デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2020.3.6

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

7章 経済団体及ビ民間諸会
1節 商業会議所
1款 東京商法会議所
■綱文

第17巻 p.188-208(DK170021k) ページ画像

明治12年9月15日(1879年)

曩ニ政府ヨリ諮問セラレタル条約改正ニ関シ、是日当会議所、建言書ヲ外務卿井上馨・大蔵卿大隈重信ニ上呈ス。栄一会頭トシテ之ニ与ル。


■資料

東京商法会議所要件録 第一〇号・第一三丁 明治一三年一月一九日刊(DK170021k-0001)
第17巻 p.188-189 ページ画像

東京商法会議所要件録  第一〇号・第一三丁 明治一三年一月一九日刊
 ○参考ノ部 東京商法会議所年報
    議場建議ノ諸項
○上略
 - 第17巻 p.189 -ページ画像 
条約改正ニ関スル建議
 本議ハ今回ノ条約改正ニ付当会ノ所見ヲ建白スルモノニ係ル、而シテ理事委員ハ其立按調査ノ際数次ノ小集会ヲ開キ又為メニ臨時集会ヲ催シ全会ノ審議ヲ尽シ、遂ニ九月○明治一二年十五日ヲ以テ之ヲ大蔵・外務ノ両卿ニ捧呈シタリ
   ○建議ノ全文ハ「要件録」ニ記載セラレオラザル為メ「東京経済雑誌」ニ依ツテ次ニ掲グ。


東京経済雑誌 第一三号・第四四一―四四四頁 明治一二年一〇月三〇日 ○東京商法会議所の建言(DK170021k-0002)
第17巻 p.189-192 ページ画像

東京経済雑誌  第一三号・第四四一―四四四頁 明治一二年一〇月三〇日
    ○東京商法会議所の建言
条約改正の事ハ目下の一大問題なれば苟も字を知り書を読み得る以上のものハ其利害得失の在る所を講明して之を輿論に質議するハ実に日本人民の本分なるへし、殊に意を日本の経済に注き心を邦家の休戚に留むるものはハ決して之を等閑に視るべからず、斯ゝる重要の問題なれは我政府ハ此の件に付曩きに東京・大坂の両商法会議所へ下問せられ、東京会議所ハ乃ち左の綿密なる建言書を差出して其意見を開申したる由、今且つ其全文を中外物価新報より抄出し、逐次掲載して以て看官の参観に供す
  条約改正ニ付建言書
条約改正ノ事タル其得失ハ以テ国家ノ興廃社稷ノ安危ニ関シ、甚重大ナルヲ以テ我政府ハ夙ニ之ヲ希図セラレ、外ニシテハ欧米ノ駐剳公使ヲシテ其外廷ニ改正ノ情由ヲ陳述セシメ、内ニシテハ貿易ノ利害財政ノ得失ヲ講究シテ以テ内外朝野ノ輿論ヲ問ハル、又曩ニ当会議所ニ下問セラルヽニ内外貿易ニ関スル条款数項ヲ以テス、是ニ於テ当会議所ハ爾来孜々トシテ之ヲ商議シ、勉メテ復申ヲ怠ラザルヲ期ス、而シテ今ヤ其期ニ際スルヲ以テ敢テ復申ニ先チ、全般ノ得失ノ所見ヲ具陳セント欲スルハ蓋当会議所ノ本分ニシテ且其義務タルヲ信スル所ナリ、乃チ其所見ノ考案ヲ条論シテ以テ上聞ヲ仰ク
謹テ現行条約ノ我国ニ如何ナル実跡ヲ成シタルカヲ按スルニ、当会議所ノ見ヲ以テスレハ現行ノ条約ハ我邦ニ不利ナルノミナラズ実ニ彼我貿易進運ノ理ニ悖リ、内外相共ニ其損害ヲナス者ニシテ、我政府ノ夙ニ之ヲ洞見セラルヽヤ当会議所ノ信シテ疑ハザル所ナリ、而シテ締盟各国モ亦其貿易上ニ害アリトナスハ推シテ知ルベキナリ、果シテ然ラバ此条約改正ニ於テ貿易上ニ関スル約款ノ如キハ殊ニ各相喜テ之ニ応シ進テ之ヲ取ラント欲スルヤ亦疑ヲ容レザル所ナリ、然ルニ万一之ニ反シテ我要望タル改正ヲ非議スル如キ挙アラバ是則其徳義ヲ破リ条理ヲ蔑スル者ト謂ハザルヲ得ズ、今其然ル所以ヲ陳セン
現行ノ条約ハ旧政府ノ末路我邦未ダ外ニ交際ヲ開カズ内ニ経験ナキノ時ニ当テ成立スル者ナレハ、其税則ノ如キハ我得喪ヲ研究シ利害ヲ洞察シテ定ムルニ遑アラズ、但タ当時ノ形勢ニ随ヒ止ムヲ得ザルニ出ル者ナリ、今試ニ之レヲ以テ欧米各国ノ間ニ行ハルヽ者ニ比セバ一モ斯クノ如キ偏頗不公理ノ者アルヲ見ザルベシ、且夫我条約締盟以来政度文物年ヲ逐テ美ヲ呈シ百事ノ改良スル復タ昔日ノ比ニアラザルヤ明ナリ、然則今日我政府ニ於テ其情勢ヲ明察シ、当ニ改正スヘキ正理ニ順
 - 第17巻 p.190 -ページ画像 
テ之ヲ要求スルニ当テハ仮令条約書中ニ改正ノ期限ヲ明記セザルモノト雖モ尚之ヲ改正シテ適当ナラシムルヲ得ヘシ、況ンヤ其期限ノ明記シアルモノニ於テオヤ
正理情勢既ニ此ノ如シ、然ルニ締盟各国尚其改正ヲ非議スル有レバ是則正理ニ悖リ情勢ヲ顧ミザルモノト云フベシ、苟クモ然ラバ我国ノ各国ニ対スル親睦締盟ノ義務ハ業既ニ滅絶スル者ト謂フベキヲ以テ、我政府ハ独立ノ権利ニ拠リ自由ニ其税則ヲ制定スルヲ得ベキハ是ヲ公理ニ質シテ違ハザル所ナリ
現行条約ノ改正セザルベカラザル理由ハ既ニ陳ル所ノ如シ、因テ又税則ノ当ヲ得ザルヨリ大ニ国家ノ経済ヲ妨碍シ並貿易ノ隆運ヲ牽掣スルノ所ノ原因ヲ上陳シテ、以テ改正ノ行ハザルベカラザルヲ証明セン
惟ルニ我国ノ農産ヲ主要トスルハ職トシテ古来土地ヲ重ンジ農民ヲ貴ブノ建国主義ニ之レ由ルナリ、是ヲ以テ租税ノ如キモ亦概ネ地面ニ徴セリ、此法二千五百年ノ久シキニ垂レ、遂ニ明治維新ニ至テ政府夙ニ地租ノ重苛ナルヨリ農産ノ殖生ヲ妨グル所アルヲ察セラレテ大ニ改正ヲ行ヒ地租軽減ノ法ヲ設ケ、嗣デ八年ノ 聖詔ヲ以テ更ニ之ヲ減シテ地価百分ノ二五ト定メ、而シテ偏重ヲ正シ公平ヲ謀ルニ勉焉タリ、然レトモ未ダ全ク其平準ヲ得ルニ至ラザルナリ、試ニ大蔵卿ヨリ布達セラレタル明治十二年度予算ノ表ヲ按ズルニ其歳入ノ総計五千五百六十五万千三百七十九円零三銭四厘ニシテ、其内内国租税ノ額ハ五千三百四十七万零零六十九円、海関税ノ額ハ二百十八万千三百十円ナリ、而シテ内国租税ノ内地面ヨリ徴収スルモノ実ニ四千百卅七万六千四百五十八円トス、之ヲ歳入全額ニ比較スレバ即チ百分ノ七十四分三厘五毛ニ居ル、若シ海関税額ヲ以テ歳入全額ニ比較スレバ僅ニ百分ノ二分七厘タリ、試ニ之ヲ欧米各国ノ税表ニ比較スレバ其差ノ過大ナル事左表ニ掲グル如シ


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 国名      内国税            関税           雑入            計            関税ノ歳入ニ対スル割合                  円             円             円             円       割 日本      四三、八八四、三六二     一、三七九、八二四     四、四六〇、一七一    四九、七二四、三五七    〇、二九 英吉利    一三七、三二〇、〇〇〇    九九、八四五、〇〇〇   一六一、六五一、四九五   三九八、八一六、四九五    二、五〇 英領加拿他    四、九四一、八九七    一二、五四六、九八七     四、五七〇、三九〇    二二、〇五九、二七四   一五、九八 仏蘭西    二七一、六九九、三六〇    五六、六〇四、〇〇〇   二三〇、三三二、二〇一   五五八、六三五、五六一    一、〇一 米合衆国   一一〇、五八一、六二四   一三〇、一七〇、六八〇    一七、〇一一、四七四   二五七、七六三、七七八    五、〇五 





