デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2020.3.6

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

7章 経済団体及ビ民間諸会
1節 商業会議所
1款 東京商法会議所
■綱文

第17巻 p.40-45(DK170007k) ページ画像

明治12年1月20日(1879年)

是日栄一、内国商業事務委員トシテ定式集会ニ於テ本邦金融ノ景況ニ付キ報道ス。


■資料

東京商法会議所要件録 第一号・第三―二一丁 明治一二年二月一四日刊(DK170007k-0001)
第17巻 p.40-45 ページ画像

東京商法会議所要件録  第一号・第三―二一丁 明治一二年二月一四日刊
  第五定式集会 明治十二年一月二十日午後第六時二十分開場
    議員出席スル者  三十四人
    同 欠席スル者  二十五人
    内国貿易事務委員報告
会頭 ○渋沢栄一ハ内国貿易事務委員トシテ全会ニ報告スベキモノアルヲ以テ暫ク十一番議員(福地源一郎)ノ己ニ代ハラン事ヲ乞ヒ、議員席ニ就キ、本邦従来ノ金融ニ関スル慣習ヨリ近年ニ至リ其体面ヲ一変シタルノ原因ヲ述ベ、現ニ政府ヨリ発行スル紙幣ノ総額、鋳造貨幣ノ総額諸公債証書ノ総額其他各銀行ノ云々ヲ報告シ、且昨年金融ノ通塞公債売買ノ景況、利子ノ昂低等ニ至ルマデ凡ソ云々、営業元金高・貯蓄金高・発行紙幣額・鋳造貨幣額・諸公債証書額等ニ至ルマデ凡ソ全国理財上ニ関スル大要ヲ報告セリ ○中略
    参考(渋沢栄一君演説)
爰ニ余ハ内国商業事務委員トシテ本邦金融ノ景況ヲ諸君ニ報道セント欲ス、而シテ此報告ヲ為スニ先チ特ニ一言ヲ呈シテ以テ諸君ガ此報告ノ未ダ以テ完全具備セザルヲ寛恕セラレンヲ乞フ、蓋シ本邦金融ノ景状ヲ詳悉スルハ之レヲ難中ノ難ト為サヾル可カラズ、何トナレバ従前本邦ニ於テ金融ノ途ニ従事セシ者ハ、唯豪商富賈ノミナラズシテ貸借
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ノ如キ勧農ノ如キ商務ノ如キ各藩皆之ニ干預セリ、而シテ是レ皆其秘事要訣トスルヲ以テ、資本ノ多寡及運用ノ如何ニ於テハ未ダ以テ之ヲ世ニ公スル事ナク、又人民中敢テ豪商富賈ナシトセザレトモ、其名声ノ世ニ顕著スルアレバ随テ不虞ノ患害ヲ被ラン事ヲ恐レ、自己ノ資産及ビ融通ノ多寡ヲ説クハ只我妻子ト番頭トニ止リ、他人ニ対シテハ堅ク之レヲ掩秘シ、盈レトモ空キガ如ク、富メトモ貧シキガ如クスルヲ以テ良手段トセリ、沿襲ノ久シキ終ニ固有ノ性質トナリ、維新ノ今日ニ於ケルモ尚ホ其風習ノ人心ニ固結密着スルアルヲ見ル
然リト雖モ明治六七年ノ間国立銀行ノ創立アリシニ際シ、其条例ハ以テ現下ノ資産負債等ヲ詳悉シテ之レガ報告ヲ要スルガ故ニ商賈ノ間始テ自家ノ金融ヲ世間ニ報道スルノ端緒ヲ開キ、爾来諸会社中或ハ此報告ヲ世ニ公ニスルモノアリ、且銀行ノ創立ハ漸ク其数ヲ増シ、今日ニ於テハ既ニ百五十余行ニ届レルヲ以テ、向来此等各行ノ悉ク真成ノ業務ニ就キ金融ノ任ヲ尽スニ於テハ之カ報告ヲ以テ世間融通ノ概略ヲ知ルハ蓋シ甚タ難キニ非ルヲ信スルナリ、是ヲ以テ余ハ先ツ此等各銀行ノ毎月報告ニ依リテ昨明治十一年十一月迄ノ統計ヲ為シ、其資産ト負債トノ項ニ於テ緊要ノ件ヲ略記シテ以テ左ノ一表ヲ製シ、之レヲ諸君ニ報道ス、若シ夫レ漸進其歩ヲ誤ラスンバ他日此方法ニ拠テ以テ本邦金融ノ一斑ヲ観察スルヲ得ルニ至ラン

