ直ニ抜ケレバ見タル方ヨリ買米ヲ廻シ呉レル故、売米ノ手仕舞ヲ人知レス為スヲ得ヘク又買米モ同様ナリ、若シ之レカ反対ニ上ニ抜ケレハ持チタル者ハ曩ニ売米ノ平均ト覚悟ニテ持ツ者ナリ、故ニ両算ナルモノハ前記ノ如ク正シク帳記ヲ為スニ於テハ会所ノ売買高モ増加シ敢テ害ナキモノヽ如クナレトモ、数日間相対私約ニ成ルモノナレハ遂ニハ密約転輾ノ弊ニ陥リ易シ
    合百ノ原因
一又一種変リタル合百ト申ス売買アリ、此合百ハ仙台米入札払ニ始マレリ(何年前ニ始マリシヤ記録ナク不分明ナレトモ凡四五十年前ヨリ起リタルノ説ナリ)此入札払ハ各見込ム処ノ直段ヲ入札スル者ナレハ開札ノ上ナラテハ高キ安キ其日ノ人気相分ラス、故ニ駈引ニ苦シミタルヨリ、其落札直段ヲ目的トシ若干直ナレハ之レヲ買ヒ又ハ売リト相定メテ、其売買ナシタル直段ヨリ落札直段平均安ケレハ買タルモノヨリ売リタル者ヘ壱合ニ付百文宛償ヒ、又平均直段高ケレハ売リタル方ヨリ買タル者ヘ之レヲ償フナリ、商人ハ利アル者モ猶安ク買ヒ又衆人ノ意想外ニ高ク買ヘハ嘲ケラレ後日ノ駈引ニ響クコ
 - 第14巻 p.88 -ページ画像 
トアリト雖モ、一旦見込ヲ定メタル以上ハ十分奮発シ是非ニ買落サント欲スルモ、他ニ又奮発人アレハ落札スル能ハス、是等ノ場合ニ於テ其人気ヲ探クルニ在テハ此合百ヲシテ必要ノ機関トシ、主人ハ手代・丁稚ニ申付此合百ノ取引ヲ為サシムルモノナリ
一駈引上ニ必要ナルヲ以テ浅草官庫入札払及ヒ定期米ニ伝染シ盛ンニ売買為シタルモノ数多有之、終ニ昨十八年七月廿四日其筋ニ於テ悉ク拘引ノ上処罰相成タリ、抑モ定期米ヲ目的トシテ合百ノ売買ナスハ毎朝会所ノ寄附一時間程前ヨリ往来ニ彳ミ、合百仲買客人ノ注文ニ随ヒ或ハ自分売買ヲ為シ、当日会所ノ第一節本場平均ヨリ仮令ハ毛厘タリトモ違フトキハ壱枚ヲ金五十銭又ハ金壱円ノ勝敗ナリトシ而シテ第一節本場後ヨリ又翌日第一節本場平均ヲ目的トシテ売買スルナリ、元来合百ナルモノハ物品ヲ売買為スニアラサレハ賭博ニ均シキモノタルハ論ヲ不俟ト雖モ、入札米ニ関シテハ前記ノ利用アリ定期米ニアリテハ売買人ノ掛引ニ利用シ、仲買ニアリテハ毎朝及ヒ第二節本場引後又ハ休日ニ高キ安キノ人気ヲ知リ客方ノ参考ニ通知スルノ便アリ、又合百進退駈引ノ為メ会所ノ売買ヲ増アリ、為メニ本場立会ニ強テ安直ヲ売リ又強テ高直ヲ買フアリ、故ニ腕ノ強キモノニ勝ヲ取ラレルコトナキニ非ラス、之レカ為場面穏カナラサルコトアリ、故ニ蠣殻町米商会所ハ厳重ニ取締タルコト屡々ニシテ、其トキハ合百ヲ為スモ兜町米商会所ノ平均ヲ目的トシタルナリ、両会所合併後益々之レヲ営ムモノ多ク為メニ往来ノ妨ケトモ相成リタル程ナリキ、然ルニ昨年七月以降ハ全ク其痕跡ヲ断タリ


