デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治31年9月8日（1898年）

是日、当会社創立発起人、韓国政府ト京釜鉄道合同条約ヲ締結ス。

朝鮮鉄道史　朝鮮総督府鉄道局編　　口絵大正四年一〇月刊
　　　　京釜鉄道合同
第一　韓政府将自漢京起至釜山浦間開設鉄道承続行用之事及所経江川築橋之権准許日本人京釜鉄道会社発起人与其代派人佐佐木清麿乾長次郎辦理事務条款開録于後
第二　該鉄道作線及該江橋建築之方便須従京釜鉄道会社或其代派人之択定機師測量妥占而江橋宜高容使舟隻無碍往来若橋之高不能如此則須作開闔橋毎日幾個時定期又於橋之左右別作歩行之路往来各定其路勿使行人一路相触事
第三　鉄道尺量依開国五百五年
勅令第三十一号国内鉄道規則第二条各地方鉄道務帰均一可以通行無碍該鉄道広狭必照京仁鉄道其所占地段及停車場貨倉工場転轍器側軌等件所需地段自韓政府准施以便開設機路而該会社管轄該鉄道之年限及韓政府買得該鉄道之前該地段許属於該会社而韓国軍物兵丁郵逓及郵逓領率人員之往来並不償車費至韓政府辦買該鉄道之時並将曾所許属
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之地段還納于韓政府鉄道開設之処遇有人塚宜逶迤作路無犯該塚且若於鉄道之腰遇有行路横亘処則必従地形量宜作路以便行人及車馬之平易往来事
第四　停車場一寘於京城一寘於釜山浦余外停車場随宜列寘而該場不准別国人居留事
第五　凡鉄道所需機器及各様物料其自外国運来者海関税与鉄道所管基址一切地税及該鉄道所管各様利益並許免徴事
第六　韓人及外国人皆可招雇作工惟遵監督之意而必優用韓人至於土役雇人十分之九用韓人而役務傍午之時若値韓人雇価漸高設有該会社另将他国人由外国招来而必於該鉄道竣役之後即将該他国人還送該国而該他国人進港出港之時応由海関照名査験勿許一人仍留木料用韓地所産如不合所需参用日本木料事
第七　該会社発起人或其代派人為此事項組合会社股聚本銭訂立約条而於転運鉄道開張之所需及其他所需各料該会社可得主張該鉄道所開基産認於自已所有辦理一切事務亦准鉄道会社例行之権利事
第八　該会社発起人或其代派人確算幾多応費之款鳩聚籌辦而韓政府除其前録所明地段之酌償外更無所給事
第九　倘於其他地方添設支線除韓国政府曁臣民自行敷設外不准別国政府曁臣民敷設事
第十　自此約所定日起限三年内従速組合会社始役開工而此期限内若未起工則非更約外将此約為廃紙該会社縁有不得止之事如戦争之事及其他各様不虞之故有所妨害而遅延開工則更重寛限然而始役後十年内不能竣役則此約条仍行廃止但十年之間遇有交戦及不虞之事故計其事故月日延充限期事
第十一　日後若有鉄道所管難辦之処韓政府与該会社各派一人爛商妥辦若遇有相岐之事二人共請局外一人斟酌裁定而惟以此人之所決為結事又或該局外人不欲自断則該局外人及政府所派与該会社所派員共議更請局外二人合席商妥事
第十二　鉄道竣工後第十五年之終韓政府若有専占該鉄道之意則由上項三条人員公平估価買入而若値不能准買則更以十年延期又於十年終韓政府未能買得更退十年毎以十年為期事
