デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

  詳細検索へ

公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2020.3.6

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

7章 経済団体及ビ民間諸会
1節 商業会議所
1款 東京商法会議所
■綱文

第17巻 p.112-126(DK170013k) ページ画像

明治12年3月11日(1879年)

是ヨリ先二月二十七日、栄一東京府下各商組合再興ノ儀ヲ当会議所ニ建案シ、是日可決セラル。三月十八日会議所之ヲ東京府知事楠本正隆ニ建議ス。


■資料

東京商法会議所要件録 第三号・第七―一二丁 明治一二年四月一日刊(DK170013k-0001)
第17巻 p.112-114 ページ画像

東京商法会議所要件録  第三号・第七―一二丁 明治一二年四月一日刊
  第五臨時会 明治十二年二月二十七日午後第五時四十分開場
    議員出席スル者 三十三名
    同 欠席スル者 二十三名
    各商組合設立ノ建議
三十一番議員(渋沢栄一)ハ前議ノ畢リタルトキ更ニ議場ニ建言セント要スルモノアル旨ヲ述ベ、全会ノ許ヲ得タル後之ヲ演説ス、曰ク、余ガ此ニ建議セント欲スルモノハ各商組合ノ設立ヲ要望スル是レナリ依テ先ツ其沿革ノ大要ヲ概陳シ尋テ其設立ノ順序ヲ説明セントス、抑モ各商問屋株ノ制ハ旧幕政ノ時享保七年ニ起リ、寛政度ニ一変シ、天保度ニ廃止セラレ、爾来亦其制ヲ再興シタルニ維新ノ際明治政府之ヲ廃停セリ、而シテ其之ヲ廃止シタル所以ノモノハ元来問屋株ニハ他人ヲ加入スルヲ許サヾル等其制頗ル束縛ニ成ルヲ以テ一ニ其束縛ノ不良ヲ咎メ、之ガ廃止ノ令ヲ決行セラレタルヨリ遂ニ各商組合ノ慣習ヲ全廃スルニ至レリト雖トモ、焉ゾ知ラン此慣習法ハ商估ノ為メ実際上至大ノ稗益アリシヲ、是レ俚俗ノ所謂鹿ヲ殺シテ其角ヲ失フタルト云フガ如キ歟、然ルニ近年各商中其実用便益アルヲ覚知シ、漸ク之ヲ再興セントスルノ景状ヲ兆シ、現ニ砂糖問屋・魚鳥渡世組合ノ如キ其申合規則ヲ製定シテ府庁ノ認許ヲ得タルモノアリ、然レトモ此組合アレバ其間又自ラ弊害ヲ来スナキヲ保ス可ラズト雖トモ、予メ此弊ヲ防グノ道ヲ求メバ焉ゾ其術莫キニ苦マン、現ニ我択善会ノ如キ同業相会盟シ
 - 第17巻 p.113 -ページ画像 
凡ソ公私ニ関スル事項ヲ提出シテ互ニ相議スルモノ此ニ数回、固ヨリ其費用ト時間トヲ費スノ失ナシトセザレトモ、其得ル所ノ裨益ニ至テハ実ニ鮮少ニアラザルヲ覚フ、是レ会盟者ノ今日ニシテ益々多数ヲ加フル所以ナリ、若シ夫レ如此各商相会シテ其商売ノ利弊得失ヲ論セバ独リ実業者而已ナラズ一般ノ商業ニ鴻益ヲ起ス亦軽々ニ非ザルベキヲ信スルナリ、是ヲ以テ小生ハ往日ノ慣習ヲ再興シ、各商仲間組合ヲ起サン事ヲ府庁ヨリ勧諭或ハ命令セラレン事ヲ当会議所ヨリ府庁ニ建白アランヲ企望ス然リ而シテ各組合ノ間ニ制定スル申合規則等ノ如キ、或ハ之ヲ当会ニ付シテ其意見ヲ質サシメ、当所ハ共ニ協議ヲ尽シ、内外相助ケテ之ヲ補翼スルニ至ラバ商民ノ便益尠カラザルベシ、依テ之ヲ議場ニ建言ス
於是会頭ハ三十一番建言ノ趣意ハ之ヲ採用スベキモノ歟、将タ檳斥スベキモノ歟ヲ各員ニ問フ
四十一番 三十一番建言ノ趣意ハ予テ小生ノ冀望スル所ナルヲ以テ之ヲ賛成ス
十五番 三十一番建言ノ趣意ハ、組合設立ヲ望ムニ就キ之ヲ府庁ニ建白シ、其命令或ハ勧奨ニ依頼シテ以テ之ガ設立ノ速成ヲ期スルモノニシテ、四十一番ハ之ヲ賛成セリ、小生モ其組合ノ設立スルハ、敢テ之レヲ望マザルニ非ズト云トモ、今其之レヲ要望スルニ急ニシテ以テ上官府ノ干渉ヲ仮ルノ一事ニ至テハ、小生之ニ同意スル事能ハズ、従来政府ノ命令ニ成リタルモノ或ハ速成ヲ期スベキガ如シト雖トモ、実際ニ於テ商民ノ不便ヲ醸成スルノ弊害ヲ生シタルヤ其例尠シトセズ、且夫レ政府ヲシテ吾人ノ商業上ニ干渉セシムルハ、条理実際共ニ好マザル所ナレバ、今日ニ在テハ勉メテ之レヲ避謝スベキニ、却テ此干渉ヲ挙テ之ヲ政府ニ請求スルガ如キハ、当会議所ノ大ニ取ラザル所、否為ス可カラザル所ナリ、依テ組合再興ノ如キハ、各商其便益ヲ自覚スルノ日ヲ竢チ漸次之ヲ実施スルノ完全ナラン事ヲ冀望ス