〔参考〕中外物価新報 第一〇九八号〔明治一八年一二月五日〕 ○商務局長の巡視(DK140007k-0008)
第14巻 p.88 ページ画像

中外物価新報  第一〇九八号〔明治一八年一二月五日〕
○商務局長の巡視 昨日午後品川商務局長其他二名の官吏ハ米商会所並に株式取引所を巡視せられたり、右に就き兼て米商会所へは商務局長臨撿の通報ありたれば会所にては夫々用意を為し、殊に仲買人一同へハ本日午後商務局長始め二名の官員御臨場立会の御一覧ある由なれば後場立会は花々しく致すべしとの通知を為し、仲買人組頭二十名は羽織袴にて御待受申すなど随分周旋を極め、いよいよ臨場ありし折組頭一同より減税の御礼を申上ぐる等鄭重の待遇を為し、又商務局長よりハ今回減税せられし政府の御主意を奉体し今後正則の商売を為し決して他の嫌忌を招かざる様各仲買人共精々注意すべし等の意を懇切に諭され、夫れより場立を一覧されしが、此場立の一段に至ては何共申様なき殺風景にて、場内には仲買人の外ごろつきめいたるものあり、賤しき婦人の入込むあり、実に見苦しき体裁なりしは商務局長の御目にハ如何見られしや、吾々記者ハ余計の事ながら随分場内の不取締を曝露せし様にて苦々しく見受けられたり、又同局長にハ株式取引所の後場立会をも視察さるへき兼ての御積りなりし処、米商会所にて意外に時間を費し、為めに閉場後一寸立寄られ、重もなる仲買人を集め米商会所に於けると同様の内諭ありて五時過き退散せられたり


〔参考〕中外物価新報 第一一〇四号〔明治一八年一二月一二日〕 ○弊風矯正(DK140007k-0009)
第14巻 p.88-89 ページ画像

中外物価新報  第一一〇四号〔明治一八年一二月一二日〕
○弊風矯正 東京米商会所にてハ今回政府にて課税を減少せられし上
 - 第14巻 p.89 -ページ画像 
過日商務局長臨検の折にも能く政府の御主意を体し正等《(当)》の売買を為すやう懇諭もありしことなれば、是迄多くの仲買人中にハ往々種々の弊風ありて不都合の向も少なからぬ由にて此際断然仲買人の弊風を矯正するとの事なり、右にて始めて知り得たり過日来仲買人中に売買を停止せられしもの数名ありし理由を、是等ハ左もあるべき事と申すべし


〔参考〕中外物価新報 第一一二六号〔明治一九年一月一三日〕 ○仲買人営業停止(DK140007k-0010)
第14巻 p.89 ページ画像

中外物価新報  第一一二六号〔明治一九年一月一三日〕
○仲買人営業停止 一昨十一日農商務大臣より詮議の次第有之、下記十一名の営業を停止する旨東京米商会所へ達せられしに付き、昨日同会所に於て左の如き掲示を為したり
本日左之通御達相成候条広告候事
  一月十二日               東京米商会所
雑第一号
其会所仲買人ノ中別記名面之者ハ詮議ノ次第有之今般営業停止相成候ニ付テハ、爾後本人等ノ行為ハ其会所ニ於テ篤ト監督可致、大臣ノ命ニ由リ此旨相達候也
  一月十二日      商務局長心得 品川忠道
                  東京米商会所仲買人
                      伴田六之助
                      菱谷六右衛門
                      西村定次郎
                      伊藤吉蔵
                      近沢三右衛門
                      清水八兵衛
                      彦根宣寿
                      吉田宗五郎
                      若林豊之助
                      中神久太郎
                      別所五兵衛


〔参考〕中外物価新報 第一一二七号〔明治一九年一月一四日〕 ○仲買人営業停止(DK140007k-0011)
第14巻 p.89-90 ページ画像

中外物価新報  第一一二七号〔明治一九年一月一四日〕
○仲買人営業停止 又々書くもいぶせき米商仲買人の営業停止ながら記者の職務柄とて止むを得ざる次第なれば、昨日東京米商会所の公告を写すこと左の如し
本日其筋ヨリ左之通御達相成候条公告候事
  一月十三日                東京米商会所
雑第二号
其会所仲買ノ中別記名面之者ハ詮議ノ次第有之今般営業停止相成候ニ付テハ、爾後本人等ノ行為ハ其会所ニ於テ篤ト監督可致、大臣ノ命ニ由リ此旨相達候也
  明治十九年一月十三日 商務局長心得 品川忠道
          東京米商会所仲買人
             小林文次郎 井染得佶
             武田利智  野田民一
 - 第14巻 p.90 -ページ画像 
             金井藤吉  杉山新平
             上野山与兵衛


〔参考〕中外物価新報 第一一三三号〔明治一九年一月二一日〕 ○もぐり屋ともぐり客の拘引(DK140007k-0012)
第14巻 p.90 ページ画像

中外物価新報  第一一三三号〔明治一九年一月二一日〕
○もぐり屋ともぐり客の拘引 米商仲買人ならで俗にもぐり屋と称する蠣殻町一丁目川村・服部の両名、並に其店に居合せたるもぐり客二十名余ハ昨日一網に其筋へ拘引せらる