 年月      項目      東京         大阪        地方        合計
明治十年四月  株     金 一、九八九、五〇〇              九七五、二八六  二、九六四、七八六
同 十年十月  同      二〇、二五一、五七八    二五〇、〇〇〇   九九〇、〇〇〇 二一、四九一、五七八
同十一年四月  同      二〇、六七六、六六〇    六九二、五〇六 二、七二六、五〇〇 二四、〇九五、六六〇
同   十月  同      二二、〇〇四、一〇〇  一、四〇〇、〇〇〇 五、一一〇、六五六 二八、五一四、七五六
同  十一月  同      二二、二九三、四三一  一、五二〇、〇〇〇 六、九一七、六五九 三〇、七三一、〇九〇
同 十年四月  実際営業元金  一、九三七、〇五〇    二七〇、〇〇〇   九五五、七三六  二、九六四、七八六
同   十月  同      二〇、〇〇〇、〇〇〇    五二〇、〇六〇   九七一、五七八 二一、四九一、五七八
同十一年四月  同      二〇、四二六、六六〇    九六二、五〇〇 二、七〇六、五〇〇 二四、〇九五、六六〇
同   十月  同      二一、八八四、一〇〇  一、六〇五、〇〇〇 五、〇二五、六五六 二八、五一四、七五六
同  十一月  同      二二、一三八、四三一  一、八一五、〇〇〇 六、七七七、六五九 三〇、七三一、〇九〇
同 十年四月  流通銀行紙幣  一、五六〇、七〇四              六四八、三七九  二、二〇九、〇八三
同   十月  同      一一、五八〇、二四三    一九五、六九五 一、一七二、四二五 一二、九四八、三六三
同十一年四月  同      一二、七八三、〇三八    二三九、五八九 一、六七三、三二〇 一四、六九五、九四七
同   十月  同      一九、四〇〇、四四九    六二三、五二六 三、〇〇四、九四〇 二三、一七八、九一九
同  十一月  同      一九、九二〇、八〇〇    六八〇、〇〇〇 三、五八〇、〇一一 二四、一八〇、八一一
同 十年四月  御用預金      七〇五、二二八     五一、二一七   二九二、五三〇  一、〇四八、九七五
同   十月  同         五一一、六〇二    一五四、〇七八   七三五、四六九  一、四〇一、一四〇
同十一年四月  同         七〇九、二九二     八七、九五七 一、四五〇、二一四  二、二四九、四六三
同   十月  同       二、〇三一、〇六九    四二四、〇七七 一、九六四、〇二一  四、三八九、一三七
同  十一月  同       一、七四〇、三六一    三九八、五三一 一、八三四、八九一  三、九七三、七八三
同 十年四月  人民預金並手形 一、四八三、〇〇〇    二七〇、三九八   二六〇、七七八  二、〇一四、一九五
同 十年十月  同       二、一二三、九八六    五七五、八八一   四七一、一七八  三、一七一、〇四五
同十一年四月  同       二、八三六、一三四    六七〇、四一三 一、一九九、九四一  四、七〇六、四八八
同   十月  同       四、三四三、二二三  一、一七八、六三二 二、三四九、八三〇  七、八七一、六八五
同  十一月  同       二、六二〇、九八六  一、八〇九、〇二八 二、九八六、四四七  七、四一六、四六一
同 十年四月  貸付金並手形  二、四三五、〇二九    三四一、八〇〇   七四四、九八四  三、五二一、八一〇
同   十月  同       二、八一四、六〇七    二八七、五一六 一、五七二、〇一八  四、六七四、一四一
同十一年四月  同       七、〇〇六、六八二    六五九、三五五 二、〇八三、七二七  五、七四九、七九四
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明治十一年十月 同       五、二七三、八八九  一、二三八、九〇〇 五、一八二、三一五 一一、六九五、一〇四
同  十一月  同       六、七八八、六六九  一、五二八、六八三 五、〇一一、四二六 一一、三二八、七七八
同 十年四月  手元有高      八〇七、〇九七    一七三、二六七   七六二、三〇七  一、七四二、六七一
同   十月  同       一、八九〇、二三〇    三五四、〇六九 一、二四八、〇一八  三、四九二、三一七
同十一年四月  同       二、七一八、三二九    七三七、九四八 二、一六二、九二五  五、六一九、二〇二
同   十月  同       三、八三二、八八九  一、〇七二、五五四 三、二九〇、五六一  八、一九六、〇〇四
同  十一月  同       四、一二九、八七二  一、一二三、三二四 三、二四一、四三五  八、四九四、六三一
同 十年四月  貯蓄金       一〇二、五五二                九、六九三    一一三、五四五
同   十月  同         一二〇、三九二               一五、九八八    一三六、〇八〇
同十一年四月  同         一八九、五一四      一、五〇〇    三〇、四五六    二二一、四七〇
同   十月  同         二八五、七九四      六、四〇〇    七〇、五五九    三六二、七五三
同  十一月  同         二八五、七九四      六、四〇〇    七〇、五五九    三六二、七五三