三十一番 小生ガ冀望スル所ハ各商組合ノ設立ヲ補賛スルニ在リテ、而シテ官府ノ令ヲ請フハ其ノ着手ノ第一眼目トセリ、然ルニ十五番ハ之レヲ不可トシ、只組合ノ設立ハ之レヲ望ムト云フハ是レ賛成ニ非ラズシテ十分ノ不同意ナリト謂フベシ、抑モ十五番ハ極メテ官府ノ商務ニ干渉スルヲ悪ムト雖ドモ、是レ素ヨリ民俗ノ進否ニ応シテ自カラ適度アルベキニ付、敢テ一概ニ之レヲ論下ス可カラズ、即ハチ自由貿易ノ如キ英国ニ於テハ最上ノ主義ナルモ、他国ニ従テハ或ハ適切ナラザルアリ、今我邦今日ニ在テ一般ノ便益ニ付テ其ノ順序ヲ補導スル、之レヲ官府ニ委スルニ於テ何ノ不可ナル所アランヤ、且ツ夫此組合設立ノ如キ各商自奮シテ之レヲ為スノ期ヲ待ツハ甚ダ美事ナリト雖トモ、此ニ官府ノ勧奨ヲ加ヘバ三年ノ遅キモ一年ニシテ其成績ヲ呈スベシ、況ンヤ其砂糖問屋ノ如キ魚渡世組合ノ如キ共ニ其組合ノ事ヲ企図シ、曾テ之ヲ東京府ヘ出願シテ許可ヲ得タルニ非ラズヤ、然バ則今日ノ官府ハ其行務中ニ於テ既ニ此干渉ヲ有スルモノナリ、之レヲ如何ゾ此組合設立ノ事ヲ令スルニ於テ更ニ其干渉ヲシテ官府ニ委スルノモノトスベケンヤ
 - 第17巻 p.114 -ページ画像 
十五番 三十一番ハ現ニ砂糖問屋・魚問屋等ノ組合ヲ設立スルニ於テ官府干渉ノ実アルヲ以テ、其組合設立ノ令ヲ行フハ之レニ比スレハ格別ノ事ニ非スト云フガ如シト雖トモ、苟モ其弊アルモノト識テ却テ他ノ悪例ニ比準シ、強テ官府ヲシテ干渉主義タルヲ要スルハ甚ダ不都合ナラズヤ、元ト三十一番ガ政府ノ命令ヲ仮ラント要スルハ其速成ヲ期スルニ在リト雖トモ、要スルニ外部ヨリ之ヲ強促スルモノハ瓦解ノ恐アリ、自成自立スル者ハ必ズ永続ノ効アリ、即チ彼ノ為換会社ノ如キ共ニ皆政府ノ勧奨ニ成レリト雖トモ、今日ニ於テ果シテ世ニ其効アルヲ見ス、却テ商民ニ弊害ヲ残シタリト云フモ亦不可ナル事ナシ、故ニ三十一番ガ云フ所ノ択善会ノ如ク自ラ進ンテ之ヲ為スアルヲ待ンノミ
三十一番 十五番ハ小生ガ現ニ砂糖問屋・魚問屋等ノ組合ニ於テ官許ニ成ルノ例ヲ陳スルヲ以テ之ヲ悪例トシテ却テ更ニ之レニ傚ハン事ヲ勉ムルニ似タリト言フト雖トモ、小生ハ素ヨリ之レヲ悪例トセシニ非ラズシテ、今日ニ在テ此願請ト許可アルハ之レヲ当然ノ事ナリトス、何ントナレバ維新ニ際シテ其株及仲間ナルモノヲ廃スルノ令アリシニ付今其組合ヲ設立スルモ亦請フ所ナクンバアラザルナリ、是レ小生ガ更ニ官府ニ請フテ一般ノ令アランコトヲ欲スル所ナリ
七番(成島柳北) 十五番ノ説ク処ハ頗ル正理ニ渡ルヲ以テ、理論上ヨリ之カ考案ヲ下タストキハ大ニ之ヲ賛成スベシト雖モ、今日ノ民情ヲ以テスレバ又強テ之ヲ主張スベカラザルモノアリ、依テ小生ハ三十一番発議ノ如ク之ヲ当会議所ヨリ建白スルヲ可トスベキガ如シト雖モ、其可否ハ今会ニ於テ之ヲ即決シ得ザルモノニシテ、敢テ之ヲ為サントスレバ徹明ニ至ルモ尚ホ能シ難カラン、依テ其可否ハ之ヲ後会ニ譲リ尚ホ熟議セン事ヲ望ム
二十二番(渋沢喜作)此組合ノ如キハ利弊並ニ多クシテ今日ノ組合ヲ結バン事ヲ欲スル者ハ、大概子皆束縛法ヲ求ムルモノヽ如シ、故ニ弊害ヲ防ギ公益ヲ謀ルハ一ニ其設立ノ方法ニ在ルヲ以テ、三十一番ヨリ其方法ヲ詳説スルヲ竢チ、之ガ可否ヲ決スルヲ要ス
於是会頭ハ三十一番ノ東京府ニ建白シテ組合設立ノ命令又ハ勧誘ヲ乞フノ説、及ビ十五番ノ組合設立ハ之ヲ要スト雖トモ之ヲ府庁ニ建言シテ其命令ヲ仮ルヲ好マザルノ説ヲ分チ、先ツ三十一番ノ不同意者ヲ起立セシメントスルニ当リ、議員中七番並ニ二十二番説ニ同シ、可否ハ之ヲ即決シ難シト云フ者アルニ依リ、会頭ハ其説ヲ拒ミ、今会ニ於テハ只三十一番ガ建議ノ趣旨ヲ採用スベキヤ否ヲ決シ、而後其方法如何ニ及ブノ順序ナルヲ以テ、先ヅ其建白案ヲ議場ニ上ボスヲ許スベキヤ否ヲ決スベキ旨ヲ述ベテ、其起立ヲ命シタルニ、其多数ニ因リテ之ヲ議場ニ上ボスベキニ決シ、尚ホ其方法ハ後会ニ於テ三十一番ヨリ之ヲ開陳セラルベキ旨ヲ命シテ放会ス、時ニ午後十二時ナリ
   ○四十一番ハ柴崎守蔵。十五番ハ益田孝ナリ。