第十三　不拘何時倘値韓国政府財政整頓至可得経記該鉄道之境該政府将該鉄道作為韓日間之共同事業之主眼更与該公司妥経商議可得釐正該合同事
第十四　大韓国公司或臣民不拘何時可得成為該鉄道公司之股主而該股主当得享有与他均一之権利事
第十五　該鉄道公司不拘如何之境自非韓日両国之政府曁臣民則不得将該分股譲与他政府曁臣民事
　以上特許各款保其確実互相署名鈐印昭憑信事
　　大韓光武二年九月　日
　　　外部之印
　　　　　　　　　　　外部交渉局長　　　李応翼印
　　　　　　　　　　　農商工部通信局長　姜寅圭印
　　大日本明治三十一年九月八日
　　　　　　　京釜鉄道会社発起人代派人・佐佐木清麿(印)
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　　　　　　　京釜鉄道会社発起人代派人　乾長次郎(印)

朝鮮鉄道史　朝鮮総督府鉄道局編　　第六九―七五頁大正四年一〇月刊
　○第二章　京釜鉄道
　　　　第一節　京釜鉄道特許契約
○上略
　　　　京釜鉄道契約（訳文）
第一条　韓国政府ハ京城釜山間ニ鉄道ヲ敷設使用ノ件及ヒ経過スル所ノ江川ニ築橋スルノ権ヲ以テ日本人ノ京釜鉄道会社発起人ニ許可シ其代理人ナル佐々木清麿・乾長次郎ト弁理事務条款ヲ定ムルコト左ノ如シ
第二条　鉄道線路ノ敷設及ヒ江橋建築ノ方法ハ京釜鉄道会社若クハ其ノ代理人ノ撰定スル技師ノ測量ニ依リ取極ムヘシ、而シテ江橋ハ高架橋ニシテ船舶ノ往来ニ差支ナカラシムヘキモノヲ要ス、否ラサルトキハ明ケ閉チノ出来得ル橋ヲ作リ毎日幾時間ノ時期ヲ定メ開閉スヘシ、又其ノ橋ノ左右ニハ人道ヲ作リ往来ヲ別ニシテ行人ノ衝突ヲ避ケシムル様致スヘキコト
第三条　鉄道ノ尺量ハ開国五百五年勅令第三十一号国有鉄道規則第二条ニ、各地方ノ鉄道ハ務メテ均一ニ帰シ以テ通行ニ碍ナカラシムヘシトアルニ依リ、該鉄道ノ幅ハ京仁鉄道ノ軌路ニ準スヘシ、其ノ線路ノ地段及停車場・倉庫・工作場・転轍器側器等ニ充ツヘキノ地段ハ韓国政府ヨリ供給シテ以テ該鉄道ノ敷設ニ便ナラシム
　該会社カ該鉄道ヲ管理スルノ年限内及韓国政府カ該鉄道ヲ買収スルマテハ右ノ地段ヲ該会社ニ専属スルヲ許ス、韓国ノ軍用品・兵丁・郵便物及郵便逓送人ノ往来ハ無賃タルヘシ、韓国政府カ該鉄道ヲ買収スルトキハ右専属ノ地段ハ韓国政府ニ返納スヘシ、線路ニ当リ若シ墳墓アルトキハ迂回シテ其墳墓ヲ犯スナカルヘシ、且ツ道路ヲ横断スル場合ニハ必ス地形ニ従ヒ宜ヲ量リテ其ノ道路ヲ通シ、行人及ヒ車馬ノ容易ニ往来シ得ル様致スヘキコト
第四条　停車場ハ一ヲ京城ニ置キ、一ヲ釜山ニ置ク、其他ノ停車場ハ便宜ニ従ヒ列置スヘシ、而シテ其ノ場所ニハ別国人ノ居留ヲ許ササルコト
第五条　凡ソ鉄道ニ要スル所ノ器械及ヒ各種ノ物件ニシテ外国ヨリ輸入シ来ルモノノ海関税ト鉄道所管ノ地段ニ係ル一切ノ地税トヲ免シ又該鉄道所管ノ種種ノ利益ニハ徴税セサルコト
第六条　韓人及ヒ外国人ノ別ナク雇用スルコトハ監督ノ意見ニ遵フト雖モ然モ必ス韓人ノ多数ヲ用ウヘシ、土役ノ雇人ニ至テハ十分ノ九ノ割合ヲ以テ韓人ヲ使用スヘシ、工事繁忙ノ時ニ方リ韓人ノ雇料漸ク昂貴スル為メニ別ニ他国人ヲ外国ヨリ雇入レタルトキハ、該鉄道ノ落成ノ後其ノ他国人ヲ本国ニ還送スルコトトシ、其入港・出港ノトキニ於テ海関ヨリ銘々検査シ、一人タリトモ留メ置クコトヲ許サス、木材ハ韓地産ノモノヲ用ウ、若シ韓産木材需用ニ適セサルトキハ日本産ノモノヲ混用スルコト