 因ニ曰ク、此表ハ都テ国立銀行ノ計算ニ係ルモノニシテ、表中掲クル所ノ株金ハ各銀行ノ許可ヲ得タル限額ニ非ズシテ入金済トナリタル高ヲ合計シタルモノナリ、故ニ流通紙幣ノ額ヲ以テ株金ノ高ニ比照スルトキハ其十分ノ八ヨリ超過スル事アリ、表中ノ実際営業元金トハ各銀行ガ其地ニ於テ実際営業ニ使用スル株金ノ高ニテ、例ヘバ第一銀行ハ百五拾万円ノ株金ナレトモ其内廿万円ハ大坂支店ノ元金トナスヲ以テ、其東京ノ実際営業元金ハ百三十万円トシ、二十万円ハ大坂ノ営業元金ニ加フルノ類ニシテ、各銀行ノ支店ノ元金ヲ之ニ准ジテ其株金ヨリ増減シタル高ナリ
 十五銀行ヨリ政府ヘ貸附ケタル巨額ノ金額ハ政府ヘノ貸金タルヲ以テ此表中ノ貸金ノ部ニハ之ヲ加ヘズ、而シテ其株金及流通紙幣ハ之ヲ加ヘタルヲ以テ此両項ノ額ニ比スレバ貸附金ノ実際営業元金ニ対スル割合ノ甚ダ小数ナル所以ナリ
今又玆ニ各銀行貯蓄金ノ株金ニ対スル割合、預リ金並ニ貸附金ノ営業元金ニ対スル割合等ヲ表出シテ以テ諸君ノ一覧ニ供セント欲スルナリ

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 年月      項目                東京   大阪   地方   合計 明治十年四月  貯蓄金ノ株金ニ対スル割合       ,051+  ―     ,010+  ,038- 〃   十月  〃          〃       ,006-  ―     ,016-  ,006+ 〃十一年四月  〃          〃       ,009+  ,002-  ,011+  ,009+ 〃   十月  〃          〃       ,013-  ,005+  ,013+  ,013- 〃  十一月  〃          〃       ,012+  ,004+  ,010+  ,011+ 〃 十年四月  総預リ金ノ実際営業元金ニ対スル割合 1,26-  1,19+   ,58-  1,04- 〃   十月  〃               〃  ,13+  1,40+   ,45-   ,21- 〃十一年四月  〃               〃  ,17+   ,79    ,57+   ,29- 〃   十月  〃               〃  ,29+  1,00-   ,85+   ,43 〃  十一月  〃               〃  ,20-  1,21+   ,71-   ,39+ 〃 十年四月  貸付金ノ実際営業元金ニ対スル割合  1,40+  1,27-   ,78-  1,19- 〃   十月  〃              〃   ,14+   ,55+  1,62-   ,22- 〃十一年四月  〃              〃   ,14+   ,69-   ,77-   ,24- 〃   十月  〃              〃   ,24+   ,44+  1,03+   ,41+ 〃  十一月  〃              〃   ,31-   ,84+   ,74-   ,40+ 



