デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治35年5月31日（1902年）

是ヨリ先、第一銀行韓国ニ於テ銀行券発行ノ特権ヲ得タルヲ以テ其準備ニ着手シ、銀行券ノ発行及ビ取扱ニ関スル規則ヲ制定シテ、是日大蔵省ニ提出セリ。

韓国ニ於ケル第一銀行　第一銀行編　第一八八―一九三頁　明治四一年八月刊
　○第五章　銀行券ノ発行
　　　　第二節　銀行券発行規則ノ制定及発行状況
本行ハ既ニ銀行券発行ノ特権ヲ得タルヲ以テ、次デ発行ノ準備ニ着手シ、種々審議スル所アリ、先ヅ銀行券ノ種類及製造高ヲ定メ、壱円券参拾万円、五円券五拾万円、拾円券五拾万円ノ製造ニ着手スルコトヽシ、且ツ総テ銀行券ハ当分本店ヨリ未発行トシテ韓国各支店出張所ノ需要ニ応ジテ交付シ、各自ヲ発行店トナシ、其何レニ於テ発行シタルモノタルヲ問ハズ総テ引換ヲナサシムルコトニ決シ、銀行券記帳手続ヲ定メ、且ツ銀行券ノ発行及取扱ニ関スル規則ヲ制定シテ、明治三十五年五月三十一日大蔵省ニ提出セリ
　　　　株式会社第一銀行券規則
第一条　当銀行ハ韓国ノ金融ヲ便ニスル為メ銀行券ヲ発行ス
第二条　銀行券ノ種類ハ拾円・五円・壱円ノ三種トス
第三条　銀行券ハ所有者ノ望ニヨリ、韓国所在ノ各支店出張所ニ於テ営業時間中何時ニテモ、同額ノ日本通貨ト引換フベキモノトス
第四条　銀行券ハ本店ニ於テ保管シ、在韓国各支店出張所ノ需要ニ応ジ、其額ヲ定メ、之ヲ交付スルモノトス
第五条　銀行券ノ引換準備ハ、日本通貨ヲ以テ左ノ割合ニ依リ、其流通高ニ応ジテ之ヲ備ヘ置クコトヲ要ス
　一、流通高五万円迄ハ少クトモ其全額ヲ備フルコト
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　二、流通高五万円以上ハ其三分ノ一以上ヲ備フルコト
　　但五万円ヲ下ルコトヲ得ズ
　前項ニ定メタル準備金ノ割合ヲ減少セントスルトキハ、取締役会ノ認可ヲ受クルコトヲ要ス
第六条　前条ノ準備金ハ他ノ支払資金ト区別スルコトヲ要ス
第七条　銀行券ノ流通高・手許有高及準備金ハ、毎土曜日ノ残高ニ依リ大体ノ情況ヲ附記シテ本店ヘ報告シ、且各支店出張所相互ニ報告ヲ交換スベシ
第八条　銀行券ノ元帳ハ本店ニ備ヘ置キ、其種類・枚数・記号・番号等ヲ記入スベシ
　銀行券ヲ韓国ノ支店又ハ出張所ヘ交付シタルトキハ其種類・枚数・金額・記号・番号等ヲ他ノ店ヘモ通知スベキニ付、自店ニテ受取リタルモノハ勿論他ノ店ニ於テ受取リタルモノト云ヘドモ、其種類・枚数・金額・記号・番号ヲ控ヘ置キ、他日引換ヲナストキノ参照トスベシ
第九条　韓国各支店出張所ニ於ケル銀行券ノ勘定ハ、他ノ通貨ト区別シ、銀行券有高帳ヲ備ヘ置キテ其出入ヲ明ニシ、其手許有高ハ金銀勘定ヨリ除却シ、其流通ハ銀行券勘定ヘ記入スベシ
第十条　汚染又ハ毀損シタル銀行券ハ、左記ノ定メニヨリ無手数料ニテ之ヲ交換スベシ
　一、券面中記号・番号二箇所以上ヲ存シ、券面金員ヲ認メ得ベキモノハ、全額ヲ以テ交換スルコト
