デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治30年10月21日（1897年）

是ヨリ先、モールス、京仁鉄道引受組合ニ対シ、曩ニ契約セル組合ヨリノ保証金五万弗ヲ三十万弗ニ増額センコトヲ要求ス。組合之ニ応ゼズ、七月十七日栄一・前島密ハ組合ヲ代表シテソノ決議ヲ外務大臣伯爵大隈重信ニ具陳セシガ、大隈間ニ居テ調停シ、横浜正金銀行ニ諭シテモールスニ百万円ヲ貸与セシムルコトト為シ、事漸ク解決ス。因リテ是日組合ハ政府ニ対シ、本鉄道落成引渡ノ後ハ更ニ政府ヨリ同金額ヲ組合ニ貸下ラレンコトヲ請願ス。二十八日許可セラル。

朝鮮鉄道史　朝鮮総督府鉄道局編　　第四〇―四三頁　大正四年一〇月刊
　○第一期　第一章　京仁鉄道
　　　　第二節　京仁鉄道引受組合
○上略
　然ルニ翌月○明治三〇年七月十三日ニ至リ、モールスハ突如組合ニ対シ、五月八日附契約ニ依ル寄託金ヲ三十万弗ニ改メンコトヲ請ヒ、若シ其ノ容レラレサルニ於テハ、手附金ノ外更ニ相当ノ賠償金ヲ支払ヒ、契約
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ヲ解除センコトヲ申出テタリ、是ヨリ先モールスハ組合ト契約ヲ締結シタル後、之ヲ本国ニ致シ、契約期限ニ至リ引渡ヲ了スルマテニ要スヘキ資金ヲ募集セントシ、百方尽力セシモ、同国ニ在リテハ海外遠隔ノ地ニ於ケル企業ニ対シテ資金ヲ投セントスルモノ極メテ尠ク、加フルニ他日契約不履行ノ場合アルヘキヲ慮リ、前記保証金ノ額ヲ不充分ナリトシ、更ニ二十万弗以上ノ増額ヲ為スニ非スンハ、資金ノ供給ニ応スルモノナカリシカハ、モールスモ止ムヲ得ス組合ニ対シ、此ノ要求ヲ為スニ至リシナリ、然レトモ組合ニ於テハ、一旦締結シタル契約ノ条項ヲ変更スルノ意ナク、断乎トシテ之ヲ拒絶シ、契約全部ヲ破棄セントセシカ、従来ノ行懸上一応外務大臣ノ意見ヲ徴スルヲ穏当ナリトシ、十七日渋沢栄一・前島密ハ組合ヲ代表シテ外務省ヲ訪ヒ、モールスノ要求並ニ組合ノ決議ヲ具陳セリ、蓋シモールス当時ノ地位ヨリ察スルニ、其ノ要求ニシテ拒絶セラレンカ、忽チ敷設費用支弁ノ途ヲ失ヒ、本事業ヲ完成スルノ見込ナク、勢ヒ組合トノ契約ヲ破棄シテ、更ニ露仏又ハ英ノ資本家ト結ヒ、之ニ其ノ事業ヲ売却スルノ計ニ出ツルノ外ナカルヘク、而シテ此等ノ諸国ニ於ケル資本家中ニハ、予テ本事業ニ嘱望セルモノ尠カラス、モールスノ企画ノ成功スヘキハ疑ヲ容レサリシヲ以テ、大隈外務大臣ハ組合ヲシテ決答ヲ猶予セシムルト共ニ、更ニ一面モールスニ説クニ、手附金ノ増額以外ニ工事完成ノ方法ヲ講スヘキヲ以テセリ、彼ハ之ニ対シテ、該鉄道並ニ其ノ附属材料物件等ヲ抵当トシ、米貨五十万弗ノ貸与ヲ得、以テ本事業ヲ完成シ、契約ニ従ヒ組合ニ引渡サンコトヲ申出テタルカ故ニ、政府ハ該金額ヲ横浜正金銀行ヨリ貸与セシムルコトニ決定シ、正金銀行トモールストノ間ニ百万円借款契約ノ成立ヲ見ルニ至レリ、斯クシテモールスハ資金ヲ得ルノ途ヲ得シカハ、九月七日組合ニ対シテ手附金増額ノ要求ヲ撤回セリ