〔参考〕中外物価新報 第一一三四号〔明治一九年一月二二日〕 ○又候停止(DK140007k-0013)
第14巻 p.90 ページ画像

中外物価新報  第一一三四号〔明治一九年一月二二日〕
○又候停止 東京米商会所仲買人伊東荒吉・和田兼作・井泉源太郎・宮本石平・戸田菊蔵・鯉江平七・広岡利兵衛・草野儀三郎・田中金之助・山本定治郎・前島忠蔵・沼田万兵衛・曾野治介・鴨田定右衛門・平野伊八の十五名ハ昨日又候農商務大臣より営業を停止されたり


〔参考〕中外物価新報 第一一四八号〔明治一九年二月九日〕 ○米商仲買及客の罰金(DK140007k-0014)
第14巻 p.90 ページ画像

中外物価新報  第一一四八号〔明治一九年二月九日〕
○米商仲買及客の罰金 東京米商会所仲買人伴田六之助・和田円蔵其他客筋手代等四十八名ハ曾て米商規則違犯の廉にて其筋へ引致され、其後東京軽罪裁判所にて数回審問ありしが、去る五日六之助ハ八百五十円、円蔵ハ七百円、其他廿九人ハ百八十円より百円・八十円・五十円の罰金に処せられ、残り十九名ハ無罪を申渡されたり


〔参考〕中外物価新報 第一一七七号〔明治一九年三月一六日〕 ○堂島米商会所(DK140007k-0015)
第14巻 p.90 ページ画像

中外物価新報  第一一七七号〔明治一九年三月一六日〕
○堂島米商会所 先頃東京米商会所仲買人の営業停止拘引を手初めとし続て兵庫米商会所仲買人の拘引あり、近頃ハ又馬関米商会所仲買人一同の拘引ある等各地米商会所仲買人の拘引流行となりしかば、堂島米商会所にてハ天の未だ陰雨せざるうちに牖戸を綢繆するの意なる歟此程仲買人一同を会所に喚集め今後ハ一層注意をなして其筋の嫌疑を蒙らざる様致すハ勿論の義なるが、尚その潔白を示さんが為めに日々仲買人が売買したる高を銘々に立会場へ掲示し、会所にてハ実際売買高の之に超過せざるや否を調査し、少しにても不都合の廉あるを見出せば申合規則に依て直に営業を停止すべしとの趣を告げ知せたる由、又堂島米商会所に於てハ自今日曜日の休業を全廃する事の相談あり、多分その如く極るならんとのことなるが、右実行の上ハ毎月十五日を以て休日と定むる都合なりと云ふ


〔参考〕中外物価新報 第一一八〇号〔明治一九年三月一九日〕 ○大阪米商仲買の拘引(DK140007k-0016)
第14巻 p.90 ページ画像

中外物価新報  第一一八〇号〔明治一九年三月一九日〕
○大阪米商仲買の拘引 大阪堂島米商会所にてハ各地米商会所仲買人の拘引陸続たるに鑑みる所ありて、過日其仲買人一同を会所へ召集め懇々の説諭ありし由ハ前号にも記せしが、其甲斐なかりしと見え、昨日蠣殻町の某方へ左の如き電報ありしと
本日和久井(仲買店)其他十六名拘引されたり


〔参考〕中外物価新報 第一一八五号〔明治一九年三月二五日〕 ○大阪の営業停止(DK140007k-0017)
第14巻 p.90-91 ページ画像

中外物価新報  第一一八五号〔明治一九年三月二五日〕
○大阪の営業停止 堂島米商会所に於てハ去る二十日を以て其仲買人
 - 第14巻 p.91 -ページ画像 
山岡弥太郎・炭原治兵衛・小林治一郎・伊藤勝蔵・山本得助・松田治作・清水藤兵衛・袴谷常七・秋田玉之助・菊田弁右衛門・松尾熊太郎・伊藤留助・木村森吉・山内四郎・岩井金蔵・土井安治・北村豊七・坂井久次郎の十八名を召喚し右仲買人の営業を停止したる由なるが、聞く所に拠れば大坂の仲買人ハ多くハ皆東京にて所謂呑屋と称するものなりと云へば、其原因も過日当地に流行したる営業停止と一般ならんと思はる


〔参考〕中外物価新報 第一二〇八号〔明治一九年四月二二日〕 ○堂島米商会所(DK140007k-0018)
第14巻 p.91 ページ画像

中外物価新報  第一二〇八号〔明治一九年四月二二日〕
○堂島米商会所 同会所の景況ハ過日仲買人帳簿取調後引続き同仲買人を警察署へ召喚し取調等ありたる以来ハ、会所の模様一変して大に衰微の傾向を生じたれば、右取調以前ハ日々の売買高大抵二万九千石乃至三万石に上りしものも昨今ハ漸く一万二三千石に過ぎずして、如何にも寂寥たる場況なり、又目下同会所頭取以下の諸役員を改撰せんとするの計画もある由


