デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治31年10月31日（1898年）

是ヨリ先、京仁鉄道敷設工事ニ関シ紛議頻出ス。モールス因リテ現形ノママ引渡サンコトヲ京仁鉄道引受組合ニ提議ス。組合之ニ応ジ、是日栄一、他ノ委員ト共ニ其資金百八十万円ノ即時貸下ヲ外務大臣大隈重信・大蔵大臣松田正久ニ請願シテ内
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諾ヲ得。仍チ十二月十七日モールストノ間ニ出来形取引契約ヲ締結ス。

青淵先生六十年史　竜門社編　　第二巻・第三五一―三五二頁　明治三三年二月刊
　○第五十三章　朝鮮事業
　　　　第四節　京仁鉄道
○上略
三十一年ニ至リ工事ノ設計ニ対シ「モールス」ノ代理者ト我監督技師トノ間ニ其見解ヲ異ニスルノ点頻々トシテ続出シ、彼我ノ間屡々交渉面議ヲ重子タルモ要領ヲ得ス、仲裁ニヨリテ事ヲ決定スルノ外途ナキノ場合ニ臨ミ、終ニ「モールス」ハ一身ノ力殆ント其煩累ニ堪ヘストナシ、現在ノ出来形ヲ以テ、即時売買取引ヲ決行センコトヲ提議シタリ、時ニ三十一年十月ナリ、依テ更ニ足立太郎ヲ総支配人ニ任シ、之ニ命シテ工事ノ実況ヲ視察セシメ、又一面ニハ当局者ニ調査ヲ乞ヒテ外交上ノ故障ナキコトヲ確メ得タルヲ以テ、進ンテ其提議ニ応スルノ方針ヲ取リ、価格ノ点ニ付数回交渉ヲ重ネタル後、十二月ニ至リ終ニ双方ノ協議整フニ至レリ、斯クテ十二月下旬外務省ノ手ヲ経テ韓国政府ノ承認ヲ経、卅二年一月上旬ニ至リ鉄道ニ関スル全財産実地引継ノ手続ヲ了シタリ、而シテ前々年以来青淵先生等ヨリ数十回ノ交渉ニヨリ数代ノ内閣ニ於テ予約ヲナシタル趣旨ニ基キ、政府ハ此ノ月ニ至リ百八拾万円ヲ組合ニ貸付クヘキ予算案ヲ議会ニ提出シ、大議論ノ末其通過ヲ見ルニ至レリ
○下略

朝鮮鉄道史　朝鮮総督府鉄道局編　　第四六―四七頁　大正四年一〇月刊
　○第一期　第一章　京仁鉄道
　　　　第二節　京仁鉄道引受組合
○上略
　一方工事ノ設計ニ関シテハ、其ノ後モールスノ代表者ト組合トノ間ニ於テ見解ヲ異ニスルノ点頻頻トシテ続出シ、屡交渉ヲ重ネタルモ効ナク、仲裁ニ依リテ事ヲ決スルノ外途ナキニ至レリ、然モモールスハ遂ニ請負人トノ関係乃至組合トノ交渉ノ煩ニ堪ヘス、現在ノ成形ニ於テ即時売買取引ヲ決行シ、全ク組合トノ関係ヲ結了センコトヲ申出テタリ、是即チ打切受渡ノ提議ニシテ、実ニ十月一日ノコトナリトス、抑モールスノ工事ハ不完全ノ点多ク、速ニ之ヲ組合ノ手ニ収メテ経営スルノ必要アルハ、組合主唱者ノ当初ヨリ認メタル所ニシテ、殊ニ此ノ年四月ヨリ五月ニ亘リ、渋沢委員渡韓シテ親シク実況ヲ視察シ、組合自営ノ必要ヲ切実ニ感シタル際ナリシヲ以テ、足立太郎ヲ総支配人トシテ更ニ韓国ニ於ケル工事ノ現状ヲ視察セシメ、一面ニハ政府ニ調査ヲ請ヒテ外交上ノ支障ナキヲ確ムルヲ得タルニ依リ、進ンテ其ノ提議ニ応シ、価格ノ点ニ付キ数回ノ交渉ヲ重ネタル後、十二月十七日遂ニ出来形取引ノ契約ヲ確定セリ○下略
　　○右ノ記事ハ前掲「青淵先生六十年史」ニ拠ルモノカ、文章甚ダ似タリ。

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渋沢栄一書翰　阪谷芳郎宛（明治三一年）一〇月一六日　　（阪谷男爵家所蔵）
