デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2020.3.6

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

7章 経済団体及ビ民間諸会
1節 商業会議所
1款 東京商法会議所
■綱文

第17巻 p.208-214(DK170022k) ページ画像

明治12年11月21日(1879年)

是日当会議所ヨリ日本橋魚市場ノ分離ノ不可ナル所以ヲ東京府知事楠本正隆ニ回答ス。栄一会頭トシテ之ニ与ル。


■資料

東京商法会議所官衙諸達並上申書綴 二(DK170022k-0001)
第17巻 p.208 ページ画像

東京商法会議所官衙諸達並上申書綴 二
                   (東京商工会議所所蔵)
                         商法会議所
府下魚菜市場之儀ハ専ラ従前ノ慣行ヲ以テ更ニ制限スル所タリ、然ルニ今般日本橋区魚市場組合ノ内多分仲買之者共凡百六十名同盟ノ趣ヲ以其者限リ同区浜町一丁目壱番地ニ市場ヲ新設セン事ヲ出願セリ、顧フニ該地ノ形勢タルヤ魚類市場挙テ之ニ移転セシムルニ於テハ尤適当至便ノ地形タルヘシト雖モ今僅カニ百余名ノ者而已分離開場スルモノニ之アリ、抑市場タルモノハ各所ニ分設ナラシムルヲ以テ利アリトスルカ、将タ市場ハ増加セシメス団結恊同スルヲ利アリトスルカ、市場営業上ノ前途ニ於テ其得失如何ヲ審議シ意見可申立候也
  明治十二年九月十八日
           東京府知事 楠本正隆東京府知事楠本正隆