〔参考〕中外物価新報 第一二一九号〔明治一九年五月五日〕 ○警吏呑屋に闖入す(DK140007k-0019)
第14巻 p.91 ページ画像

中外物価新報  第一二一九号〔明治一九年五月五日〕
○警吏呑屋に闖入す 大坂通信者より特発電報を以て左の事を報したり
  五月四日午後二時四十分大坂特電
 堂島ゲンキン屋(東京にて所謂呑屋に当るもの)十六軒へ警吏闖入したり


〔参考〕中外物価新報 第一二二三号〔明治一九年五月九日〕 ○米商会所の一大椿事(DK140007k-0020)
第14巻 p.91-92 ページ画像

中外物価新報  第一二二三号〔明治一九年五月九日〕
○米商会所の一大椿事 数多き東京米商会所仲買人の内にハ随分風儀の宜しからざる向もありしより密売買等の嫌疑を蒙り、或ハ売買を停止され或ハ其筋へ拘引されて罰金を課せらるゝ等ハ是迄珍らしからざる事なるが、昨日東京米商会所の拘引事件ハ実に未曾有の一大椿事とも云ふべきものにして、為めに米商社会へ及ぼすべきの影響も尠からざる義なれば、聊か爰に其摸様を記さんに、東京米商会所にてハ昨八日も例の如く午前八時三十分頃より寄附の立会を開き売た買たの真ツ最中同四十分とも覚ゆる頃一名の警部にハ突然売買の場に臨まれ売買中止の旨を伝ふるや、巡査十名探索掛三十名ばかりハ四方より起りて会所場内へ闖入し、表裡の両門を鎖したる上にて其場に居合せたる仲買人・場立・手代・客筋ハ申すに及ばず会所の役員等無慮二百名ばかりへ(頭取林氏ハ不参の為め肝煎酒井氏ハ位記を有する為め拘引を免かれたる由)悉く腰縄を付け久松町の警察署へと引立てられ、之と同時に一切の帳簿を引上げ土蔵等へも皆な封印を付られ跡ハ巡査数名をして之を監護せしめられたり、斯る有様なれば事に慣れ素早き連中にハ警部の顔を見るや否や慌てゝ遁け出し甘く其禍を逃れたる者も少からざれど、名にしおふ事急にして意外にありたれば大抵ハ皆な進退これ究まり其身其儘にて拘引となりし事故、自ら引立てられたる人の外ハ何等の嫌疑に因り事の玆に至りし歟を知らざる程なるが、恐らくハ此程中多少その噂のありし密売買の嫌疑ならんと聞へたり、兎に角斯
 - 第14巻 p.92 -ページ画像 
く役員迄も拘引となり会所を閉るに至りたるハ米商会所創立以来の一大椿事なれば此事に関する今後の摸様等ハ怠らず報道する所あるべし


〔参考〕中外物価新報 第一二二四号〔明治一九年五月一一日〕 ○東京米商会所椿事余聞(DK140007k-0021)
第14巻 p.92 ページ画像

中外物価新報  第一二二四号〔明治一九年五月一一日〕
○東京米商会所椿事余聞 去る八日東京米商会所に起りたる一大椿事の摸様ハ略ぼ前号の紙上に記るしたる如くなるが今又玆に其後の景況を略して記さんに、偖も腰縄にて久松町警察署へ引致されたる百五十名許りの人々ハ同日午前十一時頃より順次に取調を受けたるも、何分多人数なれば意外に手間取りたる故肝煎始め一同ハ一人も帰るを得ず尽く該署へ留置れ該署の撃剣場にて夜を明したる事なるが、翌九日も終日取調べられ夜に入る迄にハ一同を帰されたるも只一人丈けハ何等の故にや帰されず、昨十日午後も未だ該署にありしと聞きぬ、斯くの如くにして去る八日に引致されたる人々ハ悉く口書を呈し昨日迄に帰宅する事を許されたれど、帳簿を引上げられたる為め昨朝に至るも会所ハ立会を開くことを得ざるを以て会所よりハ帳簿差戻しの儀を該署に出願したる処、右ハ治罪法に依りて押収したる証書の類なれば喩ひ会所の営業に差支あるも調査済までハ下渡し難しとて昨夜八時過迄も下渡されざれば、会所にてハ下渡しあり次第夜の八時より去八日午前寄付の立会を開かんと心構へたる甲斐もなく到頭立会ハずして止みぬ去れど昨夜中に下渡さるれば是非とも本日午前七時より去八日分の立会を開く手筈なりとぞ、扨又今度会所の役員迄が斯く一同取調を受けたる訳如何を聞くに、会所の帳簿に直シの多きハ仲買人が懐合の差引を為したるものにて、即ち密売を犯したるものなるに役員ハ其情を知りながら之を許したりとの嫌疑に因れりと、併し直シの多きハ必ず密売と云ふ確証にもならざれば此義ハ随分六ケしき議論もあることならんと思ハる、又今度斯る一大椿事を惹起したる原因ハ如何と云ふに、過日来懐を仕掛け居たる某氏にハ過般相場の大沸騰にて大儲けと思ひの外泣を入れられ虻蜂取らずとなりたるくやしまぎれに自首と出掛け夫より斯く大騒動を起すに至りたりとも聞へたり、兎に角右の如き有様なれば昨日迄ハ会所近傍ハ実に火の消へたる如く又大風の跡の如くに見へたるが、吾々ハ一日も早く片付けて平日の景況に復さんことを希ふになん