東京商法会議所要件録 第四号・第六―一七丁 明治一二年四月一七日刊(DK170013k-0002)
第17巻 p.114-119 ページ画像

東京商法会議所要件録  第四号・第六―一七丁 明治一二年四月一七日刊
  第七定式集会 明治十二年三月十一日午後第六時二十分開場
    議員出席スル者  三十一名
 - 第17巻 p.115 -ページ画像 
    同 欠席スル者  二十六名
    各商同業組合設立ノ議
会頭ハ前会ニ於テ自身ノ建議シタル組合設立ノ議ニ及ブベキヲ告ゲ、十一番議員ノ己ニ代ツテ会頭タラン事ヲ乞ヒ、議員席ニ着ク、時ニ会頭(福地源一郎)ハ衆員ニ向ヒ三十一番議員ノ当会ニ建議セラレタル件ハ前会ニ於テ既ニ之ヲ議場ニ上ボスベキニ決シ、爾後其草按ヲ立テラレタルヲ以テ之ヲ印刷ニ付シ、過刻各議員ニ頒布セリ、依テ先ヅ其原按ノ総体ニ就テ可否ヲ討議シ、然ル后チ文字ノ脩正論ニ及フベシ、而シテ別ニ第一次第二次ヲ区分セザルヲ以テ各員予メ此意ヲ諒シ熟議セラレン事ヲ望ムベキ旨ヲ述ベ、書記ヲシテ原按ヲ朗読セシム
十五番(益田孝)三十一番建議ノ趣意ニ就キ前会ニ於テ略ボ俾見ヲ陳セシガ、今朝其書案ヲ付セラレタルヲ以テ再三之ヲ熟読セリ、而シテ其意我商業仲間ノ便益ヲ期シ、拘束ノ宿弊ヲ防ギ、更ニ申合規則ヲ立テン事ヲ企図セラルヽニ外ナラズ、是レ亦小生ノ冀望スル所ニシテ此一点ニ於テハ決シテ不同意ナシト雖トモ、之ヲ東京府ニ建言シ、其命令ヲ仮リテ以テ之ガ設立ヲ促スノ一事ニ至ツテハ大ニ小生ガ好マザル所ナリ、已ニ前会ニ於テ陳述スル所アルヲ以テ敢テ復タ之レガ再説ヲ須ヒザル而已ナラズ、菲才浅見ヲ以テ此書案ニ対シ喙ヲ容ルヽ甚ダ忌憚スル所アリト雖トモ、当会議所発起ノ棟梁タル其人ニ向テ隠ス所アルハ却テ其望ニ副ハザラン事ヲ恐ル、故ニ聊カ忌諱ヲ憚ラズ玆ニ其大要ヲ摘論セントス、抑モ東京府ノ同業組合ヲ許サレタルハ一ニ徴税ノ為メニシテ商業ノ便益ヲ計画スルニ非ズ、然ルニ今東京府ヨリ商人ニ対シ汝輩ノ便益ナルヲ以テ新ニ組合ヲ設立スベシト令セラルヽハ、是レ所謂保護干渉ニ非ズシテ何ゾ、而シテ此干渉ヲ当会ヨリ府庁ニ求ムルガ如キハ小生ガ大ニ好マザル所以ナリ、但此書按ニ云ヘルガ如ク全ク誤見ヨリシテ同業組合ヲ解キタルモノアラバ、或ハ東京府自ラ注意セラレ、其再興ヲ勧誘セラルヽモ亦妨ゲナシト雖トモ、今此書按ヲ府庁エ出シテ以テ其命令ヲ仮ルガ如キハ決シテ当会ノ為スベカラザル所ナリ、依テ小生ハ玆ニ反対論ヲ起シテ此書按ヲ廃セン事ヲ望ム
三十一番(渋沢栄一)此草按ハ前会ニ於テ小生ガ陳述シタル件々ニシテ之ヲ議場ニ上ボスヲ得タルハ甚ダ小生ガ幸福トスル所ナリ、而シテ今此書按ノ文字ニ於テ質議セラレン事ハ、各議員ニ向テ望ム所ナリ、又十五番議員ガ陳述スル所ニ拠レバ組合ノ設立ハ之ヲ欲スレトモ政府ノ手ヲ仮リテ之ヲ促スヲ好マズ、何トナレバ其干渉ニ渉ルヲ恐ルト、顧フニ十五番ノ如キ敏捷ヲ以テ声名ヲ世ニ博スルノ人ニシテ必ズ誤解等ノ不都合ナカルベシト信ズレトモ、若シ或ハ此書按ノ誤解ヨリ如此陳説ヲ促シタルヤモ知ル可ラズ、故ニ聊カ此ニ之ヲ弁解セン、抑モ此議按ノ前文ニ述ブル所ハ組合設立ノ功能ヲ記シタルモノニシテ、尋テ今日世上ノ有様ハ云々ナリト雖トモ、此際或ハ政令ヲ誤解シテ組合ヲ設立セザルモノナキニ非ザルガ故ニ府令ヲ以テ之ヲ促サン事ヲ企図スルニ在リ、又既ニ前会ニ於テ陳述スルガ如ク魚鳥、石問屋及ビ塩問屋ノ如キ其組合中相互申合規則ノアルアリテ大ニ同業ノ便益ヲ致セリ、而シテ是レ挙ナ府庁ノ許可ヲ竢テ始メテ
 - 第17巻 p.116 -ページ画像 
之ヲ設立スルヲ得ル者ニシテ、府庁ニ於テハ逸々其規則ヲ調査シ之ガ許否ヲ定ムルヲ以テ、大ニ商人ノ帷幕内ニ立チ入リ、指図アルモノナレバ、是レコソ干渉ト云フベシト雖トモ、此議案ノ如キハ府庁ヨリ之ヲ設立セヨト云ハルヽ而已ニテ、其申合規則ニ至テハ之ヲ当会ニ稟議スルヲ要スルモノナルヲ以テ官之ガ干渉ヲ脱シ、我輩商業者ノ与ル所トナルベシ、如何ゾ之ヲ束縛干渉ト云フヲ得ンヤ、且ツ今若シ当会ヨリ組合設立ノ禁止ヲ官ニ請求スルガ如キコトアラバ、是レ所謂束縛ト云フモ不可ナカルベシト雖トモ、是レ目下ノ人情ニ随テ其設立ヲ要望スルモノナレバ決シテ此書按ヲ以テ干渉ヲ官府ニ勧ムル等ノ恐レナキヲ信ンズ、依テ此立按ノ趣旨ヲ陳シテ以テ特ニ十五番ノ駁議ニ答フ
七番(成島柳北)三十一番ノ建議ニ就キ、前会以来倩ラ之ヲ熟考スルニ、当会議所ヨリ府庁エ建白シテ其設立ノ命令ヲ要スルハ小生ガ好マザル所ナリ、如何トナレバ各組合ヲ立ツルニ当リ、府庁之ヲ布達勧誘シ、当会此間ニ入テ之ガ稟議ヲ受クルモ、時日ノ久シキ自ラ多少ノ弊害ヲ醸生スルノ患アレバナリ、今此ニ一例ヲ挙ンニ、十人ノ組合中更ニ他ヨリ加入ヲ望ム者アルトキハ新入者ヲシテ振舞金ヲ出サシムルガ如キノ弊ヲ生ゼンニ、組合ノ多数ナル当会一々此間ニ奔走シテ其弊ヲ矯正セントスルハ能ク企テ及ザル所ナリ、果シテ然ラバ其弊害ヨリ損失ヲ蒙ル者ハ必ズ当会ヲ怨望スルニ至ラン、是レ素ヨリ公益ヲ謀リ、善事ヲ起シテ他ノ怨嗟ヲ受クルハ敢テ当会ノ辞セザル所ナリト雖トモ、府庁ノ命令ヲ仮テ以テ其設立ヲ促スガ如キハ到底干渉ヲ政府ニ勧奨スルヲ免レザルベシ、殊ニ各新聞紙上ニ於テハ常ニ干渉主義ヲ悪ミ、喋々之ヲ論駁スルニ非ズヤ、然ルニ当会ニシテ干渉ヲ政府ニ求ムルハ所謂輿論ニ背馳スルモノト云フベシ、尤モ建義者《(議)》ノ弁解ニ拠レバ強チ之ヲ干渉ト称スベキニ非ザルガ如シト雖トモ、政府親シク此間ニ立チ入リ、之ヲ命令シ之ヲ勧誘スルガ如キ事アラシメバ、幸ニ今日ノ如ク府吏賢明ナレバ敢テ患害ナカルベシト雖トモ、他日不幸ニシテ不明暴吏ノ府政ヲ執ルニ会セバ必ズ方ニ弊害ヲ醸生スルニ至ラン、依テ小生ハ当会議所議員ヨリ各自其同業ヲ勧誘掖導シテ之ヲ設立セシメン事ヲ期シ、敢テ官ノ命令ニ依頼スルヲ好マズ
