デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治35年9月4日（1902年）

是日栄一、英京ロンドンニ於テサミユアル商会代表者ミチアル氏ト会見シ、当会社社債募集ニツキ協議ス。ソノ発行価格ニツキ折合ハズ、後日ヲ約シテ別ル。

渋沢栄一　日記　明治三五年　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
九月四日　晴
午前二三ノ来人アリ、十一時サミユール商会ニ抵リミツチヨル氏ニ面会シテ京釜鉄道会社々債ノ件ヲ談判ス、余ハ先ツ曾テ同商会ヨリ提出スル発行価格ノ割合低下ニ過クルヲ説キ、軍事公債証書ノ倫敦市価トノ権衡ヲ論ス、ミツチヨルハ一手引受ニ付テハ、少クトモ百分ノ七五位ハ引受人即オンドルライトルニ付与スル差額其他ノ手数料ヲ要スル旨ヲ主張ス、依テ余ハ縦令其言ノ如クスルモミツチヨルヨリ申出タル価格ハ低下ニ過クルヲ詰問シ、ミツチヨルハ時機ニヨリテハ更ニ増加ノ見込アル旨ヲ答フ、依テ此件ハ暫ク此儘ニ止メ置キ余カ帰京ノ後、政府ト会社トノ協議ヲ遂ケ弥実施ノ機ニ至ラハ速ニ談判スヘキニ付、サミユー《（ル脱）》支店デヒス氏ニ通知セラレ全権ヲ与ヘラレン事ヲ談シ、且其手続ニ関シテ種々ノ談話ヲ為シテ告別ス○下略
　　○中略。
九月六日　晴
○上略　午後四時過市原氏ヲ伴ヒ林公使ヲ郊外ノ寓居ニ訪ヒ、着英来ノ要務ニ付テ其成行ヲ告ケ、且京釜鉄道会社々債ニ関スル顛末ヲ公使ヨリ外務大臣ニ文通セラレン事ヲ依頼シ、公使之ヲ領諾ス、午後六時過別ヲ告テ辞シ去リ、七時帰着ス、夜当地公債仲買人ノ一人ナルヒル氏ニ面会ス、蓋シヒル氏ハゴルトン氏組合ノ一人ニテ曩ニ我政府ノ募集セシ四分利公債ニ付テモ種々尽力セシ人ナリ、依テ軍事公債ト整理公債トノ価格ニ大ナル相違アル事ニ付テ質問ヲ試ミ、又大蔵省証券ノ発行ニ関シ其意見ヲ問ヒ、更ニ政府保証ノ会社々債ニ関シ其考案ヲ叩キタリシニ種々ノ説明ヲ為シ、他日実際必要ノ事アラハ同氏ハ充分ニ尽力スヘキ事ヲ述フ
　　○栄一帰朝後外債ヲ募ルコト中止セラル。
　　○明治三十五年五月十五日栄一渡欧ノ途ニ上リ九月帰朝ス。

東京経済雑誌　　第四五巻第一一二四号・第五二九―五三〇頁明治三五年三月二二日
　　　　渋沢栄一氏の談話
○上略　お尋ねの通り京釜鉄道会社では今日の場合ドシドシ払込をさせて
 - 第16巻 p.457 -ページ画像 
事業の速成を得ると云ふことは勿論出来る事でもなし、左ればと云つて長い間に弗々払込ませると云ふ方針を取れば工事の延びると云ふ気遣ひがありますから、此際外資に限らず内資でも六朱以内の利率で募り得らるゝならば一千万円なりソレも止むなくんば五百万円なり社債を募集して、五年か五年半に全線悉く竣工するやうにしたいと云ふ希望は持つているに相違ない、併し御承知の通り政府の補給利子は六朱ですから、六朱以上の利率で社債を募集すると会社が損をせにやアならぬ、今日の場合六朱以内の利率で内地にて募り得られやうとは思ひも寄らぬ話ですから勢ひ外資に頼るの外はないと思つているのですけれども、私は決して京釜鉄道の社債募集の用務を帯びて旅行すると云ふ訳ではない、ソレは間違ひ切つた話で左様な場合には進んで居らぬ尤も私がいよいよ行くとなつて京釜鉄道の株主が引受けて呉れと云ふ話があれば、ソレヤ私も重役として重きを置かれている一人ですから其意味も含んで行くかも知れぬけれども、マダ其様な話は一向ないです云々

渋沢栄一書翰　　穂積陳重・同夫人宛（明治三五年）七月一六日　　　（穂積男爵家所蔵）
○上略
着英後種々之人物ニも面会いたし候得共、米国と異り新規訪問之新聞屋ハ極而少く、大概日本ニて之知人ニ御坐候、鉄道会社々債之談判ハ目下引合中ニ御坐候、ベヤリング之社長ニも面会し色々相談相試申候模様ハあしき方ニハ無之候
○中略
　　七月十六日倫敦ニ於て　　　　　　　　　　渋沢栄一
　　　　穂積陳重殿
　　　　同歌子殿

渋沢栄一書翰　　阪谷芳郎宛（明治三五年）七月二八日　　　（阪谷男爵家所蔵）
益御清適拝賀、老生無事倫敦着後之動静ハ篤二へ詳報いたし候間御聞取可被下候、銀行者と会見ニ付一二之管見を佐々木氏へ申遣候、是又御聞合可被下候、偖々玆ニ一書申進候義者例之京釜鉄道会社々債之件過日来林公使と種々内談之末公使ニも鉄道工事之速成ハ此上もなき必須事務と被申居、且其企望を達するニハ英国ニ於て社債募集之心配致候外無之と拙案と同様ニ有之、依而終ニサミユー《（ル脱）》サミユール商会ニ内談之事ニ相決し、ミツチヨルニ申入候処稍同意ニて其後再三之会見ニて終ニ一昨日外務大臣へ電報いたし候都合ニ相進申候、詰リ先方申出ハ利率年五分、発行価格八十七円半、据置十年、跡四拾年ニ割済償還之方法相望候趣而して日本政府ニて元利とも保証之事ハ勿論ニて、且当地之公使館ニて証明いたし位候様と申事ニ候、価格ニ付老生之見込ハ九十円以上相望候ニ付尚引合中ニ御坐候得共、夫まてニハ相進候義如何哉と存候、乍去今日取極不申てハ亦他日如何哉之懸念も有之候ニ付、是非政府之許可を得候様と存し、特ニ総理へも一電差出候義ニ候貴省大臣へハ別ニ不申上候得共、此便ニ書状も小村大臣へ詳細ニ申通候ニ付、御聞合之上何卒成就候様御心添可被下候
 - 第16巻 p.458 -ページ画像 
○中略
将来旅行之都合及帰国之日繰等ニ付而ハ篤二ヘ申遣候御聞合可被下候右京釜鉄道社債之事ニ付内々申上度　匆々不一
　　七月廿八日倫敦ニて　　　　　　　　　　　　渋沢栄一
　　　　阪谷芳郎殿
○下略