是ニ由テ之ヲ観レバ内国税ノ重キハ我国ヨリ重キハナク、海関税ノ軽キハ我国ヨリ軽キハナシ、豈平準ヲ得ルト謂フベケンヤ、然而シテ我国産ノ海外ニ輸出スル重要ノ品種タル者ハ概ネ農産ニアラザルハナシ試ニ明治十一年度ノ輸出入表ヲ看レバ輸出総計ハ二千四百六十一万四千七百六十円ニシテ、其内生糸・茶・米ノ三項ニ於テ共計千六百六十六万六千七百卅円トス、即チ輸出全額百分ノ六十七分強ヲ占メタリ、宜ナリ我国民ノ依テ以テ生理ヲ営ムハ多ク農産ニ在テ而シテ将来百般ノ産物ヲ増殖スルモ亦大ニ農産ニ依ラザルベカラザルヤ、然ルニ其之ヲ生ズル所ノ基本タル地面ニ収税スル斯ノ如ク其レ重クシテ、而シテ輸入税ノ如キ極メテ之ヲ軽クスルハ是豈国家経済ノ宜キヲ得ル者ト謂フベケンヤ、倘シ之ニ安ンジテ改メザレバ我国農産ノ蕃殖ハ固ヨリ期スベカラザルノミナラズ貿易ノ隆昌モ亦望ムベカラザルナリ、請フ之
 - 第17巻 p.191 -ページ画像 
ヲ左ニ詳論セン
夫今日ノ税法ニ拠ツテ地面ヨリ生産スル得益ヲ計算スルニ、各地殊別アリト雖モ之レヲ平均シテ田地一反ノ代価大約ソ四十七円トス、而シテ其収穫ハ大約一石三斗三升二合四夕ニシテ、此代価ヲ平均スレバ金五円五十七銭七厘四毛トス、此内ヨリ種米肥料其他ノ諸費トシテ四斗四升四合一夕ノ代価一円八十五銭九厘一毛ヲ扣除シ、残八斗八升八合三夕ノ内ヨリ又二斗八升三合一夕ノ代価一円十八銭五厘ヲ以テ二分五厘ノ地租トシ、五升六合六夕ノ代価廿三銭七厘七毛ヲ以テ地租五分一ノ地方税トシテ更ニ扣除スルトキハ、僅カニ剰ス所ハ五斗四升八合五夕、此代価二円二十九銭六厘ナルヲ以テ其地価ニ対シテ四分八厘ノ利益アルニ過キズ(此計算ハ曩ニ大蔵省租税局ノ地価ヲ定メラルヽニ当リ全国田地ヨリ生スル収穫利益ヲ平均シタル調査ニ係ル、而シテ田地中ニハ二作ヲ穫ルモノアルヲ以テ之ヲ加ヘテ平均シタルモノナリ、且其費途ノ如キハ尚此他ニ要スル即チ地方協議費又ハ荒凶予備等ノ如キモノアレトモ姑ク之ヲ加ヘザルモノナリ)畑地ノ如キハ或ハ桑ニ或ハ茶ニ問々饒利ヲ得ル者アリト雖モ是亦概算シテ以テ収額ヲ平均スレハ其地租等ノ諸費ヲ除キ剰ス所ノ得益ハ蓋田地ト大差アル事ナシ、故ヲ以テ古来農業ノ資本タル極メテ微薄ニ在テ其器械ノ如キハ鋤鍬等ノ数件ニ過ギズ、且其耕耘ノ法タル牛馬ヲ飼養シテ其労ニ代ユル者少シ、今夫国家ノ命脈殖産ノ基タル農業ニシテ其収益ノ少キ資本ノ薄キ斯ノ如キヲ見レバ勉メテ地租ヲ減省シ農民ノ余裕ヲ謀ラザルベカラズ、農民ノ余裕ヲ謀ルハ方今ノ大計政府ノ急務国家ノ経済此外ニ於テ復タ求ムル者ナシ
論者或ハ謂ハン、我国ノ人口三千五百万ニシテ農ノ数ハ老幼婦女ヲ併セテ千五百三十二万則其四割三分七厘ニ当ル、此ノ如ク衆多ナル所以ノモノハ固ヨリ農ニ利アルヲ以テナリ、若シ其収益ノ他業ヨリ少ナキトキハ誰カ農ヲ去テ他業ニ就カザルベケンヤト、是思ハザルノ甚シキ者ト謂フベシ、論者ヲシテ少シク我国ノ習俗ヲ知ラシムレバ何ゾ斯言ヲ出スアランヤ、夫我国ノ農ニ従事スルモノハ多クハ祖先ノ業ヲ嗣キ苟クモ之ヲ廃スレバ箕裘ヲ棄テ家訓ヲ亡ス者ト目シ、而シテ其遊惰放逸ニシテ産ヲ破ルニ非ルヨリ皆家訓ニ遵ヒ箕裘ヲ嗣デ一ニ祖先ノ業ヲ墨守シ敢テ他ノ利害得失ヲ顧ミサルヲ常トス、然而シテ沿襲ノ久キ純朴風ヲ成シ終ニ以テ己ガ性トナルニ至レリ、然リト雖モ近年気運漸ク変シ郵便電信等ノ便普ク全国ニ及フヲ以テ辺境僻陬ノ民ト雖モ大ニ社会ノ現象ヲ暁リ、民生営業ノ甘苦ヲ解シ遂ニ地租ノ重苛ナルヲ覚ヘ訴テ以テ免カレント欲スルニ至ルハ実ニ時勢ノ然ラシムル所ナリト謂フヘシ、故ニ今ニシテ之レカ良計ヲナシ、務メテ農民ノ余裕ヲ謀ラザレバ仮令政府ノ圧抑ヲ以テスルモ得ベカラザルヘシ
地租ノ重苛ナルガ為メニ農産ニ於テ利益少ク従テ生産ノ蕃殖セサル理由ハ既ニ陳ル所ノ如シ、是レヲ以テ我ガ政府ハ鋭意ニ計画シテ更ニ地租ヲ減シ道路ヲ刪開シテ運輸ヲ快通シテ以テ大ニ謀ラザルベケンヤ、然レトモ此改良ヲ求ムルハ宜シク其財政ノ如何ヲ審査セザルベカラズ今我ガ政府ハ五千五百万円ノ歳入額アリト雖トモ百事改良ノ際其余贏ヲ得ザルハ当会議所ノ嘗テ信ズル所ナリ、然則他ノ商税ヲ起シテ之ヲ
 - 第17巻 p.192 -ページ画像 
補ハンカ、我ガ政府ハ曩キニ地租改正ノ為メニ減却スル所ヲ以テ他ノ商税ヨリ補ハン事ヲ計リ業既ニ印紙郵便禄税酒造煙草等ヲ以テ尽ク収税物トナス、是ニ於テ地租ヲ減省スルノ急務タルハ既ニ陳スル所ノ如シト雖モ復タ是ガ為メニ輙ク他ノ商税ヲ起スヲ得ベカラズ、既ニ之ヲ得ルベカラズ乃チ已ムベキカ、曰ク否、我政府ノ速ニ条約改正ヲ決行シ其税則ヲ改定シテ以テ輸入品ニ相当ノ税額ヲ増加スルハ則チ此時ニアルナリ、且輸入税ヲ増加スルハ唯ダ此事ニ関スルノミニアラズ又甚タ大関係ノ事アリ、曰ク何ゾヤ、我ガ外債償却ノ元利金是ナリ、蓋シ此項ニ於ル必ズ真貨ヲ以テ充テザルベカラズ、而シテ我国ノ真貨ニ於ル開港以来比年貿易ノ権衡相称ハザルヲ以テ次第ニ輸出シ、既ニ今日ニ至テハ殆ント乏絶ヲ告ケ通貨トナシテ用ユルヲ得ザルニ至ル、故ニ我ガ政府ノ従来信義ヲ外債ニ於テハ失ハザルモ他日或ハ蹶蹉ノ憂ナキヲ保ツベカラズ、之ヲ今日ニ計テ他日ノ窮ヲ免カルヽ者ハ関税ニアラズシテ収ムル者アルナシ、又其真貨ヲ要スル者ハ独外国債ノミニアラズシテ内国債ノ如キモ今日ノ如ク不換紙幣ヲ以テスルハ豈正当ノ理ト称スルヲ得ンヤ、然則今日条約ヲ改正シテ輸入税額ヲ増加スルハ之ニ勝ルノ急務アルヲ見ス、是ニ於テヤ其地租ヲ減シテ物産ヲ増殖シ貿易ヲ拡張シ外債支償ノ計ヲ立テ而シテ我国ノ信憑ヲ保全セント欲スルハ洵ニ適実ノ挙タルヲ信ス(以下次号)