拝啓然者過夕一寸御内話いたし候朝鮮京仁鉄道之義者此度モールスより打切勘定を以完成前当組合へ引渡度旨申出候ニ付、一昨日総理大臣ニ拝謁し鳩山外務次官同席ニテ、其次第逐一申上候処、大臣も到底モールス之請求を容れ向後之工事ハ当組合ニ引取候方利益なるへく、付而ハ政府より下付すへき資金ハ前後之申出高百八拾万円と相成候ニ付、朝鮮政府より貸与云々之事ハいまた未定問題なれハ此処何とかして組合へ下付之工夫可致と被申聞、即昨日モールスニも会見し、申出候打切計算ニ於て当組合ニて調査之上同意なれハ協議可致と相談致置候、依而来ル廿七日之便船ニて右調査之為組合よりハ足立太郎を派出し、取調之模様ニよりてハ来月中ニ取引と申位ニ可相成歟とも被存候
右ニ付資金御下附之件鳩山次官へ篤と相願候処、尚大蔵省阪谷氏とも打合方法相立申度、就而ハ阪谷氏両三日中ニ外務省へ参り呉候様老生より伝言有之候様被申聞候、但過夕貴兄被申候此際議会開会之間際ニ未協賛之金額下付と申事如何哉との懸念云々ハ鳩山氏へ注意いたし候得共、総理大臣ニ於てハ右等之詳細ニ御論及無之、何とか工夫いたし下付候様取扱候積ニ付、モールスとの談判ハ組合之都合ニ任せ進行可致と被申聞候次第ニ御坐候
右之次第ニ付至急鳩山氏と御協議之上資金御下付之手続前以御取極被下度候、右書中得御意候　匆々不一
　　十月十六日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　渋沢栄一
　　　　阪谷芳郎様

渋沢栄一書翰　八十島親徳宛（明治三一年）一一月五日　　（八十島親義氏所蔵）
○上略
京仁鉄道之義ニ付阪谷へ御聞合之義承知仕候、到底新内閣成立之上ならてハ如何とも致方無之と存候、其中ニハ病気も平愈と存候間帰京奔走之積ニ候、右御返事まて　匆々不一
　　十一月五日　　　　　　　　　　　　　　　　　　栄一
　　　　八十島殿
○下略

明治財政史　明治財政史編纂会編　　第二巻・第六一九―六二五頁　大正一五年九月刊
　○第三編　第五章　第八節　償金ノ保管監理及回収使用並運用
　　　　第七款　京仁鉄道ヘノ貸付
○上略　同年○明治三一年十月三十一日ニ至リ、京仁鉄道引受組合ハ再ヒ左ノ如キ願書ヲ提出セリ
　　　御貸下金御下付ノ義ニ付願
　当組合ヘ資金御貸下ノ義ニ付テハ、昨年十月二十一日附及ヒ本年四月十一日附請願書御採納被下、金百八十万円ヲ鉄道完成ノ上米国人「モールス」氏ヨリ引受ノ際御貸下可被成下御聞済相成居候処、兼テ申上候如ク、当初「モールス」氏ト契約締結ノ際ハ、事情切迫一
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刻ヲ争フノ場合ニシテ、鉄道工事設計明細書ヲ確定スルノ暇無之、不得已設計ハ其大体ヲ定ムルニ留メ、細目ニ至テハ技術上当然ノ理論ニ準拠シテ建設セシムルコトニ取極メ申候ニ付、爾来当組合ヨリ派出セシ監督技師ト「モールス」氏請負人トノ間ニ仕様上時々見解ヲ異ニシ、延テ当組合ト「モールス」氏トノ間ニ紛議続出、殆ト底止スル所ヲ知ラス、進ンテ当組合ノ主旨ヲ貫カンカ、改良ニ要スル増費終ニ際限ナク、到底当組合ノ堪ヘ得ル所ニアラス、退テ彼ノ意見ニ屈従センカ、当組合ノ損害殆ント慮ルヘカラサルノミナラス、工事不完全ノ鉄道ト相成殆ト運輸ノ安全ヲ期シ難ク、当組合ノ進退殆ント惟レ谷マルノ場合ト相成、日夜心痛罷在候処、恰モ好シ本月一日ニ至リ「モールス」氏ヨリ書状ヲ以テ此衝突紛議ハ相互ノ不利益ト信スルニ付、寧ロ此際半落成ノ儘相当代価ヲ以テ受渡ヲ決行致度、而シテ該鉄道ニ関スル特権ノ譲渡ニ関シテハ、些カノ故障無之様、自ラ責任ヲ負フテ之ヲ処理スヘシトノ申出有之候、依テ当組合ニ於テ協議ヲ凝ラシ、全員一致ヲ以テ之ニ応スルヲ可トスルコトニ決議致シ、直ニ大隈外務大臣閣下ニ陳上致候処、御同意ノ旨御内示有之候ニ付、即チ当組合ハ一方ニ於テハ該相当代価ノ程度取調ノ為メ特派員ヲ韓国ニ差遣シ、一方ニ於テハ進ンテ「モールス」氏ト右提議ニ関スル交渉致居候場合ニ御座候、然ルニ右ノ如ク此提議ニ応スルニハ、是非共即時鉄道代金ノ仕払ニ差支無之様準備ヲ要シ候ニ付、曩ニ御聞済相成居候資金百八十万円ヲ此際御下付被成下度候、実ニ当組合目下ノ境遇ハ右資金ヲ得ルノ途無之候ハヽ、到底「モールス」氏ノ提議ニ対シ交渉ヲ進ムルコト能ハス、其結果終ニ従来辛苦経営セシ国家的事業ヲ放棄シ去リ所謂九尋ノ功ヲ一簣ニ欠クノ窮境ニ陥リ可申場合ニ差迫リ候間、事情御酌量被下、特別ノ御詮議ヲ以テ、御貸下ノ日時繰上ノコト御聞届被成下度、此段奉願候也
　　明治三十一年十月三十一日
　　　　　　　　　　　　　　　　京仁鉄道引受組合
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　委員　渋沢栄一
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　委員　益田孝
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　代中上川彦次郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　委員　瓜生震
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　代岩崎久弥
　　　　外務大臣　伯爵　大隈重信殿
　　　　大蔵大臣　　　　松田正久殿
前記願書ニ拠レハ、組合ニ対シ政府ハ既ニ百八十万円貸下ノ許可ヲ与ヘラレタルモノヽ如シ、然ルニ曩ニ記スル如ク百万円ハ明治三十年十月二十八日貸下ノ許可ヲ与ヘラレ既ニ該金額ハ交付セラレタルモノナリト雖モ、八十万円ニツキテハ未タ許可セラレサルモノナルヲ以テ、之ヲ組合ノ一員タル前島密ニ質問セシニ、当時伊藤総理大臣ヨリ口頭ニテ差許スヘシトノ命アリ、続テ次ノ内閣総理大臣大隈伯ヨリモ同様ノ命アリシヲ以テ、斯クノ如ク記シタリト答ヘタリ、然レトモ貸下ノ許可ヲ与ヘラルヽニハ、当該機関ヲ経且適法ノ方式ヲ具備セサルヘカラス、単ニ口頭ニテ差許サルヘキモノナリト話サレタル如キハ、許可
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アリタルモノト謂フ能ハサルヲ以テ、指令セラルヽニ際シテハ訂正セシムヘキモノナリトセラレタリ
右ノ願旨ハ止ムヲ得サル事ナルヲ以テ政府ニ於テモ之ヲ聴許シ、既ニ償金部ヨリ貸付セラレタル百万円ハ一旦返納セシメ、百八十万円ヲ償金ヨリ一般会計ニ繰入シ、更ニ一般会計ヨリ京仁鉄道引受組合ヘ貸与スルコトヽセラレ、明治三十一年十二月十三日、明治三十一年度追加予算トシテ之ヲ閣議ニ提出セラレタリ、而シテ該組合ヘ貸付金ヲ交付スルニツキ、明治三十一年十二月二十三日外務・大蔵・逓信三大臣連署ニテ左案ヲ閣議ニ提出セラレタリ
　　　　京仁鉄道引受組合ヘ貸付金ノ件ニ付左記ノ廉々ニ決定致置度
　一　貸付金ニ対スル命令書ハ別紙ノ通リ定ムルコト
　一　前記命令書ノ条項ニ依リ、組合監督ノ事務ハ逓信省ニ於テ管理スルコト
　一　京仁鉄道監督ニ関スル一切ノ事項ヲ商議セシムル為メ、商議員三名ヲ置キ、逓信省ニ附属セシムルコト
　一　商議員ハ外務省・大蔵省・逓信省高等官ノ内ヨリ各一名ヲ命スルコト