　政府ノ此ノ処置ニヨリ、京仁鉄道ハ幸ニシテ之ヲ我国ノ手ニ留ムルヲ得タルモ、組合ノ将来ハ決シテ安全ナルヲ保スヘカラス、抑組合成立ノ動機タル、当時京釜鉄道計画ノ前途尚測リ知ルヘカラサルモノ在リシニ依リ、先ツ京仁鉄道ニ著手シ、以テ半島ニ於ケル我経済的経営ノ基礎ヲ固メントセシモノナリ、是ヲ以テ、当初ノ予定ハ工事落成シ之ヲ我ニ引継クノ期ニ於テ更ニ株式会社ヲ組織シテ之ヲ引渡スニ在リシモ、若シ其ノ時ニ当リテ経済社会ノ状勢振ハス、且ツ他ニ之ニ助力スルモノナキニ於テハ、当初ノ計画全ク齟齬シ、組合ハ国家的事業ノ為メニ、二百万円ノ無利子放資ノ余儀ナキニ至ル場合ナシト断スルヲ得ス、上述ノ如ク既ニ国家カ特ニ一外人ノ事業ヲ幇助セルヲ見タル組合ハ、自己ノ前途ニ対シテモ何等カノ補助保証ヲ得サルヘカラストシ十月二十一日委員三名ノ連署ヲ以テ外務・大蔵ノ両大臣ニ対シ、正式ノ請願書ヲ提出シ、工事完成ニ際シ株式会社設立ノ運ヒニ至ラサル場合ニ於テハ、無利息無期限ヲ以テ、特ニ資本ノ半額即チ一百万円ヲ貸下ケラレンコト、並ニ後日会社設立ノ運ヒニ至リタル場合ニ於テ、上記金額ニ該当スル株式代金ヲ以テ之ヲ返納センコトヲ請ヘリ、幸ニ政府ハ其ノ願ヲ容レ、二十八日ヲ以テ資金貸付ノ予約ヲ為セリ
○下略

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明治財政史　明治財政史編纂会編　　第二巻・第六〇九―六一五頁　大正一五年九月刊
　○第三編　第五章　第八節　償金ノ保管監理及回収使用並運用
　　　　第七款　京仁鉄道ヘノ貸付
明治二十九年三月中、米国人「ゼームス、アール、モールス」ナルモノ朝鮮政府ヨリ京城・仁川間鉄道布設ノ特許ヲ受ケ、爾来其建設ニ従事シタリシカ、元来同人ハ資金乏シク、該特権ハ早晩相当ノ利益ヲ得テ他ヘ売却スル素志ナリシ由ナルヲ以テ、当時ノ外務大臣大隈伯爵ハ、若シ他邦人ニシテ之ヲ所有スルカ如キコトアラハ、我国ノ不利タルハ勿論、事体容易ナラサルコトヽ認メ、可成之ヲ本邦人ノ手ニ帰セシメント欲シ、京浜間ノ資本家ヲ勧誘シテ京仁鉄道引受組合ヲ創設セシメ該組合ヲシテ明治三十年五月中、該鉄道完成ノ上ハ右特許権ト共ニ悉皆之ヲ本邦人ニ引渡スヘキ契約ヲ締結セシメ、契約保証金トシテ組合ヨリ「モールス」ヘ米金五万弗ヲ払込ミタリ、依テ「モールス」ハ此契約ヲ本国ニ致シ、売却引渡迄ニ要スル資金ヲ募集シタルニ、契約保証金少額ナルヲ以テ、更ニ二十万弗ノ増額ヲナスニアラサレハ、応募シ難キ旨回答ヲ得タリ、玆ニ於テ「モールス」ハ組合ニ向テ保証金ノ増額ヲ申込タルモ、組合ハ此要求ヲ拒絶スルニ決シタリ、然ルニ此契約破談トナルトキハ、必然「モールス」ハ資金ノ供給ヲ該事業ニ属望セル露仏英等ノ資本家ニ訴フルニ至ルヘク、而シテ若シ此特権ニシテ一タヒ右外国資本家ノ手ニ入ルニ於テハ、再ヒ回復ノ望ナキニ至ルヲ以テ、更ニ「モールス」ヲシテ其考案ヲ提出セシメ、其申出ニ依リ横浜正金銀行ヲシテ、鉄道布設資金米金五十万弗ニ相当スル金額ヲ「モールス」ヘ貸与セシメ、且該事業ハ海外ノ企業タルト朝鮮ノ現状ニ徴シ、他日或ハ横浜正金銀行ヲシテ不測ノ損害ヲ蒙ラシムルノ虞全ク之レナキヲ保シ難ク、従テ特別ノ保護ナキニ於テハ同行ハ到底之ニ応シ難キ趣申出テタルヲ以テ、将来貸与金中全ク同行ノ損失ニ帰スルモノアルカ如キ場合ニハ、政府ニ於テ其損失ヲ弁償スヘキ保証ヲ同行ヘ附与スルコトヽシ、明治三十年九月二十八日閣議決定セリ