第七条　該会社若クハ代理人ニ於テ本事業ヲ執行スル為メニ会社ヲ設
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立シ資本ヲ蒐集スルコトヲ得、該会社ハ該鉄道ノ敷設・運転等ノ為メニ必要ナル契約ヲ結ヒ、所需一切ノ物件ハ該会社ノ所有財産トシテ自由ニ処分スルコトヲ得、而シテ諸般ノ事務ヲ処理スルニ当リ一般鉄道会社ノ享有スル一切ノ権利ヲ享有スルコトヲ得ルコト
第八条　該会社発起人或ハ其ノ代理人ハ入用ノ資本ヲ精算シ之ヲ蒐集スヘシ、韓国政府ハ前ニ記載スル所ノ地段ノ供給ヲ除クノ外更ニ給スル所ナキコト
第九条　倘シ其ノ他ノ地方ニ於テ支線ヲ添設セントスル場合ニハ、韓国政府曁ヒ其臣民カ自ラ敷設スルニアラサルヨリハ別国政府曁ヒ其臣民ニ敷設スルコトヲ許ササルコト
第十条　本契約調印ノ日ヨリ起リ三箇年内ニ速ニ会社ヲ組織シ工事ヲ起工スヘシ、此ノ期限内若シ起工セサルトキハ更ニ契約スルニ非サルヨリハ本契約ヲ以テ廃紙トナス、該会社戦争若クハ其他種種ナル不慮ノ事故ニ妨害セラルル如キ已ムヲ得サル事情ニ依リ起工ヲ遅延スルトキハ更ニ延期ヲ与フ、而シテ其ノ起工ノ時ヨリ十箇年内ニ落成セサルトキハ本契約ノ廃止ヲ行フ、但シ十箇年内ニ於テ戦争曁ヒ不慮ノ事故アルニ遇ハハ、其ノ事故ノ月日ヲ按シ期限ヲ延ハスヲ得ルコト
第十一条　若シ鉄道ニ関シ措弁シ難キ場合ヲ生シタルトキハ、韓国政府ト該会社ト各一人ヲ派出シテ協議処分セシムルコト、若シ協議整ハサルトキハ、該二人ハ局外者一人ヲ招キ斟酌裁定セシメ此裁定ヲ以テ終結トナスコト、局外人ニシテ自ラ裁断スルヲ欲セサルトキハ其ノ局外人ト該二人ト別ニ局外人二名ヲ招キ、立合ノ上協議処分スルコト
第十二条　鉄道落成後第十五年ノ終リニ於テ韓国政府若シ該鉄道ヲ専有スルノ意アラハ即チ上条第三項ノ人員ニ公平ノ評価ヲ致サセ、買収スルヲ得、若シ買収スル能ハサルトキハ十年ヲ延期ス、其ノ十年ノ終リニ於テ尚買収スル能ハサルトキハ又十年ヲ延期ス、延期ハ毎ニ十年ヲ以テ期ト為スコト
第十三条　何時タリトモ韓国政府ノ財政整頓シ該鉄道ヲ経営シ得ルノ場合ニ至ラハ、該政府ハ該鉄道ヲ以テ日韓間ノ共同事業トナスノ旨意ヲ以テ、更ニ該会社ト協議ノ上本契約ヲ改正スルコトヲ得ルコト
第十四条　韓国ノ会社若クハ臣氏ハ何時タリトモ該鉄道ノ株主タルコトヲ得、而シテ該株主ハ他ト同一ノ権利ヲ享有スルヲ得ルコト
第十五条　該鉄道会社ハ如何ナル場合ト雖日韓両国ノ政府曁ヒ臣民ニ非サル外ハ、該株券ヲ他人ニ譲与スルヲ許ササルコト
以上特許ノ各条各其ノ確実ナルヲ保証シ互ニ記名調印シテ以テ憑信ヲ昭ニスルコト
　　大韓光武二年九月八日
　　　　　　　　　　　外部交渉局長　李応翼
　　　　　　　　　　　農商工部通信局長　姜寅圭
　　大日本明治三十一年九月八日
　　　　　　　　　　　京釜鉄道発起人代理人　佐々木清麿
　　　　　　　　　　　京釜鉄道発起人代理人　乾長次郎