東京経済雑誌 第一四号・第四七七―四八一頁 明治一二年一一月一五日 条約改正建言(前号ノ続キ)(DK170021k-0003)
第17巻 p.192-196 ページ画像

東京経済雑誌  第一四号・第四七七―四八一頁 明治一二年一一月一五日
  条約改正建言 (前号ノ続キ)
論者又或ハ謂ハン、既ニ政府ヲシテ歳入ノ増加ヲ海関税ニ望マシムレバ輸出品ニ於テモ亦其ノ税ヲ増加スベシト、嗚呼惑ヘルノ甚シキナリ前ニ陳ブル所ノ地租ノ軽減ヲ望ムハ、農産ノ余裕ナラン事ヲ謀ルニ在リ、而シテ我輸出品ノ農産ニ多キモ既ニ前ニ陳ブルガ如クナレバ若シ輸出品ニ課税ヲ行ヘハ地租ニ収ムルト何ソ撰ハン、故ニ輸出品ニ課税スルハ農民ノ余裕ヲ妨クル事固ヨリ論ヲ俟タス、是ヲ以テ当会議所ノ意見ハ唯ニ輸出税ヲ増スヲ欲セザルノミナラズ畢竟課セザルノ宜キヲ望マザルベカラズ、論者又謂ハン、輸入品ニシテ税額ヲ増ストキハ其影響施チ物貨ノ価額ヲ騰上シ、内国消費者ヲシテ其価値ヲ弁セシメザルヲ得ズシテ、其損失ハ独リ消費者ニ止ラズ恐ラクハ将ニ貿易ノ衰頽ヲ醸成セントス、果シテ然ラバ其結果ハ内外人民ノ相共ニ損害ヲ蒙ムルノ不幸タルヤ知ルベキナリト、是亦皮相ノ見ト謂フベキナリ、見ルベシ、我国生産者ノ生計上ニ於テ最モ多ク消費スル所ハ飲食トナシ、衣服器什家屋ハ之ニ次グ、而シテ今日輸入品ニシテ生産者ノ消費ニ供スル者ハ木綿糸金巾石油其他一二品ニ止マリ、之レヲ其飲食ノ消費ニ比スレバ僅ニ十ノ二三ニ過ギズ、然ラバ則チ此等輸入品ノ商価《(高カ)》ヲ成スモ何為ゾ生産者ノ生計費ヲ増加シ我輸出品ヲシテ高価ナラシムルノ影響アランヤ、且其輸入品ヲ購買スルモノハ農産者ニ係ルト否トヲ姑ク論セズ其品物ハ概ネ今日ノ慣用品タレバ内ニ其購買力ノ多キヲ加フレバ外ニ其価ヲ増スモ何ヲ以テ買ハザルヲ得ンヤ、試ニ近来ノ輸入物品ノ実況ニ就テ之ヲ看ヨ、時トシテ真貨価位騰上ノ為メ輸入品ノ価直ヲシテ内地ニ不廉ナラシムルモ之ヲ購買スルハ反テ低価ノ日ヨリモ多カ
 - 第17巻 p.193 -ページ画像 
リシ事アルニアラズヤ、是実ニ輸入品ノ多寡ハ其購買力ノ如何ニ在テ価位ノ高低ニ由ラザル事ヲ証明スルニ足レリ、然ラバ則今日地租ヲ減少シテ農産ノ余裕ヲ謀リ道路ヲ刪開シテ運輸ノ賃銀ヲ低減スル等ノ如キハ独内国ノ生産ヲ増殖スルノ要務タルノミナラズ又大ニ輸入品ノ購買力ヲ培養スル者ト謂ハザルベカラス、試ニ我国ヨリ輸出スル物品ニ就テ生産ノ情状ヲ細思セヨ、凡ソ糸・茶・米・麦・樟脳・木蝋.昆布乾鮑等ノ如キ多クハ農産ト海産トニ在リ、現ニ明治七年以降玆ニ五年間ニ於ケル輸出ノ物品ヲ計出セバ即チ左ニ掲載スル如シ

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 品名/暦年  明治七年         同 八年         同 九年         同 十年         同十一年 生粗物    一八、〇六四、九五五   一七、一七三、二七一   二六、三九九、四〇四   二一、八〇九、〇四四   二四、一二一、九〇〇 製作物       六一九、八四八      五六六、五九七      四八八、〇五四      六八八、九二三      七六九、八三六 