各銀行(三ツ井銀行ノ統計ハ此等ノ表中ニ脱スルヲ以テ後日之ヲ調査編成スベシ)ノ景況ニ至テハ実ニ斯ノ如シト雖トモ、今日ニ在テハ尚ホ僅ニ九牛ノ一毛ニ過ギザルヲ以テ全般ヲ想像スルニ足ラズ、故ニ余ハ更ニ官ニ乞フテ其発行紙幣及金銀銅貨幣鋳造ノ員数、内外諸公債ノ
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額ヲ詳悉シテ并テ之レヲ諸君ニ報道ス、而シテ其金銀銅貨幣中ニハ既ニ輸出スルモノ少ナカラザルヲ以テ、之レヲ総鋳造高ヨリ除却シテ其残額ヲ記シタレバ、縦令此計算外ニ於テ、或ハ紙幣ノ敗滅スルモノアリ、或ハ金銀貨ノ輸出調査ニ洩レタルモノアリテ其額ヲ減少スルモ亦大差ナキヲ信スレバ、現ニ此差引残額ノ貨紙幣ト各銀行紙幣トヲ以テ之レヲ本邦ノ流通貨幣総額ト看做サヾル可カラズ、然リ而シテ前表各銀行ノ統計ニ於テハ手許有高ノ項ヲ設クルヲ以テ官ノ所有金ニ於ルモ均シク之レヲ知ルヲ要スレトモ、未ダ之レヲ探知スルニ由ナキヲ以テ大ニ隔靴掻痒ノ想アルヲ免ガレズ、故ニ余ハ更ニ之レニ拮据シテ他日其概要ヲ報道センコトヲ欲スルナリ
    第一
一金一億千九百八十万四百七十四円     政府紙幣流通高
   内
  金九千二百九十万六千七百九十五円
    是ハ百円札ヨリ一円札迄ノ分
  金二千六百八十九万三千六百七十九円
    是ハ半円札ヨリ十銭札迄ノ分
    第二
一金五千二百三十二万六千四百五十四円   金貨鋳造高 明治三年十一月ヨリ同十一年十一月迄
   内
  金二千五百三十五万七千七百四十九円   明治十一年十一月迄 輸出高
 差引金二千六百九十六万八千七百〇五円   内国流通高
一金四百七十六万七千二百三十八円     壱円銀鋳造高
一金三百〇五万七千二百五十二円      貿易銀鋳造高
 計金七百八十二万四千四百九十円
    内
  金百九十五万九千五百七十円       輸出高
 差引金五百八十六万四千九百二十円     内国流通高
一金千九百〇八万五千三百六十三円四十銭  銀貨鋳造高
   内
  金二百十七万九千六百十二円七十七銭   輸出高
 差引金千六百九十二万五千七百五十円六十三銭 内国流通高
一金四百二十六万千二百六十八円五十八銭  銅貨鋳造高
   内
  金十四万七千円十一銭          輸出高
 差引金四百十一万四千二百六十八円四十七銭 内国流通高
    第三
一金千二百三十九万三千二百二十五円    新公債証書発行高
   内
  金九十四万四千四百円          償還高
 差引金千百四十四万八千八百廿五円     十一年十二月 発行高
一金千〇九十八万千八百円         旧公債証書発行高
   内
  金百三十三万三千五百九十八円      償還高