六番(大倉喜八郎)十五番ハ政府干渉有害ノ一方ヲ極論シ、三十一番ハ其有益ノ一方ヲ痛論スルモノニシテ各偏重ヲ免カレズ、又七番議員ノ陳ブル所ハ新聞屋ノ議論ニシテ実際ニ適応セザルガ如シ、而シテ如此高尚ノ理論ニ拘泥セズ、能ク実際ノ便益ヲ期セントセバ必ズ組合ノ設立ナカル可ラズ、然レトモ一ニ之ヲ商民ニ任セバ決シテ速成ヲ期シ難シ、依テ原案ノ如ク今日ニ於テハ之ヲ府庁ヨリ勧誘シテ以テ其設立ヲ促サレン事ヲ要ス、而シテ此間商業ニ依リ或ハ組合ヲ要セザルモノナキニ非ズシテ、府庁ヨリ断然布達ヲ以テ之ヲ促ストキハ却テ不便ヲ生スルノ患アルヲ免カレズ、故ニ此書按ノ末文布達云々ハ之ヲ諭達ト修正セン事ヲ望ム
三十一番(渋沢栄一)七番議員ハ組合ノ設立ハ之ヲ会議所議員ヨリ掖誘スルハ可ナリ、之ヲ会議所ヨリ誘導スルハ不可ナリト云フガ如シ
 - 第17巻 p.117 -ページ画像 
ト雖トモ、議員ヨリ之ヲ掖誘スルモ会議所ヨリスルモ万一他日弊害ヲ生シ其怨望ヲ受クルニ至ツテハ一ナリ、故ニ此説ヲ認テ着実ナリト為スベカラズ、唯小生ガ欲スル所ハ今日組合ヲ設立スル者ハ府庁ニ於テ一々其規則ヲ調査シ、或ハ其不都合ナキヲ保スベカラザルヲ以テ、之ヲ実際商業ニ従事スル当会ニ稟議スルニ至ラシメバ一ハ官ノ干渉ヲ脱シ、一ハ着実ノ商議ヲ悉クスヲ得ベキガ故ニ之ヲ企図スルニ在リ、然レトモ若シ将来府知事ニシテ非常ノ不明暴悪者ノ出ツルアリテ或ハ非常ノ弊害ヲ生ズルヤ否ハ予知ス可ラズト雖トモ、如此将来ノ変動如何ヲ是レ憂虞セバ、何事カ能ク為ス可キモノアランヤ、而シテ七番ノ説ク所ハ一利起レバ一害生ズルノ論旨ニシテ其設立ハ善ミスベケレトモ、将来ニ怨嗟ヲ受クルヲ欲セズト云フガ如キハ、是レ所謂俚言ノ河豚ハ食タシ命ハ惜シヽト云フノ類ナリ、故ニ小生ハ敢テ七番ノ論説ニ服スル事能ハズ
二十二番(渋沢喜作)此議ノ如キハ商業者ノ得喪ニ関スルモノニシテ実ニ重大ノ件ト云フベシ、而シテ小生ハ前会ニ於テ既ニ之ヲ賛成シタル所以ハ、今日当府下ノ状態ヲ観察スルニ大ニ組合ノ設立ヲ熱望スルモノアレバナリ、然ニ此間或ハ択善会ノ如ク自ラ進テ之ヲ立ツル者アリト雖トモ、其他ハ概スルニ束縛ヲ主トシテ之ヲ設ケント欲スル者ニシテ、現ニ小問屋ノ如キハ其組合ニ加入セザレバ荷物ノ取引ヲ許サヾル等ノ束縛圧制アリ、故ニ若シ此束縛法ヲ望ム者多キトキハ七番陳説ノ如ク大ニ弊害ヲ生ズベク、又商業ノ公益ヲ計画スル者多キトキハ大ニ効能ヲ現スベシ、故ニ此ノ利弊ヲ比較対照シ、今日ノ実際ニ問ヒ果シテ之ヲ行ナハヽ利益多キヲ認取スルトキハ之ヲ建言シテ以テ其布達若クハ諭達ヲ望ムベシ、然レトモ若シ府庁ニ於テ組合ノ設立ハ之ヲ許スモ其規則ヲ以テ当会ニ稟議スルハ之ヲ許サズト云ハヾ大ニ建議ノ趣旨ニ背馳シ、其目的ヲ達スル事能ハザランヲ恐ル、然レトモ此等ノ掛念ナカラン事ヲ期セバ小生ハ全ク原按ヲ可トス
七番(成島柳北)三十一番ハ愚説ニ対シ、弁駁ヲ加ヘラレタリト雖トモ、議員自ラ其知己朋友ヲ勧誘スルト、政府ノ之ヲ告諭スルトハ啻ニ其状ノ異ナルノミナラズ、其実モ亦相反スルノ理由ヲ述タルニ過ズ、然レトモ小生ノ不弁ヨリ其三十一番ニ貫徹セザルヲ覚ユルヲ以テ更ニ前説ヲ補ヒ聊カ此ニ之ヲ弁解ス
十五番(益田孝)小生ガ前説ニ対シ三十一番並ニ六番ノ駁議アリ、且ツ三十一番ハ書按誤解云々ノ言アリト雖トモ、小生ハ其議按ノ精神ニ至テハ自ラ之ヲ誤解セザルヲ信ズ、即チ此精神ヲ約言スルニ東京府ヘ建議シテ以テ其干渉ヲ仮リ之カ速成ヲ促スト云フニ外ナラズ、是レ小生ガ不同意ヲ唱フル所ナリトス、抑モ商業上政府ノ干渉ハ甚ダ商民ノ嫌悪スル処ニシテ、自由貿易ノ説ハ前会ニ於テ略ホ其引証アリシト雖トモ是レ全ク其例ヲ異ニスルモノニシテ、此組合設立ノ如キハ決シテ政府ノ干渉ヲ要セズ、一ニ時運ノ進歩ニ任ジ商民自ラ之ヲ進取スルノ日ヲ竢ツベキ而已、然バ則チ各自相互ニ其便益ヲ計画スルノ衷情ニ出ヅルヲ以テ之ヲ永遠ニ保続スルニ至ルベシ、而シテ七番ハ当会議員ノ勧誘ハ之ヲ可トセリト雖トモ、是レ尚ホ小生ノ
 - 第17巻 p.118 -ページ画像 
好マザルモノナリ、又三十一番ハ府庁ニ於テ現ニ干渉スルノ実アレバ、之ヲ命令スル位ハ支閊ナシト云フト雖トモ、蓋シ目今我政府ハ漸ク方ニ干渉主義ヲ擯斥シ、世ノ論者モ亦比々其弊害ヲ弁論スルニ非ズヤ、此時ニ当リ当会議所ニシテ此干渉ヲ政府ニ求ムルハ甚ダ不都合ナリト云フベシ、是レ小生ガ敢テ駁議ヲ呈スル所以ナリ
二十番(朝吹英二)十五番ガ陳説ノ如ク政府ノ干渉ハ輿論ノ容レザル所ニシテ、従来各国政府保護干渉主義ヲ以テ国是ト為シタルモ今日ニ至リ漸ク之ヲ廃シタルハ其民業ニ利ナクシテ却テ害アルヲ以テナリ、夫レ此組合設立ノ如キハ将来ノ利弊如何ヲ顧ミザル可ラズ、若シ此組合アルガ為メ仮令二三ノ商民ハ利益アリトスルモ他人多ク之ヲ不利ト認ムルトキハ是レ人情ノ適応セザル処ト謂フ可シ、而シテ目下魚鳥問屋ノ如キ塩問屋ノ如キ、之ヲ府庁ニ請ヒ或ハ請ハズシテ之ヲ設ケタル者アルモ他ノ衆人尚ホ之ヲ為サヾルハ是レ不可トナスモノヽ如シ、又果シテ此書按ニ記セル如ク目下ノ人情ニ適応スルモノト確信スルトセハ人情ノ趣ク所令セズシテ行ナハレ、期セズシテ成ル、如何ソ政府ノ干渉ヲ仮ルヲ須ヒンヤ、依テ小生ハ十五番ノ如ク之ヲ廃按ト為サン事ヲ望ム