右ノ計表ニ因テ細ニ之ヲ観察セバ輸出ノ増殖ヲ資クルモノハ多ク生粗品ニシテ一トシテ農産ニアラザルハナシ、是ヲ以テ我国今日ノ要務ハ之ガ増殖ニ因テ更ニ購買力ヲ増スニ在リ、果シテ此ノ如クセバ輸出漸ク増進シ、輸入随テ加多ナルヲ得、我国貿易振起ノ策一ニ此ニ外ナラザルナリ、若シ之ニ反シテ苟モ其本ヲ勉ムルヲ事トセザレバ到底我生産蕃殖スルノ期ナキヲ以テ我要スル所ノ輸入品ハ金銀ヲ以テ之ヲ購買セザルベカラザルノ理ニ帰セン、而シテ此理タル我国ノ今日ニ実験スル所ニシテ現ニ明治五年ヨリ同十二年六月ニ至ルマデ其貿易ノ差額ヲ償フガ為メ輸出シタル金銀貨幣ヲ算スルニ四千三百三十九万八千五百二十九円三十一銭五厘ノ巨額ニ上レリ、若シ此ノ如クニシテ底止スル事ナケレバ内限リアルノ金銀ヲ以テ外限リナキノ輸入ニ応ズベカラザルヲ以テ、終ニ其極貿易全ク枯凋シ輸出尽キテ輸入モ亦止ムノ惨状ヲ見ルニ至ランモ測知スベカラザルナリ
何レノ地何レノ民ヲ問ハズ其蓄積スル金銀貨ヲ以テ偏ニ他邦ノ物品ヲ購入シテ以唯我需用ニ供シテ已ムノ国ナキハ人ノ能ク知ル所ナリ、蓋シ貿易ノ真理タルハ結合双進ニアリテ、其之ヲ售ルヤ之ヲ買フニ基キ之ヲ買フヤ亦之ヲ售ルヲ勉メザル可ラズ、然ルヲ我国今日ノ如キニ於テハ之ヲ買フテ之ヲ售ルヲ勉メザルモノナレバ、終局前ニ陳スルノ惨情ヲ見ルニ至ルベキハ之ヲ貿易ノ真理ニ照ラスモ灼乎トシテ火ヲ睹ルガ如シ、然ルヲ論者ハ只其購買品ノ価格ヲ騰貴セシムルヲ恐レテ之ガ税額ヲ増スヲ拒ミ、其購買力ヲ生スルノ基本タル農産ニ余裕ヲ生スルニ於テハ之ヲ他人ノ痛痒視スルハ実ニ本ヲ棄テ末ヲ論スルノ言ノミ、是其根幹ノ培養ヲ勉ムルヲ知ラズシテ唯其枝葉ノ繁茂ヲ求ムルノ見ノミ、思ハザルモ亦甚シキモノト云フベシ、倘シ論者猶其謬見ニ執拗シテ輸入品ノ増税ヲ不利トセバ是唯タ己ヲ利スルヲ勉ムルノ偏説ニシテ俚言ニ所謂人ヲ僵スモ尚我得ルヲ求ムルノ暴行ノミ、是実ニ双進連馳ノ理ニ悖リテ貿易ノ罪人ト言フヘキノミ
以上ニ開陳スル所ノ理由アルヲ以テ我政府ハ速ニ条約改正ヲ断決セラレテ内地生産者ニ余裕ヲ与ヘ以テ之カ殖産ヲ奨励シ、之ガ貿易ノ振作ヲ企図セラルベキハ当会議所ノ今日ニ切望スル所ナリ、然リ而シテ此改正ニ関シ当会議ノ併セテ要望スルモノニ至テハ更ニ其項目ヲ掲ケテ以テ之ヲ左ニ上聞セントス
    沿海運搬ノ権ヲ我ニ収メン事ヲ要望スルノ件
 - 第17巻 p.194 -ページ画像 
今回ノ条約改正ニ方ニ沿海貿易ノ権ヲ我レニ収ムベキハ緊要ノ件ニシテ当会議所ノ切ニ之ヲ希望スル所ナリ、蓋シ我国タル四囲海環ナルヲ以テ海運ノ事ニ於テハ最モ以テ講究セサル可ラス、而シテ其之レヲ講究スルハ徒ニ机辺坐上ノ研磨ヲ以テ能ク之ヲ到スヲ得ベカラサレハ宜ク其実務ニ馴練スルノ計ヲ為サヾル可ラス、我政府夙ニ此ニ所見アリ故ヲ以テ早ク已ニ海運ノ業ヲシテ我国ニ成立スルヲ勉メ、爾来其保護ヲ怠ラスト雖モ今日ニシテ若シ之ヲ外国船ニ許ストセハ其練熟スルト否ラサルトヲ問フニ由ナキヲ以テ勢ヒ我海運ノ業ヲ衰頽セシメ甚シキニ至テハ造船ノ業務海員ノ学術等ノ如キモ併セテ萎靡スルニ至ランモ亦知ルヘカラス、是我国ノ情勢ニ就テ沿海ノ運搬ヲ我ニ収メン事ヲ望ムノ実因ナリ、論者或ハ云ン我国ノ海運ハ未タ進歩セシト云フ能ハス僅カニ三菱ノ一会社アルモ政府特別ノ保護ニ成リ立チ独占ノ権ニ抗スヘカラサルヲ以テ他ニ海運ノ業ヲ開クモノナシ、故ニ今日ニシテ外国船ノ沿海貿易ヲ許シテ運輸ノ便ヲ翼クルハ必要ノ事ナリト、是レ所謂其一ヲ知テ其二ヲ知ラザルモノナリ、試ニ本年一月駅逓局ノ調査ニ係ル船数表ヲ閲スルニ、明治三年以来年々西洋形商船ノ我国ニ増加シタルモノ左ノ如シ
 明治三年    船数四十八艘   同四年     同七十二艘
 同五年     同三十同     同六年     同三十一同
 同七年     同二十同     同八年     同四十一同
 同九年     同三十二同    同十年     同五十二同
 同十一年    同五十二同
 同十二年一月現在汽船並ニ風帆船員数
 滊船百六十八艘   此惣噸数四万零六百六十九噸
 風帆船百四十六艘  同二万三千九百六十噸
 外ニ倉庫船三菱会社所有八艘  同八千四百十六噸
 計三百二十二艘  総噸数七万三千零五十一噸
    内
 百噸以上滊船五十九艘  此噸数三万六千二百二十八噸
 同 以下滊船百零九艘  同三千四百四十一噸
 百噸以上風帆船七十艘  同二万零百十噸
 同以下風帆船七十六艘  同三千八百五十六噸
由是観之我国海運ノ進歩ハ大ニ見ルヘキモノアルナリ、又仮令三菱会社ハ政府ノ特殊ノ保護アルモ該社ハ此保護ニ依拠シテ以テ足レリト為スモノナランヤ、今日ノ景況ヲ以テ之ヲ観ルニ益々其規模ヲ拡張シ将ニ大ニ為スコトアラントスルモノヽ如シ、即チ現今該社ニ於テハ三十七艘ノ蒸滊船七艘ノ風帆船ヲ貯ヘ其航路モ我国沿海ハ神戸・大坂・四日市.清水・下ノ関・高知・長崎.鹿児島・大島・琉球・伏木・堺・新潟・函館・青森・酒田・八戸・寒風沢・舟川等ノ緊要諸港ハ一トシテ航通セザルナク海外モ亦已ニ上海・香港・朝鮮ノ定航ヲ開ケリ、僅ニ数年間ニシテ如斯進歩シ其勢駸々タルヲ以テ外見上或ハ独占ノ権アルガ如シト雖モ実際決シテ然ルニアラザルナリ、試ニ今我国近今増加スル所ノ西洋形船舶ノ数ト及ヒ其所有主ノ人員トヲ挙テ以テ其実ヲ証明センニ、現今蒸滊船ノ総数百六十八艘ニシテ内三菱会社ノ属船三十
 - 第17巻 p.195 -ページ画像 
七艘ヲ除キ自他百三十一艘ハ百七名ノ所有ナリ、又風帆船ノ総数ハ百四十六艘ニシテ内三菱会社ノ属船七艘ヲ除キ自他百三十九艘ハ百三十一名ニ所属セリ
夫我海運ハ如斯進歩ヲ呈セリ、而シテ世人既ニ該業ノ利益アルヲ覚知シタレバ将来相率ヰテ此ニ資ヲ投シ、新船ヲ造リ此業ヲ拡張セント計画スルハ更ニ疑ヲ容レザル所ナリ、彼ノ三菱会社独占云云ノ如キハ固ヨリ妄測ニシテ歯牙ニ懸ルニ足ラズト雖モ、政府ノ該社ヲ保護スルハ会社ヲ保護スルノ趣旨ニアラズシテ海運ヲ保護スルノ主旨ニ出ルヲ知ラハ何ゾ此妄測ヲ為スニ至ランヤ
抑モ郵便船ニ保護ヲ与フルハ豈唯我カ政府ノミナラズシテ英仏等皆然リ、況ヤ我国今日ノ情勢ニシテ之ヲ保護スルハ固ヨリ当然ノ事ト謂フ可シ、故ニ将来万一該社ニシテ専横ニ流レ、一般ノ妨碍ヲ為ス事アラバ必ラズ政府ハ之ヲ責罰スベク人民モ亦悪ゾ其専横ニ鬱屈シテ已ンヤ且夫レ外国船舶ノ我国沿海貿易ニ干与スルノ極テ少ナキノ実アルヲ示サバ其貿易ニ不便ヲ与フベカラザル所以ヲ明知スルニ足ルベシ、則チ神戸居留外国商法会議所ヨリ英公使ニ上聞セシ書面ニ拠レバ、千八百七十八年一月一日ヨリ九年五月卅一日迄十七ケ月間ニ該港ヲ発着セシ外国船ノ我物産ヲ運搬セシモノ総計十八回ニシテ其運賃ハ一万三千三百七十五弗五十セントニ過キズ、然ルニ我三菱会社ガ昨明治十一年一月一日ヨリ同年十二月卅一日迄一週年間ニ東京ヨリ神戸ヘ往復セシ船数(北海廻リ等ノ船舶ニテ寄港セシ分及ヒ其運賃ヲ除)ハ百七十九回ニシテ其運賃ハ卅万零千六百四十円二十六銭五厘ナリ、一会社ノ一部分ニシテ既ニ如斯差違アリ、若シ該社外ノ西洋形風帆蒸気船舶及ヒ在来ノ日本船ヲ加算セハ其懸隔何ゾ啻霄壌ノミナランヤ、或ハ曰ン、我物産ヲ外国船ニ搭載シテ沿海ヲ運搬スルニハ甚ダ煩労ナル手数アルヲ以テ前ノ較計ヲ以テ遽カニ積荷ノ多寡ヲ較スベカラズト、此言或ハ然ラン、然リト雖トモ仮リニ我運輸ノ途甚不便ニシテ外国船ニ依頼セザルヲ得ザルモノトセバ何ゾ外国船ニシテ如斯キ少量ニ止ランヤ、是レ外国船ノ翼ケヲ借ラスシテ我物産ノ運搬ニ於テ其用ヲ達シ得ルヲ証スルニ足レリ
又或ハ曰ン、沿海ノ運輸ヲ外国船ニ許サバ互ニ相競争スルヲ以テ運賃低落シ、商賈ノ便蓋シ少カラザルベシト、是レ亦持久スベカラザルノ見タリ、試ニ思ヘ其競争スル内外ノ当業者ヲシテ能ク対峙スルノ間ハ或ハ低価ヲ保ツベシト雖トモ、素ト真ノ価ニアラザルヲ以テ其ノ一方ノ挫屈スルニ至ラバ忽チ昂騰スルヤ必セリ、故ニ決シテ之ヲ平常ニ望ムベキニ非ザルナリ
且ツヤ我国造船ノ業タル未タ完全ト云フヲ得ズト雖モ、政府ノ手ニ属スルモノニシテ神戸・長崎・横須賀アリ、人民ノ手ニ属スルモノニシテ大坂・東京・神戸・函館等アリテ孰レノ造船廠モ皆工事繁忙ヲ告グ其造ル処ノモノ皆悉ク定則ニ適当スルモノナリト謂ヲ得ザレトモ、之ヲ従来ノ和船ニ比較セバ其強弱ノ論ニ非ズ、殊ニ近頃海上保険会社ノ創立爾来駅逓局ヨリ委員ヲ派遣シ船体ヲ検査シテ海上保険ヲ為サシムルヲ以テ、運搬ヲ事トスルモノ漸ク粗造ノ為スベカラザルヲ覚リ、今日ヨリ後チ必ラズ定制ニ適合スベキ船舶ヲ造ラントスルヤ必セリ、而
 - 第17巻 p.196 -ページ画像 
シテ貨物ノ運搬モ此保険ノ道開ケシヲ以テ亦漸ク安全ナルヲ得レバ一層ノ増進ヲ呈スベキハ亦タ必然ナリ、左ニ保険会社ノ創立以来今日ニ至ル迄検査ヲ経テ保険ヲ附スルノ船数ヲ挙グレハ五十八艘ニ及ヒ其噸数ハ三万千八百七十七噸ニ出ヅ、此実況ヲ詳知セバ外国保険会社モ亦東京保険会社ノ保険ヲ附スル駅逓局ノ検査ヲ受ケン日本船舶ニハ同シク其荷ノ保険ヲ付スルニ至ルヤ当会議所ノ疑ハザル所ナリ、然ルトキハ内外貿易者ヲシテ沿海運搬ノ不便ヲ訴フルニ至ラザラシムベシ、然ルヲ強テ外国船ニ許ストセバ、我国将来伸張スベキ海運ノ業ヲ阻碍シテ却テ退縮萎靡スルノ大害ヲ招クベク、海運ノ興廃実ニ此一挙ニアルベキガ故ニ、今回条約ノ改正ニ方リ飽迄沿海貿易ノ権ヲ我ニ収メラレン事ヲ切望セザル可ラザルナリ         (以下次号)