 - 第17巻 p.44 -ページ画像 
 差引金九百六十四万八千二百〇二円     十一年十二月 発行高
一金二百二十三万八千五百五十円      金札引替公債証書発行高
    内
  金三十一万四千八百五十円        償還高
 差引金百九十二万三千七百円        十一年十二月 行高
一金千六百五十六万五千八百円       秩禄公債発行高
   内
  金三十九万九千八百五十円        償還高
 差引金千六百十六万五千九百五十円     十一年十二月 発行高
一金一億七千百十八万四百五十円       十一年十二月 金禄公債発行高
    第四
一金千二百六十二万四千〇七十二円   外国債十一年九月迄ノ残高
若シ夫レ各銀行ノ統計ヲ詳悉シ、又官金ノ有高ヲ亮知スルヲ得ハ本邦流通貨幣中ニ於テ其幾許ヲ官私ノ手許ニ有シ、其幾許ヲ商業ノ貸附ト為シ、其幾許ヲ為替又ハ割引等ニ供スルノ要略ヲ知ルヲ得ベキガ故ニ其残額中ニ於テ世間ニ報告ヲ為サヾル金融家ノ景況及各人ノ筐底嚢裡ニ埋蔵スル部分ヲ按算セバ始テ一般ノ梗概ヲ探知スト言フベキガ如シ然リ而シテ各地方金融ノ隆替利足ノ高下及公債証書ノ景況ヲ概知スルモ亦以テ緊急ノ要務トナスト雖モ、余ハ今日ニ於テ之レヲ諸君ニ報告スル能ハザルハ未ダ其探究ノ方法整理セザルヲ以テナリ、然レトモ業既ニ其調査探偵ニ着手シタルヲ以テ他日必ス其報道ヲ怠ラザルベシ
故ニ今日余ノ諸君ニ報告スル所ハ前ニ陳述シタル全国流通貨紙幣及諸公債証書ノ額並ニ各銀行ノ統計ニ止リ、且更ニ他日ニ於テ其整理ヲ求ムルノ要項ヲ一言指示スルノミ、請フ諸君之ヲ諒察セヨ
余ハ別ニ昨年間一般金融ノ概要ヲ諸君ニ報道セント欲ス、但此報告ハ実ニ余ガ臆算ニ出テヾ《(デヽ)》敢テ考証ニ足ルモノナケレバ冀クハ諸君ハ只余ガ一家言トシテ之レヲ聴了セラレン事ヲ、抑モ昨十一年ニ在テ本邦全体ノ金融上ヲ概言スレバ上半季ニ余裕アリテ下半季ニ不足セリト言ハザル可カラズ、何トナレバ一昨十年政府ノ紙幣増発ト各銀行ノ創立トニヨリテ本邦ノ通貨ハ昨年ノ初ニ於テ大ニ増多ノ色ヲ現ハセリ、故ニ東京・大坂ノ両都会ハ言ヲ竢タズ各地方ニ於テモ利足ノ割合平時ニ比スレバ大ニ低下シ(両都会ハ年一割ヲ最高トシ各地方ハ一割八分ニ出デズ)現ニ余ガ管理スル第一国立銀行ノ如キモ昨年六月三十一日両地本支店手許有高ハ東京ニテ二百二十万円余、大坂ニテ八十二万円余ノ多キヲ致シ、定期当座両預リ金モ之レニ随テ巨額ニ昂リタリキ、殊ニ大坂ノ如キハ公債ヲ抵当トセバ年六七分ノ利子チ《(ヲ)》以テ金融ヲ為スノ商賈アルニ至レリ、是ヲ以テ五月中起業公債ノ挙アリテヨリ各人争フテ其募集ニ応ジ、其呼額ニ倍スルノ多キニ達セリ、而シテ之レニ応ズル者モ亦多ク東京・大阪ノ人民ニシテ、両地ノ応募額ハ実ニ全体ノ十分ノ五六ニ居レリ、是レ上半季ニ金融ノ余裕アリシヲ徴スルニ足レリ、尋テ昨年九月ニ於テ金禄公債ノ下付アリテ其買売ヲ公許セラレタルニ因リ、各地方ニ就テ之レヲ低下ニ買集シテ両地ニ售売セン事ヲ勉ムル者頻ニ金員ヲ携帯シテ各地方ニ派出セリ、加之大坂ノ如キハ輸入品ノ横浜ヨリ送致スルノ少ナカラザルヲ以テ、現ニ昨年九月頃ヨリ十二月