然ルニ、右ノ決議ニヨリ其実行方ニ著手セシメタルニ、組合ニ於テハ現今金融逼迫ニシテ今後尚永続スルトキハ資金ヲ得ルニ難ク、且引受契約締結当時ニ比シ諸物価騰貴シ、将来ノ維持甚タ困難ナルヘキヲ憂ヒ、契約保証金増加ノ申込ヲ機トシ、既ニ払込タル五万弗ヲ抛棄スルヲ得策ナリトシ、将ニ其談判ヲ開始セントセリ、然ルニ前述ノ如ク一タヒ破談センカ、該事業ハ露仏英ノ資本家ノ手中ニ帰スルコト明晰ニシテ、東洋ニ於ケル列国ノ関係上、我国ニ取リ容易ナラザル事態ノ醸成スヘキニ付、其国際上ノ利害及事業ノ前途多忙ナルコトヲ説明論証シ、頻リニ契約履行ヲ組合ニ勧誘スルモ、事業完成ノ後、既約ノ通リ受授ニ際シ、金融逼迫今日ノ如クナルニ於テハ、会社ヲ組成スルニ当リ、株金ノ募集困難ナルヘク、又其時ニ至リ組合員各自ニ於テ之レヲ醵出スルコト到底ナシ能ハサル等、旁此際破約シテ損失ヲ重ネサルニ如カス、政府ヨリ幾分ノ保証アルニアラサレハ之ニ応スル念ナク、就テハ組合ハ該譲受代米金百万弗ノ内、半額ハ其期ニ至リ組合ニ於テ必ラス醵出シ、残額即チ今回正金銀行ヨリ貸与スヘキ金額ハ、会社成立
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ニ至ル迄引続キ同組合ヘ貸付セラレ、之ニ対スル利子ハ、本事業受授以前ハ「モールス」ニ於テ仕払フヲ以テ、其以後ニ係ル分ハ政府ヨリ補助セラレタキ旨申出テタリ、之レ当時ノ金融市場ノ情勢上止ムヲ得サル願意ナルヲ以テ、果シテ引受期限ニ臨ミ、金融今日ノ如クニシテ会社ヲモ組織スル能ハサルカ、又ハ其営業収支相償ハサルカ如キ実況アラハ、正金銀行貸与金ハ依然同組合ヘ貸付シ、之レニ対スル利子ハ事業損益ノ程度ニ応シ、低減若クハ免除スルコトヽシ、若シ徒ラニ会社組織ヲ遷延スル等ノ事実アルニ於テハ、直チニ此補助ヲ撤回スルコト、並ニ其他必要条件ハ資金貸付約定中ニ記入スルコトニ、明治三十年十月閣議一決セリ
右ハ明治二十七八年戦役ノ結果ニ起因スル京仁鉄道ノコトナルヲ以テ旁以上二回ノ閣議ヲ経テ伯爵松方大蔵大臣ハ左ノ如ク伯爵大隈外務大臣ニ協議セラレタリ
　　　朝鮮国京城・仁川間鉄道布設ニ関シ資金融通上正金銀行及京仁鉄道引受組合ヨリ出願ニ関シ処分方ノ件
　朝鮮国京城・仁川間鉄道布設ノ特許ヲ得タル米国人「ゼームス、アール、モールス」ヨリ、右鉄道建設落成ノ上ニテ、日本人ノ組織セル京仁鉄道引受組合ヘ特許権共売却ノ儀ハ契約済ノ処「モールス」ニ於テ鉄道落成マテニ資金差支ノ趣ニテ、金百万円一時融通ノ儀ヲ申来リ、若シ日本人ニ於テ其融通ニ応セサルトキハ「モールス」ニ於テ鉄道引受組合トノ契約ヲ解キ、自然他国人ニ於テ該鉄道ノ引受ヲ為スニ至ルヤモ計ラレス、然ルトキハ朝鮮ニ対スル政略上国家ノ不利タルコト少カラス、依テ先般来鉄道引受組合及正金銀行ニ資金融通ノ義ヲ勧諭シタルニ、右組合及ヒ正金銀行ニ於テモ資金ノ融通ニ差支アルト、且ハ少カラサル危険ヲ侵ス儀ニ付、別紙（別紙略ス）ノ通リ政府ニ向テ相当ノ助力ヲ与ヘラレ度旨願出タリ、其要旨左ノ如シ