三十一番(渋沢栄一)此書按中目下ノ人情ニ適応スト云フモノハ昨年来比々組合設立ヲ出願スル実アルニ徴シタルモノナリト雖トモ、確信ノ二字或ハ失当ナリトセバ之ヲ修正スルモ妨ゲナシ、而シテ将来ノ利弊ヲ痛論スルガ如キハ聊カ此ニ喙ヲ容レザル可ラズ、如何トナレバ目下其設立ヲ要望スル者ハ之ヲ府庁ニ出願シ、府庁ハ其規則ヲ調査シテ以テ許否ヲ指令スルガ如キハ所謂干渉ナルガ故ニ、小生ハ此調査ヲ当会議所ニ移シ、我輩商人ノ間ニ於テ之ヲ議定セバ其規則自ラ着実ニ渉リ、且ツ従前ノ干渉ヲ免ルヽヲ得ベキヲ信ス、其レ如斯既ニ干渉ニ非スシテ其設立ヲ得バ是レ恰モ十五番ガ冀望セラルヽ所ニ副フモノト云フベシ、例之此ニ二三ノ発起者アリテ之ヲ設立セントスルモ此間或ハ障礙ノ在ル有リテ之ヲ決行シ難キニ際シ、東京府ノ布達ニ依テ其端緒ヲ開カバ忽チ此機会ニ投シ、其功ヲ奏スルニ至ラン、又十五番・二十番等ノ如キ将来ノ如何ニ是レ憂慮セバ凡ソ草按ヲ立テ新事業ヲ起スモノニ至ツテハ挙ナ夫レ然ラン、是レ小生ガ敢テ一言ヲ贅セザル可カラザル所以ナリ
二十番(朝吹英二)東京府ハ現ニ組合設立ヲ聞届クルヲ以テ之ヲ布達スルモ妨ケナシトスルノ意歟、敢テ之ヲ建議者ニ質ス
三十一番(渋沢栄一)東京府ニ於テハ現ニ其出願アルニ際シ逸々其規則ヲ調査シ、之ヲ聞届クルノ干渉アルヲ以テ、今当会ヨリ其布達アラン事ヲ乞フモ、敢テ之ヲ干渉ト為ス可カラザルノ意ナリ
二十番(朝吹英二)自ラ組合ヲ設ケテ以テ之ヲ府庁ニ届出テ、其認可ヲ受クルハ啻ニ其保証ヲ請求スルニ過ギズシテ宛モ婚姻ヲ届出ルト同一般ニシテ、之ヲ政府ヨリ商人間ニ干渉シテ組合ヲ立テヨト命令スルモノニ対スレバ大ニ差異アルヲ信ズ
十五番(益田孝)建議者ハ此書按ヲ以テ拘束ヲ生ズルノ弊ナシト明言スレトモ、仮リニ之ヲ政府ヨリ布達スルモノトセバ、仮令ヒ其設立ヲ好マザル者ト雖トモ己ノ意ヲ屈ケテ之ニ加入セザル可ラズ、例ヘ
 - 第17巻 p.119 -ページ画像 
バ今新タニ商業ヲ開キタルモノニシテ敢テ組合アルヲ要セザルモ已ニ政府ノ布達アル以上ハ其加入ヲ拒ムヲ得ズ、是レ拘束ニ非ズシテ何ゾヤ、故ニ小生ハ米屋ノ如キ浅草ハ浅草ニ於テシ、芝ハ芝ニ於テシ各自其便益ニ随テ組合ヲ設立セバ必ズ拘束ノ弊ヲ生ズルナク且実際ノ公益ヲ致スヲ信ズ、抑モ維新以来政府ハ遽ニ人民ヲ鞭撻シテ急進ヲ促スモ如何ニセン人民ノ智識其度ニ達セズ、此間遂ニ非常ノ弊害ヲ生ジタルハ我輩ノ目撃スル所ナリ、故ニ今日ニ至リ既ニ此経験ヲ以テ干渉ノ弊アルヲ知ラバ須ラク人民ノ進取ニ任ズベシ、焉ゾ政府ノ令ヲ仮テ前敗ノ轍ヲ蹈ムヲ須ヒンヤ
四十六番(小安峻)此議按ノ如キハ其方法ノ可否ニ依テ之ヲ廃スルト廃セザルノ別アリ、而シテ今建議者ノ説明ニ拠レバ政府ノ干渉ハ共ニ之ヲ好マザルガ如ク、且原按中目下ノ人情ニ適応云々ノ実アルモノトセバ、之ヲ人民ニ自任スルトモ漸次其設立ヲ期スベキノミナラズ、此組合設立ノ如キハ敢テ迅速ヲ要スルモノニ非ルヲ以テ、十五番ノ如ク之ヲ廃按ト為サン事ヲ望ム
二十七番(松本専蔵)小生ハ府庁ノ布達ヲ以テ、其設立ヲ促スヲ好マズ、各商人中互ニ相勧誘シテ以テ之ヲ設立セン事ヲ企望ス、故ニ原按中右ノ情勢ナルニヨリ云々奉存候間以下今日御府ヨリノ文字ヲ刪除シ、又御布達有之ノ五字ヲ勧誘ノ二字ニ修正セン事ヲ望ム
五十番(松尾儀助)組合ヲ起シテ便益ヲ得ル者アリ、或ハ却テ不便ヲ生ズルモノアリ、是ヲ以テ原按中此意ヲ増補シ、即チ奉存候間以下ノ今日御府ヨリ各同業組合ヲノ十二字ヲ、其商業上ニ於テ組合アルヲ便益トスル者ハ之ヲノ廿一字ニ脩正セン事ヲ要ス
五十四番(服部源三郎)十五番並ニ其他二三ノ議員ハ一ニ府庁ノ布達ヲ以テ干渉ト為シ之ヲ嫌悪スト雖トモ、今日現ニ其設立ヲ冀望シテ未ダ其功ヲ奏セザルモノアルヲ以テ、此際ニ当リ其商業上ニ便益アル者ハ之ヲ設立スベシ云々ノ命令アラバ、忽チ其冀望ヲ達スルニ至ラン、依テ小生ハ五十番ノ脩正説ヲ賛成ス
四十四番(井関盛艮)小生ハ組合ノ設立ヲ冀望ス、若シ此設立ナキトキハ商業上多少ノ不都合アルハ共ニ識認スル処ニシテ、現ニ前会五十四番議員ノ説明アリシ紙商ニ組合ナキヨリ百多ノ弊害アルガ如キ以テ之ヲ徴スルニ足レリ、然レトモ之ヲ府庁ヨリ布達スト云フハ又実際ニ於テ不都合ナキヲ保ス可カラザルヲ以テ、六番議員ノ如ク之ヲ諭達ト脩正セン事ヲ望ム
於是会頭ハ全会計議《(討カ)》ノ尽タルヲ認メ、先ツ十五番ノ(廃按説)ニ同意者ヲシテ起立セシメタルニ其数十人、又原按ノ同意者ヲシテ起立セシメタルニ其数十八人、多数ニ因リ原按ニ決シ、次ニ二十七番ノ脩正説(即チ今日御府ヨリ六字ヲ刪除シ、御布達有之ノ五字ヲ勧誘シノ三字ニ脩正スルノ説)ニ起立ヲ命ジタルニ其数十人、次ニ五十番ノ脩正説(即チ其商業上ニ於テ組合アルヲ便益トスル者ハ之ヲ設立スベキ儀ト脩正スルノ説)ニ起立ヲ命ジタルニ僅カニ二人、又更ニ六番議員ノ脩正説(布達ヲ諭達ニ改ムルノ議)ニ起立《(ヲ)》テ命ジタルニ其数十人ニシテ共ニ小数ナルヲ以テ遂ニ之ヲ原按ニ決シ放会ス、時ニ午後十時十分ナリ
 - 第17巻 p.120 -ページ画像 