東京経済雑誌 第一五号・第五〇九―五一二頁 明治一二年一一月二九日 条約改正建言(DK170021k-0004)
第17巻 p.196-200 ページ画像

東京経済雑誌  第一五号・第五〇九―五一二頁 明治一二年一一月二九日
  条約改正建言
    開港場ノ増設ヲ要望スル件
目下全国中ノ開港場互市場ヲ数フルニ僅々五港二市ニ過ギザルヲ以テ各地方ノ物産ハ一旦之ヲ其開港場互市場ニ運搬シテ外商ノ需メニ供セザルヲ得ザルナリ、然リ而シテ眼前ノ現状ヲ以テスルトキハ我ガ国物産ノ貿易ハ既ニ在来ノ開港場ニ於テ販売ノ慣習ヲ占メタレバ、仮令生産接近ノ地ニ於テ新タニ開港場ヲ増設スルモ敢テ此ニ依ラスシテ、例ヘハ生糸ハ横浜ニ、茶ハ横浜及ヒ神戸ニ輻輳スルカ如ク、其売買常ニ繁劇ナル地ニ集合スルハ自然ノ勢ヒナレバ、為メニ外国商賈ヲシテ移住ヲ促シ、更ニ商売ヲ開クモノ少ナカルベシト云フモノアラン、然リト雖トモ抑モ当会ノ今日更ニ数港ノ開設ヲ要望スルモノハ必要ノ理由有テ存スルナリ、乞フ之ヲ左ニ陳セン
我国ノ石炭ハ漸ク東洋一般ノ需用スル所トナリ、就中支那ニ輸出スルモノ甚ダ多シ、今明治十一年度輸出ノ数ヲ挙レバ十二万三千三百八十二噸ノ多キニ至リ、猶ホ逐年増加スベキハ必然ニシテ、現ニ近今ニ至リ外国ノ産炭ヲ消費スルヲ減シ益々我ガ石炭ヲ需用スルノ勢トナルガ如シ、而シテ我ガ炭坑ノ事業モ漸ク其力ヲ暢ヘ、器械ヲ購ヒ滊船ヲ備ヘ大ニ進捗ノ実勢ヲ呈シ遠カラズシテ東洋各地ノ人民ヲシテ廉価ノ石炭ヲ使用スルヲ得セシムルノ功ヲ奏セン、然リト雖トモ之レヲ海外ニ輸出センニハ一旦近傍ノ開港場ヘ迂廻シテ輸出ノ順序ヲ踏マザルヲ得ズ、於是唯リ冗費ヲ要スルノミナラズ従テ空シク時日ヲ消費スルヲ以テ暗ニ幾分ノ障碍トナリ其進歩ヲ沮凝ス、即チ彼ノ高島唐津ノ満島、多久ノ住ノ江ニ於ル如キハ是非トモ長崎ヘ迂廻セザルヘカラズ、又不日ニ工業ヲ竣功スヘキ北海道幌内・岩内ノ炭坑ノ如キモ弥輸出スルノ時ニ方ラバ必ズ函館ヘ迂廻シテ然ル後外国ヘ廻漕セザルヘカラズ、若シ依然如斯為体ニ固着セバ炭坑ニ従事スルモノヽ利益ヲ収ムルヤ甚ダ困難ナルベク、且ツ将来該業ノ進歩ヲ謀ルノ術ニアラザルベシ、加フルニ之レヲ消費スルモノ亦従テ幾分ノ利益ヲ殺減セラルヽハ免カレ難キ所ナリ
又近年我ガ国ノ米ハ大ニ欧洲ノ嗜ム所トナリ、其需用漸ク増加シ其価モ印度米ニ比スレバ殊ニ貴ク日ニ増シ其差ヲ大ニスル勢アリ、然レト
 - 第17巻 p.197 -ページ画像 
モ当初ハ未ダ一定ノ輸出品タルノ地位ニ至ラザリシユヘ、其輸出セシモノハ多ク政府ノ貯蔵米ニ止マリシモ、爾後ハ必ズ普通商賈ノ輸出品トナルヤ何ゾ疑ヲ容レン、且ツ夫レ濠洲・支那等ニ於テ不作ノ事アラバ我ガ米麦ヲ以テ之レヲ補欠スルノ便アルノミナラズ万一我ガ国凶歉ノ不幸アラバ又支那米ヲ以テ之レヲ救ハザル可カラズ、然リ而シテ此米ナルモノ石炭ト同ジク層大ニシテ運搬不便ナルヲ以テ、輸出入共一旦開港場ヘ繋船スルモノトセバ為メニ幾分ノ価格昂貴シ、一ハ物産奨励ノ主義ニ悖リ、一ハ我ガ不幸ヲ救フノ術ニ疎ナルモノト云フベシ、加フルニ外国商賈ノ為ニモ貿易品ノ一部ヲ局塞不自由ナラシムルモノナリ、試ニ観ヨ新潟港ノ明治八九年ニ巨額ノ米ヲ輸出セシハ全ク該地ノ開港場タリシヲ以テナリ、而シテ近傍ノ不開港場ニ比較スレバ該地ハ常ニ価格ノ昂貴ヲ保チ、其地方ノ農家ニ利益ヲ得セシメシハ果シテ幾干ソヤ、又之レガ為メ外国商估ノ獲タル利益モ蓋シ鮮少ニアラザル可シ、是レ何ニ依ルゾ、皆ナ直接ニ海外ヘ輸出スルヲ得レバナリ
実勢既ニ前陳ノ如シ、故ニ当会ハ如斯重要ナル物産即チ石炭ノ為メニハ其各地ノ海浜ヲ以テシ、米ノ為メニハ下ノ関・伏木・石ノ巻等ノ如キ輻輳スルノ地ヲ以テ開港場トナシ、故ラニ隔地ニ迂廻スルノ労費ヲ省殺セラレン事ヲ切ニ要望スル所ナリ
    輸入定額税ヲシテ不平均ナカラシメン事ヲ要望スル件
海関税ノ徴収法ハ従量税ヲ良シトスルヲ以テ、勉テ其従価ノ者ヲシテ従量ニ改定スルヲ望ムト雖モ、従前ノ税額中ニハ往々不公平ナキヲ免レズ、是亦貿易ノ為メニ障害ヲ与フルモノト云フヘシ、譬ヘバ羅紗綿布ノ如キハ幅員ノ広狭、品位ノ優劣アリテ其名ハ一ニシテ其位ニ至ツテハ甚シキ差アルモノアリ、如此ク品位相異ナル物品ニ於テ同一ノ税ヲ収ムルトキハ甚タ不公平ト云ハザルヲ得ザルナリ
是ヲ以テ当会所ノ要望スル所ハ幅員ノ広狭、量目ノ軽重等ニ就キ適宜ノ区別ヲ為シテ以テ可及的平準ヲ得セシムルニ在リ、然リ而シテ之ガ方法ノ如キハ政府ノ裁定ニ在ルベシト雖モ、当会議所ニ於テモ亦其考案ナキニ非ラズ、幸ニ下問セラルヽ栄ヲ得ハ、更ニ詳悉上陳スル所アラン
    海関ニ於テ借庫ノ増築ヲ要望スル件
海関ニ於テ借庫ヲ増築シ、一般商估ノ需メニ応ジ、廉下ノ借庫料ヲ以テ之ヲ貸与スルハ我貿易ヲ振起スルノ一大基本タルハ当会議所ノ深ク信スル所ニシテ、之ガ増築ヲ切望スルヤ久シ、抑モ従前貿易場引取売込物品ノ取扱タル海関ニ倉庫ヲ設ケ在リト雖モ其数ノ乏シキト其借料ノ不廉ナルトヲ以テ貨物ノ倉入ニ十分ノ誘導ヲ与フル事能ハズ、故ニ輸入貨物ノ如キハ先ヅ其本船ヨリ卸シテ埠頭ニ上ボセ次ニ外商館内ノ倉庫ニ運送シ、我商人ノ之レヲ買収スルヤ再ビ之ヲ埠頭ニ出シテ船積ヲ為スヲ例トシ、輸出物品ノ如キモ亦但ダ其順序ヲ殊ニスル迄ニテ其手数ノ煩雑ナル事ハ彼是同一ナルヲ以テ之カ為メニ費用ノ増加スルハ論ヲ竢タサルナリ、凡ソ今日外国ヨリ輸入スル貨物ハ概ネ荷物為替金ノ貸付ケアルヲ以テ其金員ノ返還ヲ為サヽレハ銀行ハ荷物ノ倉出シヲ許サス、故ニ我商人ノ之ヲ買収スルモノハ先ツ代金ヲ収メ、然ル後貨物ノ撿査ヲ為シ之ヲ引取ルヲ常トス、又売込貨物ハ先ヅ之ヲ彼カ倉内
 - 第17巻 p.198 -ページ画像 
ニ運入セシメ一片ノ預証書ヲモ要収セズシテ数日間差置キ撿査ヲ為シ然ル後売収ノ成否ヲ報ズル等、我商估ニ取テハ不当ノ処置ヲ蒙ルモノナリ、是畢竟彼ノ倉庫ハ其蔵ムル所ノ物品ハ悉ク火災保険ヲ為スト雖モ我ハ乃チ然ラザル等ノ不便アルニ縁由スルモノト雖モ、今ニシテ之ガ矯正ヲ為サヽレバ我商估ノ損害ヲ被ムルモノ年ニ益々多カラン、爰ヲ以テ当会議所ノ要望スル処ハ埠頭比連ノ地ヲ開キ数宇ノ官庫ヲ新築シ、輸出入物貨ノ為メニ貸倉ニ充テ而シテ廉下ノ倉敷料ヲ以テ之ヲ貸与シ、且其預ル処ノ物品ニハ蔵預リ証券ヲ発付シ、而シテ其売買ハ見本ヲ以テシ、受渡ハ倉庫ニ於テ為サシムルニアリ、若シ夫レ如此セバ数次運搬ノ労ナク随テ其費ヲ省キ従来取引上ノ弊風ヲ匡正スルヲ得可シ、然リ而シテ新築官庫借庫料ノ如キハ当会議所意見ノアルアリ、他日御下問ヲ蒙ルノ栄ヲ得バ更ニ其考案ヲ上聞セント欲ス