東京商法会議所要件録 第九号・第五―一四丁 明治一二年一二月一七日刊(DK170022k-0002)
第17巻 p.208-213 ページ画像

東京商法会議所要件録  第九号・第五―一四丁 明治一二年一二月一七日刊
  第八臨時会 明治十二年十一月廿日午後六時廿分開場
    議員出席スル者 ○十八名
○上略
 - 第17巻 p.209 -ページ画像 
於是会頭 ○渋沢栄一ハ更ニ東京府御下問ノ議事ニ移ルベキ旨ヲ述ベ、書記ヲシテ之ヲ朗読セシメ、尋テ会頭ハ更ニ各員ニ向ヒ、此御下問書ト共ニ諸君ニ頒布シタル魚市場移転願書並ニ申合規則ハ諸君ヲシテ此移転ノ趣旨如何ヲ知ラシメンガ為メニシテ、聊カ参考ニ供スルニ過ギザルガ故ニ之ニ向テハ答弁者ナキモノト見傚サル可シ、依テ此議事ニ於テハ各員先ヅ御下問ニ係ル市場団結分離二様ノ得失ヲ詳議シ、次ニ其方法ノ可否ニ論及スルモノトシ、只管此二者ヲ混淆セザラン事ヲ要スル旨ヲ告グ
十一番(福地源一郎)此御下問書ニ就テ之ヲ考フルニ、其精神ノアル所ハ市場ノ分離スルヲ以テ利アリトスルカ、将タ結合スルヲ以テ利アリトスルカニ就キ当会ノ意見ヲ諮詢セラルヽモノヽ如シ、其意果シテ然ルカ否(会頭曰ク然リ)
六番(大倉喜八郎)魚菜市場ノ事タル本員ノ業務ニアラザルヲ以テ得テ詳悉スベカラザルノ憾ナキニ非ズト雖モ、聊カ本員ガ調査シ得タルモノニ就キ之ヲ陳述シ以テ其分離団結ノ得失ヲ云ハントス、夫レ今日魚鳥ヲ以テ営業スル所ハ本船町ナリ、小田原町ナリ、新場ナリ此三市場ニ於テハ各々其売售スルモノ自ラ類ヲ異ニシ、河魚ヲ主トスルモノアリ、海魚ヲ専ニスルモノアリ、故ニ各地ノ零売者ハ各其市場ニ就テ之ヲ買ヒ以テ其用ヲ便ズ、現ニ新場ノ如キハ今日ニ在テハ稍々衰頽ノ状アリト雖トモ、昔日徳川氏ノ治世ニ在テハ近海ノ魚類総テ此ニ運入輻輳シ日日三百諸侯ノ庖厨ヲ主トシ、其他府下一般ノ需用独リ此市場ヲ以テ其用ニ供セリ、然ルニ今日ニ於テハ其景況大ニ前日ニ反シ、府下ニ販売スル所ノ魚類ハ独リ房総近海ニ止ラス北海西海等ヨリ運入スルモノ甚タ多クシテ府下人民ノ消費スル所ノモノ大ニ其数ヲ増加セリ、是レ各地滊船来往ノ便アルニ職由スルモノニシテ、其各地ヨリ直ニ東京ニ輻輳スルモノ将ニ益々多カラントス、如此魚類ノ供給地ハ前日ニ比スレバ其区域大ニ広且大ナリシヲ以テ、之ヲ受ケテ以テ販売スル所ノ市場モ亦随テ広大ナラザル可ラズ、而ルニ今日ノ景況ヲ以テセハ三市場共ニ問屋仲買ノ数許多ニシテ其地甚狭隘ヲ訴フルニ至レリ、既ニ此市場ノ狭隘ニシテ溢ルヽモノアラハ宜ク之ヲ他ニ移シテ更ニ新市場ヲ開設セシムルハ今日ノ急務ナリ、故ニ本員ハ此御下問ニ対シ該市場営業者ヲシテ浜町ニ移転セシムルハ該市場前途ノ営業上ニ於テ利アリト信スルナリ、但シ其申合規則ニ至テハ同意スベカラザルモノナキニ非スト雖モ是レハ姑ク此ニ論及スルヲ要セス
四十一番(柴崎守三)六番ノ陳説ノ如ク日本橋市場ノ狭隘ニシテ其地勢市場ニ不適当ナルハ更ニ言ヲ俟タズ、殊ニ東京中央ノ繁昌地ニシテ臭気飛散人ヲシテ酸鼻セシムルガ如キアルハ都下ノ一大欠点ト云フ可シ、故ニ本員ハ六番ヲ賛成シ其浜町ニ移転スルヲ望ム
十一番(福地源一郎)日本橋魚市場挙テ移転スルモノトセバ大ニ切望スル所ナリト雖トモ、御下問ニ拠レバ該市場組合ノ内凡ソ百六十名ヲ限リ分離スルモノナレバ、一市ヲ分テ二市ヲ作スモノニシテ是レ恰モ家中一所ノ厠圊ヲ二ケ所ニ分カチ其臭気ヲ放散スルガ如ク故ラニ汚穢臭気ノ地ヲ増加スルモノナリ、是レ府下衛生上ニ於テ至大ノ