〔参考〕中外物価新報 第一二二四号〔明治一九年五月一一日〕 ○堂島拘引事件(DK140007k-0022)
第14巻 p.92 ページ画像

中外物価新報  第一二二四号〔明治一九年五月一一日〕
○堂島拘引事件 去る五日の紙上に電報の儘記載せし大坂堂島の拘引事件の後報を聞くに、同所米商会所の近傍に営業する両替屋ハ唯表向きの名のみにて其実現金屋と称し多くの人を集め窃かに空相場を為すものありければ其筋に於ても兼々注目せられたるに、此頃に至りてハこの輩非常に増加し盛に空相場を為したれば、去四日午前十一時過ぎ米商立会中引後暫時休憩の折、北警察署より警部巡査数十名俄然右現金屋に闖入し四十余名の犯罪者を取り押へ一応取調の上拘引したり、右に付き本署よりハ第二部長田中警部出張し立会取調られたりと、されば去る三日定期米売買高三万六七千石余なりしも四日にハ一万石の外に出でざる位なりしと

 - 第14巻 p.93 -ページ画像 

〔参考〕中外物価新報 第一二二七号〔明治一九年五月一四日〕 ○米商会所の組織(DK140007k-0023)
第14巻 p.93-94 ページ画像

中外物価新報  第一二二七号〔明治一九年五月一四日〕
    ○米商会所の組織
去る八日東京米商会所役員始め仲買手代等に至るまで当時其場内に居合せたるものハ悉く其筋へ引致せられ、会所の諸帳簿も亦同じく其筋の引揚げに遭ひ為めに二日間の営業を中止せざるを得ざるに至りたるハ已に其節の紙上に報道したる所の如し、夫れ明治七年十二月我が政府が従来各地方に行ハれたる米油等の限月売買を差止め、同九年八月に至り更に又米商会所条例なるものを布告して此の条例に遵ひ米穀の限月売買を差許されしが、爾来該条例に触れ刑罰を受るもの前後甚だ少なからずと雖も今回の蠣殻町騒きの如きハ前後無類実に米商社会の一大事件なりとす、而して其原因ハ預け合又ハ入れ引と唱ふる売買法に依り密に脱税の事を謀りたるが為めなりと云ふものあれど、吾輩ハ其実果して然るや否やを未だ審らかにするを得ず、又仮令其実を知るも敢て之を公言するを欲せざる所なれども、要するに此拘引事件たる畢竟米商会所条例違犯の嫌疑に基きたるものに相違なかるへし、蓋し斯くも屡々犯則者を現出し其筋の手数を煩ハすものハ会所の役員が敢て其監督を忽かにしたるが為めにあらざるハ勿論絶へず其辺に注意せらるゝハ兼て吾輩の知る所なれども、而も現行組織の存在する以上ハ到底犯則者の跡を此の社会に絶つ能ハざるものゝ如き勢ひあるものハ抑も亦何が為めぞや、未だ其原因を詳悉し得されども是れ恐らくハ該組織の方法の我が社会の実状に適せざる不完全のものなるが為めならん歟、故に充分に之を改良して益す斯の業の進達を謀り実際に其効用を逞ふせしむるハ寔に方今の急務なれば固より官民の一般に希望する所なるべし、況んや其筋に於ても米商会所組織の義に関してハ已に種種の評議ありて大に其制を更革せんとせらるゝに於てをや、米商会所組織の改正ハ已に識者の許す所にして時機も亦正に熟したるものと謂ふべし、故に吾輩ハ左に先づ現行米商会所の組織を摘録し、次て之が改革の鄙見を陳述し、以て当業者の参考に供へんと欲するなり
抑も現行米商会所の組織を按するに其条項ハ甚だ多しと雖も之が骨髄となるへきものハ左の数項に止るへし、即ち米商会所を創立するにハ先づ発起人十名以上にして資本金三万円以上を備へざるべからず、而して会所ハ売買双方の約定を履行せしむるの権を有し、若し違約者あれば其証拠金及び身元金を以て其損を償ハしめ之を除名するを得へし又米商会所にハ身元金千円以上を出し農商務卿の認許を得たる仲買人を置き仲買人たるものハ他の依頼を受けて売買取引を為し、会所に対してハ自己の名義を以てし其売買取引上一切の責任を負担すべきものと、又会所に於て売買取引を為すものハ其仲買人に限るべしとせられ且つ定期売買を為すにハ売買双方より各約定代金高千円《(分カ)》の二を租税として上納する事とせられたり、而して該条例を実行するが為めにハ罰則を設けて会所の役員及び株主仲買人等此の条例を犯すか、又ハ役員たるもの株主仲買人の条例に背犯したるを不問に措き、又ハ背犯せしめたる実証あるときハ役員並本人とも其軽重に依り三十円以上千円以下の罰金に処すと云ふが如き方法を付加せられたり、米商会所の組織
 - 第14巻 p.94 -ページ画像 
ハ大略右に述べたるものゝ如し、故に人あり米穀の定期売買を為さんとする場合にハ政府へ収むべき税金と会所並に仲買人の手に入るべき手数料とを要せらるゝ事なれば、縦ひ税率軽減の沙汰ありしにもせよ他品の売買に比すれば其負担ハ甚だ重きものあるへき歟、加之今日の如く政府の特許を得て米穀の定期売買を営むの会所ある以上ハ苟も此の業に従事せんと欲せば必ず其会所に依らざるべからす、固より同業者集合の場所に於て売買を為すハ其利便甚だ少なからざるものあるべしと雖も、可成的其負担の少なきを欲するハ是れ人情の常なり、然るに会所と仲売人《(買カ)》と互に駢立して会所ハ唯其信用を表するが為め特に株主を募集して実際無用の資本を醵出するが如きハ実に不経済と云ふべく、啻に不経済なるのみならず会所の組織右に述べたるが如きものなるが故に勢ひ其負担も増加すべく随て条例違犯者も其跡を絶たざる事ならん歟、左れば米商会所の組織ハ是迄数度の改正を加へられたるも未だ完全のものにあらざるや明かなる事実なり、故に之を改良して其病根を医するの今日に急務なるハ已に輿論の許す所なり(未完)