    戻リ税ノ方法ヲ創設セラレン事ヲ要望スル件
戻リ税ノ事タル大ニ商賈ノ便益トナルノミナラズ条理ヲ糺スモ亦然ラザル可カラザルヲ以テ、当会議所ハ予テ輿論ノアル処ヲ賛成シテ倶ニ懇請スル処ナリ、抑モ戻リ税トハ一旦輸入セシ物品ヲ再ビ外国ヘ輸出スルニ当リ、最前収入セル税額ヲ返還スル事ニシテ、欧米支那各国ノ現ニ行フ処ナリ、其法タル粗密一ナラズト雖モ当会議所カ懇請セント欲スルモノハ其密ナルモノニアリ、即チ輸入品ノ其輸入セシトキノ儘ニテ再輸出スル者ハ勿論、其形チヲ変ジテ再輸出スルモノ、例ヘバ台湾ノ赤砂糖ヲ輸入シテ内地ニ於テ精製シ、白砂糖ヲ棒砂糖トナシ、又英国ノ綿糸ヲ経トシテ我ガ綿ヲ緯トシ織リタル反物ヲ輸出スルトキノ如キ、其実跡ヲ関税局ニ証明セハ則チ最前収入セシ輸入税ヲ還与スルニアリ、此事タル頗ル手数ヲ要スベシト雖トモ還与ノ税ハ敢テ大数ニ至ラズシテ其名正シク且大イニ開港場ノ繁昌ヲ促スノ一助タル而已ナラズ亦内国製造ヲ奨励スルノ一原由トナラン、其方法規則ノ如キハ当会議所考按ノアルアリト雖モ、一言ノ能ク弁ズベキニアラザルヲ以テ更ニ他日ヲ期シ之ヲ上聞セント欲ス
    輸入品評価ノ法則ニ改正ヲ要望スル件
凡ソ外国ヨリ輸入スル物品ノ価格ニ依テ其荷主ノ告クル処不相当ト認ムルトキハ、海関ハ評価人ニ命ジテ其価格ヲ鑑定セシメ之レニ適スル税額ヲ徴収スルヲ要ス、然ルニ若シ其荷主ニ於テ評価ニ従ヒ納税スル事ヲ肯セザルトキハ、其貨物ヲ税関ニ収買スルハ目今ノ法ナリ、此法タル一利ナキニアラズト云トモ畢竟自カラ弊竇ヲ設ケテ奸商ノ穽ニ陥ルモノヽ如シ、何トナレバ或ハ奸商ノ我ガ税関評価ヲ以テ収買セザルベカラザルニ乗シ、偽造ノ貨物ヲ輸入シ、故ラニ其価格ヲ賤フシ、我ガ評価ノ定マルヲ俟チ遽カニ拍手シテ以テ売却スルノ計ヲナス者アリ是其評価ヲ為ス只其商標ヲ認メテ評定シ来ルヲ以テ、商標若シ偽作ナルトキハ其評価ハ為メニ彼ガ術中ニ陥ルノ徒法ノミ、今ニシテ此弊ヲ防ガント欲セハ従前評価上ノ法ヲ廃シ、更ニ内外適当ノ商人ヲ選挙シテ評価人ヲ置キ、荷主ヨリ告グル処ノ価格ニ不相当ノモノアルヲ認ムルトキハ此評価人ノ鑑定査報ヲ徴シ、之レニ由テ必ズ収税シ、税関ニ収買スルノ法ヲ停止スベシ、此ノ如クナレバ其奸計ヲ施スニ術ナクシテ相当ノ税額ヲ徴収スルヲ得ヘシ、是レ当会議所ガ評価ノ法則ニ改正
 - 第17巻 p.199 -ページ画像 
ヲ望ム所以ナリ
    輸入品課税ノ方法ニ改正ヲ要望スル件
現行ノ海関税則ニ拠レバ輸入品従価税ノ徴収法ハ、其品物ノ目録ニ記載スル処ノ原価ニ従ヒ之ヲ徴収スルモノニシテ、其法ハ則チ簡、其事ハ則チ易ト雖トモ、倩ラ其条理ノ果シテ如此ナルベキヤ否ヲ考察スレハ其方法甚タ宜シキヲ失シ、却テ条理ニ悖ルモノアルヲ知ル、今左ニ其然ル所以ヲ陳セン
凡ソ収税ノ公平ヲ得ルモノハ遠近各国ヨリ搭載シ来リタルモノヲシテ其徴収ノ割合ニ於テ偏軽偏重ノ弊ナカラシムルニ在リ、然ルニ現行収税法ヲ以テセバ此弊ヲ免カレザルモノアリ、何トナレバ輸入品物ノ目録ニ記載スルモノハ製産地ニ於テ買出ノ元価ニシテ之ヲ船積スル港場ノ市価ニ非ズ、故ニ産地ノ原価ト《(ノ)》港場ノ市価ニ比スレバ廉低ナルヤ明ケシ、今之ヲ英国ヨリ搭載シ来リタルモノニ譬ヘンニ「マンチヱストル」製造処ニ就キ金巾ヲ購求スルモノト、之ヲ倫敦市場ニ買収スルモノト其目録ノ原価孰カ貴ク孰カ賤キ、其果シテ倫敦ニ貴キモノハ「マンチエストル」ヨリ港場ニ提出スル運送費ヲ加フルニ拠ルモノニ非ズシテ何ゾヤ、然ルニ該金巾ノ我港場ニ到着シ収税スルニ方リ、税関ハ其目録ニ基キ課税スルトキハ「マンチエストル」ニ於テ目録ヲ付シタルモノト、倫敦ヨリ仕出シタルモノト同一ノ金巾ニシテ其元価相異ナルモ税関ハ此元価ニ従テ之ガ収税ヲ為サヽル可ラス
且ツ其収税ニ軽重アル独リ同国ヨリ舶載スル同一ノ品物ニ止ラズ、其各国ヨリ搭載シ来タルモノニ於テハ更ニ其偏軽偏重タルヲ免カレザルナリ、譬ヘバ綿糸ノ如キ其輸入ハ英国並ニ印度ノ両国ヨリス、而シテ英国ハ我ニ遠ク印度ハ我ニ近クシテ同ク之ヲ搭載シ来タルモノハ英国ノ元価ハ印度ニ比スレハ運賃ノ多キヲ払フ丈ケハ廉低ナラザル可ラズ然ルニ其我港場ニ到着スルニ当リ、其元価ニ従ヒ収税スルトキハ印度ニ重ク英国ニ軽キハ自然ノ理ニシテ要スルニ近国ヨリ来リタルモノニハ税重ク、遠国ヨリスルモノニハ税軽キヲ免カレス、此理ヲ以テセバ其品物ハ同一ノモノタリトモ国ノ遠近ヲ以テ其税ニ軽重ノ別アリ、豈其収税法ヲ以テ公平ヲ得タルモノト云フベケンヤ
現行従価税則ノ公平ヲ得ザルノ理由ハ前ニ陳述スルガ如シ、故ニ今回ノ改正ニ当リテハ、政府ハ従前ノ如ク目録ノ原価ニ従フノ法ヲ改メラレ、而シテ此原価ニ加フルニ港場迄ノ入費ハ勿論又我国ニ運送スル迄ノ運搬費用ヲ以テシ、其総額ニ従ヒ収税スルトキハ、其税ハ国ノ遠近ニ従テ軽重ナク果シテ公平ヲ得ベキガ故ニ、当会議所ハ此ノ現行ノ税ニ軽重アリテ公平ヲ得ザルノ理由ヲ開陳シテ以テ之レガ改正ヲ望ム処ナリ
    海関税ハ我本位貨幣ヲ以テ徴収セラレン事ヲ要望スル件
現行条約ヲ各国ト締結シタルノ時ニ於テ、一分銀ヲ以テ収税ヲ定メタルモノハ、当時貿易ノ標準ト為スヘキモノハ独リ此貨幣アリシニ由レリ、然ルニ外国人ハ収税ノ時ニ方タリ一分銀貨ヲ得ルニ苦シムノ状アリシガ故ニ墨銀ヲ以テ納税ニ併用スルヲ許シ、此一分銀三百十一個ヲ以テ墨銀百弗ニ交換スルヲ約セリ、然ルニ此割合ノ適当ナラザリシヨリ今日ニ至ル迄我政府ガ収税上ニ損失ヲ被ムリタル少ナカラザリシハ
 - 第17巻 p.200 -ページ画像 
又止ムヲ得ザルノ惰勢ナリト雖トモ、既ニ我本位貨幣ヲ制定シタルノ今日ニ於テハ総テ此本位貨幣ヲ以テ収税スベキハ理ノ当サニ然ルベキモノナルガ故ニ、従前開港場ニ在テ貿易ノ媒介ヲ為シタル墨銀ノ如キモ断然之ヲ拒絶シテ之ヲ収税ニ使用スルヲ許サザルヲ至当ナリトス、如何トナレバ我貨幣ノ如キハ漸ク其信用ヲ支那及ビ「シンガポール」海峡諸港ニ博シ、又我各港市場ニ在留スル外国商估モ皆之ヲ甘受流通セントスルノ意アレバナリ、且ツ夫レ我ニ造幣局アリテ輸入ノ地金ヲ取リテ之ヲ鋳造シ得ルノ今日ニ於テハ、豈敢テ外国貨幣ニ依ラシムルノ理アランヤ、故ニ当会議所ハ今回ノ改正ニ際シ宜シク墨改銀ヲ拒絶シテ以テ独リ我貿易銀ヲ以テ関税ヲ徴収セラレン事ヲ望マザル可ラザルナリ       (畢)