東京商法会議所官衙諸達並上申書綴 二(DK170013k-0003)
第17巻 p.120 ページ画像

東京商法会議所官衙諸達並上申書綴 二
                    (東京商工会議所所蔵)
    各商同業組合設立ノ儀ニ付建白
諸商估各其同業ヲ以テ組合ヲ設立シ、互ニ親睦シテ以テ業務ヲ商㰌セシメ、其組合中ニ申合規則ヲ議定シテ同業一般ニ関スル事務ヲ処スルニ便ニシ、期ヲ定メ次ヲ序テ其会同ヲ催シ、其間行事又ハ肝煎等若干員ヲ公選シテ会務及其他ノ事項ヲ提撕セシメ、且夫レ同業中休業除名新創加入等ノ如キ勉テ偏頗ノ処為ナクシテ公正ノ便路ヲ得ルニ至ラハ各其営業上ニ便益アルノミナラス、世間公衆ニモ其利用ヲ及ボシ、随テ全般商業ノ進歩ヲ補賛スヘキ事ト奉存候
目今府下各商人間ノ情況ヲ察スルニ多クハ此組合設立ヲ企図シ、漸ク其方法ヲ講究シ、或ハ既ニ申合規則ヲ擬成シテ創設ノ允許ヲ得タルモノモ有之趣ニ承知仕候
然ルトキハ前陳ノ思考ハ即チ目下ノ人情ニ適応スル所ト確信仕候得共従来当府下各商組合ノ方法ハ旧幕政諸問屋株ノ制度ヨリ馴致セシモノニシテ、因襲ノ久キ或ハ其拘束ノ制ト順便ノ法トヲ混淆セシモノ少シトセズ、甚シキハ此組合ヲ以テ直ニ一種ノ専有物ト謬認スルノ類モ可有之、又或ハ維新ノ際右ノ問屋株ヲ廃止セラレ□公布ニヨリテ同業ノ組合モ亦タ官府ノ禁令タルモノト誤解セシモノモ有之哉ニ奉存候
右ノ情勢ナルニヨリ其気運ハ既ニ充分ノ進路ニ赴クト雖トモ、或ハ趦趄逡巡シ或ハ謬見ニ固着シテ其方向ヲ定ムル能ハサル者モ不少ト奉存候間今日御府ヨリ各同業組合ヲ設立スヘキ儀ヲ御布達有之、而シテ其組合ヲ設立セハ申合規則ヲモ議定シテ届出ヘキ旨ヲモ御下命有之度候然ルトキハ一ハ以テ問屋株廃止ニ付同業組合ヲモ禁セラレタルトノ誤見ヲ解キ、一ハ以テ其申合規則ニヨリテモシ束縛ノ旧弊等アレハ之レヲ匡正セシムルヲ得テ所謂一挙両全ノ御処置ト奉存候、将又右申合規則ノ如キハ或ハ御府ヘ届出ルニ当リ、先ツ之ヲ当会議所ヘ稟議スヘシト命セラルヽ歟、若クハ其届出前ニ各組合ヨリ直ニ之レヲ稟議セシムルノ途ヲ開キ、勉テ煩冗ヲ去リ䟽脱ヲ補ヒ、仍チ偏頗ノ処置ナクシテ公正ノ便路ヲ要シ実地適応ノモノタラシメ、以テ各組合ノ商業ヲ翼賛イタシ候様可仕ト奉存候、此段建白仕候也
  明治十二年三月十八日
                    東京商法会議所
    楠本東京府知事殿


東京商法会議所要件録 第一〇号・第一〇丁 明治一三年一月一九日刊(DK170013k-0004)
第17巻 p.120-121 ページ画像

東京商法会議所要件録   第一〇号・第一〇丁 明治一三年一月一九日刊
 ○参考ノ部 東京商法会議所年報
    議場建議ノ諸項
○上略
各商組合設立ノ議
 会頭 ○渋沢栄一ハ府下各商組合ノ維新革命ノ際ニ於テ廃止セラレタルハ各商賈商務経営上其便益ヲ失フモノ尠カラザルヲ憂ヒ、其再興ノ所見ヲ府庁ニ建白セン事ヲ要シ、二月二十七日ノ臨時集会ニ於テ之ヲ
 - 第17巻 p.121 -ページ画像 
全会ニ質シタリシニ其賛成ヲ得、更ニ建白按ヲ草シ三月十一日ノ定式集会ニ付シタルニ衆議之ヲ可決シタルヲ以テ、同月十八日ニ於テ之ヲ府知事ニ建白シ其裁批ヲ仰ケリ
   ○第二款東京商工会、明治十七年五月十九日ノ条(第十八巻所収)参照。