　一　第二項・第三項・第四項ハ適当ノ方式ニヨリ内閣ヨリ逓信省ニ達スルコト
　　　　明治三十一年十二月二十三日
　　　　　　　　　　　　　　外務大臣　子爵　青木周蔵
　　　　　　　　　　　　　　大蔵大臣　伯爵　松方正義
　　　　　　　　　　　　　　逓信大臣　子爵　芳川顕正
　　　　内閣総理大臣　侯爵　山県有朋殿
（別紙）
　　　京仁鉄道引受組合ニ金百八十万円ヲ貸付ニ付命令案
　　本年十月三十一日其組合ノ願書ニ対シ、今般其組合ニ金百八十万円ヲ貸付スヘキニ付テハ、左ノ通リ相心得ヘシ
　　　一　政府ヨリ貸付クヘキ金額ハ一百八十万円トス
　　　二　前項金額百八十万円ノ内、韓国政府ヨリ其組合ニ於テ金八十万円ノ貸付ヲ受クルトキハ、該金額ニ相当スル額ヲ直ニ返納スヘシ、其内渡ヲ受ケタルトキ亦同シ
　　　三　鉄道運輸ノ益金一箇年組合員出資額ノ百分ノ五ノ割合ニ達セサルトキハ、貸付金利子ハ無利息トシ、一箇年百分ノ五ノ割合ヲ超過スルトキハ、其超過額ハ利子トシテ政府ニ納ムヘシ、但利子ノ歩合ハ年五分ニ止メ、其以上ハ組合ノ所有トスヘシ
　　　四　利子ハ一箇年ヲ二期ニ分チ、政府ニ納付スヘシ
　　　五　貸付金ニ対シテハ鉄道全部ノ財産ヲ抵当トスヘシ、但政府ノ許可ナクシテ他ニ二重ニ抵当スルコトヲ得ス
　　　六　組合ハ政府ノ許可ナクシテ他ヨリ借入金ヲ為スコトヲ得ス
　　　七　組合ハ速ニ会社ヲ組織シテ、成ルヘク速ニ元金ヲ返納スルコトニ尽力スヘシ、但貸付ノ日ヨリ満五箇年以内ニハ必ス
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返納スヘシ、若シ五箇年以内ニ会社組織成ラスシテ返納ナシ難キトキハ、其事情ニヨリ更ニ詮議スルコトアルヘシ
　　　八　組合ニ於テ事業ヲ廃スル場合ニ於テハ、政府ニ対スル責任ハ鉄道全部ノ財産以外ニ及ハサルモノトス、但組合ニ於テ此命令ニ違背スルトキハ此限ニ非ス
　　　九　政府ハ其債権ヲ安全ナラシムル為メ、組合ノ施行スル鉄道工事並営業ノ実況ヲ臨検シテ、必要ナル施設ヲ命スルコトアルヘシ
　　　十　政府ハ組合ノ帳簿ヲ検査シ、又ハ必要ト認ムル報告ヲ徴スルコトアルヘシ
　　　十一　組合カ韓国政府ヨリ金八十万円ノ貸付ヲ受クルトキハ、第三項乃至第六項及第八項乃至第十項ニツキテハ、帝国政府ト同様ナル条件ヲ以テ日韓両国政府ヲ連帯権利者トシ、義務ヲ負フヘシ、但韓国政府ニ対シテハ、貸付ヲ受ケタル日ヨリ満五箇年ヲ経過スルトキハ、其貸付金ニツキ一箇年五分ノ利子ヲ仕払フヘシ、若シ五分ノ利子仕払ヒ難キトキハ、事情ニヨリ更ニ詮議スルコトアルヘシ
　　　十二　組合ニ於テ韓国政府ヨリ貸付ヲ受ケタル後、鉄道営業ノ為メ株式会社ヲ設立スルトキハ、韓国政府貸付金八十万円ニ相当スル該会社ノ株券ヲ、韓国政府若クハ其指名者ニ交付シ、爾後同政府トノ関係ハ、純然タル株式会社ト其株主間ノ関係ニ帰著スヘキコトタルヘシ
　　　十三　第十一項・第十二項ハ組合ト韓国政府ノ契約ニ依リ確定スヘシ、右契約ハ締結前予メ政府ノ認可ヲ受クヘシ、其変更ヲ要スルトキ亦同シ
　　　十四　組合ハ本命令ニ対スル請書ト共ニ、組合人名・組合約款鉄道全部ノ財産目録並図面ヲ差出シ、政府ノ認可ヲ受クヘシ、爾後変更ヲ要スルトキ亦同シ
　　　十五　組合カ此命令ニ違背スルトキハ、政府ハ直ニ貸付金ノ返納ヲ命スヘシ
　　本命令ノ旨趣承諾ノ上ハ請書差出スヘシ
　　　　年　月　日
　　　　　　　　　　　　　　外務大臣　子爵　青木周蔵