　一正金銀行ノ願意要領ハ正金銀行ハ金百万円ヲ「モールス」ニ貸付スヘキニ付、万一「モールス」ニ於テ元利ノ仕払ヲ怠リタルトキハ政府ニ於テ代テ弁償スルノ保証ヲ与ヘラレ度、且資金トシテ官金百万円ヲ政府ヨリ正金銀行ニ預入相成度ト云フニアリ
　一京仁鉄道引受組合ノ願意要領ハ「モールス」ヨリ鉄道落成ノ上引受ノ際資本ノ募集困難ナル場合ニハ、政府ヨリ資金トシテ金百万円ヲ該組合ニ貸付相成度ト云フニアリ
　右願書ハ今日ニ於テ不得止義ト被存候ニ付、相当ノ条件ヲ付シ願意ヲ採用シ、朝鮮ニ対スル国家ノ利益ヲ保全セントス、而シテ憲法第六十二条ニ依レハ予算外ニ於テ国庫ノ負担トナルヘキ契約ヲ成スニハ議会ノ協賛ヲ要スル義ナルモ、事国家ノ大勢ニ関シ処分最モ急ヲ要スルヲ以テ、政府ハ自ラ責任ヲ取テ予約ヲ為シ、事実国家ノ負担トナルヘキ場合ニ臨ミ議会ニ提出スルノ手続ヲ為サントス、正金銀行及京仁鉄道引受組合ニ対スル指令案ヲ具シ玆ニ及御協議候也
　　　明治三十年十月二十八日
　　　　　　　　　　　　　　　大蔵大臣　伯爵松方正義
　　　　外務大臣　伯爵大隈重信殿
　追テ政府ヨリ正金銀行ヘ預金百万円ハ、京仁鉄道ノ事タル素ト二十
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七八年ノ戦役ノ結果ニ基クヲ以テ旁償金ノ内ヨリ預入ヲ為シ、返納ノ上償金ニ戻入ヲ為サントス、此旨添申ス
（別紙）
　　　　指令案
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　横浜正金銀行
　　明治三十年十月二十五日付出願「ゼームス、アール、モールス」ニ貸付スヘキ資金トシテ百万円預入レノ件認可ス
　　　但万一「モールス」ニ於テ元利金返済ヲ怠リ候為メ自然其行ニ損失ヲ生シ候節ハ、政府ニ於テ弁償ノ保証ニ相立チ候義ト心得ヘシ
　　　　年月日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　外務大臣
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　大蔵大臣
　　　追テ其行ニ於テ「ゼームス、アール、モールス」ト締約スル所ノ貸借契約書ハ案ヲ具シテ更ニ認可ヲ請フヘシ
（別紙）
　　　　指令案
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　京仁鉄道引受組合
　　明治三十年十月二十一日付ヲ以テ京城・仁川間鉄道建設落成ノ上米国人「ゼームス、アール、モールス」ヨリ其組合ニ引渡ヲ為ス場合ニ於テ、資金差支ノ節、政府ヨリ金百万円貸付ニ関シ願出ノ件ハ左ノ通リ心得ヘシ
　　一　政府ヨリ貸付スヘキ金額ハ一百万円ヲ限リトス
　　一　鉄道運輸ノ益金一箇年五万円ニ達セサルトキハ、貸付金利子ハ無利子トシ、一箇年五万円ヲ超過スルトキハ、其超過額ハ利子トシテ政府ニ納ムヘシ、但利子ノ歩合ハ年五分ニ止メ、其以上ハ組合ノ所得トスヘシ
　　一　利子ハ一箇年ヲ二期ニ分チ政府ニ納ムヘシ
　　一　貸付金ニ対シテ鉄道全部ノ財産ヲ抵当トスヘシ、但政府ノ許可ナクシテ他ニ二重ニ抵当トスルヲ得ス
