デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治40年6月23日（1907年）

是日栄一、仁川新聞ニ掲載セラレタル第一銀行ニ関スル記事ニ就キテ、同地ノ第一銀行仁川支店支配人野口弥三ニ書翰ヲ送ル。

渋沢栄一書翰　野口弥三宛（明治四〇年）六月二三日　（野口弥三氏所蔵）
○上略
偖同地新聞紙上当行ニ対する記事ハ如何なる原因より右様之悪感情を
 - 第16巻 p.351 -ページ画像 
生し候哉頗る了解ニ苦む事ニ御坐候、先頃富田民長出京ニて同地商業学校建設之義ニ付相談有之候節、小生ハ同氏之企望甚以て過当と被存候ニ付、到底相応し兼可申と詳細ニ其理由を説明いたし、稍了解せられ候様子ニ付、右等ニ関し候事ニも有之間敷、又当春麦酒会社創設之義ニ付加久氏出京候際《（加来）》ニも馬越・植村両氏抔と色々と相談いたし候も終ニ其申出を充分採用と申場合ニ不至候も、是又当行ニ関係無之義と存候、目下新聞紙之唱道する如く、第一銀行ニ於て従来仁川之土地ニ貸出候資金を一時ニ取立候様なる過刻之取扱有之候《（酷）》ハヽ、攻撃するも一応之事ニ候得共、本店とても京城総支店とても右様之指揮有之候義とも相考不申候ニ付、実ニ攻撃之理由無之、全く悪意ニ口実を設候ものと察知候外無之候、或や東京本店之事及老生身上之義抔まて想像を以て無根之事共記載致候ハ、真ニ乱暴至極と申候外無之候、乍併今日之場合強而之ニ関係して、更ニ議論を買候も如何と存候間、願くハ理事庁又ハ民役所等ニ於て充分ニ其原因之推究を請ひ、其次第ニよりて臨機相応し候様致度と存候、右ニ付而ハ市原氏へも一書差出候間、篤と御相談被成、相当之御処置有之度、右一書申上度如此御坐候
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　匆々不一
　　六月廿三日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　渋沢栄一
　　　　野口弥三様
　　　　　　　　　梧下
○下略

渋沢栄一書翰　野口弥三宛（明治四〇年）七月三一日　（野口弥三氏所蔵）
過般老生より之書状ニ対し本月一日附之貴翰其際落手拝見仕候、然者先頃貴地新聞紙不当之理由を以て当行攻撃之件ハ其後種々之御心配ニて落着いたし候趣、此程市原氏より来状ニて詳悉仕候、当行ハ詰り地方経済界救済之意味ニて特別之方法を以て若干之金融貸出可相成由承知いたし候、今更彼是申上候ニハ無之候得共、随分面白からぬ終局ニて、将来之為にも如何と懸念仕候得共、既ニ貴方又京城ニ於ても夫々御引合済之様子ニ付強而異見も不申上候義ニ候、只向後仁川地方ニ於て重立たる人々にハ右新聞之行為不都合なるハ充分了解いたし候様仕度ものニ御坐候、御心配可被下候
過般来京城之政変ニ付而ハ如何終局可致哉と大ニ痛心罷在候処、幸ニ急速之解決を見、殊ニ恰好之協約成立候ハ公私大慶此事ニ御坐候、京城及各地とも右政変之為或ハ暴民之襲撃にても相生候様之義無之哉と当方ニても心配仕候得共、爾後右等之報道も無之安心仕候、何卒各店ともニ精々御注意有之度候
当季本店及各地之営業ハ本邦株式界変動有之候ニも関せす、充分之成蹟を得、且別ニ取引先ニ意外之変化も無之義者重畳之事ニ御坐候、弥明後日株主総会も相済可申、而して配当も積立も充分ニ出来候義ニ付御悦可被下候、下季之営業も金融ハ或ハ逼迫可致、利足も低下ハ無之と存候、併株式界ハ昨今幾分回復之有様ニ付此上意外之出来事等無之候ハヽ大概ニ相届可申と存候、偏ニ米穀之豊作祈念之至ニ御坐候
 - 第16巻 p.352 -ページ画像 
右等拝答旁一書申上度　匆々不宣
　　七月三十一日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　渋沢栄一
　　　　野口弥三様
　　　　　　　　　梧下