　　　　　　　　　　　　　　大蔵大臣　伯爵　松方正義
　　　　　　　　　　　　　　逓信大臣　子爵　芳川顕正
右閣議案ハ明治三十二年一月十四日閣議決定シ、且該貸付金ノ予算公布アリタルヲ以テ、前記案ノ如キ命令書ヲ添付シ、左記ノ如ク京仁鉄道引受組合ヘ命令セラレタリ
　　　　　　　　　　　　　　　　京仁鉄道引受組合
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　委員　渋沢栄
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　委員　益田孝
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　委員　瓜生震
　明治三十一年十月三十一日願出ノ趣聞届ケ、其組合ヘ金百八十万円貸付スヘクニ付、別紙命令書ノ通相心得ヘシ
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　　明治三十二年一月二十四日
　　　　　　　　　　　　　　外務大臣　子爵　青木周蔵
　　　　　　　　　　　　　　大蔵大臣　伯爵　松方正義
　　　　　　　　　　　　　　逓信大臣　子爵　芳川顕正
右命令ニ対シ明治三十二年一月二十五日組合ヨリ請書ヲ提出○下略
　　○百八十万円ノ政府貸下金予約ノ中百万円ニツイテハ本款明治三十年十月二十一日ノ条（本巻第五三三頁）参照。八十万円ノ予約請願ニ関シテハ、本款明治三十一年三月八日ノ条（本巻第五三八頁）参照。

官報　　号外　明治三二年一月二三日
　　　　○予算
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル明治三十一年度歳入歳出総予算追加ヲ裁可シ、玆ニ之ヲ公布セシム
　御名御璽
　　明治三十二年一月二十三日
　　　　　　　　　　　　内閣総理大臣　侯爵　山県有朋
　　　　　　　　　　　　大蔵大臣　　　伯爵　松方正義
予算
明治三十一年度歳出追加額ヲ百八拾万円ト定ム、其款項ハ別冊歳出予算ニ拠ルヘシ
　（別冊）
　　歳出臨時部
　　　　大蔵省所管
第十五款　貸付金　金百八拾万円
　第一項　京仁鉄道引請組合貸付金　金百八拾万円
　　○右ノ貸付金百八十万円ノ追加予算ハ明治三十一年歳入歳出総予算追加案第三号トシテ政府ヨリ第十三回帝国議会ニ提出、衆議院ハ予算委員会並ニ本会議ニ於テ秘密会ヲ開キ、審議激論ヲ重ネテ後明治三十二年一月十九日之ヲ可決シ、同年一月二十一日貴族院モ可決セルモノニカカハル。「官報」（号外明治三二年一月二〇日）第十三回帝国議会衆議院議事速記録第十八号、「官報」（号外明治三二年一月二二日）第十三回帝国議会貴族院議事速記録第十四号参照。

公爵桂太郎伝　徳富猪一郎編　　乾巻・第八七三頁　大正六年二月刊
　○第四編　第四章　山県内閣時代
　　　　五　対韓問題と京釜鉄道
○上略　京仁鉄道及ひ京釜鉄道問題の解決したるに至りては、公の斡旋に由ること亦尠なしと為さゝりき。京仁鉄道は、明治三十年松隈内閣の際、責任支出として一百万円を、京仁鉄道組合に貸附け、米国人モールスより敷設権を買収したるものなりしか、後に至りてモールスは、更に八十万円の追加要求をなせり。当時、公は大隈首相に提議して、其の承諾を得しも、内閣瓦解の為に未た決定するに至らさりき。山県内閣の時に至り、之を追加予算として、貴衆両院の可決を経たりしか其の衆議院を通過したるは、公の努力に待つ所のものありし也。
○下略