 - 第17巻 p.210 -ページ画像 
関係ヲ有スルモノニシテ軽々論過スベカラザルモノナリ、又此御下問ヲ議スルニ当リテハ当会ハ全府経済上ノ如何ヲ併セテ考察セザル可ラズ、抑モ府下税目中其重ナルモノハ則チ市場税ニシテ、今日千円ノ税ヲ納ムル所ノ市場ナルモ分ツテ二市トナストキハ決シテ此割合ヲ以テ徴収スル事克ハズ、是レ府下ノ納税力ヲ減殺スルノ基ナリ是故ニ之ヲ分設セシムルハ衛生ニ利アラズ、又経済ニ利アラザルハ本員ノ確言スル所ナリ、固ヨリ分設ト団結ノ利害ハ各其極度ヲ以テ之ヲ判セザレバ其孰レカ利アリ孰レカ害アルヤハ得テ洞見スベカラザルモノノ如シト雖トモ、親ク其便否得失ヲ知ルハ実業者ニ若クモノナシ、然レトモ従来此輩ノ団結連合スル所ニ拠テ之ヲ考察スレバ要スルニ市場タルモノハ相連合協同スルニ利アリテ分離スルニ利ナシト断定スルヲ得ベシ、況ヤ団結ハ市場固有ノ性質ナルヲヤ、又結局ニ於テ更ニ一言スベキモノアリ、六番ハ魚類ノ消費近年ニ増加スト云フト雖モ六番ニシテ果シテ今日市場魚類ノ売買高何程ナルヲ知リテ而シテ此説ヲ為スモノ乎、若シ夫レ否ラザレバ本員ハ其説ノ太タ当ヲ得ザルヲ知ル、何トナレバ今日東京ノ人口ハ維新前ニ比スレハ大ニ減少セリ、既ニ人口減少セハ其消費スル所モ又減セザル可ラザルノ理アレハナリ、故ニ本員ハ六番議員ノ為メニ聊カ此ニ其実ヲ挙テ之カ消費ノ増加セサルヲ証明スル事爾リ
六番(大倉喜八郎)東京人口ノ前日ニ増加セザルハ本員モ亦之ヲ知ル然レトモ人口ノ増加セザルヲ以テ其消費ノ増加セザルトナスニ至テハ、其説敢テ与ミシ難シ、何トナレハ前日ニ於テハ三日ニシテ魚類ヲ食スル事漸ク一回ニ過キザリシモ今ハ則チ然ラズ、貴家富豪ハ勿論如何ナル賤民ト雖トモ日々之ヲ購買シテ其嗜欲ヲ飽カシムルニ至レリ、是即チ其消費ヲ増加スルノ原因ニシテ其消費スルモノ如此多キトキハ随テ各地ヨリ運入供給スルモノモ亦増加セザル可カラス、聞ク今日市場魚類ノ売買高ハ百九十有余万円ニシテ旧幕府ノ頃ニ於テ其高約百万円ニ出テズト、其運入売買ノ近歳ニ増加シタル夫レ如此、然ルニ其市場ハ尚ホ旧ノ如シ、焉ゾ其市場ノ狭隘ニシテ営業上ニ不便アルヲ覚ヘザルヲ得ンヤ、是レ分離ノ該市場ニ利アル所以ナリ、固ヨリ魚鳥市場ノ如キハ臭気ノ飛散ヲ免カレズト雖トモ十一番ガ家中ノ厠圊ヲ以テ之ヲ喩フルガ如キハ牽強附会モ亦甚シト云フ可シ、又経済説アリト雖トモ市場税ヲ納ムル者ハ営業税ヲ免カルヽノ利アリ、故ニ是ヲ分設スルモ決シテ経済ニ関係スルノ累ナシ、是故ニ本員ハ敢テ其分離ヲ切望スルモノナリ、但シ其方法ニ至テハ前途ノ如何ヲ考察シテ以テ可否セラレン事ヲ要スルノミ
十三番(中山譲治)本員ハ徹頭徹尾十一番ノ所説ヲ賛成ス、而シテ六番ハ人民ノ侈奢ニ長ジタルヲ以テ魚類ノ消費増加ノ引証ニ備ヘタリト雖トモ、六番ニシテ近年牛豚獣肉ノ消費大ニ増加シタルヲ知ラバ其説ノ非ナルヲ自覚スル所アラン
二十三番(原六郎)若シ此市場ヲ分設スルトキハ汚穢ノ地ヲ増加スルガ如シト雖トモ、其営業者ガ今ヨリ互ニ競争シテ其業務ニ精励ヲ致スベキガ故ニ之ガ営業上ノ前途ニ於テハ大ニ利益ヲ生ズルノミナラズ、最寄零売者ハ市場ノ近接ナルヨリ其買出シニ便ナルヲ以テ自ラ