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朝鮮鉄道史　朝鮮総督府鉄道局編　　第一巻・第四九―五六頁昭和四年一〇月刊
　○第一編　第一章　京城釜山間の鉄道
　　　　第六節　加藤増雄公使と韓廷
　　　　　二、局面漸く転回す
　斯かる間に親露・米派の政客は漸く日本に接近して窮境を打開せむとするの状勢あるを看取したる加藤公使は、機を逸せず腐心劃策するに努め、公使館書記官国分象太郎・警務庁顧問官補佐官阿比留銈作、韓国有志金益昇等も亦終始閔泳綺・閔泳煥・沈相薫及び兪箕煥等の門閥大官と気脈を通じ内外相応じて日韓親善促進のため奔走し、爾来状勢漸く転回し来りて、加藤公使は屡々韓帝に謁見するの機会を得るに至り、韓国大官等の裏面に於ける活動と相俟つて着々効を奏し、韓帝は四囲の状勢を明察せられ、露国公使館に在ること一年有余にして明治三十年光武元年二月二十日慶運宮現今の徳寿宮に帰還せられた。
　加藤公使はやがて特命全権公使に陞任したるが、其の間特殊要務に就ても斡旋する処あり、韓帝の信頼日に加はり、日韓両国の関係追々順調に進展し、時機漸く到来せることを認めたるを以て、公使は京釜鉄道敷設の件に関し、徐ろに交渉を開始した。即ち公使は韓国政府に対し
　一、京釜鉄道敷設の件は我が既得権なること
　一、条約細目の協定に至りては帝国は韓国の状態に深く察する処ありて三箇年に渉りて寛弘大度の忍耐をなしたること
　一、已に他の外国にも夫々コンセツシヨンを許したる上は我れに対してのみ斯く遷延するは帝国政府が決して容認する能はざる処である
　一、尚ほ此の上遅疑するに於ては断然工事に着手することを宣言すべし
と厳重なる談判を試みつつ、一方皇族李載純を初め閔泳綺その他をして韓帝に交々内奏せしめ本案の決定を促すに努めたるが、米国派が曩に京釜鉄道敷設に関し米国人に言質を与へたる行懸り上、彼れに憚りて断然日本の特許請求を容認することを躊躇するの態あり、是れが為めに加藤公使も少なからず苦慮したるが、時偶々日本各新聞紙上一斉に加藤公使の交迭説報道せられたるため、韓帝は日頃信寵せる公使の離任を惜まれ、日本政府に加藤公使の引続き京城駐剳を希望する旨の親電を発せらるると同時に、韓国政府当路者に対して、特に京釜鉄道問題に付妥協すべき事を命ぜらるるに至つた。
　　　　　三、伊藤博文侯の韓国訪問
　然るに当時暫く閑地に在りたる侯爵伊藤博文は明治三十一年八月清国漫遊の途次京城を訪問すべき公報に接したるにより、加藤公使は直ちに此の由を韓廷に内報すると同時に一面韓国大官等の注意を促し、韓国の独立を確保せる侯の功績に対し誠意を披瀝すべきことを勧告したるに、韓帝及び政府当路者も之れに動かされ侯を韓国の皇族に準じ待遇する事に内決したるが、公使は此の際韓国の君臣は上下一致精神的に日韓親和の情を事実の上に表明するの最も必要なる由を進言し、