〔参考〕中外物価新報 第一七八号 明治一二年三月一五日 東京商況(DK170013k-0005)
第17巻 p.121-122 ページ画像

中外物価新報  第一七八号 明治一二年三月一五日
    東京商況
我が国十年前の商業を回顧するに、各種の商売皆な問屋株なるものありて、其商売の順序恰も寒暑四時の運行する如く秩然として紊れず、産出者より出て需用者の消費するもの一も此問屋を経由せざるを得さるを以て其問屋なる者ハ敢て其商売の道に刻苦粉身せざるも安穏に経営し来りしが、維新の際一朝問屋株を廃止せられ人々自由の取引を為すに至り、商売の面目頓に一変し、旧問屋の閉店せしもの尠からず、又之に由て新たに発達せしものありしハ世人の親しく知る所なり、抑問屋株廃止の挙たる今日より之を観れば、大ひに旧慣を破棄せしの歎を為すものなきにあらずと雖も、当時の実際を視察するときハ実に云ふべからざる悪弊ありて、何品によらず総て其問屋の束縛を免かれ難く、譬ヘバ一の物品を輸送するに時として問屋数名尽く申合せ、其品の相場を墜し、自己の買ハんと欲する価格までハ放棄して顧みざることあり、然れども荷主ハ問屋を措て他に売却の途なきゆへ、遂に其指価に往生して売却す、此弊や都府に多くして何様切歯するも此専横を免かるゝ能ハざりき、然るに維新の際主として言語を洞開せられしを以て、此弊害の政府に関するや則ち一令を発して之を破却するに至れり、寔に一大美挙と云ふべきなり
然り而して先頃より一種の論起り、問屋株廃止以来商売の順序なく銘銘勝手の取引を為すゆへ、自然各商互に相競争して自滅を招き、或ハ朝に開舗せしもの夕に閉店し、其間少しく基礎の立んとするものあるを見るや又羡んで同業を開くものあり、到底安全に商売を経営する能ハざるに至る、且物産出入の数も調査するに術なく、統計上甚だ不都合なるを唱へ、近頃酒屋・煙草屋等の問屋名義を再興し、仲間規約を定めしを以て大に之れが便宜を鳴らし、漸次百般の商業に推及せんと欲するものあり
吾輩退て再思するに、同商申合仲間を組み規約を立るハ敢て悪しき事にあらず、其物品統計等の為めにハ頗る便益あるものにして、且相親睦して商業に従事せバ商売の順序自ら整頓することあるべし、然りと雖も一利あれバ一害之に従ふハ寔に免かれ難き数にして、動もすれバ拘束の法を設け、其れに頼て安穏に営業せんと欲するもの多く、殊に酒屋等の問屋名義を再興せしハ納税上の都合を口実となし、事実に於てハ全く束縛の法と云ハざるを得ず、必ずや進取発達の精心を萎靡し遂にハ生産者と消費者の便否を度外に措くに至るハ之を既往に徴して歴然たり、若し強て仲間を立るを要とせバ我が人民中小数なる商賈の便宜を謀る為め大数なる生産者を害するものなり、世上寧ろ此理あらんや
抑も今日の商売ハ往昔と異なり、決して我が国内のみの経営にあらず
 - 第17巻 p.122 -ページ画像 
苟くも物価に不平均あれバ輙ち之を平均ならしむハ商賈の責任にして只々自己を守るの時にあらず、十分進取の精心を暢発せしめ、毫も他より拘束せず銘々自由に営業せしめ、間接に物産興起の誘導者たらしむべし
論者或ハ曰ハん、営業を自由に任すハ理に於て善しと雖も、商賈頼る所なく、従て信憑を害し、遂に廃滅に陥るものあるを奈何せんと、嗟呼是れ何の言ぞや、商売ハ活機なり、商賈の頼る所ハ則ち己れの勉強に在り、己れの勉強を措て他に頼る可きものあるべからず、若し強て其頼る所を構設せバ則ち是れ懶惰心を促すなり、我が現今の商人をして約束に而已依頼し、尚ほ此上にも懶惰心を養成せバ我が国の商賈ハ遂に如何なる結果を見ん、又信憑も人の勉力に成りて決して拘束の法に成るにあらず、仮令何様の厳則を立るも売買上不信あらバ誰れか之を信ずるものあらん、只其厳則在るを以て已むを得ず之と取引を為すのみにして、商売の萎靡を招く焉より甚しきハなし、譬ヘバ玆に十軒の同業者あり仲間規約を結んで商業を営み、新業者ハ其規約を遵守せざれば之を営むべからずとせバ、仮令問屋の株にあらざるも実に於て他の競争を防ぐゆへ、其商人の安楽なる敢て勉強労苦せざるも生産者需用者とも他に売買の途なきを以て已むを得ず此商人等に依頼するに付き、勉強するもせざるも大抵一様に経営し得らるべしと雖も若し此商人の間に拘束の規約なくんハ互に小競て信憑を重んじ勉強労苦して得意を他に取られざらんことを配慮するや、造次の間も決して忘るべからず、或ハ其内不親切の商売を為すか不勉強者あれバ忽ち其信を失ひ遂に廃滅するに至らん、是れ固より当然の事にして勉強者ハ益々発達し懶惰者ハ漸次衰縮し初て我が商業の振張を見るを得べし(未完)