〔参考〕中外物価新報 第二四四号・明治一二年一一月一日 東京商況(DK170021k-0005)
第17巻 p.200-201 ページ画像

中外物価新報  第二四四号・明治一二年一一月一日
    東京商況
条約改正に付き東京商法会議所よりの建言書は本新報第二百三十八号以下に掲載して読者の瀏覧に供せしに、各新聞紙上に於ても同じく之れを録出したれば苟くも一二の新聞紙を看る人は必ず之れを熟読記臆せらるゝ所なるへしと信す、而して此問題たる実に今日の一大急務なるを以て社会の耳目を自任する各新聞記者は各椽大の筆を揮ひ、心世の所薀を叩て論議する所あるべしと推測し、暫らく黙して其状況を窺ひしに、何そ図らん已に半月以上を経過するも僅かに横浜毎日新聞記者の之に向て一論を記せしのみにして其他は未だ一も之を是非する所なく、恰かも他人の痛痒を視るが如くならんとは吾輩の深く怪しむ所なり、抑も各新聞記者は会議所の建議を以て一々記者の企望と一轍に出で毫も遺憾なしとするか、何ぞ之れを賛成して其議の声援を為さゞる、会議所の建議を以て尽く記者の所論に協はすとするか、何そ明かに駁論して其理由を示さゝる、或は今日の急務ならすとして度外視せしか、又或は急務なるを知るも紙数を售るの好種子にあらすとして抛擲する所なるか、嗚呼何そ今日の国家に尽すの不信なるや
眼を転じて横浜の外国新聞を観るに一度び該建言書を訳出せしより之れを論ずる一にして足らず、其の事たる一々感伏する能はずと雖も又務めたりと謂ふべきなり、吾輩は今其大意を摘出して一言の以て其迷妄を破却する所あらんと欲す
(前略) 「此は是れ大蔵卿の東京商法会議所へ下附したる意見書なるへく会議所の建議と思ひしは我々の誤認なるべし」と評し、又或る外国人の説には「此建議書を見るに全く商人の分限を越へたるものにして政事家の論せしことを其儘筆記して会議所の建議と為したるものならん」と書し、又仏人の言を引用して「商人たるものは其売買品には課税の煩ひなきこそ祈望すべきは普通の事にして三尺の童子と雖も之れを知れり、然るに会議所は却て其課税を望んで務て干渉を政府に促すものなり」と云ひ喋々駁撃を試みたり
傍観者をして該建議を評せしめは、或は一人一己の商人が論する所の口気にあらす、恰も施政者の口吻なりと謂はしむる所なきにあらさる
 - 第17巻 p.201 -ページ画像 
を以て遂に外国新聞記者をして直ちに其釁隙に闖入せしめしものならんと雖も、記者にして少しく思ひを凝さば自ら非なるを覚るべし、何となれば抑も外国との条約は我国の全般に関係せり、故に其関係を論ずるや全国公衆の意を体認せざるべからず、是れ自ら其論の政事家の云ふ所に似たるが如きに至るは勢の免るべからさる所ならん、況や今日の実勢一方に向ては財政の急を斟酌せさるへからす、又一方に向ては将来物産を振起し貿易の隆旺を計画せさるへからさるに於てをや、もし我東京商法会議所議員をして、東邦に在る欧商の如く偏に利己の主義に由り奪ひ得へき利益は顧念なく奪取すべしと云ふが如くならしめば、単に眼前利のある所を論ずべしと雖も、該建議を以て想測するに貿易の繁昌を永遠に冀図して目前の自分勝手を唱ふるものにあらざるや明矣、就中政府に向ひ其収税を以て道路橋梁等専ら運搬の便利を開くの目途に充られんことを望み、又正金の収入を増すは漸次政府の国債を正金にて償却するを要望するが如きは極めて全般の便利を謀り永遠の隆昌を冀望する熱心を発露したるものならずや、畢竟外国人等の我が人民は従来卑屈にして政治経済貿易等は皆政府に任放し敢て意とせざるを以て、如此建議の卑屈の脳漿より出るものにあらすと妄断蔑視せしに、事意外の点に出しを以て曲接に斯る誹謗を吐きたるならん、若し我議員をして一己眼前の利を汲々是れ計り其云ふ所亦利己主義に止らしめは彼れ却て正理堂々の筆を以て之れを攻撃するならん
外国記者又云ふ(上略)航海事業の如き、試に思へ、親しく商業に従事し其得失を蒙りしものゝ政府に建議せんに人民の意を挫き殖産の障碍共なるべき策を献するものありや、決してなかるべし、商法会議所も已に専売の社会に害あるを知りながら却て日本諸港は物産の出入甚だ不自由にして大ひに妨碍あるを知らざるが如し、看よ日本は三千五百万の人口ありながら陸地の八九は未だ荒蕪にして本年穀類の輸出高二百五万百六十四弗に過きず、此れを以て夫の合衆国に比するに人口は日本と大差あるなしと雖とも物産を運搬するに車を以てし、数千里の遠きも容易に市港へ運搬して外出す、現に昨年の農産輸出高は五億九千二百四十七万五千八百十三弗の多きに至り、該国輸出惣額の八割二分を占めたり、而して之れを日本農産の輸出に比すれば五億九千万の大差を見る、是れ前に所謂の妨碍あるに由てなり云々(以下次号)