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暗に侯の入京前本案を解決せしむべく周到なる手段を尽したるも、韓廷は尚ほも逡巡して決せず徒らに時日を経過するのみなりしが、韓国政府当路者も最早や此の上の遷延を許さざるを自覚し、侯入京の前日（八月二十四日）出迎へとして仁川に赴きたる加藤公使に対して遽に使を特派し、公文を以て京釜鉄道特許の内意を伝へ、近日中協定の手続を為すべき旨を通告した。斯くて伊藤侯の滞京中は日韓官民との間に極めて良好なる交驩を遂げ、我が天皇陛下明治天皇より韓廷に対して懇篤なる御親電を寄せられ、韓帝も弥々本案の決定を促さるることとなつた。
　　　　　第七節　京釜鉄道合同条約
　玆に於て韓国政府は慎重考慮の結果、鉄道敷設に要する土地を韓国より提供し資本及び技術等は日本側に於て負担し、日韓官民合同協力して此の大業を達成せむとの趣旨の下に、明治三十一年光武二年九月八日を以て京釜鉄道合同条約《＊（2）》に調印し、多年の懸案たりし本件は幾多の難関曲折を経て玆に一段落を告ぐるに至つた。当時韓国外部大臣は朴斉純であつたが、韓帝の御前会議に当り遽に病と称して参会を回避したので遽に臨時外部大臣署理を命じ、又一方竹内・大江等京釜鉄道関係者は折柄帰朝不在中なりしため、第一銀行京城支店支配人佐々木清磨及び第五十八銀行支店支配人乾長次郎が発起人代理の名義を以て調印を了したのであつた。○京釜鉄道合同条約（訳文）略ス
　註（2）「京釜鉄道合同条約」の語は原文には「京釜鉄道合同」とあり「京釜鉄道契約」又は「京釜鉄道合同契約」等訳せられたのであるが当時官民とも実際には「合同条約」の文字が多く慣用され、日韓共同合弁の事業たるの意味をも表現されて居つたやうである。

渋沢栄一書翰　　佐々木清麿宛（明治三一年）九月二三日　　（佐々木清麿氏所蔵）
本月十日附御状昨日落手拝見仕候、然は過便ニも御申越被下候京釜鉄道布設之事日本人へ許可相成候ニ付、加藤公使之指図ニより、貴兄と乾法学士とニ於て代派人之位地ニ相立約款ニ御調印被成候由、其約定書之写も御廻ニて承知仕候
右鉄道之事ハ過日も申上候如く今日之経済界ニてハ所詮起業ハ無覚束次第ニて、小生抔ニハ所謂難有迷惑之感有之、縦令其儘ニ抛擲して年限経過せハ会社ニ何之責任もなく特許之権を失ふ迄とするも、折角許可せられし事柄ニして成功せさるハ面目を失し候訳ニ付、他日ニ於て一之心配を生し可申義とハ存候得共、大勢之仕事ニ付先以其成行ニ任せ候外無之候、就而ハ其鉄道ニ関してハ貴兄約款ニ御記名被成且第一銀行員ニ列し候とも又渋沢と縁故有之候とも余り其設立ニ言責抔不相生様御注意被成、発起人ハ大勢之人数ニて創立せし会社ニ付渋沢一人ニて如何とも難致旨ハ或ル場合ニハ御申訳被成下度候、斯く申上候とて強而此特許を無視いたし候義ニハ無之、万一成功せさる場合ニ於て当行之信用ニ関係不相生様御注意専一ニ候、能々御心掛可被下候
朝鮮公使館之貸金ハ御申越之如く此程相済申候、尤も李公使より更ニ又金五千円貸金相望候由被申聞候得共いまた取極不申候、老生も両三日来風邪ニニ《（テカ）》今日ハ平臥中不取敢拝答如此御坐候　匆々不一
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　　九月廿三日　　　　　　　　　　　　　　　渋沢栄一
　　　　佐々木清麿様

東京経済雑誌　　第三八巻第九四六号・第七一一―七一二頁明治三一年九月二四日
　　　　○京釜鉄道敷設細目