 - 第17巻 p.211 -ページ画像 
一般ノ繁盛ヲ致スノ基タリ、依ツテ本員ハ六番ヲ賛成ス
五十八番(条野伝平)日本橋市場ノ悪臭汚穢ナルハ実ニ厭フベクシテ本員モ亦其ノ移転ヲ望ムト雖トモ、若シ全地挙テ移転セザルニ於テハ更ニ悪臭ヲ分割増加スルモノナリ、依テ本員ハ十一番ノ説ニ同ス
四十一番(柴崎守三)現今ノ市場ノ如キハ、家屋稠密実ニ立錐ノ地ナシ、是ヲ以テ資力アルモノト雖トモ矮小合壁ノ室内ニ雑居セルモノ尠シトセズ、其健康ニ害アル想フベシ、故ニ今之ヲ分離セシムルトキハ自ラ其ノ臭気ヲ減殺スルニ帰シ以テ衛生ニ利アル蓋シ鮮少ナラザル可シ
六番(大倉喜八郎)新場魚市ノ如キハ四十一番ノ云ハルヽ如ク其地狭隘ニシテ毎家厠圊ヲ設クルノ地ナク概ネ皆数家ニシテ一所ノ厠圊ヲ用ユル程ナレバ臭気ノ一処ニ集マルハ必然ナリ、故ニ若シ之ヲ分割シテ二市ト為セバ自然洒掃等行届キ悪臭ノ一処ニ集マルヨリモ遥カニ其不潔汚穢ノ減ズルハ言ヲ俟タズ、然ルニ十一番ハ之ニ是レ着意セズシテ徒ニ其分離ヲ欲セザルハ、自家口ニ臭気ノ厭フベキヲ唱ヘ其意却テ之ヲ好ムモノニ似タリ
十一番(福地源一郎)六番ハ頻リニ其移転ヲ主張セラルヽト雖トモ、其可否ハ第一該市場戸数ニ依テ之ヲ判セザルベカラズ、依テ其戸数ハ何程ナルヤ之ヲ六番ニ質問シタシ
六番(大倉喜八郎)本員ハ其戸数ハ何程ナルヤハ即答シ難シト雖トモ今之ヲ移転セシムルトキハ果シテ幾分ノ戸数ヲ減ズルハ必然ナリ
十一番(福地源一郎)六番ハ此移転出願人ノ内該市場ニ住スルモノ幾人アリト為ス乎、本員ヲ以テセバ其数甚ダ少ナキヲ見ル、若シ六番ニシテ少シク此点ヲ稽考セバ果シテ悟ル処アラン、又仮令仮リニ此移転ノ為メ其戸数半分ニ減ズルモ尚ホ臭気汚穢ヲ免カルベカラズシテ却テ分割ノ為メ新タニ不潔地ヲ増スノ害アリ、若シ夫レ果シテ魚類ノ消費増加シ今日ノ市場ヲ以テ万般ノ用ニ供スルニ足ラザルノ不便アリトセバ或ハ移転スルモ可ナリト雖トモ、本員ニ於テハ目下市民ニ取リテハ其分設ヲ要スルノ実アルヲ見ズ、今又聊カ爰ニ東京人口ノ昔日ニ減少シテ魚類ノ消費増加セザルノ一証ヲ挙ケンニ、幕政ノ下ニ在テハ禄高二百石ヲ領スルノ武家ニシテ百坪ノ地ニ住スル者稀ナリシニ、今日ニ於テハ十三四等ノ官員ニシテ三百坪以上ノ地面ヲ有スルモノ尠シトセズ、是其人口減少ニ於テ著シキ徴証ニシテ人口果シテ減ズレバ魚類ノ消費モ亦増加スルノ理ナシ、然ルニ六番ハ其金高ノ増加ヲ以テ之ガ消費ノ増加ト為スガ如シト雖トモ、是今日ノ物価ヲ以テ前日ヲ推スモノニシテ、恰モ今日七円ノ米価ヲ以テ旧幕府ノ際御張紙直段ノ米価ト対照シテ更ニ其穀高ヲ顧ミザル者ノ如シ妄モ亦太シト云フ可シ、故ニ消費ノ多寡増減ヲ算センニハ金高ノ大小ニ依ラズシテ其消費スル品物ノ個数若シクハ人口ノ増減ヲ以テセザレバ果シテ当ヲ得タリト為ス可ラス、由是観之、六番ノ云フ処是耶非耶更ニ弁ヲ須タス、固ヨリ該市場挙テ移転スルモノトセハ本員ノ望ム処ナリト雖モ本件ノ如キハ然ラス、之ヲ分割シテ二市ト為スモノニシテ其分離ヲ要スルノ実ナクシテ徒ラニ之ヲ許サバ為メニ汚穢地ヲ増スヲ以テ衛生ニ害アリテ且ツ府下経済ニ利アラス、即チ
 - 第17巻 p.212 -ページ画像 