〔参考〕中外物価新報 第一二二八号〔明治一九年五月一五日〕 ○米商会所の組織(承前)(DK140007k-0024)
第14巻 p.94-95 ページ画像

中外物価新報  第一二二八号〔明治一九年五月一五日〕
    ○米商会所の組織(承前)
或人の説に現今米商会所に密売買の弊風を絶つ能ハざるものハ種々の事情あるべしと雖も、畢竟すれば彼の米市場に於てハ時々の相場を互に店頭に立ちて相伝呼するが為めなれば、之を矯正せんとするにハ嘗て東京商社に於て行ひたるが如く時々の相場を店頭に連呼せざる事とするに在るべしと云ふものあり、然れども斯かる処置にて密売買を防遏せんと欲するハ猶ほ木に縁て魚を求むると一般到底無効の事たるや明かなり、何となれば凡そ売買取引の事たる可成的其面倒を省き又其負担を軽くし以て其業務を円滑にせざるべからざるハ固より言を要せざる義なるに、現行条例の如く売買手合毎に課税せらるゝハ最も当業者に取て不利なるを免れず、加之株金を以て成立ちたる会所なれば其役員ハ不用の資本ながらも之に向て相当の利益配当を為さゞるべからさるを以て、米穀定期売買者の負担と面倒とハ自然に増加すべきものなるが故に、此等の負担と面倒とを避けんと欲するハ人情の常にして此の人間の常情を全ふせんと欲すれば忽ち密売買なり、条例違犯なりとして罰せらるゝ事なればなり、左れば現行の組織根本より改良せざるよりハ到底其効なかるべきや明白の事理と謂ふべし
夫れ然り而して現行米商会所の組織ハ如何に改革すべきや其方法も種種あるべしと雖も、吾輩の所見を以てすれば要するに現行米商会所の組織ハ全く之を解廃して彼の仏国のブールス米国のストツク・エキスチヱンジの組織に於けるが如く、例へば米穀なり株式なり真に其売買に従事して立派の資産を有し且つ互に信任すべきものゝみ相結合規約して売買取引を営み、株金ハ別に之を募集せず唯其業を営むべき家屋及び其敷地を求むる丈けの資金を醵出し以て一個の市場を建設し、其営業規約の如きハ苟も世道を害し国家の治安を損せざるよりハ最も其商業に便利なる方法を以て之を組織し、現行条例を全廃して政府の干渉保護を薄ふし其会所即ち市場の盛衰興廃ハ悉く之を其当局者の責に
 - 第14巻 p.95 -ページ画像 
放任するに在るなり、而して此の方法に依るときハ現今の如く不用の株金を醵出し毎季其配当の増減を心配するに及ばず、唯其組合員たるものハ書記役並に監定役等の給料及び諸雑費を支弁し、又政府へ対してハ其組合員が営業を為すに此の社会に運動し得る丈けの保護をば受けざるを得ざるに由り随て多少の会所税を課せらるハ至当の事なるべし、且つ右の方法に依て組織したる会所の毀誉盛衰ハ悉く之を組成せる人々の挙動如何に拠り定るものにして、此等の人々ハ資産あり信用あるものなれば其営業の益す着実機敏に赴き其注意の一層深密に立至るべきハ自然の理数と謂ふべし、故に若し社会に対して信を失ひ笑を招くが如き不実の行為を為すものあれば忽ち之を社外に放逐すべきハ勿論の事なるべし、左れば斯かる組織の下に於て定期売買に従事するものハ悉く真正の米商なるべく、随て其業務も愈々確実に赴き益々盛大