　二、細裂シタルモノト雖モ、其裂端ヲ接続シテ明カニ同一銀行券ノ一紙片タルコトヲ認メ、且其記号・番号・金員等ノ明カナルモノハ全額ヲ以テ交換スルコト
　三、券面三分ノ二ニ充タザルモノト雖モ、記号・番号・金員等ヲ明カニ認メ得べキモノハ、半額ヲ以テ交換スルコト
　四、全面ヲ存スト雖トモ、肉色ニ変更ヲ生ジ、又ハ其他ノ理由ニヨリ、真贋ヲ認定シ難キモノハ交換セザルコト
第十一条　前条ニ依リ交換シタル損券ハ、時々取纏メ、記号・番号及引換金額ノ明細書ヲ添ヘ本店ヘ廻送スベシ
第十二条　内地ノ支店又ハ出張所ニ於テ引換ヲ為シタル銀行券ハ、時時取纏メ本店ヘ廻送スベシ
発行ノ準備愈々成レルヲ以テ明治三十五年五月二十日ニ於テ尾高仁川支店支配人ハ当時釜山ニ開催中ナリシ韓国各地商業会議所聯合会ニ於テ始メテ之ヲ発表セリ
○中略
是ヨリ先キ、銀行券ノ製造ヲ印刷局ニ依頼スルヤ、印刷ノ精巧緻密ヲ要スルヲ以テ、各種ノ銀行券ヲ一時ニ完成セシムルコト能ハズ、先ヅ壱円券ノ製造成レルヲ以テ、右商業会議所聯合会ニ於テ発表ノ当日、釜山支店ニ於テ之ヲ発表シ、同二十六日木浦出張所ニ於テ、同二十七日仁川支店ニ於テ、次デ二十八日京城支店ニ於テ其発行ヲ試ミ、到ル処一般ノ好評ヲ博セリ、試ミニ壱円券発行当初ノ状況ヲ示セバ左ノ如シ（明治三十五年五月三十一日現在発行高）
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次デ同年八月ニ於テ五円券ヲ、十二月ニ於テ拾円券ヲ発行セリ

東京経済雑誌　第四五巻第一一三三号・第九七〇頁　明治三五年五月二四日
◎第一銀行の銀行券発行計画　今回同行にては今回朝鮮に於て銀行券を発行する計画にて、目下印刷局に於て一円券二万円許り製造中なるが本月末に至らば発行する筈なり、而して六月には更に五円券を、七月には更に十円券を発行する筈にて、銀行券の種類は右の三種に止め之が引換準備として、最初は日本銀行兌換券を発行と同額に用意し置き、流通の広まり信用の高まるに従て、漸次準備高を減少するの予定なりと、同行が此計画を決意したるは六七箇月前に在りて、本年一月よりは、仁川関税にも銀貨を廃し、代ふるに金貨を以てするに至り、且つ昨今は白銅貨の相場動揺して、韓国に適良の通貨なき折柄なれば進んで行断するに及べる次第なりと云ふ

東京経済雑誌　第四五巻第一一三五号・第一〇六三―一〇六四頁　明治三五年六月七日
　　　　○韓国に於る銀行手形
第一銀行在韓各支店に於ける一覧払約束手形の発行は、去月廿一日より先釜山に於て実行したるが、尾高仁川支店長の韓国各支店用として携帯韓渡せし手形の額は取急ぎしことゝて、漸く一万二三千円に過ぎざるに、釜山に於ける初日の発行高は三千余円に達したる由にて、尚仁川・京城・木浦に於ても漸次発行せらるゝことゝなるべく、右発行に付き同地新聞の記事に、該行に於ては之を対して充分の保障準備金を置き、単格《（厳カ）》なる監督の下に行使する者の由にて、寸毫の懸念を要せず、現下一円兌換券減少し小取引に不自由を感じ居るの際とて一般に歓迎せられ、又非常の信用を負へるものゝ如く、何も現今の貿易情況に於て、又韓国貨幣乱調の応救策たるべしとて、現在に此挙を賛するのみならず、深く将来に嘱望するものゝ如く、我邦人間には一斉に歓迎の姿なれば、随つて韓人間にも之が円満なる流通を見るに至らん云云の記載あり、尚釜山に於て開会せし在韓本邦人商業会議所聯合会は該手形発行に関し左の議決をなせり