収税ノ如キハ市場ノ大ナルヲ以テ便トスルモノニシテ、現ニ夥多ノ小市場ヲ相合シテ収税スルモノハ其額ヲ増スノ便法ナリ、然ルニ若シ之ヲ分割シテ小市場ト為ストキハ為メニ其納税力ヲ減殺スルガ故ナリ、市場分離ハ府民ノ衛生ト経済ノ二者ニ利アラザル夫レ如此、然ルニ六番ハ之ヲ是レ観察セスシテ敢テ其分離ヲ主張シ、且其分設ノ為メニ擬草スル所ノ申合規則ニ就テ改良ヲ企図スルモノヽ如シト雖トモ是レ本員ノ殊ニ解シ難キ処ナリ、何トナレバ本条下問ノ如キハ市場移転ノ利害ニ関スルモノニシテ、此規則ニ至ツテハ会頭ノ既ニ叙述セラレタルガ如ク只タ本件議事ノ参考ニ供スル迄ノモノニシテ、決シテ之ニ拠テ本件ノ可否ヲ決スルモノニアラス、其可否ニ至テハ理事者ノ意中ニ在テ存ス、何ソ此ニ論スルヲ須ヒン
六番(大倉喜八郎)十一番ハ本員ガ東京ノ人口増加シタリト云フガ如ク論及セリト雖モ、幕政ノ時代ニハ百五十万内外ニシテ今ハ七十余万ニ出デズ、昨今其ノ差ノ如何ハ敢テ弁明ヲ要セス、本員モ亦既ニ之ヲ知ル、何ソ其人口増加ヲ主張スルモノナランヤ、又此規則ニ就テハ本員敢テ此ニ其ノ可否ヲ議セン事ヲ要スルニ非ス、唯此規則ニ就テハ当会議所別ニ意見ノアル旨ヲ以テ併セテ理事者ニ具陳スルヲ望ムノミ
二十三番(原六郎)魚類ノ消費前日ニ減少シタリト為スハ其説太タ与ミシ難シ、何トナレハ近年沿海互市運搬ノ便大ニ開ケ、各地ヨリ魚類ノ此ニ運入スルモノ遥カニ前日ニ増加シタルハ六番カ陳述ノ如シ其運入如此多クシテ之ヲ容ルヽ処ハ尚ホ旧ノ如クナルトキハ勢其狭少ナルヨリ益々不潔汚穢ニ流ルヽヲ免カレス、是レ本員ノ六番ニ同シ之ガ分離ヲ欲スル所以ナリ
三十五番(津田仙)魚類ノ消費ハ徳川治世ニ多クシテ今日ニ寡ナキハ十一番ガ所説ノ如シ、当時各藩諸侯ハ奢侈ヲ以テ自ラ居リ其庖厨常ニ魚介ニ飽クノ状アリキ、然ルニ今日ニ在リテ華士族多シト雖モ、日々魚類ヲ食フモノハ果シテ幾干ゾ、貧士族ニ至テハ数日間魚介ニ見ヘザルモノ尠シトセス、実況如此、況ヤ人口減少ノ実アルヲヤ、由是考之、今日ノ市場ハ市民万般ノ需用ニ供スルニ足ルモノニシテ敢テソノ移転ヲ促スヲ要セス、仮令ヘ又之ヲ狭隘ナリトシテ分離セシムルモ決シテ其臭気ヲ減スルニ至ラザルハ得テ確言ス可シ、依テ本員ハ十一番ノ所説ヲ可トス
四十七番(米倉一平)六番・十一番各々所説アリト雖モ、本件タル其可否ハ理事者ノ意見ニ在ルベキガ故ニ、当会議所ハ別ニ所見ヲ具申セス、府庁ノ見込ニ依リ可否セラルヽヲ可トスル旨ヲ復陳スルヲ善シトス
十三番(中山譲治)四十七番ハ会議所ニ於テハ所見ヲ具申セザルベシト云フト雖モ、本件御下問ノ意タル市場団結分離二様ニ就キ其意見ヲ上陳スルヲ要スルモノニシテ今此ニ議スル処ハ則チ其意見ナリ、而シテ市場ノ団結ニ利アルハ本員ノ深ク信スル所ニシテ、若シ之カ分離開場ヲ許ストキハ独リ一箇場ニ止ラズ数多ノ新市場ヲ分設セントスルモ亦之ヲ許サヾル可ラス、然ルトキハ一般便益ノ為メナラスシテ徒ニ不潔地ヲ増加スルノ基ナリ、依テ市場ハ之ヲ一ケ処ニ集メ
 - 第17巻 p.213 -ページ画像 
テ営業スルノ利アルニ若カス
於是会頭ハ全会議ノ尽クルヲ認メ、結局六番ノ分離ヲ以テ市場ニ利アリトスルノ説、十一番ノ団結連合ヲ以テ市場ニ利アリトスルノ説ヲ挙ゲ、其他ハ大同小異ナルヲ以テ此二説ニ就キ可否ヲ決スベキ旨ヲ述ベ先ヅ十一番ニ同意者ヲシテ起立セシメタルニ起立スル者十一人、多数ニ依テ之ヲ可決ス、而シテ其復陳書ハ別ニ委員ヲ選ム事ナク直ニ理事本員ニ於テ処弁スベキ旨ヲ告ゲ、退散ヲ命ズ、時ニ午後九時二十五分ナリ