〔参考〕中外物価新報 第一八一号 明治一二年三月二六日 東京商況(第百七十八号の続き)(DK170013k-0006)
第17巻 p.122-123 ページ画像

中外物価新報   第一八一号 明治一二年三月二六日
    東京商況(第百七十八号の続き)
吾輩ハ前号に於て商売仲間組合を立て規約を設るの得失を論述したれば、読者ハ既に其如何を諒知せられしならん、然るに我が東京商法会議所にてハ此同業仲間組合を設立せしめんことを府庁より布達ある様建白せんとの論議ハ遂に原案に可決したるを以て、最早府庁へ上稟せしことならんと信ず、嗚呼東京商法会議所議員諸君ハ府下屈指の豪商にして、且実際に老練なる紳士なり、而して事の此に及ぶハ必ず吾輩菲才無識の窺ひ知る能ハざる理由の存するありて然るべしと雖も、実に意外の点に出し事なりと云ハざるを得ざるなり、此論題に付てハ一二有名の新聞上にも論弁するものあり、又世上往々之を批難するものあるを聞くを以て、敢て又喋々を要せざるべしと雖ども尚ほ一言せんと欲するものあり
吾輩ハ甚だ潜越の所為に近けれど今仮りに商法会議所の上稟に基き布達案を草するときハ則ち左の如し
 府下に於て営業する商賈ハ総て同業申合せ仲間組合を立て規約を定め営業可致、此旨布達候事
若し如斯き布告あらバ、東京一般の商人ハ何等の商売に論なく、組合を結ぶを便利とするものも之を不便利と為すものも、布告一と度び降
 - 第17巻 p.123 -ページ画像 
らバ速かに組合を立、規則を設けざるべからず、仮令其規約ハ商法会議所に於て詳細に吟味を遂げ、毫も不公平圧抑の事あるを許るさゝるを以て掣肘拘束の弊あるべからずと為すも、既に其規約を設け其規約を守らざれバ其商業ハ営み難き訳合なれバ、是れ即ち一部分の拘束を蒙るものなり、況や積立金を為すとか又ハ証拠金を積とか唱て事実に大なる拘束法を行ふに於てをや、畢竟従前の問屋株と大なる差違なかるべし、唯其異なる所ハ従前の問屋ハ人員に定限ありしも今般の組合にハ人員の限数無きのみ、仄かに書く《(聞カ)》、現に砂糖商の如きハ組合を結び規約を定て府庁の允許を蒙り居れども、其内情ハ大に之を好まず、尤も従来の組合ハ真の協和より成立せしものゆゑ同業中幾組にも成り居しを府庁の誘導に由て全く一組合と為し、規約を設け、更に出願して允許を得しを以て、中にハ之を不便と為すものありて頗る紛紜を生じ、更に一和協合の実なしと、是れ何の故ぞや、昨日ハ便利として組合居りしもの之を集めて大成し、却て一和協合の実を失ふハ畢竟始めハ銘々の親睦上より出しを以て便利なりしも、一と度び府庁の誘導を蒙りしより之を好まざるもの迄強て其組合に包括せしに由らざるを得んや、間接の誘導にても猶ほ如此し、況や断然布達あるに於てハ之を奉ぜされバ違令の罪免かるべからず、不得已仲間組合に入れば其規約に掣肘され、一己の智力と勉強とを以て十分の駈引を試むること能ハず、徒らに同業者と伍を為して鬱屈に堪へず、遂に紛紜を生ずるに至らん、現に商法会議所議員中原案を賛成せしもの組合を好まざるものを強迫せざる様修正あり度しとまで論ぜし者ありしにあらすや、然れども結局原案に可決せしハ又是非もなき次第と云ふべし
吾輩又思想を一転すれバ、抑も東京商法会議所議員ハ府下に於て名望尤高く且実際に老練なる貴重紳士の集合する所にして、上下の望を属する頗る重且大なりとす、故に府下商業上の事に就き一と度び議場に可決して政府に上稟するに至らバ、政府ハ厚く其意に副ひ可成其献議を採用せんことを望むハ一般商賈の情なるべく、何ぞ独り吾輩のみならんや、然るに這回の献議たる前陳の如きを以て、賢明なる我が東京府庁ハ能く民情を視察せらるゝ而已ならず、政府も従前商売上に立入り厚く御世話ありしことも其功なきに発明し、近今ハ全く施政の主義を任他に転ぜられし由ハ略各新聞紙上にも明かなれバ、此建議を採納し軽々布告する等の挙万々あるまじと信ず、果して然らバ貴重なる会議所の建議と雖も之を排斥せらるゝの歎を免れ難し、此建議や我が東京商法会議所開設以来初ての建議なり、其建議にして初より政府に排斥せらるゝに至らバ、世の会議所に望を属するものハ果して如何の感触を起さん、是れ吾輩の会議所の為めに深く惜む所なり、然りと雖も若も府庁に於て此建議を納れ断然布達せらるゝことあらバ、実に府下一般人民の不幸焉より大なるなし、故に我輩も不得已会議所の建議ハ排斥さるゝも商売の自由に妨碍を生せざらんことを祈望せざるを得ざるなり、吾輩ハ刮目して否耳を欹て該献議の採納如何を聞かんと欲す



〔参考〕東京府史 行政篇第三巻・第六二五―六二七頁 昭和一〇年一二月刊(DK170013k-0007)
第17巻 p.123-125 ページ画像

東京府史   行政篇第三巻・第六二五―六二七頁 昭和一〇年一二月刊
    一 同業組合法発布前の組合
 - 第17巻 p.124 -ページ画像 
 江戸時代の商工業はすべて同業者間で組合仲間を組織し、幕府の公認の下に商工業を独占してゐたが、維新の際東京府はその弊害を認めこれを解散させたことは既に述べた所である。然しながら種々の理由から長い間存続した習慣・制度を一挙に破壊することは不可能で、府の商人はその後も尚私に仲間を結んでゐたやうである。
 その後本府に於いても府下の商人を聯合させて、これを統制する必要を認め、明治四年十一月左の命令を発布し、営業者の組合を作ることを許可し、同時に府から鑑札を与へることとした。
 辛未十一月十三日
 一諸商売之儀前々ヨリ株式又ハ仲問規定等有之候処、種々旧弊モ有之ニ付去ル辰年中府下一般株式等廃止シ、都テ商業勝手次第相成来候処、当府之儀者元来外地方与違ヒ地産額無之、諸品トモ諸国ヨリ輻輳致候儀ニ付、第一輸出入諸品高取調者勿論、糶糴之区別無之、眼前狡猾之姿ニ成行、追々諸式元高ニ而下々難渋之趣モ有之且亦出産国々江対シ不信之取計方等モ有之哉ニ相聞、加之同商救助之道無之、相互ニ欺合候之風儀ニ而、兎角自私孤立之商業ニ付一時之不利ヨリ終ニ破産ニ立至リ候者モ不少、夫是以不都合之儀ニ付、向後左之通相心得、業体真実ニ相成候様可致、尤仲間申合業ニ而小売小買ハ勿論不正之取引等イタシ、或ハ仲間規則等相背キ業体ニ不似合之所為於有之者、厳重ニ可申付条、心得違無之様可致事
 一諸問屋仲間規則申合可伺出事
  但是迄問屋名義無之商業者問屋相立候共又者組合仲間相立候共、便利次第何レニモ取締付候様仕法可伺出事
 一問屋並組合仲間相立候向ハ鑑札相渡シ候間可申出事
 一旧来問屋株之者ニ而モ有名無実之者ハ時宜次第相除キ、或ハ是迄問屋株式無之者ニ而モ身元身代相当ノモノハ改而印鑑相渡可申事
 一今般商業之儀ニ付談合会議等之節者都テ第壱大区町会所ニ而集会可致、必他席江集会致シ空論ニ日ヲ費シ、又者無益之失費等相掛候様之儀堅不相成候事
 右之趣区区不洩様可触知事
 以来同業者同志が相謀つて府に鑑札の下付を請願するもの多く、而してその請願の形式等も区々に亘つたので、本府ハ明治十三年十一月十三日改めて次の府令を発し、同時に商工組合取扱内規を規定して、組合の発達を奨励してゐる。
 甲第百四十九号
 各工商共営業上便宜之為ト自今同業組合ヲ立テ公認ヲ請ケ度者ハ、其規約書ヲ添ヘ一同連印ヲ以テ当庁ヘ申出可シ、此旨布達候事
 この府令によつて、改めて内国川船荷物積問屋組合・書林組合・油商組合・酒問屋組合・内国塩仲買組合・小間物問屋組合・絵具染料問屋組合・旧木問屋組合・洋紙売捌人組合・青物問屋組合・材木問屋組合・千住材木問屋組合・織物組合・木綿呉服問屋組合・地本錦絵問屋組合・鶏卵問屋組合・剪花商組合・縁日商組合・蝋燭問屋組合・魚類行商組合・人力車営業組合・石油商組合・鰹節問屋組合・薬種問屋組
 - 第17巻 p.125 -ページ画像 
合等の諸同業組合が設立され、これ等の諸組合は東京商工会の設立にも多大の貢献をなした。



〔参考〕竜門雑誌 第六一二号・第三一―三三頁 昭和一四年九月 東京商法会議所に就て(三)(山口和雄)(DK170013k-0008)
第17巻 p.125-126 ページ画像

著作権保護期間中、著者没年不詳、および著作権調査中の著作物は、ウェブでの全文公開対象としておりません。
冊子版の『渋沢栄一伝記資料』をご参照ください。