　這回第一銀行より発行せる銀行券即ち無記名式一覧払約束手形は韓国に於ける金融上の便益を増し、兼ねて韓国幣制の改善整理に資する尠なからざるべきを信じ、日韓貿易の歓迎すべきものと認む、之を以て在韓日本人商業会議所は玆に該手形の流通に関し相当奨励手段を執るべきを決議す
要するに該手形の発行に関しては、同地にても大に歓迎し居るものゝ如く、而して右議決中に在る奨励手段に関しては、各商業会議所に於
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て各自適当の方法を設くる筈なりと

銀行通信録　第三三巻第二〇〇号・第一〇七―一〇八頁　明治三五年六月
　　　　○第一銀行韓国に一覧払手形を発行す
第一銀行にては韓国に於て一覧払手形を発行することとなり、釜山に於ては五月二十日より、仁川に於ては同月二十七日より、京城に於ては同月二十八日より既に夫々発行せり、手形は一円兌換券より稍々小にして、表面右傍に渋沢男爵の肖像を印刷し、額面は一円にして「券面の金額は在韓国各支店に於て日本通貨と引替可申候也」と記入し、猶裏面にも英文及韓文にて其意を記せり、而して発行以来日浅く従て其額も未だ多からざれども、彼地に於ては頗る之を便とし、将来益々其流通額を増加すべき見込なりといふ

渋沢栄一　日記　明治三五年　（渋沢子爵家所蔵）
一月六日　晴
○上略　午後三時大磯発ノ滊車ニ搭シテ東京ニ抵ル○中略五時半東京着直ニ馬車ニテ浜町常盤屋ニ抵リ、林駐韓公使・山座外務書記官ニ会見ス、第一銀行佐々木勇之助・西脇長太郎二氏同座ス、韓国借款ニ係ル爾来ノ沿革及将来ノ手順ヲ商議ス○下略
　　　○中略。
一月八日　晴
○上略逗子ヨリ壱里余ニシテ葉山ニ達ス、桂総理大臣別荘ニ抵ル、主人家ニ在リ、暫クシテ小村外務大臣・林駐韓公使来会シ、韓国借款ニ関スル将来ノ処置ヲ協議ス、林公使ハ頻ニ第一銀行ハ此際速ニ海関抵当ヲ以テ三百万円ヲ貸付スルノ約ヲ締結セラレン事ヲ勧告ス、桂・小村二氏モ之ヲ賛成ス、依テ予ハ彼ノ李容翊ノ企望ニ係ル借款ニシテ政府又ハ其他ニ於テ資金ヲ調成スルノ目的確実ナルニ於テハ第一銀行モ亦決意スヘキ旨ヲ答フ、種々談論ノ末来ル十一日迄ニ決答スヘキヲ約シテ去ル
此日本店佐々木氏ヨリ仁川尾高ノ来状ヲ送致ス、蓋シ今日ノ談判ニ関係大ナルコトアルヲ以テナリ、午後四時前桂氏別荘ヲ辞シ、逗子停車場ニ抵リ、途中一書ヲ裁シテ佐々木氏ニ送ル、明後十日第一銀行重役会ヲ開クヘキ事ヲ通知スル為ナリ、四時三十分逗子発ノ汽車ニテ林公使ト同乗シ、大船ニテ分袂シ、六時大磯着長生館ニ投宿ス○下略
　　　○中略。
一月十日　晴