東京商法会議所官衙諸達並上申書綴 二(DK170022k-0003)
第17巻 p.213 ページ画像

東京商法会議所官衙諸達並上申書綴 二
                   (東京商工会議所所蔵)
(案)          渋沢
今般府下日本橋区魚市場組合ノ内凡百六十名ヲ限リ同区浜町一丁目壱番地ニ移転シ市場新設出願ノ儀ニ付、市場分離団結二様ノ利害得失等当会議所ノ意見ヲ上陳可致旨御下問ニ依リ、当会議所ハ去ル二十日ノ臨時会議ニ於テ其利害得失ヲ審議仕候処、凡ソ市場ノ一所ニ団結連合スルハ、其営業人ニ便益ナルト否トハ姑ク之ヲ論外ニ置キ、是レ市場固有ノ性質ニシテ、之ヲ各地ニ分設セシムルハ市場ノ性質ニ反対スルモノナリ、然ルニ若シ之ヲ分設セシムルトキハ既ニ之カ固有ノ性質ヲ破リ並ニ其慣習ヲ毀損スルモノナリ、然レトモ市民一般ノ便益ノ為メニハ其分設ヲ許スモ亦妨ケナシト雖モ、魚菜市場ノ如キハ目下市民ニ取リテハ其分設ヲ要スルノ実アルヲ見ス、若シ市民一般ノ便益ノ為ナラズシテ之ヲ分設セシムルトキハ、第一府下衛生ノ為メニ利アラズ、即チ該市場ノ如キハ概スルニ不潔汚穢ナルモノニシテ今其汚穢地ノ一所ニ在ルモノヲ分離シテ他ニ之ヲ開場スルトキハ更ニ臭穢ノ地ヲ増加スルガ故ナリ、第二経済ノ為メニ利アラズ、即チ分離シタル小市場ニ徴収スル市場税ハ之ヲ団結連合シタル大市場ニ納ムルモノニ比スレハ啻ニ其金額ヲ減少スル而已ナラス之ヲ徴収スルモ亦其難易同日ノ論ニアラザルガ故ナリ、是故ニ日本橋該市場組合ノ者挙テ浜町一丁目一番地若クハ其他適当ノ地ニ移転セシムルハ当会議所ノ切望スル所ナリト雖モ、該出願者ノ如キハ其一部分ヲ移スモノニシテ則チ日本橋ノ一市ヲ分テ二市ト為スモノナリ、今若シ之ヲ許ストキハ将来数多ノ新市場ヲ分設セントスルモ亦之ヲ許サヾル可ラズ、然ルトキハ則チ市民一般ノ便益ノ為ナラズシテ、徒ラニ全府数多ノ不潔地ヲ増加シ以テ市民ノ衛生ニ妨害ヲ生シ、併セテ府下ノ経済ヲ傷損スルニ至ル、況ヤ目下其分設ヲ要スルノ実ナクシテ其営業者ハ翻テ団結協同ニ依ツテ市場ノ繁盛ヲ期スヘキノ利アルオヤ、依テ当会議所ハ市場ヲ各所ニ分設セシムルハ市場営業上ノ前途ニ於テモ亦利アラザルモノト議決致シ候ニ付、此段復申仕候也
  明治十二年十一月廿一日《(朱書)》        東京商法会議所
    東京府知事 楠本正隆殿


東京商法会議所要件録 第一〇号・第一五丁 明治一三年一月一九日刊(DK170022k-0004)
第17巻 p.213-214 ページ画像

東京商法会議所要件録  第一〇号・第一五丁 明治一三年一月一九日刊
 ○参考ノ部 東京商法会議所年報
 - 第17巻 p.214 -ページ画像 
    官衙御下問ノ諸項
○上略
日本橋区魚市場移転ノ儀ニ付東京府ノ御下問
 本件ハ九月十八日東京府知事ヨリ該市場移転ノ利害得失ニ付当会ノ意見ヲ下問セラレタルモノニシテ、当会ハ十一月廿日ノ臨時会ニ於テ之ガ移転分離ヲ不可トスルニ決シ、即チ翌二十一日決議ノ所見ヲ回陳シタリ