〔参考〕中外物価新報 第二四五号・明治一二年一一月五日 東京商況(前号の続き)(DK170021k-0006)
第17巻 p.201-204 ページ画像

中外物価新報  第二四五号・明治一二年一一月五日
    東京商況(前号の続き)
外国新聞記者又曰く、東京商法会議所は只管に政府の商売に干渉するを望み、其専横を逞ふせしめ啻に外国人のみに限らず内国商人の為めにも各港口を閉鎖して商売の途を不自由ならしめんと望み、彼の自由共和国の穀類を外国へ販売して得る所の富源は如何なる点に在るかを忘失せしものゝ如し、良しや米国の沿海運般は外国船に許さゞるも其事情日本と同一視すへからず、現に米国有名なる経済学士は大ひに其非を鳴らして論弁する所なれば今余々が弁明せざるも会議所議員は自ら覚る所あるべしと信す、抑も米国は各港至る所貿易の地ならさるなし、而して昨年全輸出の金額中八割二分は外国船の輸出に係れり、又
 - 第17巻 p.202 -ページ画像 
千八百五十八年(安政五年)には米国船に搭載せし輸出入物貨の数中七割三分七厘なりしに、其後廿年の今日は二割六分三厘に減退し、外国船の運搬を増加せしめたり、試に東京商法会議所に向ひ日本現今の航海事業を以て人民の意に飽き足るもの乎と問はゞ必ず否と云はざるを得さるべし
陸前・陸中の人民にして米穀豊饒したるを見て充分の資本を活用せんと欲するものは第一に海運の便利を冀望して其事業の自由ならざるを呶々すべし、果して然らば啻に大市場近辺の者而已ならず各地一般同一の歎なかるべからず、倘し当時の運輸を以て足れりと為すものは即ち生産者をして那の独専者の嵌制を甘受すべしと云ふに異ならず其独専者をして十分に船舶を増加せしむるに至らざる間は日本の輸出は決して進歩するを得ざるべし、商法会議所にして豈に航海業の独専権あるは国家の大害社会を貧困に陥らしむるの蠧毒たるを知らざらんや
又曰く、那の独専者が政府の威権を借りて競争者を亡滅したることありしを以て大に商賈の航海事業を起すの念を挫折せり、今後仮令独立結社して之れと競争するものも到底敗亡に帰し、独専者の損失は又政府之を弁償すへし、是れ則ち航海事業を自由にするの策にあらすして却て之れを妨くるものなり、然るを尚ほ商法会議所は執拗にも如此所置に出でしめんと欲するや(中略)若し該社にて船舶を購求するとせば敢て難事にあらざれども、一商売の此業に資本を投し、及ひ外国船を傭使せんと欲せは其約束上大に政府の干渉を蒙らざるを得ず、然るに会議所の云ふ如く該業に独専者なしとせば何の故に日本船舶と其自由を異にするや、今一歩を退き会議所の建議の如くせんにも船長・機関手等は悉く日本政府の免状を持し、海員は日本人何名、西洋人何名と相比して乗組しむるも理の当に然る可き所なるに、会議所は一言の之に及ふなく度外視せしは抑も何そや
外国新聞記者の云ふ所概ね此の如し、記者は恐らくは全体の主旨を読了玩味せず単に一節目にのみ眼を注き此説を下せしものにはあらざる歟、吾輩の見を以てすれば東京商法会議所は深く察する所ありしや言を竢す、其穀類・石炭の如き大なる産物に就きては便宜の地を以て新たに開港場と為さんと望みし如きは即ち我が物産の輸出を便にし、大ひに之れを奨励するの方策にして記者が引用せし米国云々の主旨に外ならざるなり
外国新聞記者は沿海貿易の権を我れに収むるを以て不是なり不便なりとして、百方説を設け喋々すると雖も、条理よりすれば則ち万国普通の権利なり、便利よりすれば目前を捨て将来を慮らざるべからざるなり、爰に一商估あり、船舶を要するの業体なれば或は外国に購求し或は内地に新造し漸次数隻の船を増加せんと企図せり、吾輩試に之れに向て曰く、聞く近日条約改正成るの後は我が沿海の運輸は内国人の使傭する外国船には之れを許すの説あり、果して然るも子は能く今日の方向を変せず尚ほ船数を増加せんとするかと問ひしに、商估は喫驚して曰く、万一にも如此き挙あらば今日よりして平日の熱心を抛擲し船数の増加を不企而已ならず従来所有の船も尽く沽却して復ひ此挙に従事せざるべしと、是れ此一商估に止らず該業に関するものは万口一談
 - 第17巻 p.203 -ページ画像 
皆此言の外に出でざるべし、苟くも我が運輸の便をして将来に完全ならしめんと欲せば今日の時に当り十分之れが保護を為し誘導振起せしめざるべからず、而して其基礎立ち外国船と競争するに耐ふるに至らば其保護を解くべしと雖も、今日にして外国の船舶に沿海の運輸を許さば内国の海運は振興する能はざるのみならず終に萎靡廃滅に帰せんは疑を容れざる処なり、良しや内国の海運は萎靡するも不得已とするも決して外国船に而已依頼する能はさるものあり、何となれば少しく海外の運賃高価なるときは我が沿海の船賃も直ちに其影響を受け、非常の高価を払はざるを得ず、然らざれば定航郵船の外は忽ち我沿海を退去して遠洋に航行するや必せり、現に今日の形状を看よ、僅々一二週間を出でざるに三割以上の騰貴を成せり、此時に当りても日本船なれば其平常の定得意をして遽かに目的を誤る如き不都合を与ふることあらざるべし
外国新聞記者は内地に於て新たに海運の業を起すものあるも三菱会社は是と競争して推倒せんと企て政府も之に荷担するものゝ如く云ふと雖も、吾輩は確信す我政府に毫も如此の意見あらざる而已ならず三菱会社と雖も他に益如此業の振起するを佇望するならんと、万一にも三菱会社にして競争せんと企ることあらば政府は平素保護するの権を以て必ず該社の所為を抑制すべし、既に会議所の建議中にももし専横に流れ一般の妨碍を為すことあらば必ず政府は之を責罰すべしと論せしに非らすや
我輩は常に思へらく、政府の特に三菱会社を保護せしは我海運の振興せざるを憂ひ彼れに籍りて其便益を実際に公示し之を摸範として他を振起するの計画なるべしと、曩きに西南の戦争に当り一時該社の船舶は悉く之に従事し大に海運の妨碍を為せしことありと雖ども、近来に至り大に注意して可及的世の便宜を計画するものゝ如し、是固より当然の事にして政府の租税を以て保護するは、即ち国民の保護する処なれば若し或は外国記考の説く処をして実を得せしむるが如きことあらば決して許すべきに非らずして又自ら滅亡を招くものなり、該社人あり豈如此の事あらんや
外国記者は特に此会社に拠らざれば更らに其便利を得るものゝ如く云ふと雖ども、我か海運の進勢は復た昔日の比にあらす、既に会議所の建議にも其現況を掲記して大体得失を覈論せり、吾輩の曩きに横浜外国商法会議所の意見書を駁するに当りても業に已に之れを細論せり、東京会議所に於て此項を論議するや着々実況を踏み頗る精密に講究ありしも、結局内に起すの外良策なきを以て衆議一決遂に該建議とはなりしなるべし
凡そ事を論する一人一己の事あり、社会全般の事あり、若し是れが区別を為さずんは到底其理の帰着する所を得べからず、東京商法会議所の建議たる固より我が日本全国に関する事にして決して一人一己の便否に拘泥すへからず、故に其云ふ所自ら商賈の一家言に似す政府主宰者の語気に似たるものありと雖も是実に止むを得ざるものならん、慧眼なる外国新聞記者にして何そ之れを分別せさるや、吾輩記者の為めに惜まざるを得ざるなり
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吾輩は玆に筆を擱するに臨み一言せんと欲す、東京商法会議所議員諸君の政府に向て建議せられし意匠を推察するや如此と雖も、若し此建議中の運輸の一項をして唯一時の談論に附し去り率先唱導之れを実践せずんば、恐らくは外国記者の云ふ所に陥り遂に救ふ能はざるに至らん、思はざるべけんや



〔参考〕竜門雑誌 第六一三号・第四三―四八頁 昭和一四年一〇月 東京商法会議所に就て(四)(山口和雄)(DK170021k-0007)
第17巻 p.204-208 ページ画像

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