○上略十時八分大磯発ノ滊車ニテ東京ニ赴ク○中略二時第一銀行ニ抵リテ重役会ヲ開キ、韓国借款ノ事ヲ議決ス○下略
一月十一日　晴
午前八時朝飧ヲ畢リ、二三ノ来状ヲ閲シ、九時原町阪谷ヲ訪ヒ、韓国借款ノ件、及会計法修正ノ件、銀行法改正案ノ件ヲ談ス、十一時兜町事務所ニ抵ル、郷隆三郎・清水泰吉・足立太郎・戸田宇八ノ諸氏来ル各其要務ヲ談話シ、午餐後外務省ニ於テ林公使・山座書記官ト共ニ韓国借款手続ヲ談シ、去ル八日葉山ニ於テ口約セシ第一銀行ノ決意ヲ確
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答ス、其要旨ハ（金額三百万円マデハ同行ノ担任ヲ以テ之ヲ引受ル事
（一）其貸出ノ手続ハ一昨年ブ氏ヨリ送ラレタル書面ノ如クシ、而シテ海関銀行トシテ取扱フ年限ハ、二十五年ト確定スル事ヲ要求スル事（二）李容翊ノ企望ニ係ル資金ハ、政府又ハ他ノ方法ヲ以テ其資金ヲ供給シ、第一銀行ノ名ヲ以テ貸付スル事（三）万一第一銀行引受ノ金額意外ニ早く貸出ヲ要スル場合アレハ、其際ニハ政府ハ何分ノ補助尽力アルヘキ旨ヲ林公使ニ請ヘ、公使ヨリ予メ承諾ノ旨ヲ回答アルヘキ事（四）等ヲ口約ス○下略
一月十二日　晴
○上略十一時髪ヲ理シ、畢テ東京ヘ書状ヲ発ス
　一韓国政府借款ニ関スル昨日外務省ニ於テ林公使トノ談話ヲ詳細ニ佐々木勇之助ヘ報知ノ一封
○下略
　　　○栄一、十一日大磯ニ抵リ、十五日帰京ス。
　　　○中略。
一月十八日　晴
午前九時朝飧ヲ畢リ曾根大蔵大臣《（曾禰）》ヲ永田町官舎ニ訪フ、不在ニ付更ニ貴族院ニ抵リ、大臣室ニ於テ面会シ、韓国ニ関シ頃日来桂総理・小村外務・林公使ト数回談判セシ顛末ヲ申告ス○下略
○中略。
一月廿一日　曇
○上略十二時兜町ニ抵リテ午飧ス○中略林公使来ル、明後日発途韓国ニ帰任スルニ付留別ノ為メ来訪セラレシナリ、依テ第一銀行ニ関スル事務及京釜鉄道会社関係ノ事及稷山鉱業ノ事等ヲ談話ス○下略
　　　○中略。
一月廿三日　晴
○上略三時第一銀行重役会ヲ開ク、韓国貸付金ノ事ニ関シ外務省山座氏ヨリ来書アリ○下略
　　　○中略。
一月廿八日　晴
午前○中略桂総理ノ官舎ヲ訪ヒ○中略小村外務ニ面会シテ韓国借款ノ事ヲ談ス○下略
　　　○中略。
四月二日　雨
○上略午後一時桂総理大臣ヲ訪ヒ、小村外相・曾根蔵相来会《（曾禰）》シテ、共ニ京釜鉄道ニ関シ外国債募集ノ件及韓国借款ニ関スル件ヲ討議ス○下略
　　　○中略。
四月七日　雨
○上略佐々木氏来ル、韓国借款ニ関スル覚書ノ修正ヲ托ス○下略
四月八日　晴
○上略十一時内閣ニ抵リ、小村外務ニ面会シテ韓国借款ニ関スル覚書ヲ差出ス、林公使ヨリノ来状ニ関シ意見ヲ述ヘ且外務ノ考案ヲ問フ○下略
　　　○中略。
四月十一日　晴
 - 第16巻 p.152 -ページ画像 
○上略　五時日下義雄氏ヲ訪ヒ、今夕韓国啓行ノ送別ヲ為シ、且林公使・竹内綱其他ノ諸氏ニ詳細ナル伝言ヲ為ス○下略
　　　○韓国借款ニ就テハ数回ニ亘リ栄一熱心ニ斡旋シタレドモ成立ヲ見ルニ至ラズ。韓国政府ニ対シ若干ノ貸上金ヲナシタルノミ。