渋沢栄一　日記　明治四〇年　（渋沢子爵家所蔵）
八月十日　曇午後電雨《（雷）》　起床七時就蓐十一時三十分
○上略　市原盛宏氏韓国ヨリ帰着ス、面会ノ上種々ノ要務ヲ談話ス
○下略
　　　○市原盛宏ハコノ当時第一銀行取締役ニシテ韓国総支店長タリ。
八月十一日　晴　暑　起床六時三十分就蓐十一時三十分
○上略
午後常盤家ニ於テ市原氏ト会合ノ約アリシモ、電話ヲ以テ断リ遣ス
八月十二日　起床六時就蓐十一時三十分
○上略　午飧後第一銀行ニ抵リ、佐々木・市原二氏ト要務ヲ談ス○下略
八月十三日　曇　暑　起床六時就蓐十一時三十分
○上略　正午第一銀行ニ於テ午飧シ、食後佐々木・市原二氏ヲ《（ト）》行務ヲ談ス
○下略
八月十四日　晴　暑　起床六時
○上略　午後二時第一銀行ニ抵リ、佐々木・市原二氏ト会話ス○下略
　　　○中略。
八月十七日　晴　暑　起床六時就蓐十一時三十分
○上略　兜町事務所ニ抵リ、佐々木・市原二氏ト会話ス
○下略
八月十八日　晴　暑　起床六時就蓐十二時
○上略　午前八時新橋ニ抵リ急行列車ニ搭ス、九時半国府津ニ達ス、電車ニテ十一時湯本ニ抵リ、阪谷氏○大蔵大臣ヲ訪ヒ、韓国銀行事務ニ関シテ種々ノ談話ヲナス○下略
　　　○中略。
八月二十九日　晴　暑　起床七時就蓐十一時三十分
起床直ニ入浴シ、畢テ第一銀行佐々木・市原両名宛ノ一書○中略ヲ発送ス○下略

渋沢栄一書翰　野口弥三宛（明治四〇年）八月二三日　（野口弥三氏所蔵）
本月四日附貴翰拝見仕候、爾来益御清適奉賀候、老生も無事昨今ハ箱根ニ避暑中ニ御坐候、先般仁川新聞社ニ於て不都合之記事致候事も其後京城店及貴方之御心配ニて事済ニ相成安心仕候、詰り仁川地方商業者間ニ種々之企望有之候より相生候様被存、将来之為好ましからぬ次第ニハ候得共、先以一段落と相成候上ハ、向後之処別而御注意被下度候、委細之模様ハ過日市原氏出京詳悉仕候
先般来韓国之出来事ニ付而ハ遠隔之当地ニてハ大ニ痛心致候得共、各地方ともニ別段之災害等も無之由安心仕候、幸ニ統監之英断ニて協約も締結せられ、将来ハ一層我権利之拡張を見可申と存候、右ニ付而も
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当行事務上ニハ又々種々之説も可相生哉ニ付、前以心得居候様致度ものニ御坐候、此事ニ付而ハ頃日来佐々木・市原両氏抔と話合候義ニ候
○中略
　　八月廿三日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　渋沢栄一
　　　　野口弥三様
　　　　　　　　　拝復

渋沢栄一　日記　明治四〇年　（渋沢子爵家所蔵）
九月三日　晴　暑　起床六時三十分就蓐十一時三十分
○上略　十二時第一銀行ニテ午飧シ、食後佐々木・市原二氏ト要務ヲ談ス午後帝国ホテルニ抵リ、伊藤統監ニ面話ス○下略
九月五日　晴　暑　起床七時就蓐十二時
○上略　十二時過第一銀行ニ抵リテ午飧ス、食後目賀田財務顧問○大韓国財務顧問目賀田種太郎来リテ要件ヲ談話ス、其帰後佐々木・市原二氏ト顧問トノ談話ニ関シ協議スル所アリ
○下略
九月六日　晴　暑　起床六時三十分就蓐十二時
○上略　午後三時○中略畢テ第一銀行ニ抵リ、佐々木・市原二氏ト要務ヲ談ス○下略
九月七日　晴風強シ　暑　起床六時就蓐十一時三十分
○上略　第一銀行ニ於テ午飧シ、食後佐々木・市原氏ト要件ヲ協議ス○下略
　　　○中略。
九月十日　晴　暑　起床六時三十分
○上略　兜町事務所ニ抵ル○中略市原盛宏・土岐僙氏等来リテ韓国ニ関スル要務ヲ談ス○下略
九月十一日　曇又雨　冷　起床六時三十分就蓐十二時
○上略　一時第一銀行ニ於テ午飧シ○中略又佐々木・市原氏等ト行務ヲ談ス○下略
　　　○中略。
九月十四日　晴　冷　起床六時三十分就蓐一時
○上略　午後第一銀行ニ抵リ、佐々木・市原二氏ト会話シ○下略