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ニ至ル迄第一国立銀行横浜支店ヨリ大坂ニ向テ取組ミタル逆為替ノ高ハ百三四十万円ニ届ルト云フ、是レ多クハ九州地方ニ発售セラルベキ物品ニシテ一時大坂商店ノ手ヲ経過シタルモノニ係ル、故ニ両地ノ金額ハ日ニ其少キヲ告ケ、利足ノ割合頓ニ騰進シ、現ニ大坂ノ如キハ昨年末ニ在テハ日歩五銭一割八分又ハ六銭二割一分八厘ノ高点ニ登リタリキ、然レトモ東京ハ之ニ比スレバ、金融稍緩ニシテ敢テ逼迫ト云フニ至ラザリシ、是レ何ゾ、蓋シ各地方ヨリ輸入セシ米穀ノ少額ナルト生糸ノ売却稍其宜ヲ得タルト、之ニ加フルニ金禄売収《(買)》ノ為メ三陸又ハ常野両総辺ニ派出セシモノ、此等各地ノ価格却テ東京ヨリ賤低ナラザルガ故ニ再ビ金員ヲ携帯シテ帰京シタルモノ多キトヲ以テ各地方ヘ散スルノ金額ハ之レヲ大阪ニ比スレバ頗ル少額ナリシニ由ラザルヲ得ザルナリ
又公債証書売買ノ概略ヲ述ベンニ昨年九月ニ在テハ起業ノ募集其額ニ超過スルモノハ之レヲ割戻サレタルヲ以テ各銀行及ビ其他ノ富者ハ之レニ代ルニ他ノ公債ヲ求需セント欲スル者多ク、昨年九十月ノ際ハ頻リニ其価格ヲシテ上進セシメタリ、然リト雖トモ勢前陳金融ノ景況ト相連携セザルヲ得サルヲ以テ、金融逼迫ノ為メ漸ク其進度ノ減殺セラレ、爾来日ニ低下スルニ至レリ、是レ金利上レハ公債下リ、金利下レハ公債上ルノ理由ニ外ナラザルナリ、而シテ其低下ノ由テ起ル所ハ多ク大坂ニ原因シ、東京ニ影響シタル者ト云フベシ、其然ル所以ヲ観察スルニ、九州ノ人民ハ金禄ノ売却ヲ望ム事之レヲ関東若シクハ陸羽ノ人民ニ比スレハ更ニ多クシヲ《(テ)》其売買高モ大ニ径庭アルヲ見ル、即チ熊本・福岡両県ノ如キハ官ノ御買上ヲ除キ人民ノ売買高既ニ各百万円以上ニ及ヒ、其価格ハ今日七十七円ニ出テザルベシ、之レニ反シテ、宮城・秋田・盛岡ノ如キハ僅ニ三四十万円ノ高ニ止リテ価格モ七十九円ニ出タリ、是レ大坂ニ金融ノ促迫スル所以ナリ、然リ而シテ九州ノ人民其公債ヲ売却スル斯ノ如ク其レ急ニシテ、陸羽人民ノ斯ノ如ク其レ緩ナルノ原因ニ至テハ未ダ得テ其理由ヲ詳悉ス可ラズト雖トモ、惟フニ九州ノ人士ハ其計算ノ得失ヲ知ル事之レヲ陸羽ニ比スレハ稍々優レル所アルヲ以テ此ヲ売テ彼レヲ購フノ利ニ趨ルモノアルト、及一昨年兵乱ノ為メ貧苦目前ニ迫リ敢テ価格ニ関セズ先ツ其所有物ヲ典売シテ以テ一時ヲ補フノ貧困者多キトニアリト云フベキノミ