　　一　組合ハ政府ノ許可ナクシテ他ヨリ借入金ヲ為スヲ得ス
　　一　組合ハ速ニ会社ヲ組織シ、ナルヘク速ニ元金ヲ返納スルコトニ尽力スヘシ
　　　　但シ貸付ノ日ヨリ満五箇年以内ニハ必ス返納スヘシ
　　一　今般「ゼームス、アール、モールス」ヨリ鉄道落成マテ資金ノ融通ニ差支ヲ生シ、右資金百万円融通ノ儀ヲ正金銀行ニ申出タルニ付、該銀行ハ国家ノ利益ヲ慮リ、融通ヲ承諾セリ、就テハ正金銀行ノ「ゼームス、アール、モールス」ニ対スル債権ヲ安全ナラシムル為メ、同行ヨリ其組合ニ監督ヲ依頼スルトキハ、充分誠実ニ尽力スヘシ
　　一　組合ニ於テ事業ヲ廃スル場合ニ於テ、政府ニ対スル責任ハ、鉄道全部ノ財産以外ニ及ハサルモノトス
　　　　但組合ニ於テ此命令書ノ条項ニ違背スルトキハ此限リニアラス
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　　　　　年月日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　外務大臣
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　大蔵大臣
右大蔵大臣ヨリ協議セラレタル横浜正金銀行及京仁鉄道引受組合ヘノ指令案ハ、外務大臣ニ於テ同意セラレタルヲ以テ、明治三十年十月二十八日正金銀行ヘ○中略　又京仁鉄道引受組合ヘモ同日○中略其願意ヲ聴許シ前記案ノ如ク命令セラレタリ
○下略

京釜鉄道経営回顧録　竹内綱著　　第一三頁
同年○明治三〇年七月ニ至リ、「モールス」ヨリ鉄道工事ノタメ金百万円ノ前借ヲ請求シ来リ、若シ其請求ニ応ゼザルトキハ譲渡条約ニ「モールス」ガ条約ヲ完全ニ履行シ能ハザル節ハ、組合ヨリノ寄托金弐拾万円ノ倍額四十万円ヲ組合ニ交附シ、条約ヲ解除スベシト、之レニ対シ組合ハ会議ヲ開キ、余ハ尾崎・前島ト共ニ出席ス、組合ノ多数ハ百万円調達ハ困難ナリ、寄托金交附後僅ニ三ケ月以内ニ弐拾万円ノ賠償金ヲ得バ、寧ロ条約ヲ解除スベシト、余等ハ条約ヲ解除スルノ不可ナル理由ヲ切論セシモ容レラレズ、終ニ五日間決議ノ猶予ヲ請ヒ、余等ハ大隈大臣ニ会議ノ実況ヲ報ジ、政府ヨリ組合ニ百万円ノ貸下ゲ金アランコトヲ請願セリ、大臣モ余等ノ議ヲ賛シ、松方総理ト相議シ、政府ヨリ正金銀行ニ命ジ、組合ニ百万円借入金ヲ為シ、「モールス」ニ貸渡シ条約ヲ解除セザルヲ得タリ

渋沢栄一書翰　　八十島親徳宛（明治三〇年）一一月一五日　（八十島親義氏所蔵）
○上略
吉川○三次郎氏朝鮮行ニ付予備金其外相渡候由、且同人ハ十五日夕六時之汽車ニて出立之由、然処仙石氏と電報往復之様子ニてハ、仙石ハ現設計之儘なれハ顧問之関係相断候云々申来候趣、依而ハ此際是非吉川を仙石方ヘ相廻し篤と相談為致候方と存候、夫故只今吉川を大磯ヘ立寄らせ候様伝言之義電報いたし候、且今夕ハ汽車場ヘも人を遣し吉川ニ一寸下車一応面会之上出立為致候積ニ御坐候、又仙石ヘハ吉川ヘ托し老生より詳細ニ書通し、右相断候様之事共無之様為致候積ニ御坐候
○中略
　　十一月十五日　　　　　　　　　　　　　　渋沢栄一
　　　　八十島親徳殿
　　○右書翰ハ大磯ヨリ発セラレタルモノナリ。