に進むべきや更に疑を容れざるなり、然るに之を非難するものゝ言に、右の組織に改むるときハ成程真正なる米商の集合となるべきも従来空米相場を為したるものハ依然として其数を減ぜざるべきが故に改革の事たる甚だ得策にあらざるべしと論ずるものありと雖も、此の空米相場を為すが如き鼠輩ハ今日の如き厳密なる条例を以てし且つ其筋の官吏が如何に注意せらるゝも苟も現行条例の存在する以上ハ決して其跡を絶たざること恰も飯上の蠅と一般なれば之を打払ふも到底詮なき事たるを知るべし、啻に其詮なきのみならず現行組織の存続するが為めにハ正業者の利益を害すること甚だ少からざるが如し、故に多少の異議ハ措て問ハず充分に実際の事情を照合し非常の英断を以て会所の組織を改革せざるべからずして其新に起すべき方法ハ彼のブールス又はストツク・エキスチヱンジの組織に傚ハん事を希望するなり(完)


〔参考〕中外物価新報 第一二二八号〔明治一九年五月一五日〕 ○人心恟々(DK140007k-0025)
第14巻 p.95 ページ画像

中外物価新報  第一二二八号〔明治一九年五月一五日〕
○人心恟々 蠣殻町の米商社会ハ去る八日の事変以来人心恟々として何となく穏かならず、為めに昨今ハ其売買高も至て尠なく現に一百名の仲買人ありながら昨日抔ハ立会場へ臨む者僅に廿名内外にて、是れすら新規の売買を仕掛る者なく重に売埋め買戻し等に過ざれば、平常ハ宛ながら往来客を妨る程の雑沓を極めし米屋町も昨今ハ門前雀羅を設けんとするの有様ゆえ蠣殻町近辺の料理店其他の小商人等も頗る困難を極め居る由なるが、聞く所に拠れば今回の事変を惹起したる告発人金井藤吉(通称丸川)より密売買を為したりとの告発を受けたる仲買人横井孝助・平川平兵衛・野村新次郎其外八名ハ一昨十三日久松町警察署へ召喚され随分厳重なる御調ありて其内一名丈けハ昨日午後三時過ぎに帰宅を許されしも其他の人々ハ引続き取調を受け今に同署に留置かるゝ趣なるが、右に付兼て引上げられたる帳簿上に付何か尋問さるゝ廉ある故にや、米商会所の書記四名ハ昨日又々召喚に応して出署したり、何様這回の事件ハ東京米商会所創立以来未曾有の大事変なれば決して軽忽になし難しとて、同会所役員方一同評議の上法庭上の弁護ハ今より高梨哲四郎氏へ依頼されたりと云ふ


〔参考〕中外物価新報 第一二四一号〔明治一九年五月三〇日〕 ○警官仲買店へ闖入す(DK140007k-0026)
第14巻 p.95-96 ページ画像

中外物価新報  第一二四一号〔明治一九年五月三〇日〕
 - 第14巻 p.96 -ページ画像 
○警官仲買店へ闖入す 昨日午前十時頃警部三名巡査凡そ三十名計にて突然蠣殻町米商仲買店鯉江平七・角田八百蔵・矢島平蔵・田中金之助・松島宗四郎・荻原勝五郎・深野茂兵衛の七軒へ闖入し、売買の諸帳簿を始め家中隈なく取調べられ、又兜町の吉野甚三郎及び上原善太郎、其他亀島町・霊岸島・深川等に設けある右仲買人の本宅並に手代の住宅迄も同時に手を分ちて取調べられたる趣なるが、聞く所に拠れば本月八日東京米商会所へ出張して一同を拘引されたる大事件に関しての取調ならんと云へり