京釜鉄道敷設細目は愈々我公使と韓廷との間に調印済となれるが、右は嘗て尼崎・大三輪両氏渡韓の節の原公使の提案に三ケ条を追加せるものなりと云ふ、即ち左の如し
　第一条　京城より釜山市に到るの間鉄道の敷設及橋梁架設の権利を京釜鉄道会社発起人某に許与す
　第二条　橋梁架設の方法は京釜鉄道会社の選定せし技師の測量に任かす可し、但し橋梁は舟筏の通行に妨なき様架設すべし
　第三条　鉄道敷設に要する敷地は朝鮮政府より無代にて貸与すべし但朝鮮の軍物・兵丁・郵逓及郵逓領事人員は無代にて運輸通行を許す可し、鉄道線路に当り人塚の存する時は迂回之れを避けて敷設す可し、又鉄道にして人道を横ぎる時は別に通路を設く可し
　第四条　停車場は京城及釜山浦各一箇所を設置し、他は適宜設置するを得
　第五条　鉄道敷設に要する材料其他運転使用の器械にして外国より輸入する物には海関税を賦課せざる可し
　第六条　敷設工事には朝鮮人・外国人共に使役するを得、但し工夫の十分の九は必ず朝鮮人を傭役す可し、又外国より傭来れる工夫は竣工と同時に本国に送還すべし
　第七条　運転に要する必需品は随意に求むるを得可し
　第八条　朝鮮政府は土地の貸与をなすの外補助を与へず
　第九条　将来必要ある時は朝鮮政府と妥協の上木浦其他の地方に支線を敷設するを得、但し支線敷設の時は総て本条約に准拠す可し
　第十条　起工期限は三箇年とす、若し同期限内に起工せざる時は本条約は無効たる可し、但戦争及不慮事故の為め起工する能はざる時は此限に非らず、竣工期限は十年とす、是亦戦争其他不慮の事故の為め竣工する能はざる時は更に十年の延期をなす
　第十一条　若し紛擾の起りし時は朝鮮政府及該会社より各一名宛の委員を出し裁断せしむ、尚決せざれば局外者一名を加て判定し、尚ほ決せざるに於ては更に局外者二名を合し裁断せしむ
　第十二条　竣工後十五年を経過したる後朝鮮政府に於て該鉄道を買上げんとする時は、前条の例に依り評価せしむ、若し双方の議合せざるに於ては更に営業期限に十箇年を追加す可し
　第十三条　営業期限内は三南地方に於て他人に鉄道敷設を許与せざる可し
　第十四条　朝鮮政府は財政の整理をなしたる時は該鉄道を買上ぐる事を得、但し該鉄道は日本政府及人民、朝鮮政府及人民の外は他人に譲渡する事を得ず
　第十五条　朝鮮政府及人民は該鉄道の株券を所有するを得
　　　　○京釜鉄道合同条款
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京釜鉄道の談判も愈々結了し、其の細目に関する日韓両国政府の約款は前項の如くなるが、今亦該鉄道発起人と韓国政府との間に調印済となれる合同条款を挙ぐれば左の如し、但し本条約の署名は発起人代派人として第一銀行京城支店支配人佐々木清麿、同五十八銀行支店支配人乾長二郎《（乾長次郎）》の両氏、韓廷よりは外務交渉局長及農商工部通信局長の両人也、又原文は漢文なるも通読の便を計りて訳記す○京釜鉄道合同条款略ス

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冊子版の『渋沢栄一伝記資料』をご参照ください。