デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治7年8月（1874年）

栄一、小野組糸方改革ノ議ニ参画ス。或ハコノ頃ヨリ監督役タルコトヲ委嘱セラレシカ。

小野組依頼状案　　　　　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
　　　　依頼状
当組伊勢町糸方之義ハ是迄別段営業規則も無之候処、此度田所町総理所ニ於て篤と考案之上、右糸方事務主任之者へも熟議を遂け別紙之通営業之目途内則を以て確定いたし候、就而ハ貴下御義ハ右内第　条掲示之監督役に御任し被下、向後糸方之事務都而右規則之通り調理候様御担任被下度、尤も右内則之義ハ只此末営業之目途ニ供し候ものにして、掲載之件々も其要領を採摘いたし候迄ニ候間、尚糸店及支配支店共現務施行ニ付而ハ内封第　条之通り夫々精密之方法設立いたし度候ニ付、右等表立候規則等ハ実地御斟酌之上充分御配意被成相当之御取計有之度候、尤も此監督役を貴下へ御依頼いたし候ニ付而ハ、此末糸店ニ於て金銀出納向ハ勿論、他方預り金又ハ借入金等之義ハ都而貴下御了承無之而ハ取計不申義政而主任之者へも相達し置候ニ付、右件ニ渉り候義ハ別而御注意有之確定之内則ニ御照準被成出納計算瞭然ニ相成候様御取扱被下度、仍而依頼状如件
　　　　　　　　　　　　　　　　　　東京
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　田所町
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　小野組
　　年号月日　　　　　　　　　　　　　　　総理所
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―――――――
　　　　―――――――　　　　　　　　　　　　―――――――
　　○栄一自筆ノ如シ。

（渋沢喜作）書翰　　渋沢栄一宛（明治七年）八月二八日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
拝啓仕候数々御高配を相蒙候末過夜伊勢町ニ於て営業向取調之廉々、且ハ向来之方向慨略《（マヽ）》も申上尚熟案目算之上一同罷出候上御煩労も相願度件々御含ニも相成居候処、即夜より小子義少々暑邪之気味ニて引籠り遂ニは熟議も及兼甚タ遷引仕候、偖向来之目途相定メ順序相願御含ニ相成田所町迄之云々御煩労ニ相成、右は一同意見之行届候とも詰り按
 - 第14巻 p.464 -ページ画像 
算之順序ヲ確守不申上ニ何も無詮之事、然ル処過夜之一談話位之事ニて略銀行も行届、田所町は容易位と彼之先生ニ気込而已ナラズ陸羽各店之云々鉱山方仕方到底之意見、兎ても小子之意見は出合兼可申と懸念何事も改正と申事は詰り主任之決意ニ万事成否に帰し候義従来之成行実ニ万端成行任せ、何歟本店ニ有之其之地方より申出ニ任せ其時限り一時囂々其事ヲ申談し余を断念之様被存、実ニ此之改正践行之成否こそ営業之成敗ニ有之候得は必死尽力候とも両三年之後ナラデハ略成否之目途も如何可有之、兎角改一洗と申事を通常輩之大難事時々心頭ニ相懸ケ候ても遂ニは行ひ兼候義、まして其懸念無之ニ於テハ被行之義無之、兎ても小子輩之微力此之一難事改正順序目算ヲ相定メ践行候義及兼可申と云々内情より万端軽卒之意念推考より愚考も仕懸念も不少候間若し頭ヲ揃ひ銀行江決極之御引請ヲ相願、其余田所町之成行御煩労ヲ相懸ケ候後万一其順序ヲ践行いたし兼不得止半途ニシテ其業ヲ廃し候節は、却而御尊称ヲ相汚し小子も共ニ軽卒之罪ヲ請候義右も必死努力及丈之力ヲ尽し、力不及尊称ヲ汚し候場合ニ陥り候義是微力之罪不得止儀と御海容も相願、小子ニ於ても是迄と断念も仕候義ニ候得共、夫是之場合より枉随従と申事ニも相成兼、去とて強而役ニ随従為致候義も理も無之兎ても推案候処、合議詰り行届兼可申と懸念候故、昨夕幸平相見ひ《（え）》候間陸羽之改正向鉱山着手向来之目途兎ても古河と小子之意見合議いたし兼可申候間、小子睦羽巡視之義は見合一ト通本店向並ニ各支店迄営業向順序之条例其他諸簿記計算法方位之目前規則でも取調、小子は元々欧洲行之古河と約本任ニ候得は右行之方ニいたし度、乍去数々内事都合向も有之欧行出発之都合も元方行届兼候義ニ候得は、来春とても別に好手段も出来候理も無之候得は暫時は断念之都合ニ可相成哉、右は約定ニ寄り強テ其之事ヲ主張候義も無之候間何も足下輩之都合ニ任せ可申候様一ト通り詰り合議相成業可申と懸念之心事より丁寧申談し候次第、尤も古河江も一両日中ニ篤と心事相談し、決極相定候積り、何歟小子不決断より過日来之別段御煩労ヲ相懸ケ遂ニ右様押及候義却而汗顔之至ニ候、書余拝姿順序申上候義は申迄も無之候得共、昨夕熟慮之余幸平江も一義話談ニも及候故、慨略之処御内含迄申上候、何も拝語ニ譲り申候　匆々不備
　　尚々不快も今日は大ニ宜敷臥起仕候間御安意祈候　已上
　　八月廿八日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　蘆陰敬白
　　　　青淵賢台
　　　　　　　　　　硯北
　　○喜作ノ欧洲ヨリ帰朝セルハ明治六年十月ニシテ、ソノノチ就職セル小野組糸店ノ破綻セルハ翌七年十一月ナレバ、本書翰ハ明治七年八月ノ執筆ニカカルモノナルベシ。

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（渋沢喜作）書翰　　渋沢栄一宛（明治七年カ）一〇月一四日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
前略毎度御厄介千謝仕候、然は銀行帋幣之義瀬川江も承合候処差支も有之間敷由申候間、過刻御相談申上候通明日過日差出し候証書ニ準シ御引請直段相違候廉も限月利子等之云々相改書面差出し候間、金子御渡し被成下度祈候　匆々不備
　　十月十四日　　　　　　　　　　　　　　　　喜作拝
　　　　青淵老台
　　　　　　　　　玉几下
　　尚々今夕出湊之積ニ候間厄介と御承引祈候、已上
御渡し之帋幣は一円二円位両様之由ニ御都合祈候
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（「東京、小野店」用紙）

（渋沢喜作）書翰　　渋沢栄一苑（明治七年カ）一一月一〇日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
拝啓福島店御送金五千円有之候処、兼而御談も有之候間替金為持出候間銀行帋幣と御交換被下度、此段得高慮候　草々不一
　　十一月十日　　　　　　　　　　　　　　　渋沢喜作
　　　　渋沢栄一老閣
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（「東京、小野店」用紙）