〔参考〕中外物価新報 第一二四二号〔明治一九年六月一日〕 ○帳簿調(DK140007k-0027)
第14巻 p.96 ページ画像

中外物価新報  第一二四二号〔明治一九年六月一日〕
○帳簿調 去る二十九日警官にハ東京米商会所仲買人の出店・本店並に手代の家宅等へ出向かれ厳重に帳簿類を取調べられたる事ハ前号にも記せしが、一昨三十日も警官数名ニハ深川佐賀町なる伊勢定・三松など云へる米商の宅へ赴かれ矢張り帳簿類の取調べをなされたる由、右の店ハ正米のみならず折々定期米へ手を出す事もある趣なれば矢張り何かの嫌疑によりたるものならんなれど、斯く客筋の所までへ手の入る様にてハ目下浮とハ定期米へ手を出し難しとて期米売買を休み居る者も多しと聞けり


〔参考〕中外物価新報 第一二四二号〔明治一九年六月一日〕 ○繁昌の余慶(DK140007k-0028)
第14巻 p.96 ページ画像

中外物価新報  第一二四二号〔明治一九年六月一日〕
○繁昌の余慶 東京米商会所の風儀を正さんとの為めなる乎同所の方ハ昨今頻りに其筋の御手が入り、ヤレ拘引ヤレ帳簿取調べとて仲買客筋とも枕を高ふし能ハざるの有様なれば、同所の日々売買も至て少く殆んど休業同様の姿なるが一盛一衰ハ亦詮なきもの歟、東京株式取引所の方ハ米商の方が衰微になればなる程繁昌に赴く景況にて昨今ハ実に未曾有の盛況を呈し、随て其株券の如きも四百二十五円(去廿九日)の高価を現ハす抔其全盛ハ目下比類なしと称すべき位なれば、其繁昌を祝ふ為め昨今両日を以て盛に鎧神社の祭を執行するなど実に余所《よそ》の見る目も羨ましき事なるが、其繁昌ハ延て近鄰に及び近傍の料理店抔も非常に賑ふ所より、此処ぞ金儲けの場所とて四方より同所の近辺の店を求むるもの多く、之が為め此頃まで借人なきに苦み居たる同所側の貸長家抔も殆んど一抔になりしとハ是や繁昌の余慶とや云ハん歟


〔参考〕中外物価新報 第一三一四号〔明治一九年八月二四日〕 ○仲買人営業停止(DK140007k-0029)
第14巻 p.96-97 ページ画像

中外物価新報  第一三一四号〔明治一九年八月二四日〕
○仲買人営業停止 東京米商会所仲買人江間忠五郎・岩城秀雄・沼田万兵衛・近沢三右衛門・滝本富吉・中神久太郎・木村鍈之助・田中金之介・山本定次郎・広岡利兵衛・草野儀三郎・山崎友吉・石川茂兵衛・戸田菊蔵・居初得吉の十五名ハ営業上何か不都合の所為ありと認められしものにや昨日東京米商会所より自今営業停止を命ぜられたり、聞く所に拠れば一旦営業停止を命じたる者ハ是迄の如く容易に解停するときハ本人の懲戒とならざるのみならず他の仲買人の警戒ともならざるに付、詳細に取調の上其行為の如何に由りてハ断然仲買人を除名するか、左なくとも三ケ月乃至半ケ年位の停止を命ずべしとハ青木頭取の持論なりと云へば、今度の営業停止ハ東京米商会所改革の手始めな
 - 第14巻 p.97 -ページ画像 
らんと云ふ


〔参考〕中外物価新報 第一三六九号〔明治一九年一〇月二八日〕 ○空相場師の取調(DK140007k-0030)
第14巻 p.97 ページ画像

中外物価新報  第一三六九号〔明治一九年一〇月二八日〕
○空相場師の取調 先頃堂島近傍の現金屋にて空相場を為せしもの数名拘引せられし以来其筋に於て取締り厳密なるを以て此類大に減少せしが、又々増加する摸様にて、今度ハ場所を転じて西区江戸堀及ひ京町堀近傍へ移り堂島にて旗を振り之を目鏡にて写し取りそれにて定期密売買を為す工夫なりし処、又其筋の探偵する所となり四五名拘引せられたり、去れば其後ハ毎日の様に位置を変して窃に不正売買を為し去二十日ハ右に関係したりとて、米商仲買人池田安之介なるもの拘引せられ目下取調中なりと云ふ、其筋の取締り厳密にも拘らず此の輩の出没跡を絶ざるハ恰も青蠅の如し、嘆すべき哉